これから一万と千数百文字分、アナタの目はアナタの体を離れて……この不思議な時間の中へと入っていくのです……。
(イメージOP:『007 テーマ( https://www.nicovideo.jp/watch/sm4194697 )』)
「いや、それにしても大統領府長官自らお出でになられようとは……」
透き通った白い肌に、長い黒髪をポニーテールにした女性隊員__ヴィルヘルミーナ・ユスティーナ・ヨハンナ・ルーデルは、自身の母国の政府……を通り越して国家元首たる現・大統領の側近中の側近の一人が来日、そして態々この基地にまで自ら来訪してきた事に対して、未だに驚きを隠しきれませんでした。
「うむ、事態は急を要する。よって私 自らが君達2人に重大な頼みをしにきたのだよ」
そう重々しく口を開いた、この黒髪のスマートな中年男性こそがドイツ連邦共和国大統領府の現・長官なのです。
彼は来訪に当たって、基地内に存在する高級ホテルのスイートルーム並の設備がある高官用予備室の一つを宛がわれていましたが、そこへ備え付けられている執務室側へヴィルヘルミーナともう一人の隊員、荒島真己の二人を呼び出していたのです。
「はァ、そんなお偉方が来るとは、相当な一大事なんでしょうが……なんでまた俺達のような平隊員に?」
荒島は少し訝しむようにして口を開きました。それも其の筈です。BURK隊員とは いえ、高官は おろか隊長クラスですらない一介の平隊員である自身とヴィルヘルミーナの二人を名指しで、国家元首側近という雲の上にも近しい者から御指名が掛かったというのだから、これは異例中の異例の一つだと言えなくもないのです。
ヴィルヘルミーナの方はドイツの原隊へ復帰後に、リーゼロッテの元での副長になるのかもしれませんが、それは一先ず置いておくとしましょう。
「ああ、それは どうしても君達2人にしか頼めない事だからだよ」
「私と荒島にしか?一体どういう事です?」
「ああ、実は我が国の大統領閣下が酷く気を病んでおられるのだ……」
荒島とヴィルヘルミーナの質問に、大統領府長官__以降は『府長官』と略しますが、その府長官たる彼は鬱然とした顔で答え、そしてドイツ連邦共和国の現・国家元首すなわち現・大統領の精神的な不調を訴えました。
「大統領閣下が!?そ、そのような話は一度も……!」
「それは当然だ。この事は大統領府スタッフや高官らの極一部しか知らぬ事なのでね」
驚くヴィルヘルミーナに、府長官は知れ渡っていない理由を答えました。
「実質的に極秘事項も同然ってワケか……そんなのを俺ら2人ごときに……?」
「一体、大統領は何をそんなに悩んでおられるのですか?」
「それは……君を含めたドイツ支部女性隊員一同の態度にだよっ!」
府長官は両目をクワッと見開きながら声を荒げて、大統領の悩みの原因はヴィルヘルミーナを含めたBURKドイツ支部に属する女性隊員の態度だと指摘してきたのです。
「...はァ?んん?」
「え……!?いや、おそれながらリーゼロッテの方は自信過剰で我が儘そうな所も有りますが、実態は寧ろ真面目すぎる程ですし、なにより少なくとも私とリーゼロッテに至っては其れなりに戦果を挙げている筈ですから、大統領の悩みの種になる程の事は……!」
荒島は困惑し、ヴィルヘルミーナは流石に大統領が胸を痛める程の事は行っていない筈だと訴えました。
「ああ、そうだ。君達の戦功は余り有る物だ。ならば、なんで其の武勲に見合った物を全く穿こうとしないのだッ!?」
「「は、穿くぅ!?」」
感情が昂った声で憤怒しながら述べられた府長官の台詞に、荒島とヴィルヘルミーナは声を揃えて困惑の声をあげました。
ともあれ、府長官は自身が此の基地を訪れるに至った経緯を話し始めたのです。
さて、府長官が話し始めた其の内容ですが、その話は今から遡ること数週間前。
