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――ホピス星での惑星調査任務から約4ヶ月後。地球全域で頻発し始めていた怪獣災害や異星人犯罪に対処するべく、惑星調査隊のメンバーをはじめとするBURKの精鋭達は、次代を担う新米達の教導に注力し始めていた。
その一環として、ホピス星の調査にも参加していたBURKセイバー隊の隊長・リーゼロッテは、アメリカ合衆国のカリフォルニア州に位置する航空基地に派遣されていた。
15歳という若さで、BURKセイバー隊の隊長にまで登り詰めた才媛。そんなトップエースの技術を、アメリカ支部のパイロット候補生達に伝授するための「教導任務」として。
それから、さらに1週間後。リーゼロッテが派遣されたカリフォルニア州の航空基地に、1台のジープが訪れていた。身分を確認するべく駆け寄って来た警備隊員は、そのジープに乗っている2人組の男女が羽織っていたジャケットを目にして、思わず息を呑む。
「あ、あなた方はもしやあの……!?」
「ははっ、驚かせちまって悪いな。手続き、進めて貰っていいか?」
「ハ、ハッ!」
赤と白を基調とするフライトジャケット。それはBURK随一のエリート部隊である、惑星調査隊のメンバー専用の物だったのだ。ハンドルを握る黒髪オールバックの男は気さくな佇まいで手続きを済ませると、開いた門から基地内へと車を進めて行く。
「アイツが教官……どうにも俺にはピンと来ねェぜ。教え子達相手に要らん虚勢を張って、トラブってる絵面しか浮かんで来ねェな」
晴天の空の下、ジープを運転している黒髪オールバックの男――
野獣のような獰猛さを兼ね備えた精悍な貌は、歴戦の勇士に相応しい風格を漂わせている。筋骨逞しい「雄」の肉体をフライトジャケットの下に隠し、彼は基地の様子を眺めながらリーゼロッテを探していた。
惑星調査隊随一の「問題児」と呼ばれることも多い彼だが、リーゼロッテの教導内容を案じている姿はさながら保護者ようであった。リーゼロッテとは兄妹、あるいは恋人のような間柄である荒島としては、彼女のことか心配だったのだろう。
「だから僕達がわざわざここまで様子を見に来たんだろう? 彼女の教導が上手く行かなかったら、惑星調査隊の名折れだからね」
一方。荒島の隣で頬杖をついている、紺色ショートヘアの怜悧な美女――
優雅な佇まいでサングラスを取り、金色の双眸で基地を見渡す彼女の美しさは、すれ違う隊員達の視線を大いに惹き付けている。蠱惑的で艶やかな桜色の唇に、男性隊員も女性隊員もゴクリと生唾を飲み込んでいた。
「中国支部の王子様」と呼ばれるほどの中性的な美貌を持ち、女性隊員達から絶大な人気を集めている彼女だが。フライトジャケットの下に隠された身体は男好きする――という言葉では足りないほどに、扇情的であった。
BURKセイバー隊の精鋭として鍛え抜かれ、細く引き締まっている腰に反して、その乳房と桃尻はあまりに豊満だったのである。荒島を相手に手続きをしていた警備隊員も、彼女の妖艶な肢体には釘付けになっていた。
隙間なく柔肌にぴっちりと密着している、赤いハイレグレオタード状の特殊戦闘服。その戦闘服によって強調される、凹凸の激しいボディライン。雄の獣欲を掻き立てるその曲線は、劉静という女の肉体を蠱惑的に描き出していた。
張りのある爆乳の形をくっきりと浮き上がらせ、身体のラインに張り付いているそのレオタードはかなり際どい「角度」であり、股間に深く食い込んだV字のラインは鼠蹊部の線まで露わにしている。むっちりとした白く肉感的な太腿も、雄の欲望を刺激する蠱惑的な匂いを漂わせていた。
Gカップの爆乳と安産型の巨尻はジープの揺れに応じてぶるんぶるんと弾み、その全身からは甘く芳醇なフェロモンが滲み出ている。レオタードの食い込みによって剥き出しにされた白い桃尻は妊娠・出産に適した淫らなラインを描いており、一際汗が溜まりやすい腋や鼠蹊部には、特に芳しい「雌」の匂いが染み込んでいた。
