転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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お正月だからか筆が進んでます。

しかし休みが終われば頻度は元に戻ります……休みが続けばいいのに……。




アレーティアと戦争part2 〜王国の悲劇、来たる絶望〜

 

 

 戦争が始まり数時間、王国の劣勢は続いていた。

 本来ならば一時的にガゼフ率いる戦士団が前線を維持するため殿を務め体勢を整えるはずだった。

 しかし、現状は芳しくなく戦士団は押されていた。

 仮に騎士と戦士、実力が同等でもアレーティアによる強化をつけているかどうか。これだけで均衡は簡単に崩れる。最早その差が余ることはなく戦士団ですら防戦一方だった。

 だがここには王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフがいる……が、残念ながら戦士団の支援には向かえない。

 

 

「〈四光連斬〉」

 

「無駄だ〈南山不落〉」

 

「ぐうっ!?何故レイザーエッジで斬り裂けんのだ…!」

 

「そんなことを考えている余裕があるか?戦士長よ、目の前の脅威に対処する方が先ではないか?」

 

「その通りだ!!奥義〈超速乱れ斬り〉」

 

「ぐっ……〈即応反射〉」

 

「甘いな戦士長。そんな雑な反撃を俺が許すと思うか?」

 

 

 そう、ガゼフはガゼフで過去最大の敵と対峙していた。

 ナザミ・エネック、ルミリア・デイル・アーチゾルテの二人。帝国四騎士を名乗る最高峰の騎士二人を同時に相手取るだけで精一杯だった。

 当然、この二人もアレーティアによる恩恵を受けており、特にナザミに関しては素質を開花させたこともあり英雄の領域へ至っている。そんな彼がアレーティアによる強化を受ければ現地では逸脱者を除けば敵はいないのではないかというほどの制圧力を保持していた。

 大盾二枚という守備に徹した戦いだが、その防御を崩すことは困難極まる。そこに加え──

 

「とはいえあの奥義を凌ぎ切るとは思わなかったな……。では次だ。今度は連続で行こう」

 

 

 帝国四騎士の座を奪われはしたものの手数だけなら四騎士で最速を誇ったルミリアが加わる。

 彼女は武技の連続使用を得意としている。その秘密は彼女の生まれながらの異能に理由があり、武技を放つ際の集中力が増すと言うものだった。これにより彼女は常人より多くの武技を同時に扱うことが出来る。それにより多くの武技をアレーティアに学び、身につけ組み合わせることで多様な奥義を生み出していた。

 

 そんな二人を同時に相手にしているガゼフは戦士団に加勢したくとも加勢出来ない状況に追いやられていた。

 

(状況は圧倒的不利……せめてどちらかだけでも倒すことが出来れば……!)

 

 攻めに回ればナザミに防がれ、隙を見せればルミリアによる高速攻撃が迫り武技を発動させる間もない。これがアレーティアによる作戦の一つ、その名も『鉄檻作戦』。

 この作戦により帝国はガゼフを抑えることに成功していた。

 

「戦士長!ぐわっ」

 

「余所見できる余裕があるのか?その程度で我等帝国騎士団を退けられると思われていたとは心外だな」

 

「お、おのれせめて一撃だけでも……ぐふっ」

 

「すまんな、本当にすまん。これも相手が悪かったと諦めてくれ」

 

 次々と倒れていく戦士団。その光景は王国にとって、ガゼフにとって絶望的なものだった。

 

(どうにか……どうにか一度距離を取らねば!)

 

 ガゼフはどうにか一度距離を取り武技〈能力向上〉〈能力超向上〉による強化を狙っていた。成功すればこの現状を打破できると信じて。

 だがそれを許さないのがルミリアだ。一度距離を取るべく後方に退くと即座に剣先をこちらに向け一言。

 

「距離を取ろうと無駄だ──起動〈火球〉」

 

「な、何ィィィッ!?」

 

 ルミリアの剣に刻まれた文字が輝きそこから放たれたのは魔法。二振りの剣はそれぞれが一日に三度ルーンによる魔法が発動出来るような作りになっている。

 まさか剣がこの様なマジックアイテムだと想定していなかったガゼフは思わぬダメージを負ってしまった。

 

