転生したらオバロ世界のエルフだった件について 作:ざいざる嬢
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アレーティアとエルフと亡命者たち 〜ギルドごと転移したプレイヤーの気持ちがなんとなく理解出来た日〜
蒼の薔薇がこの都市を離れてから数ヶ月程が経った頃。
私は庭園でのんびりとした時を過ごしていました。
クアゴアの受け入れ態勢が整い、夜間の警備、巡回を一任出来るようになったため騎士達の夜間の仕事が軽減されました。夜は羽を伸ばせる事でしょう。
休みというのは人間にとって重要なファクターの一つです。この世界では毎日働いて当たり前みたいな風潮がありますが、転生者である私は違います。そう、休みたい。サボりたい。この精神が常に心のどこかにあるのです。
なので、私も仕事をしない日を定期的に作りリフレッシュしています。当然、部下である騎士、文官もその例に漏れません。
文官は一時私が休むことによって生じる諸問題に悲鳴を上げていたようですが、ラナーがここに加わることで解決し、更に彼女の手腕でこうした事務作業がかなり円滑に進むようになったとか。出来る女は違いますね……一応同じ王女なのにどこで差がついたんでしょう?
休みと言えば、メイドの扱いに関してすごく困っています。
ご存知かもしれませんが、私の雇っているメイドは全員エルフです。何故かと言えば素顔を見せれば絶対の忠誠を誓ってくれるからですね。裏切りもしないし、仕事も皇城のメイド達と比べても遜色無いレベルにまでなっているので非常に有用です。
王の相ってこういう時に便利ですね。初めて有り難みを感じました。
なのですが、彼女達は休めと言っても休まないのです。
理由を聞けば『奴隷となった私達を救って下さった王女様に恩を返させて欲しい』や『王族である貴方様に仕えるのは当然の事。名誉な事です』と言った返答ばかり。
確かに、私のメイドエルフ達は元々帝国のクソ貴族が買っていた奴隷エルフ達でした。当時、丁度粛清対象だった貴族を取り潰すついでに解放したのをよく覚えています。
切り落とされた耳も治し、森に帰ってもまた狩られるだけになってはいけないと思い、どうせなら皇城で働かせようとジルクニフに教育を任せ、私が屋敷を貰った時に引き取ってそのまま……と言う流れでした。
この時に彼女達を安心させる意味で素顔を見せて同族だと教えたところ、前述した通りになったというわけです。
あの返答を受けた私は、これがナザリックの支配者の気持ちなのか……と身を以て思い知りました。
王の相って滅茶苦茶不便ですね。こんな我が身を顧みない忠誠心は要らないんですよ。レイナースぐらいに留めて……いや、彼女も今は……。
まあ、休まないのが欠点とは言えメイドエルフ達はよくやってくれています。他にも男エルフで執事をしている者や、文官になった者もいて非常に助かってはいます。全部で三十人ぐらいでしたっけね?
「アレーティア様、ご報告が」
おっと、噂をすればエルフの一人がここに。彼女の名前は……確か赤いボーイッシュな髪が特徴のアセロラですね。彼女はメイドではなく、私が鮮血騎士の座を与えている武闘派エルフです。
鮮血騎士とは言ってしまえば私が新設した組織です。帝国騎士団とは別であくまで私の手勢、私兵扱いです。
仕事としては騎士団では手に負えない様な事態を未然に防ぐ為行動する……法国で言う六色聖典に近い仕事をしています。
この前のズーラーノーンの拠点の掃討などがそれに当たりますね。この戦いでブレインがクレマンティーヌを討ち取ったのは記憶に新しいです。
鮮血騎士の強さと言えば、一部は四騎士に匹敵するか上回ります。最低でも精鋭騎士以上四騎士未満ですね。アセロラは互角と言ったところでしょうか。流石にナザミには敵いませんが。
「どうかしましたか?」
「はい、どうやら北の検問所の方にリ・エスティーゼ王国のザナック第二王子を自称する一団が現れたと。ラナー夫人との面会を希望している様なのですが、先触れもなく現れ、身分を証明出来る様な物も持っていなかったので、王国で面識があったクライム殿が向かって本人確認を行うとのことです」
私……ではなくラナーを訪ねに謎の集団が現れたそうです。
ラナーを訪ねに来るという事は相手はザナックでほぼ間違いないでしょう。王都はラナーの仕掛けた爆弾が爆発する頃だと聞いていますし。
いや、ホント彼女有能過ぎて怖いですね。要らない貴族やら勢力を本当に一纏めにしてくれたんですから。後は処分するだけです。
同時に敵に回したくもありませんね。早くクライム君と結ばれる様にしなければ……。
「クライムから身元の確認が済み次第、城に案内してあげてください。それと、ラナーにも報告を。私も向かいます」
「畏まりました」
さて、原作が始まる前の大仕事と行きますか!