そこは、ドイツのベルリンミッテ区。ここに建つのは白亜の外壁と濃い茶色っぽい屋根が特徴的な建物ことベルビュー宮殿__20世紀末から第一大統領官邸として使われている建物ですが、そのコの字型主殿の殆ど隣に庭を挟んで建つ楕円形の建物こそが、大統領の職場とも言うべき連邦大統領府です。
この一室では、ドイツの現・大統領が報告を受けていました。
「現在、BURKドイツ支部に籍を置くドイツ人女性パイロット達の活躍により、敵性巨大怪獣および敵性異星人に対して多大なる戦果を挙げております。また、あるドイツ女性パイロットの乗機のランディングギア用タイヤが着陸直後にパンクした等の微妙な話こそ有れど、それを払拭する程にリーゼロッテ・ヴァルトシュタイン、ヴィルヘルミーナ・ユスティーナ・ヨハンナ・ルーデルなどの我が国の精鋭たる女性パイロット等が、出向中の日本をはじめとして各地で戦果を挙げております」
「いいだろう。...ところで、私が考案した『勲章Tフロント』は、皆ちゃんと穿いてくれているのかね?」
報告説明を一通り聞き終えると、口髭を生やした黒髪の初老男性__ドイツ連邦共和国の現・大統領は突然、勲章Tフロントに関して部下達に訊ねられました。
その勲章Tフロントというのは、この大統領が、目指しい活躍を続けるBURKドイツ支部の女性パイロット達に何か特別な報酬を与えられないだろうかと考え、新たに勲章の副賞として授与される事となった、勲章用の紐部分を長くしたような柄の紐を結って作ったかのようなデザインのTフロントの事です。
「…………」
大統領が勲章Tフロントの話題を口にした途端、その場に一瞬の沈黙が流れます。部下の一人が気まずそうな視線を送ると、先程まで報告を行っていた者がゆっくりと口を開きました。
「大統領閣下、実は彼女らに穿くよう強く奨めては いるのですが……」
この部下が口ごもると、その隣に居た別の部下がその言葉に被せるようにして、現状を重苦しい顔で伝えました。
「現場の女性パイロット達には極めて不評で、受賞者は誰一人として穿いていないという話です……」
「………………!」
報告を聞き終えると、大統領は黙り込んでしまうと共に、身を震わせながら同じくプルプルと震える左手で老眼鏡を外し、ゆっくりと口を開きました。
「……四人だけ残れ。ルゲモン、ルムリッヒ、マンチェロ、アンポンタン」
最後のだけ酷い呼び名が聞こえたような気がするでしょうが、このさい気にしないようにしましょう。ともあれ大統領が命ずると、指名された四名と、側近中の側近であるが故に指名されずとも残る必要が有る大統領府長官と もう一名の最側近らを除き、皆がゾロゾロと退室していきました。
「誰も穿いてないとは、どういう事だッ!?和食屋の鯛がッ!食べたい時間と金を削ってまで考えたんぞ!!」
他の者が退出し終えた途端、大統領は憤怒の罵声を発せられたのです。
「俸給は予算の関係で上げられないから、私のポケットマネーを削って、東欧料理店から大好物のボルシッチィ!を取り寄せるのも我慢し続けて副賞を設けたのに、あ痛たたた、足の小指ぶつけた。いや、そんな事より、どいつもこいつも大っ嫌いだッ!!」
革靴ごしだった為か、机の角に足の小指をぶつけた割には薄い反応で、即座に話を戻して大統領は怒鳴り続けました。
「大統領閣下、どうか御気をお鎮めください!」
冷静さを欠いた大統領の怒号に、先程に残るよう指名された部下の一人が大統領を必死に宥めようとします。
「黙れ、とにかく大っ嫌いだぁッ!どいつもこいつも私の事バーカ!にしやがって!!」
「大統領閣下!Tフロントを皆が恥ずかしがっている可能性も……!!」
「日頃からハイレグレオタード着といて今更なばかりか、それや制服用パンツルックの上に重ね穿きする前提で作らせたんだから、そう恥ずかしくない筈だろッ!!」
大統領は部下の言葉に反論すると、机の上にペンを勢いよく投げ捨て……
「畜生めぇぇえええええッ!!」
と大きく叫びました。
