ハーメルンは母数がデカいが埋もれるのも早い。精進しなきゃなりませんな。
ある時、惑星アシヨシに隕石が落ちてきた。惑星の存続に関わるというほどでの巨大さはなかったが、それでも地表への衝突時に数百mもの大きさのクレーターが出来る程度には大きかった。
衝突地点はある山の中腹であり、そこに生えていた木々を根こそぎ吹っ飛ばし、さらには山の上部を崩してしまった。隕石は崩壊した山の土砂と岩に埋もれてしまい、さらに崩れた山肌を今では草が覆っており、山も隕石も共に以前の姿を確認することは難しい。
そして隕石落下と相関があるのかは不明だが、この場所はアシヨシでも特に怪獣達やレイオニクス達の活動が激しい場所の一つであった。
とはいえ幸いなことに、隕石落下の際、山一つが崩れるという被害こそあったが、特に怪獣やレイオニクスが巻き込まれたわけではない。いや、被害があろうがなかろうが変わらないであろう。
レイオニクス達のレイブラッド星人の後継者の座を懸けた熾烈な競争は今も続いている。
この惑星アシヨシには無数のレイオニクスが存在するが、その実力のほどはまさに玉石混交という表現そのままである。レイやグランデに匹敵するほどの強豪もいれば、大して強くもない野良怪獣に信頼する相棒が敗れてしまう者もいる。
そうなった落伍者にも、ライバル達は容赦ない。下手に逃げられて敗者復活されては、戦う相手が増えて面倒になるだけだからだ。それ故、レイオニクスバトルにおいては怪獣だけでなく、敗れたレイオニクスもまた無理矢理相棒の後を追わされることが多い。それでもなんとか逃げ果せる者はいるが、怪獣の多数徘徊するこのアシヨシにおいての怪獣を持たぬ落伍者の寿命は短い。
――とある山の中腹の森――
「ハァ…ハァ……」
隕石落下から数週間経った頃。息を切らし、時折ふらつきながらも、そのレイオニクスは崩れた山の中腹の森の中をあてもなく彷徨っていた。
「クソッ……」
犯罪宇宙人 レモジョ星系人(RB)
彼の種族はレモジョ星系人。例えるなら『グロテスクな人型のキノコ』といった見た目をしているのが特徴の宇宙人である。ただし、姿こそ大きく異なってはいるが、肉体内の成分構成自体は地球人と大差なかったりする。
あるマルチバースにおいては、地球に生物兵器を持ち込んだテロリストグループがウルトラ警備隊と交戦するも敗北。持ち込んだ植物獣ボラジョもウルトラセブンを苦戦させるが結局倒されている。
「ボラジョが負けるとは……」
悔しさと、それ以上に“相棒”が殺された悲しみを滲ませながら彼は呟く。
植物獣ボラジョ――かつての同胞と同じように、このレモジョ星系人も母星の生物兵器ボラジョを持ち込み、この惑星アシヨシで繰り広げられているレイオニクスバトルに臨んだ。しかし、ボラジョは直近の戦いに敗れて死亡し、主である彼もまた敵レイオニクスに殺される前に命からがら逃げ延びたのだった。
「クソッ!」
敵の怪獣の吐く溶解液に溶かされながらも最期まで戦おうとした相棒。そんな相棒を見捨て逃げ出した自分。
レイオニクスの中には元から並の怪獣よりも戦闘能力の高い種族が存在し、そういった者達は敵に殺されそうになっても巨大化して抗うことは可能である。だが、残念ながらレモジョ星系人はそういった種族には該当せず、彼も逃げるしか選択肢はなかった。
しかし、彼も躊躇なくそう決断したわけではない。悔しさと悲しさ、そして噴き出す羞恥と焦燥、怒り。相棒の死を脳裏で反芻する度、それはドロドロとした濃さで心の中に湧き上がってくる。
「………こんな所で終わってたまるか!」
