艦これ短編集   作:黒猫クル

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期待の新人の瑞鶴はどうしても認めてくれない先輩の加賀と提督を見返したくて撤退命令の指示を無視して独断で進撃してしまう。その結果は……
ハーメルン初投稿
設定は同じ艦娘が存在しない世界ということぐらいしか考えていません


自意識過剰な瑞鶴が大失敗する話

 幸運の瑞鶴 この世に艦娘として名を受けてからずっと誇りに思っていた。すべてが変わるあの日までは。

 

「やったー !見たか!これが五航戦の本当の力よ。瑞鶴には幸運の女神がついていてくれるんだから !」

 

 撃破目標である空母ヲ級を撃破した私は歓喜の声を上げた。

 

「瑞鶴、はしゃぎすぎよ。気持ちはわかるけど喜ぶのは帰ってからにしなさい」

 

 翔鶴姉が少し困った様子で言った。翔鶴姉は私の実の姉でこの鎮守府には私よりも前から着任している。強くて優しくて自慢の姉だ。

 

「あれ ?翔鶴姉またケガしてる。大丈夫 ?」

 

 翔鶴姉は私と一緒に出撃すると私が無傷なのに対して何故か毎回負傷する。私よりもずっと強いはずなのになんでだろう。

 

「お姉ちゃんは大丈夫よ。それよりも瑞鶴。自分の心配をしなさい。瑞鶴が怪我しないかいつも心配なんだから」

「ごめんなさい」

 

 少し調子に乗りすぎたと思った。

 

「あまり自分の幸運に頼りすぎないほうがいいわ。いつか足元掬われるわよ」

 

 まただ。

 

「あー、もううるさいなー。加賀さんは黙っててよ」

 

 加賀さんは意地悪な先輩だ。翔鶴姉よりも前から鎮守府にいて提督さんの秘書艦をやっている。何をしても私に嫌味を言ってくるし翔鶴姉もよく叱られている。ただ、実力は確かで翔鶴姉よりもずっと強い。感情表現に乏しく、いつも無表情に見えるけど怒っているのは何となく分かる。

 

「運良く弾が当たらないからって走りすぎ。ついて行くこっちの身にもなりなさい」

「遅い加賀さんが悪いんじゃん !」

「貴女は旗艦の私の指揮に従う義務があります。それを無視して勝手に走るのはどうかと思うわ」

「いいじゃん勝ったんだし。それとも無傷でmvp取った私に嫉妬しちゃった ?」

 

 今回の戦いで加賀さんは小破ではあるけども負傷している。その事をついてみた。

 

「貴女を狙ってた流れ弾が当たっただけ。貴女のせいでいい迷惑だわ」

「ふーん。図星なんだ」

「帰ったら提督に報告してあげるわ。覚悟しておきなさい」

「提督さんを使うのは反則じゃないの ?加賀さんって困るとすぐに提督さんに言いつけるって言うよね」

「私が言っても言うことを聞かないからよ。まぁ運だけで戦果を稼いでる子には何を言っても分からないでしょうけど」

 

「何 ?やる気 ?今なら加賀さんにも勝てると思うけど」

「上等よ。一週間は立てないようにしてあげるわ」

「こんな場で止めてください!瑞鶴も売り言葉に買い言葉で対応しないの !」

 

 翔鶴姉が私と加賀さんの間に割って入った。

 

「悪かったわね…頭に血が上ってたわ」

 

 翔鶴姉に対し加賀さんが少し申し訳なさそうな顔をした気がした。

 

「へー、加賀さんも間違いを認める時ってあるんだ」

「瑞鶴 !」

 

 これ以上は翔鶴姉が本気で切れそうだったからやめた。

 

 

 

 数時間後、私は食堂で翔鶴姉に愚痴を聞いてもらっていた。

 

「あー、提督さんと加賀さんの意地悪 !」

「瑞鶴、大丈夫 ?」

「提督さんにすごく怒られた。旗艦の指示に従わないのは何事だ!って。加賀さんのせいだよ」

「加賀さんも提督も言い方はきついかもしれないけど間違ったことは言わないから言うことは聞いておいた方がいいわよ」

「分かってるよ。でも何をしても認めてくれないって腹が立たない ?」

 

 まだ着任して日が浅いからなのか加賀さんや提督さんには一度も褒めてもらったことがない。それが悔しくて毎日、率先して戦果を稼ごうとしているけどその結果が今日だ。

 

「それはそうかもしれないけど……でも、多分、加賀さんなりの考えがあっての事よ」

「翔鶴姉はそう言うけどさぁ……」

「次の大規模作戦で見返しましょ。ここで頑張れば多分、認めてくれるわよ」

「うーん…認めてくれるかなぁ……」

 

 正直に言って認めてくれるとは思えない。だけど翔鶴姉が言うということは素直に従うべきなのかな ?

 ちょっとした疑問の中、少し前に聞いたある噂を思い出した。

 

「そういえばさー、加賀さんと提督さんできてるって噂あるけど本当 ?」

「瑞鶴!なんて事言うの!いくら何でも失礼が過ぎるわよ !」

 

 翔鶴姉がビックリした顔をした。これは…図星なのかな ?

