弱小本丸の喪女審神者   作:minamonhhs

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幕開け-1-

 

 彼氏いない歴=年齢の喪女審神者こと水野(仮名)、遂に新しい本丸に足を踏み入れました。

 

 

 

『幕開け』

 

 

 

 本丸が解体されたのは入院してからちょうど一週間目の日だった。武田さんと柊さん立会いの下、技術開発部や鑑識班など多くの人が集まったうえで慎重に行われた。空間ごと解体するので座標も前回とは変わるらしい。WEBで言うところの『移転』と同じだ。そして以前の本丸は完全に消滅したため戻ることは出来ない。

 新たな本丸で心機一転、頑張っていこう。そう気持ちを新たにしながら、武田さんに連れられ久方ぶりに本丸へと続くゲートを潜った。

 

「主ー!」

「あるじさーん!」

「あるじさまー!」

「主君ー!!」

 

 どうやら皆一足先に新しい本丸へと移動していたらしい。辿りついた途端刀たちが一斉に駆け付けてくる。

 

「お帰り主ー! すっごい心配したんだから!」

「あるじさんがいなくてボクすごく寂しかったよ。でも今日からはまた一緒だね!」

「まぁ、そのおかげで出陣も遠征もなく平和に過ごすことが出来ましたけどね」

「また戦の始まりですね……。ですが、あなたが無事でいたことは喜ばしい限りです」

「宗三くんったら素直じゃないんだから」

「はっはっはっ。大将、また本丸は一からやり直しだが、俺たちは強くなるからよ。ちゃんと頼ってくれよ?」

 

 加州や乱、宗三に江雪、燭台切に薬研も、何だかんだ言いつつ「おかえり」と言って笑ってくれる。そんな皆に改めて「ただいま」と返すと、皆の奥から二振りの刀が歩み出てきた。

 

「元気そうで何よりじゃ。おかえり、主」

「あなたが無事で本当によかった。おかえりなさい。主」

「むっちゃん、小夜くん」

 

 きっと武田さんの本丸でも皆を纏めてくれていたのだろう。頼りがいのある初期刀と初鍛刀に「ただいま」と返せば、陸奥守と小夜は互いに顔を見合わせた後何故か突撃してくる。

 

「え?! ちょ、なになになになに?!?!?!」

「今日は無礼講じゃー!!」

 

 私へと一直線に走ってきた小夜が勢いよく抱き着いてくる。私の方が少し身長が高いとはいえ、受け止めるのはギリギリだ。どうにか倒れずに済んだのは隣に立っていた武田さんと、その後ろに控えていた太郎太刀が背中を支えてくれたからだろう。

 ぎゅう、と抱きついてくる小夜を抱きかえしていると、陸奥守が背後に回ってくる。一体何をする気なのかと狼狽えていれば、驚くことに陸奥守は小夜ごと私を抱き上げた。

 

「でええええええええ?!?!?! ちょ、むっちゃ、ってぎゃああああ!!!!!」

「まっはっはっはっはっ!!! どうじゃ! 驚いたか!!!」

 

 そのままグルグルとその場で回る陸奥守に慌ててしがみつく。

 何だこれ?! どういうことなの?! と、軽い人間ティーカップに驚いていれば、今度は燭台切に「ほい」とパスされる。それに「え? え?」と困惑していると、何故か光忠は私の手を取り腰を抱き寄せると、ダンスをするようにクルクルと回りだした。

 

「いーっつも皆ばかりいい思いしてるんだから、偶にはいいよね? ね、主!」

「いや何が?! せめて説明してくんない?!?!」

 

 どういうことなの?! と何の説明もないままにテキトーなダンスに付き合わされたかと思うと、今度は鶴丸の前に立たされる。だが何故か珍しく神妙な顔つきで腕を組み、仁王立ちしていた。

 

「俺もなぁ、とっておきの驚きを用意してやろうと思ったんだ。だがきみは病み上がりだし、ずっと寝たきりで体が鈍ったことだろう?」

「は? え? 何? 何の話?」

 

 何度も回されたせいで未だに目を回してフラフラとしていると、鶴丸がギュッと私の手首を掴み、にやりと笑った。

 

「さあ! 俺と一緒に太陽に向かって走ろう!!」

「何で?!?!?!」

 

 何このテンション?! ついていけないんですけど?!

