荒島 真己のスキキライ   作:平均以下のクソザコ野郎

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オンセンリョコウ(オリーブドラブ様の作品)

 

 ――ホピス星での惑星調査任務から約3ヶ月が経過してからも、地球では度々敵性異星人による怪事件が発生していた。世界各地で頻発するそれらの事件に対処するべく、地球防衛を担うBURKの隊員達は異星人の悪行に日々目を光らせている。

 

 BURK屈指のエリート集団である惑星調査隊の隊員達も当然、その任務に従事する毎日を送っていた――の、だが。とある使命を帯びた数名の隊員は何故か、緑溢れる野山に囲まれた、大自然の温泉宿に身を寄せていた。

 

 約2週間前。この温泉宿の近辺で、宇宙忍者「バルタン星人」の目撃情報が何件も寄せられて来たのである。そのため、隊長の弘原海(わだつみ)をはじめとする数名のメンバーが訪れたのだが、2週間に及ぶ調査でも全く尻尾が掴めずにいた。

 他の調査隊メンバー達は別件の対応に追われており、人員を交代することは出来ない。かと言って、成果が見えないまま長期間しつつある調査の中で、疲弊し始めている隊員達のコンディションも無視出来ない。

 

 そこで。弘原海は一旦隊員達をリフレッシュさせるため、現場に近い温泉宿で休息を取ることに決めたのである。そんな弘原海に追従する隊員達は、長い任務の疲れを少しでも癒すため、大自然を一望出来る露天風呂に身を浸していた。

 

「ふぅー……生き返るぜぇ。ここのところ、ずっと張り詰めたままだったからなァ。お前らも、今のうちに少しでもリフレッシュしとけよ。この後すぐに調査再開なんだからな」

 

 長年に渡る鍛錬の「質」と「量」を物語る、筋肉という名の鎧で全身を固めている弘原海。その身を湯に浸し、束の間の休息を満喫している豪傑は、部下の男達を見渡しながら豪快な笑みを浮かべている。惑星調査隊の隊長であり、隊の「おやっさん」としても慕われている良き親分だ。

 

 口の悪い若手隊員から「ゴリラ」と揶揄されることも多い彼の筋肉量は、もはや霊長類の限界値を超えているのではとも噂されている。並の男はもちろん、鍛え抜かれた軍人達でも彼の身体を一目見れば本能で理解するだろう。「あ、勝てないわ」と。

 

「うへェ...リフレッシュの最中なんだから、こんな時くらい仕事の話はよしてくださいよォ……。せっかくこんな良い湯と眺めなんですから」

 

 そんな隊長の言葉に露骨に眉を顰め、子供っぽく苦言を呈している恐れ知らずな青年の名は荒島真己(あらしまみこと)

 肉食獣の如き獰猛な顔付きと、オールバックの黒髪を特徴とする惑星調査隊の主力メンバーだ。ホピス星の戦いにおいては、ペンライト型起動点火装置「ベーターS(スパーク)フラッシャー」で「ウルトラマンリード」に変身していた人物でもある。

 

 弘原海の身体が筋肉で膨れ上がった「重鎧」ならば、彼の身体は戦うための筋力のみで構成された「軽鎧」。

 さすがに体格や単純な膂力においては弘原海には及ばないが、荒島の肉体はまさしく闘争に適する形として練り上げられ、引き締められた「戦士」の身体であった。六つに割れた腹筋と盛り上がった胸筋が、その筋肉の「質」を物語っている。

 

「しかし、バルタン星人か……。やはり宇宙忍者の異名で呼ばれているだけあって、今回はなかなか骨が折れる調査になりそうですね」

 

 荒島の隣で湯に浸り、ため息混じりに緑豊かな絶景を一望している若手隊員の士道剣(しどうつるぎ)。彼は高校時代における、荒島の後輩であった。

 195cmという調査隊随一の体格を誇る彼の筋肉量は、その長身にさらなる迫力を齎している。ホピス星では「ウルトラマンシュラ」に変身して戦っていた彼の肉体は、地球に帰還してからの鍛錬でさらに磨きが掛かっていた。

 

