やっと戦闘系のクラスは全部投稿し終えたね!
今度は生産系、芸術系のクラス!
番外編で濁しながらここまで来たが、正直いつまで一年生の試合やってるだと自分でも思うよ……。
次回からはちょっと早足。
一年生最強決定戦を本番として、進行していく予定です!
そして可能なら、他の新キャラも出す!
……既に既存のキャラでも覚えきれていないと言う人が続出して良そうだ。
一年生最強が決まったら、メインキャラを何人か選出して行く事にしようと思う。
それでは、皆様! Dクラス編、後編をお楽しみください!
【添削しました】
『Dクラス編 後編』
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毎年四回放送されるギガフロート内中継、『新入生最強トーナメント戦・決勝』『体育祭』『文化祭』『学園最強決定戦』は、どれもテレビの中のヒーローマンガなんかと混同してしまった。子供の頃は皆、ギガフロートに行くのを夢見た事だろう。
学校の授業で習うギガフロートは、大地が浮遊した
その所為だろうか、いざギガフロートで歴史の授業を受けるとなると、ギガフロートの歴史なんてちょっとしか触れないんだろうなぁ、っと言う印象を持ってしまっていた。
それがまさか、ギガフロート内における細かい歴史を年号にして紹介されるとは思わなかった。
2012年、学園創立。全て一年生のみ。
2015年、第一回、学園最強王者決定戦。優勝者、三年『焔薙姫一』
2024年、学生によるクーデター発生。半年後、クーデター事件終結。死傷者:164名
2025年、『キャンセラー』『イレイサー』などの無効化能力者の発生。
2029年、無効化能力者の教師昇格が正式に承認。
「ギガフロートに在住経験が付く以上、この歴史は最低限覚えておくことが重要とされている。ギガフロート建設、浮遊から、ほぼ短時間で起きた事件の数々だ。特に2024年に起きた学生のクーデターでは学園で死者を出してしまうと言う痛烈な汚点を残す結果となっている」
白衣の下に凄く可愛くされたクマの驚き顔と言うダサい服を着ている、白い髪と赤い瞳を持った整った顔立ちの二十五歳前後と思しき教師、レブナントが教科書を片手に早口で授業を進めている。イマジネーターの学習能力任せの授業なので、常に集中していないとあっという間に一世紀か二世紀ほど内容が飛んでしまう。もちろん振り返りも授業中の質問もできないので、皆必死でくらいついている。正純も、さすがに少し頭の疲労を感じながら、ノートへの板書に勤しむ。
「当時はまだ学園としてのカリキュラムも完成されておらず、曖昧な点も多かった。教師すら手探りの研究であり、突発的に強力な能力者が現れても対処しきれなかった。そうならないよう、細心の注意を払われてはいたが、やはりイマジンと言う新しい力を相手にするには注意の内容が足りなかったのだろうな。だが、ここで生徒諸君には考えてほしい。これは決して学園側の事故や暴走ではなく、生徒の思い上がりによって起きた事件だ。心に正義を持っていれば避けられた犠牲だ。現在では、我々教師が直接的な抑止力と働くことでそのような思い上がりを抱く生徒はいないだろうが、それは教師のカリキュラムに甘えているだけとも言える。仮に我々教師の全員が力を失ったとして、果たして君達全員が、正義の心を強く持つことができるかどうか……。君達には、卒業するまでに“その心配はない”と私に思わせてくれると信じている。私の期待を裏切らないでくれよ」
レブナントの台詞に思わず苦笑いを浮かべてしまう。
この教師が教壇に立つと、必ず言及してくるのが、この『正義』云々と言う話だ。
うんざり……、っと言うほど授業を受けているわけではないが、既に苦笑いを浮かべるレベルにはなっている。
「さて、『クーデター事件』には正式な名をつけられていないが、もう一つ、君達には知ってもらいたい事件が存在する。それが―――」
レブナントは、言葉を途中で止め、黒板に向かってチョークを滑らせる。小気味良いリズムを刻むように黒板に年号を書くと、チョークを置いてから改めて説明する。
2042年、『オーバーロード』(経過3ヵ月)。死傷者数275名、重軽傷者、多数。
「この『オーバーロード』事件だ。クーデター同様、いや、それ以上の死者を出してしまった学園側としてはとても衝撃を受けた事件であり、原因不明の事故だとも言える。これが事故ではなく事件扱いとされているのは、原因がイマジン発生炉の暴走であったからだ。イマジン発生炉の暴走により、イマジン能力者の能力が異常暴走を起こし、生徒同士の殺し合いまで発生した。中には教師までも我を失い暴走するなどの異常事態も起こり、蘇生者の数を含めば死者の数はゆうに10倍に膨れ上がる」
ギガフロートではこう言った『血塗られた……』的な歴史を隠し立てせず、むしろ積極的に公開してくる。その所為で時たま身震いしてしまう。自分達がいるこの浮遊都市は、決して夢の国でも理想郷でもない。下界と変わらない血塗られた歴史の上に、ようやく建てられた世界なのだと自覚する。
「学園は戦闘行為を推奨しているが、決して敵対関係を推奨する物ではない。それを弁え、君達には正義の心の元、正しく切磋琢磨してく欲しい」
お決まりの正義
「このイマジン発生炉の過剰イマジン粒子放出現象、『オーバーロード』は、赤いイマジン粒子を取り込んだことで能力が過剰活性し、結果的に暴走を起こしたとされている。原因が不明なら、収まった理由も不明だ。それでもこうしてイマジンについて勉学を学べる地が残っているのは、イマジン創造者、『
レブナントが素早く次の歴史に触れていく。
正純はこっそり溜息を吐きながら思う。この調子で授業に頭を使って疲れたら、この後のクラス内交流戦に響いてしまわないだろうかと……。
「小金井! 集中切らしたな! もう年号全て消すぞ!」
「うわった……っ!」
注意せずに置いてけぼりにする教師が多い中、レブナントは忠告を入れてから黒板を消す。これが彼なりの優しさなのかもしれないが、後で友人のノートを写させてもらえばいいだけなので、わざわざ注意してクラス中に知らせる事もないだろうにと、ついつい思ってしまう正純であった。
(それにして、イマジンが暴走ねぇ~~? 危険な事は解るけど、今一どれだけ危険なのか解り難いなぁ……)
己が振るう力が仮に暴走したとしても、同等の力を持つ他人が止めてくれる。確かに混乱はあるかもしれないが、死者が出るほどには思えない。生徒と教師の全てが暴走したわけでもないようだし、一体何がどうなってこれほどの大事件に発展してしまったのか、正純は自分の手の平を見つめながらこっそり考え込むのだった。
1
荒れ地のフィールドで、少女は必死に逃げまどっていた。身長177cm前後でスタイルもモデル顔負けに良く、服装はフリルがたくさんついたアリスの様なドレスを着ている。彼女は怯えた表情でひた走り、いくつも薙ぎ倒された木々の間を潜り抜けていく。時折空を気にして振り返り、追撃者が未だそこにいる事に気づいては慌てた形相で歩を速める。
しかし、彼女の逃亡はどうやらここまでの様だった。
ズシンッ! っと言う轟音と共に降り立ったのは、十五メートルはありそうな巨大な人型のロボット。
「もう逃げられませんよ。覚悟してください」
ロボットの肩で堂々と言い張るのは推定十歳のツンツン頭の少年、
その能力、『
「きゃわあああ~~~~~!? ふ、踏みつぶされる~~~~~っ!?」
追い掛け回されていた少女、
正直、勇輝としても、こんな見るからに悪役的な行為は遠慮したいところであったが、小さな女の子に一度負けていることもあって油断したりはしない。できれば早めに勝負を諦めてもらうためにも、うっかり踏み潰してしまわないように気を付けながら、踏み潰すふりを何度かして見せている。
一方、なんとか活路を見出したい絵心であったが、前以て仕掛けたブービートラップは意味をなさず、手持ちのナイフや手榴弾ではどうあっても火力が足りず、攻撃にならない。ほぼほぼ完全に詰み状態である。
「こ、こうなったら! 師匠! お願いします!」
「諦めろ」
「ええぇ~~~~~~っっ!!?」
絵心の能力『
「なんで速攻諦めちゃうんですかぁ~~~っ!?」
「バッカ、お
「そんな簡単に諦めないで何とかしてくださいよ~~~っ!?」
「ああ、無理無理」
手をひらひらさせて拒否する
っとは言え、リンゴの判断は実は残酷な事に正しい。
Dクラスともなると相性の差は如実に表れる。特に同じ、能力系統―――この場合は同じようにイマジン体を使役して戦う場合、純粋な戦闘力が勝る方が圧倒的有利であり、そして大抵は有利な方が勝ってしまうのだ。
もちろん、これは絵心のリンゴが、勇気のガオングに劣っているから不利になっているのではない。通常イマジネーターの能力には得手不得手は当然あるものだ。だが、不得手の分野を突かれたところで、対応できないわけではない。窮屈な気分はすれど、何らかの手はしっかり打てる。故に諦める必要性などない。弱点を武器に、短所を長所にして戦う事を選べる技術をデフォルトで持っているのがイマジネーター。相性の差ぐらいでは決着はつかない。
だが、今回ばかりはそうも言えない。
勇輝と絵心は同じDクラスで、イマジネーターの特徴は同じ。能力もイマジン体を呼び出す同タイプ。基本、自分ではなくイマジン体に戦わせる同じスタイル。共通点が多すぎるのだ。
ならば二人の差異は召喚されたイマジン体の実力によるのだが……。
(ミリタリー系にステ振りされてる私が、見た目機械だけど、超パワー出せますの類に、どうやって勝てっていうんだよ?)