 突っ込む間もなく鶴丸に手を引かれ、皆に背を押され、遂には和泉守と歌仙に抱きかかえられるようにして新しい本丸の広間へと辿り着く。そこにいたのは初期本丸を支えてくれた五振り、前田、秋田、五虎退、堀川、鳴狐が待機しており、その手に握られていたクラッカーが勢いよく音を立てて花開いた。

 

「おかえりなさい! 主さん!」

「主君、新しい本丸へようこそ! です!」

「皆で主君をお迎えするために飾り付けました。お気に召していただけたでしょうか?」

「えへへ、横断幕には虎くんたちの足跡もついてるんですよ」「ガウ!」「ギャウ!」

「五虎退殿だけではありませんよ! お供であるわたくしめも、僭越ながら足跡を入れさせていただきました!」

「おかえり」

 

 飛び散る色とりどりの紙吹雪の向こう。飛び込んできたのは『おかえり、主』と書かれた横断幕と、色とりどりの色紙を使って装飾された大広間だった。あまりのことに驚き言葉を失っていると、普段は口を挟んでこないこんのすけがピョン、と足元に降り立ってきた。

 

「おかえりなさいませ、主様。主様がご帰還するということで、刀剣男士の皆さんと一緒に飾り立てました」

「俺達はずっと何もできなかったからな。せめてこのぐらいはしてやらねえと」

「君は普段宴に参加しないけど、今日ぐらいはいてくれないと。ね? 主」

 

 左右に立つ和泉守と歌仙に笑みを向けられ、ようやく事態が把握できて苦笑いする。

 

「あーもー! ビックリするじゃん! 皆サプライズ大好きかよこのやろー!!」

「あははは! 主君! やめてくださーい!」

「髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃいますー、えへへへ」

 

 驚きと、嬉しさと。色んな気持ちを込めて一番手前にいた秋田と五虎退の頭を撫でまわす。いつもはもっと優しくするんだけど、驚かされた仕返しだ。

 おりゃー! と柔らかな髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやれば、二振りは嬉しそうに笑みを浮かべた。それから足元にじゃれついてきた虎たちも撫でてやれば、背後からついてきた武田さんが驚いた声を上げる。

 

「うお! お前ら最近何かしてんな~。と思ってたら、こんなの作ってたのか」

「ああ、道理で鶴丸が『大きな布は万屋に売っているだろうか?』と聞いてきたんですね。合点がいきました」

「はっはっはっ! きみたちも驚いたか? 俺たちの力作だ!」

 

 どうやら皆、武田さんの本丸でお世話になっている間に着々と準備を進めていたらしい。掲げられた横断幕にはそれぞれ皆のコメントが寄せ書きのように書かれており、部屋を彩る折り紙は花や動物、星や舟なんかもあった。

 皆一生懸命用意してくれたんだな。と思うとじんわりとしたあたたかなものが胸に広がり、改めて皆に頭を下げた。

 

「皆、心配かけて本当にごめんなさい。それと、待っててくれてありがとう! すごく嬉しいです」

 

 ふと癖で陸奥守へと視線を向ければ、彼は穏やかな顔で頷いてくれた。その隣には小夜が立っており、普段あまり表情が動かない彼も少しだけ口元を緩めてくれる。

 ああ、皆の元に帰ってきたんだなぁ。としみじみと噛みしめていれば、特攻隊長の鶴丸が「さぁさぁ」と言って私を上座へと連れて行く。

 

「今日の主役はきみだ。存分に楽しんでくれたまえ」

「主は酒が苦手だからな。俺がとっておきの茶を用意したぞ」

「どれ、俺が注いでやろう。爺だと手元が危ないと不安か?」

 

 鶴丸に続き、鶯丸と三日月が傍に来る。そういえばこの二振りとも暫く話していなかった。どんな茶がいいか聞いてくる鶯丸の嬉々とした顔を見ていると何だかほっこりとした気持ちになって、殆ど無意識で彼の頭に手を伸ばしていた。

 

