無作為選出対象者無視法の対象となった者は24時間監視される。それは外出中だけでなく、家の中にも及ぶ。監視カメラが設置されるのである。
その映像を当時見ていた監視役の方々は後にこう語る。
「『ブルータス、お前もか』」ってきっとこんな感じ」
「カエルの親はカエルでした」
「悟空がスーパーサイヤなるって兄貴にビデオ見る前にバラされた時よりはマシ」
「それ言うとシュタゲアニメ見る言ったら全バレしてきた友人がいる」
ネタバレ野郎達が痛い目を見ることを願いつつ、話を戻そう。蛇泥理苑の家に設置された監視カメラからは、彼女の家での様子が流れてくる。
ごく普通に食事をとる、彼女の姿が!
別に違反はしていない。鍋や大皿からおかずを自身の皿によそい食べているだけである。家族の誰かと話しているわけでは無い。
でも!違うのである!!
違うのである!!
大切なことの為2回言いました。
無作為選出対象者無視法で監視カメラを設置、家族にも無視をさせる。
それによりもたらされるのは、悲痛な思いをする家族、及び更なる絶望感を味わう対象者のはずであった。
例えば食卓に皿が並ぶ中、自分の分だけない、みたいな。一人だけカップラーメン、みたいな。
しかしそこにいたのは動揺らしい動揺をしてくれない普通に日常生活を送る家族で会った。
確かに会話はしていない。会話はしていないのだが、同じご飯食べて一緒にテレビ見てギャグで爆笑する姿は違うのである!違うのである!
本人が何かダメなのは分かっていたが、父母妹揃ってダメだった。
鷹が鳶を産んだのではない。最初からハシビロウコウ族だったのだ。
数日間、無視対象者の報道をマスコミは許される。これは周知の為である。
ただしよく法令を読み返すと分かる。「周知の為の報道」が許されるのではない。「報道」が許され、その許可理由が「周知の為」なのである。
これがどういう効果を持つことになるかを国民は知ることになる。
開始3日目。彼女はそこに現れた。
「こんにちは皆さん。無作為選出対象者無視法の対象、蛇泥理苑です」
いつもと変わらぬ朝の放送局現場に、蛇泥理苑はいた。カメラは当然彼女の姿をとらえ、全国に彼女の姿を映し出す。
蛇泥理苑を無視するのが法による取り決めである。彼女を故意に移すことは出来ない。逆に言えば、彼女が映っているからと切り替えることも許されないのである。この時番組はニュース報道を終え、出演者たちによる討論を開始する所であった。その為、スタジオを映し続ける必要がある。
尚、この時理苑は片手にスマホを持ち時折チェックしていた。後に分かるのだが、テレビの放送を見てどのカメラの所へ行けば良いかを見ていたそうである。便利な世の中になったものである。技術進歩の賜物である。科学の力って凄い。
「ここにお邪魔しているので、警備員の皆さん責めたらダメですよ。何しろ私を『無視』しないといけないんですから」
普通ならば早くも心がズタズタになっているはずの3日目であったが、理苑は見事な笑顔だった。彼女はその笑顔で話しを続ける。
「さて、皆さんはこの法律、どう思っていますか?」
この時、出演者の何人かは気が付いていた。スタジオにいつもより人がいることに。カメラや音声が多いことに。
「私は反対ですね。自分が対象だからじゃないですよ。対象となる前から、これに関する話聞く度に嫌だなあ、って思っていました。理由は単純ですよ。本当に意味あるか怪しいじゃないですか」
空気が、変わる。
「グラフ検索してみました。確かに10代中心にいじめ関連での自殺者は減ったようになってます。でも言うじゃないですか。嘘には3種類ある。嘘、まっかな嘘、そして統計って。皆さん、不登校の理由って調べたことありますか?政府さん調べの理由とされてるの見るとってほとんどが気力とか生活リズムだのとかいった本人の問題みたいに言われてるんですよね。信じられます?学校側が認めなかったらきっと糞みたいな教員が原因でも、皆からのいじめとかがあったとしても、別の理由に出来ちゃうのかなあって勝手に思っています。さて皆さん、せっせとデータは開示されてますからね。いじめ関連での自殺者は減りました。さて、じゃあ自殺者数全体はどうでしょうか。確認しましたか?」
是非見て、確認してください。その言葉を最後に彼女はスタジオを去っていく。
静まり返ったスタジオで、誰かが言った。
「もう、次のコーナーの時間でしたよね」
そして誰かが答えた。
「そりゃあ視聴率考えたらねえ」
この時何故か、靴音が響くのを視聴者は聞いている。何でもマイク関係でミスがあったらしい。ミス、である。
誰も罪をおかしてはいない。「無視」対象である理苑が不法侵入その他を行っていた事を除けば。
人選、どう考えても間違えた。監視組はそろって頭をかかえたけれど、後悔は先に立ってくれない。