直死の魔眼とヒーローアカデミア   作:もふもふもふも

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 あけましておめでとうございます。
 更新、大変遅くなりました。構想があっても文章にするのは難しいということを思い知らされています。
 亀更新で恐縮ですが、楽しんでいただければ幸いです。


入学(前)

 

 

 

 実技試験からちょうど1週間が経った。

 

 司綺は何をするでもなく自分の部屋で横になっていた。

 予定では今日か明日あたりに合否通知が郵送されてくるはずだ。そう思うとやはり緊張するもので、勉強にもトレーニングにも身が入らない。今日くらいは、ということでただひたすらにのんびり過ごしていた。

 

 仮に合格していた場合は、雄英近くで1人暮らしをすることになる。今いるこの家は新幹線を使っても雄英まで2時間かかるため、さすがに通うのは厳しい。

 奨学金を借りてなるべく負担をかけないようにする、と言ったのだが、義両親に強硬に反対され、結局卒業までの間はすねをかじることになってしまった。「一人息子の教育費くらい出させろ」ということらしい。ここまで育ててくれただけでも十分にありがたいというのに、1人暮らしの費用まで負担させるのは申し訳ない限りなのだが、義両親もそこは頑なだった。「夢を叶えて恩返ししてくれ」とのことだったが、それも司綺を無理矢理納得させるための方便で、義両親は別に恩返しさえも求めていないだろう。

 

 そんなわけで、今日は1人暮らしをするとしたらどの辺りに家を借りようか、と賃貸不動産のwebサイト巡りなんかをして時間を潰していた。

 

 筆記試験の自己採点結果は感触通り良好。十分に合格圏内だろう。

 もともと勉強は嫌いでも苦手でもなかったし、国立高校の筆記試験ということで、求められる得点は高いものの問題の内容自体は突飛なものではなかった。

 

 一方の実技試験。司綺の得点は35P(ポイント)。こちらも感触としてはそこまで悪くないのだが、如何せん他の受験者の得点がわからない以上、まったく安心できない。

 そして、思い出されるのはプレゼント・マイクによる試験概要の説明。今思えば、まるでP(ポイント)稼ぎゲームと思わせるよう誘導していたような気がする。本当に評価項目はP(ポイント)だけだったのだろうか。確証はないが、何か裏があったような気がしてならない。

 

 だが、最も気掛かりなのは試験終了間際の自分の行動だった。

 

 巨大(ヴィラン)に立ち向かったことは今でも後悔していないし、むしろ加点してほしいという思いすらある。

 

 

 が、"死の線"を使ってしまったのはまずかったのではないか。

 

 

 (ヴィラン)の動きを利用して土煙に隠れることで、"死の線"なんてものを使っているところを周囲から見られないようにしたわけだが、雄英の教員たちには通じなかった気がしてならない。

 

 P(ポイント)は試験後に自己申告したわけではない。つまり教員たちは映像なり何なりを見て受験者たちのP(ポイント)を集計するはずだ。入試においてP(ポイント)の見逃しがあっていいはずがない。おそらく会場のあらゆる場所がモニターできるようにしてあったことだろう。

 

 つまり、(ヴィラン)キャタピラ()をナイフでバラバラにする瞬間は見られていた可能性が高い。普通に考えれば、こんなナイフで機械を切断できるはずがない。恐らく個性によるものだと思われることだろう。

 しかし、試験の中で司綺は(ヴィラン)を切り刻むのとはおよそ関係ない個性をふんだんに使っている。当たり前だが個性は1人1つであることは常識である。両親の個性がうまいこと複合的なものになることもあるらしいが、空中で跳躍する力とものを切断する力、ここまでかけ離れた能力同士が複合型個性として発現したとは普通考えないだろう。

 

 つまり司綺が懸念しているのは「不正をしたのではないか」と疑われることだった。

 持ち込み自由の実技試験に不正も何もない、という思いがある一方、受験者というのは結局は"選ばれる側"であり、選ぶ側が適当な理由をつけて不合格としてしまえばどうしようもない。

 

 それに、

 

 

——まぁ、ある意味ズルと言えばズルだよな

 

 

 不正だと言われても仕方がないという思いがあるのも事実だった。理不尽な死をもたらすあまりに人間離れした力。その一端を見た教員たちが、もし司綺のことをヒーローには不適格だと判断したとして、文句を言える気がしなかった。むしろ人間として正しい判断だと納得さえしてしまうだろう。