 焦茶色の艶やかな髪を靡かせる、爽やかな美青年。そんな印象を与える美貌に対して、首から下の肉体は「調査隊最強格」の噂に違わぬクオリティに仕上がっている。

 荒島を凌ぐ密度と硬さを持つ彼の筋肉は弘原海に次ぐ「質」に至っており、彼の胸筋と二の腕と腹筋は、見る者を男女問わず常に圧倒している。逆三角形を描いた彼の肉体美を前にして怯まない者など、とうに見慣れている調査隊メンバー達くらいなのだ。

 

「俺達が2週間も掛けてこの一帯を調べ尽くしても、まだ発見出来ていないのだからな……。だが、森の奥にはまだ新しいバルタン星人の足跡もあった。とっくに居なくなっているとは言い切れない以上、捜査の手を緩めるわけには行かん」

 

 士道の元教官であり、この調査隊メンバーの中でもベテランの隊員である木場司(きばつかさ)

 ダークブラウンのマッシュヘアーに、影のある雰囲気の細長い目が特徴である彼は、湯に浸りつつも捜査が進展していない現状に神妙な表情を浮かべていた。ホピス星の事件では「ウルトラマンヴェルゼ」に変身していた彼は、怜悧な眼差しで大自然の絶景を一瞥している。

 

 教え子である士道ほどの体格ではないが、その鍛え抜かれた筋肉には一切の「無駄」が無い。初めから意図して作り上げたものではなく、BURK隊員として最前線で戦い続ける日々の中で、ごく自然に醸成された純粋なる闘士の身体であった。

 絶え間ない死闘の中で無意識のうちに最適化され、洗練された天然の肉体美。彼自身は「士道や荒島ほど鍛え込んでいるわけではない」と語るが、それはあくまで彼個人の主観でしかなく、彼の肉体は紛れもなく「完成された兵士」そのものであった。

 

「……ってことは、もうしばらくは俺達も東京に帰れそうにありませんね。ま、ここの温泉宿は料理も絶品と評判ですし……それを楽しみに頑張るとしましょうか」

「そういえば、女湯に行ったリーゼロッテ達は大丈夫なんだろうな? この男湯からはちょっと離れてるようだが……」

「なぁに、あっちには日本支部屈指の女傑様も居るんだ。何も心配は要らねぇさ」

 

 強く逞しい遺伝子を欲する雌の本能を抉り出し、出会う女達を次々と(無意識のうちに)堕として来た、筋骨逞しい美男子達。

 そんな彼らは口々に語らいながら、先のことを見据えつつも秘湯の温もりを堪能している。その効能によって疲れを解消された彼らの肉体は、次なる闘争に向けて静かに燃え上がろうとしていた――。

 

 ◇

 

 男湯からやや離れた地点に設けられた、男子絶対禁制の女湯。その秘湯に、白く瑞々しい柔肌を浸している調査隊の女性メンバー達は、揃って恍惚の表情を浮かべていた。

 すれ違う男達の視線を攫い、星の数ほどのケダモノ達から獣欲を向けられてきた絶世の美女達。その見目麗しさからは想像も付かない覇気と実力を以て、不埒な男達を退けて来た女傑達は、束の間の休息をその白く艶やかな裸身で堪能している。

 

「ふぅっ……これはなかなかの秘湯だな。2週間の疲れも吹っ飛ぶようだ。この効能ならあと1ヶ月は戦えるぞ」

 

 日本支部屈指の女傑と呼ばれ、BURK惑星調査隊においても実質的な副官として隊員達を指揮していた駒門琴乃(こまかどことの)

 亜麻色のロングヘアと怜悧な美貌、そして抜群のスタイルを誇る彼女は、108cmのLカップという超弩級の爆乳を湯に浸し、至福の笑みを溢している。くびれた腰に反してむっちりと実っている安産型の巨尻を含む全身で、彼女は秘湯の効能を実感していた。

 

「ちょっと、冗談じゃないんですけどぉ? さらにあと1ヶ月もこんなど田舎でウロチョロするつもりなんですかぁ? 確かに良い湯ですけど、私はゴメンですからね! さっさと例のバルタン星人をブッ倒して、東京の基地に帰りたいんですからっ!」

 

