転生したらオバロ世界のエルフだった件について 作:ざいざる嬢
アレーティアと戦争前夜 〜待遇を良くすれば部下は成果を出してくれるって誰かが言ってた〜
「うーん……」
「どうした、そんな難しい顔して。明日はいよいよ開戦だというのに何を悩んでいる?」
「いや、鎧が全損してしまったので新しい鎧はどんなデザインにしようかなって……」
「そうか、聞いた俺が馬鹿だった」
「流石に辛辣すぎませんか!?」
月日が経つのは早いものです。いよいよ王国との戦争が明日になりました。既にトーマス、ルミリア、ナザミと騎士団の内二軍はカッツェ平野へ向かっており準備を進めています。
そんな中私は何をしているかといえば、装備の考案です。
ザイトルクワエとの戦いで竜騎士風全身鎧が使い物にならなくなってしまったので、今は以前使っていたバイザーを着用し四騎士にも支給している私が作ったルーンを刻んだ鎧を着ています。
とはいえ、所詮は量産品なので今まで着ていた全身鎧より性能が落ちるのが残念なところ。
そしてもう一つ、私の
この願いにより判明した私のスキルの一つ〈
このスキル、知れば知るほど奥が深く検証に時間がかかります。あらゆる職業に成ることが出来るというメリットがありますが、職業は山のようにありそれを全て理解して最適な職業選択をする……なんていうのは時間がいくらあっても足りません。それに日に使える回数も一応限られていますし。
ただ、ある程度この職業は欲しいと思いながらスキルを発動すればその職業に合った最適な職業選択をしてくれるのでそこはありがたいところでした。いずれは全て自分で選べればいいんですけどね。
今の私はザイトルクワエ戦での反省を生かし戦士としても
「今回の戦争には間に合わなさそうなので諦めるしかありませんね」
「本来ならお前の身に合った装備を用意するべきなんだが、そうなると難しいな。例の魔樹の素材は使えないのか?」
「使えるんですけど、扱いが難しいんですよ。一応アダマンタイトなんかよりずっと硬くて魔力もありますし。ただ、それに見合う他の素材が見つからないんですよね」
そう、ザイトルクワエからは──半分は〈大厄災〉で消し飛ばしたとはいえ──大量の木材や牙、種子などを入手出来ました。
早速、これらを使って色々作ろう……としたまでは良かったんですが、流石はユグドラシルの高レベルモンスターだけあって現地の素材ではザイトルクワエの素材に遥かに劣ってしまい調整が上手くいきません。ルーンで強化すれば……とも思いましたが結果は芳しくなく断念。
軽く非常に丈夫なのでこれを防具に使いたかったのですが断念。
またアゼルリシア山脈に鉱石掘り掘りしに行かないといけません。
ただ、この前行った時にいつもより採れず脳裏に″この辺りにはもう無い″という言葉が浮かんだのでもしかしたら掘り尽くしてしまった可能性が……。ドワーフの皆さんやクアゴア達に申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたけど、言わなければ誰も不幸にならないので黙秘することにしました。
余談ですが試しにこの木材で机や椅子などの家具を作ってみたところ、大変出来が良いものが出来上がりジルクニフが大層気に入ったのでプレゼントしました。私の屋敷にも幾つか作って置いてあります。
「木なんで鎧などには向いてませんし、作るのであれば木の盾や杖、もしくはああいう家具なんかが最適ですね。牙は削りだせばそこらの剣より上の物は出来そうですけど」
グルメバトル漫画の八体いる王の内一体の牙みたいに。一先ずは魔法詠唱者編成の時に使える杖を作ることを目指しましょうかね。目標はマーレが持っていたシャドウ・オブ・ユグドラシルですね。アレは
「仕方ないので防具は戦争が終わり次第アゼルリシア山脈に行ってフロスト・ドラゴンの鱗を貰って作るとします」
フロスト・オブ・アゼルリシアや竜騎士鎧を作るのにあのドラゴンの死体の鱗は全て使い切ってしまったので、また貰う必要があります。鉱石掘りに行くついでにオラサーダルクたちから貰うとしましょう。代わりに金鉱石でも幾らか置いていけば快く譲ってくれるはずです。