 

「だって青葉が話してたんだもん。提督さんって加賀さんとベッタリだし、火のないところに煙は立たないって言うしさぁ…提督さんって息子がいるんでしょ ?ちょっと酷いと思わない ?」

 

 翔鶴姉がため息をついた。

 

「瑞鶴」

 

 翔鶴姉が急に真剣な顔になった。

 

「これから話す事は誰にも話さないって約束出来る ?」

「翔鶴姉 ?」

「いいから約束しなさい」

「分かったよ。誰にも話さないから」

 

 嫌だとは絶対に言わせない翔鶴姉の迫力に押され仕方なく私はそう答えた。

 

「提督は、大規模作戦が重なっていたこともあって愛していた奥様の死に顔に立ち会えてないの」

「えっ!そうなの ?」

 

 提督さんが奥さんを無くしていたのは初耳だった。加賀さんと軽い浮気をしていると思っていたけど違うみたいだ。

 

「ご子息様ともその事で大喧嘩したらしいわ。今でも仲直り出来てないって…それで奥様を亡くしてから抜け殻みたいになっちゃったの」

「うん……」

「何をするにしてもいつも上の空だし何とかしなきゃって皆の間で話し合いになったわ。そこでに任せてと言ったのが加賀さん。何をしたのか知らないけど次の日にはいつもの提督に戻ってた」

 

「それで…… ?」

「それからよ。提督が加賀さんを近くに置いたり、2人がそういう関係にあるって噂が流れ出したのは。元々、加賀さんにその気があるみたいっていうのは前々から言われていたし……」

 

 加賀さんに気があったという事だと恐らく2人の関係は事実なのだろう。だけど逃避の結果となると攻める気になれなかった。

 

「青葉が噂していたのはそれ ?」

「多分ね。瑞鶴に盗撮のビデオか何かを高値で売り付けたかったのか何かだと思う。元々、何かをネタに提督に小遣いをせびってるような子だし……」

「うわ、最悪」

「瑞鶴も青葉さんには気をつけなさい。弱みを握られるとろくな事にならないし、あの子はデマも平気で流すわ」

「分かった気をつけるよ。提督さんも大変なんだね……」

 

 散々、提督さんに文句ばかり行ってきた自分を少し恥じた。

 

「そうね……」

 

 翔鶴姉はポツリと呟いた。

 

 

 

 私にとっての初の大規模作戦は激戦になった。翔鶴姉や加賀さんは勿論、私自身も負傷する(とは言っても小破ぐらいだけど)事が沢山あった。

 私が指示を守るようにしたからか加賀さんや提督さんの小言は消えたけどそんなことを気にしている余裕は無かった。

 連日のように続く激戦、たまっていく疲れ…今考えれば私がおかしくなる条件はそろっていたんだと思う。

 

 そして運命の日が訪れた。

 

 

 

 攻撃を受けた撃破目標である空母棲鬼が逃げ出した。相手の損害は中破と言った所だろうか ?

 

「やった !」

「そこの五航戦、待ちなさい!」

 

 追いかけようとすると後ろから加賀さんの怒鳴り声が聞こえた。

「何よ加賀さん !」

「引くわよ。提督から撤退命令が出てるわ」

「えっ!なんでよ」

「周りを見なさい」

 

 周りを見回すと大破した翔鶴姉を初めとして加賀さんと神通は中破、それ以外は皆、小破と負傷している者ばかりだった。かく言う私も小破している。

 提督さんは損害が大きいと判断したみたいだ。

 

「でも、もうちょっとで勝てるんだよ」

「勝てるとしても命令は命令。貴女に決定権は無いわ。引きなさい」

「瑞鶴、戻るわよ」

 

 それだけ言うと加賀さんは私に背を向けた。翔鶴姉や他の皆もそれに続く。

 確かにここは引くのが正解なのかもしれない。だけどもし、ここで私が空母棲鬼を仕留めれたら…

 気づくと私は空母棲鬼が逃げ出した方に向けて走っていた。

 

「瑞鶴 ! ?」

「貴女 !待ちなさい !」

 

 後ろから翔鶴姉と加賀さんの声がしたが私は聞く耳を持つことが出来なかった。

 

 

 空母棲鬼はすぐに見つかった。

 

「見つけた !もう逃がさないんだから !」

「アラ ?ツイテキタノ ?」

 

 空母棲鬼の視線が艦載機越しにこちらに向いた。

 

「カワイイナァ……アハハハ」

 

 突然、馬鹿笑いを始めた。追い詰められているのは向こうのはずなのに気味が悪い。

 

「うるさい!黙らせてやる !」

 

 攻撃しようとした刹那、全身に激痛が走り水柱が上がった。

「キャッ ! ?」

 

 目の前に映るのは戦艦ル級及びその護衛艦。 

 

「嘘……」

 

 待ち伏せ そう判断するのには十分すぎる状況だった。

 慌てて背を向けて逃げ出そうとするとここぞとばかりに砲撃が飛んできた。必死の蛇行が幸を成したのか私が幸運だったのか分からないけど飛んでくる砲弾は命中しなかった。

 

「あっ……」

 急に宙に浮く体。足を撃たれたと気づくのは頭から全身が海面に叩き付けられた時だった。

 立ち上がろうとしたけど腰が抜けて力が入らない。顔を上げると目の前に映るのは無数の深海棲艦。こちらに向いた砲口から砲弾が発射されるのがスローモーションで見えた。

 

 あっ……私、死ぬんだ。

 

 馬鹿な私だけどここまで来てようやく悟った。

 不思議と怖い気持ちはしなくて、ただ過去にあったことが次々と浮かんでは消えていく。走馬灯って言うのかな?