リンゴはもはや達観の域で乾いた笑みを漏らす。
(せめてあのロボットが神格を所有してるか、狼型のロボットだっていうなら、やりようもあったんだがなぁ~~……)
「まあ、完全に運が悪かったな」
もう少し絵心が成長していれば、リンゴも何かしら打てる手はありそうだとも思ったが、一年生の初期の試合、不足している実力を望む方が
「も、もういいです! ……焦ってはダメ。師匠にだけ頼ってちゃダメなんだから」
一度胸に手を当て深呼吸した絵心は、冷静になると、
「『出撃』!! ティンク! 行くよ!」
「え? おいちょっと待て! そいつは―――!」
言いかけたリンゴはイマジン粒子になり散り、代わりにピーターパンのような緑色のワンピース着た、少女風の少年が現れる。
絵心の能力『童話の兵士の名簿』では、一度に出せるイマジン体の数に制限が設けられている。そのため、別のイマジン体を呼べば、他のイマジン体は消えてしまうのだ。
ピーターパンの童話から生まれたティンクは『妖精の羽』の能力を有し、飛行することが可能な上にワイヤーやナイフを使った戦闘能力を得意としている。
「敵がどんなに高い場所にいても攻撃できます! お願いしますよ!」
冷静さを取り戻した絵心の指示に従い、ティンクは皮靴に妖精の羽を生やし、空を飛び立つ。
素早くそれに気づいたのは勇輝自身ではなく、イマジン体のガオングだ。
ガオングはリンゴやティンクなどのイマジン体とは違い、自身に意思こそあれ、対話できるほどの自我は存在しない。そのため、特殊な能力を個人で所有していると言うわけでもない。ただし、代わりの特性として、彼等は主の危機に敏感に反応する。
ティンクの接近を察知したガオングは、素早く胸のライオンフェイスから剣を取り出し、構えるが、ゆっくり近づいてくるティンクに対し、動きが止まってしまう。
「ガオング?」
戸惑ったのは勇輝であった。自分が最も頼りにするスーパーロボットが、敵に対し攻撃するべきかどうかを考えあぐねるなど、十歳の少年には理解を飛び越えた状況だった。
自我を持たず、意思だけを持つイマジン体。故に彼等は主の命令無しでは判断に迷ってしまう事柄が存在する。例えばそう、殺気を持たずに近寄ってくる相手は、果たして攻撃していい敵なのかどうか? “考える”っと言うシステムを持っていない自我無きロボットは、そのエラーを自己処理できずに停止してしまう。
あっさり巨大ロボの守護を通り抜けたティンクは、ガオングの肩に降りると、相原勇輝と対峙する位置を取る。
身構える勇輝。
ティンクの手腕に思わず拳を握る絵心。
そしてティンクは徐にスカートに手をやると―――、
「ねぇ……パンツ見たい☆?」
―――などと抜かして、スカートを持ち上げた。
真っ青になって顎が外れるほど驚く勇輝。
頭のネジがバネ仕掛けになって飛んで行った気分になる絵心。
少女とそぐわない顔の少年が妖艶な笑みを浮かべ、大変危ない方向に興奮した表情を見せるティンク。
ここにリンゴがいたら呆れながらに呟いたことだろう。
「
次の瞬間、少年の脳内キャパシティーは限界を超えた。
ただでさえ、日常的に同室のお姉さんが危ない感じの相手なだけに、こういった方向にトラウマになりかけていたりする少年だ。もはやこれはトドメと言うべき一撃だったのかもしれない。涙目になった彼が、咆哮を上げ、持てる全ての力を開放し、一帯を焦土と化すのに十秒とかからなかったと言う……。
勝者:相原勇輝。
絵心の敗因:こんなイマジン体を持ってしまったこと……。
どうしようもない理由である。
2
彼女、リヴィナ・シエル・カーテシーが立っている場所は一面が砂に覆われていた。日差しは暑いが、じめっとした空気が漂っているところから、砂漠と言うよりは砂丘に近いのだろうと予測できる。見える限りの範囲に植物も水辺も見当たらないが、その空気だけが、ここが海に近い場所にあるのだと教えてくれている。
こんなフィールドにいる所為だろうか、リヴィナの褐色の肌はとても場に合っているようにも見える。肩で切り揃えられた黒い髪は、視界を確保するためか、真ん中で分けられ、おでこが曝されている。紫色をした猫目付近には泣きぼくろが付いていて、中々に可愛らしく、そして大人びた色気を感じさせる。だが、そんな少女が纏っている服装は、黒を基調とした燕尾服であった。大変暑苦しいことこの上ない上に、顔立ちから窺える大人びた色気を、性別とは逆の方向に曲げてしまっている。
服装のセンスがまるでないのか、ただ単に趣味で着込んでいるのかは全く不明だが、彼女の表情には揺らぎを感じさせない。
砂丘のフィールドは隠れる場所の存在しない見晴らしの良いフィールドだ。そのため対戦相手を真っ先に視界に捉える事が出来てしまえる。まるでCクラスが諸手を上げたくなるような状況に、リヴィナは少しばかり逡巡していた。
彼女の第一試合は、“記録”上は残っているが、“記憶”上は誰にも知られていない。担当した教師でさえ、浅くしか憶えていない事だろう。何しろ新入生の試合一日目で、最も最速で試合が終わってしまったのだから。
勝敗はリヴィナの敗北であった。自分の持てる力の全てを出す前に倒され、実力の差を思い知らされた試合だった。
当時の試合相手は
―――だったと言うのに、突然前振りもなく豹変した静香に、リヴィナはなす術もなく倒されてしまった。リヴィナの能力を全く受け付けずにだ。
彼女は物思いに耽りそうになった思考を現在へと戻す。対戦相手は猫のイマジン体に囲まれ、こちらの様子を窺っている少女、
彼女は思う。自分の力も、決して戦闘向きとは言いがたい。だが、Dクラスとしては適した能力者だ。使い勝手は難しいが自分の力は紛れもなくトリックスター。使いこなせるようになれば、戦闘特化のCクラスにだって負けない自信がある。
だからこそ……、っと彼女は思う。もう一度、あの圧倒的な強さを見せつけた静香に挑み、今度こそ勝利して見せると。
「だから私は―――、何度でも舞台の幕を開けようじゃないか!」
オーバーアクションで手を振り翳したリヴィナは、己が能力『
「――――ッ!!」
『センス・ワード』は発した言葉その物を現象として発現させる能力だ。言霊を現実にする
更紗は言葉を現実にするのに対し。リヴィナの『センス・ワード』はあくまで言葉を引き金に幻影を作り出す能力だ。純粋な能力レベルでは更紗のそれに比べて格段に見劣りする。だが、リヴィナの作り出した幻影は、先に発動している『
リヴィナの作り出した幻影達は、サーカス団に飼われているような蝶ネクタイの首輪をつけている大きなワニであった。ワニはイマジンによる幻影で作り出されているため、同じイマジン体である梨花の猫達を一飲みで食い尽くしていく。慌てて梨花も津波の如き大量の猫軍団を呼び出し、物量でワニを押し返していく。
「――――ッ!!」
すかさず『センス・ワード』を唱えるリヴィナ。やはり蝶ネクタイと燕尾服で装飾された巨大な像が数体現れ、突進力で猫達を踏み潰し、弾き飛ばしていく。
危うく轢かれそうになった梨花だったが、肩をかすめるだけで何とか横合いに飛び退くことができた。だが、かすった肩から僅かに血が滲み始めている。相手は幻影のはずなのにだ。
これが『
ならば、『
更に、更紗の言霊と違い、ただ現実にするだけでなく、痛覚を与えないことで本当にただの幻影としても扱えてしまう。『センス・ワード』発動の言葉は、リヴィナ個人が想像した暗号のようなものでできているため、場合によっては更紗よりを素早く、細かい発動が可能となる。
「今度こそ、私は彼女に勝って見せる!」
強いリベンジの思いをブーストに『センス・ワード』を発動。あまたの猛獣が出現し、津波の猫諸共、梨花を食いつぶしてしまった。
「う、うきゃあああああああぁぁぁぁ~~~~~~っ!?」
断末魔の悲鳴を背にして、オーバーアクションでポーズを決めるリヴィナ。自身が勝利したことがアナウンスで流れると、彼女はそのまま振り返ることなく、元に戻った白い部屋から出ていく。廊下に出た彼女はゆっくりした足取りながらも、ただ一人の生徒を探す。自分に圧倒的な差をつけた彼女の姿だ。もしかしたらまだ試合中かもしれないと期待を抱きながら、彼女は探し求める。
そして偶然、彼女は見つける事が出来た。ちょうど試合が終わったらしい組み合わせに、確かに雪白静香の名前が挙がっていたのだ。自然と高鳴る鼓動を押さえながら、彼女は観戦窓を覗き込み、試合結果を直接確認してみる。
身体中に霜を下ろして、凍死寸前の雪白静香の姿がそこにはあった。
「なん……だとっ!?」
戦慄するリヴィナ。
自分を圧倒した静香が、そこでは無様な姿をさらして倒れている。その衝撃は自分でも予想を遥かに超える衝撃となった。
実際に戦った自分だからこそ分かる。彼女の強さは、単独で戦う上ではおそらく最強だろう。一騎打ちで戦えば、彼女に勝る実力者など、それこそAクラス並みではないと考えにくい。それがどうしてこんなにも無様な姿で敗北していると言うのか。
相手は余程の実力者だったと言うのだろうか。
疑問が浮かぶと共にちょうど出てきた対戦相手、
「あ、あの……っ! 試合、どんな感じでした?」
慌てていた所為か、色々
「はい? ええっと……、対戦相手の方がずっと逃げ回っていたので、天候ごと極寒地帯に変えて氷漬けにしました」
「な―――っ!?」
―――んだそれはっ!? っと続くはずだった言葉は言葉にならなかった。あまりに無茶苦茶な大規模攻撃で、力任せに解決しましたなどと言われ、頭のネジがいくつか
かつて戦い負けた相手が、圧倒的な差を見せつけ悠然と去っていた人物が、まさかこんな無茶苦茶な方法であっさり敗北してしまうなどと、一体誰が理解できようか?
