うん、してた。マジでごめんなさい!
やっと書けるようになったので戻ってきました!
いや、もう前の人達いなくなってるだろうなぁ、と思いつつ、頑張って再開します!
正直、私も設定とかキャラとか色々忘れましたけどね! メモ残ってるから、見直ししながら必死に書いてるよ!
いや~、書き方忘れてて辛い!
とりあえず、執筆再開です! 初めての方は初めまして! 知ってる方は、改めてよろしくお願いしますっ!!
0
焔山、猛姫神社最奥、神域と言われる場所。山を穿ったような洞窟の奥地に存在する広大な空間に、木でできた和風の祭殿が存在する。祭殿には布が広げられ、そこには円が描かれ、中心から十字と×字の線が重なったような文様が描かれている。線は円を突き抜け、先端部分に古い文字で短く何事かを書かれ、それぞれに魑魅魍魎とも思える絵が刻まれている。
「ここが君の“神域”と言う奴かね? ギガフロートの“聖櫃”に似ているが、性質が全く異なるね?」
一人でここに来たはずの焔山の主、土地神、猛姫の神は、到着早々いつの間にか付いて来ていた男の存在に、本気で青筋を立てたが、どうせこいつは来るだろうと予想はしていたので怒りは鎮めた。
怒りを鎮めて、正確に拳を顔面にぶちかましておく。
「おいそれと“神域”に入ってくるんじゃないっ!」
「ヘブンッ!?」
しっかり顔面に入って、眼鏡が割れ、大量の鼻血に何本か歯も抜け落ちたのだが、本人はすぐに立ち上がって「いや~~っはっはっはっ! なんか気になっちゃってねぇ~~!」っと普通に対応していた。どうせもう一度見直すころには眼鏡も歯も元に戻っている謎現象を起こすことは目に見えているので、もう気にしないことにした。
「それで? わざわざここに来た理由は何だい? 私の話を聞いたからここに来たのだろう?」
シリアスに移っただけで完全復活した
祭殿の中心部には一本の剣が突き立てられている。その剣の刃は幾重にも枝分かれし、まるで炎の形を象ったような作りをしている。『
その剣の柄を握る猛姫。彼女はこの剣を『日本書紀』に倣い『
「楓、貴様はあの話をして、
「そういう理由としては十分だと思ったのだけど?」
「……、貴様にとっては、これもまた予想の範疇なのだろうがな……」
そう呟き、猛姫は剣を抜き取った。突然、猛烈な光が迸り、轟音と共に洞窟が崩れ始める―――などと言う事はなく、剣は鈍い音を鳴らしてあっさり引き抜かれた。
元より、この剣は自分が存在することを地に教えるための舞台装置。突き立てることに意味があり、抜いたところで変化などない。既にこの地『焔山』は、猛姫の地として完全に馴染んでいるのだから。
猛姫は剣を無造作に振り払い、汚泥のように濁り切った瞳で楓を見下ろす。
「貴様が言う事が真実なら、人はさっさと滅びるべきだろう? この
濁り切ったその瞳は、まるでこの世の悪の全てを集めたかのように、黒く淀んでいた。
楓は語らない。笑いもしない。
ただ見つめ、その後の成り行きを見守る事を選んだ傍観者であるかのように、諦観した表情で見つめるだけだ。彼の胸中にどのような思惑があるのかは、誰にも読み取ることはできそうもない。一つ言えることがあるとすれば、猛姫の言った通り、この展開もまた、彼の予想の範疇と言う事だ。
(さて、あとは結果がどっちに転ぶか……? どちらにせよ、私の思惑通りに事が進むんだとしたら―――)
楓は表情を引っ込め、まじめな表情で天井を仰ぎ見る。その先にあるはずの、ギガフロートを見つめ。
(“吉祥果ゆかりは、ギガフロートから消えるのだろうね……”)
1
一年生、決勝トーナメント決勝戦は、一日空けてから行われることになった。
いくら万能のイマジンがあるとは言え、いや、だからこそ力を入れたがるクリエイティブ魂が活発なギガフロートの住人。そのため実際のプログラムには十分な余裕をもって組まれている。今、決勝戦と準決勝戦の間に生まれた合間も、元々想定されたプログラム内容で、決勝進出者の容態などを鑑みて、空いたり空かなかったりする。大体この合間が選手の休暇日となることも珍しくないので、観客も生徒も、この辺は柔軟に対応した。
このせっかくの空き日だが、決勝進出の決まった
菫は、学園周辺で上級生が一般観客のために出しているらしい出店で適当にフランクフルトやたこ焼きを買って、その辺のベンチに座り、ぼ~っ、と空を眺めながらもそもそと食事をしていた。頭の中も空っぽにして全身全霊で休息していると言った感じだ。
対する弥生も、寮の休憩室のソファーに寝転び、膝掛けをお腹辺りに掛けてぐっすり眠っている。何気に、付き合わされたオルガ・アンドリアノフが膝枕していたのだが、すぐに足が辛くなって、こっそりクッションと入れ替わっていた。
二人とも部屋で休まないのは、完全に休み切ってしまい、戦闘の立ち上がりが悪くならないように、心の片隅に戦闘中と言う意識を残しておきたかったからだろう。
そんな二人だが、ただ空虚にこの一日を過ごしたわけではなかった。既に二人とも行動は起こしていた。後は明日に準備が整うかどうかである。だが、それは自分達にはどうすることもできない。故に二人は肉体と精神の回復に努めている。
試合が始まった時、十全に力を発揮できるように―――。
それはそれとして、決勝戦に関係のない者達には、関係ない者達として、いろいろ事情があるわけで、校舎の登下校道で、ちょっとした事件が起きていたりした。
「俺に何か用か?」
昨日の激戦で失い、イマジンで再生してもらった左腕を包帯で吊っているジーク東郷は、偶然出くわし、険悪に声をかけてきた人物へとストレートに問う。
「ある。面貸せ。いや、面倒だ、ここで良い。ここで言っとく」
ジークに声をかけた少年ははきはきとした態度で告げ、勿体ぶる事無く要件を述べた。
「弥生は俺の女だっ! 手を出すんじゃねえっ!!」
金髪碧眼の少年、
「断るっ!! あれは俺の
くわっ! と目を見開き、即座に答えるジーク。
「だが断るっ!! 悪いが俺が先約だーーーっ!!」
それを更に即答で返す悠里。周囲の一般人が何事かと足を止めて視線を向けてくるが、二人ともお構いなしだ。
「ふっ、まあ、どうせそう言ってくるだろうとは思ってたぜ? 弥生を好きになる男が、この程度で引き下がるようじゃあ、勝負以前の問題だからな?」
「ふっ、俺も理解しているとも。彼女を好いた男が、この程度の喝で退くはずがないとな?」
なぜか解り合った西部劇の悪役と保安官みたいなノリでニヒルに笑い合った二人は、徐に懐から生徒手帳を取り出し、高々と掲げる。
「「決闘だっっ!!」」
二人の声が重なる。この学園では全く珍しくもない『決闘』騒ぎに気付いた周囲の衆人が、好機と興奮の色を発し始める。さすがはギガフロートの住人、慣れた物で、誰かに誘導してもらう必要もなく決闘を叫ぶ二人から適切な距離を取り、十分なスペースを作ってから周囲をぐるりと囲んで観戦モードに入る。すかさず上級生は出店から商品を持ち運び用の棚に移し、配り販売を行い始める。中には丁寧に椅子まで用意している者までいる。もはや芸術の域にある暗黙のルールだ。
ジークと悠里が内心この状況に驚きつつ、生徒手帳を重ねる。フィールドが展開され青白い光がドーム状に展開される。二人の間にイマジンで転移させられた立会人の上級生が現れる。
「立会人を仰せつかった三年Aクラス、
何故か立会人の先輩からリンゴを勧められたが、二人とも丁重にお断りしておいた。
二人は適切な距離を取り、いつでも動けるように構える。
「制限される空間は周囲20メートル。上空は無制限とするが、制限フィールドの障壁を破壊するほどの攻撃が発せられた場合は、その時点で試合終了とする。それ以外は自由にしていいよ。……じゃあ、このリンゴが地面に落ちたら開始ね?」
何故コインじゃなくてリンゴなんだ? っと言うツッコミは呑み込まれた。既に二人とも戦いに集中しておきたいからだ。
赳流の手によりリンゴが宙を舞う。コインと違って地面に落ちても音が響かないので、自然と視線がそこに集まる。リンゴが地面に落ち―――バッゴンッ!! と盛大な音を上げて粉砕された。
「「なんでだよっ!?」」
思わず同時にツッコミを入れるジークと悠里だが、しっかり開幕速攻の一撃を放ち、拳をぶつけあっていた。