 ゆっくりと迫る砲弾が目前まで迫る。私は下を向いた。

 翔鶴姉、加賀さん、馬鹿な私でごめんなさい……

 

 

 爆破音がして急に時間の流れが急に元に戻った。

 目の前に倒れてきたのは……

「翔鶴姉 ! ?」

 

 翔鶴姉はホッとした顔を私に向けて海の中へと沈んでいった。

 突然、爆破音がして私を狙っていたル級から爆煙が上がった。

 

「戦える気力があるなら立ちなさい !じゃないと捨てていくわよ !」

 

 後ろから聞こえてきた加賀さんの怒鳴り声で直ぐに私のやるべき事を理解した。

 痛みを堪え、足に力を入れる。今度は立てた。

 その後は何も考えずに加賀さんと一緒に無我夢中で逃げた。時折、翔鶴姉の顔が浮かぶけど振り払った。

 加賀さんに砲弾が当たって沈没寸前で私も戦闘不能で絶望的な撤退の中で偶然、近くを通りかかった友軍艦隊に助けられ一命を取り留めた。

 後に聞いた話だと空母棲鬼もこのままの流れでこの艦隊がやっつけたらしい。

 私は幸運だった。

 

 

 鎮守府に帰ると高速修復材をかけられ、そのまま執務室に連行された。

 

「なんで呼ばれたのか分かっているな ?」

 

 提督さんが真面目な顔でこちらを見つめながら言った。

 

「はい……」

 

 私の独断行動を叱る為だろう。私の独断のせいで加賀さんは生死の境を彷徨っているし翔鶴姉は……待って !翔鶴姉は ! ?

 

「翔鶴は沈んだぞ。お前を庇ってだと思うがな。加賀は集中治療室に運ばれている」

 

 提督さんが私の心を見透かしたかのように言った。

 普通の傷なら入渠していたり高速修復剤を使えば治るけど高速修復剤だけではすまず、生死に関わる場合は集中治療室に送られる。加賀さんは後者だ。

 

「そう……なんだ……」

 

 突然、疲れや絶望感を混ぜてグチャグチャになった限りなく黒に近い灰色の感情が濁流のように押し寄せてきた。

 立っていられなくなり膝を着く。

 私のせいで……私のせいで……

 

「大丈夫か ?」

 

 提督さんの声がした。

 

「私が……悪いんだよね?私が勝手なことしたから……」

 

 涙が頬を伝った。

 

「瑞鶴」

 

 提督さんが私に優しく声をかけた。

 

「お前は悪くない。悪いのはきちんとした指導が出来てなかった俺だ。君だけでも帰って来てくれて良かった」

 

 その時、私の心の中の何かが決壊した。子供みたいにただ、ひたすら泣いた。

 

 

 

 加賀さんは一命を取り留めたけど、リハビリをしつつ車椅子で生活する事になった。努力次第では普通に生活するまでには回復できるらしいけど戦うのは無理らしい。

 

 私は幸運だった。私のせいで翔鶴姉は死んで加賀さんも後遺症を引きずっているのに私だけが後遺症も何も無くのうのうと生き延びている。

 あの日からしばらくしてから気づいた。私の幸運は誰かの不運あってこそだって。

 提督さんは責任を取らされたらしくクビになり、後任には提督さんの後輩の人が着くことになった。

 

 加賀さんは鎮守府に残った。なんでも提督さんについて行くか迷ったみたいだけど自分が着いて言ってもお荷物になるだけだし、ご子息さんとの関係が上手くいかないと思ったらしい。

 それに……代わりになりきる事は出来なかったと呟いていた。

 誰も私を責めなかった。半身不随となった加賀さんも二度とこんなミスはするなと言っておしまい。

 

 しばらくは凹んだ日々が続いたけども必死なってリハビリに励む加賀さんや皆の優しさに触れていくうちに立ち直る事が出来た。

 二度とこんなミスは起こさない。絶対に慢心しないし指示は絶対に聞くそう心に誓った。

 だけどその日々も長くは続かなかった。

 

 

 ある日、執務室を除くと加賀さんと新しい提督さんが話をしているのが見えた。

 

「加賀、大切な話がある」

「なんでしょうか ?」

「お前に見せるか悩んだが見てくれ」

 

 新任の提督が加賀さんに1つの紙を渡したのが見えた。

 

「そんな……」

 

 それを見た加賀さんの顔が真っ青になった。私は、2人が何を話していたのか気になった。

 

「瑞鶴には絶対に知らせるな」

「承知しました」

「2人で何してるのー ?」

「瑞鶴 !」

「提督…教えるべきだと思います」

「何を言っているんだ?」

「遅かれ早かれいずれ知るのは避けられないと思います。それならいっそのこと今言ったほうが良いかと……私が責任を取りますから……」

「分かった。許可しよう」

「いい ?五航戦、落ち着いて聞きなさい。貴女は悪くないわ」

 

 加賀さんが真面目な顔で言った。

 

「何が言いたいの ?」

「ここの前任者の提督が自殺したわ」

 

 目の前がグニャリとゆがんだ。

 

「えっ……?」

「昨日、自宅で首をつっているのをご子息様が発見したらしいわ。遺書には存在価値が消えたと……」

 

 その後は何があったのか覚えていない。多分、気を失ったんだと思う。

 

 

 

 提督さんが死んでから葬式が開かれたのは一週間ほどしてからだった。その間、私はひたすら自室に引きこもっていた。毎日、寝て起きて泣いてお腹が空いたらご飯を食べて夜になるとまた寝る。その繰り返し。夜もよく寝れなかったし体は動かそうにも動かない。

 

 ひたすら自分を貶す言葉が聞こえてくる。偶に加賀さんが話をしに来てくれたけど何の解決にもならなかった。それでも葬式の日には気力で何とか起きる事が出来た。

 バケツをひっくり返したような雨が降る中、葬式の場にはたくさんの人が集まっていた。中には海軍で見かけた人も混じっていて私達が来るとヒソヒソ話しをされたかのように感じた。時折、あの子が……という言葉も聞こえてくる。

