夢原のぞみがロジャー海賊団に出会って色々頑張る話   作:スクランブルエッグ 旧名 卵豆腐

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難産です。毎回。
妄想シリーズ第3弾。


ビッグ・マム

のぞみが、この世界に来てから半年が経った。

見習い海賊としての生活にも慣れ、バギーやシャンクス達と馬鹿騒ぎしてレイリーにドヤされたりしながらも、のぞみは懸命に日々を生き抜いていた。

 

さて、そんなある日の事。

ロジャー海賊団は『新世界』のとある島の沖合いにやって来ていた。

 

 

 

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくる。行くぞ、相棒!」

 

「そう急かすな。じゃあ、船は任せたぞ」

 

 

 

 

そう言い残し、2人で小舟に乗り込むと遠くに見える島へ向かうロジャーとレイリー。

彼等の向かう先にあるのは、海賊『ビッグ・マム』が支配する『万国(トットランド)』。

その本拠地であるホールケーキアイランドだ。

遠ざかっていく2人を他の船員達と共に見送っていたのぞみは、今更ながら2人が何をしにいくのか気になり、近くにいるシャンクスに問い掛けた。

 

 

「ねぇ、シャンクス。ロジャー船長とレイリーさん、2人で何しに行くか知ってる?」

 

「さあ…俺も詳しく知らないけど、『最後の島』に行く為に必要な何かの一つが彼処にあるんだってさ」

 

「で、でもよぉ…彼処って『ビッグ・マム』が居る島なんだろ?絶対ヤベェぞ。2人とも早く帰って来てくんねェかな」

 

 

不安そうな表情を浮かべながら呟くバギー。

シャンクスもまた、珍しく真剣な顔つきでロジャーとレイリーが向かった方向を見つめる。

波は気味が悪い程、穏やかで落ち着いている。

嵐の前の静けさと言える空気感に、ロジャー海賊団の船員達は気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロジャーとレイリーが船を離れて数時間が経った頃。

見張り台にいた船員の1人が、何かを見つけたのか大声で叫ぶ。

 

 

「ロジャー船長とレイリーさんだ!2人が戻って来たぞ………っ⁉︎」

 

 

しかし、船員は2人以外にも何かを見つけたのか声を詰まらせ目を見開く。

 

 

「ロジャー!あれ程言ったのに、何だってお前は騒ぎを起こすんだ⁉︎」

 

「わはははは!まあ、見つかっちまったもんは仕方ねェだろ?オーロはすぐそこだ!手を動かせ、相棒!」

 

「全く、お前と言う奴は………!」

 

 

何やら、言い合いながら目にも留まらぬ速さで小舟を漕ぐ2人。

そんな2人に背後から追いすがるのは。

 

 

 

「ハ〜ハハハママママ…!待ちやがれ、ロジャー‼︎歴史の本文(ポーネグリフ)の写しを渡しなァ〜〜〜〜‼︎」

 

 

「ヤベェ、リンリンの奴もう追いついて来やがった!」

 

「口より手を動かせ、ロジャー!」

 

 

 

小山と見紛う程の巨体。

雷鳴轟く雲に乗り、太陽を引き連れる生まれついてのモンスター。

 

 

 

 

 

 

 

ビッグ・マム海賊団船長兼『万国(トットランド)』女王

 

 

『ビッグ・マム』

 

シャーロット・リンリン

 

 

33億8800万ベリー

 

 

 

 

 

 

 

「ビッグ・マムだ‼︎ロジャー船長とレイリーさん、一番とんでもないのを連れて戻って来たぞ!総員、戦闘に備えろ!」

 

 

見張りの船員が叫ぶと同時に、全員が慌ただしく動き始める。

てんやわんやの大騒ぎの中、のぞみはビッグ・マムの規格外の大きさに圧倒されていた。

 

 

「嘘でしょ…あの人、大きすぎない⁉︎何食べたらあんなになるの⁉︎」

 

「呑気な事言ってる場合かァ!こいつは派手にやべェぞ!」

 

 

思わず口をついて出たのぞみの感想にバギーは呆れながらもツッコミを入れる。

故に2人は気付かない。

自分達を見つめていたリンリンの視線に。

 

 

「ママママ…!ロジャーの所のガキ共か…良い事を思い付いたよ!」

 

 

海賊らしい凶悪な笑みを浮かべたリンリンが、ドン!とその巨体に似つかわしくない驚異的な跳躍をして見せる。

向かう先はただ一つ。

オーロ・ジャクソン号だ。

 

