転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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前回更新から高評価沢山付いて嬉しい…嬉しい……!

総合評価も10,000pt達成しまして、感無量です。嬉しさのあまり小躍りしました(笑)

本当にありがとうございますm(_ _)m


アレーティアとザナックの交渉 〜頭を垂れてつくばい、平伏する〜

 

 

「こちらこそ挨拶が遅れてしまいました。リ・エスティーゼ王国第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフです」

 

 目の前には少々やつれたものの、アニメや漫画で見たザナック王子がそこにいた。

 一世一代の大勝負とばかりにその目には決意が宿っているのを感じます。詳しくは知りませんが今の王国、かなり末期と言う話は聞いていますからね。

 

「いえいえ、お気になさらず。それで今日はどの様なご用件で? 報告ではラナーとの面会を希望していたとか。御兄妹で積もる話もあるでしょうし、席を外しましょうか? 異性の相手と妻を二人きりにするのは本来なら避けるべきことですが、御兄妹なら問題ないでしょうし」

 

「い、いえ、お構いなく。それに元々ラナーを通して貴方と会うことも目的の一つだったので」

 

「それなら私に会いたいと言ってもらえれば……ああ、仮にも王国最大の障害でもある私粛清騎士に会うと言う噂が立てば、王国での風聞が悪くなりますね。察しが悪くて申し訳ない」

 

 このタイミングでメイドエルフ達が入室しお茶の用意を始めました。

 確かアニメでザナック王子は紅茶が苦手で砂糖をガバガバ入れていた記憶があったハズ。そこで最近、領内の村でドライアドの協力の元栽培された林檎に似た果物を使って作った果実水を用意させました。

 私もよく好んで飲んでいますし、なんなら直接実を齧っていることもあります。

 ジルクニフにはしたないと言われましたが、ジルクニフしか見てないんだからいいじゃないかと返せば、しばらく黙ってから『俺の前以外ではやるなよ?』と念を押されましたが、既にロクシーやラナーの前でもやっているので気にしません。

 まあ、こう言うことをする際の相手は選んでいるつもりなので大目に見て欲しいです。

 あ、果物自体はジルクニフのお墨付きを貰えたので、その村は人員を派遣して更に収穫量を増やすべく土地開発をしている最中です。

 

 そんな果実水を出すとザナックは躊躇いもなく一口飲み──そのまま一杯飲み干してしまいました。そんなに喉が渇いていたのかと驚く中、メイドエルフに目をやりお代わりを注いでもらいます。

 二杯目も半分飲んだところでようやく気を取り直した様です。

 

「我が領内で収穫された果物を使った果実水ですが、お口にあった様で何よりです」

 

「……エ・ランテル領内にこれほど美味い果物があったのか」

 

「いえ、それが出来上がったのは最近です。帝国にいた森祭司の魔法で果実を実らせる魔法や木を生やす魔法があったので、それを参考に魔法省で研究を重ね、実際に存在する果物を品種改良したものです。

 他にも多くの作物をより美味しく、より多く栽培出来るかどうか研究しています」

 

 目を丸くしていますね。後ろに控えているガゼフ達も『魔法でそんなことが出来るのか』と顔に書いてあります。

 そもそもが王国は魔法を軽視していましたから、こう言ったことが出来ることすら知らなかったんでしょうね。レエブン侯なんかはその辺り理解していそうな気はしますが、その辺りは教えていなかったのかもしれません。

 

「お兄様、折角ですし実も召し上がっては?」

 

 ラナーの合図でカットされた果実がサーブされる。一瞬戸惑うが、誘惑には勝てずカットされた果物──ウサギの形をしている──を口へ運びシャキッと言う音が辺りに響く。

 続いてガゼフともう一人が果物を食べ、しばらく果物を咀嚼する音だけがしていました。誰も一言も言葉を発せず無言で食べ進める姿は、その美味しさを余すことなく味わっているのだと思わせるものでした。

 

 

 

 

 そうしてしばらくザナックの癒しの時間が過ぎて、いよいよ本来の話題へと移行しました。

 

「王都でクーデターが?」

 

「ええ、お恥ずかしい話ですが兄であるバルブロが手勢を率いて国王であるランポッサ三世を弑虐し、実権を握りました。

 それを脅かす存在である私も同時に狙われており、クーデターの最中ガゼフ戦士長に救われ命辛々王国から逃げてきた次第です」

 

「確かザナック王子もバルブロ王子も専属の兵は持っていないはずですよね?一体どこからそんな手勢が?」

 