 豪奢な金髪のツインテールを下ろし、102cmという特大の爆尻と白く瑞々しい裸身で温泉を堪能している、BURKセイバー隊の隊長ことリーゼロッテ。

 制式宇宙戦闘機(BURKセイバー)のエースパイロットとは思えぬほど小柄な彼女は、まな板のような自分の胸と琴乃の爆乳を見比べながら、いつも通りの悪態をついていた。そんな彼女の隣で湯に浸っている紺色ショートヘアの爆乳美女は、蠱惑的な微笑を浮かべている。

 

「ふふっ……確かにね。これほど良い温泉なら、僕としてはプライベートで来たいところだよ。任務のことも全て忘れて、もう一度ここに来られるように……まずは英気を養わないと、だね」

「分かっている、今のはあくまでものの例えだ。私としても、これ以上の長期化は望むものではない。早く奴を発見せねば、近隣住民の不安は尽きないのだからな」

 

 94cmのGカップという豊満な巨乳を湯に浮かべ、妖艶な笑みをリーゼロッテに向けている「中国支部の王子様」こと、劉静(リウジン)。91cmの巨尻をむにゅりと底に押し付け、スラリと伸びる白い美脚をピンと伸ばしている彼女の言葉に、琴乃も瞼を閉じて頷いていた。

 

「そうですね……こんなに素敵なところなのですから、今度は調査隊の皆で旅行に来ましょうよ。私、お弁当作りますね!」

 

 2人のやり取りに、白く優美な手を合わせて同意し、華やかな笑顔を咲かせているエリー・ナカヤマ。茶髪に3色のメッシュを入れたロングヘアと、ギョロっとした大きな眼の持ち主である彼女は、そのやや奇抜な容姿とは裏腹に家庭的な人物であった。

 華奢でありつつも、均整の取れたプロポーションである彼女の身体は、秘湯の効能なのかさらに磨きが掛かっている。そんな彼女の優雅な笑顔に、劉静もふっと微笑を溢していた。

 

「張り切ってるね、エリー。……しかし君1人で全員分は難しいだろう。その時が来たら、この僕が力になってあげよう。君は士道隊員の分にだけ注力すれば良いさ」

「えぇっ!? わ、私は別に士道くんとはそんなっ……!」

 

 荒島の紹介で士道と知り合い、年が近い3人での飲み会の他にも、士道との2人の交流を重ねているエリー。そんな彼女の胸中をおおよそ察している劉静は、挑発的な笑みを浮かべ、金色の眼を細めている。

 

「……っ」

 

 両手を頬に当て、恥じらいの表情を見せるエリーのいじらしい姿に、女傑達はどこか落ち着かない様子でそわそわと太腿を擦り合わせている。温泉の熱さとは異なる理由で頬を紅潮させている彼女達は、無意識のうちにその極上の肢体から、雄を狂わせる濃厚なフェロモンを振り撒いていた。

 今まさに、男湯で汗を流している「意中の男」達。その逞しい身体に想いを馳せていた彼女達にとって、エリーの様子は他人事ではないのだ。荒島の圧倒的な「雄」を目の当たりにして以来、己の肉体に秘められた「雌」の本性を自覚させられていた劉静も、その1人であった。

 

「……って言うか劉、あなた料理とか出来ましたっけ?」

「いいや全く。力になるとは言ったけど、僕が作るとは言ってないよ。作るのは僕に頼まれた荒島隊員だからね」

「結局あの人任せですかっ!?」

 

 中性的な美貌と、王子様然とした佇まい。そんな顔立ちや立ち振舞いとは裏腹な、雄の本能を刺激する極上の女体。男女両方を魅了するその色香で、劉静は多くのファンを虜にしているのだが――気心の知れた仲であり、自身を"使う"立場であるリーゼロッテには通じなかったらしい。

 自分で引き受けていながら、しれっと他人にやらせようとしている彼女の不遜な佇まいに呆れながらツッコミを入れるリーゼロッテは、特大の白い爆尻をぷるぷるっと揺らしている。宝石のように美しい劉静の双眸で射抜かれた女性は、どんな無茶振りにも応じてしまいがちなのだが、BURKセイバー隊の隊長はその魅力にも全く屈していない。

 