 

 

 

「っ⁉︎皆、逃げろ!ビッグ・マムが…降って来るぞォ〜〜〜〜‼︎」

 

 

 

 

船員の誰かの叫び声に、僅かに遅れながら怪物が地響きを立ててオーロ・ジャクソン号に着地。

衝撃で船が激しく揺れ動き、バランスを崩して尻餅をついたのぞみが見上げた先には、頭上の帽子を剣へと変化させ狂気の笑みを浮かべるビッグ・マムが佇んでいた。

 

 

「マ〜ハハハハ!丁度良い、お前を使わせて貰うよ!」

 

 

他の船員には目もくれず、のぞみを見下ろすリンリンがその巨大な手を伸ばす。

すると、1人の影がリンリンとのぞみの間に割り込んだ。

 

 

「カハハハハ!こいつは運が良い…!ビッグ・マムと殺り合えるなんてな!」

 

 

2人の間に乱入する形で参戦した男…ダグラス・バレットは、歓喜しながら武装硬化させた拳をリンリン目掛けて振るう。

だがしかし、そこはビッグ・マム。

乱入したバレットに動揺する事もなく、即座に腕を武装硬化させると同じように拳を突き出した。

バレットとリンリンの拳が衝突し、衝撃波がオーロ・ジャクソン号を揺らす。

 

 

「ママママ…!〝鬼の跡目〟か!お前の噂は知ってるよ…!だけど、おれはてめェに用はねェんだ!ゼウス!」

 

『は〜いママ!』

 

 

ゼウスと呼ばれた雷雲が紫電を帯び、何かが弾けるような音が響きだす。

 

 

 

威鼓(インドラ)‼︎」

 

 

「ぐっ………⁉︎お…おお!まだだァ!」

 

「終わりだよォ!マーマ急襲(レイド)‼︎」

 

「うぐ………っ⁉︎この、糞…ババアが…!」

 

 

 

裁きの雷ととも形容出来そうな雷がバレットの身体を撃ち抜き、その威力に彼の体勢が大きく崩れる。

その隙を逃さないとばかりに太陽を纏わせた剣の一振り。

寸前でバレットは全身を覇気で武装硬化するも、流石に無傷で済む訳がなく、血を撒き散らしながら甲板に倒れ込んでしまう。

 

 

「ハ〜ハハハママママ!少しはやるかと期待してたが、所詮はガキだね。さあ、次はお前さ!」

 

 

のぞみの方へ視線を向けたリンリンの目が、獲物を捕らえる肉食獣のように細められる。

本能的な恐怖感を感じたのぞみは、慌てて逃げようとするも伸びてきた巨大な腕に掴まれてしまった。

 

 

「嫌!やめて、離して!」

 

「ハ〜ハハハ!捕まえたよ!」

 

 

のぞみをその手に捕らえたビッグ・マムが高らかに笑う。

歴史の本文(ポーネグリフ)の写しを取り返すには、ロジャーやレイリーを相手取るよりも未熟な子供の船員を人質に取る方が事が早いと踏んだ上での凶行。

 

 

「リンリン…てめェ………!」

 

 

「ママママ!この娘を無事に返して欲しけりゃ、歴史の本文(ポーネグリフ)の写しを寄越しな!でなきゃ、こいつの命はないよ!」

 

 

ロジャーの手に握られている歴史の本文(ポーネグリフ)の写し紙を指しながら言い放つリンリン。

仲間を人質にされたロジャーは怒りの表情でリンリンを睨み付けるが、のぞみを人質に取った事で優位に立つリンリンは余裕の色を滲ませる。

 

 

 

「痛い…!離してよ!」

 

「あァ〜⁉︎うるさいガキだね。安心しなよ、歴史の本文(ポーネグリフ)の写しを取り戻したら、お前を含めたこの船の奴等は皆殺しにして、ロジャーの野郎も寿命を抜いてやるからよォ!」

 

 

 

酷薄な笑みを浮かべ、どの道殺すと告げるリンリン。

その言葉を聞かされたのぞみは、痛みに呻きながらも、意志の強い瞳を向けて言い放った。

 

 

 

「ロジャー船長は、アンタなんかに負けない!」

 

「ハァ?」

 

歴史の本文(ポーネグリフ)って言うのが何かは知らないけど…!取られて困るなら、海賊らしく奪い返せばいいじゃない!でも、アンタはそうしなかった!それって、ロジャー船長から力強くで取り返す自信が無いからでしょ⁉︎」

 

 