「フフッ、ありがと。鶯丸さん」

「ッ!? あ、主?」

「え。あ! ごめん! つい!」

 

 私は犬や猫もそうだが、鳥も飼ったことがない。だからよくは分からないが、鶯丸の髪はふわふわとしていて、実際の鴬もこんな触り心地なのかな。なんて感想を抱いた。

 が、そんな呑気なこと考えている場合ではない。撫でられた鶯丸は驚いたのだろう。珍しく目を見開き、動揺した声を出す。

 だから慌てて手を離せば、隣に座していた三日月を始めとし、間近で見ていた鶴丸、そしてその奥でそれぞれ用意を始めていた皆の視線が私に集まった。

 

「い……嫌だった、よね?」

 

 大の大人に、だ。燭台切の時もやらかしてしまったけど、流石に頭を撫でるのは無しだろう。短刀たちは見た目が子供っぽいからついつい撫でてしまうのだけど、彼らは千年も生きているのだ。こんな小娘に撫でられるなんて屈辱だろう。

 そう思って撫でた手を後ろに隠せば、何故か隣に座っていた三日月が頭を差し出してきた。

 

「主、こちらの爺の頭も空いているぞ」

「え?」

「そんなに爺の頭が撫でたいのか? 驚いたな。よし! 俺の頭も撫でさせてやろう! さあ来い!」

「いやだから何で?!」

 

 サッカー選手がヘディングをするかの如く頭を差し出してくる二振りに混乱が極まる。だが当然放っておく皆ではないため、鶴丸は燭台切が、三日月は歌仙が回収してくれた。

 

「はーい、おじいちゃんはこっちに来て手伝おうねぇ~」

「おい光坊。俺はいつから介護される立場になったんだ?」

「三日月おじいちゃんもだよ。主に作った料理を振舞う約束だっただろう?」

「おお、そうであったな。主よ、暫し待っていろ。俺の力作を持ってくるでな」

 

 笑いながら去っていく三日月と、燭台切に後ろ襟首を掴まれ引きずられていく鶴丸。それに苦笑いしていると、衝撃から回復したらしい。鶯丸が視線を合わせないまま軽く咳払いする。

 

「それで、きみはどの茶がいいんだ? 俺が淹れてやるから、選ぶといい」

「うーん……。ありがたいんですけど、私そんなにお茶のこと詳しくないんですよねぇ。折角だから鶯丸さんが好きなお茶を淹れてください」

 

 言われてみて気づいたが、私はいつも陸奥守や小夜、長谷部がお茶を運んできてくれるから普段どんなお茶を飲んでいるか知らない。

 鶯丸がお茶が好きなこと、歌仙が口に入れるものは厳選していることは知っているが、実際にどんなものを買っているかは知らないのだ。

 お酒が飲めないからお酒のことも詳しくないし、お茶も麦茶とかほうじ茶、玄米茶ぐらいしか飲まないので緑茶については詳しくない。ならばこの際だ。鶯丸が好きなお茶を飲んでみたい。そうすれば彼の好みも分かるし、今度から話のネタに使えるかもしれない。そう思っての発言だったが、何故か鶯丸は固まった。

 

「……きみは、それでいいのか?」

「え? はい。だって私鶯丸さんの好きなもの“お茶”としか知りませんし。でもそのお茶だって詳しくないですから、この機会に教えてもらおうかな。と思って」

 

 それにお茶好きの彼が選ぶのだ。きっととても美味しいのだろう。そう根拠なく信じているため、私は何の疑いもなく言い切った。

 

「飲んでみたいんです。鶯丸さんの好きなお茶。それに今日知ることが出来たら、今度から一緒に楽しめるでしょう?」

 

 相手から見えないことは重々承知の上だけど、それでも笑って言えば彼も気づいたのだろう。フイッ、と顔を背けると、軽く咳払いしてから頷いた。

 

「んんッ、分かった。俺が好きなものを淹れてこよう。少し待っていてくれ」

「はい。ありがとうございます」

 