拳同士の激突。衝撃波が奔り、互いに反発を受けて元の位置まで放される。
ジークは背にした大剣『グラム』の柄に手を触れるが、そこで一瞬停止する。
「構わないぜ。元々イマジネーター同士の戦いで武器の有無なんざ大した差にならないだろ?」
そう言いつつニカッ! と笑って見せた悠里は、己の能力『
一瞬眉を顰めるジークに対し、悠里は得意そうに笑う。
「驚くことじゃない。こいつは確かに弥生の作った『言霊の剣』だが、模倣したのは形だけだ。個人的には素手の方が好みだが、あんた相手にはこれで戦ってやるよ。俺と弥生の
「まだ、付き合っているわけでもないだろ? ずいぶんと浅い絆を持ち出して得意げに―――」
「既にデートの約束は取り付けた」
「く……っ⁉ なんという強敵……ッ!」
歯噛みするジークに、悠里は笑みを強くしドヤ顔になる。
「ならば、別に全力をもって倒してしまっても構わないのだろう?」
ジークがグラムを抜く。
「はっ! ……ついてこられるか?」
「貴様こそ! ついて来やがれ~~~っ!!」
「……ここには弓兵しかいないのか?」
赳流の呟きを無視して、男二人の戦いが、愛をかけて行われる。
その頃、何も知らない当人が謎の寒気に襲われているとも知らず……。
「うふふっ♪ そんなに息を切らせるほど逃げ回らなくてもいいではないですか? 私はお話し合いをしたいと言っているだけですよ?」
白を基調としたロリータ衣装に身を包む、碧眼の少女は、ハーフアップにした長い金の髪を手で掬う様にしながら上品に笑い掛け、校舎中庭にて、一人の学生を追い詰めていた。
「あ、貴方のお話は、初日に済んだはず……。なのにまだ続けるの……?」
追い詰められた学生は、黒髪ショートに眼鏡をかけ、全体的に痩せている印象を与える一年生女子、Fクラスの影森咲であった。
「そもそも、寮の部屋割りは最初にランダムで決められるもので、別の部屋に交代するにしても、申請できるのは一ヵ月に一回と言う決まり―――って、初日に先生からも話してもらったはず……!」
彼女は自身を追い詰めている一年生Aクラス、
「はいっ! 存じていますよ。でも、影森さんは正勝様の同居権利をお譲りくださる気が無いようですよねぇ?」
「いや、その……、正勝くんってCクラスの割には落ち着いてるし……、互いに余計な干渉し合わないでも平気なところとかあって、意外と居心地が良いって言うか……?」
「……つまりあなたは恋敵でしょうか?」
ひまわりが満面の笑みを浮かべ、背に邪悪なオーラを背負った(イマジンによる相手の雰囲気を察する本能的基礎再現により、本当に負のオーラが目に映っております)。
「……ぴっ!? ち、違うっ! 全然違う……っ!」
慌てて首と手を振り回して否定する咲だが、ひまわりは構わずにじり寄ってくる。真っ青な顔になって後じさる咲に、ひまわりは言葉に圧力があることを証明するかのような声音で言い募る。
「私はこんなにも正勝様を愛しているのに、正勝様にはあまり伝わっていないご様子。なぜだがさっぱりわかりませんの……。その辺貴方はどう思いますか、影森さん?」
「し、知らないから……っ! 正勝くんに直接聞いてよぉ~……っ!」
「それがこの話をしようとすると、正勝様はすぐに逃げて行ってしまわれて……、どうしてお逃げになるか、理由をご存知ではありませんか? 影森さん?」
(こんな風に圧迫感がある所為じゃないかな……っ!?)
涙目になって逃げ腰になる咲だが、とてもこの状況で本音をそのまま口にする勇気はなかった。
「ああ! ああ! やっぱり、貴方が原因なのでしょうか? お優しい正勝様。そのお優しさゆえに、同居人を思いやり、私の思いを受け取ることができないのでしょう! きっとそうに違いありませんっ!」
だんだんテンションが上がってきてしまったのか、妙な方向にエスカレートし始めるひまわり。何故か普段はしないようなオバーアクションで芝居がかった仕草をし始める。そして目がなんかやばい。
「私の世界のためにあなたは邪魔なんですの。御退場、願えますか?」
トドメとばかりに問題発言。これはもうダメだと観念するしかない状態になってきた。
もはや実力行使は必須。こんな状況でイマスク生が取れる手段は少ない。否、イマスク生だからこそ、手段が残されていると言うべきかもしれない。
「わ、分かった。ここは公平に『決闘』で決めよう?」
「まあ、『決闘』ですの? それは勝者が正勝様と同居できると考えてもよろしいので?」
「そう言われると、私個人としては勝ちたいと言う気はしないんだけど……、勝者は敗者に一つお願いができる。定番だけどそれでどう?」
咲が両手でズレた眼鏡を整えつつ提案する。ひまわりはその条件を耳にすると、妖しいほどに妖艶な笑みを浮かべた。
「よろしいの? 私はAクラス、対する貴方は……」
ひまわりはその先を敢えて言葉にしなかった。影森咲はFクラス。現状において、FクラスがDクラス以上に勝てる見込みは皆無である。それ故にEクラス以下は決勝トーナメントに参加資格を持てなかったのだ。もちろん、咲もこれの例外ではない。
「……うん、それで、いい」
だが、咲は首肯して見せた。その表情は既に冷静さを取り戻し、いつも通りの薄幸そうな少女のそれに落ち着いている。
「うふふ……っ、どうやら勝算が全くないと言うわけではない御様子? よろしいですの! それでは貴方の勝算、この目で確かめる事と致しましょう!」
ひまわりが生徒手帳を掲げる。それに対し、咲も一度深呼吸をしてから意を決するように生徒手帳を押し当てた。
『決闘システム』により呼び出された上級生がイマジン粒子の緑色の光と共に出現し、着地と共に宣言する。
「二年Aクラス、高坂秋人だっ! 俺が立会人となる! ルールは一般観戦者がいるため、『
「一つ、ルールに追加のお願いが……」
ひまわりと適切な距離をとった咲が、立会人の上級生に対し、片手でメガネの位置を直しつつ、もう片方の手で挙手する。
「なんだ?」
「勝負に時間制限を追加してほしい」
「了解した。時間制限は15分とする。なお、フィールドはドーム状で、十メートル未満にはならないものとする」
即答する秋人に、「私の意見は聞いてもらえませんのっ!?」っと言うひまわりのツッコミが入ったが、「この時期、上級生は明日の準備で忙しいから長い時間立会人やってられないんだよ」と個人的な理由で断ち切られてしまった。
ちょっと思うところのある扱いに溜息を吐くひまわりだが、気を取り直したようにスカートを両手で軽く持ち上げ、膝を曲げて優雅にお辞儀して見せる。
「刻印名『箱庭遊び』赤結ひまわり。以後お見知りおきを」
「刻印名『
ひまわりに応えるように名乗り、眼鏡を片手で持ち上げる咲。二人の少女の戦いが中庭で行われる。
屋上にて、歌姫のライブが非公式で行われていた。
生粋のエンターテイナーにして、『魅せる事』を信条にしている
見事に成功し、観衆から歓声が上がっているあたりさすがの技量である。
踊る彼女の周囲にはバイオリンを弾く
イマスクでは珍しくない仕組みではあるが、祭りごとの少ないギガフロートでは毎度大盛り上がりだ。
一通り歌い終え、ようやっと休憩を入れる異音とノノカ。そんな二人の前に、労いにやってくるものが二人。
黒髪天然パーマに肩掛けカバンを常に所持している少年、
肩までの長さの茶髪を軽く巻いている少女、
二人とも、今回の簡易ステージに協力してくれたクラスメイトだ。
「二人とも、最っ高によかったよぉ~~!」
「うひょ~~っ! またこの歌が聴けて! しかも直接協力できるとか!? もう最高だぜ~~~っ!」
相当気に入ってくれたのか、二人ともテンション高めに出迎えてくれる。芽衣は飲み物とタオルを、満郎は軽い軽食を持ってきてくれた。お礼を言いながらそれを受け取った二人は、芽衣たちの案内に従い屋上のベンチに座る。お昼をここですることを最初っから考えられているのか、木造りの机もあって
「二人ともありがとうっ♪ 今日もいい感じにみんな笑顔だね★ ノノカも言い伴奏だったよ!」
「う、うん……」
異音の笑顔に対し、ノノカは微妙に表情が硬かった。異音は子首を傾げて素直に疑問を述べる。
「どうかしたのノノカ? さっきの演奏で気に入らないところとかあったの?」