のぞみの放った言葉に、リンリンの顔が瞬く間に怒りの形相で歪んでいく。

並の者ならば気を失いかねない剣幕に、のぞみは真っ向から目を逸らさずに睨み付ける。

 

 

「てめェ…!おれがロジャーにビビってるとでも言うつもりかい⁉︎ガキが一丁前に海賊語りやがって…!」

 

「そのガキを人質にしないと何も出来ないのは誰⁉︎アンタなんか、ロジャー船長に勝てる訳ない!ロジャー船長はアンタより、ずっとずーっと!強い海賊なんだから!」

 

 

のぞみから、ロジャーの方が格上だと言われたリンリン。

最早怒りを通り越し、その顔は狂気的な笑みに変わっていく。

 

 

「ハ〜ハハハママママ…!どうやら本気で死にたいようだね!望み通り、そうしてやるよ!」

 

 

そう言うと、リンリンは宙にいるゼウスに手を入れ雷を纏わり付かせた。

のぞみは必死で掴まれている腕から逃げ出そうとするが、フィジカルの怪物であるリンリンの力にかなう訳もない。

 

 

 

雷霆(ライテイ)‼︎」

 

 

 

抗いようのない『死』が迫るのを肌で感じる。

その瞬間、今までの人生の記憶が走馬灯となって彼女の頭の中を駆け巡り、もう駄目だと思ったその時だった。

 

 

 

「っ⁉︎」

 

 

 

振り下ろされたリンリンの手が、のぞみに当たるギリギリの所で止められる。

そして、そんな事が出来る人物は1人しかいない。

 

 

 

 

 

「ロジャー…船長!」

 

 

「悪ィな、遅くなった」

 

 

 

 

リンリンの拳を、剣で受け止めながらニッ!と不敵な笑みを浮かべるロジャー。

 

 

「おい、リンリン。俺の仲間に手ェ出してんじゃねェよ‼︎」

 

 

「ぐっ………⁉︎ロジャー…てめェ‼︎」

 

 

仲間であるバレットやのぞみに手を出された事に烈火の如く怒るロジャーの右ストレートがリンリンの鳩尾を穿つ。

覇気を纏った強力な一撃に、さしものリンリンも痛みに呻くと、のぞみを掴んでいた手を離して後退した。

 

 

 

「舐めんじゃねェぞォ‼︎おれは〝ビッグ・マム〟だ‼︎」

 

 

「お前を相手に舐めやしねェよ‼︎だがな、俺の仲間に手ェ出した分は落とし前つけてけ‼︎」

 

 

 

リンリンの振う剣〝ナポレオン〟とロジャーの愛刀〝エース〟。

双方の刃が、互いに触れ合う事なく交差する。

 

 

「何あれ…触れてない(・・・・・)………⁉︎」

 

 

触れていないにも関わらず、衝撃波が周囲を巻き込み雲が散り散りになって消えていく。

これが、この世の頂点に君臨する者同士の戦い。

のぞみは呆然としながら、ロジャーとリンリンの鍔迫り合いに見入っていた。

 

 

「のぞみ!何ボーっとしてんだ、離れるぞ!ここにいたら船長の邪魔になる!」

 

「う、うん!」

 

 

駆け寄って来たシャンクスに声を掛けられ、我に返ったのぞみは戦いの光景を目にしながら多少なりとも安全な船の後方へと向かう。

 

 

「ハ〜ハハハ…!面倒だ、こうなりゃ一気にカタをつけるよ!」

 

 

このままでは拉致が開かないと判断したリンリンは、鍔迫り合いを終わらせゼウスに飛び乗ると、オーロ・ジャクソン号から距離を取った。

 

 

 

 

 

「喰らえよ…エルバフの槍………‼︎」

 

 

 

 

 

リンリンの豪腕に、これまで以上の力が宿り空間がギシギシと軋む。

とんでも無く恐ろしい何かが来る予感を、誰もが感じ取った。

それはロジャーとレイリーも同様であったが、2人に焦りや恐れはない。

 

 

 

 

「合わせろ!相棒!」

 

「ああ、任せろ…!」

 

 

 

 

互いに笑い合いながら、剣を構えてリンリンを見据える2人。

リンリンとロジャー・レイリーが技を放つのは同時だった。

 

 

 

 

 

「〝威国(いこく)〟‼︎」

 

 

 

 

 

 

「「〝神威(カムイ)〟‼︎」」

 

 

 

 

 

頂点だけが扱える絶技が衝突し、リンリンの威国が競り合うも、やがて真正面から打ち砕かれる。

 

