転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

34 / 72

お待たせしました。ホントに待たせてしまって申し訳ない。
活動報告の通り仕事に忙殺され、体調崩してと散々でした。
皆様も体調管理にはお気をつけて。

遅れた理由のもう一つに法国の会議入れたら頭の良い会話が思いつかなかったというのもあったり……矛盾点などあったら教えていただけると幸いです。

後、私事ですが遂にUA400000、お気に入り数5000を突破しました。正直めちゃくちゃ嬉しいです。応援ありがとうございます。



私はアレーティア辺境侯である 〜爵位なんて要らなかった〜

 

 

 王国との戦争からはや一週間。

 この辺りでようやく戦後の処理が終わりました。一部を残して軍の大部分は帝国へ帰還。戦勝パレードが開かれ帝国の未来は明るいと帝国民に知らしめることができました。

 

 この戦争での帝国軍の負傷者は全体の一割に満たない程度で死者もルミリアを除けば──ああ、ルミリアは無事生還しましたね。なので0と言っても過言ではありません。

 

 ルミリアはガゼフに敗れ六光連斬で死ぬ目に遭ったらしいですが、なんとかマジックアイテムの発動が間に合い生き延びられたとか。

 そのアイテムはザイトルクワエ製、例の薬草が生えた箇所──コブ部分から作った短杖(ワンド)です。

 

 興味本位で全ての病を癒す薬草を生やすのであればその周辺部位、もしくは樹液なんかにもなにかしらの効果があるのではないかと思ったので色々魔法で調べた結果、コブ部分自体には傷を癒す効果があることが分かり、それを利用して作ったのがこの短杖です。

 

 残念ながら一日に一度しか使用出来ないものの魔法で言う〈生命力持続回復(リジェネ―ト)〉に近い効果を発揮します。

 ルミリアはこれによって生還したというわけです。まあ、回復量を上回る攻撃でもされれば死んでいたのでガゼフが追い討ちをしなくてよかったです。ルミリアもしばらく気を失っていたそうですし。

 

 そしてこの短杖、これまた残念なことに三本しか作れなかったんですよね……。何故かって?ザイトルクワエの大部分を〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉で消し飛ばしてしまったからですね。もうコブの部分も僅かな量しか残っていません。

 何故あの時〈大厄災〉なんて使ってしまったのかと深く後悔しましたが過ぎたことなので仕方ないです。

 

 

 さて、短杖の説明をしたところで私が今何をしているかと言うと、今行われている戦勝会に参加しています。

 戦争の前に騎士達にやると言った集まりです。ジルクニフが選出した貴族達も混ざっていますが、基本的には今回の戦いに参加した騎士達を労う、また褒賞を授けると言ったところが強いです。

 

 ちなみに今回は祝いの場なので鎧は着けず、バイザーに騎士達に支給されている制服を着ています。ドレス?こんな公共の場で着るわけないでしょう?むしろ粛清騎士の素性は誰にも──付き合いの長い四騎士達にも──明かしていないので仮に着れたとしても着ませんが。

 

 お、早速始まりましたね。

 まずはレイナース。今回の戦争で多くの武勲──貴族狩りを成し遂げたことから望み通り例の超希少薬草を使い作られたポーションを一瓶与えられていました。いつの間に作ったんでしょう?とりあえず普段あまり笑うことがない様に見えたレイナースの表情が笑みを浮かべているのを見ると知らなかった一面を見れてちょっと嬉しいですね。

 最悪膿が止まらなかったら私がマジックアイテムを作るか解呪の魔法を会得するとしましょうね。

 トーマスは子爵位と屋敷が与えられ新婚生活は問題なさそうですね。ただこの後戦後交渉や諸々の事情から働き詰めが確定しているのですけど。どうか強く生きて欲しいです。

 バジウッドは現金を大量にと与えられていました。奥さんが沢山いますから何かと入り用になりますもんね。今は確か……五人でしたっけね?ジルクニフまでとは言いませんが中々のハーレムですね。前世の私なら羨ましがっていたかもしれません。

 ニンブルはその前から伯爵位を与えられていたので今回は見送りだとか。

 ルミリアは──あれ?呼ばれませんね?どうしてでしょう?ガゼフに負けたのがダメだったんですかね?いや、でもそれまでの仕事は方々に迷惑かけまくりましたけど私も二人で多くをこなしてるはずなんですが……。