 やっぱり私が悪いんだ。私が勝手なことをしたから……

 

「瑞鶴」

 

 車椅子に座った加賀さんが私に声をかけた。

 

「落ち着きなさい。後で幾ら泣いてもいいからこの場は我慢なさい」

「はい……」

 

 葬式は日程通りに進み焼香をする場面になった。立ち上がって焼香台に向かう途中ですれ違った1人の青年にぶつかった。

 

「あっ、ごめんなさい」

「すみません」

 

 彼はそう返すと席に戻って行った。咄嗟の事だったから彼の顔はよく見えなかったけど顔付きが整った黒髪の美青年だったと思う。

 焼香を終え戻ると普段は無表情の加賀さん私でもわかるぐらいに動揺していた。

 

「加賀さん…… ?」

「瑞鶴、ついさっきぶつかった青年に葬式が終わったあとでいいからもう一度、話してきなさい」

「えっ…… ?」

「彼は提督のご子息よ」

 

 ご子息と聞いて血の気が引いた。

 心の中が謝らなきゃという思いに支配される。他の人が焼香をする時間やお経を読む時間が鎮守府のグランドを100周走るよりも長く感じたし、何をやったのか頭の中に入ってこなかった。

 永遠とも思える葬式がやっと終わり、直ぐに彼を探し出そうとしたけども人混みに塗れて彼と再開する事は出来なかった。

 

 

 

 それから5年が経った。私は現在、療養のために後方のラバウルにいる。

 布団から1歩も出られない日が続いている。偶に散歩をしに行ったりすることはあるけど症状は一向に良くならない。人との会話も扉越しにラバウルの提督さんと偶に話す以外には誰とも話したりし無くなった。面会も全部断ってる。

 

 時折何もしてないのにボロボロと涙が零れる時もある。何度か解体を願い出た事もあるけど私が戦力上、重要な正規空母という理由からか許可は降りない。かと言って自分で首を吊る勇気も気力もない。

 

 加賀さんは日常生活を遅れるレベルには回復したけど現役復帰は叶わず艦娘の教育学校で教える立場になっていると聞いた。加賀さんは立派だ。大きな傷を体にも心にも負っているのにも関わらず立ち直ってやるべきことをやっている。

 それに対して私は……

 

 あの時、1人で死んでいれば良かったと思う。私が死んでいれば翔鶴姉は死なずに済んだし加賀さんも前線で戦えていただろう。加賀さん達の独断だったのか提督さんの指示だったのかは分からないけど私を助けようとした判断は間違っていた。

 私は疫病神。幸運なのかもしれないけど皆を不幸にする幸運だ。誰にも関わっちゃいけないし1人でいなきゃいけない。

 永遠にこのまま……死ぬまでずっと……

 

「瑞鶴、面会人だ」

 

 ある日、私の部屋の外からラバウルの提督さんの声がした。

 

「断って」

「それが……悪い。相手は研修生なんだがどうしてもお前に会うと言って聞かないんだ。俺からも頼むから1度、会ってくれないか ?」

 

 提督さんが頭を下げる ?今までそんな事は無かった。

 

「どうしても ?」

「ああ、どうしてもだ」

 

 少し考えて話すだけならと通す事にした。

 

「分かった。通して」

 

 部屋のドアが開いた。立っていたのは見覚えのない青年。

 

「お久しぶりですね」

 

 彼が口を開いた。

 

「誰 ?」

「覚えていませんか。5年前、葬式の場でぶつかった中学生と言えば気づいていただけるでしょうか ?」

 

 5年前と聞いてハッとした。あの時の青年と顔が重なった。白髪が幾つか見えていたけども彼は提督さんのご子息だ。

 

「ごめんなさい!全部、私が悪いの !」

 

 直ぐに頭を下げた。謝らなきゃ謝らなきゃその気持ちでいっぱいだった。

 全身に熱い何かが流れ背中を刃物で刺されるような痛みを感じた。

 

「顔を上げて下さい」

 

 彼が私に優しく声をかけた。

 

「話したい事は色々ありますがとりあえずは飯でも食べに行きましょうか。私が奢ります」

 

 

 久しぶりの外。

 太陽が強い懐中電灯を直接目に向けられたみたいにやけに眩しく感じた。行き交う人も同じくらい眩しく見える。ご子息さんと2人で鎮守府近くの喫茶店に入った。適当に注文をしてしばらくすると料理が出てきた。

 出てきた料理を1口食べてみる。やっぱり。私は箸を置いた。

 

「食欲ありませんか ?」

「味がしないの」

 

 いつからだろうか。何を食べても味がしなくなっていた。それから食事は栄養を摂るだけの作業になっている。

 

「申し訳ありません。悪い事をしましたね」

 

 ご子息さんが少し申し訳なさそうに言った。

 

「残してもいい ?」

「無理なのであればどうぞ」

「ごめんなさい」

「辛い……ですよね」

「えっ ?」

「そう感じていませんか?無理ないと思います。貴方の慢心が原因で父と翔鶴が死にました。後悔してもしきれないと思います」

「いいの……私が悪いの。勝手な事をしたから……」

「気持ちは分かりますがあまり自分を卑下しすぎるのはよくありませんよ。何も解決しませんし、貴女の為にもなりません」

 

 そんな事は言われなくても分かってる。だけどそれを辞めれていたらこんなに苦労していない。

 

「分かってるよ。言われなくても。でも、全部私が悪いの。私がいたから私が幸運だから…だから提督さんも翔鶴姉も死んだし、加賀さんも戦えなくなった。私は皆を不幸にする癖に自分だけは生き残る疫病神。誰とも関わっちゃいけないの」