「超一流デザイナーのジャーガ氏に発注し、スマブラのプレイも忘れてウオッと驚きつつガンバレッるよう最上級の絹を使わせたのにッ!!」
自分のアイディアには一片の間違いも無いと力説する大統領は、ハイレグレオタード型戦闘服に勲章Tフロントを着用したイメージイラストとして描かれた日本の萌えアニメ風な女性キャラのイラストが描かれた立て看板が置かれていました。彼は八つ当たりするかのように其れを思いっきり殴りつけます。
しかし、その看板の構造上、殴られて大きく傾いた直後に起き上がり小法師のように勢いよく起き上がって大統領の鼻先へ衝突したのです。
「たっ……!………っ!!」
不意打ち的な痛みに、大統領は鼻を片手で押さえながら、ちょっとした屈辱に、またも身を少し震わせました。
「っ……!ウルトラマン達も醤油飲んでヘイヤッ!となる程の代物の何処に不満が有るというのだ!?」
そして大統領は部下達の方へ向き直ると、すぐさま叫ぶような言葉をつづけたのですが、先程の看板に鼻先を打たれた屈辱も有って錯乱しかけたのか、ワケの解らない例えまで使い始めました。
「へい、らっしゃいッ!って、仮に私の判断力が足らんかったというなら、何を考案すれば良かったというのだ!?ロシア大統領の考案したガーターベルトのようなのかッ!?」
またワケの解らない言動が混じったものの、ロシアの方ではドイツに先駆けてBURKロシア支部の女性戦車兵 向けとしてガーターベルト型の勲章が現・ロシア大統領の考案により作り出されて授章が開始されていました。
形状の関係から『ガーター勲章』と通称されると共に「そしゃロシアじゃなくてイギリスだろっ!」と突っ込まれるのが割と常態化しているのが玉に瑕でこそあるものの、
こちらの方は、任務に当たる戦車兵の邪魔になり難く且つ女性らしさを引き出す物として、ロシア支部の女性戦車兵の間で其れなりに好んで着用されています。これにはドイツ大統領も一目 置いていたのです。
「……それかド派手さも考慮し、ノーパンやオパンツ系はオワタ!って事でニプレスにしとけば良かったか?………服を脱ぐと目にささるニャン!って胸自体が おっぱいプルーンプルンッ!!って勲章になって!!」
ヴィルヘルミーナならば兎も角、リーゼロッテの方は尻は さておき胸の方で其れは不可能なのでは ないかとも思われますが、それは さておき
怒髪天を突くが如き状態となった大統領は随分と破廉恥な発言まで挟む程に錯乱してしまいました。
「日頃からウンッタンッと世界中を守り……出撃中に買ったばかりのポルシェ、ポルシェッが、じゃバーイキンマンのようにウザい怪獣に潰された日系ドイツ人のシバタさんッ!らを始めとした彼女らに報いようと考えた勲章Tフロントを誰も穿かぬとはッ!………」
彼が個人的に印象深かった女性隊員の例を出すのは未だしも、更にワケの解らない例え方が混じる程に錯乱しきった大統領でしたが、それで体中の怒りを全て発散しきったのか、しばし沈黙した後、ガックリと肩を降ろしました。
「私の誠意は彼女らに届かない……こんな状態で、これ以上 国民を纏める事は叶わない……もう終わりだ」
大統領は生気の籠らない声で心情を訴えました。
流石に飛躍しすぎな内容も含まれたので、部下達は少し戸惑ったものの互いに視線を合わせながら大統領に内心で同情しました。
「プディング……よし帰ろう」
何故か或る洋菓子を指す言葉をドイツ語では なく英語で言った直後に発せられた大統領の言葉に__前半の何故に洋菓子名が出てきたのかも含めて__部下達は、またも戸惑いました。
「溜まっている執務を少しでも早く片付け、その上で私は辞任する。ただ私の在職中この制度だけは残す。辞任後は好きにしろ……」
どうやら『よし帰ろう』とは辞任を意味していたようです。敢えて勲章Tフロントの制度を自身の在職中だけは残しつつ自らは取り止めないまま辞任すると言う辺り、僅か希望を託そうという意思が大統領から見受けられました。ともあれ、こうして大統領は顔を伏せながら言葉を締め括ったのでした。
