転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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アンケート回答ありがとうございました。


エ・ランテル編は予定では後二、三話で終え、王都粛清編を終えた後にようやく原作合流する……はず(ガバガバプロット)




アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part5 ウェルカム・トゥ・エ・ランテル

 

 さあ!遂にこの日がやって来ました!ラナーをエ・ランテルに迎える日です!

 かつての城を改築し、それなりに見栄えも良く、住みやすい物件になりました!お代の方は如何程かって?

 ドワーフには私の鍛治指導とお酒です。他の生活は元々面倒見てるんでそこまでって感じですね。

 他の作業員には勿論金銭を支払ってます。金払いだけはかなり良い方だと自負しています。

 

 

 とりあえず、ラナーを迎える前にやるべきことをやっておきましょう。

 

「各員傾聴!」

 

 私の号令で集めた騎士達、及び関係者一同が聞く姿勢になりました。

 これから迎える相手の説明に入ります。

 

「よろしい。これからアダマンタイト級冒険者チーム蒼の薔薇の護衛の下、王国より私の婚約者ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが来訪し、私の城に住むことになります。

 正式な婚姻はまだ先になりますが、私の婚約者ですので丁重にもてなす様に。

 それと同時に、王女達ての希望で王国から警護の兵士を一人迎えることになりました」

 

 この報告に騎士達に少しばかりの動揺が走りました。

 これより帝国の民となる元王女の警護は自分たちに任せてもらえるはずだった……と任される筈の仕事が、奪われてしまう事に対する憤りの様なものを感じました。

 

 確かに今の帝国騎士達の士気は高く、成果を上げれば上げるほどより給金も待遇も良くなり、私や四騎士、ジルクニフからの覚えも良くなれば次期四騎士も夢ではありません。

 この私の婚約者であるラナーの警護の任に選ばれれば、私からの覚えが良くなり出世に繋がると考えた騎士は多かったことでしょう。

 しかし、この様にラナーは専属の警護としてクライム君を連れてきてしまい、その希望が泡となって消えてしまいました。これは騎士達にとっては面白くありません。

 

「納得していない者が多いようですが、これは決定事項です。

 専属護衛を希望してのことですから、無下には出来ません。

 そしてここからが重要なんですが、その兵士を下に見る、バカにする、侮ると言った行為を発見し次第、その者は男女問わず『丸禿げの刑』に処すものとします」

 

 丸禿げの刑とは、私とルミリアがかつてボンクラ貴族の騎士に行った刑であり、文字通り一つ残らず全身の毛を毟り取り、衣服を剥いだ上で公共の場に放り出す尊厳の破壊を主とした刑罰です。

 私としては上から三つ目ぐらいに厳しい罰ですね。過去四度ほど行いました。

 

 それを知っている騎士達は一斉に「ええっ!?」という声を出していましたが、一体何に驚いているのか。

 逆にボコボコにされた方が嬉しいんですかね?

 

「理由を話せば──その兵士もこれより帝国の民となり、今後は兵士としてではなく騎士としても学んでもらうことになります。

 つまり貴方達の後輩になるのです。

 そして、全ての騎士の育成を任されている身としては──そう言った外部から来た者を排斥するような騎士は不要だなと

 

 ここで少しばかり〈威圧〉を発動。騎士達に殺気と間違えかねない圧力を与えます。

 

「勿論、贔屓しろとは言いません。新入り、見習いの騎士達に接する様な、ごく普通の当たり前の接し方をすれば問題ありません。いいですね?」

 

「「「「「「「りょ、了解しました!!」」」」」」」

 

 これで一つ懸念すべき点が無くなりました。

 仮にクライム君をラナーの前で貶したりしたら、間接的に死に追いやられますからね。それに比べたら尊厳を失う程度可愛いものです。

 

 それに今後、王国を併合した後の事や人間種以外との付き合いも出てくるので下手な偏見はここらで捨ててもらわねば。

 

 後は態々、この為だけに生まれながらの異能(タレント)を使ってまで得た魔法で──。

 

 

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 リ・エスティーゼ王国の王家の紋章が施された、豪奢な造りの馬車がエ・ランテルに向かう街道を走る。