「そんな事はありません。貴女は頑張ってますし、立派な艦娘ですよ」

 

 肯定されて嬉しく思わないかと言えば嘘になる。だけど、それを受けてはいけないという自分の中の何かがそれを拒絶した。

 

「うるさい !」

 

 気づいたら声が出ていた。

 

「無理は良くないですよ。貴女は悪くありません。自分を大切にして下さい」

「やめて !なんで皆私に優しくするの ?疫病神なのに加賀さんも提督さんもご子息さんも……私なんて消えないきゃいけない存在なのにどうして…… ?」

 

 気がつくと涙が流れていた。

 

「皆、貴女の事を心配しているからです。それだけ貴女の事が大切なんですよ」

「うるさい !黙れ !黙れぇぇー !」

 

 大声をあげたつもりだったけどご子息さんは眉一つ動かさずに私をただ見つめた。

 

「言いたい事は全て言えましたか ?」

 

 しばらくして彼が私に声掛けた。私は何も言わずに彼を睨んだ。

 

「本心を話してくれてありがとうございます。よく頑張りましたね」

「うるさい…… !私の気持ちなんて分からないくせに……」

「人間の心理を完璧に理解する事は不可能です。しかし、貴女がとても辛い思いをしていた事や我慢していた事は分かります。貴女は十分苦しみました。もう我慢しなくていいんですよ」 

「許して……くれるの ?」

「許すも何も元々、貴女を責めるつもりはありません。気づいているかは分かりませんが貴女を責めるのは貴女自身だけです。貴女が瑞鶴を許す事が出来ればいいんですよ」

 

 許された。それが嬉しくて……

 

「泣いて……いい ?」

「どうぞ」

「うわぁぁん」

 

 私は大泣きした。

 

 

「落ち着きましたか ?」

「うん……」

 

 落ち着いてから少しして人が少ないとはいえ喫茶店内で話していることを思い出して少し恥ずかしくなった。

 

「これから本題に入りますがよろしいですか ?」

「本題 ?」

「外に出た理由を忘れましたか?」

「そういえば……何か話したい事があるみたいな事を言っていたよね ?」

「はい。父についてです」 

「提督さんのこと……」

 

 少し空気が重くなった気がした。

 いったい何を話すんだろう?私を責めるような事じゃないと思うけど……

 

「実は父は嵌められたんです」

「嵌められてた ?」

「海軍内で過激派と穏健派の間で陰惨な権力争いが行われていることは知ってますか ?」

「噂だけは……」

 

 海軍内の内部対立はよく話題になる。艦娘の取り扱い、政界や企業との結びつき…対立要素を上げていくとキリがない。ラバウルの提督さんも権力争いで負けて落とされたという話を聞いた気がする。

 穏健派と過激派というのは多分、艦娘の扱いについての事だ。私は幸いにも穏健派の提督の下についていられたけど世の中にはいわゆるブラック鎮守府と呼ばれる酷い扱いをしていると所もあると聞いたことがある。

 

「父が穏健派な事は知ってますよね ?」

「うん。任務がキツイって文句を言ったら加賀さんが世の中にはもっと扱いが酷い所があるとか言ってたよ」

「過激派の連中というのは例えアリの入るような隙間だとしても弱みを見つけると付けこもうとします。任務の失敗で重要戦力である空母を失ったりすれば尚のことです」

「それじゃあもしかして……」

「そういう事です。父が提督をやめるざるをえなくなり、首を吊る事になったのはその中の人間の1人が原因です」

「誰 ?」

「現在の佐世保の提督ですよ。人自体は5年前から変わっていないと思います」

 佐世保の提督…あまり良い評判は聞かなかった気がする。加賀さんが偶に悪口を言っていたのを聞いた気がする。たしか艦娘を虐待してるとか……企業から賄賂を受け取っているとか……

「でも、それって本当なの ?」

「事実ですよ。ラバウルの提督にでも聞いてみて下さい。彼も被害にあっています。ただ、私が息子という事は内緒にしておいてください。バレると色々と面倒ですから」

「聞いてみるね。ご子息さんの呼び方だけど……提督さんでいい ?」

「いいですよ」 

 

 喋っていたらお腹が空いた。頼んでから一口しか食べていない料理が目に付いた。私は箸を手に取った。

 

「大丈夫ですか ?」

「大丈夫」

 食べたご飯は味がした気がした。

 

 

 鎮守府に返ってラバウルの提督さんにご子息さんから聞いたことを聞くと私がそのことを知った事を驚いたきつつも色々なことを教えてくれた。

 

「納得していただけましたか ?」

「うん」

 

 まず、提督さんの失脚と佐世保の提督に関係しているという決定的な証拠はない。

 だけど、提督さんが失脚してから突然、彼が昇級したり提督さんのことを死んでくれて良かったと発言していたみたい。提督さんと対立していた事も事実で彼から見て提督さんは目の上のタンコブのような存在だったという話だ。

 提督さんが死ぬきっかけを作ったのはたしかに私だ。だけど根本的な原因はもっと別の所にあった。

 

「許せない」

「一緒に復讐しませんか ?」

 

 ご子息さんが私に声をかけた。

 

「復讐 ?」

「貴女の実力が素晴らしい事は過去の事象からも明らかです。私や貴女1人なら難しいかもしれませんが一緒ならば可能なはずです。復帰の手助けは私がやります。5年の停滞は痛いかもしれせんが瑞鶴なのであれば可能なはずです」

 

 断る理由は無い。

 

「うん。やろう。私、頑張るから !」

「よろしくお願いします瑞鶴」

「よろしくね !」

 