「……なんだか、落ち着かんな。こんなに良い湯だってのによ」

 

 そんな若手隊員達が、疲れを忘れてはしゃぎ合っている中。BURKセイバー隊の中で最も経験豊富なベテランパイロットである、ラウラ・"クーカ"・ソウザ・サントスは、腑に落ちない表情で湯に浸っていた。

 

 BURKセイバー隊の中でも最年長の31歳である彼女は、その年齢とは裏腹な幼児体型の持ち主である――いわば、「合法ロリ」であった。138cmという部隊屈指の短身とボーイッシュな金髪ショートヘアからは、少年のような印象すら受ける。

 だが、むっちりと実った79cmの安産型桃尻は、紛れもなく成人女性のそれを想起させる扇情的なラインを描いていた。見掛けこそ10代前半の少女だが、彼女は紛れもなく子を産める1人の女なのだ。

 

「クーカさん? どうかしましたか?」

「まだ事態が終息していない以上、リフレッシュし切れないというのも分かるが……今は少しでも身体を休めないと、いざという時に戦えんぞ」

「あぁ……もちろん分かってるさ、駒門。分かってるんだが……さっきから、誰かに見られてる気がするんだよなァ」

 

 雄の興奮と獣欲を掻き立てる、特大の桃尻をむにゅりと底に擦り付けながら。蠱惑的な柔肌を大自然に晒し、その乳房を湯に浮かべている絶世の美女達。

 男の欲望と夢が凝縮された、その絶景を遠方から観測している不埒者の気配。それに勘付き始めていたクーカの直感が、警鐘を鳴らしていたのだ――。

 

 ◇

 

 そんなクーカの直感通り。女湯からやや離れた林の奥には、琴乃達のあられもない姿をつぶさに観察している「不埒者」が居た。

 地球人のそれを遥かに超える視力で、女傑達の白く艶やかな柔肌をねぶるように凝視しているその不埒者こそが――この近辺で度々目撃されていた、バルタン星人だったのである。

 

「……ふん、こんなところに絶好の『覗き場』があったとはな。なかなか地球人も、趣のある場所を用意するではないか」

 

 バルタン星侵略軍所属、偵察兵メガヴァーデ。その名を冠する宇宙忍者は、金色に輝く双眸で琴乃達の湯浴み姿を遠方から見つめていた。

 だが、地球人の美的感覚を持ち合わせていない彼は、琴乃達の裸身が目当てで覗いているわけではない。バルタン星人の偵察兵である彼は、BURKの精鋭たる惑星調査隊の戦力を測るためにこの地に訪れ、敢えて「餌」となる目撃情報を流させていたのである。

 

 そんな彼の狙い通りに現れた調査隊メンバー達は今、露天風呂という無防備な場所で生まれたままの裸身を晒している。その戦力を測り、あわよくば即座に抹殺する上では、これ以上ない好機であった。

 女湯の脱衣所に忍び込み、琴乃達のブラジャーやパンティを物色し、下着の裏地に染み付いた彼女達の匂いを鼻腔で堪能していた宿主の男。彼を締め上げ、この「絶景スポット」の存在を聞き出していた彼は、爪を研ぐように両腕の鋏を擦り合わせている。

 

(我らバルタン星人にとって、この地球は因縁の地であり……絶好の「移住先」でもある。よもや、この地に侵略するための偵察任務を任せられる日が来るとは……何という誉れか。ラスヴァーダ様、感謝致します)

 

 バルタン星人の中でも、特に好戦的な個体が集う侵略軍。その頂点に立つ武闘派司令官「ラスヴァーダ」に偵察を命じられていたメガヴァーデは、母星にとっての因縁の地とも言うべき地球に訪れている事実を、独り噛み締めている。

 だが、念願の地球降下に感動している場合ではない。自分には果たさねばならない務めがある。そう気持ちを切り替えたメガヴァーデは、改めて琴乃達の扇情的な湯浴み姿を念入りに観察する。茂みの中から琴乃達の柔肌を隅々まで観察している彼の双眸は、闇の中から妖しい輝きを放っていた。

 

(……見たところ、武装しているようには見えんな。文字通りの丸裸だ。しかし油断は出来ん。奴らは3ヶ月前、あのホピス星に残置されていたキングジョーの現地改修型を撃破した実績を持っている)