迫り来る死の恐怖に対して抗うように叫ぶ。己の抱いた身の程知らずの野望への未練か、それとも勇敢に戦い散っていった相棒の犠牲を無駄にしたくないためか、あるいはその両方か。
「私は、私は!」
必死に走って逃げる中、何度もキノコの怪人は呟く。己を鼓舞するかのようにも、はたまた錯乱しているだけのようにも見える。
「………」
そして、キノコの怪人がみっともなく必死に逃げる様を、“狩人”は愉しんでいた。獲物がこちらに気づかぬよう適度に距離を空け、余裕を持って追いかける。
無論、怪獣を出せばすぐに終わるが、それでは敵の様々な反応を愉しめない。彼はハンターであり、そして獲物を徹底的にいたぶり殺すのを好む陰険で残虐なサディストでもあった。
「フフ……」
極悪ハンター宇宙人 ムザン星人(RB)
かつてウルトラマンティガと戦った、二足歩行の昆虫のような姿をした宇宙人の同種族。ただしこの姿も擬態に過ぎず、巨大化時には四つん這いの体勢となりさらに尾の先端から首が生えているかのような、異形極まる戦闘形態を見せている。
種族そのものが際立って凶悪残忍なことで悪名高い。特に異星人を捕らえては別の土地に放って追跡、殺害する悪趣味なハンティングゲームを彼等は好むことで有名である。
彼もその例に漏れず、戦いに敗れたレイオニクスを獲物として狩りを繰り返しており、その手にかけたレイオニクスは両手では足りない。
「逃げろ逃げろ」
大した身体能力のないレモジョ星系人と違い、ムザン星人は人間大時でも驚異的な跳躍力を持つ。向こうが必死こいて逃げているのに対し、こちらは間合いを詰めるも離すも好きに出来、跳躍力の高さ故にあちらと違って疲労もない。
獲物が森の中を逃げ回りこちらを撒こうと必死だが、生憎見失うことはない。ムザン星人は異星人狩りをする際、獲物に追跡用の装身具を付けさせるのだが、今回はバトルナイザーの出す電波がその代わりとなっている。もっとも、獲物は愚かにも時折声を出して逃げているため、そんなものも必要ないのだが。
「ハァハァ…!」
そんな敵の思惑などつゆ知らず、レモジョ星系人は森の中を逃げ惑う。しかし、そもそも脆弱なことで有名な地球人ともそれほど変わらぬ身体能力ゆえ、段々と疲労の色が見え始めていた。段々とふらつく頻度が増え、足取りも重くなっていく。
「フフッ」
弱りきった獲物を見てそろそろ頃合いかと考え、ムザン星人は大きく跳躍する。
「ッッ!!!!」
そして獲物の行く手を塞ぐ絶妙な位置へ狩人は着地した。
「そんなに疲れてては、もうこれ以上追いかけっこは愉しめなさそうだなァ」
肩で息をするレモジョ星系人に語りかけるムザン星人。昆虫のような面相の種族ゆえ、表情というものはないはずだが、それにもかかわらず何処かニヤニヤといやらしく笑っているように見えた。
「では、そろそろ終わりにしよう」
ムザン星人は腰に帯びていた鞘から高周波振動剣を抜く。刃渡りは70cmほどだが、それが1秒間に数万回の高周波振動により、怪獣の分厚く硬い外殻をも切り裂くほどの恐ろしい切れ味を持つ。当然、レモジョ星系人の柔らかい体など紙切れの如く一瞬で真っ二つに出来るだろう。
それを今から証明するとばかりに、唸る振動剣を振り上げて、ムザン星人がにじり寄る。
「くそっ!」
絶体絶命の状況であるが、レモジョ星系人はまだ諦めていなかった。地面に落ちていた拳大の石を拾い、敵目がけて投げつける。
「ハッ!」
しかし、ムザン星人は嘲笑いながら、即座に剣で切り裂き石を粉砕する。
「往生際が悪いのは嫌いじゃないぜ」
獲物の必死の抵抗も、彼にとっては狩りを面白くするだけの要素でしかない。恐怖で後ずさる獲物へ、狩人は悠然と近づいていく。