多くの男達に幾度となく狙われたその肉体はまだ、誰の物にもなっていない。妖艶さと凛々しさを兼ね備えた金色の双眸は、隣に座る「意中の男」をちらりと見詰めていた。
荒島真己という男に秘められている、ワイルドな「雄」の魅力。その色香に魅入られた劉静の内に眠る「雌」の本能が、下腹部を熱く疼かせている。その想いを悟られまいと、彼女は飄々とした佇まいで基地の方へと視線を移していた。
「調査隊の名折れ? よく言うぜ、お前はただ単に面白そうってのが9割だろうが」
「失礼だね。10割だよ」
リーゼロッテの教導任務が気掛かりだった2人は休暇を利用し、わざわざ東京からこの基地まで「様子見」に来ていたのだ。助手席に座り、スラリとした白い美脚を組んでいる劉静は、自分に見惚れているこの基地の隊員達に軽くウインクしている。
「お、おい見ろ! あの劉静隊員が、俺にウインクしたぞ! 俺だけにだ!」
「バカ、劉静様がウインクしたのはこの私よ! あんたみたいな新兵如きが相手にされるわけないでしょ!」
「なんだと!? お前も新兵だろうが!」
「なによ!? あんたよりは成績上でしょうが!」
その「サービス」に沸き立つ隊員達は男女問わず、自分だけにウインクしたのだと無益な争いを始めていた。劉静という女の身と心は、すでに隣に居る荒島真己のモノなのだということも知らずに。
「相変わらず色ボケが多いとこだな……よし劉、やっぱお前帰...あァっ!?」
すると、次の瞬間。宇宙戦闘機の高速飛行による「風切り音」を察知した荒島は、劉静と顔を見合わせてブレーキを踏む。
その音の発信源を追うように振り返った2人の視線の先には――こちらに迫って来る2機の戦闘機の機影があった。
1950年代のジェット戦闘機「F-86セイバー」。そのシルエットを彷彿させる、BURKの制式宇宙戦闘機「BURKセイバー」だ。どうやら、その2機の戦闘機は互いの背後を取り合う模擬戦を繰り広げているらしい。
「荒島隊員、あれは……!」
「アメリカ支部仕様のBURKセイバーか……!? だが、あの無謀極まりねェ挙動は……!」
2機のうち、追われている方――つまりより速く荒島達に近付いている方の機体は、非常に豪快な挙動で低空を飛行していた。
荒島達を乗せたジープの真上をギリギリで通り過ぎたその機体は、猛烈な勢いで急上昇している。よほど、背後を取っている「対戦相手」の機体に手こずっているのだろう。
そんな荒々しくも繊細な操縦をこなせるパイロットなど、そう多くは居ない。最初に飛んで来た機体は紛れもなく、惑星調査隊から教導官として派遣されていた、リーゼロッテ隊長の乗機であった。
「うぉっ……!? リーゼロッテの奴、なんて無茶苦茶な操縦してやがる! 新米共に何教えてやがんだよッ!」
「……いや、無茶苦茶なのは彼女だけじゃないようだ。むしろあっちの方が……!」
「何っ……どわァあっ!?」
その風圧に煽られた荒島は怒号を上げるが、すぐにそれどころではなくなってしまった。劉静が静かに呟き頭を下げた瞬間、2機目のBURKセイバーが再び荒島の頭上を駆け抜けて行ったのだ。
立て続けに猛風に煽られた荒島は、運転席から転げ落ちそうになっている。基地の管制塔から飛んでいる何らかの怒号も、風音で掻き消されていた。
「あ、あいつら無茶苦茶にも程がある! ……それにしても、リーゼロッテの操縦に付いて行けてるなんて、対戦相手のパイロットもかなりの
「……」
何とか体勢を立て直した荒島は呆れた様子で空を仰いでいるが、劉静は神妙な面持ちで2機のBURKセイバーを観察している。
青空を駆ける2機の戦闘機は、
(……なるほど、そういうことか)
それはつまり、惑星調査隊のエースであるリーゼロッテにも匹敵し得る実力を持った