 

 約3ヶ月前、ホピス星の荒野で繰り広げられた死闘。12人のウルトラ戦士とBURKセイバー隊が、キングジョー・ホピスナイトカスタムを撃破したその戦いは、バルタン星人達も遥か遠くから観測していた。

 そこでBURK惑星調査隊の――地球人の底力を目の当たりにしたバルタン星侵略軍は、彼らの存在が大きな障害になると認識していたのだ。だからこそ今こうして、ラスヴァーダから深く信頼されているメガヴァーデが、偵察兵として派遣されているのである。

 

(宇宙警備隊の介入があったとはいえ、地球人の一部隊があのキングジョーを破壊したのは事実だ。この宇宙を統べる最恐最悪の殺戮集団……「テンペラー軍団」でも破壊し切れなかった、あのキングジョーをな)

 

 この次元における、あまねく災厄の根源。全ての怪獣災害の元凶。そのように呼ばれ、全宇宙のあらゆる勢力から畏怖されている「テンペラー軍団」。その首魁の手で更地となったホピス星は、草一つ残らぬ死の大地と成り果てた。

 その災禍からも生き延びていたキングジョーに引導を渡したのが、あのBURK惑星調査隊なのだ。テンペラー軍団の恐ろしさも、その攻撃を耐え抜いていたキングジョーの頑強さも理解しているからこそ、メガヴァーデは慢心することなく琴乃達に狙いを定めている。

 

(テンペラー軍団がこの地球に目を付け、ホピス星のような更地にしてしまうのは時間の問題。その前にこの星を占領し、奴らを迎え撃つための軍備を整えねばならんというのが、ラスヴァーダ様のお考えだ。私はその忠実なる僕として、然るべき「務め」を果たさねばならん立場にある)

 

 地球という絶好の環境を渇望し、テンペラー軍団の打倒という野心も秘めているラスヴァーダ。そんな彼の大望を成就させるべく、メガヴァーデは茂みからゆっくりと身を乗り出して行く。

 突き出された両腕の鋏。その中心点に眩い光が集まり始めていた。彼はここから、両腕の熱光弾で琴乃達を狙撃するつもりなのだ。

 

(少々距離はあるが……この程度ならば、まだまだ私の射程圏内だ。それに、如何に精強な戦士であろうと所詮は非力な女。私の手に掛かれば、全員の殺害に5秒も掛からぬ)

 

 少しでも弱い個体から始末し、敵方の手数を最小限の労力で削ぎ落とすのが戦いの鉄則。屈強な男(わだつみ)達との戦いを後に控えている以上、女達に手こずってはいられない。両チームが合流する前に、素早く片方を始末する必要がある。

 

 身体能力の面で優位に立っているからといって、安易に近付いたりはしない。宇宙忍者という異名の通り、闇に紛れて敵を討つ。それが宇宙忍者たるメガヴァーデのやり方であり、矜持だった。

 両腕に収束して行くエネルギーが、とうとう最高潮に達する。蓄積された光熱が弾丸となって、鋏の中央から飛び出すのは時間の問題であった。

 

「我が侵略軍の偉大なる野望。その実現への礎となる栄誉……存分に受け取るが良い」

 

 そして、ついにメガヴァーデの両腕から熱光弾が発射される――その時だった。

 

「……!?」

 

 こちらに気付けるはずなどない。この距離から、自分の位置を把握出来るわけがない。にも拘らず、調査隊メンバーの1人――クーカと視線が交わる。

 狙撃銃のスコープを覗き込んだ射手が、自分に狙いを定めている同業者(スナイパー)に気付いた瞬間のように。メガヴァーデはただ瞠目し、戦慄した。

 

「なッ……!?」

 

 次の瞬間、クーカが風呂桶の下に隠していた光線拳銃「BURKガン」の引き金を引く。その銃口から閃く熱光線で眉間を狙われたメガヴァーデは、咄嗟に身をかわして直撃を免れた。

 思わぬ反撃で集中力を乱されたため、両手の鋏に充填されていたエネルギーが霧散してしまう。狙われていたのはこちらの方だったのだと、メガヴァーデは頭より先に本能で理解していた。

 

(おのれッ……この距離から私の殺気を掴んで来るとは、やはり私の見る目に狂いはなかったようだなッ! やむを得ん……! 見つかったからには、この場で全員始末するのみだッ!)