 

 

 

「あばよ、リンリン‼︎」

 

 

 

「ふざけんなァ‼︎ロジャーァァァァァァァァ‼︎」

 

 

『ママ〜〜〜〜⁉︎』

 

 

迫りくる〝神威〟をマトモに喰らったリンリンは怒りの断末魔を挙げながら空の彼方へと消えていく。

リンリンのホーミーズであるゼウスとプロメテウスも同様だ。

 

 

「随分飛んだな。死んではいないだろうが、あれなら追って来る事は出来んだろう。今の内にこの海域を離れるぞ。出航の合図をしてくれ、ロジャー」

 

 

「わっはっはっは!よし、野郎ども!出航だァ‼︎」

 

 

ビッグ・マムという脅威を撃退し、次なる目的地へ向けて出発するロジャー海賊団。

皆が沸き立つその中で、のぞみは…何かを決意したかのような顔で海原を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの後。

のぞみは、船医であるクロッカスに呼び出されていた。

 

 

「全く無茶をする。あのビッグ・マムにあれだけの事を言って、アザが出来る程度で済んだのは幸運だな」

 

「あはは………ごめんなさい」

 

 

のぞみがビッグ・マムに掴まれた時に負った怪我の手当てをするクロッカス。

その顔には若干の呆れが浮かんでいる。

 

 

「まあ、この程度なら直ぐに治るだろう。バレットの怪我も大した事は無かったしな。武装色を纏うのが遅ければ危なかったかも知れんが…」

 

 

クロッカスがそう言って、視線を別の方向へと向けると、その視線の先には不服そうな顔で包帯を巻かれているバレットの姿があった。

 

 

「チッ………!こんな怪我くれェ大した事ねェ」

 

「お前はそう思ってるだろうが、儂も船医だからな。怪我人を黙って放っておく訳にはいかん。それにロジャーがお前さんの手当てをしてくれと頼んで来たんだ」

 

「何だと………⁉︎」

 

 

まさかロジャーが自分を治療するように指示を出しているとは思わなかったのか、彼の名が出た事に反応を示すバレット。

するとその時、部屋のドアが勢いよく開き、件の人物…ロジャーとレイリーが入ってきた。

 

 

「バレット、元気そうじゃねェか!怪我の具合はどうだ?」

 

「ロジャー…!クロッカスから聞いたぞ!余計な事すんじゃねェ!」

 

「ああ、そりゃ悪かったな!でもよ、俺ァ万全のお前と戦り合いてェんだ!生きててこその殺し合いだろ!」

 

「っ………!くだらねェ!いつか必ず後悔させてやる…!」

 

「おう!楽しみにしてるぜバレット!」

 

 

バレットはロジャーに食ってかかるも、ロジャーに上手く言いくるめられて思わず言葉を詰まらせてしまう。

人懐っこいロジャーの笑顔が苦手なのか、バレットは舌打ちをしながら顔を逸らした。

 

 

「のぞみも大した事なくて良かったな!リンリンに真正面からあんだけの事言うなんて度胸あんじゃねェか!」

 

「甘やかすな、ロジャー。一歩間違えば危なかったんだぞ」

 

 

ロジャーはビッグ・マムに啖呵を切ったのぞみを笑いながら褒めるが、レイリーは窘めるように苦言を漏らす。

 

 

「毎回、ロジャーや俺達が守ってやる訳にもいかないからな。せめて自分で自分の身を守るくらいの実力がつくまで、戦闘中は倉庫に篭っていた方がいい」

 

「ま、それに関しちゃ確かに相棒の言う通りだな………よし、決めたぞ!」

 

 

傍らでレイリーの小言を聞いていたロジャーは、名案を思いついたとばかりにバレットとのぞみを見ながら言い放った。

 

 

「バレット!船長命令だ、のぞみを鍛えてやれ!」

 

「ハァ⁉︎」

 

「えぇっ⁉︎」

 

 

予想外のロジャーの言葉に、バレットとのぞみは思わず叫んでしまう。

当然と言えば当然の反応だが、当のロジャーは至極真面目だ。

レイリーやクロッカスは、絶対今思い付いただけだろと思いながら眺めているが、見慣れた光景なので特段突っ込む事はなかった。

 

 

「ふざけんなァ!何で俺がこんな弱ェクソガキを鍛えなきゃいけねェんだ!」

 

 

ロジャーの提案にバレットは不満を隠す事なく怒鳴るも、ロジャーはわはははは!と笑って受け流す。

 