「すまないな戦士長。去年と今年の帝国は文字通り戦力が違うのだ。この通り、王国は魔法が劣っていると知っているのでな。粛清騎士様の言う通り効果覿面だった様でなによりだ」

 

 痛む身体に鞭打ちなんとか立ち上がる。ガゼフは魔法詠唱者や魔法に疎かったがこの一件で魔法に対する見識を身につける必要があると心に刻みつけた。とはいえ、それは遅すぎたのだが。

 

「もう動けまい。せめてもの情けだ、その首素直に差し出すのなら他の戦士団は見逃してやってもいいぞ」

 

 ルミリアの傲慢な提案にガゼフは悔しながらも一度考える。

 決断次第では部下である戦士団だけは助けることは出来る。しかし、他の兵たちは?見逃すのは戦士団だけ……ならば、出す答えは決まっている。

 

「──断る。俺は王国戦士長!この国を愛し守護する者!王から受けた恩義に懸けて、この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかあああ!!」

 

「そうか、では──その首置いて逝け!奥義〈剣舞〉」

 

 ガゼフにルミリアの剣撃が迫る。傷ついた身体でこれを凌ぐのは困難だ。だがやらねばならない。剣を持つ手に力を入れ──

 

 

「戦士長おおおおおお!!ぐがあああああ!!」

 

「なっ!?」

 

 〈剣舞〉がガゼフに届こうとした時、間に誰かが割って入ってきた。それは決死の覚悟でガゼフの助けになろうと駆けて来た戦士団副団長だった。

 

「お、お前……!!」

 

「せ、戦士長……ご無事で……よか」

 

 最後まで言い切ることなく副団長は死んだ。しかし、彼の犠牲は無駄にはならなかった。

 その証拠にルミリアが動けなくなっている。彼女はその異能の特性ゆえか周囲の警戒を怠ってしまう欠点があった。それにより副団長の乱入に気づくことが出来ず〈剣舞〉を防がれてしまった。

 〈剣舞〉は四つの武技から成る必殺奥義。ルミリアの二つ名であり、とっておきだ。それと同時に他の奥義と比べて高い集中力を必要とするため使用後は数秒集中力が切れ動けなくなってしまう欠点があった。

 今、その時間が訪れている。ガゼフはそんな欠点を知る由も無いがここしかないと副団長の死を惜しみつつ即座に〈能力向上〉〈能力超向上〉の武技を使用。そして──

 

「しまった!」

 

「ルミリア、急いでマジックアイテムを使え!」

 

「遅い!武技──〈六光連斬〉

 

 王国最強の戦士による必殺の武技がここに炸裂し──

 

 

 ルミリアは血飛沫を上げ倒れた。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 同時刻、王国陣営では急ぎ体勢を立て直すべく懸命な指揮が飛び交っていた。

 しかし、まるで敵わなかった帝国軍に恐れをなし逃げ出そうとする一般兵があまりにも多かった。

 

「ええい逃げるな!戦え、戦うのだ!今より逃げ出す者は反逆者とみなす!」

 

「なんだってこんな……勝てるわけないだろ……」

 

「死ぬ前にせめてシンディに告白しておくべきだったなぁ……どうして俺は大丈夫だなんて思ったんだ……」

 

 無理だ、勝てない、死にたくない、そういった負の感情が一般兵たちを支配している。このままでは勝てる戦も勝てないだろうという重苦しい空気が。

 そんな矢先にとある報告が聞こえた。

 

「報告、報告です!王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが帝国四騎士を一人討ち取りました!」

 

 降って湧いた吉報、今の王国にとって希望の光が差し込んだ。

 そう、いかに帝国軍が強大でも王国にはガゼフ・ストロノーフがいる。周辺国家最強とも言われる戦士長がいればまだ戦える。勝てる見込みがある。その一つの希望が力に変わった。

 

「聞いたか諸君!戦士長殿は我らのために殿を勤めている!今度は我等が戦士長を救うのだ!」

 

