荒島 真己のスキキライ   作:平均以下のクソザコ野郎

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フネデヨヅリ 2

「あー、それで……今 着てる その黒い染みみたいなのが付いた白スーツも異星人の着ぐるみだそうだけど、いったい何ていう異星人なんです?」

 

「んあ、これか?こりゃ『欠番12話星人』ってんだよ」

 

「欠番12話星人?随分と変わった名前だけど聞いた事も無いような……」

 

アタシが気持ちを切り替えるべく聞いた事に荒島さんが答え、また静様が疑念を口になされた。正直に言ってアタシも、そんな妙な名前の星の住人なんて思い当たらなかった。

 

 

「あー、やっぱ本来の呼び名じゃないマニア間の仇名じゃ わかんねぇか。いやな、実は欠番12話星人ってのは本来の呼び名じゃなくてある出来事から取った通称なんだ」

 

「ある出来事?」

 

「おう。コイツは数十年前に、地球人の女や子供に採血や血液結晶化の機能を備えた腕時計を配布して、地球人の血液を集めてたそうなんだが……」

 

「あっ来たっ、引いてるッ!」

 

荒島さんが説明を続けている最中、静様の釣り針に魚らしき物が掛かったようだった。

 

「えっ、曹!はやく静様にカメラあわせてッ!」

 

「やってる!」

 

アタシはカメラマン担当の曹へ即座に指示し、それへ彼女も短く返事してきた。今回の撮影任務内容的に竿へ針がかりさせた方を映しておかないと拙いばかりか、

静様のファンとして彼女が真っ先に魚を釣り上げる勇姿を披露するかもしれない状態でカメラが有るとなれば、それを映して記録しないワケには いかない筈。

 

「さ、竿を立てて、竿尻をお腹に当てて……うっ、ぐぐぅうッ!す、凄い引きだ……!んくぅ……リールは、一気に巻きすぎずに多少は泳がせて、魚を疲れさて抵抗できなくさせるんだっけ………んぐくぅあッ……!!」

 

ジ、静様……魚を釣り上げるだけで、そんな傍から見聞きしててムラムラしてきそうな表情と声を出されなくとも……いや、シミュレーターで練習したとは いえ実践で釣り上げるのは初めて且つ初めてで掛かったのが其れなりの大物かもしれないとあれば、緊張も相まって そうもなるかな………ん?

ふと、曹が回しているカメラのモニター部分が目に入ったので、それを覗き込む。

モニターには前のめりになった所為でズボンにピッタリ張り付いて形が露わになった、静様の90センチ代初頭の お尻のドアップが映し出されていた。

 

「ふぅー……ハァハァ……」

 

「お、おぉおー……」

 

カメラを操る当の曹は頬を紅潮させて鼻息を荒くしてたんだけど、静様の突き出された お尻のドアップをカメラに収めている真っ最中なのだろう。

 

うん、正にナイスアングルだ。カメラのモニター部分を覗き込みながらアタシも思わず感嘆の声をあげてしまった。うん、まあアレだな。静様よりも大きな お尻の美女に視線を奪われても、さっきみたいに荒島さんの お尻にまで魅力を感じそうになったとしても、なんかんだで やっぱ静様の お尻こそが一番いいと思うんだよなぁ……って、違わないけど其れでも違う違う!これは見てたいけど、監督役としては静様の お尻ばっかりじゃなくて彼女の顔や胴体も映して、魚を釣り上げる勇士を映させなければならない。

 

「ツァ、曹……気持ちは解るけど、静様の お尻ばっかりじゃなくて、顔や胴体ほぼ全体とかも映さないと……」

 

「へっ?あっ、ああ、うん……」

 

曹にしか聞こえない音量にした声でアタシが曹に言うと、彼女は我に返ったようにカメラのズームの度合いやアングルを調整した。さっきのでアタシや曹の声もカメラに着いたマイクに録音されてしまっただろうけど、後で編集の人がBGMに差し替えるなりして誤魔化すとかしてくれるだろう。

 

「あー一応、静様の お尻が大きめに入る程度をキープしとくから」

 

「ん?ああ、それは……是非ともやっといて」

 

曹が、アングルは引かせつつも静様の お尻自体は画面に入る程度をキープは すると言い出したので、アタシは是非とも其れをやるように言った。なんだかんだで突き出されてズボンが張り付いて形が出た静様の お尻は映しておきは したかったし。

 

「あー、荒島さん。念の為に そっちの大網も用意しといて!」

 