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エ・レエブルから数日かけて無事エ・ランテルへと辿り着いたザナックとガゼフ率いる戦士団数名は検問所で足止めを食らっていた。
理由としては先触れもなく王子を名乗る人物が現れ、その名を騙る偽物なのではないかという疑いがあったからだ。
ザナックもそう言った教育を受けてはいたが、ガゼフと言う存在がいるとはいえ襲撃に備え護衛を減らすことが出来ず、この様な事態を招いてしまった。
レエブン侯の私兵を借り受けることが出来ていれば、避けられた事態ではあったが、レエブン侯も八本指の手勢に狙われているため──何より愛する息子を危険に晒さないために借り受けることが叶わなかった。
とはいえ、それは仕方ないとザナックは割り切った。愛する者が危険に晒されるのを益々見逃すことは出来ないと理解したからだ。
それに、この都市には妹の寵愛を受けたあの男がいる。あの男に出会えれば身分の証明は可能だ。
そうして待っていると、お目当ての男が現れる。クライムだ。
「これは……お久しぶりですザナック殿下」
「久しいなクライム。手間をかけさせてしまってすまなかったな」
少々驚いたような反応を見せたクライムを見てザナックは何に驚いたのかと思い──ああ、と思い当たる。
何せ数日身を清めることも叶わず、食事も簡素なものしか摂っていない。ストレスもあり髪も乱れ、痩せたのか頰も欠けている。かつての自分を知っていれば驚いてもおかしくないだろう。
尤も、こう言った野外での活動に慣れているのかガゼフと戦士団にはそう言った変化は見受けられないが。
「クライム殿。こちらの方々はリ・エスティーゼ王国のザナック第二王子と王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの一行で間違いないか?」
「間違いありません。通していただいて問題ないと思います」
「了解した。わざわざ呼び出して済まなかったなクライム殿」
気安く肩を叩き合うクライムと騎士の二人を見て一行は驚く。
かつて、王城でクライムがあの様に誰かと気安い関係を築けていただろうか?答えは否。
生まれが平民──ましてや、孤児だったと言う過去もあり、王城では兵士だけでなくメイドにすら蔑まれていた。
それが今はどうか。帝国の騎士達は生まれなど関係ないとばかりに距離が近い。人間関係が良好なことを知ったガゼフはこのことをとても喜ばしく感じた。
「では、入場を許可します。長々と拘束してしまい申し訳ありませんでした」
「いや、構わないとも。それが諸君らの職務だからな。……ところでクライムよ。妹と面会したいのだが可能か?」
「今の時間は辺境侯の仕事の手伝いをしているはずなので少々難しいかと……。ですが、約束を取り付けることは可能です。宿でお待ちいただければ、会う日取りを取り付けてきますが」
「そうか、ではよろしく頼む。俺たちは黄金の輝き亭にしばらく滞在するつもりだ。誰かしら人は残すから、分かり次第伝えてくれ」
「かしこまりました」
こうしてザナック一行はエ・ランテル入りを果たした。
彼らが真っ先に向かったのはエ・ランテルで一番の高級宿である黄金の輝き亭だ。
幸い、資金はレエブン侯から借り受けることが出来たため、現状金に困ることはないが無駄遣いは避けたい。
本音を言えば最高級の宿でなくても構わないのだが、王族がそこらの宿においそれと泊まることなど出来るはずもなく、面子のためにもこの宿にしたのだ。
馬を泊め、受付をし部屋へと案内され、ザナックが一番最初にしたことは入浴だ。慣れない野宿をしたせいで体の至る所が汚れており、こんな格好でラナーに会うわけにはいかない。
追われている身ではあるが、腐っても王族。身嗜みを整えるのは当然のことだ。
しかし、王都にいた時は側仕えの侍女たちに介助を受けていたが、この場ではそういった人物はいない為、少々手間取ったことをここに記しておく。
身嗜みを整え、数日振りの豪勢な食事に舌鼓を打ちザナックの心には少しの余裕が出来た。
あのクーデターから激動の日々が続き、追手にも警戒しなければならない毎日に神経を擦り減らすような感覚を抱いていたが、今はそれもない。
本来ならば敵地へと赴いているので周囲を警戒しなければならないだろうが、不思議とこの都市に来てからは心が安らいでいた。
それは、この都市にレエブン侯と共に化け物と称したあの妹がいるからか。それとも、かの戦争で圧倒的な力を披露したかの粛清騎士こと辺境侯が治めている地だからか。どちらとも言えないが、何かしらの要因があるのだろう。
「殿下、先触れが来まして明日ならば面会が叶うとのことです」
「そうか。直近の日が空いていたことに感謝すべきだな。なら、お前達も今日は休め。本当の決戦は明日になるぞ」
明日の面会、ここでなんとしてでもラナーの……帝国の協力を仰がなければならない。
決意を胸に、ザナックは眠りに就いた。