「どうやら、教え子の方もなかなかのじゃじゃ馬のようだね。リーゼロッテ隊長と互角に渡り合えるほどの新米といえば……やはり『彼女』だろう」
「『彼女』、だァ……? 知ってんのか」
「BURKセイバーの製造元である、アメリカ合衆国の巨大軍事企業。そこのご令嬢にして、今期最強のホープと名高いアメリア・ゴールディン候補生さ」
現在の制式採用機であるBURKセイバーをはじめ、数多の航空兵器開発に携わって来た巨大軍事企業。その社長令嬢にして、今年から入隊して来た新米パイロットでもある未来の女傑――アメリア・ゴールディン。
彼女がリーゼロッテの「対戦相手」なのだと見抜いていた劉静は、鋭い表情で空戦の様子を観察している。背後を取られそうになっているリーゼロッテ機は、アメリア機の苛烈な追撃に追い詰められているようだ。
『くっ……! 実戦経験も無いざぁこのくせに、よくもこの私に一対一の模擬戦なんて挑む気になりましたねっ! 格の違いというものを存分に分からせてあげますから、覚悟しなさいっ!』
ジープに搭載された無線機から響いて来る、リーゼロッテの緊迫した声。その声色から彼女の「焦り」を悟った荒島と劉静は、剣呑な面持ちで視線を交わしている。
豪奢な金髪のツインテールが特徴の貧乳爆尻美少女は、かなりのピンチに陥っているようだ。劉静のものと同じ、惑星調査隊仕様の赤いレオタード型戦闘服を纏う彼女は、必死に操縦桿を握り締めている。
『それさっきからずっと言ってますけどぉ、一体なぁにを分からせるって言うんですかぁ〜? チビでまな板の教官殿ぉ〜?』
その一方、生意気な態度を隠そうともしないアメリア候補生の声は、普段のリーゼロッテを想起させる傲慢不遜そのものであった。実力こそ群を抜いているようだが、人格面ではかなりの問題がある人物のようだ。18歳の言動ではない。
艶やかな金髪をショートに切り揃えたKカップの爆乳美女は、無線機の向こう側から挑発的な声を上げている。アメリカ支部仕様の白いレオタード型戦闘服に身を包んでいる彼女は、好戦的な笑みを浮かべて操縦桿を押し倒していた。
『な、なんですってぇえ〜! 候補生の分際で何という無礼っ! 今すぐその減らず口、黙らせてあげますっ!』
『だったら早く私の機体を振り切ってくださいよホラホラ〜! このままこっちのロックオンが完了したら、もう勝負が終わっちゃうんですけどぉ〜?』
『こ、このぉお〜っ! ちょっとおっぱいと背が大きいからって調子に乗ってぇえ〜っ!』
『責任転嫁はやめてくださいよぉ、教官殿がチビ過ぎるのがいけないんじゃないですかぁ〜! その上そんな肉厚たっぷりのデカケツだから、どチビのくせに私より体重が重いんじゃないですかぁ〜?』
『む、むきぃいぃい〜っ!』
実力も経験も確かだが、高飛車でプライドが高いリーゼロッテ。並の教官では歯が立たないほどの才覚の持ち主であり、その実力や生い立ちもあって傲慢な振る舞いが絶えないアメリア。
高慢かつ好戦的なこの両者が、「教官」と「教え子」という立場で鉢合わせてしまったからには、どちらが上かを決める一対一の模擬戦に発展するのは必然だったのだろう。彼女達は「負けた方がプール掃除」という条件付きで、無益な決闘を始めていたのだ。
「なんか……似た者同士だな、アイツら」
「いわゆる『同族嫌悪』……って言うのかも知れないね、彼女達」
誰が言った言葉だろうか。「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない」。まさにその通りの光景を目の当たりにした荒島と劉静は、互いに顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべている。
だが、この模擬戦は今のところ、アメリア機の方が優勢になっている。リーゼロッテ機はなかなか彼女の追撃から逃げ切れず、ロックオンされるのも時間の問題となっている。