 私は元気な声を出した。

 

 

 

 それから復帰のためのリハビリが始まった。まずは基礎体力を付け直す所から。次に艦載機の練習。周りから無理してると思われる程やったけどご子息さんも一緒についてきてくれた。

 偶に自己嫌悪の症状が再発しそうになる。けれどもその度にご子息さんが私を励ましてくれたり、復讐をモチベーションに変える事で頑張れる事を教えてくれた。

 

 

 

 あっという間に1ヶ月が経った。ご子息さんの研修期間の半分と言った所だろうか。

 ご子息さんは加賀さんみたいに感情表現にに乏しいけども丁寧に指導してくれる。少しずつだけども力が戻ってきたのが自分でも分かった。

 

「お疲れ様です」

「提督さんもお疲れ様」

「大分勘は戻ってきましたか ?」

「うん !現役の時にはちょっと足りてない気がするけどね」

「明日、付近の海域を探索する艦隊について行ってみましょうか。許可は私が取ります」

「頑張るね !」

 

 5年ぶりの出撃。不安はあるけどもご子息さんの指揮の元なら上手くいく……

 と思っていたけれど夜になると不安になってきた。私は翔鶴姉が目の前で死んだというトラウマを本当に乗り越えているのだろうか?また誰かを傷つけてしまうのではないだろうか ?幸運という事に奢りを覚えて大失敗するのではないだろうか ?

 考えれば考えるほど悪い考えが次々と浮かぶ。どうしても抑えきれなくなって悪いと思いつつもご子息さんの所に相談に行く事にした。

 部屋の近くに来て異変に気づいた。部屋の中から啜り声がする。

 そっと扉の隙間から中を除くとご子息さんが1人で泣いていた。

 

「提督さん !」

 

 思わず部屋の中に飛び込んだ。

 

「瑞鶴ですか……」

 

 提督さんが涙を吹いた。

 

「どうしたの?困った事があるなら相談に乗るよ」

「いえ……なんでもありません」

 

 気づくといつものご子息さんの顔に戻っていた。ついさっき泣いていたのが嘘のようだ。

 

「悲しい事があったらなんでもいい私に話して。力になれるかは分からないけど……」

「私は大丈夫ですよ。それよりも瑞鶴、貴女は大丈夫ですか?明日の出撃に不安を感じているみたいだと他の艦娘から聞きましたが……」

「あ……えっと……」

 ご子息さんの豹変ばかりが頭の中に残ったせいで何を言うのか忘れてしまった。少しだけ頭の中に入らない会話をして部屋を後にした。

 ご子息さんが泣いていた理由はいったいなんだったんだろう ?1晩中考えたけど答えは出なかった。

 

 

 

 

 ご子息さんの研修が終わる2週間程前になった。

 相変わらず彼は熱心に私の指導をしてくれる。結局、ご子息さんが泣いているのを見たのはあの日だけだった。今でも偶にあの時の事をご子息に話してみる時がある。だけどご子息さんは私の見間違いだと取り扱ってくれない。私って信用されてないのかな……

 

 全盛期の力は取り戻せたと思う。ラバウルの提督さんからも普通の鎮守府に着くことも出来ると判断されて、つい先日、見に来た加賀さんも褒めてくれた。

 ご子息さんがどういうやり方をするのかは分からないけど復讐をするための実力はつけれたと思う。

 だけど時々、疑問に思う事がある。こんなにいい人が本当に復讐を望んでいるのかって。

 ラバウルの提督さんから聞いた話だとご子息さんは優秀で真面目ながらも徹底的な合理主義者で冷淡な指揮を取ることが有名だという話だった。模擬演習では戦いの上でとはいえ勝つ為の手段を選ばない。人付き合いは悪く学校内で疎まれているみたい。何故かお金持ちみたいでその事もブツブツと言っていた。

 ご子息さんが徹底的な合理主義と言うなら私の事を復讐の駒の1つとして見ていると思うけど少し違う気がする。

 

 たしかに私の見る限りだと彼は私の技能を中心に見ている。でも、成功するとちゃんと褒めてくれるし失敗しても怒鳴ったりせずに一緒に対策を考えてくれる。初めの頃は感情表現には乏しい人と思っていたけども最近は私の事を心配するような素振りも見せるし、使い捨てにするような冷淡さというのは微塵も感じない。

 お金持ちと言っても実生活は食事をカップ麺やコンビニ弁当で済ませるなど栄養バランスは悪いけど質素なものだ。彼の部屋にも安物の備品しか置かれていない。

 

 私が騙されていると考えれば話は簡単だけどそうだとしてもやり過ぎだと思う。

 でも、仮に復讐なんて関係なくて私が利用されているだけだったとしても全然構わない。海上で再び戦えるようにしてくれたのはご子息さんのおかげだし、彼の父親を間接的にとはいえ私が殺したのは私な事には変わりないから。

 

 それに……いつからかは分からないけど私はご子息さんが1人の異性として好きになっていた。

 出来ることならずっと一緒にいたいし、彼の初期艦としてついて行きたい。だけどご子息さんにその気があるようには思えなかった。彼は多分、私を1人の部下それか復讐の道具(私が騙されているとして)としてしか見ていない。

 

 休みの日に一緒に映画を見に行ったり、買い物に連れて行ってもらったりしているけどもそういう雰囲気になったことは1度も無い。私なりに完璧な計画を立てたつもりでもどうしても上手くいかない。

 みんなの間でも噂になっている(聞かれた時は誤魔化したけど)し、提督さんも多分、気づいていると思う。

 

 いい加減、腹を括るべきだ。雰囲気が削ぐわなくても皆の前でも言わなきゃいけないと思う。

 残った時間はあまり無いし、何もしないよりはいい。失敗するならそれはそれで割り切れると思う。

 

 

「瑞鶴、後で話があります。今日の出撃が終わったら防波堤まで来て下さい」

 

 決意した次の日、出撃前にご子息さんが私に声をかけた。

 

「お話 ?いいよ」

 

 私はそう軽く返事をして出撃した。

 

 

 ご子息さんのしたいお話って何だろう ?出撃の最中にふと頭を過ぎった。

 私に言うなら直接その場で言ってくれればいい。公の場で話せないとなると重要な話……なのかな ?

