あ、開始ですか。承知しました。
じゃあ初めにこのような形で語る場所を用意して頂き、ありがとうございます。ボク……私の話すこちらを聞いてくださっている皆様も、ありがとうございます。後、蛇泥理苑さんにもこの場を借りてお礼申し上げます。
まず最初に述べておきますと、私は無作為選出対象者無視法には反対の立場です。でしたと言った方が良いかもしれません。ですのでこの度廃止となったことには、喜んでいます。ですから、先ほども述べたように、蛇泥さんには本当に感謝しています。
大きな働きをしてくれた彼女ですが、先日ある番組に出演していたのを見ました。法の対象者として見せていた時の印象とは大分違っていて、穏やかで。本人も語られていましたが、演技の面もかなりあったようです。蛇泥さんの家では対象となるよりずっと前から、もし自分達が対象になったらどうするかというのを話し合わされていたようです。家族間だけでなく、ご友人の場合も含めて。家としては以前よりこの法に対して考えるものがあったようでした。
蛇泥さんの家庭はそうでした。ただ……。失礼を承知でお聞きします。
皆さんの家では、どうでしたか。「反対」でしたか。
騒動が起きて、皆揃ってこんな法律良くない、変えるべきと言われています。廃止になってからはさらに。これに私としては、疑問を抱いてしまうのです。正直、当事者となるまでは私の家は無関心が近かったので。
そろそろ自己紹介をさせて頂きます。私は無作為選出対象者無視法の直接的な関係者ではありません。家族や友人が、対象者となった訳ではありません。どう関わることになったかと言いますと……、
父が、対象の方を死なせました。
もう少し詳しく説明すると交通事故でした。車を運転していて、交差点を渡ろうとしたとき、信号無視のバイクが猛スピードで突っ込んで来たので、それを避けようとして一人の方を撥ねる事になってしまいました。バイクはそのまま立ち去りました。
慌てて車を止めて、自分がしたことを確認して。その時はまだ、生きていたそうです。呼吸も鼓動も、目視でですが確認したと言っています。救急車を呼ぼうとして、通行人の方に止められました。そしてその時、無作為選出対象者無視法の対象者であることに気づきました。
そのままその場を立ち去ることは出来なかったみたいです。「事故」は起こしたからと警察に連絡して、そのまま死んでいく姿を見ていたようです。
遺族の方は、父を責めませんでした。むしろ慰めてくれました。
死亡すれば無視の対象者ではなくなります。罵られるのを覚悟で、父と母が葬儀へ訪れたら、迎えて、花を手向けることを許してくれました。あの子は優しいから、決してあなたを責めていないと言葉をかけてくださったそうです。
お互い思うものがあるからでしょうか。その後も度々連絡し、お話することがありました。その中で聞いたのです。彼女がいじめられていたことと。そのいじめをした人が、葬儀の場に来て泣いていたと。
娘さん、あ、対象にされたのが娘さんだったんですが、娘さんは部活をされていたそうです。応援に行かれたりしていた為、ご両親もともに部活をする友人や先輩のことをある程度はしっていました。なので葬儀に訪れた時も、そこで泣いてくれたことにも何の疑問も抱かなかったといいます。たた遺品整理の際に、日記を見ると、そこに書いてあったそうなんです。法で無視が命じられたのをいいことに、皆がいじめてくると。
何をすればいいのか分からなくて学校に行ったり、部室に行ったりしたけれど、無視だけじゃないと。明らかに故意にぶつかってきたり、ころばされたり。名前を言ってはいけないので、対象者はぼかされているけれど、陰口も言われたり。
抗議した所で、無視されて終わり。助けを求めたくても、誰も助けてくれない。どうしようもない。
あの子を追い詰めた人が、泣いていた。そう話されるお母さんは、本当につらそうでした。怒りも悲しみも無くて、ただただやるせない様子でした。
事故がきっかけで、私の父は鬱となりました。かなりマシにはなりましたが、まだ完全には治っていません。
改めて聞きます。この法律に、無作為選出対象者無視法に皆さんは本当に反対でしたか。
覚えてます。テレビでは、ネットでは、普段する会話では批判なんて全然ありませんでした。普通に暮らす中で、対象者が近くにくるまでは話題にすること自体ありませんでした。対象とされた方の自殺や事故、もしくは新しく対象とされた方の報道でコメンテーターが何かを述べる程度でした。それも、法律ではなく対象や周りの人を責める口調で。
調べる限りでは、最初に法律が決まった時も反対の声があがる中押し切ったのではなく、かなりの賛成で決定したようでした。それが今は皆で、反対を叫んでいる。
正直、怖いです。法律が変わり、喜んでいいはずなのに、今私は心配をしています。今していることが悪法やそれを決めた政治家への「抗議」でなく、単なるいじめになってきている気がするのです。
正直言って、無作為選出対象者無視法は国が主導するいじめだったと思います。国がこの人をいじめようと言い、それに皆がのる。そういういじめです。今はそれが単純に政府に向いているだけです。
法律という後ろ盾があると、罪悪感は薄れます。勝手な考えですが、いじめっていい訳を伴う面があります。皆で言いがかりレベルの理由をつけて、正当化するんです。
無作為選出対象者無視法は法律だからと言えます。そして今回は、悪法の、それを作った政治家への抗議と大義名分が言えます。
いじめも嫌なのですが、さらなる心配があります。政府関係者の、さらに言うと元総理の自殺です。もしあの人が自殺をすれば、皆さんまた掌を返すのではないかと思うのです。こんな法律を作ったけれど、国の為を思って行動した良い人だった。こんな業績をあげた人だった等と言って。
そして多分マスコミがネットを、ネットがマスコミを犯人だと騒ぎ立てたりして……やがて忘れていく。それを私は恐れています。
正直、責任はとってもらいたいと思っています。けれど追い詰めたいのではありません。悪口を言いたいのではありません。私自身も含めて、皆で何が悪かったのかを議論して次に進めていきたいのです。
もう一度、聞きます。
あなたは、いじめっ子になっていませんか。