転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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お待たせしました、番外編です。

今回かなり独自設定が強めでガバガバなところもあるので人を選ぶと思います。

それなりにシリアスなので、それらが苦手な方は本編更新をお待ちください。
























【番外編】もしもアレーティアが番外席次として生まれていたら

 

 ああ、今日も朝が来てしまった。

 

 私がこの世界に生まれてからはや数年。私は眠りから覚めて朝を迎えることがこの世で一番嫌なことになっている。

 

「起きたのね。じゃあ支度しなさい、今日はもっと厳しくしてあげる」

 

 ああ、コイツ、コイツのせいで私は朝を迎えることが、明日を迎えることが心底嫌になっている。

 コイツとは誰か?世間体に言うなら私を産んだ女。蔑称で呼ぶならクソババアだ。

 クソババアはファーインと言いこの国の、スレイン法国の漆黒聖典最強の英雄らしい。しかし、エルフの王に騙されて捕まり、犯され、私を孕み産んだとか。

 この話を人伝に聞いて、あ、オーバーロードにこの話あったなと前世の記憶が蘇ったのを思い出した。

 つまりだ、私はオーバーロードの世界でスレイン法国の番外席次として生まれた様だ。私の記憶では番外席次の名前はまだ判明していなかったが『アレーティア』というのが私の名前らしい。……まあこの名前を呼んでくれる人間なんて、この世の何処にもいやしないが。

 

 朝食はそこそこに、家の使用人らしきお婆さんが用意してくれる料理は……きっと美味しいんだろう。ただ、私はここ数年味覚というものを感じていない。極度のストレスのせいだろうか、ここしばらくの食事は味わうという食事の行程を一つ省いたただの栄養補給と化していた。

 言うなれば車にガソリンを補給する様な。はははっ、私は人ですらなく自動車か?笑えるけど笑えないな。

 

 

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 朝食を終えればすぐ訓練。ただ、私はこの訓練をただの虐待だと思っている。

 

「何を這いつくばってるの?立ちなさい、立て、寝るな」

 

 棍で叩き伏せられた私の白髪を掴み強引に立ち上がらせ──そのまま棍による突きが鳩尾に入り息が出来なくなる。そうでなくともクソババアの容赦ない追撃が、まだ幼い私の身体を痛めつける。

 

「ぐ、ぐうぅぁぁ……」

 

「〈中傷治療(ミドル・キュアウーンズ)〉ほら、傷は癒えたでしょ?早く立ちなさい」

 

 身体の傷は癒えても心までは癒やされない。魔法って思ったより役に立たないんだな。疲弊して擦切った心まで癒してくれれば……いや、そんなこと思っても無駄か。

 今日も日が暮れるまで痛めつけられて、置き去りにされ続きは明日と告げられる絶望の日々。どうして私は生きているのか。

 過去一度殺されたことがあるが蘇生されたこともある。どうしてあの時私は蘇生を拒否しなかったのだろう。こんなにも生きることは苦しいのに。

 

 ……ただ、そんな私にも好きなことが一つある。私はこの満天の星空を眺めることが好きだ。原作でアインズ様が言っていたキラキラと輝く宝石箱の様な星空が唯一、私の心を癒してくれていた。この国の人間が私の存在を認めない中で、唯一私を星が見守ってくれている気がした。

 そんな夜空に流れ星が見えた。前世では流れ星が消えるまでに願い事を三度唱えればその願い事が叶う、なんて迷信もあったっけ……。

 

「……誰よりも強くなれれば、あのクソババアから解放されるのかな?」

 

 ふと思ったことが声に出ていた。正直もう限界だ。まだ十二歳の私には──前世も入れればもっと上だが──とても耐えきれない。クソババアは勿論、周りの神官も神官長も使用人も誰も彼もが敵だ。誰も助けてくれない。

 人間至上主義の国で人間ではない私にはきっと人権なんてない。それでも、私が自由に生きるためには力が必要だ。何者にも縛られない圧倒的な、それこそ超越者の力が。

 

「流れ星よ、もしも私の願いが叶うなら私を強く……誰よりも強く、あの超越者(オーバーロード)の様に強くなりたい。私が自由に生きるために……!」

 

 叶うはずのない、もしくは遥か先の未来で得るであろう力を知りながら私は星に願った。

 その願いは──

 

 

 