しかし、現実には静香は敗北し、今も凍死寸前で震えていると言うのに、教師からはただ見下ろされるだけと言う放置プレイを受けている。そこには、自分を圧倒した少女の姿はなく、以前から見せていた普通に頼りなさげな少女が、当たり前に倒れている姿しかない。
「な、なんなんだこれは~~~~~っっ!?」
思わず頭を抱えて絶叫するリヴィナに、美冬は驚きながら困惑するしかなかった。
「いや、ってかこのリカの扱いが一番酷くないかぁ~~……?」
ボコボコにされた挙句、対戦相手に一言もかけられず去られた夏目梨花は、涙を流しながら地面に突っ伏していた。
幸い彼女の能力により、イマジン体として呼び出された猫達にじゃれつかれながら回復しているのだが、教師までいなくなり、一人寂しく倒れ伏す姿は、何とも哀愁漂うものがあった。
3
Dクラスの戦闘は相性差が如実に表れるケースが圧倒的に多い。
それを証拠に、
無事勝利を収めたクライドは、多少なり落ち込んでいる暁を見送りつつ、他の試合もちらりと窺った。
「こ、今度こそ……っ!」
「はっ! 無駄だと言う事がまだわからんかっ!」
飛来した閃光を盾で防ごうとした
「ふぎゃあっ! またぁ~っ!?」
「ふはははっ! 我が黒き英知の前では、かような盾など物の数にも入
「今、台詞噛みま―――」
「
「わわっ!? 照れ隠しに炎の壁ですかっ!? でも私にそう言うのは効かな……さ、酸素が……っ! 炎で酸素が……っ!」
「ふははははっ! 我が劫火に苦
「ま、また、噛んで…ます……」
試合に勝利した
「これで、どうだいっ!」
蓄積したエネルギーを放出する
「こ、こんなのっ! ユノおねーちゃんに比べたら怖くなんかないもんっ!」
「反撃がまさかのグルグルパンチっ!? この子見た目通り小学生なのかなっ!? ……って、あ、イタッ、痛い……! 思いの外すごく痛いっ!? 『強化再現』された拳は小学生でも嘗められた物じゃなかったぁ~!」
「えいっ! えいっ! えいっ!」
「そして可愛い! 完全に普通の小学生だよこの子っ!? うぅ~、この学園に来て初めて良心の
「えいっ! えいっ! え~~~いっ!」
グルグルパンチのみでポイントを獲得しきったキキは、アナウンスを聞いた瞬間、涙目になって喜び、そこらじゅう飛び跳ねながら全身で勝利を喜んでいた。
対する歌音の方は、負けた事よりも、幼女を相手に反撃できなかったことに、軽いショックを感じていた。
「卑怯だ……、あんな見た目も中身も小学生とか……、ホント卑怯だ……」
原染キキが
「これはこれは、皆さんお盛んな事ですねぇ~~」
まるで他人事と言わんばかりに笑うクライド。ここまでで二連続勝利を収めている事もあり、彼の中では余裕の様な物が生まれていた。
見て回る試合の殆どが、結構簡単に決着がついているのも、「そう言う物だ」と彼に思わせるのに充分な光景だったのかもしれない。強者と弱者の差が如実に表れるのがイマジネーターだと彼は誤解していた。実際はDクラスがただ相性に左右され易いと言うだけなのだが、他クラスとの戦闘経験が無いクライドが誤解しても仕方のない事ではあった。
そんな中、クライドはクライドなりに情報を集め、興味を抱いた相手がいた。偶然その名前を見つけ、依然戦闘中である事を確認した彼は、さっそく観戦してみる事にした。
「おや……? てっきり彼女の方が優勢になると思っていたのですが……」
そこにあった光景は、彼の予想とは異なる状況であった。
正純に分があり、ユノが劣勢に追いやられていたのだ。
ユノ・H・サッバーハは、異世界出身の犬獣人の少女だ。身長約150cm、銀の長髪。頭頂部から三角形の犬耳を生やした姿は、明らかにこの世界の住人で無い事を表わしている。幼い頃より、暗殺稼業で生きていた彼女は、この世界で、つい最近まで平和な世界でぬくぬくと育ってきた様な同年代相手に、自分が遅れを取るなどとは微塵も思っていなかった。いかに巨大な力を手にしたところで、昨日戦った少女同様、痛みに耐えかねて泣き叫び、ただ蹲るばかりで大した事など出来は無い。そう思っていた―――。
(な、なのに……、コイツ……ッ!)
自分を相手取り、互角以上に渡り合う少年を前に、ユノは恐怖にも似た戦慄を感じ、身体中の毛を逆立てていた。
正純は決して余裕のある状況ではなかった。身体中に怪我を負っていたし、疲労も色濃い。息も荒く、肩が上下していた。
彼の能力は十二星座をモチーフにした魔術を使う物だ。しかし、スキルスロット一つ分に集中しているため、力が減少してしまう。その能力発動数に制限が設ける事と、それに対するペナルティースキルを取得する事で、力の減少を相殺している。結果的に正純の魔術は驚異的な物となり、ユノとの相性差とも
そう、本来ならこの勝負はユノよりも正純が圧倒する方が普通であり、むしろ現状の結果は、ユノがありえない程の功績を成していると言えるだろう。
既に正純は『黄道十二宮招来』の能力魔術『星霊魔術』を四つ使用している。
彼の隣で傷だらけになり、緑色のイマジン粒子を大量に噴出している『獅子座』は既にいつ消えてもおかしくない状況だ。脚力を強化する『山羊座』は、使っていなかったら速度差に追いつかれ、能力を殆ど使う前に倒されていただろう。これについては、正純のイマジン変色体の身体能力が3なのに対して、ユノの身体能力が218もあるのだから、もはや圧倒的としか言いようがないだろう。迎撃のために使っていた『射手座』については、ホーミング効果も殆ど用を成していなかった。ここで初めて使用した『蟹座』による横歩きしかできなく呪いは、ユノの派生能力『影歩き』のスキル『影移り』の影から影へと移動する力に殆ど無効化された状態に近かった。この能力が何気に一番厄介で、『射手座』の追尾も影の内側までは追えず、何度となく地面を射抜くばかりで終わった。
厄介な状態はもう一つある。ユノの能力『暗殺技能』のスキル『致命』の効果だ。これによって負わされた傷は、何をしても相手が効果を切るまで癒える事が無い。先程から『治癒再現』を試みていた正純だったが、一向に『致命』の効果を打ち破れる気配がない。
それでもだ。それでも、この程度であれば正純が此処まで苦戦する事は無かった。本来、相性差から考え、正純は『獅子座』で敵を翻弄しつつ、『山羊座』で『影移り』に対抗しながら『射手座』で牽制。後もう一つ、どれかの魔術を使えば確実に追い込む事が出来るし、そうでなくても、この三つだけで充分勝機はあった。そもそも『致命』の効果も、攻撃を受けなければなんと言う事は無い。『獅子座』は『獅子宮』の恩恵を持っているので物理攻撃に強い。なので、本来ならユノは一方的に攻撃に曝され、自分の攻撃は有効にならず、一方的な展開になる筈だったのだ。
だが、それはあっさり覆った。
ユノの能力『暗殺技能』と派生能力『影歩き』、この二つの能力を合わせて使うスキル『暗器』は、『デュアスキル』と呼ばれる特別な能力だ。本来、『能力』と『派生能力』は“同時”に使う事は出来ても、“合わせて”使う事は出来ないとされている。これはスキル設定されているイメージが、個々で存在する物であり、決して同じではない為だ。だが、関連性は存在している。その関連性を繋ぎ合せ、一つのスキルとして再現した物、二つ以上のイメージを重ね合わせた強固なイメージ武装、それこそが『デュアスキル』、他者のイメージよりも強固なイメージスキル。
その効果は、本来影を刃に纏わせ、多少切れ味を増す程度の『暗器』で、刃が通じない筈の『獅子座』の身体を傷つける事が出来る程だった。
斬激の威力は恐ろしく強くなったと言うわけではない。獅子も致命傷は殆ど受けておらず、傷だらけではあるが、まだ戦える意思を見せている。
『デュアスキル』はイメージの強度を上げる物で、他者に破られる心配がないと言うだけで、攻撃力を圧倒的に上げる性能は無いのだ。
それでも、学園全体で見ても、三年生に一人、半端な形で有する者がいるだけと言う、この希少なスキルが無ければ、彼女は既に敗北していただろう。惜しむべきは相手だった。圧倒的不利な相性差、何よりDクラスでも間違いなく実力者の部類に入る正純を相手に、ここまで善戦して見せた事こそ賞賛に値するのかもしれない。
(でも……っ!)
歯を食い縛るユノ。
(強い相手だから負けを認めるとか……! そんなの理屈が通らないっ!)
ユノは生徒手帳からナイフを取り出し、両手に構えると、真直ぐに正純を睨みつける。
「いくよ…? 本気で…」
気配が変わる。
ぞっとする様な寒気を正純が感じた時には、既にユノの姿は『影移り』によって消え去っていた。
慌てて『獅子座』を自分から離れさす。影から出て来る性質上、獅子座の巨体は大きな影を作ってしまい、むしろ危険を増やす事になってしまう。
次の攻撃がどのようにしてくるのか予想が出来ない。自分の足元の影はもちろん、周囲の影にも気を付けなければならない。とりあえず出来る事は、太陽を背にし、自分の影が正面に来るようにしておく事くらいだ。これでとりあえず背中からは襲われない。周囲は適度に木が生えている森と草原の間を取っている様な空間だ。木々と適度な距離を取っていれば、充分『直感再現』で対応できると判断した。
(でも、これで何とかできるようなもんじゃねえよな? こっちも何か他に打つ手はないか?)