 

 多勢に無勢である以上、本来なら一旦退いて体勢を立て直すべきなのだろう。だが、ここで引き下がって相手に猶予を与えれば、男女のチームが合流してしまい、ますます手が付けられなくなってしまう。

 接近戦に伴う負傷は覚悟の上で、この場で女達を確実に抹殺するしかない。咄嗟にそう判断したメガヴァーデは、バルタン星人ならではのテレポート能力で自身の身体を瞬時に移動させ――女湯の座標に出現する。

 

「死ねぇえいッ! 地球人のメス豚共がッ――!?」

 

 その瞬間移動で相手の虚を突き、体勢を立て直す暇も与えず至近距離からの掃射で殲滅する。その手段に踏み切ったメガヴァーデは、女湯の床に着地した瞬間、両手の鋏から熱光弾を放とうとしたのだが。

 

「な、何ィィィイーッ!?」

 

 それよりも疾く――彼の視界が「真っ白」になってしまう。メガヴァーデがテレポートする瞬間を目撃していた琴乃達は、自分達の背後に回り込もうとしていた彼の狙いを見越して、一斉にバスタオルを後方に投げ付けていたのだ。

 琴乃達の蠱惑的な白い裸身を包み、不埒な視線からその柔肌を守るはずだった白のバスタオル。その布に視界を塞がれたメガヴァーデは、逆に先手を打たれる形になってしまっていた。

 

「……やっぱり俺達が無防備になったタイミングを狙って来たな、この変態セミ星人ッ!」

「バルタン星人のテレポート戦術なんて、もうとっくに研究され尽くしているのですから……そんな手は通じませんッ!」

 

 バスタオルを目隠しに使ったことにより、身体を隠すものが一切無くなってしまったクーカとエリー。彼女達は羞恥に頬を染めつつ、生まれたままの姿で温泉から素早く飛び出して行く。

 

 地球人基準の美的感覚が分からない異星人相手とは言え、自分達の湯浴み姿が覗かれていたことに怒る2人の女傑は、バスタオルで視界を塞がれたメガヴァーデの鳩尾に渾身のローリングソバットを叩き込む。

 回転の加速を乗せ、ピンと伸びた白く優美な美脚。その御御足がメガヴァーデの腹部に勢いよく減り込むと、衝撃の反動で白い桃尻がぷるんっと弾んでいた。

 

「……残念だったな、バルタン星人ッ!」

「丸裸なのは、手の内を調べ尽くされた君達の方だった……ということだよッ!」

「ざぁこ、ざぁこっ! 変態よわよわお間抜け忍者っ! 私達の柔肌を盗み見した罪、その命で償わせてあげますッ!」

 

 さらに。羞恥故の憤怒に燃える琴乃、リーゼロッテ、劉静の3人は、息を合わせて跳び上がると、流麗な空中回転蹴りを同時に繰り出していた。彼女達の肉感的な美脚が540°の弧を鮮やかに描き、メガヴァーデの頭部に炸裂する。

 絶対不可侵の乙女の聖域。その全てが余すところなく、「丸見え」になってしまうのも厭わず。彼女達は白い美脚を豪快に振り上げ、メガヴァーデの頭部に芳しい足先を減り込ませていた。同じ地球人相手なら、頭蓋骨が陥没するほどの威力だ。

 

 命中の瞬間。ピンと伸びた彼女達の美脚から伝わる衝撃の波紋が、女傑達の豊満な実りをどたぷんっと弾ませる。

 最前線の戦士として苛烈に鍛え抜かれ、キュッと引き締まっている腰に対してあまりにも豊穣な果実。琴乃と劉静の、白く豊かな爆乳。安産型のラインを描いた、リーゼロッテの巨尻。その淫らな純白の膨らみが、ぶるるんっと蠱惑的に揺れ動いていた。

 

「うぐぉおおッ……!?」

 