 だからこそ、司綺はこの力を試験で使うつもりはなかった。更に言えば、今後の人生においてもこの力を積極的に使うつもりは毛頭なかった。先生にこの力を何かに役立てることだってできると言われて、そうできたら良いと思えたけれど、それでもヒーローにふさわしい力ではないという確信めいた実感が司綺にはあった。

 

 しかし、あの巨大(ヴィラン)を何とかしようと思った際、司綺は当然のように"死の線"を切るという選択をしてしまった。その時の記憶、感覚はなぜかぼんやりとしてしまっている。なんとなく覚えているのは、自分の中の(たが)が内側から外れ、ろくに抵抗することもできずに理性が薄れてゆくような感覚だ。あの時の自分は、(ヴィラン)を倒すための最適な動きを本能が理解し、それに全てを支配されていたような気がする。

 

「考えすぎだよな」

 

 試験直後と同じような物騒な思考に頭が飲み込まれていきそうになるが、"死の線"なんていう圧倒的におかしな能力に影響されて、中二病的な思考が強まってしまっているだけだろう。必死のあまり冷静さと自制を失ってしまっていただけに違いない。

 

 そんなことを考えていると、部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。

 

「司綺、開けるわよ」

 

 義母の声だ。義母はこちらが良いと言うまで基本的に扉を開けることはない。ノックもせずに母親が入ってくると話す同級生には羨ましがられたものだ。「はい」と扉の向こうに返事をすると、扉がゆっくりと開く。

 

「……来てたわよ、通知」

 

 やや緊張を感じさせる表情で、義母は封筒を手渡してきた。

 自分の心臓がドクンと跳ねたのがわかる。散々いろいろと考えてきたが、やはり合格したのではないかという思いも捨てきれていないだろう。この中にこれからの3年間の道が記されているのだと思うと、多少ニヒルに構えているという自覚のある司綺にも、ある意味では実技試験に臨むとき以上の緊張が走った。

 

「じゃあ私はリビングにいるから……」

 

 そう言って義母は部屋を出て行った。こういう気遣いは本当にありがたいと思う。

 何となくそうした方がいいような気がして、ベッドから離れ勉強机に向かってから封を開けることにした。

 はさみで封を切ると、出てきたのは謎の機械のようなもの。てっきり紙っぺら1枚が入っていると予想していた司綺は思わず首を傾げる。

 すると突然、その機械から光が放たれ、壁に映像が投影された。どうやらこの小さな機械はプロジェクターのようだ。わざわざ映像で合否を通知するとは随分と手が込んでいる。さすがは天下の雄英といったところか。

 

「私が投影された!!!」

 

 納得も束の間、目の前の映像に目を見開く。映っているのは筋骨隆々の体に画風が違うとよく言われている堀の深い顔をした超有名人の姿。

 

「オールマイト……!?」

 

 日本国民の誰もが知るだろう不動のNo.1ヒーロー、オールマイト。どんな難事件、災害においても笑顔でみんな助けてしまう少年少女の憧れの的である。司綺はたとえヒーローになってもそのように振る舞うことは到底できそうもないと思っているが、それでもそのヒーローとしての在り方には憧れを抱いている。

 

 そんな彼の映像がなぜ雄英から送られてくるのか。驚きと疑問から封筒を再度確認するが、差し出し人は雄英高校で間違いなかった。

 

「驚かせてすまなかったね。なぜこの場に私がいるのか? それもそのはず! 私が雄英に勤めることになったからなんだ」

 

 誰もが抱くだろうその疑問はやはり予測されていたのか、早速オールマイトが説明してくれる。

 疑問は氷解したが衝撃は収まらない。それはつまり、合格した場合オールマイトに指導してもらえるということ。No.1ヒーローに教えを請えるなど、雄英で学ぼうとする者であれば飛び上がって喜んでもおかしくないだろう。だが……

 

「早速だが風見少年。入試の合否だが……」

 

 そう、合格していなければ全く関係のない話になってしまう。固唾を飲んでオールマイトの次の言葉を待つ。オールマイトも心なしか緊張しているようにも見えなくはない。

 

 

 

「合格だ、おめでとう!」

 

 

 

 一瞬、呼吸を忘れる。次いで、オールマイトの言葉を理解して、大きく息を吐いた。

 喜びより先に安心を感じてしまった。"死の線"による切断は個性の範疇とうまいこと解釈されたのか、それとも単純に見逃されたのか。何はともあれヒーローを目指す上でこれ以上ない環境で学べることになったわけだ。