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 あれから五年の月日が流れた。相変わらずクソババアとの訓練は続いている。

 

 五年前と何が変わったかといえば……クソババアとの力関係だろう。今の私は成長しレベルアップし、クソババアと少しは渡り合えるぐらいには強くなっていた。

 それでも足りない。およそ十七年、このクソババアは訓練と言い私を虐げてきた。

 この十七年、誕生日も祝われず、碌な言葉も交わさず、ただただ憎しみだけを受けてきた。その憎しみはエルフ王と私に向けられているが、私は生まれてきただけで何も悪くない。ただの八つ当たりをずっと受けてきた。いつか、絶対にやり返してやろうと心に決めながら私は耐え忍び生きている。

 

 

 

 そんな中、珍しく訓練ではなくとある神官の元に連れて行かれ何らかの魔法を受けた。取り分け私に害は無いようだから無視したが一体何の魔法だったのだろうか。

 

 

 

 それから数日して、珍しくクソババアが私を相手せず何処かに行ってしまった。本当に珍しい、よって今日は何年か振りの休日だ。とはいえ休日だからといって私には親しい友人もいなければ通っているお店があるわけでもない。出来ることといえば身体を休めることぐらい……いや、まだあるな。探索だ。

 基本的に私はこの訓練所と自室を行き来するだけの生活。それ故にこの国のことを何も知らない。原作でも謎が多かったし、折角何もないのだから気晴らしに探索でもしてみようと思う。

 とりあえず守衛やら聖典なんかにバレると面倒なので()()()()()()()()()()()()()()()()()は発動しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この日、もしも私が探索をしなければ、私の未来はきっとここで閉ざされていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は聞いてしまった、あのクソババアとクソ神官共の会話を。

 

「アレの生まれながらの異能(タレント)は“望んだ願いを叶える”というものだったわ」

 

「なんと……その様な異能は聞いたことが」

 

「ええ、私も驚いたわ。ここ数年で驚くほど成長してる……私を何度か打ち負かすぐらいに、ね」

 

「そ、それでどうなさるつもりで?その様な力があるならば人のために使って欲しいものだが」

 

「そう、そこよ。アレを魔法と生まれながらの異能を使うだけのアイテムにしてしまおうと思うの」

 

「な……まさか叡者の額冠を使い巫女姫にするおつもりか!?」

 

「そうよ。神人として生まれて、人のためにその身を捧げ罪を償う……そうしてアレはようやく許されるの。下手にこれ以上力をつけられても厄介だしね……協力してくださる?」

 

 

 

 私は底無しの悪意というものをこの時初めて知った。前世でもこんな残酷な目に遭いそうになったことはない。

 叡者の額冠……原作でクレマンティーヌが法国から盗み出した秘宝の一つ。適応者は百万人に一人しかいないが、適応すれば自我は失われ高位魔法を使うだけのアイテムとしてしまう、ユグドラシルでは作ることの出来ないこの世界独自の技術で作られた悪魔の様な非人道的なアイテムだ。

 無理に外せば発狂し、最後は漆黒聖典による介錯でその一生を終える……だったか。それを私に使う…か……。

 それに私の生まれながらの異能についても正直驚きを隠せない。私の願いを叶える、なんてものは聞いたこともない。さながら超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉の様な能力だ。

 

 恐らく、近いうちにクソババアは私を巫女姫にするために策を講じるだろう。だが、そんなもので終わってたまるか。私は未だこの世界を知らない。今が原作から何年前でいつナザリックが転移してくるかすらも不明だ。それなのに、こんなところで終わってたまるか───!!

 

 

「生まれながらの異能よ、もしも私の願いを叶えることが本当に出来るのなら──」

 

 

 私は私に出来ることから始めよう。まずは自分を理解することから。

 

 

 

 

 

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 それから一月ほど経ったある日、遂にその日が来た。

 

「来なさい。役目を果たす時が来たわ」

 

 捉え方によっては何かしらの仕事を割り当てられるとも取れるが、そうではないことを私は知っている。遂に来たのだ、私が道具になる日が。

 ただ私もこの一月ただ無為に過ごしていたわけではない。ここからが正念場だ。

 

 

 クソババアに連れられて案内されたのは洗礼室と呼ばれた場所だった。その名の通り身を清めるための水場があり、今着ている衣服を入れるための籠がある。

 

「これから行うことの前に、まずはその汚れた身を清める必要があるわ。全部脱いで身体の汚れを払ったらこっちの服に着替えなさい」

 

「分かりました」

 

 とりあえずは従うしかない。今はまだ耐える時だ。さて、服を脱ぎ全裸になって水場へ……冷たっ!?冬場の水道の水並みに冷たい!こんなの浴びたら風邪引くって!