 視界を封じられて体勢が安定しない状態のまま、立て続けに急所に蹴りを叩き込まれたメガヴァーデは、たまらず転倒してしまう。

 滑る床にもたつきながらも、なんとか立ち上がろうとする彼の周囲は――すでに、BURKガンを構えた女傑達に取り囲まれていた。彼女達は風呂桶やバスタオルの下に、いざという時のための「得物」を隠し持っていたのだ。

 

 逃げ場を与えぬよう周りを取り囲みつつ、同士討ちを避けるために敵を転倒させ、射線上に仲間を入れないように立ち回る。そんな彼女達に完全包囲されてしまったメガヴァーデは、絶体絶命の窮地に陥っている。

 

「……我々をか弱い女と、心のどこかで侮った。それが貴様の『敗因』だ、バルタン星人ッ!」

 

 そして、女性陣の義憤を代弁するかのように琴乃が吼えた瞬間。彼女達は一斉に引き金を引き――倒れ伏したままのメガヴァーデにとどめを刺そうと、BURKガンの銃口から熱光線を発射する。

 

「……味な真似をぉおッ!」

 

 だが、このまま容易く斃れるバルタン星人ではない。前が見えないままでも、自分が置かれている状況を「音」で理解していたメガヴァーデは、転倒している体勢のまま再びテレポート能力を発動させるのだった。

 

「しまった、またテレポートでッ……!」

「もう再使用出来るのかッ!?」

「奴はどこにッ……!?」

 

 視界を塞いでいたバスタオルだけを残して、忽然と姿を消してしまったバルタン星人。その瞬間を目の当たりにした琴乃達は、乳房と桃尻をぶるんぶるんと揺らしながら、焦燥の表情を浮かべて周囲を見渡している。だが、一向に彼の姿は見えない。

 

「はぁ、はぁ、はぁッ……! あ、あと少しで蜂の巣にされるところであった……! さすがはあのホピス星から生き延びた惑星調査隊、と言ったところかッ……!」

 

 そんな彼女達の生まれたままの裸身を、「頭上」から見下ろしているメガヴァーデ。彼は思わぬ反撃に息を荒げながらも、再び熱光弾を放とうと両手の鋏を構え直していた。

 

 土壇場で咄嗟に発動させたテレポートだったため、十数メートル程度の上空にしか上がれなかったが、彼女達の虚を突くだけならこの程度の高度で十分。今度こそ、確実に女達を抹殺してやる。その一心で充填されて行くメガヴァーデのエネルギーが、鋏の中心点に再び収束し始めていた。

 

(貴様らの言う通り、私は心のどこかで見くびっていたのかも知れんなッ……! だが今度こそ、本当に油断は無いッ! 逃げ場など与えん、この温泉もろとも木っ端微塵に消し飛ばしてくれるわッ!)

 

 己の慢心を恥じつつも、必殺の信念を以て地上の女湯に熱光弾を撃ち込もうとしているメガヴァーデ。その位置に気付いていない琴乃達は、今も取り逃がしたバルタン星人を探して周りを見渡している。

 今度こそ、彼の攻撃を止められる者はいない。最大火力まで引き上げられた熱光弾によって、琴乃達は女湯もろとも爆炎に飲み込まれてしまう。

 

 ――そうなる、はずであった。

 メガヴァーデの背に、大量の「実弾」が撃ち込まれるまでは。

 

「……うぐわぁぉぁあッ!?」

「なっ……!? 奴め、上に居たのかッ! 皆、奴は私達の頭上だッ!」

「逃しませんよぉおおっ!」

 

 予期せぬ方向から、予期せぬ火力の銃撃を受けたメガヴァーデの悲鳴が上がる。その声で頭上を取られていることに気付いた琴乃達は、上空に向けて即座にBURKガンを構え直していた。

 

(な……なんだこれは、私は何を食らったのだッ!? 地球人の携行火器に、これほどの威力があると言うのかッ……!?)

