転生したらオバロ世界のエルフだった件について 作:ざいざる嬢
戦争が始まり数時間が経ちました。どうやら作戦通りに行っている様です。
「去年は目にすることがなかったが、本気でことを構えればここまで圧倒的とはな……」
「いえ、本来ならもう少しは苦戦しますよ?今は私が手を加えているのでより強くなっているだけなので」
「何?一体何をしたんだ?」
見ただけじゃ分かりませんよね。なのでジルクニフに説明しましょう。
「まず昨日の晩餐で振る舞ったのは私が作った料理です。あの料理は食べると消化されてから半日程度食べた人間の力を増す様に愛情をたっぷり込めて作りました。その結果、本来発揮出来る力以上の力が出せるわけです」
「愛情」
「そうです。そしてダメ押しに開戦前の私の演説です。一応魔法の様なもので、私の言葉を聞いた騎士たちの闘争心を煽ることで精神力などを強化しました。これによって恐怖に怯えることなく戦うことが出来ます」
「……なあアレーティア。その効果が切れることはないのか?」
「少なくとも今日中は大丈夫です。
一応生まれながらの異能の話になるのでジルクニフにしか聞こえないぐらいの声量で答えました。スパイとかいたら面倒ですからね。
「……それを聞くとなんでもありだなその異能」
もう使えるものは全て使いました。騎士たちの装備も一人最低一つはマジックアイテムを持たせていますし、四騎士にはそれぞれ武器を与えて、ザイトルクワエの素材から作ったとあるアイテムを一つだけ渡しているので使えば死ぬことはないでしょう。
アレはそう大量に作れるものではないので人数分用意出来ないのは仕方ないです。
「お、どうやら全軍下がるみたいですね。では手筈通り進行はゆっくりと圧をかけるように」
王国の一般兵程度では今の騎士団には間違いなく勝てませんからね。何も王国を滅ぼしたいわけではなくて王国を滅茶苦茶にすることが目的ですから。
……あの見覚えのある鎧姿はもしや。
「ガゼフ・ストロノーフが出陣した様ですね。ナザミ、ルミリア予定通り任せましたよ」
「ああっ!アレーティア様に任された大任、必ず果たしてヤツの首を落としてやります!」
「なるべく暴走しない様に抑えますのでご安心を」
そう言い二人は馬に乗り出陣して行きました。原作ではガゼフが帝国四騎士を二人討ち取りそれをジルクニフがスカウトしに行く、というエピソードがあったはずですがそこはもう無視します。
こちらがガゼフにぶつけるのは原作より強い四騎士が二人。中でもナザミの強さは信頼している。トーマスからは私とルミリアは暴走しがちと何度も注意されたので抑え役としてナザミは適任のはず。
ナザミたちの無事を祈り、こちらはこちらで仕事の準備に取り掛かりますか。
「ニンブル、例の物に目は通しましたか?」
「ええ、先程拝見しました。しかし、この情報何処から手に入れたので?」
「王国の大貴族、ブルムラシュー侯に大金を送ったら快く教えてくれましたよ?元々大金持ちで王派閥の貴族なのにあれっぽっちの金でこんな重大な情報を売ってくれるのですから助かりますね」
ニンブルに用意させたもの、それは今回の戦争に出陣している貴族たちのリスト。
これから王国戦士団を程よく疲弊させた後、王国の本丸に転移して襲撃を仕掛けようという作戦です。え?卑怯じゃないか、ですって?勝てばよかろうなのです。勝ったものが歴史を作るってアインズ様も──いや、これはアルベドだったかもしれない──言ってました。
その襲撃の際、併合した時に必要のない無能な貴族を排除しようと考え、元々王国の情報を幾らか売っていたブルムラシュー侯を利用してリスト化しジルクニフに相談した上で排除する貴族は決まりました。
まあ、これでも後継やこの戦争に出陣していない貴族もいるので大した影響は与えられないかもしれませんが、帝国にとっての邪魔者を大っぴらに処理できるこの機会を逃すわけにはいきません。
リストに目を通しニンブルとレイナースにも覚えさせる。私一人でも十分ですが、こうした経験も新しい四騎士には必要だと思い今回連れ出すことにしました。現場研修です。