 気合いと根性で沐浴を済ませ着替えようとすると用意されていたのは……何?このスケスケの衣装?防寒もクソもないんだけど?さっきまで着ていた服は……もうないな、洗濯に出されたか必要ないものとして処分されたか。これを着るしかないんだろうけど、ある意味裸より恥ずかしいかもしれない。着てるのに全部見えちゃってるし。

 

「着替えたわね。じゃあこっちよ、グズグズしないでさっさと来なさい」

 

 このクソババア他人事と思いやがって!だがまだだ……まだ耐えるんだ。

 そうして連れてこられたのは……なるほど、ここが巫女姫の部屋か。今の私と同じような格好をした少女を初めとした年代がバラバラの巫女姫が五人が鎮座している。そして、これから私はここに仲間入りすることになるはずだった。

 

 

「感謝なさい、罪人の種から生まれた忌むべき子には勿体ないぐらいの待遇よ」

 

「……どういうことですか?私はこれから何をするんですか?」

 

「お前に名誉な仕事を任せることになったの。巫女姫として人のためにその身を捧げる尊い仕事よ。まずはこの額冠を被りなさい。そうすれば巫女姫としての仕事ができるようになるから」

 

 これ何も知らなかったらそのまま額冠を着けてBAD ENDだ。でもそうはならないように私は能力を使ってきた。

 

 

「でもあの人たち動きもしないし話もしないしなんだか不気味なんですけど……」

 

「ええそうよ、彼女たちはその身全てを捧げて法国に尽くしてくれているのだから。だから……お前もそうなさい」

 

「い、嫌です!あんな……あんな風になりたくない!なってたまるか!!ぐぅっ!?」

 

 後ろに回り込まれ動けないよう地面に押さえつけられる。……この場面だけ見たらどこぞのエロシーンみたいだと他人事のように考えた。

 なんでこんなに余裕があるかと言えば、これも全部この生まれながらの異能のお陰だ。この能力のお陰で私は安全だと確信を持って言える。

 

「馬鹿ね、丸腰で私に勝てるとでも?神官長、やって頂戴」

 

「うむ、では……」

 

「うぐっ!や、やめろ……やめろおおおおおおおおお!!!」

 

 そうして私の頭に叡者の額冠が被せられ私の意識は消滅──しなかった。

 

 

 

 

「これで終わりね。清々したわ」

 

「彼女の生まれもこれで許されたでしょう。後はその異能ごと世のため人のため活用させてもらおう」

 

 

 

 

「……誰が許されたって?」

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

 ネタバラシもクソもないが、あの叡者の額冠の意識消失から免れたのは勿論私の能力のお陰だ。この一月近く、私はこの願いを叶える異能についてずっと調べていた。

 願いを叶える条件、回数、聞き届けられる願いの範囲、レベル──生命力の消失など多岐に渡り調べた。

 まあ、調べたといっても毎日意識してこの能力を使ってみただけだけど。その甲斐あってか多くの恩恵を受けたことは間違いない。その一つの願いが『私が装備するマジックアイテムのデメリット効果を無効化して欲しい』というものだ。これはこの叡者の額冠を着けられるのを前提に真っ先に願った。その結果は見ての通り。見事生まれながらの異能は私の願いを聞き届けていた。

 さて、ここからは演技の時間だ。

 

「ふふふ、このマジックアイテムで私をあんな風にしようとしたんだろうけど上手くいかなかったみたいだね?代わりに……こんなことが出来るようになったよ。〈魔力上昇・爆発(オーバーマジック・エクスプロード)〉」

 

 私の目の前で爆発が起こる。今の私はこんな魔力上昇なんて使わなくともこの程度の魔法なら容易に使えるが敢えてこうしている。

 この爆発に巻き込まれたクソババアと神官長はそれなりに離れた場所にいたため多少傷を負った程度で済んだようだが──巫女姫はそうはいかない。

 

「みんな死んでしまいましたね。しかし、これで彼女たちも解放されたことでしょう」

 