考える。
既に四つの星座は効果が薄いと理解した。ならば他の星座を使う必要がある。
『牡牛座』は怪力だ。この現状では全く意味がない。
『乙女座』は相手を魅了する効果があるが、対象が人間限定とされている上に、運悪く、相手は異世界出身の他種族。正確な意味で“人間種”ではないので魅了の効果が発揮されるかどうか怪しい。
『天秤座』は互いの力を均等化する事ができる。これを使えば、『獅子座』の攻撃力が落ちる代わり、相手の攻撃で『獅子座』が傷つく事は無くなるかもしれない。だが、正純にはユノがどう言った原則で『獅子座』を傷つけているのか解らない。つまりこれも賭けの要素が強くなってしまう。
『水瓶座』は大規模に津波を放つ火力系。現状では意味が無い。
『魚座』も同様。現状では使う意味がない。
『牡羊座』は盾の効果だ。だが、『獅子座』の身体を傷つけた刃を止められるかどうかは不明。
残るは二つの星座。それらを頭の中で思い浮かべた瞬間、一つの攻略法を思い付く。
これは賭けだ。だが、少なくとも、上記よりは確実性のある賭けだ。
問題はタイミングだ。『直感再現』は確かに危機に対して素早く反応する優れた本能だが、絶対ではない。『直感再現』は発動確率が高いだけで必ず発動する物ではないし、何より『直感再現』は回避には向いているがカウンターには不向きだ。こう言う時には自分で意識して行動することを心がけなければ勝機は訪れない。
目を瞑る。無音、神速で放たれる敵の攻撃は何度も確認している。なればこそ、眼に頼るのではなく、経験則から来る直感に頼るほかに無い。『直感再現』ではなく、己自身の直感を信じるのだ。
静寂……。
長いとも短いとも感じる集中された時間の中で、互いにここぞと言う一番を狙いすまし―――放つ!
先手を取ったのは正純。
目を開いた瞬間、自分の影―――真下から迫ってくる物を捉え、僅かに体の軸を逸らす程度で躱し、頬を浅く傷つける。代わりにカウンター気味にはなった拳に『星霊魔術』を行使して放つ。
だが、拳は虚しくも地面を殴りつけただけに終わった。カウンターのタイミングはこれ以上ない程に完璧だったと言うのにだ。
何故? っと言う疑問の答えはすぐに見つかった。ユノは影から出てきていない。正純がカウンターを狙っているのを察して、影の中からナイフだけを投擲してきたのだ。それにカウンターを合わせてしまった正純は、地面を全力で殴るという結果に終わってしまった。そして背後には、今度こそ影から飛び出したユノが、二本のナイフを振り被っていた。
(もう躱せない……っ!)
それを悟りながら、正純は全力で身体を捻る。だが、前後を入れ替えるのが精一杯。振り返ったところを狙ったかのように、ユノのナイフが心臓を射抜き、喉笛を速やかに斬り落とした。
「ぐ……っ!」
それでもと、正純は致命傷を受けた状態で必死にユノに食らいつく。心臓を射抜いた方の腕を掴み取り、逃がすまいと渾身の力を込め、反撃の拳を握る。
次の瞬間、あっさり両腕を切り落とされた。行動の迷い、判断の遅れ、それらは暗殺者にとって致命的なミスだ。だからユノはそれら愚行を全て先に立った。
ただ冷静に、ただ冷徹に、暗殺者として目的執行を最優先に動く。眼前の敵を確実に殺すまで―――否、確実に死ぬのを確認するまで、彼女は決して油断しない。
だから『直感再現』が背後からの危機を知らせた事には意外だった。
放たれる三つの軌跡を、手足を投げ出す様にして無理矢理回避する。同時に背後を確認し驚く。そこに、もう一人の正純の姿があったからだ。
それでもユノの行動は迅速だった。足首に仕掛けていたナイフを蹴りの動作で投擲し、正純の胸を貫く。『直感再現』がギリギリで間に合ったのか、急所からは外れ、やや右側の位置に突き刺さっている。それでも致命傷。『致命』の効果で傷が癒えない以上、次の一手で確実に仕留められる。
その確信を得ると同時に、ユノは背中を三本の光閃に貫かれた。
歯を食い縛る。
これは予期していたダメージだ。意外でも何でもない。
先程放たれ、躱した三つの軌跡が『射手座』で在る事は予想出来ていた。だから、躱した後すぐに反撃を選んだ時点で背中を撃たれる事は解っていた事だ。
それでも、ダメージはまだ小さい。次の一手を妨げるには至らない。
ユノは地面に着地すると同時に踏み出し、手に持ったナイフをもう一人の正純に向けて放とうとし―――そのまま全身の力が抜けて地面に倒れ伏した。
(な、なに……?)
地面に倒れたまま疑問が浮かび、次の瞬間には
過去の経験から洗い出し、ユノは自分が置かれている状況を認識する。
(毒……っ!)
本当は声に出したつもりだった。しかしそれは言葉にはならなかった。口も満足に聞けない程に強力な毒物を打ち込まれたのだと悟る。
二人になっていた正純は、互いに緑色のイマジン粒子を放ち、一人の存在へと戻る。身体中に謎の痣の様な文様を浮かび上がらせながら、身体中傷だらけの状態で、彼はユノ視線に応える様に語る。
「『星霊魔術』の『双子座』で二人に分裂した。能力も実力も半分に分ける代わり、戻った時のダメージも半分だ。だから片方が殺されても片方が無事なら首の皮一枚は繋がった状態で元に戻る。そしてアンタを苦しめてる毒は『蠍座』の毒だ。使うのが初めてだから加減が解らなかった。ちょっと過剰過ぎる毒だったとしても勘弁してくれよ」
リタイヤシステムの粒子に包まれながらユノは思う。
イマジネーターの能力には制限が掛けられている。それが
少なくともDクラスに於いて、彼の様な多彩な戦闘手段を持つ者こそが有利な立場に立てるのかもしれない。それが解ると、何だか悔しい気持ちになった。自分は異世界の出身だ。残念ながら、自分の故郷とこの世界は、まだ友好関係にあるとは言えない。そもそも自分がこの世界に来たのは事故の様な物だ。だから元の世界に帰りたいとは思わない。それでも、あの世界で培ってきた物は確かに本物で、この世界でも活かす事が出来るはずなのだ。それが、自分のいた世界では「温い」だの「甘い」だのと罵ってきた様な相手に、つい最近まで平和が当たり前の一般人を相手に、ここまで敗北した事が、とても悔しかった。
だけど一つだけ、良い事もあると自覚する。
ここでは負けた悔しさと共に、リベンジを許される。次が許される。
だから誓う。次こそは必ず、この悔しさを相手に味あわせて見せると。
その誓いと共に涙が滲む目で正純を睨みつける。正純は挑むかのように笑って返して見せる。
「またやろうぜ?」っと、言うかのように……。
勝者:小金井正純。
4
ナナセ・シュルム=カッツェは猫科の獣人少女で、ユノ同様、異世界の出身だ。同じクラスなので顔見知り程度には知り合っているが、同じ世界の出身かどうかは、解っていない。獣人系の種族は異世界では珍しくないのかと聞かれると、それはイエスとも言えるしノーとも言えると言う曖昧な返答しか返せない。同じタイプの獣人族であっても、その出生、文化、進化の過程によって、その世界特有の特徴が現れる事があるからだ。
例えば、この世界では人間の亜人種は存在しない。白や黒、そして東洋人の肌色、などと言った肌や目の色の違い、特徴的なところで首長族と呼ばれる、首の長い人種もいるが、これらは同じ人種であり、亜種とは決して言えない。そしてそれ以外は全て動物であり、意思疎通はできない。
これらと似た様に、異世界の獣人―――この世界と友好関係にある世界の一つ『バイタリティア』を例題に上げるとしよう。文明は低いが、人類種族が強靭に進化した異種族世界である『バイタリティア』の人種は、元はこの世界の人間(『バイタリティア』では
他の種族との交配を続け、進化の過程上で『獣人種』として到達した彼等は、文明発展よりも、個体の進化を目的として生活し、実はとてつもなく頭が冴え、身体能力の高い種族となっている。
対して、ナナセの出身世界(交流が無いため名称は不明)では、三番目の神様が自分達を祝福し、より神様の形に近い物へと進化させてくれた、神からの贈り物だと伝えられている。言わば、元が獣種から進化した人種なのだ。そのため、同じ獣人種でも見た目の違いなどで差別は起こるし、宗教や文化の違いなどでぶつかりもする。そして文明も発達させる方向にあった。
結果として、『バイタリティア』の獣人種は、こちらの世界から見ると文明が乏しく、礼儀作法も最低限なので野蛮に見え、だが、人間よりも圧倒的に優れた人種だったりする。
対するナナセ達には礼儀作法が全く別文化なので噛み合わず、いがみ合いの種になったりし、お互いに文明の違いなどでぶつかり合ってしまう、何一つ変わらない異国人と同種の人種として見られる。
中には尻尾はスカートの中に隠し、人前でみだりに見せない物だとする種族や、裸同然の格好なのに、絶対に生足だけは晒そうとしない種族がいたりなどと、違いと言うのは接してみれば如実に表れる物である。
そんな彼女達にとって、異世界の力、イマジンはどう映るのかと言うと、それはやはり魔法を超えた万能の力だった。
想像するだけで能力を作り出し、独自の形態で進化、発展させていく力など、彼女達の知る世界の概念でも存在しなかった。(ちなみにユノとナナセの世界には魔法は存在したが、どちらも同じ理屈ではない魔法文明だった)