「ううん、そう言うわけじゃないんだけど……、私が目指してるのって、バイオリニストだから、異音のアイドル風な歌には合わない気がして……、異音は私のバイオリンにも合わせられるけど、やっぱり勿体無い気がして……」
「勿体無い? 何が? ノノカの伴奏はすごく良かったよ? 私は満足★」
「ああ、そう言うんじゃなくて……、異音の伴奏やるのは嫌いじゃないし。でも、異音の幅を狭めてるのも、私だから……。はあ……、どこかに異音と相性の良い音楽スタイルのクラスメイトいなかったかなぁ?」
イマスクは戦闘を求められる校風だ。それだけに、武器等の生産系能力者はいても、異音やノノカのような芸術家タイプの能力は意外と少ない。学園側としては、そういった方面のイマジネーターにもっと増えてもらいたいと言う希望はあるのだが、やはり戦闘主体の学園のシステム上、そう言った生徒が受験することはめったにない。それこそノノカのように不慮の事故で指が思うように動かせず、すがる思いでイマスクに訪れるようなことにでもならない限り。そのため、オーケストラのような、集団でこそ力を発揮するような特殊なイマジネーターは、滅多な事では見られない。
「私は気にしてないよ? 本当に必要なら、その時は自分で纏めてやっちゃうし! 歌って♪ 踊って♡ 楽器も弾いちゃう★ そしてトリには笑いをとる! それが私のエンターテイナー♪ ノノカは、ちょっと色々気にしすぎだよ?」
異音に髪先をいじられながら言われ、ノノカは少しだけ照れたように頬を染める。
「さすがに自分でもそう思う時はあるよ? でも、それだけ異音の才能は歌にあると思うんだ。きっと、正しいメンバーが揃えば、もっとすごいことができると思うくらいに」
ノノカも異音も音楽と言う分野では同じ方向を目指している。だが、バイオリニスト志望のノノカはクラシック。人を魅了することを求める異音はエンターテイメント志望で、音楽はどちらかと言うとポップスの方向に近く、ジャンルが違う。近代ではポップス寄りのクラシックなどと言うのもあり、それらの線引きがあやふやになってきているため、今回のように上手く二人が共演して見せることもあった。
だが、根本的に二人の目指す方向は互いの妥協点にあるのではない。
ノノカはバイオリンのマイクを必要としないクラシックの響きを純粋に愛し、その道を求めている。
異音は、それこそどんなジャンルでもやって見せる気概があるが、彼女の求めるところは皆の騒がしいほどの笑顔。ポップスの方が夢に近いと言える。
異音よりも音楽方面に突き詰めてる分、ノノカはその
それを考えてしまうノノカは、異音にメンバーと言える仲間ができることを望み、同時に複雑な感情を抱いてしまっている。
それを何となく感じ取った異音は、少しむっとした顔で頬を
「だからノノカは考え過ぎなの! 今、ずっと先のこと考えて悩んでるでしょっ!? そんなのはもっと先に悩むことなのっ! まだ入学したばかりの私達は、まず磨くことを優先的に考えなきゃでしょっ!?」
むっ、としたまま頬を突かれ、さすがのノノカも「わ、分かった分かった! ゴメンッ!」と困ったように謝罪した。
そんな二人を微笑ましい様な、呆れた様な微妙な気分で見つめる芽衣と満郎は、二人して顔を見合わせ、苦笑いを浮かべてしまうのだった。
「はんっ! そんなに歌いたいならイマスクじゃなくて
突然、背後からした声。大声ではないが、決して小さくはない声に、思わず振り向いてしまう芽衣と満郎。そこには行儀悪く机に足を投げ出す、金髪にグラサンといった、今時では珍しいほどに分かり易く尖ったいでたちの少年と、仏頂面の少年の二人が、こちらには目を向けず、だが、明らかにこちらに対しての発言っぽい内容を語り合う。
「大体イマスクにまで来て、なんで音楽とかやってんだよ? ここは戦闘メインの学園だろ?」
「そうそう、目指す夢が決まってんなら専門校行けってんだよ? わざわざイマスク来て何やってんだって話だよなぁ?」
「ってか、それ完全に戦闘放棄してんじゃん? なんでそれで俺らよりクラス上なわけ?」
「意味わかんね~~~っ」
ギガフロートに来て、久しく聞くことのなかった、あからさまな嫌味、わざわざ聞こえるように語る影口。この一ヵ月、この学園に来て一度たりとも聞くことのなかった類に、四人は思わず固まってしまい、すぐに反応できなかった。
ただ、今回はそれが幸いした。この状況に気づいた女子生徒が慌てた様子で嫌味を言う二人の間に飛び込んだ。
「お、お二人とも! ケーキ買ってきましたよ! これ食べて機嫌直してくださいな! ケーキを食べるとささやかながら幸福に包まれますよっ!」
嫌味を言う二人の間に割って入ったのは
嫌味を言っていた二人は美幸のクラスメイトだった。金髪グラサンの方が
至近距離で包容力のある双丘を見せられ、その事に気付いて照れてしまい視線を逸らす二人に、美幸は内心焦りつつ、買って来たらしいケーキを振舞って機嫌を取っている。その様子にポカンとしていると、素早くノノカと異音の背後に移動した美幸が、両手を拝むように合わせながらこっそり教えてくれた。
「気分を悪くさせてしまい申し訳ありません。あの二人Fクラスの決勝トーナメント参加資格を得るために、ずっと『決闘』をして周っていたのですが、悉く負けてしまい……、おまけに昨日はあんな試合を見せられた所為で悔しさが余計込み上げてしまったようなんです……。本当は言葉使いが荒いだけで、あんな嫌味を言う人達ではなかったのですけど、ここ最近のストレスが、クラスで結構溜まってまして……。Eクラスに絡んでしまうのも、同じく不遇な扱いを受けているはずのクラスが、全体的に戦闘に乗り気でないことが納得できていないんだと思います」
美幸の話を聞いてなるほどと納得する。確かにイマスクは理想的な力を与えてくれる。だが、せっかく手に入れた力を思うように活かせなければ、それは普通の生活以上のストレスになっている事だろう。努力はしているのに、それが上手く功をなさないことも相まって、イライラしてしまうのも良く解る。そこに同じ不遇な扱いを受けているはずの
「私が宥めますので、どうか今回は見逃してくださいな?」
美幸も同じくFクラスであり、ストレスはクラス全体に及んでいると言う話だったのに、そう言って周囲に気を遣う。これに応えないわけにはいかないと、女性陣は苦笑交じりに頷いた。
「おいお前ら、勝手なこと言ってんじゃねえぞ?」
しかし、ここに納得できない上に、美幸に気づいていなかったらしい男子がいることに、女性陣は失念していた。異音のファンにもなっている満郎が、嫌味を言った二人に食って掛かる。
「んだぁ? でけぇ口叩くからにはやる気があるんだろうなぁ?」
進と灰裏はむしろ面白そうにこれに反応する。好戦的な意思がある所為か、むしろ煽りに乗ってもらった方が好感触を感じている様子だ。争いを避けたがっていた女性陣からしてみれば困った反応ではあったが…。
「戦いばっかがイマスクのルールじゃねえだろっ!? “生産系”って役職がちゃんとあんだよ!」
「だったらテメェ等は非戦闘員ってことだろうがよぉっっ!?」
「弱いどころか
「あわわわ~~~~っ!」
満郎の発言に進と灰裏が応戦する様に睨みを利かせる。事態を宥めるつもりが上手く話しを運べなかった美幸は、泡を喰ったように慌てる。ここからでも何とか話を穏やかにできないものかと必死に考えるが、ヒートアップした男子三人を止める上手い方法が思いつかない。
「さ、三人とも? ここは一つ席を外してですね? 一応お祭りみたいなモノなんですし、ここは一つ穏やかに~~―――?」
「「ちょっと黙ってろっ!?」」
進と灰裏に恫喝され、美幸は半泣き状態で肩をびくつかせた。思わず出た「ひうぅ……っ!?」という悲鳴が、小動物が怯えた時に出すそれに
この時、何気に美幸の提案に「まぁ~~、確かにお祭りで騒ぎを起こすのは良くないよなぁ~~?」っとか調子の良いことを言おうとしていた満郎は、二人の怒声に口を閉ざしてしまっていた。自分から喧嘩に飛び込んでおいて、二対一という状況に今更緊張し、足が震え始めていたりするのだが、幸い誰にも気づかれていない。
(やべぇ~~~っ! ついカッとなって言っちまったけど、どうすりゃいいんだこの状況っ!? と、とりあえずいつでも能力で籠れるようにはしておこう!!)