 

 その後、将軍を始め戦争で多くの敵を屠った騎士やそれ以外で何らかの功績を上げた騎士達へ続々と勲章が授与され一先ずこれでお終いですかね。

 

「さて、最後になってしまったがもう一人、叙勲しなければならない人物がいる」

 

 ん?なんか流れ変わりました?私は予め何も要らないと伝えてあるので大丈夫だと思うんですが……ああ、ルミリアですか。彼女を最後に呼ぶなんてジルクニフったら何を──

 

 

「私が最も信頼する騎士、その名は帝国民であれば誰もが聞いたことがあるだろう。そう──粛清騎士よ、壇上へ」

 

 

 

 

 

 

 ……………へ?私?

 

 

 とりあえず言われるがまま壇上へと上がっていきます。

 

 

 

 

 

「我が騎士、粛清騎士には此度の戦争の功績、及びこれまでの帝国への貢献を合わせた褒賞として王国より割譲されるエ・ランテル近郊の地を与え──新たなる貴族位である辺境侯の爵位を与える」

 

 

 おおおおお!!と騎士と貴族達から声が上がりますが私はそれどころではありません。

 

 いつの間にかエ・ランテルの領主になり辺境侯になってしまいました……。

 ドウシテ……ドウシテ……?

 

 

 で、ルミリアですが──

 

「そしてこの度四騎士を退任することになったルミリア・リイル・アーチゾルテには今後のエ・ランテルにおける政務を補助するべく、粛清騎士直属の補佐官の任を与える」

 

「改めてよろしく頼みますアレーティア様」

 

「アッハイ」

 

 私直属の部下になりました。後から聞いた話ですがそれがルミリアの願いだったとか。

 まあルミリアは地頭がいいですし、何より信頼出来る相手なのでありがたいんですが……

 

「ルミリア、結婚の話はどうしたんです?」

 

「ああ、その話なら蹴ったんです。元々継ぐ気がない家だったし、最初から結婚する気はサラサラなかったのでお気になさらず」

 

 だそうです。結婚が全てとは言いませんけどいいのかな?貴族のそういう事情には詳しくないけれど今逃すと行き遅れとか言われるんじゃ……いや、そうならない様にいざとなればジルクニフに受け入れてもらえる様に頼みましょう。

 ルミリアはかなり美人ですしジルクニフ的にもきっとOKなはずです。

 

 

 話を戻します。私が辺境侯になってしまった話です。

 この事が発表されてすぐ多くの貴族に話しかけられて──全員ビクビクしながら祝いの言葉を言ってきましたが──一通り挨拶を終えた後ジルクニフを捕まえてとっちめます。

 

 

「陛下!私何も要らないって言ったじゃないですかぁ!!」

 

「お前な……少し考えてみろ。今回の戦争だけでなく、ここ数年多大なる被害と共に多くの手柄を上げたお前に私は公に何の褒美も与えていないわけだ。お前との契約で互いに利用し合う……Win-Winだったか?そういう関係でいるというのに私はお前から与えられるだけで返せていない。それに他の騎士達にも勲章や望みの物を与えているのに最大の功労者に何も与えない私を見て騎士達、貴族達がどう思うか考えてみろ?」

 

 

 なるほど……無欲も罪ということですね。

 しかし……

 

「だからと言って貴族位と領地を与えるのはやり過ぎでは?ただでさえ帝国の一等地に屋敷ももらっているのに」

 

「アレは別だろう。半年無断でいなくなったとはいえ、持ち帰った財やルーンの技術などを鑑みれば本来アレでも足りん。

 それにだ……今後もエ・ランテルは王国と隣接し、法国の人間も利用する重要な都市になる。そんな土地を誰に任せられるかと聞かれれば──俺にはお前しか浮かばなかった」

 

 ……ほほう?続けてどうぞ?