はっきり言って、全く制限の無さ過ぎる力は、ただそのまま振るっても大災害を引き起こす事が可能な程であった。それに敢えて制限を付けるのは、そう言った“ルール”が存在するのだと人に認識させる事を重視したからなのだろう。何故イマジン研究が学園として設立されたのか、その理由もここに一因しているのかもしれない。イマジンを使う上での常識を、いつかイマジンが一般化される時の事を見越して、今の内に教えているのだろう。
さて、そんな脱線的な事を考えながら、ナナセは首を捻って考え込む。
先程も言った通り、イマジンは万能の力で、想像すればどんな事でも起こせる。
学園側から設けられた制限こそある物の、それに違反しないレベルでも充分過ぎる程破格の能力だ。
だが、その万能過ぎるが故に、不自由な事もあった。
それは能力使用時に発生する違和感だ。
ナナセの能力は『
派生能力『
しかし、彼女が能力と派生能力の複合技『
『
だが、どうも違和感がある。発動時のタイムラグ、想定される威力、照準、使用したイマジン量、ありとあらゆる事にムラが発生しているのだ。
能力その物は発動している以上、学園側が設けた“
時には、英霊の魂で強化したリクの剣激で簡単に薙ぎ払われてしまう程、ただの突風クラスにまで劣化してしまう事もあり、逆に、これ以上ない程強烈な一撃となり、周囲の遺蹟っぽい建造物を、根こそぎ両断してしまった事もあった。
全く安定しない力に、どうしてなのか? 何故なのか? っと、首を傾げるナナセ。
幸いな事に、戦闘はそれほど苦戦はしなかった。能力的相性差もあり、自分の能力はリクの能力に比べると、『
ムラの所為で長引きはしたものの、無事、ポイント獲得で何とか勝利を収めたナナセは、教師に対して質問を投げかけていた。
「それは単に能力が不安定なだけと思われ、故に違和感となって現れる」
質問を投げかけられた金髪ロングヘアーの実技担当教師、メアリは、スレンダーな体系を自然に見せつける背筋を伸ばした綺麗な姿勢ではっきりと斬って捨てた。
「ふ、不安定って……、ちゃんと制限に則った能力設定にしているはずですけど?」
あまりにバッサリ切り捨てられた物だから、表情に出るほど不安になって質問を続けるナナセに、メアリはハキハキとした態度で説明を続ける。
「そもそも学園側が能力に制限を付ける理由を、アナタはちゃんと理解していますか?」
「ニャ? 範囲の広すぎる能力は、不慣れな者には扱いきれないからって事ですよね?」
ざっくりとした結論を告げたナナセに頷き、メアリは続ける。
「アナタが違和感を覚えたと言うスキル『
「『デュアスキル』?」
まだその知識を得ていないナナセは首を傾げたが、メアリは「それは後で自分で調べて」と切り捨て、本筋を語る。
「本来、二つの能力を同時に使用する事は難しい事じゃない。多少制御が困難にはなれど、両手を使うのと同じで、ややこしい事をしようとしない限りは、左右の手が混乱する事は無い。でも、それは片手を充分に使えればの話」
メアリの話によると、ナナセが『
「普通の人は、
言われてナナセは自分の三つ目のスキル『
「で、でも……、能力自体は発動している以上、そんなのは慣れの問題なんじゃ?」
「その通り。でも、アナタにとってこの状況はとてつもないハンデと自覚するべき」
「そ、そこまでニャのっ!?」
「ハイハイを思い浮かべると良く解る。上手くハイハイをするには、右手と左手を交互に動かさなければならない。でもあなたは右手を単体で動かす方法を知らないから、右手を前に出そうとする時、左手も前に出てしまう。故に顔面激突」
「ひにゃあっ!」
思い浮かべて悲鳴を上げるナナセ。
実際にハイハイはそんな簡単な動作ではないが、例題としては充分に解り易かった。
「じゃ、じゃあ、ボクはこれからどうしたら? ひたすら複合スキルの練習?」
「それより能力単体で出すスキルを得た方が圧倒的に早い。それだけで一瞬で会得できる。でもスキルスロットの空きは無いから、今は諦めるしかない。故に時間の無駄」
「にゃんか悲惨ッ!?」
教師のありがたい言葉に項垂れる結果となったナナセ。
どうやら自分は、学園側が上手く能力を使える様にという配慮で設けられた制限を、己が才能で無視して、逆に自分の首を絞める結果となってしまったらしい。
才能があればあるだけ伸びると言う物ではなく、才能を伸ばすための正しい順序と言う物は意外と存在する。全てが全て型通りにはまるわけではないが、少なくとも、そんな例外など早々ないと言う事なのだろう。
新しく『
「にゃにぃこの扱い……? 酷過ぎる……」
涙目になって項垂れるナナセだったが、その脇で自分の治療をしていたリクが「こっちの扱いの方が酷過ぎない? ほぼ完全に空気だよ?」っと呟いていた事には気付いていない。
5
ついに訪れた三日目、予選最終試合にして各クラス代表を決める最後の試合。各クラスの例に漏れず、疲労困憊に陥っている生徒達は、まるで消化試合の様にあっと言う間に決着を付けて行った。
ユノ・H・サッバーハVS
リヴィナ・シエル・カーテシーVS
クライドVS
互いの能力が攻撃系で無かったのが災いしたのだろう。クライドは『背負え
リク・イアケスVS
この戦いも接戦とは言えず、終始、歌音優勢で進んでいた。
梨花が『猫にゃん大進行!』で呼び出した二千匹の猫で戦闘を試みていたのだが、彼女の猫はイマジン体であり、一匹一匹に自我が存在していない。そのため梨花を守るためのアルゴリズムが存在し、それを見破られてしまった後は、殆ど独壇場にされていた。
歌音の能力『蓄積』のスキル『静寂の黒』で創り出した直径十㎝の球体を、自分の周囲に六個配置し、上手い事、行進してくる猫にゃん達にぶつけ、イマジンエネルギーや運動エネルギーを吸収して行く。
ある程度蓄積が完了したら、今度は派生能力『解放』のスキル『激動の白』によってエネルギーを解放。周囲の大気に対して吸収した運動エネルギーを解放しただけなのだが、蓄積した量が量だけに、エアカッターの様な、真っ赤なレーザー光線が発射された。一方向に強制的に働きかけられた運動エネルギーを受け、空気同士が摩擦を起こして赤く変色したのだ。レーザー光線(実際はエアカッターなのだが、もはや大差ない)をサッ、と一閃された大地があまりの威力に吹き飛び、周囲の猫にゃん達が吹き飛ばされて行く。
「薙ぎ払えーーーっ!」
「猫にゃ~~~~~んっ!!?」
まるで死の七日間を再現しているかのような残酷な光景に、しかし自我を持たない猫にゃん達は梨花を守るために次々と恐れる事無く向かって行く。
そしてまたエネルギーを充分に蓄積した歌音にレーザーを放たれ、大地が爆ぜ、直撃した猫にゃんが両断され、次々と粒子の躯を晒して行く。
「や、やめて猫にゃん! リカの事は大丈夫だから、もう無謀な攻撃をしないでぇ~~!」
梨花の悲鳴も虚しく、猫にゃん達は無謀な突撃を繰り返す。
そんな中、一匹の猫にゃんが脚を止め、梨花へと振り返る。
「猫にゃん?」
「……にゃあ」
タッ!
猫にゃんは駆け出す。己が主の敵に向けて、自我無き猫がその使命を全うする。
しかし、その爪は、その牙は、命を賭した体当たりさえも、完全に読み取られ、全ての運動エネルギーを吸収され尽くし、無常なる光の柱は放たれる。
「にゃああああああーーーーーーっ!!」
迸る光に向けて、それでも自我無き猫は爪を振るう。その粒子の肉体一片でも残る限り、抗って見せると可愛い声で吼え猛る。
サッ、……チュドーーーーーンッ!!!
その志は、藻屑となって消え去った。
「猫にゃ~~~~~んっっ!!!」
がっくりと項垂れる梨花。
もはや戦意喪失に近い状態に陥りながら、それでも自我無き猫達は主のために戦意を漲らせ続ける。
「「「「「にゃあおおおおぉぉぉ~~~~んっっ!!!」」」」」
「なんて……っ! なんて無常なの……っ!」
「そう思うならリタイヤしてよっ!! 僕の方まで胸が痛いんだけどっ!?」
未だにレーザーもどきで猫にゃんの強制大量虐殺を繰り返す歌音は、ある意味で梨花よりよっぽど精神的ダメージが大きかった。
「殉職した猫にゃん達のためにも、リカは自ら敗北を認めるわけにはいかないのだっ!」
「じゃあ続けるんだねっ! 言っとくけど僕もこのまま続けるからねっ! 良いねっ!?」
「そんな脅しに―――っ! 屈する……っ! わけには……っ!」
「ちょっと雰囲気出すの止めてくれないかなぁ~っ!? 僕を悪者にしようとするのやめてくれないかなぁっ!?」
長引くと自分が(別の意味で)不利だと考えた歌音は、蓄積したまま待機させておいた二つの『静寂の黒』を手元に寄せ、丁度溜まった三つ目と合わせ、三つの光線を一気に放つ。サッ、と引かれた三つの軌跡を追う様に、地面が爆発して行く。一匹残らず宙を舞う猫にゃん達。それでも消滅を逃れた個体が、身体を捻って着地の体勢に入る。そこに『強化再現』を施した歌音が突撃を敢行する。空中では何もできない猫にゃん達を手刀と拳で薙ぎ払い、残存した猫にゃんの全てを粉砕し、その足で接近した梨花に向けて、渾身の拳を叩き込む。
「『助けて、大きい猫にゃん!!』」
梨花の『猫の姫様』の第二の能力が発動する。現れたのは全長3メートルの巨大な虎。明らかに“にゃん”の類ではないだろうっと言うツッコミを入れたくなる、かなりリアルな猛獣が、額で歌音の拳を受け止め、微動だにする事無く睨み返す。
「我ぇ、なんばしよってん……?」とでも言いたげな眼で睨み据え、姿勢を低くしながら威嚇の唸り声を漏らす。
(なんか、絵面だけ見ると、猛獣使いの少女が
「多くの猫にゃん達が無駄死にで無かった事を……っ! リカは此処に帰ってきましたぁ~~~っ!!」
「核なのっ!? この“大きすぎな猫にゃん”、核相当の扱いなのっ!?」