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翌日、朝食を終えた頃にクライムが迎えの馬車と共に現れた。
馬車には帝国の国家とは違う紋章が付けられており、この紋章が辺境侯のものだと理解するのに時間は掛からなかった。
馬車に揺られ、辺境侯の邸宅である城へと向かう。
馬車からは王都とはまるで違う、生き生きとした元王国民達やドワーフ、エルフと言った種族の姿が見られる。
王国では他種族の姿があまり見られないが、帝国ではドワーフとエルフの二種族が法によって守られているので、このエ・ランテルだけでなく帝都アーウィンタールでも時折姿が見られるようになったと言う。
「今の王都に比べて、この都市の民はとても生きているな。羨ましい限りだ」
「……王都はそこまで酷い状況なのですか?」
クライムはラナーと共に王国を出る際、王都が、王国がどうなるのか思わずにはいられなかった。エ・ランテル──帝国に来てからはその暮らしに慣れるのと、騎士たちとのコミュニケーションや訓練、勉学などを共にしており、かつて暮らしていた王国のことを段々と思い出さなくなっていた。
それでも、王国から馬車にも乗らず馬で駆けてきたところを見ると、何か悪いことが起こったのを感じずにはいられなかった。
「……そうだな。詳しくは着いてから話すが、端的に言えば国王陛下が弑虐され兄が王になった。そして、俺は兄に命を狙われていると言うことだ」
「なっ!?そ、それはつまり……ラナー様も危ない!?」
どうしてそうなる。お前の主人はこの国で最も強い人物と結ばれているだろうが。と思わず口に出しそうになったがザナックはグッと言葉を飲み込んだ。
「可能性は無きにしも非ずだが、王位継承権は王子にしか存在せん。それに今は嫁いで帝国民になっているから、そう心配することはなかろう」
仮に、もしもあの兄が自分だけでなくラナーの命まで狙ったら、それこそ王国は終わりだ。あの死神の様な騎士の怒りを買えば、帝国が本腰を入れて攻め入り滅ぼされるだろう。
ザナックは戦争に参加していないが、戦士団の生き残りとガゼフはその身を持って帝国の強さを理解している。それ故に絶対に敵対することだけは避けてくれとも進言されている。
当然、敵対するつもりは微塵もないが相手がどう出るか分からない。
なので、まずはラナーだ。ラナーに現状を聞かせて、そこから帝国へ協力を取り付ける。あの賢い妹が──内心化け物と呼んでいるが──上手い案を出してくれると信じている。
仮にこの面会に辺境侯が参加しようと問題はない。寧ろ手間が一つ省けるし、皇帝の片腕とも言われる人間だ。より確実に帝国の協力を得ることが出来るかもしれない。
勿論対価として、代償としてラナーにも帝国にもメリットのある交渉をしなければならないが、それはいくつか候補はある。
それを提示し、それでもダメなら──王国そのものを差し出す覚悟だ。
会話を終え、しばらくすれば目的地である城へと辿り着いた。
ここからが一世一代の大勝負。ザナックは深く深呼吸を何度か繰り返し──
「行くぞ」
ただ一言、護衛として、家臣として後ろを着いて歩くガゼフ達へと告げ入城した。
そして──
「お久しぶりですね、お兄様。それとこちらが──」
「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありませんザナック殿下。改めまして……この都市近郊を治めています。アルス・ティアーズと申します。どうぞ、お見知りおきを」
出迎えたのはラナーだけではなく、辺境侯──粛清騎士も同時だった。
アレーティア
ナザリックの支配者の気持ちを僅かながら理解した。
鮮血騎士は騎士団から選んでいるのではなく、アレーティア自らがスカウトした者ばかり。普段は別の仕事をしている者が多い。
メイドエルフ達、元奴隷エルフ
元奴隷なので職業レベルにスレイブが存在する。
それはそれとしてメイドとしては有能。ナザリックとまではいかないが、かなりハイレベル。文官や騎士、レンジャーになった者もおり、アレーティアのために努力し高い技能を得ている。
全員救われた際にアレーティアの素顔を見ているし、事情も説明されている。秘密を絶対に守るため、アレーティアは望まなかったが全員特定条件下でアレーティアに対するあれこれを聞かれた場合に死に至る魔法がかけられている。
アレーティアへの忠誠心は皇帝よりも遥かに高い。
なお、デケムに関しては軽蔑の対象になっている。やってることがある意味法国とクソ貴族と大して変わらない。
鮮血騎士
アレーティアの私兵。強さや種族だけで選ばれてはいない。
メンバーに関しては後ほど。
アセロラ
鮮血騎士の一人。元奴隷のボーイッシュなワイルドエルフ。
明るい赤のショートカットで全体的に筋肉質。胸はデカい。
強さ的には四騎士と同等〜ナザミ以下。ルミリアより強い。
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