「獲物を仕留める際に潔くされるのも案外面白くないからな!!」
「うわああああ!!!!」
やがてムザン星人はキノコの怪人の眼前に迫ったところで、怯える彼は足を滑らせ尻餅をついてしまう。そんな風に獲物が恐怖で勝手に倒れたことに狩人は喜び、再び振動剣を振り上げた。
「うっ、うわああああああ!!!!」
「うおっ!?」
だが、絶体絶命の危機に恐怖した獲物は絶叫しながら左右の手で地面の土を掴み、狩人の顔に投げつける。土が目に入ったことで狩人も視界が潰され、獲物を見失う。
「雑魚野郎ぉぉぉぉ!! 何処行きやがったぁぁぁぁ!!!!」
先ほどまでの余裕は何処へやら、ムザン星人は即座に激昂する。しかし、まだ視力は回復してはいなかった。
「獲物の分際で逃げてんじゃねえぞクソがぁぁぁぁぁぁ!! もう楽には死なせねぇぞ!!!!」
口汚く罵りながら目の周りを何度も拭う。しかし、その間にレモジョ星系人は全力疾走により、既に視認出来ないぐらいに離れていたのである。
「ハァハァハァハァ………」
レモジョ星系人は逃げるのに必死だった。逃げねばあの凶悪な宇宙人に振動剣で八つ裂きにされてしまう。手持ち怪獣どころか武器もない今、身体能力でも特殊能力でも劣る自分には勝ち目はない。
(自衛のためにどうにか怪獣を手に入れなくては)
切羽詰まりかけながらもそう考えるが、今の状況では絶望的である。戦闘能力の高い種族なら怪獣がおらずとも巨大化した自分が戦うことで捕獲出来る者がいるが、先述のようにレモジョ星系人の戦闘能力ではそれも無理だった。
(多少サイズが小さくても、弱くてもいい………………いやダメだ!! それではボラジョの二の舞になる!)
切迫した状況故、この際怪獣の質の多少の低下には目を瞑ろうとしたが、そんなことをすれば結局死した相棒の二の舞いになることに気づき絶望する。
「ギシャアアアアアア」
「!!!!」
走りながら考えを巡らせていたところで、後ろから迫り来る地響きと雄叫び。
(あ…あの声は!)
聞き覚えのあるそれは、先ほど相棒ボラジョを溶かし殺した憎っくき怪獣。
「ギシャアアアアアア」
残酷怪獣 ガモス
かつてウルトラマン80と戦った宇宙怪獣の別個体で、地球に今まで出現した怪獣・宇宙人の中でも屈指の大被害を出したことで知られる。非常に狡猾・悪辣に振る舞う宇宙人並の知性と、生き物を勝手気ままに殺戮することに喜びを覚えるという、野生の生き物らしからぬ異常な残虐性を持つ。
虚ろな目つきに、コブラのような首と頭、背中にはヤマアラシの如く大量の棘を生やしている。口から吐く凄まじく強力な溶解液と、飛び道具として射出出来る背中の棘が武器。
(あいつめ、私が見つからずにしびれを切らしたか!!)
追跡をレイオニクス単独ではなく一旦バトルナイザーに回収していた怪獣まで繰り出したということは、狩りという体をかなぐり捨てて、いよいよ本気で自分を抹殺しに動き出した証明である。
「ギシャアアアア」
「うぅっ!?」
獲物の位置を知ってか知らずか100mもない所まで近づいたところでガモスは頭上を見上げ、そのまま口から溶解液を四方八方に噴射する。
「ギャアアアア!!!!」
「ギィィィィ!!!!」
溶解液は付着次第、何であろうと片っ端から溶かしていく。森の木々はもちろん、地面を溶かして液状にし、さらには岩でさえ蕩けたバターの如く溶かす。しかし1番悲惨なのは生き物にかかった場合だ。森の野生動物達にもかけられた者がおり、それらは断末魔を上げながらあっという間に地面の染みに変えられていく。
(む、むごい!!)