 

 地上から飛んで来る熱光線を必死にかわしながら、メガヴァーデは奇襲を受けた背後に視線を向ける。

 その先には――新型ポンプアクション式散弾銃「BURKショットガン」を構えている、荒島真己と木場司の姿があった。

 

 クーカが放った第1射の銃声を耳にしていた男達が、ようやくこの場に駆け付けて来たのだ。琴乃達の姿は湯煙で見えていないが、響いて来た銃声とバルタン星人の姿で、男達は即座に状況を察している。

 

「……どうやら、今回のバルタンは随分な女好きだったみてぇだな。こっちのことなんざ眼中に無えってか?」

「随分とうちの看板娘に夢中だったなァ?こっちに背中を向けるなんて、狙ってくれって言ってるようなものじゃねェか」

 

 大切な部下や仲間達を狙われたことに対する、静かな義憤に燃える弘原海と荒島。BURKガンとBURKショットガンで武装している男達は、腰にタオルを巻いた姿でその肉体美をこれでもかと強調している。

 

「エリーさんや皆に手を出そうとしたツケは……高く付くぞ、バルタンッ!」

「可能ならば生け取りに……と言う話だったが、この状況では『射殺』もやむを得んな?」

 

 同じく、仲間達の窮地に駆け付けて来た士道と木場も。上半身の盛り上がった筋肉を見せ付けながら、BURKガンとBURKショットガンの引き金に指を掛けていた。

 メガヴァーデが最も危惧していた、男女両方のチームの合流。その展開が、最悪なタイミングで訪れてしまったのである。

 

「し、しまった……! 女共に手こずるあまり、奴らの接近を見落としてしまうとはッ……! このメガヴァーデ、一生の不覚ッ!」

 

 先ほどテレポートを使ったばかりであり、再使用までの充填期間(クールタイム)が終わっていないメガヴァーデは、今すぐこの場から逃げ出すことが出来ない。絶体絶命の危機が、再び訪れていた。

 

BURK(うち)の奴らに手ェ出すなんざ...500億年速ェんだよ!ざァこ!」

 

 そんな彼を鋭い眼光で睨み上げる荒島は――仲間達を狙っていたバルタン星人に対し、親友(リーゼロッテ)の言葉を借りて、「死刑執行」を宣言した。

 

「うっ、ぐわあぁああーッ! ラ、ラスヴァーダ様ぁあぁあーッ!」

 

 ――そして、男女両方からの容赦ない一斉射撃によって。熱線と実弾の「的」にされてしまったメガヴァーデは「ド派手な花火」となり、敢えなく爆散してしまうのだった。

 

 なまじ上空に移動していたために、弘原海達も琴乃達も、同士討ちを恐れることなく挟み撃ちに出来るようになっていた。それが、彼にとっての最大の誤算だったのである。

 

 かくして、件のバルタン星人は完全に撃破され――湯煙が視界を覆い尽くす中、弘原海達は琴乃達の無事を確認するのだった。前がよく見えないまま、男達は守り抜いた女達に声を掛けて行く。

 

「駒門! お前らも無事か!?」

「ふうっ……助かりました、弘原海隊長! 我々だけでは上空から不意を突かれるところでした……!」

「おうっ、全員怪我もねぇようだし何より……!?」

 

 ――だが、琴乃達は失念していた。バスタオルを目眩しに使った自分達は今、本当に一糸纏わぬ全裸なのだということを。

 そして、弘原海達は甘く見ていた。さすがに琴乃達なら、この状況でもバスタオルくらいは巻いているだろうと。そんな風に思っていた時期が、彼らにもありました。

 

「……あ」

 

 次の瞬間、大自然の爽やかな涼風が吹き抜けて行き。双方の視野を塞いでいた湯煙を、ふわりと消し去ってしまう。

 

「……きゃああぁあぁあーっ!」

 

 その時に映った「絶景」は、どちらにとっても決して忘れられるものではなく――女傑達の黄色い悲鳴が青天を衝いたのは、それから間もなくのことであった。

 

 ◇

 

 ――ちなみに。

 女湯の脱衣所で、琴乃達の下着を握り締めたまま気絶していた宿主の男も、敢えなく逮捕となっていた。そして、BURKショットガンの使用手続きが間に合っていなかった荒島と木場は、帰還後間も無く始末書を書く羽目になったのだという。

 

「チクショーッ!!!BURKガンで充分だったじゃねェかよ!!!!」

「(...感情というのは恐ろしい...)」

 

 ◇


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