 ここでガゼフの身体にグッと力が入るのを確認。敬愛していた王が殺されたともなれば自責の念に襲われても仕方ないですね。

 しかし……うん、どう言うわけかガゼフ弱くなってますね。見たところ肉体的に衰えたり、戦争で私が与えたダメージの影響で弱体化した訳でも……ああ、そう言うことですか。

 とりあえずこの件は後にしましょう。

 

「兄は……バルブロは王国裏社会を支配する組織『八本指』と通じていた様で、そこに組する勢力を味方につけた様なのです。

 戦士長も王を護るべく懸命に戦ったものの……『六腕』と呼ばれるアダマンタイト級冒険者に匹敵する猛者たちが参戦してしまい……」

 

「『八本指』に『六腕』ですか……。ラナーは何か知っていますか?」

 

「はい。『八本指』は王国最大の犯罪組織で昔、蒼の薔薇の皆さんに麻薬の密造をしている村を焼き払ってもらったり、調査をお願いしたこともあります。八つの部門に分かれていて『六腕』はその部門の一つである警備部門の最強の六人を指す通称のことです。裏社会のアダマンタイトとも呼ばれていますね」

 

 あの原作で碌な活躍もなく死んでいった悲しい奴らですね。一応王国内では有数の実力者ですが、帝国から見れば大したことありませんね。

問題なく四騎士で制圧出来ます。

 

「このままでは王国は実質的に『八本指』に支配されることになってしまう。兄は『八本指』を利用しているつもりでしょうが、傀儡にされているのに気づいていないだけです。

 私は王国を守るため立ち上がらなければならない。しかし、私の協力者はこの通り、戦士長に加え戦士団の生き残り数名しかいません」

 

 ザナックが再び果実水を飲み、舌で唇を湿らせました。ここが一番の勝負どころですからね。口が回る様にと言う考えかもしれません。

 

「そこでですが、帝国の協力を仰ぎたいのです。兄と『八本指』を討ち、元の……とまではいきませんがより良い、民を傷つけない様な国に戻したいのです。どうか、協力を願えませんか? 確約は出来ませんが、出来る限りの要求を呑む覚悟は出来ています」

 

「お兄様それは……」

 

「察しがいいな妹よ。そうだ、この一件が解決したとして、王家への信頼は最早無いにも等しいだろう。民を散々苦しめる様な事しかしてこなかったからな。

 それでも俺は王族だ。民を導く立場にある。そして……より良き統治者がいるのであれば、膝を折ろう」

 

 ザナックから王族としての立場と覚悟を感じさせます。

 あのバルブロは割と勘違いしている王子ですからね。私が思うに、立場に甘えて威張ってるだけの無能です。だからこそ、ラナーが利用したんでしょうけど。フィリップとかアルチェルに比べればまだ操りやすいと言うか、制御しやすいかもしれません。

 対してザナックは無能の皮を被りながらも、陰ながらレエブン侯と共に出来ることを積み重ねてきた人です。実際、原作でバルブロが死んで次期王位継承が確定してから、その優秀さを発揮していてナザリックの手駒となった八本指も、ナザリックとの繋がりを悟られない様に情報を流すことに苦労していたはずです。

 そんな彼が、王になって国を良くしたかった王子が、国を売ってでも民を救おうとしている。

 

「ティアーズ辺境侯、貴方は皇帝陛下とも親しい間柄だと聞いております。どうか、この話を帝都に持ち帰り検討してはいただけないでしょうか? ……この通りです」

 

「で、殿下!?」

 

 ガゼフともう一人の護衛が慌ててザナックに近寄りましたが、ザナックがそれを手で制します。

 

 

 

 何をしたかと言えば──土下座です

 

 

 

 

 国を代表する王族ともあろう人物が、地面に頭を擦りつけて乞い願っているのです。

 ラナーもまさかここまでするとは思わなかったのか驚いています。近くに控えていたクライムなんかはもっと驚いていますね。王宮での関係は良くないものだったはずですが、これを見た彼はどう思っているのでしょうか。

 

「今の私には差し出せるものが何もない。それ故に、こうして頭を下げることしか出来ません。どうか、どうか……!」

 

「殿下……ティアーズ辺境侯、かつての戦場での決闘の取り決めを守ってくださった貴方に私からもお願い申し上げます。どうか我が国を、民をお救いください」

 

 土下座をするザナックを起こすのをやめたガゼフ達も後に続いて土下座をしました!