 話をするために鎮守府の外に連れ出させるのは提督さんと初めてあったあの日の1回だけ。そうなるとあの時に匹敵する大切なお話という事になる。

 ダメ。想像がつかない。 

 

「瑞鶴さん !」

 

 一緒に出撃していた艦娘の一人が声を上げた。

 

「あっ、ごめん」

「ボーッとしましたが大丈夫ですか ?」

「ごめん。ちょっと考え事をしていてね……」

「もうすぐ最深部ですかしっかりして下さい」

 

 最深部の目標の撃破はあっさりと終わった。後は帰港するだけだ。

 

「終わったよ」

「お疲れ様です。ただ、帰るまでが戦闘なので退路も索敵を怠らないで下さい」

「了解」

 

 ご子息さんは毎回のように帰り道の索敵をしっかりするように言う。今の所、何か変な物を見つけた事はないけど大切な事だと思う。

 あれ ?

 偵察機を飛ばして直ぐに気づいたけど海上に何かが見える。

 ボロボロになったピンク色の髪の毛の子が橙色の髪の毛の子を背負っている。後ろには駆逐艦の赤いオーラを纏った駆逐艦ロ級が……

 

「提督さん !」

 

 私は叫び越えを上げた。

 

「どうしましたか ?」

「駆逐ロ級に襲われている艦娘が !」

「直ぐに残存の艦載機を回して下さい!他の艦は救出を最優先でお願いします」

 

 幸いな事に直ぐに2人を救出する事には成功した。

 

 

 救出した2人のうち赤い髪の方は集中治療室に送られ、もう1人のピンク色の子の方は高速修復剤を使われた上で事情聴取をする事になった。

 

「お初目にかかります。私は川島でラバウル鎮守府の研修生をやっています。隣にいるのは正規空母の瑞鶴です」

 

 川島というのはご子息さんの偽名だ。

 

「よろしくね」

「よろしくお願いします……」

 

 私達の丁寧な態度にホッとしたのか彼女の表情が少し緩んだ気がした。

 

「提督から許可は取りました。事情聴取をしてもよろしでしょうか ?」

「はい……」

「まず艦型と艦名をお願いします」

「陽炎型駆逐艦2番艦、不知火……です。もう1人の方は1番艦の陽炎です」

「所属は」

「佐世保です」

「佐世保 ?佐世保ってたしか……」

 

 ご子息さんの方を振り向いてギョッとした。

 目は充血し、顔はまるで塗りつぶしたかのように真っ黒に見えた。手は震え持っているメモ用紙に親指の爪を立てていた。

 

「次の質問です」

 

 だけど、顔が真っ黒に見えたのは一瞬で次の言葉を話す時にはいつもの提督さんに戻っていた。だけど、メモ用紙の爪痕が気のせいじゃない事を物語っている。

 

「は……はい !」

 

 豹変には不知火も気づいたらしく声が上擦った。

 

「負傷した上に逃げていた経緯をお願いします」

 

 話の内容は過酷な扱いに耐えきれずに捨て艦前提の出撃の最中にどうせ死ぬならと逃げ出したという話だった。

 

「覚悟はしています。なので……もう終わりにして下さい。終わりのない地獄は嫌なんです」

 

 不知火が泣き崩れた。私の見立てだけど元々この子は凄く強い子なんだと思う。

 それまで必死になって耐えてきた…この子がかわいそうに感じた。

 

「御協力ありがとうございます。処分は後々伝えますのでそれまではゆっくりしていて下さい。瑞鶴、行きますよ」

「あっ !待ってよ」

 

 私はご子息さんを追いかけた。

 

 

「提督さん、あの子達どうなるの ?」

「恐らく、強制送還で終わると思います」

「何とかならないの ?」

「一応、ラバウルの提督に相談してみますが彼の立場は弱いのであまり期待は出来ませんね。彼は悪い人間ではありませんが殺す勇気は無いでしょうし、面倒事を嫌うので向こうに送り返されると思います」

「そんな……」

「ただ、彼女達に覚悟があるのであれば何とかなるかもしれません」

「覚悟…… ?」

「瑞鶴、貴女は引き続き、日々の任務に集中して下さい。この件は私が何とかします」

「分かった。提督さんを信じるね」

 

 色々な事が起きすぎてご子息さんに話があると言われた事はすっかり忘れてしまった。

 

 

 次の日には2人は元いた鎮守府に帰って行った。

 不安を感じる日々が続いていたがそれから数日して朝、食堂でニュースを見ると佐世保の提督が逮捕されたという報道が行われていた。大規模な内部告発があったみたいで海軍の元帥が頭を下げていたり、人権団体の代表が抗議する様子が映っていた。

 私はご子息さんの部屋に駆け込んだ。

 

「提督さん !ニュース見た ! ?」

 

「見ましたよ。終わりました……ね」

 

 ご子息さんがコーヒーをに見ながら呟いた。

 

「うん。でもどうやったの?」

「二人を通じて内部の情報を集めました。後は集めた情報を人権団体や穏健派の有力な提督やマスコミに匿名で送り付けただけです」

 