自分で自分の首を絞めたついでに、事態も悪化させてしまったことに今更自覚しつつも、吐いた言葉を戻すことはできない。引っ込みつかない状況に、精一杯強がった
ノノカはハラハラした面持ちで状況を見守り、異音は仕方ないのでやるなら加勢しようかと言った感じに立ち上がる。芽衣もこれは喧嘩になることは避けられないと悟り、せめて怪我人の治療だけは自分が責任持とうと心に決める。
ここに至って美幸は色々テンパり始め、能力によって作られた『幸福袋』に手をかける。
彼女の能力『
しかしこの能力、残念なことに、“必ず幸福になる物を取り出せるわけではない”。あくまで美幸自身が“幸福になってくれるかもしれない”と感じた物を取り出す能力なので、彼女の中で明確なイメージがないと効果を発揮できない。っと言うかこの状況下では失敗する可能性の方が高い。
(そ、それでも……! 皆さんが喧嘩するなんて悲しいことになるくらいならっ!!)
覚悟を決め、彼女なりに考えた幸福アイテムが今、『幸福袋』から取り出される―――!!
―――突如、大量の歯車で改造された車椅子が飛来し、進、
「さ、さあどうぞ! 『えいんへりある』夏限定ミルクプレーンアイス(定価650円)人数分っ! これでどうか! 争いはやめて幸せ気分に浸りましょう~~~っ!」
「……いや、美幸さん? それよりなんかもっと大変なことが起きてます……」
気合を入れて『幸福袋』から超高くて美味いことで有名な夏限定アイスを能力によって先取りして見せた美幸が、人数分をセットにしたアイスの箱を天に掲げる中、四つの独楽が空中浮遊を終え、地面に叩きつけられていた。約一名、異音だけが「何これ? この展開美味しい……!」っと、幸せ顔で呟いていた。
「え、えっと……? ……? ??」
芽衣は何事か言おうとしたが、それ以上言葉が出なかった。
こういう時にツッコミできるメンバーが全員轢かれているので、話が進まない。
「ああ……、これが私の『
キラキラと背景が光りそうな震え声を放ったのは、先程四人を轢いた車椅子の少女、
「ど、どこから突っ込めばいいの……!?」
辛うじてノノカがそう漏らしたところで、更に一人の少女が凉女の元へと駆け寄る。
褐色の肌に、白の髪、青の瞳をした、童顔の少女。159cmの身長に、Dカップの胸を一歩踏み出すたびに揺らし、凉女の元に辿り着くと、興奮気味に喋り始める。
「すっごいよアンタっ!? あの戦闘狂娘のと違って、なんかめっちゃくちゃ複雑なのができたじゃねえかっ!? 作り出した私も鼻が高いってもんだっ!」
「はいっ! とっても気に入りましたぁ~! これ、本当に頂いても?」
「構わねえよ! あの女のついでだしな。もちろんあんたの事を気に入ったからでもあるし、私の鍛錬の一環でもあるからな。……しかしこれ、まだまだ強化できそうだな? いっちょやるかっ!?」
「喜んでぇ~!」
キラキラした瞳で、背景に本当にキラキラ描写を作り出しながら(イマジンによる気の利いた幻覚です)、二人の少女は何事か語り合い始めていた。
「―――いやっ、そうじゃねえだろっ!?」
地面に突っ伏していた進が復活し、溜め込んだ怒声と共に立ち上がる。
怒りに任せた感情的な発言だったが、巻き込まれた全員の総意だったので、誰も彼を諫める者はいない。進は凉女の乗っている車椅子(?)を指さしながら言い募る。
「いきなり、なんなんだよそれはぁ~~っ!?」
「え? これが気になる? よく聞いてくれた! これはな『
褐色少女が嬉々として答える。
「違うそうじゃない……っ!?」っと誰もが思ったが、誰かが口にするよりも速く、褐色少女がつらつらと説明を述べ始める。
「これは私の能力『魂創作成』により『魂創誕生』を果たした魂の武器! 名付けなくてもそのまんま『魂創器』! 私は他人の魂の情報を
「あ、じゃあ『椅子人くん』で?」
「―――っと言うわけで『イス人』だ! こいつはすごいぞ! まだ実験途中だが、高軌道のマニューバ―で校舎内を時速80㎞飛行しても危なげなく衝突せずにここまでたどり着いた!」
「いや、最後にしっかり交通事故起こしてます!」っと言う総意のツッコミはやはり早口に封殺される。
「他にも羽が生えたり足が生えたり、アームも使って三次元移動! 壁を破壊する事無くソフトなタッチで飛び回り、人にも優しい!」
「いえ、しっかり人身事故でしたよ!?」っと言うツッコミもやはり叶わない。
「何より驚かされたのが、なんと収納スペースに果物の盛り合わせがメロン中心に収納されてあったっ! まさか武器作って食べ物生成しちゃうとか私すごくねぇっ!? そしてそんなものを生み出しちゃうコイツの魂が一番可笑しくねっ!?」
「そこに限っては同意だよ!」っと言うツッコミはできそうな感じだったが、言ってしまうと負けた気分に浸りそうだったので全員が口を噤んだ。
喋り終えた褐色少女はそれで満足したのか、一度満ち足りた顔で一息つくと親指を立てて良い笑顔。
「はっはっはっはっ! どうや? 私はイング・アルファって言うんや! よろしくたのんまっせ!」
「「「「自己紹介のタイミングがなぜ最後っ!!」」」」
進と、倒れていた他三人が復活して一斉に叫ぶ。
そして一番どうでもいいツッコミだけが最後に叶ってしまった。
凉女と褐色少女のイングは終始笑顔を崩さない。
「ところで何かもめていらっしゃったようですがぁ~?」
唐突に確信を突く凉女のセリフに、我に返った美幸が事情を説明―――、
「あ、はい、実はですね……」
「あ、こちらのアイスいただいてもぉ~?」
「事情訊いた本人がいきなり脱線しないでくださいぃ~~~っ!!?」
マイペースな凉女の対応に、さっそく半泣きになってしまう美幸。可哀想になった芽衣が彼女の頭を撫でながらあやのだった。
「なんだ? 要するにEクラスはFクラス同様に弱いくせに、戦闘意欲もないんだから、Fクラスより上にいるのは可笑しいってことか?」
「笑ってどうする」
イングの解釈に満郎が誤字的発言にツッコミを入れるが、凉女が反応して「わ、笑うことには意味が必要な時代に……っ!?」っとか脱線しそうな勘違いを起こしそうになっていたので、細かい訂正は流すことにした。
「まあそんなところだ。厳密には違うが、そんなところで良い」
灰裏が、なぜか納得できないと渋面になりながらも、ツッコミを放棄して肯定する。
「よしっ! そんなら話は早いじゃねえか!」
イングは右の拳を左手の平に当て、名言のように告げる。
「実際にEクラス VS Fクラスでやってみようじゃねえか!? この学園らしくて良いだろ?」
「「「「「「「は――」」」」」」」
「では、私がEクラス代表としても良いですよ♡」
「「「「「「「――い?」」」」」」」
イングの突然の発言に、全員が疑問の声を上げようとしたところ、まるでそれを予期していたかのように凉女が立候補をしてきた。謎のチームワークに完全に置いて行かれている面々に、なぜか満面の笑みを浮かべるイングと凉女。
もはや突っ込むのが徒労のように思え、誰もこれ以上口を開けなくなっていた。
しかし、二人の満面の笑みが沈黙の中で絶えず向けられ続けるので、もうそれで良いと言う空気になっていく。
そもそも進と灰裏にとっては喧嘩を売られたと言う事もあって、決闘は願ったり叶ったりでもある。ある……のだが、微妙に乗り気になれないぐだぐだな空気が肩にのしかかっていた。
「とりあえず、どっちがやるよおい?」
「んじゃ、とりまジャンケンで」
ぐだぐだな空気の中、Fクラス二人のだる~いジャンケンが始まった。
そんな空気を作ったイングと凉女は、いつの間にか美幸のアイスを頂き、かなり幸せそうな表情を作っていた。その中にちゃっかり異音が混じってテンション高めにアイスを絶賛していたりして、それを見て呆れる芽衣と、同じように呆れていたノノカは「あれ? これ、このままこっそりフェードアウトしたら、それでこの場は収まらないかな?」などと疑問に思っていたのだが、既に満郎がさり気なくフェードアウトしにかかっている事には気付いていない。ただ、美幸はせっかく取り出したアイスが無駄にならなかった事に素直に喜んでいた。
幸せになる方法と言うのは、幸せな事にのみ全力で意識を傾ける事なのかもしれない。
ちなみにこの後
2
さて、なんとか準備運動でテンションを戻したらしい進は、過去は全てなかったことにして生徒手帳を合わせる。応じる凉女は魔改造車椅子に座って臨戦態勢をとる。
合わさった生徒手帳からイマジンのフィールドが発生し、立会人が呼び出される。
「呼ばれました。三年Aクラス
