ちょっとクズな直哉くん   作:いかのシオカラ

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第4話

-直哉くんと乙骨くん-

 

五条くんからの頼まれごとで、とある生徒に知識と戦い方を叩き込んでほしいと頼まれたので、東京校に訪れている今日この頃。

石造りの階段を降り、グラウンドへ。

パンダと真希ちゃんがやいのやいのやっているのを眺める白髪の少年。

この子だろうか。

 

「どうも、みんな元気そうやね。五条くんの頼みで生徒を鍛えてくれ言われて来たけど...キミが乙骨くん?」

 

白髪の少年が首を横に振り

 

「おかか」

 

「おかか?」

 

「おう、直哉。今真希が...」

 

「フン!」

 

ボゴっと音がなり、穂先がない棒でパンダの顎をかちあげる。

ピヨピヨと頭の上でヒヨコが飛んでいるパンダの上に真希ちゃんがのしかかり、

 

「そいつは狗巻棘。呪言使いだから語彙に限りがあんだ。んで、乙骨は...」

 

真希ちゃんが横のベンチで寝込んでいる黒髪の少年を指さす。

 

「なるほど...ごめんね狗巻くん」

 

「ツナ」

 

気にすんな、という意味だろうか。

ベンチで寝込んでいる少年にゆっくり近づき

 

「もしもーし、乙骨くんー?」

 

「うえっ!は、はい!」

 

乙骨くんが顔に敷いたタオルをはぎ取り、こっちに視線を向ける。

 

「どうも、乙骨くん。はじめまして禪院直哉です。五条くんにキミを鍛えるように言われて来ました。これから数日、よろしゅうね」

 

「よ、よろしくお願いします...」

 

 

-直哉くんと夏油くん-

 

僕が乙骨くんへの指導を始めて数日。

巨大な鳥型の呪霊に乗って夏油くんが高専に訪れた。

曰く、乙骨くんを仲間に引き入れたいとかなんとか、非術師の人間は猿だとか。

しかし、真希ちゃんのことを猿だと言ったことは聞き逃せない。

僕の十八番のマッハパンチで攻撃。が、呪霊でガードされた。

 

「危ないじゃないか、直哉」

 

「夏油くん、さすがにちょっと聞き逃せへんで。...昔はそんなん言わんかったのに、悲しいでほんま」

 

「こちらもそちらも変化しているということさ」

 

僕に顔を少し近づけ、

 

「今夜の19時、昔なじみの店でキミを待つ」

 

ボソボソと小さい声で耳打ちをする。

次の瞬間にはバックステップで仲間と呪霊のもとまで移動し

京都でハロウィンで百鬼夜行を行い人間を殺すことを僕たちに明かし、呪霊で飛んで行ってしまった。

 

...

.....

.......

 

「傑がそんなことを?」

 

「...今日の19時。五条くんはどう睨む?」

 

「傑の性格上、罠の可能性は低いだろうし、単純に話がしたいだけだろうね」

 

「一応、付近の地域にはおってくれる?なんかあった時は連絡するし」

 

「つーか、そうでもしとかないと馬鹿ですって言ってるようなもんでしょ」

 

「...なじみの店か」

 

「心当たりは?」

 

「1個だけ。昔僕がたまに東京に来てた時あったやん?そん時に夏油くんとよう行っとったラーメン屋があんのよ。...でも店主はもう老人で一昨年には店閉めてもうたし...」

 

「...そこに賭けようか。ひとまず、今日は体を休めておいて。最悪戦闘になるかもだから」

 

「ほかの人間への連絡は...せんほうがええ?」

 

「しないほうがいいと思う。余計話が拗れそうなのがチラホラ。あと、向こうの手の内がわかっていない以上、下手に人も動かせないし」

 

「了解、じゃあ、また連絡するわ」

 

...

.....

.......