「では陛下、行って参ります。トーマスも守備は任せましたよ」
「ああ、朗報を期待している」
「どうぞ陛下のことはお任せください」
「レイナース、ニンブル、こっちに集まってください。そうです、なるべく離れない様に……〈
◯
◯
◯
はい、到着です。目の前には何か相談している見覚えのある二人がいます。
「我々も戦士長へ加勢に向かいます。このままだと戦士長の負担が大きすぎます。レエブン侯はどうか後方にお下がりください。お子さんが生まれたばかりでしょう?」
「しかし仮にも六大貴族としてその様なことをすれば周りに面目が……」
レエブン侯と……名前覚えてませんけど親衛隊の元オリハルコン級冒険者のリーダーですね。どうやら劣勢の戦士団に支援に向かう様です。ナザミとルミリアがいるんでそれだけで戦況が崩壊することはまずないでしょうけど念には念を入れて、邪魔はさせない様にしましょう。
「そうですよ、レエブン侯お下がりください。貴方は優秀でこれから先帝国のために働いてもらうんですから」
いい感じに驚いた様で同時にこちらに振り返りました。まあ、二人しかいないはずの場所に突然音も無く三人も武装した人間が現れれば驚きますよね。ドッキリ大成功のプラカードでも用意すればよかったでしょうか?
「……君は、いやお前たちは誰だ?何処から入った?」
「私たちですか?誰だと思います?レエブン侯」
さあレエブン侯、そして王国よ。今まで帝国のみで語られてきた私が……
「ま、まさか……本当にいた……のか!?」
「レエブン侯、つまりこいつが!」
「そう、まずはご挨拶から──」
「私は粛清騎士、アレーティア。こちらは次期帝国四騎士に任命されるレイナース・ロックブルズとニンブル・アーク・デイル・アノックです。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下より今回の戦争における全権を預けていただいています。そして陛下の命により──王国軍に裁きを下しにやってまいりました」
王国の大掃除にやって来ましたよ?
「さて、早速始めるとしますか」
「くっ……レエブン侯お下がりを!ここは私たちが食い止めます!」
「おいどうした!一体何が……」
「敵襲だ!敵は粛清騎士を名乗る騎士と四騎士が二人、なんとしてでも食い止めるぞ!」
「そういうことか!だったら早く逃げ……」
「させるとでも?〈
私の手から現れた魔法陣がレエブン侯を含むこの場に入って来た六人を拘束する。元オリハルコン級冒険者と言えど私レベルの魔法詠唱者の魔法に対抗することは困難と言ってもいいでしょう。故にこの状況は必然。
「こ、これは……!?」
「バカな?!う、動けない…!」
「き、聞いたこともない魔法です!あのフールーダ・パラダインを上回るという噂までもが本当だというのか……!」
ふふーん、と胸を張って誇りたくなりますが我慢我慢。
一先ず拘束しましたが、魔法効果が切れると面倒なので物理的拘束もしていきます。
「ニンブル、レイナース、この縄で全員拘束を。ああ、後そこの長身の男はどうやら盗賊の様なのでマジックアイテムの類は没収しておいてください。ああ、後手荒な真似はしないように。彼らはこの後必要になる優秀な人材なので」
「了解しました」
「分かりましたわ」
これでこの場における障害は全て取り払われたと言っても過言ではないでしょう。ガゼフはナザミとルミリアが抑えていますし、戦士団もそれどころではない。後は文字通り烏合の衆です。
「き、貴様たちの目的はなんだ!?王の首か!?」
必死の形相でレエブン侯が尋ねてきます。まあ、今のところ王の首には興味ありませんね。第一王子なら別ですけど。
「そんなこと聞かずとも分かるでしょうに……愚かにも帝国に刃向かった王国を粛清しに来ただけですよ。行きますよ二人とも。ここより先は戦場ですから気を緩めないように」
「「ははっ!」」
後ろから待てっ!という悲痛な声が聞こえますが待つわけありません。これは戦争、降伏すれば命まではとりませんが戦い続けるというならそれに応えるまでです。
だからこそ戦争が嫌いなんですけどね。
「な、何もぐあっ……」