 

 

——本当によかった。

 

 

「筆記は非常に優秀。実技も35P(ポイント)。悪くない点数だ。個性を駆使して冷静に状況を俯瞰し、効率的かつ確実にP(ポイント)を稼いでいたね」

 

 悪くない点数、つまり飛び抜けて良いわけではないということだろう。ギリギリだった可能性もある。が、試験後半の自分の行動にやはり後悔はない。ヒーローとして正しいと思う行動をしたまでだ。

 

「そして先の入試! 実は見ていたのは(ヴィラン)P(ポイント)のみにあらず!」

 

 司綺は目を少し見開いた。

 

「試験後半の君の行動はとても素晴らしかった! 危機が迫った他の受験者を自分を顧みず助け、励ましの言葉さえかけてみせた」

 

 オールマイトの顔はいつもの笑顔と変わらないようで、普段メディアで見かけるときよりも嬉しそうにしているように見えたのは気のせいだろうか。

 

「そして最後の巨大(ヴィラン)、なんのメリットもないというのに君は迷いなく立ち向かった!」

 

 それは司綺を賞賛する言葉。最高のヒーローにヒーローとしての行動を肯定される。

 

 

——ひどく、安心する。

 

 

救助活動(レスキュー)P(ポイント)! しかも審査制! 我々雄英が見ていたもう1つの基礎能力!!」

 

 まったく、恥ずかしくなる。

 

「風見司綺! 40P(ポイント)!」

 

 戦闘能力を見るだけの試験などと、浅はかな理解で反発していた自分がとても恥ずかしい。プレゼント・マイクの誘導の意味深さはそういうことだったのか。

 

「来いよ、風見少年! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!」

 

 ヒーローになるという夢に一歩近づくことができた。思わず拳に力が入る。

 先生に誇れるような人間になるための道のりはまだまだ長い。けれど、この一歩はきっと大きいのだと司綺は信じた。

 

 

 

 一つだけ気になることと言えば、オールマイトは巨大(ヴィラン)に立ち向かったことを賞賛してくれたものの、無力化したことには全く触れなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)が、きっと瑣末なことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 合格発表してからの1ヶ月は、家探しに引越し、入学準備で慌ただしく過ぎていった。

 そして、あっという間に入学初日の朝を迎えた。

 

 慣れない新居の押入れから慣れない雄英の制服を取り出し、袖を通す。

 

 司綺は、雄英高校のすぐ近くに引っ越してきていた。

 トップ校の近くということで家賃相場も高いのではないかと思っていたが、駅近くなどよりよほどお手頃価格で、司綺としては万々歳であった。山の上なこともあり、雄英があるだけで生活するのに特段便利な場所でもないからだろうか。

 どうにか引っ越し会社の都合もつけられ、昨日このアパートに入居、荷物の搬入をするに至ったのだった。

 

「制服似合ってるよ、司綺」

 

 着替えを済ませた司綺に義母が声をかけてくる。

 昨日の入居に合わせて、荷物の開梱や新生活の買い出しを手伝うべく泊まりがけで義母も来てくれていた。司綺は遠慮したのだが、義母はいつも通り有無を言わせなかった。

 

「ありがとうございます。でも、学ランの方が正直落ち着きます」

 

 姿見に映った自分を見て、司綺はまるで自分が自分じゃないような感覚を少しばかり覚えた。初めて着る制服ということももちろんあるが、暗めの色を好んできた司綺にとって雄英のライトグレーのブレザーはどうにも違和感があった。

 

「ふふ、着ているうちに慣れるよ」

 

 そう言って笑顔を浮かべた義母は、自らの荷物を持つと「そろそろ行こうかな」と玄関の方へと歩き出す。見送りのため司綺もついて行く。

 

「それじゃ司綺、これからも体に気をつけて頑張ってね」

 

 玄関前で義母が少し寂しそう微笑む。

 

「ありがとうございます。義母さんこそ体には気をつけて」

 

 靴を履き終え扉へと手を伸ばしかけた義母だったが、そこでもう一度司綺へ振り返った。その表情は優しげでありながら、真剣みを帯びている。

 

「司綺、私たちにとってあなたは唯一無二の息子よ。だから、何かあったらいつでも頼りなさいね」

 

 思いがけない言葉に一瞬返す言葉を無くしてしまう。

 義母は実母の妹であり、司綺にとっては叔母にあたる。

 幼い頃に実の両親を失っている司綺にとって、義両親は何にも代え難い存在であることは間違いない。が、一方で「育ててもらっている」という感覚が抜け切ることはなく、どこかで一線を引いてしまっていることも自覚していた。

