転生したらオバロ世界のエルフだった件について   作:ざいざる嬢

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今回、初めてアレーティア以外の視点で書いてみました。
こんな感じのが多分数話続くと思います。


帝国ルート 騎士団強化編
バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その1


 

 帝国でアレーティアが暮らし始めてからはや数ヶ月、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスはあることで胃を痛めていた。

 アレーティアと騎士団の衝突。これだけ見ればアレーティアに負けはない…が、皺寄せは直接意見を出すことを許したジルクニフの下へやってくる。

 始まりは彼女に身辺警護を任せると発表した時だった。

陛下は惚れた女を常に侍らせたいからあの様な発表をした。騎士団のことを信頼せずあの様な小娘を頼るなど我々を侮辱している。本当にあのアンデッドの大群を一人で滅ぼしたのか疑わしい。そういった声が多くジルクニフへと届けられた。

 そう、彼女は騎士たちから嫌われた。それもそうだ。彼らは帝国の剣となり盾となることに誇りを持ち、ジルクニフは彼等からの信頼を勝ち取り支持を得た。これも帝国を良き国にするため…だが、突然現れたあんな年端もいかない見た目のエルフを近衛を差し置いて側に控えさせるとは何事かと。

 

 そして、遂にはジルクニフすら侮り始めた。陛下はまだ若い故に過ちを犯してしまった。女を知って腑抜けた。…などと根も歯もない噂を──騎士たちからしたら事実を──ばら撒き始めた。そしてそれがジルクニフの耳に入り、当然アレーティアの耳にも入った。…入ってしまった。

 

「陛下、契約通り一つ望みを叶えてくださいまし?」

 

 アレーティアが望んだのは帝国騎士団との交流を深めるための模擬戦。ジルクニフも騎士からの心無い言葉は知っていたがこれを機に分かりあえばこの軋轢もなくなるだろうと許可を出した。

しかし、思惑通りにはいかずアレーティアは暴走した。自分だけならともかく、帝国のトップであるジルクニフを侮辱する発言をし悪い噂をばら撒いた事を知りアレーティアは義憤に駆られたのだ。

 

 騎士団の訓練場で行われた模擬戦という名の蹂躙劇。帝国八軍の内およそ三軍に当たる人数が参加したが誰1人としてアレーティアに傷をつけることは叶わず。最強であると言われている第1軍の者ですら軽くあしらわれていた。

 

「その程度で国を守るとかナメてます?私のいた森だったら死んでますよ?」

 

 アレーティアが棍棒を握り、魔法を模して小石を投擲する。振るわれた棍棒に当たった者と小石に当たった者はどうなったか。答えは…死んではいない、とだけ答えておこう。騎士団は彼女に徹底的にわからされた。己の未熟さを。彼女を侮った愚かさを。

 

「どうせならこのまま訓練にいたしましょう。私が追うので立ち向かうか逃げるかしてください。では開始。」

 

そして体験した。垣間見た。彼女の力を、その身をもって。

1人の騎士は鎧を着ているのにも関わらず武技を使った棍棒の一撃で壁にめり込み、また別の騎士は小石の投擲で気を失う。立ち向かえる者はおらず、歴戦の将軍たちでさえもこの光景を作り出した少女にドン引きしていた。これが陛下と同い年とは本当かと。

 

「私の実力を疑ったり、侮るのは結構ですが陛下を侮辱するのは別です。これからこの国を繁栄に導いてくださる偉大な陛下の足を引っ張るのが帝国を護る騎士でどうするのですか?」

 

 そう言いながら棍棒を振り回し、棍棒を投げつけ騎士たちを蹂躙していく。誰もが怯え次は誰かと震えて待つしかなかった。

 

「あなた方には覚悟がない。命を捨ててでも帝国を、陛下を護るという覚悟が。だから私から逃げるのです。もし私が陛下の命を狙ったとしたらどうするのですか?陛下を見捨てて逃げるのですか?答えは不要、行動で示しなさい。」

 

 アレーティアが、英雄を超えた逸脱者の領域にある者が容赦なくその力を振るう。そして騎士たちは気づく、己の過ちを。しかし気づいた時は既に手遅れ、再びその棍棒による一撃が振るわれるかと思われた時。

 