「任せとけ!」

 

アタシは、釣り上げられた魚が大物だった場合に掬い上げる用の網を用意しながら、

更に大物だった場合に二人以上で扱って掬う事を前提とした柄の無い大型網を用意するよう荒島さんへ言い、

それを聞いた荒島さんも自身の電動竿の釣り糸を一旦 上げて、竿を脇に置いて対象たる大型網を手に取った。

 

「んぐっ、み、見えてきたぞぉ……!」

 

「網の準備完了してますから……静様がんばってください!!」

 

針がかりした魚らしきモノが水面近くまで上がってきた御陰で、確かに其の姿が おぼろけながら見えてくるようなった。船の照明が効いているとは言っても灰汁までも夜間だという事も有って全貌までは解りにくいけど、目測で数十センチ・クラスは する其れなりの大物だという事がアタシからも確認できた。あれくらいならば荒島さんに預けた大型網を使わずとも、アタシが構えている柄つきの網で掬い上げられそうだ。

アタシがやる事は静様が釣った魚が船へ充分に寄せられ次第、それを網で掬い上げればいいだけなんだけど、せっかく静様が先に釣り上げ、しかも彼女の釣り実践デビューにおいて いきなり其れなりの大物という勇姿が披露されんとしているのを台無しにしてしまったとあっては、静様ファンとしての名折れ………そういう多少の緊張感を敢えて抱きながら、アタシは静様が釣った魚らしきモノを網で掬い上げた。

 

「よっ……取りました!」

 

「やった……!アンゴーラスじゃなさそうだけど大きいよ!」

 

アタシは網で掬い上げた魚らしきモノをスイムプラットフォーム__この船では、開放状態時に床と化す小型艇格納庫扉の裏面__上へ降ろしながら報告し、静様は初めての釣り実践で釣り上げたのが其れなりの大物だった事に喜び やや はしゃいでおられるようだった。アタシは単に掬い上げるだけとは いえ、静様の晴れ舞台と云えなくも無い事に貢献できつつ彼女が御喜びになられる様が見られて凄く嬉しい。

 

あっ、そうだ……!

アタシは、ふっと思い至ってカメラを回している筈の曹の方へ目をやったのだけど、彼女の表情が何か ゆるんでいた。それで我ながら或る事を察したアタシは曹の斜め後ろへ回り込んで、彼女が回しているビデオカメラのモニター部分を覗き込むと、いい笑顔な静様は映し出されていた……うん、ベストショット……と言いたい所だけど監督役としては、そのまま撮らせておくワケにも行かず、さらに静様の成果たる大物が映し出されないのも問題なので、曹には撮影対象を変えさせる事にした。

 

「おーい曹。静様の御尊顔だけじゃなく静様の成果物も撮って!初めてでの大物だったんだから」

 

「えっ、ああ、そっか」

 

BURKとしての撮影任務としてでは なく、あくまでも静様の成果を映すのだと強調する事で、次から曹が言われずとも自発的に釣り上げられた魚の方を撮ってくれるようにもしておくつもりでアタシは述べた。実際に、そういう風に言われたらアタシでも、そうすると思うし。

 

曹が静様の御尊顔から、静様が釣り上げた魚の方へカメラを向けるとモニター部分にも、

ほぼ全身を鱗に覆われた緑色の体、白目部分が赤くて瞳が黄色っぽいというイクラのような眼と、オニカマスのように鋭い歯、鼻先というよりは額と言える箇所に生えた太い緑色の一本ツノ、鰭なのか腹側に棘のように生えた左右三対の赤い突起、赤い爪のような物が付いてシーラカンスの比じゃない程に発達して殆ど手足として機能しそうな太長めな肉質鰭を持って、魚類というよりは両生類すら通り越して爬虫類なんじゃないかという印象を抱かせる魚……らしき水棲生物が跳ねている様が映し出された。

 

「えーっと、それで釣った人が抱え上げるんだっけ?」

 

「あっ、ああ、そうです。大きくて歯とかも鋭いから慎重に御願いします」

 

「よし、わかったよ」

 

静様からの簡単な質問にアタシは答え、それに静様が返事する。

今回の動画企画の着想元だという番組に少し倣って、釣り上げた人が釣った魚等を抱え上げて其れについて解説した後でリリースする事となっている。

静様は跳ね続ける魚っぽい物に近づいて其の口から釣り針を外すと、突起の少ない背中側を御自身の体側とするようにして其の魚っぽい物を両腕で お抱えになられた。静様との対比からの目測では、この魚っぽいのの体長は70センチ余りといったところか。あらためて静様は初めてにして充分な大物を釣り上げられたものだ……ますます惚れてしまいそうかな。