レイオニクスという人種は冷酷非情な者が多く、このキノコの怪人もまたそれを自認している。だが、そんな彼でさえ一瞬驚愕と憤りを覚えたほどに、この溶解液は容赦なく多数の命を奪い去った。
「クソッ! 見境なく撒き散らしおってからに!」
しかし、感傷に浸っている場合ではない。敵は森の木々や地面を溶かして辺り一帯を丸裸にしたところで自分を炙り出し抹殺する心づもりに違いないはずだ。その過程で死ねばそれで良し、死ななければ追いかけて殺すまでである。
しかし不幸中の幸いなことに、バトルナイザーの電波を辿れる主と違ってガモスは目視に頼っている。だからこそ森の木々を根こそぎ溶かしながら迫っているのである。
(だが奴はこちらの位置が分かっていない! 逃げるなら今の内だ!)
そう考えたレモジョ星系人は、自身の変身能力を応用した擬態を早速行なった。レモジョ星系人自体変身能力はそれほど得意ではなく、星人相手には効果が薄いと考えたのもあって使わなかったが、知性が高めとはいえ怪獣相手なら誤魔化しが効く。
「?」
粗方付近の木々や山肌を溶かしまくったが、肝心の敵の姿が見えない。ガモスは辺りを見回すも、自分の溶解液が強力過ぎてかえって敵の痕跡を辿るのを困難にしていた。
(バレないでくれよ…!)
変身能力を応用し、付近の光景に溶け込むように体表の色を変化させる。とはいえ元々変身にそれほど長けていない種族な上に、単なる変身とは勝手が違うため、怪獣が背後にいていつまた攻撃を受けてもおかしくないこともあって極度の緊張を強いられる。
(そっとそっと)
レモジョ星系人はゆっくり、慎重にその場から離れる。本当はまた走って逃げたいが、そうすれば足音を聞きつけられて追いかけられるだろう。所詮人間大の宇宙人と怪獣では歩幅の差は比べようがない。溶解液を使うまでもなく踏み潰されて終わりだ。
「??」
怪獣は周囲の様子を探っているが、敵の姿は一向に見当たらない。先ほどの無差別攻撃で溶かしてしまったのかもしれない。
「!」
そんな風に怪獣が思案している時、溶解液をくらって溶けかけていた山肌の一角が崩れ落ちる。その音に反応したガモスはつい口から光弾を放って山肌に攻撃してしまう。
(ひいい!)
極度の緊張の中、ゆっくり歩を進めるキノコの怪人は気が気ではない。今回は山肌に攻撃したが、次は自分の所に光弾が飛んできても不思議ではないからだ。
(クソッ! ただでさえ緊張するっていうのに、歩ける場所もほとんどない!)
おまけに腹立たしいのは、撒き散らした溶解液で地面がぬかるんでいることだ。しかも溶解液の成分があるから歩けば足が取られるどころか溶ける。そのため、溶解液がかかっていない場所を上手く通りながら逃げなければならない。
「???」
一方、ガモスはまだ敵の姿を見つけられないようで当惑している。ガモスという怪獣は極めて残虐でありながら宇宙人並の知性を持つことで知られているが、レモジョ星系人にはこの個体から少なくともそんな頭の良さは感じられなかった。
「おいガモス! まだ見つからんのか!?」
ガモスの右肩にムザン星人が飛び乗った。さすがにもう目に入った泥は取れたらしいが、未だ獲物を捕まえられない苛立ちは増すばかりだった。
「あんな貧弱野郎1匹探せないとは情けない奴だ!」
「ギュ…」
「オレが指示する! その場所を探せ!」
(ま…まずい!)
