アル社長を曇らせたいブルアカss 作:一般通過猫
突然だが今私は正座をさせられている。
ふかふかソファの上、膝を折った姿勢で座りこみ、両手をその曲がった膝の上に置いて首を垂れている。
「どうしてあんな無茶をしたの」
「ごめんなさい」
「すごく心配したんだから」
「申し訳ありません」
「火傷と裂傷でズタズタの姿を見たときは背筋が凍ったわ」
「返す言葉もございません」
「あらら、アルちゃんてば珍しくすっごーい怒ってる」
「いや怒るでしょ、だから送ってくって言ったのに」
「あ、アル様がお怒りに……私がついていって身代わりになってれば……」
周りの3人がさまざまな反応をする中、じとりと細めた目で私を見下ろしてくるアルちゃんにこんこんとお説教をされていて、それを甘んじて受け入れるという生き恥を晒している最中であった。
***
鈍った脳みそを鈍痛に揺さぶられて、目が覚める。
瞼を開いて、ぼんやりとした視界が開けていってまず、なんでこんな痛いんだろうと身体中がをジクジクと蝕む疼きに顔を顰めた。
次にふと見慣れない景色にここはどこだと混乱してから、壁にかけてあった時計がお昼頃を指しているのを見て、今日が平日であることだけはしっかり覚えてて、心臓が嫌なビートを奏で始めたりした。
寝過ごし確定状況、見慣れない部屋、痛む体。
これらの情報が脳内でまぜこぜになってしばらくの間混乱の最中にあった私を掬い上げたのはコツコツと響いたノックの音であった。
「し、失礼します……あ、お目覚めになられたのですね、よかった……」
はたして返事も待たずに入室してきたのはハルカちゃんだ。
彼女の顔を見てようやく夜中の出来事を思い出した私は、包帯まみれの痛む腕を持ち上げて、額を抑えた。
「そうかぁ、私は負けたんだった……あんな出来損ないどもに」
手を煩わせたくないという意地を張った結果結局彼女たちに助けてもらうという更なる迷惑をかけてしまって。
そのみっともない結末がこれとは、私は羞恥で俯いた。
「お、お身体の方はどうですか?」
「あ、えーっと、うん。 大体良さそう、かな?」
私の体は少し治るのが遅い。
至近距離でのグレネードの爆発を二発もくらったものだからまだ刺すような疼くような痛みが身体中を蝕んでいるけれど、少なくとも昨晩の掠れる意識の中鋼鉄の処女の胎内に抱かれるような苦痛と比べれば雲泥の差、という程度までは回復している。
そう告げるとハルカちゃんはほっと一息ついた。
「そ、そうですか、よかったです……ぁ、私、お目覚めになられたことをアル様に教えてきますね!」
「あぁ、はい」
そうして部屋の外に出ていったハルカちゃんをぽけーっと見送りながら、さてどうしたものかと私は考える。
とりあえず、今日は学校を休む旨を連絡しなければならない。
まずはモモトークを開こうと枕元に手をやり……スマホが無い。
どうしよう、連絡手段ない。
そうなると電話でも借りて連絡をしなければならないのだけれど。
どうしようどうしようと、うんうん唸っているとカツコツ靴音が近づいてきて、扉の方からぬるりと事務所の主であるアルちゃんが顔を覗かせてきた。
「テコ……目が覚めたのね」
「はい、おかげさまで。 昨日は、ご迷惑をおかけしました」
「気にしなくていいわ。 テコは便利屋の外部協力者だもの、仲間の危機とあらば決して見捨てはしない」
「おぉー、アルちゃんカッコイイ」
「まぁ、それはそれとして」
「はい」
「テコ、正座をなさい」
そして、冒頭に戻る。
「今度からは夜遅くになったら送って行くから。 それと夜遅くに尋ねてくる時も連絡しなさい迎えに行くから」
「ハイ……肝ニ銘ジマス……」
「まぁまぁアルちゃんその辺でさ。 お陰で結構な稼ぎもあったしテコちゃんも悪気はなかったし!」
そんな光景から目を逸らし、そろそろ足が痛みと痺れで辛くなってきた頃にムツキちゃんがフォローをしてくれた(稼ぎとやらはテーブルの上に積み上げられた雑多な財布やら軍需品やらを見て大体理解した)。