白髪だが髪の先端に近づくほど水色になっている長い髪。水色の瞳。高校生とは思えない抜群のスタイルの女生徒は、立会人として端的に答え、生徒手帳片手に試合ルールを決める。
「試合ルールは一般人もいるので……、屋上で『
「ありません~♪」
「ねえよ」
凉女と進の返答を聞いてから、凜は頷き、片手を天へと翳す。双方に視線を向け、頃合いを見計らう。
「試合……開始ッ!!」
手を振り下ろすと同時に開戦の合図―――、同時に進が拳を握り、まっすぐ拳を打ち出す。既に『強化再現』で全身を強化した踏み込みは漫画のヒーローよろしく一足飛びで距離を詰める。
彼我の距離およそ3メートル。強化された肉体なら誰でも肉迫できる距離。開幕の一撃を打ち出す進に対し、凉女は魔改造された車椅子の取っ手部分に取り付けられたコントロールパネルを指で弾く様にして操作し、背面に収納されていたらしいジェットエンジンを取り出し、真下に向かって噴出。轟音を上げて真上へと飛び上がる。
真上へと逃れた凉女を見て、進は思わず叫ぶ。
「おい待てっ!? そのジェットエンジン、明らかに収納スペース以上の巨体になってないかっ⁉」
「はい、すごく……、大きいです……/////」
「なぜ照れるっ!?」
朱に染めた頬を両手で覆いながら答える凉女に、進が怒声をぶつける。
凉女はパネルを操作し、ジェットを微妙に調節して滞空しつつ、更に車椅子の側面から左右二門の巨大な砲を取り出す。複雑な組み合わせで変形しながら組み上がった砲は、まっすぐ進へと向けられ、僅かなチャージのタイムラグの後に一気に放火が放たれる。
「だから明らかに収納できないはずの体積だろっ!? どうなってんだよそこっ!?」
砲火を躱しながらツッコミを入れる進だが、見ていた灰裏から「落ち着け~~! イマジンに物理法則とかもはや今更だろ~~っ!?」っと指摘されて我に返る。
冷静になってみれば放たれる放火も、かつて見たバスターカノンに比べればとても細い。連射速度こそ早いものの、火力も弱い。ツッコミの片手間に躱すのも容易だ。
「はんっ! どうやらまだぐだぐだが抜けてなかったっぽいなっ! こっからが本番だぜっ!」
進は叫び、地を蹴って飛び上がる。彼我の距離は約5メートル。やはりイマジネーターなら飛びつくくらい問題の無い距離。
「うらあああっ!!」
進は迷いなく拳を突き出す。
凉女は迎撃はせず、ジェットと砲をパージして真下へと逃げる。
拳を外した進は、焦る事無く空中で態勢を整え今度は上空から落下速度を合わせて拳を突き出す。
凉女は着地と同時に車椅子のタイヤを手動で回転させ、素早くバックしながら回避。
進の拳が床に激突し、轟音を鳴らす。僅かに青いイマジンの燐光が飛び散り、学園の建物に施されている『神の見えざる手』が発動し、破壊を
「逃がすかよっ!」
瞬時に地を蹴り追撃の乱打を繰り出す進。凉女は少々慌てながらも手動で車椅子を操作し、拳を躱す。
凉女の技術は見事な物で、まるで車椅子に乗った騎乗術でもあるかのように巧みな車捌きで攻撃を躱していく。
それでもやはり非戦闘員、ところどころ危ないところが見受けられ、拳があともう少しで命中すると言うところまで迫った時もあった。そのたびに首を竦め、可愛らしい悲鳴を漏らしながら、直撃を上手く躱す。
「……えいっ!」
顔面目掛けて飛んできた拳を躱すため、片方の車輪を固定したままもう片方の車輪を後退させる。固定した車輪を軸に凉女の体が拳を逃げるように回転し、自然と、車椅子の背面が進の側面へと迫る。同時にパネルを操作し、側面からバンパーの様な突起物が飛び出す。
「嘗めんなっ!」
返す拳でバンパーを殴りつけた進。イマジンステータス防御崩し:600を纏わせた拳は、バンパーの耐久力を無視して容易に砕き伏せた。
「きゃあああ~~……っ!?」
逆に衝撃で吹き飛ばされた凉女は、スリップした車の様に車椅子を滑らされ、軽い制御不能状態に至る。その隙を逃すことなく飛び込んだ進は頭上から叩きつけるように拳を振り下ろす。
「わっわっわっ……!」
頭上から迫る進に慌てながら、凉女はパネルを操作。車椅子の後ろのハンドルが形を変え、筒状の砲身を作り出す。素早く照準を進に向けて撃ち出したのは野球ボールサイズの玉が数発。それらは進に直撃する前に爆発し、内側からネットを広げる。
バンパーによる攻撃が殴り返されたことで、瞬時に攻撃力の差を感じ取った凉女は攻撃ではなく捕獲用ネットによる束縛を行使したのだ。
「しゃらくせぇっ!!」
構わず殴り掛かった進の拳がネットを引きちぎり鉄槌を振り下ろす。
「ひ……っ!?」
ギリギリ、タイヤ部分から出現したジェット噴射により回避した凉女だが、その鉄槌は彼女の鼻先を掠め、真っ赤に腫れ上がらせていた。
「い、痛いです……」
鼻先を両手で押さえながら半泣きになる凉女。割と可愛らしい態度だったのだが、進は構うことなく突進を連打してくる。
「ひぃ~~~ん……っ!」
鼻を押さえたままタイヤを自動で稼働させて逃げ回る凉女。その姿は中々に情けなかったが、ついでと言わんばかりに車椅子の後部から
さすがは混ぜてはいけない者の片割れ―――くらいには思われていたかもしれない。
「に、が、す、かーーーーーっ!!」
それら一切を無視して突っ込んでいき、損害無視で追い詰めつつある進。こちらは恐怖を通り越してむしろ呆れた愚直さである。撒菱を踏み抜き、とりもちを引きちぎり、毒で顔色を悪くしながら、気合だけで全て振り切っている。戦略も戦術も全くない。戦法とすら呼べない猪突猛進。だが確実に凉女を追い詰めつつあるのだから笑えない。
「あ、あのっ! 進さんっ!?」
「なんだ戦闘中にっ!?」
「私は牡丹より紅葉の方が美味しいと思います!」
「だから何の話だっ!? 会話を成立させろっ!」
「定番は
「誰か通訳―――いや、もう話すより先にぶん殴るっ!!」
「い、イノシシさんと仲良くなろうと思って
額に青筋立てながら猛追する進に困り顔で泣き始める凉女。
しかし誰も彼女に同情できない。誰にも凉女の言っている事が解らないからである。
生憎このメンバーには彼女の難解な発言を理解できるものはいないのだ。
もしここにオジマンディアス二世がいれば「余は羊が美味だ。しかし牛も捨てがたい」くらいの事は言ってくれていたかもしれない。
一方的に追われる形となっていた凉女。進の手があと一歩で届くというところまで迫った瞬間、車椅子のタイヤが僅かな出っ張りに引っかかり交通事故を起こした車の様に跳ね上がった。空中で回転し逆さまの状態になった凉女が進に対して両手を翳す。わざと飛び上がったのであろうことを予測していた進が拳を引いて身構える。
「
両手から出現した幾何学模様が彼女の能力に呼応し、望む武器を生成する。車椅子に装着される形で作り出されたのは巨大なパイルバンカー。破城槌と見紛うそれが撃鉄を上げ、内部の火薬にあたるらしい弾頭に叩きつけられる。爆発音と共に発射された杭が進へと迫り―――、
「―――っらぁぁーーーーーッッ!!!」
真正面から迎え撃った拳で叩き潰した。
さすがの火力に進自身の腕が血だらけになるほどの大怪我を負ってしまうが、進の目には尽きぬ闘争心が炎の様に輝いている。
「ちぃ……っ!」
しかし、その口から出たのは悪態であった。
破城槌を砕かれた凉女はその衝撃を利用し、屋上の端まで大きく距離をとっていた。
「元から
進の発言に対し、凉女は軽くスカートを広げて見せ、小首を傾げながら微笑む事で肯定の意を示した。
凉女の作り出した『ムーヴバンカー』は敵を攻撃するというより押し出すための兵器。相手対象をハンマーでぶつける様に弾き飛ばすか、あるいは自分自身をバネで弾き飛ばす様に押し出すか、ともかく対象を移動させるための兵器だったわけだ。
今回は進の火力を計算に入れ、その打撃力を吸収し、自分が押し出されるようにも改造してあった。
距離をとって向き合う態勢。愚直に突っ込むことしかしない進に対し、背後が崖っぷちになっている凉女。逃げ場のないこの状況に彼女が自ら陥った以上、それは彼女が望んだ状況。
「
幾何学模様が彼女を中心に大きく展開される。
作り出されるは二門の巨大な砲台。
形はガトリング砲だが、装填されているのは弾丸ではなく鉄の杭。
「怪我をしても止まらないお強いイノシシさん。強烈な一撃で止まらないのなら、絶え間ない連続の質量にはいかがでしょう?」
忠告する様に告げる凉女に対し、進はむしろやる気が出たと言わんばかりに挑戦的な笑みを作ると、拳を弓のように引き絞る。
「上等……っ!」
挑むように応えた進に、凉女はまっすぐ見つめながらもう一度忠告するように尋ねる。
「避けた方が良いと思いますよ?」
「はっ!