 

「間違いなく王国も法国も何らかの干渉をしてくる。生半可な者にはとても任せられない。だがお前なら出来るだろう?出会ってかれこれ十二年程か、その間に多くの問題を引き起こしもしたがそれは全て俺を守るため、帝国のためにと行われたことばかりだった。

 そんなお前にだからこそ、あの地を任せたい。お前なら全てを引っ掻き回した上で綺麗に出来るだろう」

 

「それ褒めてるんですかね?」

 

 なんだか最後の方はちょっと嫌味を言われている感じがしましたね。

 ……とはいえ、少し考えれば悪いことではない気がしてきました。

 少なくとも、私が今回この戦争で原作破壊をしたためナザリックとのファーストコンタクトがどの様な形になるのかが全く分からなくなってしまいました。毎年戦争なんて馬鹿げたことをしたくないという個人的願望からこのような結果になってしまったとはいえ原作知識が役立たなくなるのは少々痛手です。

 しかし、私がエ・ランテルの領主になれば少なくとも領内付近にナザリックが現れるのはほぼ確実、原作と違い陽光聖典が派遣されて村々が焼かれるということも起こらないはず。そうなればある程度出現する箇所を絞りこちらから接触することも可能……?

 色々な案が浮かんでは消えていきますが段々頭が痛くなってきました。難しいことを考えるのは苦手なんです。

 

「……分かりました。納得いかないところもありますが辺境侯の件、お受けいたします」

 

「そうか!まあ断らせるつもりもなかったんだがな。ロクシーもお前がどのようにエ・ランテルを治めるか楽しみにしている。後宮警護の任は解くが時折顔を見せてやってくれ」

 

 ロクシーさんが期待してくれてる!?頑張らなければ!!

 

 

 

 この後は沙汰なく戦勝会は終わりを迎えました。

 

 そしてこの日からしばらくして──王国より正式にエ・ランテル近郊の割譲が行われ、私は粛清騎士辺境侯として忙しい日々を過ごすことになるのでした。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

「では、今回の議題──バハルス帝国の粛清騎士、及びかの竜王……世界を滅ぼせる魔樹、ザイトルクワエを滅ぼしたと言われるアレーティアと言う王の相を持つエルフについて」

 

 

 スレイン法国の最奥──神聖不可侵の部屋にて幾度となく行われてきた会議が開かれた。

 議題は勿論、今最も法国が注視しなければならない存在に対しての今後に関してだった。

 

 粛清騎士──本名、年齢、性別、いずれも不明。法国がその存在を知り得たのはバハルス帝国の皇帝が変わった矢先だった。詳しく調べようにもその当時帝国は貴族と皇室による大政争が行われており迂闊な真似が出来ない状況だった。下手に手を出して帝国が割れ王国のように堕落してしまうのを恐れてのことだった。

 結果、現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが武力に物を言わせ刃向かう貴族達を、無能だと判断した貴族達を粛清して行き鮮血帝と恐れられるようになった……が、ここにもう一人名を連ねたのが粛清騎士という存在だ。

 王国が得ていた情報以外にも法国はその存在を察知してから巫女姫や聖典を動かすことでより多くの情報を集めていた。

 曰く、皇帝の身辺を完全に守り抜き、あのイジャニーヤすら──六色聖典には劣るが──太刀打ち出来ず最終的には拠点ごと潰したという。

 曰く、この度の戦争に参加した騎士たち全てを鍛え上げ帝国の国力を底上げするのに尽力していたという。

 曰く、民を虐げていた領主を摘発し屋敷ごと葬り去ったというなど、帝国内では話題に欠かない人物だったようだ。

 また、今回の戦争において目まぐるしい活躍をした四騎士、及び騎士団の訓練などにも携わっており要所から絶大な信頼を勝ち得ているらしい。

 ただ情報がこうして不確かなのは、この粛清騎士という存在について帝国では存在のみが恐れられ、他国にはそういう騎士がいるとしか伝わっていないからである。帝国が粛清騎士という存在を他国から隠そうとしていることは明らかだった。

 

 しかし、今まで隠してきたその粛清騎士が遂に表に出てきたとなれば法国としても情報を正確に把握するため動かずにはいられなかった。

 何故なら()()()()()()()使()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()だ。その為、この度の戦争で遠方からの監視を漆黒聖典第七席次『占星千里』が、現地での監視を第十二席次『天上天下』が執り行っていたが……最後の最後、最高位の暗殺者である『天上天下』を粛清騎士が捕捉してしまい、下手人と勘違いされ殺されてしまい亡骸まで確保されてしまうという事態に陥ってしまった。