 

「んぅぐっ……おっと!さ、流石に重いなぁ……えーっと、そもそも、これ なんて生き物なんだっけ?そもそも魚なのかすらも……」

 

「えっ?……か、解説が……ツァ、曹……!」

 

「へっ?私も知らないけど……」

 

魚っぽいモノを抱えられた静様は、それが何なのかを知らないようで、

アタシも生き物について そこまで詳しいワケじゃないのに加えて こんなシーラカンスよりも肉質鰭が発達した爬虫類っぽい奇怪な魚については猶更 知る由も無くて、

カメラマン担当の曹も何なのか知らないようだった…………拙い……これだと静様が解説を行う事が出来なくて企画倒れに……しかも下手すれば静様の恥を晒す事にも……

 

「そりゃガラクアフィッシュじゃねェか?」

 

「えっ、なんだい それは?」

 

急に荒島さんが声を上げ、それへ静様が訝しむように聞いた。

 

「ああ、古生代デボン紀末期に生息していた肉食性古代魚で、数十年前に大内川上流の石灰岩の中から昏睡か自然の冷凍睡眠に陥った個体が発見されたんだよ。それが侵略者に強奪されてガランってのに改造されたそうなんだが……ガランの死滅をもって完全に絶滅したって言われてたのが、こんな所の海底にも生息してたなんてなぁ……」

 

「へ、へぇー……そう言われてみれば以前に資料で見たガランに少しだけ似てなくもないかな?にしても、荒島君が居てくれて良かったよ。僕達じゃ釣った魚の解説をしようにも、それが何なのかすら判らなかっただろうからね」

 

「ん……むぐぐ」

 

「う、ぬぐぅ……」

 

荒島さんの説明を聞いた静様は感心したように上機嫌となった。

アタシや曹が静様の御力になれなかった様を晒した直後に、荒島さんめが詳しく解説して静様へ更に好印象を与えた事に、アタシは苦々しい気持ちになって小さく呻き声をあげ、曹も同じ気持ちなのか静様と荒島さんには聞こえないような絶妙な音量調整による呻き声をあげていた。

更に、よく思い出してみると荒島さんが選抜されたのは、彼が__趣味の怪獣着ぐるみ制作のクオリティ向上目的とは いえ__生物学を収めているのを買われての事だったんだから、たとえ静様が釣り上げたとしても解説する時は荒島さんの土壇場となってしまう……!そういう現実をあらためて認識してアタシは更に苦々しい気分となった。

 

「っ……曹!今の箇所、荒島さんの声も入ってた!?」

 

「……うん、大丈夫。ちゃんと録音されてる筈。アングルは魚を抱えた静様に合わせてたけど、たぶん後で編集の人が上手く荒島さんの台詞だって解り易いように編集してくれると思う」

 

「ん、わかった」

 

苦々しさを紛らわすべく頭をBURK隊員としての撮影任務および現場の撮影監督役としての物に切り替えようとして、さっき荒島さんが説明していた時の声が ちゃんと撮れているのか聞くと、曹は其れに答える等した。アングル自体は静様それも肝心の魚を抱えておられる時の御姿に集中してるならば、せめてもの幸いとなるだろう。

 

「あっ、ちょっと待って。これ、アンゴーラス釣りどころじゃない大発見になるんじゃない!?しかも、それを釣り上げたのがあくまでも静様なのであれば……」

 

「!!……った、確かに!とりあえず暫く静様を追跡するように撮っといて!」

 

曹が言うように、例のガランとやらが斃されて絶滅したとされたガラクアフィッシュが未だ幾つか生息しているという事実はアンゴーラス釣りの比じゃない程の大発見なばかりか、釣り上げた静様にとって歴史的な功績となるのかもしれない。

曹に言われて察したアタシは彼女へ撮影についての指示を出すと、すぐに静様の隣に駆け寄った。

 

「静様、これは絶滅生物の生体を発見したっていう凄い偉業ですよ。とりあえず、このガラクアフィッシュってのをどうするのか決めませんと」

 

「あっ、そっか!一応は釣り上げた僕が第一発見者って事になるんだっけ……うーん、この企画の趣旨に則ればリリースすべきなんだけど、新発見した絶滅生物の生体を生け捕りにしたって事で連れ帰るべきか……」