「つまり……その勲章Tフロントってのを誰も穿かねェから、辞任を口にするほど、大統領が参ってる...って事か?」
「う、うーむ……」
大統領府長官から事の一部始終を聞き終えた荒島は、少し困惑し先程までは柄にもなく敬語だったのが、普段のようなタメ口に戻ってしまっていました。隣に立つヴィルヘルミーナも どう返事していいか分からず小さく唸るのみでした。
それも其の筈です。確かに本当に辞任してしまうとなると割と一大事なのかもしれませんが、それさえ除けば……一国の国家元首が一体どんな悩みを抱えているのかと思えば、わざわざ大統領府長官が訪れる程の案件だろうかと、二人とも内心で呆れてしまっていたのです。
「大統領閣下は、お酒も お煙草も口にせず、たまに自身への御褒美として好物の鯛とボルシチら海外料理を食される事が有るのを除けば、質素倹約に国政に務めておられる。そんな大統領の数少ない嗜みの一つは、国民や人類を守るべく日夜戦い続けている我がドイツのBURK隊員達に、極上の贈り物を授ける事だ。だが大統領の寛大すぎる御心が、肝心のパイロット達に届いていないとは、私は大統領が あまりにも御不憫で、うっうう……」
と府長官は、やや大げさに二人の同情を誘うように涙を頬で濡らした。
「あっ、ああ府長官、どうか泣かないでください。府長官の御話を聞いて大統領が私達の事をどれだけ思っていてくださったのか、よく理解できました」
見かねたヴィルヘルミーナが府長官に歩み寄り、どこまで本心だったのかは少し怪しいものの彼を宥めるようにして大統領への理解を口にした。
「おお、そうかそうか!わかってくれるかルーデル君」
「ただ、おそれながら穿きたいとまでは……あれ、股間や お尻に食い込んで痛そうですし」
「なっ、なんだとっ!?」
ソレとコレとは別……理解は示しつつも穿くのは躊躇する気持ちを多少バツが悪そうにヴィルヘルミーナは述べました。
女性パイロット達が勲章Tフロントを好まない理由は多々あるのですが、その中でも一番の理由は、TフロントかつTバック……というよりは関取の回しを細くしたような見た目の関係で、階段を昇る時や座った時に尻や股間などの割れ目に食い込んで、ハイレグレオタード型戦闘服等の上に重ね穿きする前提とは いえ流石に痛そうだからというモノなのです。しかも、BURKセイバーをはじめとした戦闘機はレーシングバイクのシート型であるが故に、お尻を突き出すような姿勢となる必要が有るので更にキツく食い込むのです。
「あーその……それで府長官が自ら訪れたのは、ヴィルヘルミーナ達に勲章Tフロントを無理矢理 穿かせる為、って事……ですか?」
まだ困惑の余韻を残しつつも、辛うじて敬語で取り繕えるくらいには平静さを取り戻した荒島は、やや動揺する府長官を見かねて彼に問いかけました。
「えっ?あ、ああ……いや、そういうワケでは ないのだ。親愛なる大統領閣下の御為、私みずからの指揮でPVを撮ろうと思い、この基地を訪れたのだ!」
「「PV?」」
今の話の流れだと、どうにも嫌な予感しかしないと荒島とヴィルヘルミーナは思うのでした。
「そうだ!我がドイツのBURK女性エースパイロット達が勲章Tフロントを穿き、高らかと大空を舞うPV動画を!そうすれば大統領も きっと御元気になられて、辞任も思い留まってくれる筈!!」
「は、はぁ……お言葉ながら、今の大統領はパイロット達の自主性を尊重なされる御方だと御聞きします。私達が命令で勲章Tフロントを穿いても、大統領閣下は御喜びになられないのでは?」
現・大統領の事を実は そこそこ敬っていて出来れば辞任もしてほしくないかなとも思っていたヴィルヘルミーナでしたが、それでも大統領府長官がPVを撮ろうとする動機が割と不純で強く賛同できなかったヴィルヘルミーナは、大統領を出汁に府長官の提案をやんわりと撥ね除けようとしました。
