転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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オーバーロード十周年記念の特別ブックカバーが付いた書籍が欲しくていっそ全部買い替えようと出掛けたものの何処行っても何故か1、13、14巻だけ置いてなかったので泣く泣く断念…。
見るたびso-binさんのイラストは最高だな!って思いながら眺めてます。

そんなこんなでもう10話です。


バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その4

 

 アレーティアによる帝国四騎士選抜遠征から二週間が経過していた。

初めは暴走を見せたアレーティアだったが、一日経つと落ち着きを取り戻し当初の内容通りの訓練が実施されていた。

 

 

「バジウッドさんは〈斬撃〉をもう十分使いこなせていると思うので次の一歩を踏み出しましょうか。」

 

「えー、粛清騎士サマ。〈斬撃〉の上っていうと何ですかい?〈空斬〉とか〈斬刃〉ならもう少し経験を積めば使えるようになると思うんですけどねぇ。」

 

「それはそれでいいんですけど見栄えに欠けるというか…そうですね〈能力向上〉も使えることですし〈斬撃〉が一番使い慣れているように見えたので、それに近い武技を身につけて貰えたら嬉しいですね。例えば…武技〈雷光〉」

 

 バジウッドのために見本として放たれた武技〈雷光〉。アレーティアが跳躍し的となった木に〈斬撃〉と同じ構えで剣を振り下ろす。その一撃は雷を纏い轟音を立て木を黒焦げにしやがて崩れ落ちた。あまりの威力にバジウッドは目を見開いた。こんな武技は知らないし、見たこともない。

 

「これが〈雷光〉です。動きは〈斬撃〉に近いのでコツを掴めば習得は比較簡単だと思います。ああ、いきなりこの武技をマスターしろだなんて無茶なことは言いませんよ?」

 

「…なんていうか、あの…なんだ?ホント規格外なんだなアンタ。」

 

 改めてこの粛清騎士という人物を知るバジウッド。ギガントバジリスクを圧倒し、イジャニーヤの襲撃を物ともせず返り討ちにしたフールーダを超える逸脱者。これほどの実力があるならあのアンデッドの大群を滅ぼしたという話が嘘ではないと頷ける。今自分はそんな人物から武技を教えこまれていると思うと込み上げてくるものがある。…決して胃の痛みから来る吐き気とかそういうものではない。

 実際、教え方は丁寧で的確な指導をしている…とバジウッドは思う。騎士になって訓練を積む中でがむしゃらに剣を振って力をつけてきた身ではあるがこうして指導を受けるとスッと身に入る何かがあった。この〈雷光〉も俺になら出来ると踏んで見せつけたんだろう。

 

「それは誉め言葉と受け取っていいんですかね?まあ私は各々にあった武技を薦めているに過ぎませんから。それを己の糧と出来るかは当人次第です。…いざとなれば死ぬ目に遭えば嫌でも身につくでしょうし。

 

「なんか最後物騒なこと言わなかったか!?」

 

「空耳です空耳。次はトーマスさんかナザミさん、ルミリアさんのところに行きますね。後、大切なのはイメージです。斬撃から〈雷撃(ライトニング)〉を撃つ、自分は魔法詠唱者(マジック・キャスター)になったと思い込むと上手くいくかもしれませんよ?」

 

 そう言い残し他の騎士の指導へ向かう粛清騎士(アレーティア)。シレッと魔法詠唱者(マジック・キャスター)になれとか言っていたがそんなこと想像もしたことがなかった。魔法詠唱者になった自分を想像する…がとても似合わない姿を想像して思わず吹き出す。こんなガタイの良い魔法詠唱者がいるものかと。とはいえイメージは大切、大剣に雷を纏わせ振り下ろす想像をしながらバジウッドは素振りを開始した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ナザミさんは盾の扱いが上手いですね。あの時もそうですけど最前線であれだけ身を挺して他人を守れるのは誇らしいことです。ただ、守ることに重きを置きすぎて攻めることが多少なりともおざなりになっているように思えます。」

 

「面目ない…。かつて見た盾を巧みに操り見事な攻防を繰り広げていたあの戦士のように…と思い盾を武具として扱っていましたがまだ技量が足りないようで。」

 

「いや、憧れを追うのはいいことだと思いますよ?あとはどうそこに追いつくかが問題だと思うので。確か〈重要塞〉が使えましたよね?であれば是非とも〈不動〉を身につけてほしいですね。これを併用できれば何者にも揺るがない鉄壁に成り得ると思いますよ。」

 

「それだと結局守りに重きを置いてしまうのに変わりないのでは?」

 

「いいえ、()()()()()()()()()()()()()()()。〈不動〉はあらゆる攻撃を受けてなお痛みを感じず動ける武技です。ここに〈盾突撃〉〈流水加速〉〈重要塞〉といった武技を併発させれば…」

 

「なるほど、守りながら攻めるとはそういう事か。」

 

「うまく使いこなせれば攻防どちらもこなせる万能性を身につけられます。ただ、〈不動〉を身につけるにはある程度痛みに慣れつつ攻撃を受ける、という経験が必要だと思うんです。」

 

 この発言にナザミは首をかしげる。

 

「粛清殿はそうやって身につけたのではないのですか?」

 

「いえいえ、私の場合は当時相手にした魔獣相手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()ので参考にならないと思うんですよね。なので、ナザミさんより少し強い相手とマンツーマンで訓練してもらいます。…出てきなさい"愚か者"。」

 