 義両親が司綺のことを実の息子として大切にしてくれていることは、司綺自身理解していた。だからこの心の壁は司綺が一方的に作り出したもので、壊せるとしたらそれは司綺本人だけなのだろう。

 

「ありがとうございます。義母さん」

 

 けれど、司綺にはこの壁の壊し方はわからなかった。もしここでお礼以外の言葉も言えたならば、義母は心の底から喜んでくれるに違いない。だが、司綺は自分にそんな資格はないと心の底から思ってしまっている。そして、そんな自分を隠して「甘えさせてくれ」と嘘を言えるほど、司綺は器用ではなかった。

 

「……それじゃ、たまにはちゃんと帰ってきなさいね」

 

 やはり本当に欲しかった返事ではなかったのだろう。少しの沈黙があって、しかしそれでも義母は優しく微笑んでくれた。

 

 「はい」と返事をすると、義母は少し寂しそうに微笑んで、今度こそ扉を開けて出て行った。

 

 

 

 1Kの部屋に1人残された司綺。家を出るまでにはまだ時間の余裕がある。一通りの準備は既に終えていたため、ベッドに腰掛けて何となく部屋を見渡す。

 司綺はもっと狭い部屋で良いと言ったのだが、義両親に押し切られて結局10畳程度ある広めの部屋を借りたのだった。甘えないようにと思いながら、強硬に迫られると断ることのできない自分に自嘲の笑みを浮かべる。

 アパートには生活や勉強に必要なものに加えて、義父にもらったシンセサイザーとオーディオプレイヤー、コミックや小説、音楽CDや映画のDVDなどが詰まった大きめ本棚を持ってきていた。

 スマートフォンとオーディオプレイヤーをペアリングし、適当な音楽を流す。

 

 "死の線"を視界に捉えるようになってから、司綺は読書や音楽、映画鑑賞などに浸るようになった。理由は自分でもはっきりしない。

 ただ、物語や音楽はたとえ媒体である本だったりディスクだったりが壊れたとしても、その存在自体が世界や人々の心の中から消えることはない。形あるものの死を()てしまうが故に、その魔眼()でもってしてもコロせない物語や音楽の存在の"強さ"に惹かれたのかもしれない。

 あるいは、それらに没頭することで死に(あふ)れた現実から逃避しているだけなのかもしれないが。

 

 シャッフル再生で流れてきたのは何年か前のロックミュージック。

 ロックは良い。ともすれば後ろ向きになりがちな自分の思考を吹き飛ばしてくれる。

 

 家を出るまでの少しの時間、司綺は音楽に溺れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は実技入試直後に遡る。

 

「実技総合成績出ました!」

 

 投影された実技試験の成績に雄英の教師陣は沸き立った。

 

 (ヴィラン)P(ポイント)のみで総合1位をもぎ取った爆豪勝己。

 

 反対に救助(レスキュー)P(ポイント)だけで7位に食い込んだ緑谷出久。

 

 教師たちは映像と合わせて思い思いにコメントをしているが、話題の中心は主にこの2人の受験者だった。

 

 だが、もう1人、悪い意味(・・・・)で注目を集めている受験者がいた。

 

 風見司綺。

 

 (ヴィラン)P(ポイント)は35P。救助(レスキュー)P(ポイント)は40P。総合成績は1位の爆豪と2P差の2位である。

 

 結果だけを見れば非常に優秀である。冷静に状況を判断して危なげなく仮想(ヴィラン)を倒し続け、かつピンチに陥った他の受験者も救ってみせた。そして、0Pと伝えていた巨大(ヴィラン)にも躊躇なく立ち向かった。「なんとかしなくちゃいけないだろ!」という司綺の言葉は多くの教師に好印象だった。

 

 実際、両P(ポイント)とも高得点を修めており、1位であるものの(ヴィラン)P(ポイント)に極端に偏っていた爆豪よりも高く評価している教師もいるくらいである。

 

「最後のあれ、いったい何をどうやったんだ」

 

 だが、問題は試験終了間際の司綺の行動にあった。

 

 巨大仮想(ヴィラン)を引き付けることで、周囲への被害が広がらないるように跳び回っていた司綺。教師陣は試験終了までの時間稼ぎを行うつもりなのだろうと思って映像を見ていた。

 