後は骨はまだ残っているので加工して鉱石と合わせれば前と同じ程度かそれより強い鎧が作れるはずです。
「そんな気軽にフロスト・ドラゴンから鱗を貰うなんて言えるのはお前ぐらいだろうな……まあ、その辺りはお前に任せよう。それとあの種についてはどうするつもりだ?」
「種ですね、沢山あるんで色々実験したいんですけど、私以外であの眷属に勝てるのがフールーダさんぐらいなんですよね」
「ああ、万が一の抑えがいないのか。それも対応するのは戦争後になりそうだな」
そうそう、種も数で言えば百近くあります。ただ取り扱いに気をつけないとあらぬ被害が出る可能性があります。今は発芽しないように防護の魔法をかけていますが、土に触れたりすれば恐らくそのまま眷属になるので細心の注意を払う必要があります。あの眷属は今言った通り単独では私かフールーダぐらいしかアレは抑えられないでしょう。もしかするとゴ・ギンとサフォロンの武王タッグなら勝てそうですが。四騎士は……難しそうです。
……あ、そうだ。
「逆に一つ発芽させて騎士達の訓練相手にするのもいいんですけどどうです?私が立ち会うので」
「絶対にやめてやれ!せめてやるならハードルをもっと落としてやれ!!」
却下されました。ぴえん。
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日も暮れて夜が明ければいよいよ戦争が始まります。内心めちゃくちゃ嫌なんですけど、これも無駄な戦いをもうしないためです。必要なことと割り切ります。
前夜なので今回の戦争において重要な立ち位置にいる私が不在というのもあまり良くないので転移して今はカッツェ平野の前線基地にいます。
騎士達に基地の外に机や椅子を用意させ、魔法で快適な環境を整えちょっとした晩餐の用意を進めます。
今私は食料品を大量に持ち込み騎士達に料理を作っています。今回の戦争、王国には申し訳ないですけど完膚なきまでに負けてもらいます。手抜きも無しです。なので今の私の職業は料理人を主とした構成になっています。ここでしか味わえない──ジルクニフにすら食べさせたことがないがロクシーさんには食べてもらった──美食で英気を養って貰いましょう。
用意したのは貴族によく好まれるワインやエールなどの酒類。それに加えてチーズやベーコンなどの塩気の効いた酒に合うつまみ。甘いものが好きな騎士や女騎士もいるのでケーキやクッキーといった甘味など。そしてメインの品……
「ほ、本当にこんなもの俺たちが食っていいんすか……?」
「こういうのって普通陛下が食べるような高級品なんじゃないか……?」
「信じられねえ……夢みたいだこんな食事!騎士になって良かった、貴族ですらこれは滅多に食えねえだろ!!」
騎士達の前に用意されたのはステーキ。ただし、その辺の牛や豚肉などではありません。
これはドラゴンの肉です。あのフロスト・ドラゴンの不要になった肉で作ったステーキです。保存の魔法をかけて腐食を避けていたので全て振る舞いました。
ただ、残念ながら一人一枚行き渡りはしましたがおかわりはないので仕方なくギガントバジリスクの肉やフォレストリザードなどの肉を用意しています。意外と美味しいんですよね。
全員に行き渡ったところで食前の挨拶といきましょう。
「さて、全員こちらに注目。……よし、目の前の料理に目が釘付けになってしまっている獣はいませんね?いたら隣の者は人に戻してあげるように」
騎士達からは少しばかりの笑い声が聞こえる。小粋なジョークが効いたようで何よりだ。
「皆さん知っているでしょうが改めて、私は粛清騎士。今回の戦争の指揮を皇帝陛下から一任されています。明日からは王国との戦争です。調べでは王国は今回兵を十五万用意したらしいですが対してこちらは二万弱……数の差は圧倒的です。去年の敗北を踏まえて王国は頭数を揃えてきました。しかし……帝国が誇る騎士達が所詮は寄せ集めの王国の一般兵に質で劣るでしょうか?答えは否。ハッキリ言いましょう。貴方達は強いと」
ここで〈天賦の才Ⅲ〉で将軍、指揮官、先導者などの士気向上に繋がりそうな職業に変更し口調も威厳のありそうなものに変えます。