互いに向かい合った状態でのガンマン勝負。
片や無数の鉄杭を打ち出す砲身を向ける少女。
片や拳一つ、身一つで挑もうとする猛き少年。
互いが互いに集中する僅かな静寂。
張り詰めた空気に緊張するギャラリー。
温かみが滲み始めた微風が二人の髪を撫でる。
僅かに凉女の指が動く。
それを待っていたと言わんばかりに、イマジンを爆発させて突き進む進。
「一斉掃射ーーーッ!!」
間髪入れず鉄杭を打ち出す凉女。黒い砂嵐でも吹き出したかの如く二つの砲身から無数に撃ち出される鉄杭。
進の姿は一瞬で黒い影の中に掻き消え、彼を通り過ぎた槍が床に突き刺さり、弾け飛び、バトルフィールド内を埋め尽くしていく。
如何に防御を強化しようと圧倒的な質量が津波となって押し返し、その進行を押し止め、如何に損害を無視しようとも一瞬にしてミンチにされる物量に押し潰され、進の勝率は愚か生存の可能性さえも一瞬で消し飛ばしてしまう。
「進……っ!?」
あまりの光景に灰裏が思わず友の名を口にしかけた時―――彼は全身血だらけになりながらも凉女の眼前で拳を構えていた。
進の能力『ノーガード』は、その全てが損害無視の極振りアタッカー。
『耐久無視』によりイマジン変色ステータス『防御崩し:600』以下の防御効果を無視することができる。
『防御能力無視』により『防御崩し』以下のイマジネーションを持つ相手のあらゆる防御効果に対してキャンセラーの効果を発揮する。
更に一日一回限りのスキル『
防御に何一つ振り分けられていない能力構成は、強すぎる己の攻撃力に、自分自身さへも傷つけてしまう、過ぎたる火力を有している。完全なる自爆特攻型スタイル。故に、力の使い方はシンプルだ。ただ真直ぐ敵に向けて突っ込むのみ。一見考えなしの猪突猛進に見えた進のスタイルは、その能力構成上、最も正しいバトルスタイルだったのだ。
そして、凉女の物量攻撃に対し、進の最善もまたこれ一つ。
(根性で耐えきって、ただ一撃の全力をぶちかますっっ!!!)
進のイマジン変色対ステータスの物理防御数値はたった3のみ。対する凉女の攻撃はイマジネーション483で構成された物理の槍。しかも防御ではなく攻撃なので、進の『ノーガード』の効果は軒並み受け付けず、凉女有利に見える。
しかし、ここで凉女は一つ判断ミスをしていた。
進が己の攻撃力に自損してしまうように、物理的な攻撃には、その攻撃力に耐えられる耐久力が必要とされる。進の『耐久無視』も『防御貫通』も、物質の耐久力に対して効果を発揮できる。
凉女の攻撃は全て『
進の物理攻撃力は100、『
凉女の作り出した槍はイマジネーションステータス483として計算できるが『耐久無視』の効果で攻撃力はあるが脆い素材扱い。『防御無視』により防御崩し600以下のイマジネーションの防御は無効化。『
それでも、これは正気の沙汰ではない戦術だ。何しろダメージを受ける事が前提なのだ。普通は相手のもとに辿り着く前に力尽きる。仮に進と同じ能力を同じ場面で同じように使用したとしても、攻撃の波を貫くことは誰にもできなかっただろう。
イマジン変色ステータス不屈:100を有した進だからこそ、攻撃の波に拳一つで挑み、辿り着くことができた。
全身から血飛沫を上げ、満身創痍になりながら、彼は叩きつけるように拳を振り下ろした。
「もらっていけぇぇぇっ!!」
「―――ッッッ!!?」
バアァァンッッ!!!
破砕、と言うよりは破裂音の様な物が響き渡って進の拳が凉女の車椅子を破壊し、その下の床にまで激突した。
「ちぃ……っ!」
進の口から悪態が漏れる。
彼の目に冷や汗交じりに苦笑している凉女の顔が逆さまに映る。凉女は咄嗟に車椅子の淵に手をかけ、逆立ち状態になって攻撃を回避した。殆ど『直感再現』頼りの反射回避であったため、躱した本人が一番驚き、意味もなく笑いが込み上げていた。
なお、この時、観客側から粉砕する車椅子に「わ、私の『
腕の力で進の頭上に飛び退いた凉女は、進が体勢を立て直す前に攻撃を仕掛けるため
自分に向けて手を翳す凉女を頭上に捉え、進は選択を迫られる。
態勢が悪く、満身創痍のこの体では、次の一撃に耐えることはできない。だが、今からでもイマジンを防御、あるいは回避に全振りすればこの瞬間を凌ぎ、次に繋げるかもしれない。
選択を迫られる。防御で耐えきるか、回避で逃げ切るか。
(決まってる―――!)
進は拳を握り凉女を見据え睨みつける。受けて立つために。
そう、
「
「おおぉっ!!」
凉女が『
進は拳を構え、足に力を入れ、自損無視の一撃を放とうとする。
誰が見ても最後の一撃。進の一撃が届けば進が勝ち、凉女が押しきれば凉女が勝つ。他の選択肢が存在しない状況で、二人の視線が上下に交差する。
バガァァァァンッ!!!
最後の一撃が放たれる。
全力で床を蹴り上げた進の体が弾丸の如く真直ぐ飛び上がる。全力全霊を込めた一撃を込めて……。
だが刹那に、進は違和感を感じ取る。飛び上がる瞬間、足に妙な違和感を感じたのだ。
「あ……っ!」
その違和感の正体に気付く刹那に、凉女の驚く顔が見えた。驚く彼女の視線が自分の背後に向かっている。予感がして振り返る。空中で、敵に向かって突っ込んでいる最中。明らかな隙になるとは解っていたが、振り返らずにはいられない不安が過ぎったのだ。
そして彼は見た。自分が蹴り上げた床が粉砕し、瓦礫となって階下へと降り注ぐ様を。その下には、多くの一般客の姿。
「やべぇ……っ!?」
3
「なるほど……、こういう意図でしたか……」
憮然とした表情で呟いた
二人の勝負は既に付いていて、今は立会人も帰ってしまった後だ。普段なら盛り上がってしばらくは残っている観客も少なく、一部では少々物足りなさそうな顔をしている者までいた。
納得いかない。顔中にそう書いてありそうな表情で膨れるひまわりに対し、咲は少々申し訳ない気持ちになりつつ返答した。
「そう、Fクラスじゃ上位クラスには勝てない。なら
決闘が始まってから咲は、常に戦闘状況を膠着させ、時間を稼ぐことに邁進していた。
ひまわりの能力『
咲は自分の能力『二次創作』による『想起』で他者の能力を模倣できる。それを利用し、目の前にいるひまわりの能力を模倣、疑似的に作り出された『暗黒結界』で作り出された刀剣類が、互いの刃を弾き合い、能力によるアドバンテージを0にした。
ひまわりも負けずに『暗黒結界』の本来の効果で作り出したワームホールにより、瞬間移動して隙を突こうとするが、瞬時に『書換』を発動した咲は自身にカルラ・タケナカの人格を模倣させ、相手の能力を分析し、対処して見せた。
もちろんひまわりはあの手この手と、戦術を変えて対応しようとしたのだが、その度に咲は『書換』により人格を変更。カグヤになり口八丁手八丁で騙くらかし、弥生になって勇猛果敢に挑み、満郎になって逃走し、シオンになって煽り立て、ゆかりになってのらりくらりと躱し、まともにやり合わずに時間だけを稼いでいった。
結果的に、タイムアップとなり引き分けにすることで、咲は勝てこそしなかったが、
これが咲の狙った結末。勝てないのなら、せめて負けない方法を考えればいい。
時間制限を決めていたのもそれが狙い。Fクラスでは他クラスには勝てない。だが、負けないようにする事はできるのだ。
まんまとしてやられたひまわりは、それを考慮せず、見事に出し抜かれてしまった己の油断に歯噛みするしかない。
だが、それとは別に物申さない訳にはいかない事もある。
「それでは賭けはどうしますの? まさか引き分けたのでお流しと言うわけにはいかないでしょう? そもそも話の落としどころを決めるための決闘だったわけですし?」
そう、この決闘は元々正勝との相部屋を賭けた戦いだった。これでは話が最初に戻ってしまうだけで何も解決していない。
「まさかこのまま先送りにするために引き分けたというわけではありませんわよね? もしそうでしたら決闘どころではなく……戦争となりますが?」
瞳孔から完全に光を失った目で見据えられ、咲は慌てて首を横に振る。
「そ、そんなつもりはない……っ! もちろん、引き分けにしたのには理由がある」