仕方がない、といったふうにアルちゃんがため息をついたので、隙を逃さず私は足を崩した。
ムツキちゃんが対して細くもも太くもない大腿部をツンツンしてきて猛烈な痺れに思わずうめく、やめい、やめぬか。
「まぁでもホント心配したから。 社長なんか泣きすがってこれどうしようどうしようって騒いでたし」
「カヨコ」
「はい、本当にこれからは気をつけるし遠慮なくご厚意を受け取ります。 アルちゃんも本当にありがとね」
「……もうほんとに無茶しちゃダメよ?」
アルちゃんが仕方がないといった具合に笑ってくれて、ようやく場の空気が弛緩した。
「で、ここで話が変わるのですけど」
「なになにどうしたの?」
「便利屋の皆さんに依頼があります、今日1日ここで匿って養生させてもらえませんか? 後電話貸して……」
***
私という存在を一言で説明すると、「とてつもなくめんどくさい女」だ。
……もう少し詳しく説明する。
まず、私『入間テコ』は厨二病である。
それもまだ物心を覚え始めた頃から今までずっと継続し続けていて、直そう直そうと思っても未だ夢想を捨てきれずにいる筋金入りのみっともない女だ。
自分という存在の矮小さを、年月と共に自覚しながら尚身に余る夢を捨てきれずにいてそのくせ弱さを理由にそれに挑戦することもできない、掃き溜めに寄せ集められた虫のように価値のない存在。
幼少の頃は何にだって挑みかかる危なっかしいガキだったそうだけれど、少なくとも、訳知り顔で何にでも消極的な姿勢である今の私と比較すれば月と鼈ほど価値の差があるだろう。
そしてそんなダサい自分のことがたまらなくキライだ。
それ故に、私は誰かに助けてもらうのが好きではない。
価値のない自分のために誰かに労力を割かせるのが申し訳ない……というわけじゃなく。
自分の失敗をフォローされるその過程で、無能だとか迷惑なやつと思われて嫌われるのが怖いからだ。
逆に誰かの役に立つのは好きだ。
自分よりも価値のある人たちの手助けをすれば、自分なんかにも存在する理由はちゃんとあると、ホッとできる。
全てにおいて自分を中心に物事を考える自虐的で厨二の痛々しい女。
それが、この『入間テコ』という女に対する自己評価となる。
であるからでして。
「はい、あーん」
「やめたくださいまし、やめてくださいまし」
このようなシチュエーションに遭遇すればキャパオーバーになるのは明白でございまして。
「ムツキちゃん、手は普通に動かせるから大丈夫でございますから普通に食べさせてくださいまし」
「だ〜めっ! 依頼を受けた以上は完璧にこなすのが便利屋68のモットーみたいなことアルちゃんがいってたようないってなかったような気がするから、完璧にお世話しちゃうよ〜」
「やめてくださいまし! やめてくださいまし!!」
あの後二つ返事で依頼を受理してもらえた私は、まず真っ先にゲヘナへと連絡を入れた(スマホは奇跡的に無事だったらしく充電器に刺されて安置されてた)。
『不良集団に凹されて心も体も参ってるので本日は休ませていただきます 〜テコ〜』みたいな至極ふざけた内容だったがゲヘナはその辺り適当でなんなら休日申請しないやつの方が多いので問題はない。
ヒナ委員長にもモモトークしといたのでとりあえず安心だろう。
それを終えてからようやく再び仮眠室のベッドを借りて横になったのだが、何も食べてなくてご機嫌斜めな声を上げたお腹に顔を赤くしていたところムツキちゃんがプリンを持ってきてくれたのだ。
まぁ昨日私が買ってきたやつだけど。
ちなみにカヨコさんは替えの服を買いに行ってくれて、アルちゃんとハルカちゃんは周囲の哨戒に出てる。
それはともかく、あーんである。
漫画でよく見るアレ。
私個人のクソみたいなコンプレックスは置いとくとしても見た目私より幼いムツキちゃんにそういうことやられるのは普通に恥ずかしい。
「自分のペースで食べたいからさ、お願い」