 立ち上がり、台所へと消えていく鶯丸さんの背中からヒラヒラと桜が舞い降りる。誉桜と同じく、それは彼らの感情が高ぶった時に見られる現象だった。

 きっと今まで興味を示さなかったお茶について学ぼうとしたから喜んでくれたのだろう。もっと早くにこうしてればよかったなー。と傍に仕えていたこんのすけに話しかければ、何故か「主様は本当に鈍いのですね……」と呟かれた。

 ん? 何故だ? どういう意味なんだろう。と首を傾けている間にも皆が料理を食卓に並べていく。

 

 新しい本丸についての説明は事前に柊さんから聞いていたので、武田さんは「また後日顔を出しに来る」と言って太郎太刀と一緒に帰っていった。「せめて乾杯だけでも一緒にどうですか?」と誘ったのだが「水を差すのは悪いからな。遠慮する」と笑われてしまった。

 気にしなくていいのになぁ。と思う反面、皆で気兼ねなく宴会をしたいという気持ちも確かにある。今回はそのお言葉に甘え、後日お礼に伺うことにした。

 

「それじゃあ主の復帰を祝って、かんぱーい!!」

「かんぱーい!!」

 

 酒を嗜む刀は酒を、私や短刀たちはお茶かジュースを、それぞれ持って手を高く掲げる。鶯丸が淹れてくれたお茶は『玉露』と呼ばれるもので、名前を聞いたことはあっても飲んだことはなかった。

 だから少し緊張したのだが、想像していたような渋みはなく、まろやかな甘さが口内に広がりちょっと驚いてしまった。

 流石鶯丸の選んだお茶である。ガブガブと飲むのではなく、一口一口を味わうようにして飲めば更に美味しい。お茶があたたかいことは勿論だけど、この優しい甘みと香りにほっと癒されていると、鶯丸も穏やかに表情を緩めた。

 

「どうだ? 美味いだろう」

「はい。とっても。何かこう……ふわふわして、あったかくて。優しい味がします」

 

 飲んでいて落ち着くってこういうことを言うのかなぁ。ともう一口含めば、鶯丸も湯飲みを傾けた。

 

「きみとこうして茶を飲むのは初めてだな」

「そうですね。ずっと奥に引きこもってましたから」

「だが今度は一緒に茶を飲んでくれるのだろう?」

 

 穏やかな瞳が私を映す。今後暫くはまだ忙しいだろうけど、お茶の時間ぐらいはゆっくり取ってもいいかもしれない。皆と仲良く過ごすと決めたんだから、もう奥に引っ込む必要もないしね。

 

「はい。今度は私が好きなお菓子とか用意しますね」

「そうか。それは楽しみだ」

 

 ふんわりと笑ってくれる顔が珍しくてじっと見つめていれば、鶯丸が何か言う前に三日月が近づいてきた。

 

「主よ、この巻き寿司は俺が作ったんだ。力作だぞ」

「え、何これすごい!!」

 

 三日月が皿に載せて持ってきたのは、私が知る普通の巻き寿司ではなかった。

 普通は海苔で巻くところを薄く焼いた卵で巻き、中にはどんな具材を使ったのか。満開に花びらを咲かせた桜の木が描かれていた。

 

「歌仙に教わってな。“絵巻き寿司”と呼ぶそうだ。雅であろう?」

「うわー! うわー!! すごいすごい! 三日月さんが作ったんですか?!」

「はっはっはっ、そうだぞ。この爺が丹精込めて作ったのだ」

 

 ニコニコと笑う三日月の皿を鶯丸も覗く。そして彼も「見事だな」と賛辞を口にすると、歌仙が近づいてきた。

 

「どうだい、主。たまにはこういうのも風情があっていいだろう?」

「歌仙さん本当にすごいね! 私こんなの初めて見たよ~。二振り共ありがとう!」

 

 本丸内の飾りつけもそうだが、私が帰ってくるだけなのにこんなにも豪華なおもてなしを用意してくれたのが嬉しい。普段皆に苦労ばかりさせているのに、本当に皆素敵な神様だ。

 感動と感謝を露にすると、得意げな歌仙が「それだけじゃないよ」と人差し指を立てる。

 

「驚くのは見た目だけじゃないのさ」

「味にも自信があるからな。どれ、爺が食わせてやろう」

 