「聞きましょう」
「引き分けになった以上、私達はお互い勝った事にするか、負けた事にするか、どちらかにした方が良いと思うんだ。それで私は前者を推奨。互いに勝負に勝った事として、互いの願いを叶える方向で行こうと思う」
「っと、言いますと?」
「生徒手帳出してくれる?」
咲に促され、ひまわりは手帳を差し出す。それに自分の手帳を重ねた咲は、生徒手帳に登録されている
「はい、うちの部屋の合鍵」
「まあ?」
軽く驚くひまわり。
「これで正勝くんの部屋に出入り自由、赤結さんの願いは叶った。私の願いは現状維持を許してほしい事。それを合わせた結果として、私の部屋移動はなし。代わりに赤結さんはうちに出入り自由と言う事で、妥協としませんか?」
「まあまあ……!」
勝つことができない咲は、負けないことでしか勝負を決められない、っである以上は一方的な願いは要求できないことを最初っから承知だった。そこで決闘に勝利した方が願いを叶えてもらうという条件で引き分けにして、互いの妥協点で納得してもらう事にしたのだ。
もちろん、これは苦肉の策であった。最初に引き分け時の条件を決めていない以上、話がこじれる可能性もあったし、最初に引き分け時の話をしてしまっては狙いに感づかれる可能性があった。それでもFクラスの生徒にはこうする以外の選択肢が現状存在していないのだ。後は天に―――否、ひまわりに全てを委ねるしかない。
「ふふ……っ」
ひまわりは小さく笑みを零す。
「完敗ですわね。こんなとても良い条件を出され、決闘に引き分けられてしまっては、否とは言えません。私もそこまで無粋ではなくてよ? この決闘、その様に取り計らっていただいて?」
了承を得た。
咲は安心感からどっと疲れながら、これでこの件で悩まされることはないだろうと安堵した。
代わりに同居人に多大な負担を強いてしまったかもしれないが、既に自分に負担がかかっていたのだ。そもそもの原因が同居人にあった以上、半分は持ってもらうとしよう。
そう自分を納得させた咲の手を、ひまわりは優しく取って両手で包み込む。
「影森さん―――いえ、咲さん、私は貴方を誤解していました。貴方は私の恋敵ではなく、愛のキューピットだったのですね」
「………はい?」
「私、アナタとは仲良くなれそう! これからをよろしくお願いしますわね!」
「あ、………はい」
自分が背負う負担が間違いなく増えた。眼前でキラキラと輝く無垢な笑顔に、そう確信する咲であった。
バガァァァァンッ!!!
その時、突如響き渡った騒音に、二人は同時に視線を向けた。
「チィ……っ!」
決着がついた
対するジーク東郷は不敵な笑みを浮かべ、余裕の意志を示していた。
「テメェ……ッ! そう言う事かよ……!」
全てを理解した悠里は更に表情を歪めて、ジークを睨みつける。
「テメェッ! 前回の試合で神格使い果たしてメチャクチャ弱体化してんじゃねえかよっ!!」
ジークの首元に剣を突きつけた悠里は、憎々しそうに云い捨てた。
対するジークの方が何故か得意げに悠里を見上げている。
「いや、それでも勝てると判断し、勝負を受けたのは俺だ。今回は素直に負けを認めるさ。今回はなっ!」
「うるせぇっ! なんで負けたお前が誇らしげなんだよっ!?」
「俺が惚れた女を惚れた男が、強く、信念のある男だと解って安心しているだけだ。くだらない男なら、負けてやるわけにはいかなかったがな」
「だから負けてるくせに上から目線なのなんなのっ!?」
悠里は剣を引いてもう一度舌打ちした。
まさか戦いが始まって殆ど一方的に押しきれてしまう上に、ジークお得意の『ドラコンボディ』は発動せず、グラムも神格を失い強化は発動せず、ただ頑丈で切れ味の良い剣と言うだけになってしまっていた。
ほぼ能力の全てが使用不可と言う状況。そんな状態で下位クラスとは言え、充分に勝の目を持つ相手に、十全の状態で挑まれれば良い所一つもなく負けて当然である。むしろそんな状態でよくぞ悠里の挑戦を受け取ったものだ。
「勝てる見込みは充分にあった。それを俺が掴めなかったというだけの話だ。まだまだ俺も修行不足だったらしい」
「今さらっと、俺に負かされたんじゃなくて、自分が失敗した体で言いやがったよな? ちょっと全力で殴っていい……っ?」
「死人に鞭打つが如し行為はさすがにどうかと思うぞ?」
「真顔でふざけたこと言ってんじゃねえよっ!?」
やれやれと言いたげに肩を竦めながら立ち上がるジークの様子に、悠里は勝ったのに微塵も勝利した気になれなかった。
「今度は勝つ」
「受けて立とう」
二人は互いを強く睨みつけ合う。
まるで先程の勝負は無効試合だと言わんばかりに。男と男の戦いが、始まったと宣告する様に。
バガァァァァンッ!!!
その時、突如響き渡った騒音に、二人は同時に視線を向けた。
「やべぇ……っ!?」
眼下、自分の跳躍で破壊してしまった屋上の床が、大量の瓦礫となって校舎にいる一般人に降り注ぐのが見える。
一般人とは言え、さすがはギガフロートの住人、瞬時に危機に気付いて悲鳴を上げながらも即座に走り出し、瓦礫を避けようとしている。子供もいたが固まって動けなくなるような者は一人もいない。
だが、瓦礫は広範囲に飛び散ってしまっている。一般人はイマジネーターではないため器用に躱すこともできない。瓦礫が空中にあるうちに排除しなければならない。それが解っていても進は今、飛び上がってしまったばかりだ。直接当てる攻撃手段しか持たない彼では何もできなかった。
「アームズッ!」
頭上、凉女の声が降り注ぐ。
進の脇を轟音が過ぎ去り、複数の機械ハンドが瓦礫を掴み取る。
(ダメだ足りねえっ!?)
凉女の作り出したアームは、元々進と殴り合うための設計、あまり遠くに伸ばすことができず、繊細さも有していない。ギリギリ小さい瓦礫を幾つか掴んだだけで被害範囲はほとんど変わっていない。
(くそっ! なんで校舎が壊れるんだよっ!? イマジンで壊れないようにされてんじゃなかったのかよっ!?)
進は当然のことながら、他の誰も気づいていなかった。凉女との戦闘中、進が床を殴りつけた瞬間があった。あの時、進の『耐久無視』『防御無視』そして防御崩しの効果が全て床に叩きつけられ、一時的に校舎を守っていた『神の見えざる手』の術式が破壊されていたのだ。一時的に普通の床となってしまった校舎は、イマジネーターのありえない脚力に耐えられるわけもなく、術式が回復していなかった範囲全ての床が崩れ去ってしまっていた。
「
凉女は瞬時に射撃系の武器を作り出し、瓦礫を破壊しようとしたが、その判断がミスであると気づいて硬直してしまう。
レーザーガンでは瓦礫を貫通した光線が一般人に当たってしまうかもしれない。爆発物で瓦礫を砕けば散弾銃の如く破片を跳び散らしてしまうかもしれず危険だ。この場合は、何か遠くの相手に防御効果を齎すタイプの装備を作るべきであった。
気付いたところでもう遅い。再度作り直すのは間に合わない。大きな瓦礫と小さい瓦礫。全てを対処する手段が手元にはない。
「……ッ!?」
「くそ……っ!」
悟った二人が何もできない事に歯噛みする。
せめて誰にも当たらないでくれと祈るしかない中、進は眼下から黄金の輝きを見た。
「『
瓦礫が降り注ぐ下にいたのは一般人だけではなかった。偶然そこにいたらしい新谷悠里が弥生の剣を『模倣』し、複数の剣を瓦礫に突き刺して防ごうとしていた。回避が間に合わない一般人を守るように並べられ、瓦礫に突き刺さり落下を止めようとしたり弾いたりしている。だが火力が足らず、破壊には至らない。重量を支えられるほど術式操作も上手いわけではなかった。
「咲さん合わせてっ!」
「『書換』赤結ひまわり!」
異変に気付き、中庭から窓を通って突っ切って来たひまわりと咲。二人は状況を正確に認識している暇はなかったため、飛び出してすぐに見えた瓦礫にともかく対処を試みた。
「「『暗黒結界』ッ!」」
二人、タイミングを合わせるために声に出して能力を発動。暗黒色の壁を作り出し、接触した瓦礫を呑み込むように消していく。
(だめっ! 遠い……ッ!)