 

 

「よもや皇帝を狙う暗殺者と思われ殺されてしまうとは……今回の王国の被害も合わせると粛清騎士の強さは英雄の領域を遥かに超えているのは間違いないな」

 

「『天上天下』を派遣したのは間違いだったのでは?これなら風花聖典か水明聖典を動かした方がよかったと思うのだが」

 

「あの時の会議で多くの人員を動かして勘づかれるのを避けるため『天上天下』一人に任せるということになったではありませんか。彼が国のため命懸けで情報を集めようとした行動に対して間違いなどどいうその様な発言は慎んでいただきたい」

 

 元漆黒聖典第三席次であるレイモンの厳しい言葉が発せられる。確かに『天上天下』は深入りしすぎてしまい、このような残念な結果に終わってしまったが情報を得るためにやむを得ずああして潜入するしかなかったのだ。『天上天下』の隠蔽スキルは漆黒聖典でも見破ることができるメンバーは二、三人ほどしかいないためまさか気づかれるとは思ってもいなかっただろうが、あの時点では最善手だっただろう。

 

「失礼した。その様なつもりはなかったのだが」

 

「たられば話を続けていても何の進展もしまい。それで、粛清騎士の情報についてはどうなんだ?」

 

「では、改めましてお手元の資料をご覧ください。『占星千里』による報告が主になっていますが──」

 

「王国軍十五万の内五万人が死亡……しかもその内三万以上は粛清騎士によるものだと?」

 

「重点的に王国の有力貴族が狙われて殺されているようですね。これは一体……?」

 

 今回の戦争における粛清騎士単体が出した被害は甚大、その気になれば王国軍全てを殺し尽くせるだけの余力を持っていたはずだ。しかし言い換えれば被害は大きいもののこの程度で済んでいるとも言えた。

 

「これは周辺国家への示威行為では?最早帝国に敵あらずといった具合に戦力を持っていることをアピールしているとすれば」

 

「それなら何故王国にそのまま攻め込まなかった?王国軍と帝国騎士団ではこの報告書を見ても実力に雲泥の差がある。時間はかかってもそのまま王国を支配するなど造作もないことだというのに」

 

「……いや、帝国はそれが出来なかったのではないか?確かに戦力は揃っているが内政となると話は別だろう。王国を併合したとして、そこを任せられる人材も育てきれていない場合国が乱れる可能性は十分にある」

 

「なるほど、それならば手始めにエ・ランテルを割譲させたのも納得だ」

 

 いきなり併呑するのではなく時間をかけて王国を呑み込む方針を取った帝国に気づいたこの場にいる面々は、流石はあの優秀な皇帝だと手放しで褒め称えた。時間はかかるがこれで本来の目的だった堕落した王国が良いものになるだろうと。

 

「そうなるとあの地を誰が治めることになるのでしょう?」

 

「未だ不明ですな。王国より割譲された日にお披露目を兼ねて凱旋が行われるとのことですのでその時に正式に発表されるものかと」

 

「では直ちに聖典の派遣を急ぎましょう。これだけの被害を出されて王国も長々と交渉を続けることもないでしょう。早ければ年内に割譲されることも念頭に置き行動すべきです。そして──法国は帝国と矛を交えるつもりはないということを伝えるべきだ」

 

 その発言に対して誰もがその通りだと頷く。元々弱き人間同士手を取り合い人類を脅かす脅威に団結して立ち向かうべきなのだから。

 

「そうすると『天上天下』のことは諦めざるを得ないか?」

 

「やむを得まい、万一我々が仕向けたとバレてしまえば国家間での軋轢になりえる。非情な決断だが……幸いと言っては不謹慎だが帝国には蘇生魔法の使い手はいない。我々の手の者だと明確にバレることはないだろう」

 

「惜しい者を亡くしたな……粛清騎士、ヤツは神人なのか?それとも──」

 

「もしかすると『神』の降臨である可能性も否めません」

 

 その言葉にこの場の空気が張り詰める。来るべき時が来たと。

 法国の上層部にのみ伝えられている百年の揺り返し。六大神や八欲王といった真なる竜王すら上回った強さを持ったぷれいやーという存在が遂に降臨したのではないかという疑惑に誰もが身を固くせずにはいられない。