 粛清騎士の相変わらずの規格外さに驚いていると、森の中からさらに驚くべきモンスターが現れた。見た目はトロールのようだが冒険者や騎士が知るトロールより体格が優れており、闘技場に顔を見せ始めた剣闘士ゴ・ギンを彷彿とさせた。

 

「紹介します。トブの大森林の東を支配していたウォー・トロールの"愚か者"です。()()の攻撃を受けきれるようになれば〈不動〉を身につけるキッカケになるやもしれません。」

 

「待て!俺の名前はそんな臆病者の名前じゃあ…」

 

黙れ"愚か者"。あの時散々叩き込んであげたでしょう?()、という言葉は人の間では"愚か者"という意味なのです。大人しく私の言いつけを守れば生きて帰してあげますから協力しなさい。いいですね?"愚か者()"?」

 

「ぐ、ぐうううううううううう……ッ!!!!」

 

 ウォー・トロールらしい"愚か者"と粛清騎士の間には明確な力関係が生まれているらしい。一体どんなことをして従わせたのか気になるが気にしたら最後だと思っている。そんなことより今は我が身。ギガントバジリスクを確実に上回るこの強大なモンスターと一対一で訓練をしなければならない事実に絶望しか感じない。しかし、こういった場面もあるだろう。自分より相手がどんなに強大でも陛下がお逃げできる時間も稼げず何が騎士かと自分を奮い立たせる。

 

「じゃあ頑張ってくださいね。一応殺さないように言い聞かせていますけど万が一があるといけません。目の届く範囲には居るので安心してください。」

 

「…了解しました。期待に応えられるよう努めます…!!」

 

 盾を構える。受けるはあのウォー・トロールの拳。あの巨体から繰り出される一撃はどれほどのものか。〈重要塞〉とは違う受けながら動くというイメージを基にナザミは"愚か者"に立ち向かった。

 一撃は重く耐え切れず何度も何度も吹き飛ばされる。その度痺れる体を震わせ立ち上がった。"愚か者()"はその姿を見て身の程知らずだと嘲笑う。あの()()には敵わずとも、やはり俺は強いのだと。こんな木っ端が如きチビとは比べるまでもない強さが俺にはあるのだと自信を取り戻す。

 しかしナザミは少なくとも自身が相手より弱いと知りながら、それでも立ち上がり何度も何度もその身を粉々にしかねない攻撃を受け続けていた。その度ポーションをビンごと砕きそれを浴びる。自らより格上の敵に諦めず何度も立ち上がる姿はまるで″勇者″のようであった。

 

「もっとだ…もっと来い"愚か者()"。俺はこんなものではまだ倒れんぞ…!」

 

 この後、しばらくしてナザミ・エネックは〈不動〉を身につけウォー・トロールの一撃をも退ることに成功した。

 本編では〈不動〉の二つ名で知られた彼だが、この世界で彼の二つ名は──

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 それから更に()()()()()()()()

 当初の一ヵ月という予定を大幅に超え遠征という名の粛清騎士の地獄訓練は続いていた。

ナザミが〈不動〉を身につけたあたりからまたアレーティアの暴走が始まってしまい"愚か者"相手に何人かで組み立ち向かったり…森の中での警戒訓練と称したアレーティアの『隙を見せたら即終了!森の暗殺者!』という多くの騎士に暗殺者の恐怖を刻み込んだ訓練。極めつけは"愚か者"の配下であるオークやトロールとの本気の戦闘。訓練ではなく戦闘だ。

オークはまだ斬れば倒せるがトロールは強力な再生能力を持っており苦戦していたものの新たに〈炎刃〉という武技を身につけたトーマス・アルトランド、〈雷光〉を身につけたバジウッド・ペシュメルがトロールを倒し、残ったオークやゴブリンを残りの騎士…奥義〈連続斬撃〉を披露したルミリア・リイル・アーチゾルテが筆頭に倒し騎士たちの戦い…もとい、訓練は終わりを告げた。

 

 余談だが戦闘が終わった後、アレーティアの不意を突いて"愚か者"が奇襲を仕掛けたものの、何のダメージも与えられず反撃のスキルで頭部以外を消し飛ばされたという出来事があったことをここに書き残しておく。

 

 

 

帝都アーウィンタール 皇城

 

この場には怒れるバハルス帝国皇帝ジルクニフと正座をして申し訳なく小さくなっている粛清騎士(アレーティア)、そして遠征終わりの疲れ果てて今にも倒れそうな騎士たちがいた。

 

 

「…で?言いたいことはそれだけか?」

 

「で、出来心だったんです!現地行ってちょうどいいモンスターがいるし有効活用しないと勿体ないって思ったんです!それに訓練内容考えていた時より色々思いついたんでやってみようって…」

 

「それで半月も遠征を無断で延ばしたのか!?私に伺いも立てずに!!」

 

「も、申し訳ありませんでしたあああああああ!!!」

 

 帝国皇城にて、遠征帰りの騎士たちの前でジルクニフに本気で怒られている粛清騎士を見て、ようやく帝都に帰ってこれたと倒れるように崩れ落ちた騎士たちには目の前の光景がどう映っているのだろうか。

 少なくとももし次回があれば今回参加したメンバーで抑えを作るか、自分たちで指導しなければいけないなと力なく笑いあった。

 

 

 

 





書いてるうちにナザミがカッコよくなりすぎてる気がするし強化しすぎた気もしますがきっと気のせいです。

次回からはアレーティア視点に戻る予定です。


そういえば通算UAがもう10万超えていました。投稿始めた時には考えられないぐらい読まれてて嬉しい限りです。これからも頑張って書いていきますので是非とも応援よろしくお願いします。

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