このままアメリア機に完全にロックオンされれば、リーゼロッテの敗北が確定となってしまう。そうなればもちろん、惑星調査隊の面子は丸潰れ。リーゼロッテの教導任務も、事実上の失敗となる。
「……けど、彼女の実力だけは確かだよ。少なくともパイロットとしての素養は、今年の候補生達の中でも群を抜いているんだ。実戦経験が無いのにあれほどの技量と度胸……ハッキリ言って、才能だけならリーゼロッテ隊長の上を行ってる」
「……ちッ。はァァ...」
安産型の白い巨尻をむっちりと強調している、赤いレオタード型の戦闘服。その強化繊維の隙間に細い指先を差し込み、桃尻の「食い込み」を直しながら、劉静は冷静沈着にアメリアの能力を分析している。そんな彼女に対し、荒島はもどかしい気持ちを拳に込めて震わせていた。
確かにアメリアは天才だ。言葉遣いこそ最悪だが、生まれ持った才能や家柄に胡座をかくことなく努力して来た事実は、彼女の乗機の動きが証明している。ただの七光りが、BURKセイバー同士の空中戦でリーゼロッテを圧倒出来るはずがないのだから。
だが、それはリーゼロッテも同じこと。彼女がどれほど厳しい訓練を己に課して来たか。名家の期待に応えるために、どれほど努力して来たか。それを知る荒島はジープに積まれた無線機に手を伸ばし、けたたましく吼える。彼女の本当の実力を、呼び覚ますために。
「……おい、リーゼロッテェッ!」
『えっ……あ、荒島さんっ!? どうしてここに……!』
「どうしたもこうしたもあるかッ! いつまでルーキーに花を持たせてやる気だ? お前にそんな謙虚な指導が似合うわけねェだろうが!」
『……!』
「名門の重みを背負って、その機体に乗ってる理由は何だ! その名に相応しいパイロットになるためなんだって、お前が自分で言ってたことだろうが! だったら思い上がってる新米に見せてやれよ、テメェの本気って奴をよォ!」
荒島が吠えた叫びに瞠目するリーゼロッテは、コクピットの機内で独り、操縦桿を握る手を震わせる。それは緊張でも恐れでもなく――武者震い。
誰よりも大切な人が、愛してやまない男が自分を見ている。激励してくれている。その喜びが、彼女の全身を熱く衝き上げていた。
『……ふんっ……言われなくたって、そろそろ身体が暖まって来たところなんですよっ! この私の本気、そこでよぉ〜く見ていなさいっ!』
「遅せェよ!...かましてやれ、リーゼロッテッ!」
レーシングバイクのシート状になっているコクピットに、甘い熱を帯びた下腹部と鼠蹊部を擦り付けながら――リーゼロッテは勇ましい笑顔を咲かせて、顔を上げる。前のめりになった瞬間、102cmの特大ヒップがどたぷんっと弾んでいた。
後方に突き出された安産型の爆尻に、赤いハイレグレオタードがえげつないほど食い込んで行く。その白く豊穣な桃尻が、深い食い込みによって「丸出し」になっていた。妊娠・出産に適した特大の巨尻は、彼女の幼なさに反して淫らな曲線を描いている。
操縦桿を握るリーゼロッテの白い手指から焦燥の強張りが消えて行き、乗機の挙動が本来の「冴え」を取り戻して行く。先ほどまでとはまるで違うリーゼロッテ機の動きに、背後から彼女を狙っていたアメリアは冷や汗をかいていた。
『誰に発破掛けられてたのかは知らないけど……操縦技術は私の方が遥かに上なんだから、勝てるわけがないわっ! パパの会社でBURKセイバーの性能限界を研究して来たこの私に、あんた如きがぁあっ!』
だが、彼女にもパイロットとしての意地がある。製造会社の令嬢としての矜持がある。BURKセイバーのことなら誰よりも知り尽くしている自分が、先任とはいえ歳下のパイロットに負けることなどあってはならない。
その「焦り」故に操縦桿を強く握り締め、アメリアは大きく前のめりになって行く。白のレオタードを内側から押し上げる100cm以上の爆乳がシートにむにゅりと押し付けられ、安産型の白い巨尻が後方にぶるんっと突き出されていた。