 

「口伝からおよそ二百年か?多少前後するだろうが確かにその可能性は大いに考えられる」

 

「此度の神が粛清騎士だとすると納得するところもあるが、もしそうなら皇帝はよく神を御し得たな。これは偉業だ」

 

「ならば『占星千里』や巫女姫の情報系魔法が通じないのも頷ける。相応のマジックアイテムを身につけているに違いない」

 

「と、なると……かの魔樹、ザイトルクワエを滅ぼしたのは粛清騎士なのではないか?」

 

 シーンと誰もが言葉を発さなくなった。

 会議のもう一つの議題、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ある日、巫女姫からの報告でトブの大森林の奥地で凄まじい魔力による破壊が確認された。遂に破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が目覚めたかと漆黒聖典に出動命令を下したが──その場に赴けば残っていたのは破壊の跡。かなりの範囲にその傷跡が残されており破滅の竜王はこの地を去ったかに思われたがここで現地で全てを見ていたというドライアドを発見し接触。そして恐ろしい事実を話した。

 

『アレーティアって白髪の眼の色の違うエルフの人があの魔樹を滅ぼしたんだ!』

 

 アレーティアという名前に覚えはない。しかし、白髪、眼の色が違うというのが問題だ。その容姿を持つエルフはこの世におそらく二人、そして名前が分かっていないアレーティアと呼ばれるだろう存在は一人しかいない。

 

 

「かの破滅の竜王──いや、世界を滅ぼせる魔樹ザイトルクワエを滅ぼしたアレーティアなるエルフは……あの忌々しいエルフ王の娘の可能性がある、だったか?」

 

「はい、エイヴァージャー大森林に移住したとされるダークエルフは元々はトブの大森林の北部に住んでおり、なんらかの脅威から逃れるために抜け道を作り脱出したと捕らえたエルフの伝承に残っていると。ただし、今ではその方法は失伝しているようですがあの娘ならそれを再現し森同士を移動することも可能かと」

 

 語られるエルフ王の娘、即ち王女である王の相を持った女エルフ。存在が確認されてから幾度となく抹殺、もしくは捕えるべく精鋭を送り続けたが悉くを上回りついには陽光聖典すらも軽くあしらって逃亡している。しかし、陽光聖典との接触を最後に長年姿を見せていなかった。

 

「つまりだ……あの王女はあのエルフ王と同等かそれ以上の力を身につけたと」

 

「厄介な……エルフ自体はどうでもいいがあの二人だけは何としてでも仕留めなければならん」

 

「問題は漆黒聖典で対処出来るかだがその前にだ……この粛清騎士と王女が同一人物かどうかが問題だな」

 

 そう、これこそが今回最大の議題。粛清騎士=エルフ王女であるか否か。

 

「王女が姿を見せなくなった時期と粛清騎士が現れた時期は一致する。これはもう確定なのでは?」

 

「いや、そう決めつけるのも早計だろう。それだけで同一人物と断定するのは難しい」

 

「しかし王の相を持ったエルフならやはり──」

 

「降臨された神──粛清騎士が偶然エルフで王の相に近い容姿をしている、という線もあるのではないか?」

 

「うーむ……顔や容姿が確認出来れば判断しやすかったのだが……」

 

 誰もが思慮に耽る。もしも、たられば話になるがそれもあり得なくはないのだ。

 ただ、心のどこかで粛清騎士とエルフ王女を結びつけたい気持ちがあるのも否定は出来ない。

 ここでこの場にいる十二人の内一人が報告書を目にしながらポツリと呟く。

 

「いや……やはり違うか」

 

「何か気づかれましたか?」

 

「ああいや、一度情報を整理しようとしていたのだが改めて見るとやはり粛清騎士とエルフ王女は同一人物と言い張るのは難しいと思ってな……。

 まず、この二人は戦い方がまるで違う。エルフ王女は精霊を使役する森祭司(ドルイド)であったが、対して粛清騎士は武技と思われる広範囲攻撃を多数使用している。これを魔法と受け取ることも可能ではあるがそれでも結びつけるのは難しいのではないか、と思ったのだ。