 その周囲には二人の姉妹ティアとティナ、上空には仮面を着けた魔法詠唱者イビルアイがおり警護を務めている。

 馬車の中には四人。護衛対象であるラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフとその従者であるクライム。そして、同じく中から周囲を警戒するのはこの護衛の依頼を引き受けた、アダマンタイト級冒険者チームである蒼の薔薇。そのリーダーであるラキュース・アルベルン・デイル・アインドラと戦士であるガガーランがそこにいた。

 

 

「いよいよエ・ランテルに近づいてきたみたいね。……ねぇラナー、今ならまだ」

 

「いいんですラキュース。ここまで来て逃げ出すわけにはいきません」

 

 最後の提案もあっけなく断られる。ラナーの決意は固く、ラキュースも引くしかなかった。

 馬車の中の空気が重いものに変わり、誰も口を開かない。

 そんな空気を嫌に思ったのか、それとも少しでも話題を変えようとガガーランが口を開く。

 

「……それにしても帝国領になってからエ・ランテルに来るのは初めてだな。あの粛清騎士が治める交易都市……一体どんな風になってるのか」

 

「そうね。あまりにも情報が手に入らなさすぎて不気味だったわね。

 まるで誰かが意図的にエ・ランテルの情報を封鎖している様に思えたわ」

 

 蒼の薔薇のメンバーはそれぞれラナーの依頼を受けてからと言うものの、エ・ランテルの情勢を掴むべく商人や、エ・ランテルに親類を持つ家庭、冒険者組合も含めて聞き込みや調査を独自に行なったものの、地下神殿に潜伏していたズーラーノーンと、野盗と化した傭兵団『死を招く剣団』の掃討と言った情報程度しか入手出来なかった。

 冒険者組合に至っては、エ・ランテルでの仕事が軒並み無くなったからと王都に移動してきたミスリル級冒険者チームが二つ訪れていた。しかしながら、王都の状況を見て再び別の都市へと出て行ったと言うニアミスがあったぐらいだ。

 

 よって、今のエ・ランテルがどういう政治が行われているのか全く分からない状況だ。

 もしかすると、粛清と言う名目で民を虐殺し弾圧している……なんて悪い想像をしてしまう。……いや、あくまであの戦争での被害とは関係ない筈だと、ラキュースは頭を振っては思考を飛ばした。

 

 そうしている内にエ・ランテルの城壁が見えてきた。自分たちの知識にあるエ・ランテルとはあまり変わっていない……かに思われた。

 

「な、なんだいあれは!?」

 

 馬車から身を乗り出しガガーランが声を上げる。

 見えた城壁は自分が知っている物とは、明らかに姿が変わっていたのだった。

 

「恐らくだが、城壁全体に何らかのマジックアイテムを大量に設置しているのだろう。

 ……一体どれだけの数を用意したんだ? アレだけの数、作るにも用意するにもとんでもない額の金が必要だぞ?」

 

 思わず思考が乱れる程度には驚いたラキュース達。イビルアイですら驚きを隠せなかった。

 その城壁には槍や弓の様なマジックアイテムの数々が設置されており、どの様に使われるかは不明だった。だが、エ・ランテルに攻め込むモノなら、アレらが一斉に起動して迎撃戦が始まるのは言うまでもないだろう。

 良く言えば有事に備えている。悪く言えばあまりにも過剰な戦力が常に外へ向いている。

 

 思わず身を固めてしまうが、それらが起動することはなく無事門へと辿り着いた。

 検問の手順なのだろう、騎士達が駆け寄っては馬車の紋章とラナーの顔を確認し、駆け寄った騎士達の一人が誰かに報告しに行く。『大変申し訳ありませんが、ここでしばらくお待ちください』そう別の騎士が声を掛けた後、馬車から離れていった。

 しばらく待つと、軍服を纏った女性が現れた。

 

「お待ちしておりましたラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ様。私、辺境侯より居城への案内を任されております。補佐官のルミリア・リイル・アーチゾルテと申します」

 

「初めましてルミリアさん。こちらは護衛を務めて下さった冒険者チーム蒼の薔薇の方々と、私共々お世話になる兵士のクライムです。どうぞよろしくお願いします」

 

「初めまして、クライムと申します」

 

「ああ、クライム君。これから同じ都市で働く間柄だ。よろしく頼むぞ」

 

 ルミリアとクライムが固い握手を交わす。蒼の薔薇のメンバーはこれを見ただけで、いくつか帝国への偏見はなくなった。

 何故かと言えば、王国ならクライムと──平民と握手をする様な人物はいなかったからだ。しかし、目の前の人物は名前から分かる通り間違いなく貴族の生まれだが、何の迷いもなく握手をした。