 

「別に断るなら構わねェよ!ただし、その場合はお前との決闘の回数を減らすがな!」

 

「な………!」

 

 

ショックを受けたように硬直するバレット。

暫くして、彼は不満そうな顔色を変える事なくロジャーに問い掛ける。

 

 

「………こいつを鍛えりゃいいんだな?ある程度モノになるまで」

 

「おう!そうだ!」

 

「………やる事やれば、これからもてめェに挑むのはいいんだろ?」

 

「当たり前だろ!で、どうすんだ?」

 

「仕方ねェ………クソ苛つく上に気に入らねェが…!引き受けてやる!ただし、俺のやり方に口出しすんじゃねェぞ!」

 

 

心底本当にマジで嫌そうな顔をしながら、バレットは今にも殺そうといわんとばかりに、ロジャーを睨みつけて渋々のぞみを鍛える事を承諾した。

 

 

「と言う訳だ、のぞみ。後はバレットに色々教えて貰えよ?」

 

「死なないように頑張れ」

 

「これから暫くは薬が入り用になりそうだな」

 

 

そう言って、ロジャー・レイリー・クロッカスはそそくさと部屋の外へと出て行く。

バレットと2人きりにされたのぞみは、恐る恐る彼の方へと向き直る。

 

 

「話は聞いていたよな、クソガキ。明日から訓練開始だ。逃げたりサボったりしたらブチ殺すからな」

 

「に、逃げないもん!そっちこそ、私の事をクソガキとか言わないでよ!大体、アンタだって私と2つくらいしか歳変わらないじゃない!」

 

「ハッ!クソガキはクソガキだろうが。ピーピーギャーギャーうるせェ事この上ねェ。俺はお前みてェな弱ェ奴に構ってる暇なんざねェんだよ…!」

 

 

鬱陶しそうにバレットは呟くと、そっぽを向いて窓の外を眺め始める。

のぞみはのぞみでクソガキ呼ばわりされた事に若干腹を立てながらも、絶対見返してやるとばかりに同じようにそっぽを向いて顔を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

翌日からバレットによる鬼の鍛錬が始まり(後に話を聞いたシャンクスと巻き込まれたバギーも加わる)のぞみは死にそうな目に合いながらも、日々を過ごす事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

tips②『ウタと男爵と狼男』

 

 

 

 

『ウタ!目を覚ませ!やめるんだ!』

 

 

『あ、ああ………!魔王だ!魔王が現れたぞ!』

 

 

 

 

 

 

『これを見ている者は今直ぐこの事を世界に伝えてくれ!あのウタと言う少女の歌は…………世界を滅ぼすっ‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあああああああああっ⁉︎は…⁉︎はっ…ハァ、ハァ………‼︎」

 

 

ガバァッ‼︎とベッドから飛び起きるウタ。

その顔には汗が浮かんでおり、荒い呼吸で辺りを見渡しながらポツリと呟く。

 

 

「ゆ、夢………?」

 

 

心臓がバクバクと波打つのが分かる。

動悸が止まらない。

そうだ、アレは夢だ。

そして、自分があの世界で犯した罪だ。

自分が呼び出してしまったトットムジカが、エレジアを滅ぼした時の。

 

 

ふと、時計に目をやると時刻は夜の2時を少し過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

「ウタさん、大丈夫ですか?何だか気分が優れないようですが」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと早く起きすぎちゃってさ。少し眠いだけ」

 

「明日は初のパリでのライブですからね。体調には気をつけてくださいよ?」

 

「分かってるよ!じゃあ、また後で!」

 

 

結局、あれから二度寝する事は出来ず、スマホをいじりながら朝を迎えたウタ。

何度も欠伸をする姿に、ライブのスタッフから気遣われるも大丈夫と言ってその場を後にした。

 

 

ここは、フランスの首都パリ。

芸術の都である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー…。ここがルーヴル美術館………」

 

 

 

明日に予定されているウタライブ。

今日一日、暇を持て余すウタは、暇潰しがてらルーヴル美術館へと足を運んでいた。

フランスのルーヴル美術館はパリに存在するフランスの国立美術館であり、世界最大級の美術館でも知られている。

意気揚々と中に入り、展示されている絵画や石像を眺めるウタ。

絵画のような美術的な芸術には詳しくはないが、この世界の歴史を知らない彼女でもここに展示されているものは一級品のものばかりであると一目で判断がつく。

 

 

「えーっと何何…『民衆を導く自由の女神』…救世主か」

 

 