 

 

約束の時間の19時の五分前。

僕と夏油くんの昔なじみの店の前に到着。

 

「明かりが...ついとる」

 

どうやら当たっていたようだ。

ボロボロになった小汚い、だが少し懐かしい暖簾をくぐり、ガラガラと店の戸を開ける。

 

「いらっしゃい、直哉くん」

 

「どうだい大将、当たってただろ?直哉は時間に厳しいからね。ほらほら座った座った」

 

「お、おう」

 

急ごしらえで作られたようなカウンターの席をトントンと叩く、

袈裟姿ではなく、私服姿の夏油くん。

思わず懐かしい気分にあり、足取りがぎこちなくなる。

 

「大将にお願いしてね。今日のこの時間だけ、一夜限り、貸し切りでの復活さ。やっぱりキミと話をするってなるとここじゃないとね」

 

「へいお待ち、直哉くん...いつものだよ!」

 

「あ、ああ。どうも」

 

僕がいつも頼んでいた醤油ラーメン特盛味玉ネギ増し。

学生時代から一昨日まで、何も変わっていない一杯。

しかし、夏油くんが非術師の人間に頼み事を...。

隣の席に座っている夏油くんがボソッと耳打ちする。

 

「実はここの大将、術師の家系でね。ぼんやりではあるが呪霊が見えるんだ。呪力のコントロールも自然にできている」

 

「んな!?」

 

ここ数週間で一番の衝撃である。

 

「ほら、早く食べなよ。麺、伸びるよ?」

 

「そういや、前にサングラスをつけた子と三人で来た時、直哉くんサングラスの子が約束の時間に遅れたとかですっごい説教してたねー」

 

「そうそう。おかげで終わるころには悟と直哉の麺ビロビロになっててさー」

 

「ちょ、それは五条くんが『ごめーん、元カノの話がうざったくて適当に聞いてたら遅刻した』とか言うから」

 

「悟のことだから諦めればいいのに、直哉ってば、ほんと」

 

「ほな、それ言うんやったら夏油くんも...!」

 

「おーおー、店が懐かしい雰囲気になったもんだねー」

 

...

.....

.......

 

ラーメンを啜り、気が付いた時には空になった器、氷が溶け切ったピッチャー。

不思議と思い出話に花が開いてしまっていた。

ゲラゲラと笑いあったかと思えば、少し真面目な顔になり

 

「直哉、キミにはあるお願い事をしてもらいたい」

 

「...本題かいな」

 

「ああ。...百鬼夜行の日、高専で乙骨憂太を捕えておいてほしい」

 

「やっぱり本命は別におったんか。最初からおかしい思たわ。夏油くんの呪霊の数を考えてみても、今日本におる1級や特級やらでやられてまうやろうしな」

 

「さすがに勘づいていたか。なら...お願いできるかい?」

 

「なあ、夏油くん。何がキミをそうさせんの?やっぱり...10年ぐらい前のこと?」

 

「それもあるだろうね。だが、気づいたんだ。猿がいなくなれば、僕たちは平和に過ごせる。おかしいと思わないかい?今の社会はキミたちによって成り立っているといっても過言ではない。しかし、社会ではどうだ?英雄として知られることもなければ、誰からも感謝されない。歴史の陰に埋もれて死んでいくだけ。そんなことが許されるか?だから変えるんだ、世界を」

 

「...夏油くんが言いたいことは大体わかった。共感もできる。...でもやっぱり無理やわ。僕の大切やった人、大切な人は夏油くんが言いよる猿の中におる。やったら僕はその子ら守るために戦わなアカン」

 

「やはり、君はまっすぐだ。憧れるよ」

 

「...夏油くん、なんで僕を頼ってくれんかったん?僕では足りんかった?僕は...友達ではなかったん?」

 

「友達さ。だから言えないこともある。だから、曲げられないこともある。そういうもんだよ」

 

夏油くんが時計を見る

 

「おっと、もうこんな時間だ。心惜しいが、これから金蔓、いいや金猿と会わなくてはいけなくてね」

 

夏油くんが腕を差し出してくる。

握手だろうか。差し出された手を握り返す。

 

「キミと友であれて、本当によかったよ」

 

それだけ言い残し、店を去っていった。

外で大きな羽の音が聞こえる。

懐かしい思い出がすべて崩れ去ったような気がして

自然と肩が震え、空の器に水滴が落ちる。

大将が最後に出してくれたもう一杯が塩辛くて仕方なかった。

 

 

-直哉くんと夏油くん2-

 

ハロウィン当日。

京都で呪霊の大軍を迎え撃つ五条くんとは逆に高専にいる僕。

やることは1つ。

 

「やはりこうなってしまったかい直哉、僕は悲しいよ」

 

「ああ、俺もや。...キミは俺の手が届かへんところまでいってもうた。やからその魂ごと、こっちに引き戻す!」

 