その豊かな尻肉に深く食い込み、柔肌にぴっちりと密着しているレオタード。その股間部分と鼠蹊部、そして両腋には、彼女の豊満な肉体から分泌された甘い汗がじっとりと染み込んでいる。アメリア機のBURKセイバーも最高速度に達し、縦横無尽に飛び回るリーゼロッテ機を必死に追い続けていた。
『ふんっ……確かにセイバーの操縦技術
『くっ!? ま、負けるかぁあっ!』
一気に加速したリーゼロッテ機が大きく宙返りを始める。そのまま後方に回り込み、アメリア機の背後を取ってロックオンするつもりなのだろう。そうはさせじとアメリア機も加速して行くが――それに伴う強烈なGが、パイロット達の全身に襲い掛かっていた。
『はぁあ……ぁああーっ!』
『くっ、そ……ぉおおおーっ!』
どちらの肉体にも凄まじい負荷が掛かり、全身の血液が逆流するような感覚に襲われる。互いに気力を振り絞り、魂を削り合う。その苛烈な粘り合いを制したのは――リーゼロッテ機だった。
『くっ……あ、あぁっ……!』
リーゼロッテの気力が尽きるよりも僅かに早く、アメリアが先に操縦桿を握る手を緩めてしまったのである。本当の死地を経験していない新米故の覚悟の甘さが、紙一重のところで勝敗を分けたのだ。
その一瞬の緩みを突き、リーゼロッテ機は華麗な宙返りでアメリア機の背後に回り込む。そのままロックオンを完了させた彼女は間一髪、この模擬戦に勝利するのだった。
『あっ……!』
『ゲームセット……! スジは認めてあげますけど、口の利き方はなってませんねぇ? ざぁこ、ざぁこっ!』
『く、くぅう〜っ……! くやじぃい〜っ!』
僅かな油断を突かれ、あっという間に背後を取られてしまったアメリアは、BURKセイバーの機内で悔しげにシートを叩いている。そんな彼女をいつもの調子で煽っているリーゼロッテだが、しとどに汗ばんだ柔肌から漂う濃厚な香りが、消耗の激しさを物語っていた。
何しろ、エリート集団の惑星調査隊に属している自分が、稀代の天才とはいえ候補生相手の模擬戦で負けそうになっていたのだ。万一あのまま負けていたら、末代までの恥を晒すところだったのである。表面上は高慢に笑っている彼女だが、その頬はかなり引き攣っていた。
そんなリーゼロッテの辛勝を見届けた荒島は緊張の糸が切れたのか、ジープの運転席にドカッと腰を落としている。彼の隣にゆっくりと腰を下ろした劉静も、白く肉感的な太腿を組み、ふっと笑みを溢していた。
「ふぅーっ……やれやれ、トラブルどころか危うく教え子に負けちまうところだったじゃねェか。ヒヤヒヤさせやがるぜ、全く」
「ふふっ、仕方ないさ。アメリア候補生の操縦技術はすでに、僕達にも引けを取らない域にまで達していたんだ。リーゼロッテでなければ、彼女の鼻っ柱を折ることは出来なかった。先達としての威厳を保てる実力を持った、立派な教官様じゃないか」
「ま……今回くらいは、そういうことにしておいてやるか。あの生意気そうな新米も、こうなっちまったからにはアイツのことを認めるしかないだろうしなァ」
劉静の言う通り、アメリアの才覚は目を見張るものがあった。各国支部のエースパイロットを集めて編成されたBURKセイバー隊。その中でもトップクラスの実力者であるリーゼロッテを、実戦経験も無いパイロット候補生があと一歩のところまで追い詰めたのだ。
スジが良い、などという言葉で片付けて良い次元ではない。まさしく、宇宙戦闘機に乗るために生まれて来た「天賦の才」と呼ぶべき逸材なのだ。世界各国の現役パイロット達が聞けば卒倒しかねない話だろう。
何より彼女は、才能や生まれのアドバンテージに慢心することなく、己自身の弛まぬ努力でその技術を磨き上げて来たのである。他の同期達では勝負にならないのも当然であった。生まれ持った才能だけで渡り合えるほど、リーゼロッテは甘い相手ではないのだから。