瓦礫を半分ほど消した時点で壁の伸びが止まった。二人掛かりで伸ばせる範囲の限界点がきてしまったのだ。状況が解らなかったが故に、落下地点より離れた位置に出てきてしまったのが痛手だった。
(くそっ⁉ ここまでやってダメなのかよっ!?)
自分の所為で関係ない一般人が傷つく。そう想像した瞬間、進の胸中に言い知れぬ感覚が渦巻いた。
「ナンバー6で、よろしくノノカ☆」
「『幻想曲第三楽章:≪戦場の軍勢≫』編曲―――」
「「『恋のステップ』!!」」
奏でられるは軽快なリズムのバイオリンの音色。
響き渡るは明るく元気な少女の歌声。
まるで宙に浮いてしまいそうなほど甘くとろける恋をする少女を歌った歌詞。
サビから突然入った曲は、それでも違和感なく世界に受け入れられ―――落下しようとしていた瓦礫全てを中空で停止、瓦礫をステージとして今、歌姫が舞い降りた。
七色に輝く美しい髪を靡かせ、マイク片手に歌う少女は足場の悪い瓦礫で踊っているとは思わせない軽快な振り付けを交え、歌を耳にする者全てを魅了していく。
突然の事に戸惑いつつ、やっと屋上に着地を果たした進は、何が起きているのか改めて目にする。
宙に浮いた瓦礫を
そこにあったのは完全にショーだ。まるで最初からそう言うものであったかのような催しものだ。
「異音さんの『響き渡る歌に想いをのせて』の能力『歌は世界を変える』ですねぇ」
背後からした声に振り返ると、床に腰を下ろした凉女が二人の奏者を眺めながら教えてくれた。
「異音さんの歌は、歌に合わせて世界に影響を与えることができるとかで? たぶん、宙に浮いちゃうほどの恋をした歌で、物を浮かせちゃってるんでしょうねぇ? ノノカさんはその効果を高めるバフ効果でしょうかぁ~?」
のほほんと語る彼女から視線を外し、眼下の二人に戻す。
そこには、先程、悲鳴を上げながら逃げていたはずの一般人に、そんな事はなかったかのような笑顔と声援を受け取りながら、輝くアイドルがいる。
先程、自分が馬鹿にしてしまった二人。力がないと言ってしまった二人。イマスクに来る意味がないと言ってしまった二人。自分が僻んでしまった、二人……。
そして何より、自分には何もできなかった事故を、防いで見せた二人。
感謝と声援を一身に受けながら、ゆっくりと瓦礫を降ろし、歌の締めに二人でお辞儀して見せる。一層盛り上がる声にアンコールの声が混ざり、目くばせした二人がそれに応える。
そこには、自分達が見下していいような存在はどこにもいなかった。
「Eクラスでも戦闘能力はあります。私もそうですし、彼女達も……。皆戦い方が違うだけですよ」
「………」
「うふふっ、何も焦る事なんてないんですよ? だって私達、急に大きな力をもらってしまったばかりなんです。使いこなせてると思う方が傲慢ですよぅ~♪」
「………」
「進さん、アナタだって、まだ腐るには早すぎると思います。まだまだ、努力の時期。肩の力を抜いて、背筋を伸ばして、精進しましょうぅ~! お互いにぃ~♪」
進は何も答えなかった。
答えられなかった。
ただ彼の胸中にあったのは、言うべきでなかったことを言ってしまった罪悪感と、自己嫌悪だけだった。
(……ほっ、よかった)
事が大事にならず済んで涼風凜は胸をなでおろした。
風紀委員と言う事もあって緊急事態にはすぐさま行動できる準備は彼女にはあった。今回も屋上の床が瓦礫となって崩れた時には思わず、能力『停滞』による『
(でも、学園の方針上、下級生が対処できそうなら対処させるのが暗黙のルールだし、ギリギリまで見守らないといけない)
面倒な事ではあるが、彼女も既に三年生。下級生が失敗した時のフォローは当然として、彼らが彼等だけで対処できる時には、手を貸さずに見守るのも上級生としての義務なのだ。
(去年までは私も向こう側だった……、甘えないようにしないと)
同じくしたで成り行きを見守っていたらしい三年Aクラス、
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「すまんかった!」
「悪い事を言った。謝る」
日も暮れ始め、皆帰宅ムードになる夕焼け頃、進と灰裏はノノカと異音に対し素直に頭を下げていた。
戦闘には実際参加していない灰裏だが、あの戦いの中、Eクラスの凉女の奮闘ぶりに、ノノカと異音の活躍を見てなお、無意味な意地を張ったりはしない。むしろ頭が冷えたようで、深く考えもせずに悪態を吐いていた自分を恥じている様子だった。
「せっかく力を手に入れたのに、何も上手くいってない気がして、知らん内にイライラしてた」
「イラつきが不満になって、不満が不安になって、それで誰でもいいから八つ当たりしたくなってたんだと思う。今にして思うと、子供っぽい行動だったと反省した」
「「本当にすみませんでしたっ!!」」
二人、腰を折って謝罪する姿には、最初に見た厳めしさはなく、むしろ毒気が抜けた様な印象を与えられる。本心から謝罪しているのだろうことは容易に伝わり、それだけに謝られたノノカと異音の方がちょっとだけ戸惑ってしまった。
ノノカと異音は二人視線を合わせ、彼等を許す方向で意思確認をすると、互いに笑みを向ける。
「うん、もう気にしなくても―――」
「ではっ! 誠意を見せてもらおうかなっ♪」
「うん、誠意を……ん?」
笑顔で固まるノノカ。
サビ付いた音が鳴りそうな鈍さで首を向けると、何故かドヤ顔でふんぞり返る異音の姿があった。
「おう、殴られるくらい覚悟の上だ」
「借金の当ては一応あるぞ。どんとこい」
「納得しちゃうのっ!? もう少し冷静に考えない?」
「煮るなり焼くなり、串刺しにするなり獣に咬ませるなりしてくれ」
「こんな内臓で良ければ、多少の金額にはなるはずだ」
「覚悟決め過ぎじゃないかな二人ともっ!?」
潔く命を差し出そうとする漢二人に、ノノカはドン引きしてしまう。
「その程度の覚悟で誠意になると思わないでね☆ とびっきりの拷問―――もとい処刑を用意してるんだから♡」
「異音はどこまで覚悟を要求してるのっ!?」
「そして言い直した方がやばいですね……」
異音の発言によりドン引きになるノノカと、思わず口を挟んでしまう芽衣。その背後では気を利かせているつもりらしい凉女が焼いた鉄板を用意し始め、それを手伝わされている美幸が「この鉄板で何をさせるつもりなんですかっ⁉」っと怯えて至り、破壊された『魂創器』を涙目になって直すイングの姿があったりした。
皆が見守る中、胸を張った異音は偉そうに死刑宣告を口にする。
「二人には罰として、また私達の歌を聴いてもらうんだからね♪」
「「………は?」」
呆気に取られる二人。すかさず異音は人差し指を突き立て、二人の顔を覗き込むようにして、ちょっとだけ怒った表情で「めっ!」とするように詰め寄る。
「返事はっ!?」
「……お、おう」
「そんなことで良いなら?」
「よっしっ! ファン候補二人追加だよ♪ ノノカ♡」
「あ、あはは……っ、うん」
異音の粋な計らいに軽く笑って答えるノノカ。
一瞬戸惑いながらも、これ以上話を引きずるのも返って野暮だと判断して、二人も笑った。これでみんな仲直りと言う事で、芽衣を安心したように笑い、こっそりフェードアウトしていた満郎も最初からいましたよムーヴでニヒルに笑って見せた。凉女と美幸も笑い、イングはちょっと納得いかなさそうだが、個人的な事でせっかくの空気を台無しにする必要もないと判断し、合わせて笑って見せた。
イマジネーションハイスクール。ここでも地上と同じような喧嘩や諍いは、もちろんある。だが、諍いを諍いのままに終わらせず、ちゃんと仲直りする事ができる。ここには、そんな生徒で溢れている。喧嘩する事を恐れる必要などない、暖かな場所。
明日はいよいよ決勝トーナメント決勝戦だ。
「では、鉄板も熱が入りましたので、お二人ともどう乗ってくださいぃ~」
「「焼き土下座しろとっっ⁉」」
≪あとがき≫―――は無いっ!
気が向いたら書くかもしれんが、たぶん書かない。
久しぶり過ぎて何かくか考えてなかった……WWW。
次回から改めて各内容考えます。