「名前は“シマにゃん”です!」
「リアル描写の癖に名前は可愛いっ!?」
思わず涙目でツッコミを入れてしまったが、そんな事してる内に
いくら『強化再現』しているとは言え、さすがにリアル描写設定のイマジン体虎に押し倒されて力付くで逃げられるほど、歌音のイマジネーションは優れていない。強化系の能力でもあれば別だっただろうが、なんでも都合良く行く訳ではない。
「シマにゃん……、食べて良いよ……」
「ちょ……っ!? その指示何かムッチャ怖いよっ!?」
何処か憂いのある瞳を逸らし、胸の痛みを誤魔化す様に告げる梨花。それを
「こんっのぉ……っ!!」
刹那、黄金の輝きが迸り、
黄金の輝きを纏った歌音はゆっくりと立ち上がると右手を空へと翳しながら、真直ぐ虎を―――その先に居る梨花を見据えて告げる。
「アナタは優しい娘。滅びて行く猫にゃん達のために悼む心を持った優しい娘……」
歌音の翳した手に、キラキラと緑色の粒子が集い始める。それは、学園から支給される生徒手帳を通したイマジン粒子ではなく、周囲に霧散している大気中のイマジン粒子の輝き。それを歌音は手に集めているのだ。
「でも、アナタはその優しさの使い方を間違えたんだよ。果て行く猫にゃん達を悼む事が出来たのなら、アナタは戦いを止めるべきだった。アナタを慕う猫にゃんが全ていなくなるその前に……」
それは美しい光景であった。対峙しているはずの梨花すら思わず当てられ、呆けてしまう程に美しい。ただ周囲のイマジンを集めているのではなかった。これは能力によって大気中に残っているイマジン粒子達を呼び寄せ、自身の中に蓄積しているのだ。
しかし、その粒子の量は半端じゃない。いくらギガフロートが大気にイマジン粒子を充満させているとは言え、イマジネーター同士が戦闘した空間では、大気のイマジン粒子が一時的に枯渇するはずだ。それだけイマジネーターは大気中のイマジンを無意識に吸収し、使用している。それなのに、歌音の身体はイマジンの粒子に溢れ、『蓄積』の効果が追い付かない程に粒子の光に輝いている。
「猫にゃん達を悼む心があったのなら、猫にゃん達と共にある事を望むべきだった。友の決断を許し悼むだけなら、それは優しさではない! 同情と言うんだ!」
粒子が全て集い、右の拳を握る。
集まった粒子量に
嘗て、この能力は自分の設定ミスで不発に終わってしまった物。
そして今、その失敗を乗り越え、修正されて新たに輝きを取り戻した異能。
『夢色の金』自身が触れた物や人から漏れ出るイマジネーションの力を自身に留める『蓄積』の力。そしてここには、沢山の猫にゃん達が残したイマジン粒子が充満している。自分が触れている空間からイマジン粒子を手繰り寄せ、それを自身に蓄積、エネルギーへと変換する。
変換され、黄金の輝きを持つエネルギーを『激動の白』によって、一気に解放する。
「散って行った猫にゃんの気持ちとか、あとこのテンションに付き合わされたボクの気持ちとか、纏めて味わえ~~~~~ッッ!!」
黄金の輝きをヤケクソ投球フォームで投げ放った歌音。
強烈なエネルギーの塊に曝され、
「ああああああぁぁぁぁ~~~~~っ!」
キラキラと輝く光の中、少女は敗北を悟り、全身から力を抜いた。
(負けちゃった……、でも、私頑張ったよ。がんばったよね?)
今は亡き猫にゃん達を思い出しながら、少女は自分の努力を涙ながらに主張する。
(でも、変だなぁ……、リカ、戦う事よりも、猫にゃん達と一緒に居る事ばっかり考えてる…)
それは、猫にゃん達を犠牲に、最後まで戦う事を誓った己の否定であり、犠牲となった彼等への侮辱ではないか。そう断じながら、自嘲の笑みを漏らし、瞳の端に涙を零す。
「『疲れたよー、猫にゃん…』」
―――っと、そこに生温かくざらついた感触が頬をくすぐった。
「え?」
瞼を開き、目にしたのは、先に散って行ったはずの猫にゃん達だった。
彼等は横たわる梨花の周囲に集まり、傷を癒す様に、ただ甘えてくるかのようにぺろぺろと舌で舐める。
「猫にゃん……、そっか、今度はずっと、一緒だね……!」
微笑みを浮かべ、雫を零す梨花。
それに応える様に「にゃあ」と短く鳴く猫にゃん達。
梨花は何匹かの猫にゃんを抱いて蹲ると、そのまま目を閉じて、ポカポカと温かい眠りへ身を委ねるのだった。
「あのぉ~~~? それ、絶対回復系の能力だよねぇ~~? 何か気分だしてるとこ悪いんだけど、起きてくれますぅ~~~?」
既にかなり投げやりになった感じの歌音に、ぱっちりと目を開けた梨花は、何故か笑顔を向けて答える。
「『疲れたよー、猫にゃん…』だゾ! 一緒に居るだけで癒されちゃうのだ! 『猫にゃん大行進!』で呼び出した猫にゃんでしか回復できないけど、アレ、普通のイマジン体だから、基本的にイマジン溜まったら何度でも呼べるゾよ」
「解ったから終わりなら変な芝居止めてギブアップしようねぇ~~? じゃないとトドメ刺すよ? 猫にゃんに?」
「りょ、了解ですゾ。ちょっとバトルに飽きて調子乗りました。ごめんなさい……」
梨花のギブアップにより、歌音は勝利を収めた。
………まあ、あれだ。
バトル推奨の学園とは言え、八歳の女の子がモチベーション保つのは、ちょっとハードすぎる学園だったのだ。大目に見てやってほしい。
6
その対戦カードを確認していた教師達は、
監視が目的ではない。ただ好奇心をそそられる程の好カードだったのだ。
教師達の間でも、Dクラスの五指に入る有力株。クライドや正純など、Dクラスを代表する様な能力者として、期待を抱かれていた。
その二人の戦いは、傍から見れば天候と天候のぶつかり合い。正に神々の争いと見紛う光景だった。
白い着物に緋の袴。女物の下駄を履いた少女、桐島美冬が、吹雪に長い黒髪を靡かせながら、両手を翳し、イマジネートを
「『
発動された能力『魔法創造』の『
「六星編、1章、3章、5章、多重詠唱継続! 放て≪インフェルノ≫!!」
夕焼けよりもなお赤き世界に、黒点の如く佇むのは、黒いゴシップドレスに身を包む、百四十くらいの見た目幼い少女、
極寒と業火、対極する力により、それぞれ世界の終わりを体現する猛威と猛威。それらは己の領域を主張するかの如くぶつかり合い、空気が悲鳴を上げるかの如く大爆発を引き起こす。
核弾頭に匹敵するのではないかと見紛う爆発を何度となく繰り返し、天候と天候の力は次第に力を相殺されて行き、勢いを失い始める。互いに災害クラスの威力が失われたと判断するや否や、
手を翳した美冬が天候を変えて作り出した雪を集め、それを凍りつかせ槍状にし、放つ。
それに応え、腕組をしたまま詠子も『黒の書=六星編』の3章、地属性の魔術で岩槍を作り出し、それを更に1章の炎と、5章の光を合わせ持った太陽クラスの猛火で焼き付け、溶岩の槍にして迎え撃つ。
衝突した互いの槍は大爆発を起こし、一番近くにあった地面が深く抉られて行く。
一発では話にならないと悟った二人は、次々と槍を作り出し、雨の如く乱れ撃つ。
撃った数だけ大爆発が起き、まるで氷と炎の神が戦争を始めている様な光景となる。
だが、どんなに規模が大きくても、互いの攻撃を打ち消し合っているだけでは豪華な花火と変わらない。互いに互いを出し抜く隙を窺う。
先手を取ったのは詠子だ。
「六星編、2章、4章、5章、多重詠唱!」
詠子の周囲で滞空している九冊の本の内、水、風、光を司る本が独りでにページをめくり、詠唱として効果を発揮する。
同時にもう一冊、自分の手にとって、片手で本を開き、両手を交差させるようにポーズを取りながら『黒の書=三星編』の効果も発揮する。
「三星編、1章、同時詠唱!」
『黒の書=三星編』の1章、対物効果を
水で槍の形状を作り、風で螺旋を生み、ドリルの様に回転させ、光を帯びる事で光速の加護を得る。それに対物効果を与える事で物理的な防御を無効にする。
「射抜けっ!」
完成された槍を魔術によって投擲。質量が増えた分、光の恩恵を受けても本物の光速には達しないが、吹雪や爆風に煽られても物ともしない程度には充分高速を得ていた。
音を置き去りにして放たれる槍に気付いた美冬は、急ぎその場から離れる。その場を飛び退くと同時に槍が飛来、先程まで自分がいたところを寸分たがわず貫通して行く。
地面を転がる様にしてすぐさま体勢を立て直した美冬だったが、そこに追い打ちをかける様に溶岩の槍が無数に飛来する。
「食らいませんっ!」
美冬の使う『
同時に、煤の煙幕を切り裂く様に水の矢が飛来してくる。
「『
今度は能力『魔法創造』『
相手が放出系の能力者なら、作られる前の存在はイマジンエネルギーである場合がほとんどだ。っで、ある以上、放たれた槍はイマジン粒子となって雲散霧消する。
すかさず今度は美冬が反撃に移る。
「『
対象を中心に爆発と同等の衝撃波を放つ、自動照準系空間爆破だ。対象さえ目視出来ていれば後は魔術式が自動で照準してくれるので、ほぼ確実に対象に命中させられる。しかし、この能力は相手の心臓部を照準の中心としている。そのため、高確率で相手の『直感再現』に感知されてしまう。
案の定、危機を感知した詠子は、急ぎ『黒の書=三星編』を掴み取る。
「三星編、2…いや、1章―――!」
詠子の魔術は恐ろしく長い詠唱を必要とする魔術だが、その全てが本のページを捲るだけと言う詠唱を短縮できるシステムになっている。
だが、それでも一瞬一瞬を左右する場面では、どうしても詠唱速度が間に合わない場合がある。
ドドウゥ…ッ!!