「ダメ〜、これはアルちゃんの言いつけなんだよ? テコが無茶しないようになさいって」
「無茶でもなんでもないじゃないですか」
プリンを自力で食べるのが無茶ならゲームガールをプレイするのも無茶に分類されそうだな〜とか思いつつ。
ニヤニヤとこちらを眺めてくるムツキちゃんに観念して、私は雛鳥のように口を開けてプリンを受け入れた。
うん、安物の甘い味わいがなぜか今はありがたい。
「それにしてもテコちゃん、なんであんなことしたの?」
「あんなことって?」
「多勢に無勢じゃん。 普段はあんな無茶しないでしょ?」
「勝てる見込みはあったんです、本当ですよ? そうすればあいつらから迷惑料としてお財布の中身と無人契約機で限度いっぱいに降ろさせた金を根こそぎ徴収しようと思って」
「そんなにお金必要なの?」
「あいつらのせいで今日部室が破壊されてイライラしてたんです」
ははーんと納得したような相槌をしたムツキちゃん。
貯蓄はある、あるがそれもガンガン使っていいほどじゃない。
それなのにあいつらのせいでぶっ壊されたのなら修理代と迷惑料治療費etc…を請求しても、バチは当たらないはずだ。
「それがまさか頭目ごと巻き込んで爆破してくるとはね……」
「うわー、それはバカじゃん」
「ほんとね……そういえば、そのバカどもは? 武器とか財布はかっぱらってたみたいだけど」
「みぐるみ剥ぎ取って裏通りに捨てておいたよ」
まさに悪の所業、私は思わず拍手を送りムツキちゃんはピースをした。
これで便利屋68の悪名はさらに知れ渡るでしょう、アルちゃん的にはかなりめでたいお知らせだ。
「あれで理解してくれれば助かるんですけどね……またあいつらが暴れ始めたらそのときは素直に依頼するかもしれません。 生まれてきたことを後悔するくらい痛めつけてあげて欲しいって」
「任せて〜! そういうのだいっ歓迎だから!」
「頼もしいなぁ。 あーん」
プリンを受け入れながら、雑談に興じつつ、思考は外側へ。
便利屋のみんなのおかげで当面の危機は脱したと見ていい、であれば次の課題は明日の過密スケジュールをどうこなすかである。
明日には私の怪我も完治するだろうけど、その後が問題だ。
先ずは私を襲撃した奴への厳罰を提案しなきゃいけないし、部室の修繕依頼もしなければならない、修復業者には護衛をつけなきゃいけないしそろそろガジェットの〆切も近い。
風紀委員の仕事も手伝わなきゃいけないし便利屋通いも続けなければ。
これから一週間は退屈とは無縁の日々になりそうだ。
「まぁ、まずはこの怪我を治してアルちゃんに外出許可をもらうのが先決かなぁ。 あーん」
「はい、あーん……ぱくっ」
「あーっ! なんでムツキちゃんが食べるんですかー!?」
「くふふ、おいしそーだったんだもん!」
この体ではろくに抵抗もできず、たまに差し出されたプリンを没収されたりしてじゃれつきながら、今日はそのままのんびりとした1日を送ることとなった。
***
「これはひどい」
翌日、アルちゃんに本当に大丈夫かと心配されながらもすっかり良くなった私はゲヘナ学園は登校したのだが、朝イチで確認した部室はそれはひどいことになっていた。
おそらく規制線が張ってあったであろうポールは横倒しにされ、砕け散っていた窓ガラスはさらに念入りに破壊され部屋の中は荒らされ放題だった。
まぁ、ゲヘナ基準で言えばこの部室は現在『どうぞお入りください』と看板が立ててあるようなものだ、金目のものは根こそぎ奪われただろう。
取り敢えず天井の四隅に仕掛けてある監視カメラが無事であることは確認したので犯人は全部特定して戦車轢き潰しの刑に処してやろう。
そんな物騒なことを考えている私の背中に声がかけられた。
「ごめんなさい、警備に人手を使えなかったの」
「え? あ、ヒナさん」
「おはようテコ。 怪我はもう大丈夫?」
振り向けばそこにいたのは風紀委員長のヒナさんだった。