 目の前には土下座をする男の姿しかありません。

 ここまでされて『協力しません、お引き取りを』なんて言ったら人でなしでは?いや、私エルフなんですけど。

 良心を待つ人がこの光景を見て断るのは難しい──いや、ジルクニフはメリットが無ければ切り捨てますね。今回は明確なメリットがあるので断らないでしょうけど。

 

「……頭を上げてください殿下。分かりました。早急にこの件を陛下に伝えることをお約束します」

 

 バッと顔を上げるザナック。その目には涙が、歓喜の表情が浮かんでいました。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ。かつては敵同士でしたが、今後友好な関係を築けるのであれば、救いの手を差し伸べるのは当然だと思いますので。

 しばらくはこの城に部屋を用意させますので、こちらに滞在してください。黄金の輝き亭も良い宿とは思いますが、長期滞在となるとかなりの出費になるでしょう?

 義兄ともあろう方に、路銀が尽きて野宿する羽目になったなんてことにはしたくないので」

 

 ガゼフがちょっと顔を顰めていますね。……ああ、ここまでの道中できっと野宿したんですね。ごめんなさい。

 

「ではラナー、支度をしてください。帝都に向かいますよ。クライムは他の鮮血騎士を全員召集してください。彼等にも動いてもらうことになりますので」

 

「了解しました」

 

 さて、各地に散っている……と言うか本職に忙しい面々を待つ間に、出来ることをやっていきましょう。

 ラナーもやる気満々ですからね。ちゃんとクライムが活躍出来る舞台を用意するぞと意気込んでます。……頼むからあまり酷いことはしないであげてくださいよ?

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 面会が終わり、一度宿へ戻りザナックは椅子へと座り込み深い溜息をついた。

 内心やってしまったと思っている。土下座などしなくとも、相手に協力するメリットを提示すれば動かせたかもしれない。

 しかし、そんな悠長なことは言っていられなかった。王国の民を思えば時は一刻を争う。ならば、王族としてのプライドなど捨ててしまえと──平民もいる前で土下座をしてまで懇願したのだ。

 ザナックには人を惹き寄せるカリスマがない。人望では父に、威風では兄バルブロに、知恵では妹ラナーに劣る。自分に秀でた才はない。

 そんな無力な自分にいま何が出来るかと言われれば、真摯に訴えかけることだけだった。国民を救うため全てを差し出す覚悟を示したのだ。

 

「……戦士長、俺の行動は王族としては間違っていたと思うか?」

 

「いえ、たとえ誰がなんと言おうが、立派な姿だったと思います」

 

「そうか」

 

 ガゼフは平民だ。

 かつて、まだ傭兵として、戦士として活動していなかったただの村人だった頃、何度も思ったことがある。

 村での生活は貧しいもので、死と隣り合わせだ。モンスターに襲われ多くの犠牲が出ることも珍しくはない。他にも賊と化した犯罪者の襲撃により作物や家畜、場合によっては若い娘が攫われることもあった。

 そんな厳しい現実の中、助けを求めた時に、現れる貴族や力を持つものが手を差し伸べてくれるのを期待しなかったことはなかった。

 しかし、ここでも厳しい現実は期待を裏切る。誰も手を差し伸べることはなかった。

 今の王国はほぼ全ての領地で、都市で助けを求める者が多くいる。むしろ、この国を治める──玉座を簒奪した──王バルブロは八本指の傀儡と化し、国民を更に虐げようとしている。

 しかし、同じ王族であるザナックは無力の身でありながら……国と民を想い、土下座と言う王族であれば本来してはならない事をしてまで救おうとしている。

 元々平民だったガゼフは、ここまでしてくれる王族がいるのかと改めて感激し、その姿に王の──ランポッサ三世の姿を見た。

 

(陛下、ご子息は……ザナック殿下は貴方の意志を継いでいます。このガゼフ、必ずや殿下をお守りします)

 

 決意を新たに、ガゼフは今度こそ守ってみせると意気込み、厳しい自己鍛錬を課すことを決めた。

 

 

 





アレーティア
アルスとして面会。ザナックに土下座されてビックリした。

ラナー
こちらもビックリした人。初手で全てを差し出そうとしてくるとは思わなかった。
クライムが活躍出来る様に手筈を整えようとしている。

クライム
ザナックの代わり様に一番驚いている童貞。

ザナック
王国のためなら土下座でもなんでもする精神。
原作でもランポッサ三世が後継でザナックがいるとはいえ、己の首を差し出すという提案をしたので、この世界線のザナックも首は差し出さないまでも、土下座+国を差し出すぐらいはするんじゃないかと。
下手に渋って協力を得られなければ、頼れる先が無いに等しいので。

ガゼフ
レベル的には下がったりはしていないが、ランポッサ三世を守れなかった負目から少々弱体化している。
近いうちに地獄を見る(アレーティア・ブート・キャンプ)

ジルクニフ
思わぬ風評被害だが、実際やりそう。
次回、アレーティアとラナーのコンビに胃を痛めることになる(予定)
と言うより多分脳も破壊されるのでは?(BSS的な意味で)


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