 

アタシが静様へ説明とかをすると、普段は指揮官タイプとして充分に決断力に優れる静様も流石に此の自体には戸惑いもあって、どうすべきか決めかねておられるようだった。

 

「一時的に深海に潜ってただけって可能性もあっけど、もし そうじゃくて明確に深海魚だったなら単純な水槽やバケツ程度の水圧じゃ魚自体にダメージを与え続けて死なせちまうぞ。生体の映像を撮れたんなら、釣れた場所と放した場所とかを細かく記録して、趣旨通り放しとけばいい。この船にも水槽内の気圧を調整する機能までは備わってねーみてェだし」

 

「ふーむ、なるほど……それじゃあ、リリースしようか」

 

横から話してきた荒島さんの言によって静様はリリースする事に決めたようだった。

またも荒島さんに、静様への いいところを取られたみたいで複雑な心境だったけど、荒島さんの言う事も理に叶っているから、アタシは静様へ迎合するのも兼ねて其れに従う事にした。

 

「……ええ、それじゃ荒島さんは船員さん達に此処の正確な位置情報を記録するよう伝えてきてください。どうせ釣り上げてから大して時間が経って ないから釣り上げた位置から大して離れていませんし」

 

「了ォ解。へへ、いいモン見れたぜ」

 

アタシは荒島さんに少しくらいは此の場を離れてもらうのも兼ねて、船員さん達に位置情報の記録を頼みに行ってくるよう荒島さんへ述べた。

なまじ理に叶っているのが我ながら却って癪でもあった事もあって、顔が引き攣ってしまっていたようで、返事する荒島さんからは、少しだけ動揺の色が見えたが...すぐに笑みを浮かべて伝言を伝えに行った。。

 

「あー、おほん!それじゃ、完全絶滅した筈のガラクアフィッシュの生体を釣り上げて発見してしまったワケですが、本来の企画趣旨に則ると共にガラクアフィッシュが深海魚である場合の気圧差を考慮して、今回は生体の姿を映像に収めつつ釣り上げた場所の位置情報を記録するのみとして、これより海に放流とします」

 

静様は曹のカメラに向かってアドリブであろう台詞を語られた後、ガラクアフィッシュを海面へ ゆっくり降ろしていった。

 

「それじゃあね」

 

そして静様はガラクアフィッシュの体を海面へ完全に沈めると同時に手を離し、それと共にガラクアフィッシュは暗い夜の水底へと潜っていくようにして泳ぎ去っていった。

 

「ごめん。ちょっと息を整えさせてくれ。アンゴーラスの若魚を釣るくらいだった筈が、こんな大発見に繋がって気が昂ってしまいそうで……」

 

「あっ、ああ心中お察しします。飲み物でも御持ちしましょうか?」

 

「ああ、いや大丈夫だよ」

 

普段から冷静あるいは飄々としておられる静様も、この事態に置いて平静を保ち続けるのは骨が折れるようだった。アタシが彼女に落ち着く為の飲み物でも持ってこようかと聞くと、彼女は大丈夫だから不要だと答えた。

 

「おーい、船員に伝えてきたぞ」

 

「ああ、おかえり荒島君。さて君も戻った事だし、あらためてアンゴーラスの若魚の方を狙おうか」

 

「おう、そうだな。俺も少しは大物の一つでも釣らねェとな」

 

「ふふっ、君にも運が向くといいね」

 

「言ってろ」

 

荒島さんが戻ってくると同時に気持ちの切替ができたのか、静様は釣りの再開を口にした。にしても荒島さんめとの会話の流れ的に、距離感が近すぎる感がある静様の事だ。其のうち対戦ゲームじみてきて静様と荒島さんの親睦が更に深まってしまいかねない事態になってしまいそうだった。聞けば惑星調査隊の空戦隊長のヴァルトシュタイン女史ほどでは ないにせよ、静様と荒島さんめは対戦ゲーム等で既に何度か親睦を深めてしまっていると聞くし……。

 

さっきのガラクアフィッシュの件を静様の功績っぽくさせたのに成功しつつ荒島さんめを少しだけ遠ざけて我ながら浮かれていたのも束の間の事でしかないと、あらためて認識したアタシの心境と少しばかりの不安を他所に

静様と荒島さんは再び各々の電動釣り竿を手にしてリールを海へとキャスティングして、次の獲物が掛かってくるのを待った。

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