ゆっくり慎重に逃げていたキノコの怪人だが、その努力を水泡に帰す事態だった。あの狩人はバトルナイザーの電波を追うことが出来るのである。
「あそこだ!」
「ギャラ!」
主の指差した場所にガモスは早速口からの光弾を放つ。
「うわああ!」
着弾箇所は爆発し、直撃こそ免れたが、衝撃波でレモジョ星系人は山肌まで吹っ飛ぶ。
「ハハッ! そこに居たのかボケがぁ!」
上手く逃げ果せていた獲物がようやく見つかったため、喜色満面のムザン星人。
「ギシャアア!!」
しかし喜ぶのも束の間、相棒は吹っ飛んだ獲物目がけ光弾をまた放つ。
「おい! まだ攻撃していいと言ってないだろ!!」
迂闊に攻撃を繰り返す相棒に怒り、飼い主はガモスの首筋に蹴りを入れる。
「オレが見ていない状態で獲物に死なれても面白くないんだよ!!」
しかし幸いと言うべきなのかは分からないが、光弾の狙いはやや逸れ、キノコの怪人でなく崩れかけた山肌に当たっていた。
「うぅ…」
全身に無視出来ぬダメージを受け、キノコの怪人は山の斜面にうつ伏せで倒れている。
「もう動けなさそうだな。なら、とどめを刺してやるとするか~~♥」
獲物の倒れているのを見て、再び機嫌が良くなる狩人。
「この剣でバラバラに――」
そうしようと思っていた矢先、辺り一帯に地震が起きる。
「チッ! 最近この辺で隕石が落下したせいで地盤が緩んでるのか!」
とどめを刺そうとした矢先に水を差す事態に、また機嫌が悪くなるムザン星人。
「とはいえ地震も一時的なものだろう。さっさと奴にとどめを刺して――うおっ!?」
今度は山の斜面の一部が崩落、裂け目が出来る。ただでさえ弱かった地盤にガモスの溶解液による地面の液状化が重なったせいであろう。
「何だあれは!?」
だが、相棒の不手際を糾弾する前にムザン星人の目に入ったのは、出来た裂け目から明滅する光と、それと同じリズムで脈動する岩の塊であった。
これこそが数ヶ月前に山に衝突した隕石なのだが、ムザン星人にはそのことを知る由もない。
「………」
正体の分からぬ地下の岩塊を、ムザン星人は当然ながら警戒する。倒れている獲物はいつでも始末出来る以上、狩人の関心はもうそちらに移っていた。
「これが何かは分からんが、わざわざこちらから手を出す必要もないか……」
正体が分からぬ物に迂闊に手を出すほど、この狩人は間抜けではなかった。
「ガモス、この岩塊は放っておいていい。少々予想外の出来事が起きはしたが、とどめを刺す方が優先だ」
異常な光景を見たことで、ムザン星人はかえって冷静に判断出来た。この岩塊が何かは非常に気になるが、下手に手を出して不測の事態が起きるのもよろしくない。
だから獲物にとどめを刺すことを優先したわけだが、とどめを刺すという愉しい出来事のはずなのに、ノッていた先ほどに比べればあまり良い気分ではない。
「……いや、そうもいかなそうだな」
忌々しげにそう吐き捨てる狩人。優先順位付けしたところで岩塊の明滅が激しくなり、さらには全体が震え出す。
彼には、いや誰が見てもこの光景は嫌な予感しかしないだろう。
「作戦変更だ! ガモス、あの岩塊に溶解液をぶっかけた後、全力で攻撃をぶちこめ!」
「ギシャアアアアアア!!!!」
ちまちま獲物を探すよりはそういった命令の方が愉しいとばかりに、ガモスは喜びの声を上げた。すぐさま大量の泡を岩塊に噴射したところで、体を前方に傾けて背中の棘ミサイルを連射、とどめに光弾を数発撃ち込む。
「うおぉっ…」
背中を強打して今は動くことが出来ないキノコの怪人はうめき声を上げて見ているしか出来ない。だから怪獣の攻撃の余波で岩だの木片だのが飛んできても、もう自分に当たらぬよう祈ることしか出来なかった。
「フン。これだけぶちこめばさすがに大丈夫だろう」
「ギシャアー!」
主の言葉を相棒が肯定する。
「………ん!?」
しかし、すぐに両者は岩塊が未だ原形を保っていたのに気づく。周辺の地盤や木々などは全てドロドロに溶解しているが、剥き出しになった岩塊は若干表面が溶けて薄くなった程度の変化しかない。
「何!? ガモスの溶解液にも耐えるとは一体…!?」
(好き放題やりおって! クソ~~!)