 しかし、試験終了まで残り約1分となったところで、司綺は巨大(ヴィラン)との距離を一気に詰めると、手持ちのナイフで巨大(ヴィラン)キャタピラ()切断(・・)したのである。

 

 それまでの動きから司綺の"個性"が空中で跳躍するといった類のものだと想像していた教師陣は、その事象に困惑していた。

 

「ナイフにあの切れ味は無理だろ……」

 

「複合型の"個性"ってことじゃないの?」

 

「いや、それにしてはあまりにかけ離れた能力だ」

 

「直前にわざわざメガネを外したのも気になるけど……」

 

 ああでもない、こうでもないとにわかに盛り上がる教師陣。相澤はどこか冷めたようにため息をつきつつも、繰り返される映像をじっと見つめていた。

 

 

「"個性"が2つあるとか?」

 

 

 ある1人の教師が何の気なしに放った一言。その一言に1人のヒーローの顔色を変わった。

 

「複数の"個性"……だと……!?」

 

 新しく赴任することとなった不動のNo.1ヒーロー、オールマイトである。

 

「もし複数の"個性"を持っているのだとしたらそれは……!!」

 

 "個性"が1人1つであることは説明するまでもない常識。両親の"個性"双方の影響を受けて複合的な能力となることはあっても、あくまで"個性"としては1つである。

 

 しかし、オールマイトは"個性(・・)"を複数持ち合わせる(・・・・・・・・・)という事態を実現(・・・・・・・・)できる存在(・・・・・)を知っていた。

 

 オールマイトの深刻な声色に、事情を知る者たちはハッとした表情になる。

 

「もしそんなことがあるのだとしたら……!!」

 

「今の段階では全て憶測にすぎないのさ」

 

 核心を口にしようとしたであろうオールマイトに待ったをかけたのは校長だった。その声色はその場に似つかわしくないほど穏やかなものだった。

 

「今わかっているのは彼が高い素質を持っているということだけ。能力の謎なんていうのは入学してもらえればいずれわかる話なのさ」

 

「しかし! もし彼の能力が後天的に与えられたもの(・・・・・・・・・・・)だとしたら、()と繋がっている可能性が」

 

「オールマイト!!」

 

 なおも強い懸念を示すオールマイトだが、校長は最後まで言わせることなくそれを制止する。

 

「君の懸念はわかるけれど、まったく不確実な理由で受験生を排除するなんてこと、学校として絶対にやってはいけないことサ」

 

 先ほどより強い語気に、オールマイトは何も言えなくなる。

 

「それに、万が一君の懸念の通りだとするなら、なおさら放っておくわけにはいかないだろ?」

 

 仮に不合格にした場合、雄英がその後の司綺の動向を追うことは基本的にできない。しかし、生徒という形で迎えれば仮に重大な問題が起こったとしても教師(プロヒーロー)たちがすぐに対処可能である。

 

「もちろん、それが理由で合格させるなんてかとはあってはならないけど、現に彼は入試の中でヒーローとして相応しい行動を示した。今僕らが見るべきなのは、今見えている彼の姿とは思わないかい?」

 

 穏やかに戻った声色で校長は諭すように続ける。

 オールマイトはそれを聞くと再びモニターに目を向けた。そこには他の受験者を迷わず助ける司綺の姿が映っている。

 しばしの間、それを見つめた後、オールマイトはゆっくりと目を閉じた。

 

「わかりました……」

 

 校長はその様子に満足げに頷くと、今度はここまで一言も発していなかった相澤に目を向けた。

 

「相澤先生、彼のことは君に任せようと思うのさ。君が見て、君が判断してくれるかい?」

 

 相澤は校長に目を視線を向けると、小さくため息をついた。

 

「特別扱いするつもりはありませんよ」

 

「もちろん! 彼は立派な合格者。いつも通り他の生徒と分け隔てなく見てくれれば問題ないのさ」

 

 相澤の返事を承諾と受け取った校長は再びオールマイトに向き直った。

 

「合格者へのメッセージは君に任せる予定だったね。彼にもきちんと伝えられるかい?」

 

 念を押すようなその言葉に、オールマイトは一呼吸の間の後、意を決したように力強く頷いた。

 

「はい。おっしゃる通り彼の見せた行動は素晴らしいもの、それは間違いありません。雄英の教師として、彼を快く迎えましょう」




 入学初日終了までで1話としようと思っていたのですが、予想よりかなり膨らんでしまったので分けました。後編は明日には上げたいと思います。
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