 これだけで、帝国に身分だけで偉ぶる様な人間はいないのだと感じてしまう。

 

「では、宜しければ蒼の薔薇の方々もこちらへ。辺境侯の下へ案内します」

 

「ええ、是非お願いするわ」

 

 

 

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「おぉ……」

 

「凄いわね……ここまで活気があるなんて。今の王都とは大違いよ」

 

 ラキュース達は、八本馬(スレイプニール)の引く馬車に乗り辺境侯の住まいである居城へと向かっていた。

 八人乗りの大人数だが、用意されていた大型馬車は窮屈さを感じさせない造りになっており、少々手足を伸ばしても問題はない程度の空間が確保されていた。

 道中、馬車の窓から外を覗けば、人間だけでなくエルフやドワーフと言った他種族の姿も多く見られる。

 建物の建て替えのためか建築の音が聞こえてくるが、その音はこれからエ・ランテルが生まれ変わるのを祝福しているかの様にも聞こえた。

 道も綺麗に整備されており、揺れる馬車も造りがいいからか、それとも道がいいからか、殆ど揺れることなくスムーズな走りをしていた。

 また、住民達の表情に曇りはなく、とても活き活きとしていた。

 時折聞こえる声も弾んだものが多く、生活が充実している様にも感じられ、何だか心が洗われる様な気持ちになる。

 

「簡単に説明させていただきますと、現在のエ・ランテルでは交易だけでなく建築や鍛治、芸術などの文化にも注目が集まっています。

 中でもドワーフの方々へ弟子入りした者も多く、良い装備が手に入ると言うことで冒険者も多く訪れます」

 

「へぇ、良い装備ねぇ。あの城壁に設置されているマジックアイテムも売っているのかい?」

 

 ガガーランは少しばかり探りを入れる。

 情報は力だ。如何に知っておくかが冒険でも生死を左右するかを良く知っている。

 マジックアイテムは特に重要で、用途によっては窮地を脱することも可能なものがあるため、そう言うアイテムの情報は特に重要だ。

 

「ご覧になりましたか。城壁のマジックアイテムについては販売はしていませんが、あれらは全て辺境侯の手で作られたものです」

 

「なん……だと!?」

 

 蒼の薔薇だけでなくクライムも驚きの表情を浮かべる。唯一驚いていないのは──驚いている振りはしているが──ラナーだけだ。

 そもそもマジックアイテムはそう簡単にホイホイと作れるものではない。強力であればある程、作るのに時間がかかる。それ故に高価で取引され、重宝されるのだ。

 それを作れることに驚きはしないが、驚くべきはその作成量と速さ。三年程度でアレだけの数のマジックアイテムを作れるのは普通ではない。異常だ。

 イビルアイは特に二百五十年以上の時を生きているだけあり、その異常さをなおのこと感じている。かつて戦った仲間達にも、ここまで出来るヤツはいなかったと断言してもいい。

 

「驚きの様ですね。それも当然です。辺境侯は文字通り格が違うのです。それこそ一つ程度では足りません。あのフールーダ様でさえ、この速度でマジックアイテムを作ることは適いませんから。

 ……もしも辺境侯の作られたマジックアイテムをお望みなら、近日中に行われる競売会にて一品、目玉商品として出品されるそうなので参加してみてはいかがでしょう?」

 

「競売会……ですか?」

 

「はい。十日に一度、多くの職人や技術者などが自身の作品を公の場で発表し、それを商人達や冒険者が幾らで買うか金額を提示し合い、その額を競い合う販売会のことです。

 この場では様々な分野の物が売られます。そして、この場で買われたものは注目を浴び、場合によってはそこから商人と契約したり、仕事の依頼のキッカケになるので多くの方がチャンスを狙って参加します。

 この会のお陰で切磋琢磨する職人達が多く、新たな技術が生まれることもあり、職人達の集いはいつも賑わっています」

 

 クライムは内心興奮していた。今の王国では見られなかった賑わいがそうさせているのか。それとも、平民が公で活躍する場があると言う事実がそうさせているのか。

 どちらにせよ、この都市は平民にも優しい。まるでラナーの理想を体現した様な都市で既に居心地の良さを感じている。

 