ある絵画を目にしたウタは、自嘲しながら溜め息を吐く。

人々から救世主と謳われ、皆の望みを叶える為に新時代を作ろうとした自分を思い出し、思わず笑ってしまう。

エレジアを滅ぼした張本人である自分が救世主な訳がないのに。

あの日の真実を知った頃には何もかも遅く、引き返す事は出来なかった。

悶々とした思いが胸の内にこみ上げる。

 

 

「(なんて、今更どんなに後悔しても遅いんだけどね…)「うわっ ⁉︎」きゃっ⁉︎」

 

 

考え事をしながら歩いていた所為か、目の前から歩いてきた人とぶつかってしまうウタ。

 

 

「ご、ごめん!大丈夫?」

 

「………平気だよ。あんたは?」

 

「私?私は大丈夫。それより、貴方1人で来たの?お父さんとかお母さんは?」

 

 

ウタとぶつかった人物は、10歳くらいの年頃の少年だった。

見た目の割りに無愛想な彼は、そう言ってその場を立ち去ろうとするも、1人で居る事に疑問を感じたウタの問い掛けに面倒くさそうに答える。

 

 

「うるさいな。あんたに関係ないだろ」

 

「もしかして迷子?それならそう言えば良いのに」

 

「だから違うって。男爵の用事が済むまで暇だから彷徨いてただけだよ」

 

「うんうん、分かるよ。本当は親とはぐれて不安なのを、強がって誤魔化したくなる気持ち」

 

「話聞けよ!何なんだよ、あんた!」

 

 

あああーッ!と頭を掻きながら騒ぐ少年の姿に、かつての幼馴染の姿を思い出しながらウタはひとしきり笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「ごめんごめん、冗談だって」

 

 

むすっとした表情を浮かべだままの少年…ルー・ガルーと名乗った彼はジト目でウタを見ながら、諦めたように溜め息を吐いた。

 

 

「………もういいよ。あんたは何でルーヴルに来たのさ?」

 

「ルーヴルに来た理由?まあ、強いていうなら観光かな。って言うか、ここに来てる人って皆そうじゃないの?」

 

 

言外に貴方は違うの?と聞かれているように感じたルー・ガルーは、ややぶっきらぼうに答える。

 

 

「僕は違うよ。さっきも言ったけど、男爵の用事に付き合わされて来ただけだ」

 

「その男爵って人はアンタのお父さん?」

 

「別に。血の繋がりはないし…男爵はそういうのじゃない」

 

「血の繋がりは関係ないと思うけどなぁ。大事なのはアンタがどう思ってるかじゃない?………私もそうだったから」

 

「ウタも?」

 

 

そう言って笑うウタの表情に、僅かに陰が差す。

何かを懐かしむような…しかし後悔と自責の念に囚われているような顔で話す彼女。

 

 

「私も、実の両親の事は何も知らないの。でも、気にした事はなかった。本当の父親のような人(シャンクス)が私には居たし、育ててくれた人達(赤髪海賊団)が私にとっては全てだったからね」

 

「………………」

 

 

ルー・ガルーは、そう言って話すウタを見て、かつての自分を思い出していた。

物心ついた頃には両親と言える人物はおらず、修道院で半ば隔離されるように過ごした日々。

毎日、教会に通っては父親と母親が欲しいと天使や神様に祈りを捧げていた。

そしてある日、偶々聞こえた自分を呼ぶ声に導かれて男爵と出会った。

 

 

『おや、これはこれは。随分小さな訪問者だな』

 

『おじさんが…大天使さま?』

 

『天使じゃないが、俺の方が強くてかっこいいぞ』

 

『そうなの?ねぇ、僕お父さんとお母さんが欲しい!』

 

『なんだそれ、そんなの俺だって持ってねぇよ。なんなら、今から探しに行くか?』

 

『本当⁉︎』

 

 

あれから男爵に半ば拉致されるように連れ出され、フランス各地を転々としたが…本と人伝てでしか知らなかった外の世界は、新鮮で何より楽しかった事を覚えている。

 

 

「ちょっと、どうしたの?黙り込んじゃって」

 

「え?…ああ、何でもない。昔、男爵と出会った時の事を思い出してただけだよ」

 

 

急に静かになった彼を疑問に思ったウタに声を掛けられ、我に返るルー・ガルー。

 

 

「ふふっ、何だかんだ言って男爵って人の事好きなんだね」

 

「何でそうなるんだよ」

 

「だって顔に出てるし。そんなアンタに一つだけアドバイスしてあげる。………お父さんは大切にするんだよ。後悔してからじゃ遅いんだからね」

 