最強クラスの溶解液を浴びても溶けぬ物体に動揺する狩人と怪獣。一方キノコの怪人は幸いにも二次災害に巻き込まれずどうにか助かったものの、辛うじて残っている大地に身を横たえている有様であり、敵に対する怒りは増すばかりであった。
(だが、これはチャンスだ……奴に反撃する機会は、今この場この時だけ。他にはない!!!!)
だが同時に、あの岩塊の正体が何かは分からないものの、敵に反撃を行う唯一の好機であると感じ取っていた。レモジョ星系人は震える右手で、自分のバトルナイザーを掲げる。
「んん!?」
それに呼応したのか、岩塊は赤い光の明滅が止まると同時に、今度は全体が金色の光に包まれていく。
「け…契約…完了……」
最後の力を振り絞り、岩塊に向けてレイオニクスの力を送り込んだ。すると、レモジョ星系人のバトルナイザーの画面ウィンドウに光が灯る。
「やはり…な……あれは……生き…物………」
レイオニクスがバトルナイザーで使役するものは何か?
「か…怪獣…だった………………」
そう、怪獣だ。
「うおっ、表面が光って――――!」
レモジョ星系人が気を失うのと同時に、岩塊は閃光を放ち爆発する。
「うおぉぉ!?」
「ギシャアー!?」
ガモスは両腕を交差させて防御体勢を取り、ムザン星人も即座にガモスの首の後ろ側に回り込むと棘を掴んでぶら下がる。
降り注ぐ破片の雨が止み、そこに佇んでいたのは異形の生物。鈍い光沢を帯びた灰色の体表に塗り潰されたかの如き赤い目を持ち、一見太古の地球に繁栄していたという恐竜にも似た姿だがより頭が大きく、そして両腕がない。
「ガハハハハハハ……」
宇宙伝説魔獣 メツオーガ
惑星・彗星問わずに貪ると宇宙で言い伝えられる伝説の魔獣。かつて銀河系規模での食害による凄まじい被害を出し、目に付けばビルだろうとウルトラマンだろうと襲いかかり、破壊光線でさえ呑み込んでしまう。
見た目は灰色の体色をした頭でっかちな肉食恐竜だが、両腕が存在しないという奇怪でアンバランスな体型をしている。
「何だこいつは!?」
現れたものを見て驚愕するムザン星人。
「ガハハハハハハ!! ギャハハハハハハ!!」
それは頭部を左右に振るわせながら、人間の笑い声にも似た不気味な咆哮を上げていた。巨大な口には長く鋭い牙が不揃いに並び、まさに獰猛さと狂気、そして凶悪なる食性の持ち主であることを示していた。
「ギ……ギ………」
「お、おいどうした!?」
現れた生物を見た途端、ガモスの体は震えていた。戦意を即座に失った相棒のその姿を見た狩人は狼狽えている。
「ギシャアアアアアア!!!!」
「!? うわああああああ」
ガモスは極めて残虐だが、同時に知性に優れた怪獣である。だからこそ迷わず逃亡することを選んだ。
そう決断したガモスは肩から飼い主が落ちるのも厭わず、すぐさましゃがんで地面を両手で掘り始めた。
「!」
舞い上がる大量の土埃を見て反応した生物。その赤い目が不気味に発光すると、生物を中心に球状の赤いエネルギーフィールドが出現、敵コンビを自分ごと包み込む。
「うおおおおおお何だこれはああああああああ!!??」
狩人は辛うじて着地に成功したが、今度は急に体が重くなって動けなくなり、そのまま地面に叩きつけられる。
「これはまさか重力操作か!!?? ふざけやがってぇぇぇぇ!!!!」
悪態をつくも、ムザン星人は動くことが出来ない。相棒も同じく中途半端に掘削した地面に埋まる形で押さえつけられている。
「ガハハハハハハ」
嘲笑うかのように咆哮を上げた生物はそこで突進、動けないガモスの首に噛みつく。
「ギシャアアアアアア」