「ぶぐぅ……っ!!」
詠唱が不十分だったため、多少の衝撃を受けてしまった詠子だったが、なんとか耐え凌ぐ事くらいはできた。
「もう一度……!」
「二度目はないっ!」
もう一発『
三星編の1章を展開すると同時に、六星編の4章を同時に展開していたのだ。創り出した風の魔術を自分が受けた衝撃波と波長とタイミングを合わせ、自らに撃つ事で効果を相殺して見せたのだ。しかし、これは文字通りかなりの荒療治だ。さすがに合わせ切れずに心臓を殴られた様な感覚を味わうことになった。幸い感覚だけでダメージらしいダメージは発生していない。
「六星編、1章、3章!」
攻撃をやり過ごした詠子が、火と地の魔道書をバラバラッとページを捲らせ、詠唱する。
「≪アースレイブ≫!」
ネーミングは即興。しかし、イマジンは名称設定や発声で効果を強くする事が出来る。詠子の様な多種多様な魔術を操る能力者には、思い付きで適当に技名を叫ぶのも、決して理に適っていない物ではない。
土と火の合わせ魔術。美冬の周囲の土が盛り上がり、次々と巨大な火柱が上がって行く。周囲を火柱で囲まれた美冬は、すぐさま『
「『
二人の声が重なり、美冬を中心に二重の衝撃波が重なり、相殺する。
「うぅ……っ! 『
相殺しきれなかった衝撃で胸を押さえ、多少よろめきながらも美冬は周囲の炎を今度こそ鎮火させる。
「ほう、見事であるな。あのタイミングで私の一手を読み、それに合わせてきたか」
感心したように上から目線な詠子に、美冬は挑みかかる様な視線を返しつつ笑みで返す。
「アナタこそ、風と物理効果の魔術で、私の能力と同じ現象を再現するなんて、驚きました…!」
実際に再現と言っても全く同じであったわけではない。
詠子の『
同じ衝撃波で相殺しようとした美冬は、対象への心臓を中心にする自動照準であるため、狙いがずれてしまい、完全に相殺できなかったのだが、そう考えると、狙いが外れたのも幸運だったと言えるかもしれない。
(でも、こんなに早く同じ系統の攻撃をマネしてくるなんて、地力だけで出来る物なの?)
疑問の答えは見つけられなかった美冬だが、その実、地力だけで行った物ではない。
詠子の派生能力『魔導系統樹』『黒の書再編』の力によるところが大きい。この能力は“黒の書の術式を進化派生させ魔導系統樹を生成する”っと言う物であり、詠子の周囲に漂う『黒の書』をより強化していくための能力なのだが、その眼にした現象に対しても対処法を導き出す事が出来る補助効果も備わっている(絶対的な物ではなく、あくまで思考補助的な物)。これによって相手の能力を物理現象的に解読し、解析し、組み直す事で自分の能力として変換して見せたのだ。残念ながら今は“氷”の属性を表わす魔道書が精製出来ていない(もしくは水の魔道書に氷が追加されていない)為、美冬の氷結魔術までは再現できないが、それが叶うのも遠い未来の話ではないだろう。
(……系統魔法で攻める以上、あまり長引かせられる相手ではないのでしょうね)
ネタが解らずとも確信を突いた美冬は、自分が狙うべき物を見定める。
(狙うなら……、やっぱりあの本……)
視線で狙いを気付かれる前に、美冬は『強化再現』を使用し、一気に飛び出す。下駄を履いてるとは思えない速度で氷の破片が残った地面を蹴り飛ばし、突き進む。飛び散った氷の破片が光に反射し、彼女の姿を銀色に着飾る。
詠子が迎撃してくる前に先手を打つ。
「『
右手を突き出し、敢えて大声で叫ぶ。
詠子は咄嗟に『六星編』の魔道書から火の魔道書を開こうとして―――『直感再現』に従い、慌てて『三星編』の対物の魔道書を発動し、襲ってきた衝撃波を相殺した。
イマジン能力も、設定で明記していない限り音声発動は必要と言うわけではない。念じるだけで、無音でも発動は充分に可能だ。だが、発声を入れる事で強化が可能な様に、発声による弱化も起きてしまう。今美冬がやった様に『
そのため不意をつかれた詠子だったが、詠唱不十分でも完全に相殺し、ノーダメージに留められてしまう。それでも迎撃行動を遅延する事は出来た。
距離にして約十五メートル。更に近づくために、飛ぶ勢いで走る。
接近の意図が読めずとも、それに対する危機感を抱いた詠子が後方に下がる。もちろん『強化再現』はしっかりと行っている。
「『
今度は本当に衝撃爆発の魔法を発動。しかし、先に用意していた詠子はしっかり対処、今度もノーダメージ。
「『
すかさず氷結魔法に変換、詠子の退路を凍らせ、氷の壁を作り出して動きを封じようとする。
「六星編、3章! ≪ロック・ガン≫!」
地属性の魔道書を展開し、サッカーボールくらいの
美冬は自分の作り出した凍りついた地面に飛び乗り足の裏の摩擦に『劣化再現』を、前進する運動エネルギーに『強化再現』を施す。この二つを別の場所と概念に同時に使用するのは、かなりの難易度なのだが、そこはDクラスとしての面目躍如、見事にこなして見せる。
氷の上を滑りながら急加速してくる美冬に対し、詠子は『六星編』の1章、火の魔道書を展開。火の雨を降らし、地面の氷を溶かしつつ美冬の迎撃に入った。
美冬は内心舌打ちしたい気分になりながら、軽く飛び上がって『劣化再現』を解除する。氷が溶けた地面に着地する瞬間、『
距離にして十三メートルまで接近していた事もあり、この突貫にはさすがに追い付かれると判断した詠子は、足を止め、『六星編』5章、光の魔道書を展開。幾つもの閃光を放ち、美冬の身体を直接撃ち抜こうとする。
美冬もなんとか身体を捻って攻撃を躱そうとするが、今度は文字通りの光速攻撃。全ては躱せず、左手、右脚、左脇腹をごっそり持って行かれた。
「……っ! 『
瞬時に発動した異能が破損した肉体を衣服事再構成。完全に完治する。そして勢いは殺されていない。空中から飛び込む形で詠子へと接近する。
「六星編、2章!」
ギリギリ正面の位置で詠子が先に水の魔術を発動し、美冬を水球の中に閉じ込め―――、
(『
一瞬にして消滅する。
「勢いが
詠子が薄く笑んだ瞬間、美冬の身体が地面から飛び出した無数の針に貫かれ、空中に縫い止められた。あと一歩で手が届くと言う距離で、彼女の進行がついに止まった。
「やっと……、狙える距離に入った……!」
鮮血に濡れる美冬。その口に広がる鉄の色の味に堪えながら、彼女は手を突き出す。
詠子の視界に白い物が横切る。それはパラパラと降り注ぐ小さな結晶。白く美しい粉雪だった。
「っ!」
それに気付いた詠子が飛び退く。
詠子は気付いていたのだ。天候同士のぶつかり合いの最中、美冬が生み出した吹雪は、雪の粉一つ一つが氷点下に達する超低温の凶器。触れた物を一瞬で凍りつかせ、生物なら一瞬で凍傷させる事が出来る。決して触れてはいけない美しい凶器。
カキンッ!
凍りつく音が、詠子の耳に届いた様な気がした。
しかし、自分の身体には何処も異常は見当たらない。ならば一体何が凍った?
ゴトゴトゴトッ! っと物が落ちる音に視線を思わず足元に送って気付く。狙われたのは自分ではない。自分の能力を発動している魔道書だったのだと。
バギンッ!
美冬が身体を無理矢理捻って自分に刺さる極太の針を一度に全てへし折る。同時に『
「その状態で! この距離で! 『
「≪エピゲネーテートー・フロクス・カタルセオース・フロギネー・ロンファイア……≫」
(え……っ!)
両手を突き出し、『
(
(魔道書の自動詠唱機能は、口で唱えるより早く、強力な魔道を発動させるための物だが、魔道書の中身は全て記憶しておるわっ!)
詠子が思わぬ返し手を仕掛けてきた驚愕と、ここまで能力を連発し過ぎてイマジンの練り上げが悪くなった所為で、僅かに
「『
「『
詠唱を必要とした分、僅かに一瞬だけ遅れ、詠子も炎の魔術を発動する。
超至近距離で、絶対零度の雪結晶と、深紅の焔が鬩ぎ合う。
天候同士の対決の時は、それなりに距離を開けて大出力を撃ち合っていた。それ故、どんなに強大な力がぶつかっても余波で消耗すると言う事は起きなかった。だが、今度はたった三メートルも離れていない距離でのぶつかり合い。業火と極寒が
これは単純な力の押し合いではない。互いの体を削り合う消耗戦だ。
おまけにここで問題が発生する。この試合がポイント制だと言う事だ。こうして互いを削り合っている今も、互いのポイントはガンガン追加されて行く。こちらの発動が速かった分、鬩ぎ合いでは自分の方が先に多くポイントを獲得できたかもしれないが、それより先にダメージをいくらか受けてしまった。その分のポイント差がどうなっているかは見当もつかない。もしかしたら負けている可能性の方が濃厚とも思える。
(くぅ……っ! ならばっ! ここで『
『
(……っ!? は、発動しないっ!? どうしてっ!?)
能力設定はされているのに、美冬の『
「ふっ、どうやらお主、設定ミスをしたようだな」
「!」
火と氷の魔法をぶつけ合う向こう側で、美冬の表情から何事かを察したらしい詠子が、額に汗を流しながら不遜な表情を見せている。
「お前が使用したスキルは三つだった。つまり、手の内は全て晒した状態のはずだ。それでも切り札がある様な顔をしたのでおかしいとは思っていたぞ。大方、能力を設定しておきながら、その能力で使うスキルを設定し忘れたのだろう? 滑稽よな!」
歯噛みする。
正にその通りだ。美冬は『
実際問題、この手のミスは意外と多い。特にDクラスは、多様性を求めるあまり、何処かでこう言った初歩的なミスを犯している場合が案外多いのだ。Cクラスよりもトリッキーで、知識的な面では成績が良い彼等がBクラスではなく、Dクラスとなっているのは、この辺のうっかりミスが多い事にも起因している。冷静沈着で思慮深い、だが、ここぞと言う時に簡単なミスを繰り返す。更にそのミスを、案外本人達は重く受け止めてしまうケースが多いため、Aクラスの生徒が弄りたがらないところでもある。
(私とした事が……っ!)