 ほれ、と箸で巻き寿司を掴み、食べさせようとする三日月にぎょっとする。私が手を怪我しているなら分からなくもないが、どこも悪くないのだ。幼子でもあるまいし、どう断ろうか。と頭を悩ませていると、どこからともなく『ピピーッ!』と笛の音が鳴り響いた。

 

「はーい、本丸警察でーす。主へのセクハラはやめてくださーい」

「三日月宗近、そういうのは手が使えない時にするんですよ?」

「加州、宗三」

 

 胸元に笛をぶら下げ、近づいてきたのは加州と宗三だ。しかも何故かその身には『本丸警察』と書かれたタスキが掛けられている。

 一体何事かと眺めていれば、隣に座った加州にグイッ、と抱き寄せられ、宗三は三日月から皿を奪った。

 

「これ、何をする」

「三日月さんたちばっかりズルいって言ってんの。俺だって主と一緒にいたいんだから。ね! 主」

「僕は別にどうだっていいんですけど、“本丸警察”に選ばれてしまいましたから。お仕事ですよ、お仕事」

 

 どうやら私がいない間に本丸内の秩序を守る『本丸警察』というのが彼らの中で出来上がったらしい。面白いことを考えるものである。

 因みにこれは交代制らしく、今日は加州と宗三が担当らしかった。

 

「せくはらとは人聞きの悪い。“こみにけえしょん”という奴ではないか」

「それを言うなら“コミュニケーション”です。さ、主。ご自分のペースでどうぞ」

「はは、ありがとう」

 

 残念そうな三日月ではあるが、流石に私も食べさせてもらうのは恥ずかしい。綺麗どころに囲まれながらの食事はちょっとドギマギするが、今更だ。

 宗三から皿と箸を受け取ると、歌仙と三日月が丹精込めて作ってくれた巻き寿司に噛り付いた。

 

「ん! んいひい!」

「こら、主。喋るならちゃんと飲み込んでからにしなさい」

 

 相変わらずのお叱りを歌仙から受けつつ、しっかりと噛んで飲み込んでから再度感想を伝える。

 

「これめっちゃくちゃ美味しいね! え、すごい。何だこれ。ちょっと甘めだけど、上品だから後に引かない! 美味しい!」

 

 基本的に寿司系は好きだ。巻き寿司も握り寿司もいなり寿司も、全部好きだ。でも普段口にするものより遥かに美味しい。やっぱり神様が作るからだろうか?

 あっという間に一切れ食べ終わり、二切れ目を口にしたところで三日月がニコニコと微笑む。

 

「主が喜んでくれて何よりだ。爺も嬉しいぞ」

「そうだね。これだけ喜んでくれたんだ。作った甲斐もあるっていうものさ。さ、他にも沢山あるからね。幾つか取ってきてあげよう」

「ありがとうございます!」

 

 美味しい美味しい。と何度も口にしながら食べるものだから、皆も気になったのだろう。宗三の細い指が一切れそれを掴むと、ひょいと存外男らしい動作でそれを口に入れた。

 

「ん、おいひいでふね」

「ちょ、宗三! 一人だけずるいんだけど! ねえ主、俺も食べていい?」

「では俺も一切れ頂こうかな」

「はい。どうぞどうぞ」

 

 加州だけでなく鶯丸の手も伸びてくる。二振りも気に入ったのだろう。次々に「美味しい」と口にしながら皆で食べれば、あっという間に皿は空になった。

 

「ほら主、取ってきたよ。って、君たちねぇ……」

「だってー、主が美味しそうに食べるからつられちゃったんだよね」

「不可抗力ですよ、不可抗力」

「え!? 人のせいにすんの? ずるくない?」

 

 その後も『本丸警察』の二振りが騒ぐ面々を時に叱り、時に諫めながら、私は次々と話しかけてくれる皆と色んな話をしながら宴会を楽しんだ。

 本丸で生活を始めて約半年。ずっと宴会に参加しなかったからこんな風に皆と話したり食事をするのは初めてだった。

 それが楽しくて、嬉しくて。私は皆に会えて本当によかった。と改めて思った。

 

 だから、余計に伝えることが出来なかったのだ。私の痣が、この数日で再び色を変えていたことを。

 

 

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