荒島 真己のスキキライ   作:平均以下のクソザコ野郎

14 / 30
ショートケー・キ

「ん〜♪おいしいですねぇ」

「そりゃ良かった。気まぐれも役に立つもんだ」

 

丸い皿に乗せられたのはショートケーキ。

ふわふわのスポンジにホイップクリーム、そしてその上の真っ赤で瑞々しい苺。奇を衒う事はない、シンプルかつ王道のケーキである。

フォークで切り分け、口に運ぶ。リーゼロッテのそんな動作を僅かに微笑み見守りながら、荒島はカフェラテに口をつける。

 

「それにしても雨、やみませんねぇ」

「そうだなァ。風も強ェし、落ち着くまではうちでゆっくりしてけよ。なんもねェが」

「むしろ叩き出そうとしたら大声出しますからね」

「やめろ」

 

出されたレモンティーに口をつけながら、リーゼロッテは荒島の部屋を見渡す。BURK基地にある荒島の部屋とは違い、彼のプライベートが伺える部屋だ。衣装タンス、部屋に入った際にすぐつけられたストーブ、そしてベッドのそばに貼られたゴモラのポスター。備え付けられた本棚には怪獣や現代科学に関する本、漫画、その他趣味に関する本が系統立てて並べられている。

テレビの下には携帯ゲーム機と最新鋭の大型ゲーム機『プレイステーションγ(ガンマ)』。

 

「なんというか、子供っぽいですねぇ。本当に」

「ほっとけ。いちご食べんぞ」

「やめてくださいよちょっと!メインディッシュなんですから!」

 

再びケーキを口に運ぶ。柔らかなスポンジとクリームの甘さが口の中で溶け合う。初めて見た時から察していたが、おそらく結構お高めなケーキだ。

 

「...これどこで買いました?」

「高校の友達の試供品貰ってきただけだからプライスレスだぜ」

「これで試供品なんですか!?!?」

「いや、その友達画家なんだよ」

「パティシエなった方いいと思いますけど...??」

 

あいつ絵にしか興味ねェから無理かな、と笑う荒島。

 

「そんなに気に入ったなら、また貰って来てやろうか?」

「大丈夫ですって。確かに美味しいですけど、迷惑をおかけする訳にはいきませんし」

「ガキが遠慮なんかするもんじゃねェよ」

 

そう言って再びカフェラテを飲む。リーゼロッテもレモンティーをちびちびと飲む。

それにしても、おいしいショートケーキだ。何よりクリームがすごい。

食レポの経験がある訳ではないが、こう、コク?というものが感じられる。いちごもいちごでいい物を使っているとわかるが、これをなぜ画家が作ったのか。うーん、謎だ。

口をもぐもぐと動かしながら見ると、写真立てが目に入る。

 

「...っん、荒島さん。その写真は?」

「あァ、これか?」

 

荒島は写真立てを持って来ると、見せてくれる。

『黒田第一中学校 卒業式』と書かれたパネルの前で、恥ずかしそうにはにかんだ少年と、その少年の隣に立つ夫婦らしき男女だ。

夫婦の方は写真が劣化しており、顔を詳しく窺い知ることができない。

 

「俺の兄貴と、両親だそうだ」

「...ご両親は確か」

「母さんは俺を産んで死んだ、らしい。兄貴と父さんは行方知れず」

「...そうでしたね。すみません」

 

リーゼロッテは、どこか申し訳なさそうな顔で謝る。

それを見た荒島は、普段と変わらないような声で返した。

 

「別にいいよ。覚えてねェ事なんざ、ないも同じだろ?」

「そう、でしょうか?」

「俺にとっちゃそうなんだよ。だから、お前が気に病む事でもねーの」

 

再びケーキを口に運ぶ。もう残り少ない。

いちごがポロッと落ちた。

 

「........あ、あの!」

「どうした?」

「...わ、私は、貴方と一緒に遊びたいし、まだ勝負をし足りません」

「お、おう。なんだ急に」

「ですから、その、黙って1人でどこかに行くとか、やめてくださいね」

 

荒島はぽかんとした顔でリーゼロッテを見る。

 

「...あ、荒島さん?」

「っはっははは...なに言い出すかと思えば...」

「き、きちんと真面目なんですけど!?」

「わかったわかった!大丈夫、行かねェよ。楽しい事なら、分けた方が得だからな」

「わ、わかってますか本当に〜!?」

「わかってるわかってる!...お、雨もやんできたな」

 

荒島の部屋の窓からは、曇り空から差し込む日差しが見えてくる。

 

「服は...まだ乾いてねェな...しゃあねェ。娘さんが置いてった服あるからそれ使え。あっちにんなぶかぶか服で戻るわけいかねェだろ」

「すいません、ありがとうございます」

「あれ置いてあると俺が変質者みたいに思われっから嫌なんだよ。いらなくなったら捨ててくれて構わねェぜ。もういらねェっつってた」

「お言葉に甘えさせていただきます」

「おう、俺コンビニ行ってくるからその間に着替えとけ」

 

ばたん。

マンションの扉が閉まる。

リーゼロッテの脳裏には、先程の荒島の顔が浮かんでいた。

 

『覚えてねェ事なんざ、ないも同じだろ?』

 

普段と変わらなそうに見えて、どこか寂しそうに話すその顔が、いつまでも頭から離れなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。