「だ、大体なんでこの事を話すのにリーゼロッテを呼ばないんです?」
「ああ、それは勲章Tフロントを穿いてPVに出演してくれるよう、君達2人にヴァルトシュタイン君を説得してほしいからさ」
「えっ、私達にリーゼロッテを?」
荒島からの問いに府長官は割と素直に答え、ヴィルヘルミーナは またも少しだけキョトンとしました。
「そうだ。ヴァルトシュタイン君は中々に気位が高く、上部機構からの命令という形でなければ勲章Tフロントを穿いてくれない可能性も考えられる。それでは彼女の自主性を奪って強制的に穿かせた事となってしまう。大統領閣下はそれでは御喜びになられない。だが聞けば君達2人は片やヴァルトシュタイン君の幼馴染かつ彼女の姉貴分で、片や よくゲーム対戦などをする其れなりに親しげな間柄であるそうじゃないか。だから君達2人から……特にルーデル君は勲章Tフロントを制服か戦闘服の上に穿いた状態で、勲章TフロントとPVの件を受けてくれるよう説得すれば、きっとヴァルトシュタイン君も自主的に穿いて出演してくれる筈なのだよ!」
「「え、えぇえ……」」
自身の読みを力説する府長官に、荒島とヴィルヘルミーナの二人は少し引いてしまいました。
「まあ君達2人にも強制するつもりは毛頭ないさ。だが、もし君等が私の企画に賛同して出演やヴァルトシュタイン君の説得も受けてくれて説得にも成功したならば……まずルーデル君には、PVを作るに当たってヴァルトシュタイン君が出ているカットを元に作成したブロマイドの全バリエーションを無償で与えると共に、ヴァルトシュタイン君が一定以上のアップで出ているシーンの未編集ノーカット版を全て無償で与えよう」
「えっ!そ、それは本当ですか!?」
府長官が示した条件にヴィルヘルミーナはピクッと反応し、そして飛びつきました。
「本当だとも。BURKの主立った戦闘機のコックピット内は耐G性を考慮してスポーツバイクのシートの如き伏臥体勢となっているそうだね。そのうえで勲章Tフロントを強調させつつ厭らしくなりすぎない映し方をするには、コックピット内に複数のカメラを特設してパイロットの下半身を様々なアングルから同時撮影した上で編集する必要が有るのだ。それを利用し、様々なアングルからヴァルトシュタイン君を映した物の未編集かつノーカットな代物だ。なんなら、この基地の総司令官と弘海神隊長ら辺りを立会人としつつ証拠映像も撮影しながら契約書を交わしても良いのだが……」
「わかりましたッ!不肖ヴィルヘルミーナ・ユスティーナ・ヨハンナ・ルーデル!敬愛する大統領閣下の御憂慮を取り除く為にも、閣下より承りし勲章Tフロントを着用の上、PVへの出演と、リーゼロッテ・ヴァルトシュタインへの勲章フロント着用と其の上でのPV出演への説得に御協力させて頂きますッ!!」
「お、おいおいおい!リーゼロッテに黙って勝手に……」
府長官からの説明を受けたヴィルヘルミーナは先程まで内心にて やんわり撥ね除けようとしていた思考と消極的だった態度は何処へやら、頬を紅潮させて鼻息を荒げながら府長官の提案を受け容れ、
当のリーゼロッテに黙って、解釈次第では隠し撮りの延長と取れなくもないような事をするのを快く思い切れなかった荒島は、ヴィルヘルミーナのテンションに少し たじろき ながらも、彼女へ苦言を呈しようとしました。
「ああ、それから荒島君にはPV動画の広告収入等で得た毎月の収益の1/4を、君のBURK隊員としての月給に上乗せする形で渡そう」
「は?か、金で釣ろうってワケですか?」
ヴィルヘルミーナへ苦言を呈しようとしていた荒島を遮るようにして述べられた府長官の言葉に、荒島は顔を引き攣らせながら問いました。隠し撮りの延長に当たるのかもしれない事の次は、ある意味では買収だと言えなくもないのかもしれない事を提案されたのだから当然です。