そのまま顎の力だけで持ち上げる。しかしガモスもされるがままのつもりは当然なく、口から溶解液を吐きつけて抵抗する。
「嘘だろ!?」
しかし、全く効いていない。灰色の体表にガモスの溶解液がかかっても、雨水の如く滴るだけ。ガモスの溶解液は怪獣の吐く強酸の中でも屈指の威力を持つにもかかわらずだ。
「ギャハハハハハハ」
「……っ!………ッッ」
溶解液噴射も無駄な抵抗に終わり、生物はガモスを頭から丸呑みにしていく。懸命に暴れても生物には通用せず、やがて上半身が呑み込まれたところでガモスは動かなくなった。
「ゲプッ」
背中に生えている棘も物ともせず、やがてガモスの全身はその大口に呑み込まれ、綺麗さっぱり消え去ってしまった。目覚めてすぐの食事を終え、生物は満足気にゲップをする。
「お、おい……仲良くしようぜ。な?」
生物は今度はムザン星人をちらりと見やる。相棒と同じ運命を辿らないためにも狩人は媚びを売るが――
「あ」
そのまま大口を開けながら、生物はハンマーの如く頭を振り下ろす。そして頭を戻した時にはムザン星人の姿は消えていたのだった。
「フフフフ………………ハーッハッハッハッハッハ!!!!」
しばらくして意識を取り戻し、バトルナイザーを確認したレモジョ星系人は哄笑する。この笑いが意味するところが何かは本人にしか分からないだろう。
用語解説
犯罪宇宙人 レモジョ星系人(RB)
レモジョ星系出身のレイオニクス。手持ちは植物獣ボラジョのみで、自身も特に攻撃能力や武器などは持っていなかった。
彼等は人型のキノコのようなエイリアンであるが、グロテスクな見た目(男女で見た目に差がある)に反して体組織の構成自体は地球人とほとんど変わらなかったりする。また変身能力を持っているが、種族としてはそれほど得意ではないようで、一日に十数時間が限度。身体能力も地球人に近いということで、宇宙人の中では貧弱な部類。
レイオニクスである彼は、ライバル達と同じくレイブラッド星人の後継者となるため相棒のボラジョと共にレイオニクスバトルに勤しんでいたが、この度ムザン星人とその手持ちのガモスにボラジョが敗れ、逃げ惑っていた。本人はボラジョを失って後継者レースから脱落状態だったが、それでも諦めておらず逃げつつも勝機を窺っていたが、そこで伝説の魔獣と運命的な出会いを果たす。
宇宙伝説魔獣 メツオーガ
かつて銀河系規模で食害による未曾有の大被害を出した伝説の魔獣。複数の惑星で大被害を出し、残酷怪獣と恐れられるガモスが姿を見た瞬間飼い主を置いて逃げようとするほどの強さを誇る。
時空波に導かれ隕石状態でやって来た。本来この次元の宇宙の存在ではないため、正確な出身地は不明。
恐竜にも似た頭と体型であるが、両腕が存在しないという異形の見た目。しかし、この怪獣の恐ろしいのはそれがハンディにならないほどの異常な食欲と特殊能力の数々にある。
一定範囲を赤い力場で覆い、力場圏内の重力をある程度操作できる能力があり、それを応用し対峙した敵の行動を制御出来る。だがそれ以上に恐ろしいのは惑星を文字通り食い尽くすほどの異常な食欲であり、食べる対象は生物はもちろん岩石や破壊光線にまで及ぶ。惑星や彗星も彼の食料にすぎず、全て食い尽くす捕食行動を銀河系規模で繰り返してきた。
とはいえ食欲に特化した存在であるためか自我や知性自体は薄めで、それがレモジョ星系人が捕獲・使役出来た理由となっている。現状にも特に不満はないようで、敵のレイオニクスや怪獣を捕食出来る環境を提供してくれるためか飼い主には素直に従っている。ただし、飼い主も彼の特性を全て把握しているわけではない。そして、彼に隠された能力もまた知る由もない。
極悪ハンター宇宙人 ムザン星人(RB)