「な、なんということだ……巫女姫が!」

 

「まさかこんなことになるなんて……よくもやってくれたわね……!!」

 

「私はああなることを拒絶したし、それでも無理矢理これを着けたのはあんたたちじゃん。私は悪くない」

 

 あ、クソババアのこめかみに血管が浮き出てる。相当キレてるわ。まあ、こっちはもっと怒ってるんだけど。

 

「……もう一度殺して身の程分らせてやるわ」

 

「やれるものなら……やってみろよクソババア!!」

 

 槍と拳が激突する。本来ならば槍は拳を貫き私の胸を穿つだろう……が、そうはいかない。

 

I wish(私は願う)!我が身に力を!」

 

「なっ!?槍が刺さらな……!」

 

 能力を使用。簡素な願いを口にしたが能力は私の思考を読み取り、望んだ形で願いを叶えてくれた。私が望んだのはクソババアを上回る支援効果(バフ)。これにより強化された身体は槍をも弾くほどの強度を得た。

 

「歯ぁ食いしばれクソババア!!」

 

 私の振り抜いた拳がクソババアの顔に迫り──ギリギリ片腕で防がれてしまったが──そのまま殴り飛ばした。飛ばされた先の壁をも破壊しクソババアの姿は見えなくなった。しかし、それでも生きている。すぐさま行動に移さないといくら強化されていても他の聖典が集まってきて不利な状況を作り上げてしまう。

 まあ、今の私の前に聖典が何人集まろうと敵じゃないんだが。

 

 とりあえず次の行動を起こす。ある意味ここが一番重要だ。

 

「あ、ああ……ファーイン殿があんなにあっさり……!く、来るな化け物!!誰かー!!誰かおらんのカバァッ?!」

 

「うっさいな……聞きたいことがあるんだが答えてもらってもいい?」

 

「があぁぁぁ……お、お前などに答えることなどない……!」

 

「……まあ、それでもいいか。確か三回質問したら死ぬんだっけな……それまでに欲しい情報は吐かせられるといいな」

 

「な、なにを!?」

 

「じゃあ永遠にさようなら神官長。支配(ドミネート)

 

 

 

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 神官長から欲しい情報を聞き出し、今私は宝物庫にいる。あの六大神の秘宝が揃っているというあの宝物庫にだ。中にはユグドラシルで作られたアイテムが数多く眠っていた。

 ほぼ真っ裸もいいところだった私の服を探しに宝物庫に着た……というのは建前で法国の秘宝を奪ってやろう、という考えでここまで来た。原作が崩壊する、なんて心配は一切しない。私という異物が既にいるのだからどう転んだところで原作通りにはならない。ならば私もこの世界で悔いなく、自由に生きたい。

 

 

 ──その為には力が要る。

 

 

 私の異能は世界屈指だろうが、見ての通り今持っているものはこの叡者の額冠とスケスケの衣装だけ。これだけでこの世界を生き抜けるとでも?無理だ。

 なので、生きる為に必要なものはこの国から拝借する。虐げられていた可哀そうな私のために使われるなら六大神もきっと本望に違いない。

 宝物庫を護る守衛はどうしたかって?私の足元で全員永遠に寝てるよ。

 

 

 あ、あれは、あのチャイナドレスは……!

 

 

 

 

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「随分と遠くまで飛ばしてくれたわね……!」

 

「思ったより遅いお帰りだね、クソババア」

 

 宝物庫で装備を一通り揃えてその場を後にしようとしてみればクソババアがようやくご帰還。思ったよりダメージも入っていたっぽい。

 

「そ、それは六大神の……!」

 

「あ、気づいた?いいでしょうこの白いドレス。将来育った私にも相応しいものだと──」

 

「この背信者がァッ!!そのマジックアイテムは六大神が人のためにと残された秘宝!それを人でもないお前なんかが身につけていいわけないだろうがぁ!!」

 

「残念だけど、これはもう私のもの。取り返したかったら……私を殺してごらん?」

 

 第二ラウンド(先ほどは二撃で終わったが)開始だ。先ほどと違うのは今の私は宝物庫から奪った装備で更なるパワーアップをしたこと。

 最早クソババアなど相手にもならない。

 

「武技〈五月雨〉」

 

「おっと……これは流石に再現されなかったかな?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僅かながら私の身体に傷が出来る……が些細なことだ。すぐに治せる。

 