悔しい思いが胸を突く。もしかしたらこの場を逆転できたかもしれない一手をみすみす逃してしまった。その後悔が胸の中を
(違うっ!)
目を見開き、正面の詠子を真直ぐに見つめる。
(今まで使ってた三つのスキル。そのどれが欠けていてもここまで来られなかった! だったら、『
多少強めの言葉を意識し、美冬は自分を奮い立たせる。
魔法系同士のぶつかり合いの場合、必要とされるイマジン変色体ステータスはイマジネーションである。美冬のステータスは700、詠子のステータスは430だ。気持ちで負けない限り、純粋なぶつかり合いでは自分の方が有利なはず。己を
だが拮抗。
力の差はまるで埋まらない。
これは詠子のもう一つのステータスが作用している事が原因だった。
確かにイマジネーションのステータスは詠子の方が下回っている。だが、舞台が魔法戦と言うのなら、話は少し変わる。詠子には固有の変色体ステータスに魔力が存在し、この魔力が同じく430のステータス値を有しているのだ。こと魔法戦と言う舞台なら、詠子の能力は合計860のステータス値を叩き出す事になる。
さすがにステータスの詳しい内容まで予想は出来なかった物の、その可能性に行きついた美冬は、だからこそ逆に心を奮起させた。
(数値で負けているにも拘らず、私が押される事無く拮抗出来ているのは、私が有利な状況で攻撃を仕掛けられた事の証明です! だから、やっぱりこれはチャンスなんだ!)
そろそろ二人とも、放出するイマジンに対し、練り上げるイマジン量が追い付かなくなり始めた。ポイントも既にギリギリに及んでいる。
「ここまで来て……っ、諦めたりなんか……っ! 絶対しないっ!」
残る全てを賭けて、美冬は
比喩ではなく、物理的に。力が拮抗し合っている、そのギリギリの中へ、自ら拮抗を崩しに掛ったのだ。
「!?」
鬩ぎ合っていた力のバランスは崩れ、ぶつかり合っていたエネルギーはあっさりと限界を迎える。限界を超えたエネルギーは、逃げ場を求め周囲へと驚異的な力で拡散し、大爆発を起こした。
正に爆発の爆心地に居た二人は音を置き去りにした世界で光に包まれ、正面に居るはずの互いの姿すら見失って行った。
我を取り戻した美冬は自分が、何処かの岩に背を預けているのだと気付いた。すぐに爆発の事を思い出し、アレからどのくらいが過ぎ、どう言った状況になっているのかを確認する。
まず、フィールドが荒野だ(元は街並みだったはずだが……)。ならばまだバトルフィールド、アリーナの中と言う事だ。まだ土煙がそこかしこから上がっている所を見ると、爆発からそう時間も経っていないのかもしれない。
下着が見えてしまう程、乱れていた巫女服を正しながら、立ち上がって対戦相手の姿を探す。勝負は、一体どうなったのか?
「≪ストレイド・ダーク≫」
疑問を浮かべた時にその声はした。
次の瞬間には体に黒い闇の触手が絡み付き、美冬の身体を拘束した。
「んぅ……っ!」
締め付けられる苦しさに、美冬は思わず声を漏らす。
その闇は触手と言うには細く、形が定まっていない。まるで粘りっ気のあるスライムが触手上に伸びてきたのではないかと思えるほど、見た目の固さが見受けられない。更に、“拘束”と言ったが、その方法も妙な物で、普通拘束する場合は両手両足を縛るか、同体事ぐるぐる巻きにする物だが、この闇はそうはせず、身体全体をクモの巣状に展開し張り付き、指先に至るまでの四肢の全てを細い闇の糸で締め付けている。だが、これが案外理に
拘束と言うより、相手の体力を奪う事が目的であるかのような状態だ。
そこまで考えたところで、煙の中から黒い少女が現れる。
多少、服があっちこっち破れてはいるが、片手で片眼を隠す様にしているポーズを決める者は一人しかいない。
黒野詠子は悠然とした表情で、魔王然とした威風でそこに立っていた。
「見事であった。よもやこのブラック・グリモワールをここまで追い詰めるとは。その力、純粋に称賛に値する」
美冬を見降ろし、堂々たる姿で立つ姿に、美冬は理解する。
(私は……、負けてしまったんですね……)
全力を出し尽くした。今は敗北感も悔しさも湧いてこない。ただただ疲労感だけが押し寄せてくる。
ただ、それは決して悪い物ではないと思えた。
「貴様は私の
―――っと、唐突に世界が白い物へと変わって行く。試合開始前と同じ、白い壁の空間へと戻って行くのだ。同時に美冬は気付いた。視界の端にイマジンシステムで表示されている獲得ポイントに。それは互いに50ポイントを軽く上回っていた。
「この試合がポイント制でなければ、決着も付けれた物を……」
そう、詠子の言う通り、この試合は100ポイントに匹敵するオーバーポイントで、二人の引き分けに終わっていたのだ。
「
遥か高みから告げる様に、詠子は地面に倒れる美冬を
「………。引き分けと解っていたのに、なんで私は拘束されてるのかしら?」
「……、我を前に、見下ろす事など許されぬのだ!」
「それとさっき、『誇り』を噛んでましたよね?」
「噛んでいない……っ!!」
「いえ、はっきり噛んでましたよ?」
「噛んでいないと言っておろう! 愚かも
「……」
「愚か者っ!!(ビシッ!!」←(決めポーズ)
「言い直しても誤魔化されません」
「………~~~~っ!」
最後は何だか詠子が涙目になっていた様な気もするが……、こうしてDクラスの試合は全て終了したのだった。
≪あとがき≫
≪美冬≫「まったく、今日は失敗してしまいましたよ……」
≪美冬≫「夕飯までまだ時間もありますし、自販機でジュースでも買いますか?」
≪カグヤ≫「お?」
≪美冬≫「あ、どうも……(初めて会う人だけど、何だか可愛らしい人)」
≪カグヤ≫「自販機でジュース買うのか?」
≪美冬≫「ええ、まだ夕飯まで時間も空いてますし」
≪美冬≫「何か問題があったりするのですか?」
≪カグヤ≫「いや、イマスクの自販機ネタを誰かに言いたくて仕方なかったんだ」
≪美冬≫「自販機ネタですか?」
≪カグヤ≫「この学園、結構至る所に自販機があるだろう?」
≪美冬≫「そうですねぇ、まだ学園の全てを周ったわけではありませんけど……」
≪美冬≫「時々変なところに隠す様にあったりとかしますよね」
≪カグヤ≫「実はあの自販機、一つとして同じ種類が無いんだぜ」
≪美冬≫「えっ!?」
≪カグヤ≫「確認してみれば解るが、コーヒーとかの定番ですら一種類しかない」
≪美冬≫「ああ本当ですっ! この自販機にはコーヒーがありませんっ!?」
≪カグヤ≫「そしてかなりユニークなのが置いてあったりする」
≪美冬≫「『ポイズン味コーラ』ってなんですかっ!?」
≪カグヤ≫「ここにもあったぜ『モザイクドリンク』」
≪美冬≫「『雪色サイダー』が『あったかい』で表示されている謎っ!?」
≪カグヤ≫「どうしてもまずいイメージが湧いてしまう『ポーション』」
≪美冬≫「『
≪カグヤ≫「『熱血ドリンク』が『つめたい』で表示されている謎」
≪美冬≫「『木島昴味のミルク』? 何故かしら? すごく危険性を感じるわ……」
≪カグヤ≫「値段が一万円の『失恋傷心オレンジ』」
≪美冬≫「た、高すぎませんかそれ?」
≪カグヤ≫「おっと残念売り切れ」
≪美冬≫「在庫が少ないだけですよねっ!?」
≪カグヤ≫「隣のゴミ箱に『失恋傷心オレンジ』の山が……」
≪美冬≫「ああ…っ! 誰とは存じませんが強く生きてくださいっ!!」
≪カグヤ≫「ははっ、付き合ってくれてありがとう」
≪カグヤ≫「おかげで夕飯前に楽しい時間が過ごせた。お礼に何か奢るよ」
≪美冬≫「ふふっ、私も良い息抜きが出来たのでお気になさらないでください」
≪カグヤ≫「じゃあ、気にせず『モザイクドリンク』を奢ろう」
≪美冬≫「それでは遠慮なく、隣の『すくすくドリンク』をお願いします」
≪零乃 妖魔≫「………」
≪古茶菓 澄香≫「………」
≪時川 未来≫「………」
≪星月 陽/咲≫「………」
≪伊集院 三門≫「………」
≪甘粕 勇愛≫「………」
≪陰暦 五十鈴≫「………」
≪夕凪 凛音≫「………」
≪沖田 由紀≫「………」
≪アリシア・レイン・アルヴィル・ローウェル≫「………」
≪ユリシア・レイン・アルヴィル・ローウェル≫「………」
≪黒井 終華≫「………」
≪三神 信≫「………」
≪渡辺 遥/彼方≫「………」
≪二能 類丈≫「………」
≪比山 秀≫「………」
≪逆井 都≫「………」
≪織田 信奈≫「………」
≪愛野 火恋≫「………」
≪多田 美里≫「………」
≪風祭 冬季≫「………」
≪上記皆さん≫「「「「「「「「「
≪のん≫「そうだよねぇ~~っ! ごめんねぇ~~っ!(泣」
≪のん≫「でもマジでもう少し待ってぇ~~!(号泣」
≪のん≫「ええ~~、とりあえず採用されているけど、出番が来ない方達一覧を提示してみましたぁ~~」
≪のん≫「なお、ここに居るのはA~Dクラスの未登場キャラだけです」
≪のん≫「次回はE、Fクラスの同時公開です!」
≪のん≫「チョイ短めになるとは思いますが、お楽しみにっ!」