 

ウタの悲しげに揺れる紫の瞳で見つめられながら言われたルー・ガルーは、何かを言おうとして…しかし適当な言葉が出なかったので頷くに留めた。

 

 

 

 

 

 

「探したぞ、ルー・ガルー。ルーヴルは広いから逸れないよう気を付けろと言ったろう」

 

 

 

 

 

 

何とも言えない気まずい空気になっていた2人の雰囲気を裂くように、ルー・ガルーにとって聴き慣れた声が背後から響く。

振り返ると、シルクハットを被り燕尾服に身を包んで佇む男…サラマンダー男爵が半ば呆れたような表情で見下ろしていた。

 

 

「男爵…もう用事ってのは終わったの?」

 

 

「まあな。これでフランスに散っていた私の力の結晶は回収出来た。後は世界中を巡らないといけないが…在り処の見当はついている。それよりも………このお嬢さんは誰だ?」

 

 

サラマンダーが不思議そうな顔でウタを見遣る。

人見知りなルー・ガルーが他人と、それも女性と談笑しているなどという珍しい光景を見たからだろう。

 

 

「おっと…これは失礼。私はサラマンダー男爵。一応だが、この子の…ルー・ガルーの保護者だ。以後よろしく」

 

「あ…私はウタです。よ、よろしく」

 

 

名を名乗り、恭しく頭を下げるサラマンダーにウタも思わず同じような挨拶をしてしまう。

有名人であるウタの事は知っていたのか、その名を聞いたサラマンダーは面白そうに笑った。

 

 

「ほう?君が巷で有名な〝世界の歌姫〟か。迷子のルー・ガルーを探しにきたら随分な大物に出会したものだな」

 

「勝手にどっか行っちゃったのは男爵だろ。僕は迷子になんかなってない」

 

 

サラマンダーに迷子と言われたのが恥ずかしかったのか、ルー・ガルーは顔を赤くしながら声を挙げる。

そんな2人のやり取りを見ていたウタは、茶化すようにルー・ガルーに向かってかつての幼馴染にやっていたのと同じ事をして見せた。

 

 

「出た!負け惜しみぃ〜♪」

 

 

「何だよその手の動き!そもそも僕は迷子じゃないし、負け惜しみでも何でもないだろ!ほら、男爵!終わったんなら早く行くよ!」

 

「ハッハッハ!面白いお嬢さんだ。では…我々はここで失礼させて貰うよ。縁があればまた会えるかも…なんてね」

 

「じゃあまたね、ルー・ガルー!お父さんは大事にしなよー!」

 

「ああもう分かったから!大きな声で叫ぶなよ!………またね、ウタ

 

 

 

手を振りながら叫ぶウタに、ルー・ガルーは小さな声でまたね、と呟き(勿論、男爵には聞こえていた)歩き去っていく。

本来なら交わらなかったであろう彼等の邂逅は、こうして終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………彼女に私の事を父親と言っていたのか?意外だな、お前が他人にあれ程積極的に絡むとは」

 

「僕から話し掛けに言った訳じゃない。向こうが一方的に絡んできただけだよ」

 

「ふむ…そうか。ならばそういう事にしておこう。では行こうか。私の………復讐の為の旅路へ」

 

 

 

 

 

サラマンダー男爵は、そう言って薄く笑う。

 

 

 

「(それにしてもあの娘…心の花が2つもあるとはな。それ自体はどうでもいいが、〝世界の歌姫〟とまで呼ばれている彼女が心の花を枯れさせているとは。とんだ笑い話だ)」

 

 

 

〝砂漠の使徒〟であるサラマンダー男爵にとって、ウタは実に興味深い存在だった。

心の花を2つ持ち、尚且つ枯れさせている彼女をデザトリアンにすればどんな怪物が生まれただろうかと想像する。

 

 

 

 

 

「まあ、私にとってはどうでも良い話だがね」

 

 

 

 

 

虚空に呟かれたサラマンダーの声は、虚しく彼方へ消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

かつての宿主を求め、『古ぼけた楽譜(・・・・・・)』がこの世界に迷い込んでいる事を。

 

 

 

 

 