そして、そんな彼女だったからこそ、リーゼロッテも全力で彼女の挑戦を引き受けたのだろう。生い立ちに左右されることなく、ただ真っ直ぐに突き進むアメリアの姿に、己を重ねて共感していたのかも知れない。
今回の模擬戦を経験したアメリアはリーゼロッテの「覚悟」を学び、より精強なパイロットに成長して行くことだろう。いつの日か、世界を救う一助にもなれるかも知れない。
そんな未来をふと思い描いた荒島と劉静は、少々生意気だが頼もしい「後輩」が出来たのかも知れないと、微笑を向け合っていた。その時、荒島は何かを思い出したようにハッと顔を上げる。
「……そういやぁ、今回の模擬戦の
「管制塔から飛んでる怒号を見るに……どうやら2人とも、あの時に下限を下回っていたようだねぇ。と、言うことは……」
基地の管制塔から響いて来る、激しい怒号。傍受した無線からその叫びを耳にしていた劉静は、苦笑しながら肩をすくめていた。
実は2機のBURKセイバーが荒島達の頭上を通過した時、リーゼロッテもアメリアも、予め定められていた下限高度を下回っていたのである。つまりその瞬間から、2人はすでに「失格」となっていたのだ。
――そして、「負けた方はプール掃除」という取り決めに変更は無い。
「あんたがさっさと負けを認めないからぁあぁあ〜!」
「うるさいうるさいうるさ〜いっ!」
その後。管制塔から怒号を飛ばしていた基地司令官にこってりと絞られた2人は、揃ってプール掃除のペナルティを課されてしまうのだった。が、この2人が大人しく掃除などするはずもなく、彼女達は互いに涙目になりながら罵声を浴びせ合い、ホースの水を掛け合っている。
そんな2人の喧騒を耳にしながら、ジープに背中を預けて腕を組んでいる荒島は、劉静と共に掃除の終わりを待ち続けていた。
ペナルティが終わったら近くの街に繰り出して、
「……まーじで、新米共に何を教えてんだよアイツはァ……」
どうやら結局、最初の懸念通りの結果となってしまったらしい。くすくすと笑みを溢している劉静の隣で、ゲンナリとした表情を浮かべている荒島は、深いため息と共に黄昏の空を仰ぐのだった。
◇
――それからさらにしばらくの時間が経ち、ようやくプール掃除が終わった頃には。すでに日が沈み、辺りは暗くなり始めていた。
「あ〜っはっはっは! やあ〜っと終わったぁあっ!」
「これで自由だあぁあ〜っ! あはははっ!」
そして掃除を終えたリーゼロッテとアメリアは、大の字に寝転んで互いに大笑いしていた。一通り散々喧嘩して、喧嘩しながら掃除もして、一周回って仲良くなったのかも知れない。
互いの誇りを賭けたあの模擬戦は、技術面以上に得るものがあったのだろう。げらげらと屈託なく笑い合う彼女達の様子はまるで、小学生同士の青春のようであった。
「ったく……やァっと終わったか。ほんっと、ガキみたいな奴らだぜ」
「ふふっ。それ、君が言えたことかい?」
「うっせェ」
罵倒の叫びが徐々に笑い声に変わり、最後はそれ一色に染まって行く。そんな彼女達の様子を耳にしていた荒島と劉静は、ふっと口元を緩めて笑い合っていた。
やがてプールの方から、空腹を知らせる音がぎゅるぎゅると響き渡って来る。しかも、2人分だ。どうやら今夜のハンバーガー代は、リーゼロッテの分だけでは済みそうにないらしい――。
◇
「てめェら少しは遠慮しやがれッ!!!早々にダウンしたリーゼロッテはともかく、他の2人は食いすぎだろうが!」
「うるさいわねイエローモンキー!さっさと次のバーガー頼みなさいよ!えびフィレオとビッグマックね!」
「荒島くん。見てくれこのハンバーガー、バカみたいなチーズとパティの量だよ!持って帰ろう!...あ、サムライマックお願いしたい。ドリンクはどうしようかな」
「........うっぷ.....アメリアが大食漢なの忘れてました....」