私より頭半分ほど低い背丈からは想像もできない圧を放っているけど、こうでもしないと身の程知らずがちょっかいをかけてくるとぼやいていたのは随分前のことだった。
「おかげさまで、怪我はすっかり良くなりました。 盗人は後で特定して『私刑』にかけますので見逃していただけますか?」
「やりすぎるのはほどほどにしといてね」
「それはもう。 ところで開発中の新型防御ガジェットですけど、この惨状なのでちょっと完成が遅れるかもしれません」
「大丈夫、それはもう織り込み済みだから。 テコは焦らずいいものを完成させて。 じゃあ、無事も確認できたし私は仕事に戻るから」
「はい、ありがとうございました。 放課後にお手伝いに行きますから」
小さく手を振ってくれたヒナさんに頭を下げて、ひとまず私は窓枠を乗り越えて部室の中に入った。
暴虐のかぎりを尽くされた部室ではあるがこんなもの日常茶飯事なので気にすることはない。
ふと、どうやら衝撃で外れはしたものの破損は少ない部室の看板が足元に置いているのを見つけた。
これは再利用できるだろう、埃を適当に払ったそれには、『ガジェット開発部』という文字が書かれている。
──ガジェット開発部、通称ガジェ発。
今は三年の先輩方が設立した、その名の通り様々なガジェットを開発する部活だ。
日用品から戦闘補助、さらには独自のOSまで開発するような手広い活動内容が売りで、ゲヘナの中では数少ない真面目な活動をする部活で私もその評判を聞いて入部した。
ところがそれらは全部監視の目を欺くために猫をかぶっていたに過ぎず、秘密裏に地下施設で開発していた都市部制圧用侵略ロボ『パルバライサ』作成こそがガジェット開発部の本当の目的だったのだ。
ちなみに私が風紀委員にそれをチクッたので計画はその日に頓挫した。
完成まで後二週間、ギリギリだった。
当時一年の私以外の全員がお縄になったので、今や私だけがこのガジェ発のメンバーだ。
取り敢えず業者に電話を入れてから、部屋の掃除を開始する。
散らばった破片、こびりついた血痕、薬莢その他諸々全部片付けるとなると相当な手間だ。
巨大な残骸なんかは適当に外に放り出していくと、その中でキラキラと金属光沢を放つ物体があった。
どうやらこれは、盗人の手から逃れたらしい……まぁ、残骸の中に埋もれてたし。
「どれどれ? おお、内部も無事っぽいですね」
引き摺り出した開発中ガジェットを点検し、どうやらさほど破損した部分はないことを確認する。
細かい傷なんかで済んでるあたり、これの頑丈さの証明になったのではないだろうか。
取り敢えずスイッチを入れると、オクタゴン型の金属塊の各所に電源が入ったことを伝える光のラインが浮かび上がった。
そのまま取っ手に手をかけて起動スイッチを入れる。
直後、その分厚い金属塊は即座にその姿を変えて、けたたましい音を立てながら広がっていく。
最後に地面にアンカーを突き立てたとき、私の正面には、厚さ1センチの特殊合金でできた巨大な壁が出来上がっていた。
防御用ガジェット『キャッスルウォール』。
風紀委員の要請を受けて新たに開発した、汎用防御拠点生成装置である。
本当なら、襲撃を受けたあの日のうちに提出する予定だったものだが、これなら最終調整を終えれば即座に届けることができるかもしれない。
そうなればヒナさんも少しは喜んでくれるだろう。
これがあれば、一昨日の襲撃にも、もっと余裕を持って対応できたかもしれない。
「よし……」
そうと決まれば。
私はバッグの中から工具箱を取り出して、展開中のキャッスルウォールの調整に取り掛かった。
休んで迷惑をかけてしまったから、せめて朗報をお届けしたい。
その日私は授業をサボってガジェットの調整に時間を費やしたのだった。
放課後、風紀委員を訪ねてご迷惑おかけしたお詫びの菓子折りとガジェットを提出したのだが、そこまでしなくていいと言われてしまった。
反省。
書きたいことを適当に書き散らした感がある。