夢原のぞみ………最近ようやく海賊の生活に慣れて来た。
今話では、ビッグ・マムに人質にされるも気丈に言い返し彼女を怒らせた。
周りの船員達は『挑発すんな!やめろォ!』と内心焦っていたそうだ。
ロジャーからのまさかの提案でバレットに鍛えられる事になり、『雑魚』『チビ』『カス』などなど、毎日ボロクソに言われながら日常を送る事に。
一度耐えかねて『うっさいのよ、クソ筋肉達磨ァ‼︎』と叫んだそうな。
のぞみがキレたのを初めて見た船員達は一瞬驚くも、『あいつも大分海賊に慣れて来たなあ』とか言って笑って見ていた。
 
 
バギー&シャンクス………バレットの楽しい鬼修行に参加する事になったらしい。
バギーは参加する気は全くなかったが、シャンクスに無理矢理巻き込まれた。
泣いていい。
 
 
クロッカス………ロジャー海賊団の船医。
のぞみとバレットの手当てをしていた。
バレットがのぞみ達を鍛えているので、薬を大量に買う事になったらしい。
 
 
ゴール・D・ロジャー………ロジャー海賊団船長にして後の海賊王。
この海で最も自由な男。
今話では、万国にレイリーと潜入して、ロードポーネグリフの写しを奪取した。
因みに潜入がバレた原因は、腹が減ったと言って厨房を漁っていた時にシュトロイゼンと鉢合わせた為。
なんなくシュトロイゼンをぶっ飛ばしたが、それで万国中に潜入がバレた。
 
ビッグ・マムがバレットとのぞみに手を出した事にブチ切れ、レイリーとの合わせ技で彼女を撃退した。
その後、バレットにのぞみを鍛えてやれと船長命令を出した。
因みに、のぞみがバレットにぶち切れた光景を見た時は、ゲラゲラ笑っていたそうだ。
 
 
 
シルバーズ・レイリー………ロジャーの右腕。副船長。
万国に潜入したのは良いが、ロジャーが騒ぎを起こした所為で即バレした。
ビッグ・マムにロジャーとの合わせ技を披露し、見事に撃退した。
バレットにシゴかれているのぞみを見て、もし実力が一定以上つくようなら次の段階を教えてやるくらいは良いかなと思っている。
 
 
 
 
 
ウタ………世界の歌姫。
ライブでパリを訪れていた。
今でも悪夢に悩まされている模様。
ルーヴル美術館を観光していた所、ルー・ガルーと名乗る少年と出会う。
 
サラマンダー男爵曰く、『心の花』が枯れているそうだ。
彼女が救われる日は来るのだろうか?
 
 
 
補足しておくと、ウタの『心の花』はデイジーとヤクモソウ。
 
デイジーの全般的な花言葉は「希望」「平和」「美人」「純潔」
 
ヤクモソウの花言葉は『よき願い』『心は優しい』『現実逃避』『憎悪』
 
 
 
 
ルー・ガルー………ハトプリは映画『花の都でファッションショー…ですか?』の登場人物。
ルー・ガルーは狼男の意味。
後に花咲つぼみにオリヴィエと名前をつけられる。
この映画の主役はプリキュアではなく彼だと言っても過言ではない。
モン・サン・ミッシェルで隔離されるようにして育てられていたようで、ある日偶然サラマンダー男爵の声を聞き、彼と運命的な出会いを果たした。
 
今話では、ウタと出会い父親を大切にしなよと言われた。
何処か悲しげな彼女を見て、思うところはあったようだが、それをどうにかするのは自分じゃないと無意識的に察していた。
 
 
映画後半のサラマンダー男爵とのやり取りは必見。
 
 
 
 
サラマンダー男爵………地球を滅ぼす為に四百年前に襲来した砂漠の使徒と呼ばれる宇宙人。
砂漠の使徒は、あらゆる人が必ず持つ『心の花』を悪用し、デザトリアンという怪物にする力を持っている。
自らの存在意義や在り方に疑問を持ち、基本的に心そのものを否定する砂漠の使徒では異端な人物。
故に砂漠の王の逆鱗に触れ、組織を追放された挙句、プリキュアであるキュアアンジェに境遇を哀れまれながらモン・サン・ミッシェルに封印されていた。
 
ルー・ガルーと出会い、封印から解き放たれた後は自分を受け入れなかった世界そのものを破壊し、砂漠の王に復讐する事を目論む。
 
 
今話ではウタの心の花が枯れているのを見抜き、デザトリアンにすればどんな怪物になるのかと想像していた。
尚、ウタをデザトリアンにした場合はトットムジカに酷似した化け物が降臨してパリはおろか、ヨーロッパが壊滅する騒ぎになっていた模様。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次回は、バレットが船を降りる話とロジャー厨変眉獅子おじさんです。
 
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