躊躇いなく剣を振るい相対する王国貴族と思わしき男の命を絶ちます。
続いて咄嗟に槍を向けてきた近衛を、周りを固めていた兵士たちを剣でスキルを使いながら蹴散らしていきます。
「て、敵襲!敵襲ーッ!!敵は三人!本陣に襲撃してきました!!」
見張り台に立っていた兵士が鐘を鳴らし大声で叫んでいます。気づいたところでもう遅いのですが、この見張り台は〈殴打〉で根本から破壊して後にします。
「ここから二手に分かれます。基本的な狙いは例のリストにあった貴族たちです。後ブルムラシュー侯は処分対象ですが、この後とあることに使うので殺さないように。一般兵たちは……武器を捨てて投降したり逃げ出したら見逃して結構です。無駄に命を奪う必要はないので」
「よろしいのですか?下手に戦力を残せば反抗される恐れが……」
「そこに関しては大丈夫です。簡単に心を折る方法があるので」
そんなドン引きした顔しないでくださいよニンブル。私をなんだと思っているんですか……。あ、レイナースもちょっと引いてます。しょぼん。
「んんっ、とりあえず二人は連携して任務を果たしてください。四騎士は全員で行動することもあります。しかし、まずは新入り同士が連携を取れなければいけません。そこからナザミとバジウッドと合流して各々が阿吽の呼吸で動けるようになるのが最終目標です」
原作はどうか知りませんけど私は少なくとも強者同士が手を組むことは必須だと考えています。
ここはオーバーロードの世界。レベル差があれば勝てないのが道理ですが、レベルが僅差なら下剋上出来る可能性があります。ザリュースとイグヴァの戦いのように。エントマと蒼の薔薇の戦いのように。ならばその下剋上を確実にするために必要なことが何かといえばそれは協力プレイです。冒険者がチームを組んで強敵と戦うように四騎士も、騎士たちもそう言ったパーティでの戦いが今後必須になる時期が間違いなく来ます。具体的には五年後ぐらいにですが。
目標と言えば原作では四騎士総出でも勝てるか分からないデス・ナイトを倒せるぐらいは目指したいところですね。
「幸い、戦士団はおらず強敵と言える相手もいませんが数だけはいます。これらを二人で全て対処し任務遂行してください。無理なら無理だと言ってください。ただ、見事任務を果たせたなら私から陛下に──」
「任せてください粛清騎士様。必ずや任務果たしてみせますわ」
食い気味にレイナースが答えてくれました。多分何かしら呪いを解除する方法を得たという情報は手に入れているのでしょうね。そうでなければ、ここまで食いつきはしないでしょう。
「では、健闘を祈ります」
さあ、戦いたくもない人間が戦わざるを得ないくだらない戦争なんてさっさと終わらせましょう。
平和が一番、そして平和に犠牲はつきもの……死んでも恨まないでくださいね?
◯
◯
◯
とある兵士の一幕
「うわああああああ!?」
「た、助け……」
「な、なんじゃこ……りゃ……」
「何が……一体何が起こったんだぁぁあ!!」
王国の兵士たちは何も理解出来ていなかった。いや、この拠点に帝国の騎士が襲撃してきたことは理解出来ている。だが、どう考えても理解出来ないことがある。それは──
「どうして、どうしてヤツが剣を振るだけでこんなことがぁぁぁ……」
とある帝国騎士──通称粛清騎士による圧倒的武力だ。
あの騎士が一度剣を振るえば同時に雷が落ち、多くの兵士がそれに巻き込まれ感電死した。
再び剣を振るえば今度は大地を斬り裂けるほどの斬撃が一直線に放たれ、範囲内にいた兵士が真っ二つになり裂けた大地に消えていった。
挙句、なんとか一矢報いるべく接近した兵士は返す刃で斬られ、斬った箇所から凍りついていきそのまま氷像と化した。
他にも語れる現象は多々あるが、どれもこれも常識を無視した攻撃がこちらが理解する前に殺しにくる。何が起きたのか理解する前に兵士も、貴族も、関係なく皆死んでいく。
ああ、自分の人生がまさかこんな理解出来ないことが原因で死ぬことになるとは思ってもいなかった。
きっとアレはそんな理不尽を押し付ける死神なのだろうと漠然と思ってしまった。
そんな中、とある貴族の嘆願する声が聞こえた。