「素晴らしい会ですね。しかし、その様な会でトラブルが発生することはないのですか?」

 

「ああ、それについては絶対にありません。まず参加するのに身元をハッキリさせないといけないので後ろ暗い者などはそもそも参加出来ません。

 万が一、窃盗、強奪、もしくは出品者への妨害など違法行為が行われれば……」

 

「行われれば?」

 

「私ら騎士か、もしくは辺境侯──この場合は粛清騎士が裁きにやって来ますので」

 

 ああ、と全員が納得する。

 あの戦争で万を超える兵士を殺し尽くしたかの騎士……辺境侯を誰が敵に回したいか。敵になれば間違いなく死ぬ。生きたければ不正を行わなければいい。

 その名と存在が抑止力となり、治安の向上にも繋がっているのを改めて実感した。

 

「他にも紹介したい場所など多くあるのですが、申し訳ありません。まもなく到着しますので、ご準備を」

 

 

 

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 辺境侯の住まいとされる居城に到着し、一行は入城後にルミリアの案内の下、廊下を進んでいく。

 廊下は大理石の様な鉱物で作られており、高級感を感じさせる作りになっている。その端々には、精巧な白磁の肌を持った人と見間違える出来の石像が飾られている。

 

「元々あった城を改築……というよりこれはもう新築だな。どこもかしこも魔法的守りが施されている」

 

「それだけじゃない」

「正門以外からじゃ侵入しづらい設計になってる。それに仮に入れたとしても……」

 

「そこの石像が動き出す、と言うところか?」

 

「その通りです。それも辺境侯が作られたゴーレム。下手をすれば私でも勝つことは困難な強さのゴーレムが侵入者を排除する様になっています」

 

 とてもゴーレムには見えないと思わせる程の精巧な造りだ。このまま動き出しても確かにおかしくはない。

 そして、目の前の女騎士──ルミリアを上回りかねない強さを持つ、と言うのはにわかには信じ難いが。

 

「……辺境侯は一体何者なんだ?騎士としての圧倒的実力、マジックアイテム作成、それにゴーレムまで……。いくら才能があってもそれが理由にはならないな」

 

 イビルアイの脳裏に"ぷれいやー"と言う存在が浮かび上がる。

 かの神人をも上回る存在ならばもしや……?

 思考の海に沈もうとしているイビルアイを見たラキュースは咄嗟に肩を揺すり意識を浮上させた。

 

 これから会うのは王国でも悪評しか流れていない危険人物。都市を見て半ば悪人ではないと感じているが、もしもの時に備えて──。

 

 そして、目的の場所へと辿り着き扉が開かれる。

 

 

「失礼します辺境侯。婚約者であられるラナー様と従者であるクライム殿。そして、アダマンタイト級冒険者である、蒼の薔薇の方々をお連れいたしました」

 

「ご苦労」

 

 

 ──そこに辺境侯を名乗る()がいた。

 白金の髪を肩まで伸ばした長髪に、目元を隠す怪しげなバイザーを着けている。

 身に纏う衣服は貴族の着る様な豪奢なものではなく、騎士達を率いるに相応しい風格を備えた軍服を身に纏っており、非常に似合っている。

 

 

「では挨拶を。私が辺境侯……いや、粛清騎士。

 ()()()()()()()()()だ。どうぞよろしく」

 

 

 

 






アレーティア
丸禿の刑の考案、実施者。下の毛も毟った。
居城の廊下に飾ってある石像はアレーティアのスキル〈中位ゴーレム作成〉で作られたゴーレム。
ギリシャ彫刻を思わせる出来栄えのゴーレム。詳細は後のキャラクター紹介で。
なお軍服を着ている理由は今後のため。主に動く黒歴史を作った人の心を射止められないかなー程度の願望。


アルス・ティアーズ
一体何ーティアなんだ……?


ラナー
計画通り(ゲス顔)
もうすぐ夢が叶うと内心はしゃいでいる。


蒼の薔薇
驚きの連続。次回、ラキュースに中二病の魔の手が迫る。


エ・ランテル
この時点で最早原作とは比べ物にならないぐらい発展している。
下手したら帝都を超える活気がある。
あまりにも発展しすぎてジルクニフは驚きで思考停止した挙句、山のような事後処理を押し付けられた。文官がもっと欲しいと胃痛と戦いながら、彼は今日も頑張る。


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