 僅かながら士気が上がり各々が再び武器を手にする。そうだ、俺たちがこの国を守るのだと。戦士長だけに全てを押し付けるなと。

 

 

 

 

 

 

「……帝国軍がこれほどまでに強いとは」

 

「正直、我々も驚いています。帝国では冒険者組合がほぼほぼ解散状態とまで言われていますが、その理由の一端が分かった気がします。あれは下手したら白金級冒険者並みには強いのではないですかね」

 

 冒険者でも白金級まで届く者はそう多くない。その国全体で白金級以上が二割いれば上等だ。ただ、今の帝国軍はその常識を嘲笑うような強さを個々が手に入れており、更にその数が最低でも今回参加している二軍隊──二万だと考えるとその勢力は圧倒的だ。周辺国家最強ともいわれるスレイン法国ですら上回るのではないかと疑ってしまう程に。

 

「それほどまでか、君たちなら勝てるか?」

 

「恐らく……ですが、四騎士は無理です。一人は戦士長が倒した様ですがもう一人、あの大柄の騎士は最低でも戦士長と互角かそれ以上だと思います」

 

 陣営に戻り話しているのはレエブン侯と引退したオリハルコン冒険者チームのリーダー、ボリス・アクセルソンだ。

 帝国軍の強さを冒険者視点で語っており、そういったことに疎いレエブン侯にとっては非常にありがたい存在だった。その彼がガゼフと互角とまで言うあの騎士は一体どれほどの強さを持っているのか。ガゼフで勝てるのかという不安がよぎるがレエブン侯はどうにかそれを顔に出さないよう必死だった。

 

「我々も戦士長へ加勢に向かいます。このままだと戦士長の負担が大きすぎます。レエブン侯はどうか後方にお下がりください。お子さんが生まれたばかりでしょう?」

 

「しかし仮にも六大貴族としてその様なことをすれば周りに面目が……」

 

「そうですよ、レエブン侯お下がりください。貴方は優秀でこれから先帝国のために働いてもらうんですから」

 

 

 自然と二人の会話に割って入った人物がいた。バッと振り返ればそこには()()()()()()()()

 ここにはレエブン侯とボリスの二人しかいなかったはず。しかも誰かが入ってくれば親衛隊として周囲を警戒して回っている他の元オリハルコン冒険者のメンバーが気づくはずだ。それにも関わらず、何者かがこの場に現れた。

 

 

「……君は、いやお前たちは誰だ?何処から入った?」

 

「私たちですか?誰だと思います?レエブン侯」

 

 その人物は顔半分を隠すバイザーをしており、白金の髪が背中まで伸びている。鎧は黒に近く、かつ一目でマジックアイテムだと分かるだけの存在感を放っている。これほどの品をボリスは見たことがない。

 更にその背後には男女それぞれ一人ずつ、同じ鎧を身につけている。

 そして何より……纏うマントには帝国の紋章が刻まれていた。

 

「ま、まさか……本当にいた……のか!?」

 

「レエブン侯、つまりこいつが!」

 

「そう、まずはご挨拶から──」

 

 

 

「私は粛清騎士、アレーティア。こちらは次期帝国四騎士に任命されるレイナース・ロックブルズとニンブル・アーク・デイル・アノックです。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下より今回の戦争における全権を預けていただいています。そして陛下の命により──王国軍に裁きを下しにやってまいりました」

 

 

 ──王国の絶望は終わらない。

 

 

 





アレーティア──レイナース、ニンブルを連れて掟破りの本丸に転移して襲撃。王国は泣いてもいい。

ルミリア──致命傷。

ナザミ──ここからガゼフと一騎討ち。

ガゼフ──圧倒的不利な状況でルミリア撃破。しかし、後方の本陣ではもっとヤバいことが起きている。

王国軍──希望が見えたと思ったら絶望がやってきた。心境的にはバラモス倒したと思ったらゾーマがそのまま襲撃してきた感じ。

帝国軍──むしろここから負ける方が難しい。

????──予想以上に帝国軍が強くなっていたので正直驚いている。現地側はアレーティアを捕捉できていないため帝国軍本丸にて待機中。アレーティアに見つかったら即処されるため割と本気で命懸け。


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