「明日は諸君らの活躍に期待している。敵はたかが寄せ集めの十五万の烏合の衆の王国軍。対して、我らの隣には誰がいる?その卓の隣にいるのは戦友であり同士であり信頼できる仲間である誇り高き帝国騎士団。寄せ集めではなく、私が認め陛下が頼りにしている諸君らだ。今宵は酒を飲み肉を食い言葉を交わし存分に英気を養え。そして──帝国に勝利をもたらすのだ」
言い切るとしばらくその場が静寂に包まれ、そう時間も経たないうちに喝采の声が上がった。扇動は成功しました。
「長くなったが諸君らのために用意した美酒に美食、存分に楽しんでくれ!私からは以上だ。最後に乾杯の音頭を取る。──帝国に勝利を」
「「「「「「帝国に勝利を!!」」」」」」
そうして晩餐が始まりました。いいですね、こういう雰囲気。嫌いじゃありません。
この中の何人が明日の戦争で死ぬことになるのか、正直言って分かりませんがそれでも出来るだけ死人は出てほしくないものです。
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「アレーティア様!こんなところにいらしたのですね!」
「ん、ルミリアですか。一緒にいるのは……レイナースですか」
晩餐の最中、あまり目立たないところでケーキを食べているとレイナースを連れたルミリアが訪ねてきました。顔合わせと紹介ですかね?
「……私のことをご存知なのですか?」
「ええ、それは勿論。ルミリアを負かして四騎士の座を勝ち得た唯一の騎士の名を知らないわけがないですよ」
「ありがとうございます、粛清騎士様。四騎士になってもより一層勤めを果たさせていただきますわ」
深々と頭を下げるレイナースを見てとふと疑問に思ったことが。あの薬草はジルクニフに渡したままでした。あれからどうしたんでしょう?まだ聞かされてないのかな?
「ところで、レイナースは陛下と何か取引をしたと聞きましたが……」
「はい、実「それは私から説明させてください。レイナースは……とても可哀想なやつなんです!」
まさかのルミリア、レイナースの言葉を遮ってまで彼女の過去を語り始めました。
まあ、大体ジルクニフから聞かされていたことと変わりはありません。ただ、そこにルミリアの主観が入り……
「そう、私はこんな呪いを受けた程度で手のひらを返す様なバカな婚約者もロックブルズ家にも腹が立ち!陛下に直談判して私が襲撃したんです!」
襲撃したのルミリアだったの!?もしかしてそのせいであの時『これ以上俺の胃を痛めてくれるな』って言ってたわけですか!
「私の四騎士としての最後の大仕事でした……思い切り全員ぶん殴ってやりました。後はレイナースの好きなようにと。ところでレイナースは気が晴れたか?」
「ええ、もちろんですわ。私のことを気色悪いだとか醜い女だとか罵ってきたので全員顔を半分焼いて放逐してやりましたわ」
「そうか」
そうか、で済ませていい話でもない気がしますが生きているので優しい方でしょう。生きていればどうにかなるでしょうし。最終的に神殿に行けば治るはずですしね、レイナースのは治りませんが。
「そういえばルミリアはこの戦争の後どうするつもりなんですか?陛下からは引退を示唆されていましたが」
「そのことですか。私も一応は貴族令嬢ですし年齢的にもそろそろ結婚しないといけないが……実は陛下にこの戦争で手柄を立てたら一つ願いを叶えてもらえるよう約束してるんです」
「約束?一体何の?」
「それは……秘密です」
そう言いルミリアは頬を僅かに赤め笑った。普段見せる笑顔とはまた違った何かを隠すような笑い方でした。
「明日は作戦通りに彼らと挑みますよ。王国最強の戦士に。その首持って帰りますとも」
「期待していますよルミリア。戦争が終わったら食事にでも行きましょうか」
「ええ、是非」
次回からようやく戦争編開始です。これが終わればようやく原作に入れる……はず。
投稿してかれこれ四ヵ月になります。UAも約35000になりお気に入り数も5000に届きそうで感無量です。
感想や高評価、誤字脱字報告などありがとうございました。
引き続き拙作をどうぞよろしくお願いします。