「そういう風に受け取られてしまっても仕方ない事は自覚している。ただ、聞けば君は公務員か軍人に相当する身分にありながら公的空間である基地内での勤務中にも関わらず私服に当たる筈の怪獣着ぐるみを着用して過ごす事が有るばかりか公用格納庫の一角を私物化して着ぐるみ制作室としているようだが、BURK的には部外者である私には其れを咎められる権限は無いので、それは さておき……」
「うっ……」
府長官から言われるまで、長らく当たり前のようにやってきた事なので荒島は特に意識していなかったのですが、着ぐるみは よく考えると私服に相当する筈だから公的空間での勤務中にて着用する事はBURK隊員という公僕として褒められた事では ない筈だし、実質的に黙認されてきた事とは いえBURK公用の格納庫の一角を自身の着ぐるみ制作室としてしまう事は公的区画の私物化に相当する筈の事なのでコレまた褒められた事では ありません。
府長官自身は、自分はBURKに籍を置かない部外者なので一隊員である荒島の行いを咎める権限が無い、とは言いましたが、一国の国家元首の最側近クラスである彼がBURKの上層部へ此の事を問題点として報せれば、BURK上層部が荒島に対して罰則等の何らかのペナルティを課してくる可能性も充分に考えられるのです。
痛い所を突かれた荒島は言葉を詰まらせてしまいました。
「君が趣味としていると聞く怪獣着ぐるみ制作は中々に金が掛かるそうで、充分に高給取りであるBRUK隊員の月給をもってしても、着ぐるみ一体ぶん作るのにも懐事情と相談しながら極めてローペースで作るしかないそうじゃないか。例のPVの収益の一部が君の懐へ月々に入るとなれば、その金で もっと良い制作機材をそろえて制作ペースとクオリティの両方を向上させられるだろうな」
「そっ、そりゃまあ確かに……」
府長官が続けて語り出した利点は確かに荒島に取っても魅力的な内容でした。
「それに今のようなBURK格納庫の一角に間借りした制作室など では なく、もっと本格的に自前設備の整ったアトリエそれも地底怪獣に下から突かれてもビクともしないほど頑丈なシェルター方式の物を建てられもするだろうし、もし自作に拘らないのであれば例の追加月給でプロの職人に外注してしまうという手段も取れるようにもなる筈だ。なんなら君とも、立会人同席と証拠映像撮影の上で契約書を交わしても良いのだが……」
「...あァ....うぐゥ...」
府長官が続ける魅力的な内容に荒島は、先程に痛い所を突かれたばかりという事もあって、心を揺れ動かしました。
「何が『うぐぅ』だ荒島!何を迷う!?リーゼロッテのブロマイドとドUP映像もとい一国を揺るがしかねない大事では ないか!大体お前に取っても利点だらけの良い話だろうにッ!!」
「うお?!急に掴みかかんじゃねェ!というか お前、本音が漏れ……近い近い近いッ!!近ェ!わかった、わかったって!!」
荒島も一緒だった方がリーゼロッテの説得をやり易いと踏んだのか、ヴィルヘルミーナは自身の巨大な両乳房が荒島の胴体前面に押しつけられて潰れ広がる程にまで接近して彼に掴みかかり、相変わらずの荒い鼻息のまま言いました。
そんな状態で掴みかかられた荒島は当然ながら動揺し、慌てふためくようにして叫びました。そもそも荒島が基地内での着ぐるみを着用する事が有るのは一部の女性の色気や芳香を大の苦手としているからなのです。ヴィルヘルミーナとは距離をとったり着ぐるみで防いだりする必要が無いとはいえ、1メートルを超すバストを有した彼女から強く密着されたのでは溜まったものでは ありません。
「あー、それで二人とも、この件を受けてくれる、という事で良いのかね?」
「えっ?あっ、ああ……もちろん、御受けさせて頂きます!お任せ下さい」
「う、うーっす...」
見かねた府長官が改めて問いかけると、二人はハッと我に返ったように互いから離れて府長官へ了承の言葉を返しました。ヴィルヘルミーナは先程までの荒かった鼻息も殆ど収まって一応は落ち着きを取り戻したようであり、