「アレーティア!模擬戦と聞いていたが一体何をしている!」

 

 彼らにとっての救世主が現れた。

 

 

 

 

「思えばお前たちの気持ちをもう少し汲むべきだった。これは私の不徳だな。」

 

「何をおっしゃいますか陛下!元を正せば悪いのはあの様な噂を立て陛下を侮ってしまった我々騎士団なのです!それを…アレーティア様が気づき我々に分からせてくれたのです。忠義とは何かと。」

 

 ジルクニフは騎士たちの面子を考えず、彼女を側に置くということをしてしまった。騎士たちは皇帝を信用せず侮る様なことをしてしまった。互いに言葉を交わしジルクニフと騎士たちの間には新たな絆の様なものが結ばれていた。何が原因かといえばそれは──。

 

「陛下、私はいつまでこうしていればいいですか?」

 

「少なくとも今日一日はそうしていろこの愚か者がぁ!!」

 

 あのアレーティアを御せるのがジルクニフだからだ。今、アレーティアは事の顛末を知ったジルクニフから正座込みの猛説教を受けていた。普段は感情を表に出さない様に教育を受けてきたジルクニフだが、取り繕っている場合ではなかった。

 ジルクニフは忙しい中、アレーティアの望みである『騎士たちと親交を深めたいから模擬戦など出来ないだろうか』という希望を叶えた後、様子が気になり覗きに来たらこの有様。何があったと聞いてみればアレーティアが自分のために怒り叩きのめしたと言う。その気持ちは嬉しいが流石にやりすぎだ。

 

「私のためを思ってしたことだ。多少大目に見よう…だが!いくらなんでもやりすぎだろう!これでは訓練にすらなっていない!そんなこと素人の私ですら分かるぞ!?もっとやり方があっただろう!」

 

「いえ、その腐った性根を叩き直してやろうと思ったので死ぬ寸前ぐらいが丁度いいかと思い…あ、ちゃんと手加減はしていますよ?武器もただの棍棒ですし、石での狙撃もなるべく命に関わらない場所を…」

 

「言い訳は無用だ!やり過ぎたことを反省しろォ!!」

 

 ジルクニフは胃を痛めた。そして喉も痛めた。普段出さない大声なんて出すものじゃないと思いもした。しかし、その甲斐あってか騎士たちからの視線は熱い。怒られてシュンとしているアレーティアを見て、あれだけの強者を従わせるとは流石陛下!という気持ちでいっぱいだった。

 

 ジルクニフはアレーティアが本当は内部から帝国をズタボロにする気なのではないかと疑いもしたが、騎士たちの話からそれはないと判断する。しかし、ある意味彼女の強さを目に出来たのは大きい。自分も騎士たちも彼女の強さを目の当たりにし、この場にいなかった騎士たちにもその力と恐怖は伝わっていくだろう。今後こういうことがない様にフールーダや騎士たちと話し合わねば…と思いジルクニフは天を仰いでいた。

 

「陛下、もうしないので許してはいただけませんか?」

 

「…せめて今後はこういう事をするならちゃんと相談してくれ…。」

 

「善処いたしますわ。」

 

ジルクニフ13歳。コイツ、絶対またやらかすなと思いながら彼女を連れて皇城へ戻るのであった。

 

 その日からしばらくして、ジルクニフの苦労もあり騎士たちとアレーティアの和解が済んだ。そして、彼女も臣下の一員と認められ新たに出来た帝国四騎士とは別枠の番外騎士“粛清”の二つ名を持つ皇帝直属の騎士として名を馳せることとなった。

 

「陛下、陛下。」

 

「なんだ?もうこの前みたいな望みは御免だぞ。」

 

「いえ、その件については私も反省しまして…代わりにですが反省の証として騎士団の皆さんに武技でも教えようかと思いまして。」

 

「…一応確認しておこう。その武技の訓練の内容は?」

 

「死ぬ寸前ぐらいまで追い込んであげれば身につくかと。」

 

「却下に決まっているだろう!?」

 

ジルクニフの胃を痛める日々はまだ始まったばかりだ。

 

 





アレーティア、実は脳筋というか力で全てを解決しようとするところがありますね。これも全部デケム・ホウガンってやつとスレイン法国との戦争のせいです。


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