ムザン星のレイオニクス。凶悪残忍なことで悪名高い宇宙人。人型の昆虫のような見た目だが、実は背中側に折りたたまれているキリンやろくろ首の如く長い首を持つ。これにより、巨大化時には四足歩行の獣のような体勢から臀部側からサソリの如く首が伸びるという宇宙人でも屈指の異形の体型。展開時は頭部触角からの怪光線によって不意を突くことが可能。
異種族を対象とした悪趣味なハンティングゲームを好むことで有名。地球にやって来た個体も獲物となる宇宙人を放ったのち殺害したため、怒りに燃えるウルトラマンティガによって倒されている。
レイオニクスであるこの個体もRBからの脱落者を対象に狩りを繰り返しており、既に10人以上をその手にかけている。一方でレイブラッド星人の後継者レース自体にはそこまで熱心ではないようで、レモジョ星系人を獲物にしての狩りはわざわざ怪獣を使わず自分のみでやっている。
追い詰めている間は余裕ぶっているが、反撃されたりすると即座に我を失い激昂するという非常に下衆な性格の持ち主。とはいえ、悪名高い怪獣であるガモスを従えているため、レイオニクスとしての実力は並以上であるとは思われる。だが、絶体絶命の危機に配下の怪獣は即座に自分を置いて逃げようとしたため、両者の間に絆や信頼関係といったものは皆無であった模様。
いつものように落ち武者狩りを行なっていたが、今回の獲物のレモジョ星系人を取り逃がしたのが運の尽き。様々な偶然から敵が伝説の魔獣を誕生させてしまい、怪獣共々即座に喰われて死亡。
残酷怪獣 ガモス
かつて宇宙Gメン・ザッカルやウルトラマン80と死闘を繰り広げた怪獣の別個体で、レモジョ星系人(RB)の相棒のボラジョを溶解液で殺害した。ちなみに80と戦った件の個体は宇宙Gメンに宇宙№2の犯罪者として指名手配されていた。メツオーガに比べれば格落ちするが、それでも凄まじい被害を様々な惑星で出していた極めて残虐な怪獣である。
怪獣でありながらとにかく殺戮を好むという異常性を持ち、同時に宇宙人並の知性を持つ。かつて地球に現れた際は地中を移動しながら姿を隠しつつ、大都市を一夜で焦土に変えながら破壊と殺戮を繰り返した。特に口から吐き出す溶解液【アトミックリキダール】の威力は一瞬で人間を溶かし染みに変えるほどで、それを殺虫スプレー感覚で吹き付けまくる悪質さを持つ。ちなみに高周波音を弱点としており、そこを突かれて動けなくなったところを80に倒された。
実はこの個体は80と戦った個体の子どもであり、同じく凶悪なムザン星人の相棒として殺戮を繰り広げる傍ら、父を殺した80を恨み、復讐を目論んでいた。しかし、その夢が叶う前にメツオーガに呆気なく喰われてしまった。尚、その際主を置いて即座に逃げようとしていたことから、(ウルトラマン80に復讐をするという目的があって生き延びる必要があったとはいえ)自分本位な性格で主との間に絆などなかったことが窺える。
尚、この個体は迂闊な振る舞いが比較的多く、レモジョ星系人の擬態も見抜けないなど、知性も戦闘能力も父親より明らかに劣るようである。
高周波振動剣
ムザン星人(RB)が使用。1秒間に数万回の剣身の振動により、怪獣の硬い外殻さえ切り裂けるほどの切れ味が特徴。刃渡り70cmほど、柄30cmほどで両刃タイプ、動力はバッテリー。威力こそ脅威的だが、刃の構造及びバッテリーは共に現在の地球の水準から見てもそれほど高度な技術は使われていない模様。
宇宙に広く出回る商品で、このムザン星人特有の武器というわけではない。武器ではあるがその性能により工具的な使用なども可能で、その汎用性により宇宙人達の間ではなかなかの人気商品らしい。