荒島も先程のヴィルヘルミーナの勢いに やや流された感が有るものの其れが最後の一押しとなったようで、腹をくくったかのような態度と表情になっています。
「おお、そうかそうか二人とも ありがとう!ただヴァルトシュタイン君を説得する時に、さっきみたいに くっつくのは控えておいてくれよ」
「へっ、あっ先程のは、その……」
「ありゃ俺からくっ付きに行ったワケじゃ……」
上機嫌でありながらも釘を刺す府長官の言葉に、先程まで互いに密着していた事を思い出したヴィルヘルミーナと荒島は揃って顔を真っ赤にして動揺しはじめました。
(さっきのような二人の密着具合を見たヴァルトシュタイン君が妬いて拗ねて断りました……等という御粗末な結果にでもなったら、目も当てられんからな)
心の中で本音を吐露する府長官でしたが、確かに説得に行ったヴィルヘルミーナと荒島がリーゼロッテの前で、抱き合う等の密着行為をしたらリーゼロッテが焼き餅を妬いて勢い任せに断りかねません。そのような結果となってしまっては御粗末だというものです。
「まあまあ兎も角、君達ならば必ず私の提案に賛同してくれると思ったよ。それに何もルーデル君とヴァルトシュタイン君の二人にだけ勲章Tフロントを穿かせて撮るワケではない。ヴァルトシュタイン君が受けてくれ次第、勲章Tフロントを授与されているBURKドイツ支部系女性パイロットの所属基地や出向先を巡って声をかけ、撮影場所たる特定基地へ臨時集合してもらうようにするつもりだ。嘗ての惑星調査におけるBURKセイバー隊の元臨時隊長として、ドイツ支部の女性パイロット達へ多大な影響力を誇るヴァルトシュタイン君が率先して勲章Tフロントを穿いたPVの話を受けたと言えば、他の女性パイロット達も悪い顔をしないようになる筈だからな」
府長官は、まだ動揺しているヴィルヘルミーナと荒島をなだめるように話だしました。どうやら彼は惑星調査以来、雷鳴を響かせるリーゼロッテの影響力を利用して、他のドイツ支部女性パイロット達を懐柔しようという腹積もりでもあるようです。
(ふーむ、我ながらリーゼロッテの映像無償提供に釣られて、つい了承してしまったが、私と荒島……最低でも私だけは賛同する事は既に織り込み済みというワケか……)
思えば府長官は、ある意味では怪獣や侵略異星人よりも恐ろしいのかもしれない魑魅魍魎が跋扈するという政界にて国家元首の側近中の最側近たる地位にまで登り詰めた男なのです。話術や調略の類に関しては一日の長……いや、そもそも更なる年齢差や人生経験差も有るので実際には一日どころでは ないのでしょうが、とにかくヴィルヘルミーナは大体そんな感じの皮肉めいた感心を府長官へ寄せるのでした。
その後、荒島そしてハイレグレオタード型戦闘服の上に勲章Tフロントを重ね穿きする格好へと着替えたヴィルヘルミーナの二人で、リーゼロッテに勲章Tフロント着用の上でのPV出演について……もちろんヴィルヘルミーナがリーゼロッテのブロマイドや下半身を延々と映した映像の無編集ノーカット版をもらうのだという点は伏せたままですが、そうして説得しに行った結果、リーゼロッテは多少 渋る素振りを見せたものの大して時間をかけずして了承し、
大統領府長官はリーゼロッテとヴィルヘルミーナが勲章フロント着用の上でのPV出演を了承した事実を引っ提げて、勲章Tフロントを授与されたBURKドイツ支部系女性パイロット達が駐屯している各基地を巡ってオファーを出した結果、彼女らの殆どがオファーを了承したので
彼の思惑通りPV動画の撮影は大々的に成功し、完成したPV動画を視聴したドイツ国大統領はスッカリ機嫌を直して辞任は取り止めるどころか、来期の大統領選にも出馬する決意を固めたのだそうです。
ここの国(ドイツ)はもうダメだ(変態的な意味で)
濃すぎる短編を送ってくださった俊泊様、ありがとうございました!