「いい目だ。だが、こちらにも計画があってね。だから、ここはこいつに任せるとしよう。特級仮想怨霊 化身玉藻前。とこれはサービスだ。ではね」

 

「特級が一体に一級クラスが...十体」

 

だがこれは夏油くん側にとっては大きなパワーダウンである。

 

「どけや、クソカスども。俺は向こうにいかなアカンねん!」

 

ゲラゲラと笑う呪霊たち。

術式はとっくの前に発動中。

一体一体をマッハで潰していく。

投射呪法を発動させながら反転術式も使用することで

激痛は必至だが普段の数倍の速さで動ける。

ミスったら即死級のデンジャラスゲームだが、時間が惜しい。

時間にして3秒足らずで一級を殲滅。

呼吸を切らしながら、特級を睨みつける。

 

「お前も...ぶち殺したる!」

 

今度は領域を発動するために印を組もうとするが

 

「領域...ぬお!」

 

慌てて回避。

投射呪法で距離を取り、発動させようとしても

 

「...こんの!」

 

火の玉を用いた遠距離攻撃や爪での近距離。

果てには岩石飛ばしなどやりたい放題である。

ここは領域を諦めて、直接の殴りにいく。

何発も攻撃を当てるが、大きなダメージはない。

 

「耐久力もあんのかい、クソが」

 

吐き捨て、攻撃を当て続ける。

すると、

 

「ねえりゃあい!」

 

と放った一発が黒い閃光を放ち、特級の体を大きく軋ませる。

瞬間、脳が覚醒。

このまま追い打ち!

体がボロボロになりながらも、ありったけの呪力で術式と反転術式を発動。

今は...マッハ2!

 

「rrrrrrrらあ!!」

 

マッハ移動でのとどめの一撃。

もう一度放たれる黒閃。

ボロボロと崩れだす特級の体。

完全に消え去ったのを確認し、急いで夏油くんのもとへ向かう。

 

...

.....

.......

 

移動した頃には、全てが終わってしまっていた。

五条くんに夏油くんのことを問いただすと

首を横に振る

 

「...ごめん、夏油くん」

 

有言不実行が僕の特技らしい

 

 

-直哉くんと夏油くん3-

 

百鬼夜行は無事収束。

夏油傑のたくらみは無事潰えた。

僕としては、報告にあった未成年の二人をどうにかしたいが...

夏油一派の足取りは一名を除き掴めずにいた。

そんなある日。

 

「直哉くん、郵便受けになんか入ってたわよ」

 

「ん?ありがとう真依ちゃん。っていうかおったんやね」

 

茶色い封筒を受け取り中身を開ける。

そこには手紙が入っており、

 

『禪院 直哉様

この度は当店を長らくご利用いただきありがとうございました。

 息子の修行がようやっと終了したため、近々、店を開きます。

 ぜひお越しください。』

 

っと書かれていた。

手紙と同封されていたチラシをみると、開店日は今日。

 

「...なあ真依ちゃん、今から東京行かへん?」

 

「は?東京?なんで?」

 

「ええから、ええから」

 

「...わかったから、どこに行くかだけ」

 

「歌姫先輩も誘おうかな?」

 

「話聞け!」

 

...

.....

.......

 

「どや、うまかったやろ」

 

「確かに美味しかったけど...まさかこれだけのために東京に?」

 

「なんや、観光でもしてくか?案内すんで」

 

「いや、そんな直哉くんデートだなんてそんな...」

 

「え、3人ちゃうの?」

 

「この人が暴走してるだけよ」

 

「はい!私TDL行きたい!!」

 

「うわ、急に帰ってきた」

 

「なはは、ほな行こか。大将、お勘定」

 

「はーい」

 

店に張られたチラシに目が行く。

今度は東京高専の1年生たちでも連れて行こう。

 

 




玉藻前は、呪霊の力で若干耐久盛られてます。
夏油も時間稼ぎ用に用意したので。

-評価-

夏油 5
「友達」

メロンパン 2
「厄介だな」

歌姫 5
「そのぬい、絶対部屋に飾ってね。ほんと大丈夫やつだし(?)」

-みんなの呼び方-

ナオヤン
虎杖

好敵手
東堂

直哉
五条 夏油 夜蛾 パンダ 真希

直哉くん
家入 歌姫 真依 七海

直哉さん
乙骨 伏黒 野薔薇 順平

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