「ではこちらも反撃〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

「温い!〈魔法盾(マジックシールド)〉」

 

 放たれた火球が魔法の盾で防がれるが、所詮小手調べ。本気を出せば一撃だしね。

 

「じゃあこれはどう?〈魔力上昇・不死の軍勢(オーバーマジック・アンデス・アーミー)〉」

 

 あのエ・ランテルでの悪夢をここに再現。神の国に顕現する死の軍勢、その数は千を超える。

 制御するつもりなど最初から無い。ただただクソババアとこの国への嫌がらせだ。

 

「こ、これは……なんて恐ろしい魔法を!」

 

「これも全員あんた達がくれたこのアイテムのお陰。自分たちで与えたアイテムでこんなことになるなんて、墓穴を掘るってこういうことを言うんじゃない?」

 

 ここでまた演技……というか嘘情報ですね。叡者の額冠は確かに高位の魔法を使える様にするアイテムだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 しかし、あえてこの叡者の額冠のお陰、という嘘情報を与えることで一種の希望を与える。そう、この叡者の額冠さえどうにかすれば高位の魔法が使えなくなる、と思わせることが重要です。それに、漆黒聖典であるクソババアは巫女姫を最期始末する仕事をしているので、額冠を無理に外した時に発狂するということを知っているはず。そうなれば、ほぼ無抵抗になった私を殺せると思い込ませ一つの希望を残してあげています。

 

 

 

 

 

 ──まあ、そんな希望なんてあるわけないんだが。

 

 

 

 

 

「〈聖なる光線(ホーリーレイ)〉武技〈五月雨〉〈一閃〉」

 

「〈中位アンデッド創造〉出でよデス・ナイト」

 

 流石漆黒聖典だけあり呼び出したアンデッドなぞ相手にならず次々に倒されていく。デス・ナイトも呆気なく散った。しかしそれでもこの額冠だけを死守する振りをする。

 

「デス・ナイトすら呆気なく……!」

 

「頭数だけ増やしやがって……けどこれで終わりよ!〈能力向上〉〈能力超向上〉〈聖なる加護〉」

 

「マズイ……防御を」

 

「遅い!〈神槍〉」

 

 その一撃は過去一番速く、手に持った大鎌でギリギリ狙われていた心臓部を逸らしたがその手には額冠が握られていた。

 そう、クソババアの狙いは私を仕留めることではなくあくまで額冠だったのだ。

 

 

「手こずったけど……これで終わり」

 

 

「あ、あああ……キエアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 ──計画通り。

 

 

 

 

 

 

「これを外せば発狂する。背信者に相応しい末路ね」

 

 そう言いクソババアは勝ち誇った。

 

 

 しかし私は発狂することなんてなく──

 

 

「な、なんで!?どうやって発狂を防いで…!!」

 

 

 普通に、笑顔で近づいて──

 

 

「なっ!?何が起き……う、腕が、腕があああああ!!」

 

 

 額冠を持つ手を大鎌で斬り落とし──

 

 

「ファーイン様!ここにおられましたか!!な、そ、その腕は!?」

 

「あれは六大神の秘宝!?何故アレが身につけている?!」

 

「お、お前たち!この場を離れ──」

 

 クソババアの背後に集まった聖典数十人目がけ魔法を放った──

 

 

 

「〈獄炎(ヘルフレイム)〉」

 

 

 

 放たれた黒炎はクソババアを素通りしそれ以外の悉くを焼き尽くした。絶叫は一瞬、その絶叫すら肉体が瞬時に燃え尽きたことにより消え失せていった。

 

 唖然とするクソババア。今でも何が起こったか理解していないだろう。

 

 

「バカだなぁ。本当にバカ。額冠による人格消失が起きていないのに、外した時に起こる発狂が起こるとでも思った?」

 

「な……にが……」

 

「残念でした、私はそれがなくても最初から……一月も前から第十位階まで魔法が使える。あんたが額冠さえなければ私が魔法を使えなくなると勘違いしてくれたお陰で邪魔なものはまとめて始末できた」

 

「どうしてこうなったかといえば……人間が強欲だったから……かな?私の生まれながらの異能を知り、それを利用しようとしたところまではいい。ただ、巫女姫にして道具として使うなんてバカなことを考えなきゃ少なくともこんな状況には……多分ならなかったんじゃない?」

 

「私の……せい?」

 