「こ、降伏する!降伏するからやめてくれぇ!!」
するとこの惨状を作り上げた騎士は攻撃の手を止め貴族に向き直った。どうやら対話は出来るらしい。
「な、何を勝手に、王国貴族としての誇りはどうした!」
「うるさあああああい!!私は助かりたいんだ!死にたくないんだ黙ってろおおおおお!!」
平民の俺でも分かる。貴族にあるまじき暴言と大声。平民である俺でも咄嗟にこんな大声が出るだろうか?いや、俺の場合はきっと今のように震えて声も碌に出ないだろう。そう考えると声が出せるというのは羨ましいと思えてしまう。
「ど、どうか見逃してください!私に出来ることなら何でもします!帝国のために滅私奉公の精神で仕えます!なのでどうか…どうかこの通りッ!!」
貴族の土下座なんて初めて見た。私は見たことないが貴族の中には税を納められない人間に土下座を強要させた挙句、金目になるものを全て奪い去っていったという話を聞いたことがあった。果たしてこの死神はどうするのだろうか。
「……貴方の名前は?」
「は、はい!アルチェル──」
「あ、ダメですね。お前は絶対殺さないといけない対象でした」
瞬間、貴族の首が宙を舞った。その顔は驚愕に包まれていてやがて顔面から地面に激突して動かなくなった。
隣の貴族も同時に首を刎ねられていた。次は……きっと俺だろう。
ザッ、ザッとこちらに近づいてくる死神の足跡が聞こえる。この音が聞こえなくなった時、俺は死ぬのだろう。
ああ、せめてもう一度村に残してきた娘に会いたい。こんな戦争かなぐり捨てて帰って娘を抱きしめて、目一杯愛して、そして幸せになるところを見届けたい。そんなささやかな願いも、あの剣の一振りで絶たれてしまうだろう。
そう思うと手に持っていた槍が手から離れた。身体は無意識に抵抗することを諦めたらしい。それもそうだ、アレにはどう足掻いても勝てないのだから。
半ば生きることを諦め死の瞬間を待った。足音は段々と近づいてくる。やがてその音はもうすぐそこまで迫っていた。
「……死にたくねえなぁ」
思わずその言葉を口に出していた。とはいえアレにはそんなこと関係ないだろう。そうして足音が止み、目の前の人影を見ることなくただただその瞬間を待ち続けそして──
「さて、こんなものですかね。大多数は処理出来ましたし幕を引くとしましょう」
そんな言葉を残して死神は目の前からいなくなっていた。
「……生き残った……のか?」
信じられない。何故死神は俺の命を刈り取らなかったのか理解出来なかった。ただ一つだけ言えるのは──俺は見逃されたということだ。
周りを見渡せば見えるのは平野に無造作に転がっている死体の群れ。その中には自分と同じく無傷で生きている兵士がちらほらと見える。ただの討ち漏らしだろうか?いや、あの死神はそんな甘いやつじゃない。それでも生かされたのには何か理由があるのだろう。
しかし今はもうそんなことはどうでもいい。
──生きて帰れる。この事実だけで十分だ
アレーティア──スキル使いまくり、一切容赦しない。無能な貴族絶対粛清ウーマンになっている。特にバルブロ、アルチェル、フィリップは絶対処理しないといけない。
ニンブル──次期トーマス枠、やりすぎな気もするが毎年戦争するよりはと割り切っている。
レイナース──呪いを解きたいのでルミリアぐらい張り切っている。ジルクニフが超希少薬草を持っていることを知っている。
生き延びた兵士たち──とある兵士はアレーティアが目の前に迫った時には武器を手放し傍観していたため生き延びれた。他の生き残りも似たようなもの。
アルチェル──お前は何があっても生かしちゃいけない。やらかしが王国を窮地に追い込むきっかけになっている。
フィリップ──同上。しかしやらかしによる被害がとんでもない。戦場にはいないが多分後々何らかの方法で処される。
バルブロ──カルネ村に話を聞きに行くだけなのに頭の悪いことをした第一王子。こいつ推してる貴族バカじゃないかな?(アレーティア談)
見つかり次第高確率で処される。今回の戦争には参加していない。
あと一、二話で戦争編は終了です。次回は少し時間いただくかも?