 結局、私は復讐においては何もすることが出来なかった。

 だけど提督さんの言ってる事は嘘じゃ無かった。それがとになく嬉しかった。

 この人は信頼できる人だし、優しい人だ。

 

「さて、これから忙しくなりますよ」

 

 私が考えるのを遮るようにご子息さんが呟いた。

 

「忙しくなる ?」

「直ぐに分かりますよ」

 

 ご子息さんの言ったことの意味はよく分からなかったけど数時間程して理解した。

 何故か佐世保鎮守府の艦娘の受け入れ先がラバウルになっていたらしく(ラバウルの提督さんはサインした覚えが無いらしいけど)沢山の艦娘がなだれ込んで来た。

 皆の事情聴取や介護に人手が足りなくなってご子息さんのような研修生や私のようにラバウルに元から居た艦娘を総動員する事になってしまった。

 そのせいで最後の何日かはご子息さんと殆ど話す事ができなかった。

 

 

 

 最終日の前日、ご子息さんとラバウルの提督さんが飲むと聞いてついて行った。

 初めの頃は下らない世間話をしたり、ご子息さんの問題行動を笑ったり(例のサインはご子息さんがやったらしい)していたけどもお酒が直ぐに回ってきて私は眠ってしまい、少しして目が覚めるとご子息さんとラバウルの提督さんが2人で話をしていた。

 二人の本音を聞けるかもしれないと思い、私は狸寝入りをする事にした。

 

「そうかアイツの息子だったのか」

「はい」

「それでこれからどうするんだ ?瑞鶴を連れていくのか ?初期艦として連れていく事も可能だと思うが」

 

 ドキッとした。

 

「彼女は……連れていきません」

 

 軽い倦怠感を感じた。

 やっぱり……だ。薄々感じてはいたけども私が初期艦として連れて行って貰える未来は無いらしい。

 

「理由を聞いてもいいか ?瑞鶴はそれを望んでいたようだが」

「彼女は立派な艦娘です。私のような手が汚れた人間の元で働くべきではありません。それに彼女は私に依存しているだけです」

 

 違う。私は立派でもなんでもないし依存なんてしていない。私はご子息さんが好きだから……だから……

 声を出そうとしたけど酔いが回っていたのか体に力が入らなかった。

 

「そうか……成績評価の方はどうするつもりだ ?」

「陽炎と不知火を助けたという事実だけで十分です。瑞鶴は彼女自身が立ち直ったという事にしておいて下さい」

「了解した」

「そういえば借金の件、本当にいいのか ?」

「お気にならさずに。金は私利私欲の為ではなく必要な時に使うべきですから」

「ありがとな」

 借金というのは多分、ラバウルの提督さんの事だろう。前にご子息さんから私に会うために借金を全て返す事を条件にしたと聞いた。

 その後は2人はろくに話さずに飲み会は終わった。

 

 

 

 最終日に私達はご子息さんを正門で見送る事になった。見送るのは私とラバウルの提督さんだけだと思っていたけども意外と多くの艦娘が集まった。

 私が絡んだ出撃の指揮は全てご子息さんがとっていた事や色々な事で相談に乗ってくれたらしく親近感を感じる子が多かったらしい。

 

「短い間でしたがありがとうございました」

 

 短い挨拶を終えてご子息さんが向こうに向けて歩き出した。歩いているだけなのにやけに早く感じる。

 行ってしまう。

 

「提督さん !」

 

 気がつくと声が出ていた。だけどご子息さんはそのまま歩いて行くこちらを振り向いてくれない。追いついて後ろから手を掛けるとようやく反応してくれた。

 

「何ですか ?この後、やる事が多いので忙しいのですが」

 

 こんな声も出せたんだ……と思うぐらいにご子息さんはゾッとするぐらい冷たい声を出した。だけど怯む訳にはいかない。

 

「私も連れて行って !」

「申し訳ありませんが無理な話です」 

 

 断られた。

 

「なんで……よ……」

「介護の必要な艦娘は邪魔です。いつまでも私に頼って貰っていても困ります。分かっていますか?貴女が何かやらかす度に責任を取るのは私なんですよ」

 

 今までこんな事を言われた事は1度も無かった。心が折れそうになる。だけど折れるわけにはいかなかった。

 

「提督さんに迷惑かけないし、私何でもするから……」

「貴女は私に依存しているだけです。気づいていますか?依存先が翔鶴から私に変わっただけなんですよ」

「依存なんかじゃない!だって私、提督さんのこと好きだもん !」

 

 言っちゃった……

 口にして気がついた。

 世界が静止する。血が逆流して顔に集まっていく。私の顔が茹でダコみたいに真っ赤になっているのが自分でも分かった。

 ご子息さんは何と答えるだろうか ?気持ち顔が赤くなった気がする。断られたらどうしよう。心の中の不安が恐怖に代わり自分を侵食し出す。

 このまま時間が止まってくれればいいのに……

 

「どうしても引けませんか ?」

 

 少ししてからご子息さんが口を開いた。

 それに対し私は頷いて答えた。

 

「分かり……ました。1つ……条件をつけましょう」

「条件?」

「そうですね……空母翔鶴、彼女を超えていただきましょうか」

 

 翔鶴姉。憧れの存在であるのと同時に私の実の姉であり、高い壁だ。

 

「翔鶴姉を超えれたら受け入れてくれるって事 ?」

「そうですね。その時になったらまた会いましょうか。私に依存していない事を証明して下さい」

「分かった。私……頑張るからね」

「期待してます」

 

 それだけ言うとご子息さんは私に背を向けた。

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