「そうだね。もしもがあれば……少しでも私に愛を注いでいれば、少しは変わったんじゃないかな?もう遅いけど」

 

 呆然としたクソババアに向き直り斬り落とした腕から額冠を奪い、そして──

 

 

「……お前はなんだ?何者なんだ……?」

 

 

 

 

 

 

超越者(オーバーロード)だよ、お母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 その頭に額冠を被せた。

 

 

 

 

 

 どうやらクソババア──ファーインにも巫女姫としての素質はあったらしい。流石は神人……とでも言おうか。今は呆然と額冠を着けて立っている。もしダメなら能力で無理矢理にでも装備させるつもりだったが手間が省けた。

 このまま放置するのも一興だが変に使われても後で困る。

 なので、ここはナザリックの教義に従おうと思う。一応私を産んでくれたという恩はあるからせめて最期は安らかに。

 

 

 

 

 ──ナザリックにおいて、死はこれ以上の苦痛を与えられないという意味で慈悲である。

 

 

 

 

「〈真なる死(トゥルー・デス)〉」

 

 

 こうして私は今世の母に別れを告げた。

 

 

 

 

 ●

 

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 さて、これからどうしようか。

 

 巫女姫は全員死に、額冠も全て破壊してきた。その上、宝物庫からはこの大鎌や鎧、そしてこの世界級(ワールド)アイテムであるケイ・セケ・コゥク……もとい傾城傾国を貰ってきた。

 最早スレイン法国はしばらくは何も出来ないであろう。国力は果てしなく低下しているし仮に再び聖典と鉢合わせても見過ごされるだろう。

 

 今の私に勝てる敵はほとんどいない……と思いたいがきっとそうではない。この世界には真なる竜王という始原の魔法を操る竜王たちがまだいる。如何に私が強くなろうと勝てる確証はない。

 

 だがそれは別としてこの世界を見て回りたい気持ちはある。原作前とはいえ、にわかだった私がそれなりに愛したオーバーロードの世界だ。楽しまなければ損だ。

 

 

「そうなるとまずは資金が必要……かな?宝物庫にはそう言った金目のアイテムはなかったからなぁ……失敗、失敗」

 

 そう口ずさみながら私の声は弾んでいた。

 もう私を縛る鎖はどこにもない。自由気ままに世界を旅して……そうしていつか、原作の日までこの世を謳歌しようと心に決めた。

 

 

 

 





アレーティア──レベル七十五。
このルートでは〈天賦の才〉を獲得しておらず、冒頭の願い……超越者=モモンガの職業レベルやスキルを得ている。超位魔法は未修得。レベルが上がれば習得していく。種族レベルはそもそも人間種なので無理。
タレントを早い段階で理解しているため本編より扱い慣れている。そのお陰で本編より強力なスキルを持っている可能性あり。
六大神由来の装備を身につけられるだけ奪ってきている。まさかの傾城傾国すら奪ってきた。本編合流まで百年ほど時間があるので更に強くなれるだけの余地がある。

このルートはこの後存在に気づいた竜王が次々喧嘩売ってきてガチの殺し合いをすることになるスーパーハードモードになるかもしれない。


スレイン法国──このルートだと甚大な被害を受けすぎて滅びはしないけれど国力の回復が絶望的になっている。
まさに傾城傾国。その内暴動とか起きるかも?


ファーイン──本来の番外席次の母親。かなり独自要素強め。教育方針は本編デケムとは違い愛さないし、殺すし、ひたすら痛めつける。
憎しみのあまり、独断に動きまくった結果法国にとんでもない被害を出すことになってしまった愚かな女。最期は彼女にとって救いになったかどうか。


神官長──〈支配〉で宝物庫の場所を吐かされて死んだ。


巫女姫たち──全滅。


スルシャーナの従者──アレーティアの生まれながらの異能でこの事態に干渉出来ないようにされていた。


デケム・ホウガン──全ての元凶。頭エルフ。当作本編で殺されなかったのは、まだアレーティアが若く弱かったのと、歪ながらも愛されて育てられたから。





番外編初めて書きましたがいかがでしょうか?
帝国ルートとは違ったIFの話ですが正直ここまで長くなるとは思わず時間がかかってしまいました。
二分割にするべきだったかな……次への教訓とします。

次回は帝国ルートに戻ります。今年中に投稿できたらいいな……。


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