 それにだ……もしも、エルフ王女が粛清騎士だったとした場合、何故かの竜王が動かないかが不思議でならん。宝物庫を守るあの子ですらやつに感知させないためにあの場に留まってもらっているのに何故やつは自由に動けるのかともな」

 

 その考えを聞き確かにそうだと同意の声が上がる。

 確かに結びつく実力者であることに間違いはないが、戦い方からは目を逸らしていた。確かに魔法を使える戦士も法国にいないことはないが、余程の実力者──英雄やそれを超えた逸脱者、神人でもなければどちらも同等の、それも竜王クラスの敵を倒せるほどの強さを持つことは不可能だろう。

 それにあの白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)が動かないのも不可解だ。そのまま放置しているのはどういうことなのか。

 

「……やはり粛清騎士とエルフの王女は別人ではないか?」

 

「かもしれんな。それにもしも同一人物なら何故帝国にこれだけ手を貸すのかが不明だ。エイヴァージャー大森林とカッツェ平野で法国を挟み撃ちという線も考えられるがそれはいくらなんでもあり得まい」

 

「どちらにせよ警戒は必須だ。トブの大森林に現れたのならば今後あの地を治める帝国に恐るべきエルフの王女の情報を共有して対策すべきだ」

 

「何としてでもかの方の恨みの一つでも晴らさねばならないからな。彼女のためにも──」

 

 そうして思い浮かべるのは宝物庫を守護する彼女──番外席次だ。

 この場にいる誰よりも年齢は上だが、外見上子供のように見えるためどうしてもそのように扱ってしまう節がある。

 

「しかし良いのか?母こそ違うだろうが腹違いの妹になるあの王女を殺すことになって」

 

「だから極力捕らえて彼女に判断を任せようということになったではないか。半分とはいえ血が繋がった姉妹なのだから。例え忌々しいあのクソ野郎の血を引いていたとしても」

 

「だが捕えるのはもう難しいでしょう。もし捕捉することが出来たら、彼女を直接向かわせるか、もしくは──ケイセケコゥクによる支配を念頭に入れるべきです」

 

 ケイセケコゥク。その実態は世界級(ワールド)アイテムであり、あらゆる耐性を──世界級アイテムを所持している相手には効かないが──無視して魅了することが出来る六大神が遺した秘宝だ。

 これを扱える人間は限られており現在はカイレという老婆がこれを身につけている。

 

「では、今後トブの大森林にも警戒網を敷きエルフの王女については発見次第、漆黒聖典及びカイレを出動させるということでよろしいでしょうか?」

 

「……異議はないようですね。では決定ということで」

 

 

 こうして、この議題は終わり次なる議題へと移って行った。

 

 

 その後エ・ランテルの割譲が行われ、統治者が粛清騎士と知った法国は頭を抱えることになってしまった。

 

 

 

 

 






アレーティア──辺境侯になってしまった。部下にはルミリア。後は分かりますね?
短杖の名前は未定。作者が思いつかなかった()

ルミリア──念願叶ってアレーティア直属の部下になった。実は実家は既にジルクニフによって没落しており、親が復権のため政略結婚させようと躍起になっているだけでルミリアはまるで興味が無い。何故なら領民から搾取してきた悪しき貴族だった実家と縁を切りたくて騎士になったから。

ジルクニフ──爵位をアレーティアに与えて身分上ならアレーティアと結ばれても問題ないように策を練っていた裏設定。ただしルミリアと組ませてしまったのでしばらくは胃痛に苦しむことになる。策士策に溺れるとはまさにこの事。ロクシーから一周回って馬鹿なの?とか言われてそう。
何度も言いますがナザリックが来る世界線でジルクニフとアレーティアが結ばれることはありません(無慈悲)

スレイン法国──粛清騎士=エルフ王女(アレーティア)まで迫ったのに少し遠のいてしまった。まあ仕方ない。
帝国に蘇生魔法を使える者がいないからと安心しているがアレーティアが使えるため安心できない。むしろこれから帝国との間に軋轢が生まれる可能性大。

番外席次──アレーティアの腹違いの姉。心境は複雑。会っても即効殺したりは多分しない。


感想、高評価などいただけると生きる活力になりますのでどうぞよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。