怪獣超無法惑星   作:フルメタル・ミサイル

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 ティグリスの帰還。


帝王死すべし その7

「ピギャアアオオ」

「キヒャララララ」

「「………」」

 

 新たに現れた敵に雄々しく咆哮するレッドキングとゴモラⅡ。対するグラールとスフィアティグリスはそんな彼等を嘲笑うかの如く睨めつけている。

 

「先ほどまでの戦いぶりは見事だった。だが、その快進撃もここまでだ」

 

 2体の怪獣が撃破されたにもかかわらず、メンシュハイトの余裕は変わらない。だが、それも当然だろう。

 あの不出来な配下を撃破した勢いのままに戦いを続けようとする2人の愚かなレイオニクス、そしてゴモラⅡ、レッドキング。確かにこの2体はアーナガルゲとラフレシオン、さらには両者の合体したドラギナさえ撃破してみせた。

 しかし、この2体は先ほどの噛ませ犬とは違う。一方は暗黒物質(ダークマター)で進化した様々な生物の長所を抽出し合成した至高のダークマター怪獣。もう一方は素体こそあの愚かな怪獣とはいえ、大量のダークマターに加え、近頃のこの星を騒がせるあのスフィアとかいう生物も合わせて強化した合成怪獣。まさに両者共に帝王の力作と呼ぶべき怪獣である。

 

「いいえ。貴方の非道こそ今日ここまでですわ!」

「ピギャアオオオオ」

 

 主であるプラティーナの戦意に反応し、恐れ知らずのレッドキングは頭を敵に向け突進する。

 

「ブオーッ」

「――!?」

 

 グラールもまたレッドキングに向けてやや頭を下に向けると、そのまま扇のような中央の角とその左右の少し小さな角の先端から破壊光線を発射。危険を感じたどくろ怪獣がそこで慌てて止まったから直撃こそ避けたものの、光線はその目前に着弾し爆発を起こす。

 仮にそのまま突っ込んでいればレッドキングへの大ダメージ、さらには“真のレイオニクスバトル”発動中の今、リンクしたプラティーナも同じダメージは受けていただろう。

 

「ガウウルルルルアアアア!!」

「キヒャ!?」

 

 グラールとは逆にスフィアティグリスは猛然と突進、ゴモラⅡに襲いかかる。

 その長大で鋭い爪は火炎超獣ファイヤーモンスすら仕留めた代物である。その事実を古代怪獣は知る由もないが、本能的にそれが危険であると咄嗟に判断・反応し、上段から振り下ろされた右爪を慌てて躱す。しかし意識がそこに向いた敵へ向け、ティグリスは今度は左爪を横薙ぎに振るうも、これも大袈裟に飛び退いてなんとか避ける。

 

「ほう……瞬殺とはいかなかったか」

「くっ…!」

「こ、こいつら…! 先ほどの怪獣とはモノが違う!」

 

 敵に攻撃こそ躱されたものの、こちらが押しているのを見た帝王は満足気な様子であった。一方、短い攻防であったが新たな敵の戦力をある程度把握し、プラティーナもファンタス星人も怒りで歯噛みする。

 

「当然だ。先ほどの連中とは()()()()()が違う」

 

 そう鼻にかけるほど、この2体は自信作ではあるらしい。もっとも、相棒であったティグリスをここまで弄ばれた友好宇宙人も、ここまで歪な進化と生体改造を施された怪獣の姿を見た王女も、その言い草には果てしない怒りと嫌悪感しか湧かなかったが。

 

「おや、思っていたより反応が薄いな?」

「………!」

 

 そう言って帝王はファンタス星人に視線を向けるが、当然彼の内心が怒りで煮え滾っていることは分かっている。分かっていて嘲笑っているのだ。

 

「せっかくお披露目したにもかかわらず、これでは面白くない。

 ならば、君の怪獣をティグリスが八つ裂きにすれば、せめて少しは面白くなるだろうか」

 

 不愉快な笑みを浮かべ、帝王はティグリスにもっと敵怪獣を痛めつけるよう命じる。

 

「ガウルアア!」

 

 再び猛然と突進するティグリス。その恐ろしい爪での薙ぎ払いをゴモラが必死に躱すも、動きは何処か精彩がない。

 

(躊躇しているのか…)

 

 暗黒物質とスフィア細胞を用いて生体改造されたクローンながら、ゴモラⅡは敵にかつての友の面影を見ていた。厳密には本人ではなく、そして変わり果てた姿でありながらだ。そして、それは自分もまた同じだ。

 ゴモラに戦いを命じておきながら、心の何処かではこの怪獣を倒すことを躊躇する自分がいる。自分もあれがティグリス()でないことは分かっている。分かっていながら、躊躇っていた。かつてより遥かにパワーアップした敵相手に、今はそんな余裕などないというのに。

 

「ブオーッ」

「ピギャオオ!?」

 

 一方、王女側――グラールの破壊光線の嵐にレッドキングは防戦一方…というよりは最早遊ばれている有り様であった。

 遠距離攻撃は岩投げぐらいしかない肉弾戦専門のレッドキングに対し、豊富な飛び道具に超能力、さらにはウルトラマンネオスを一方的に痛めつけたほどの身体能力を誇るグラール。傍から見て、勝敗は最初から明白であったであろう。

 

(くっ…! レッドキングでは相性が悪かったかしら…!?)

 

 光線乱射による爆撃により、森はさらなる火の手に包まれる。地獄のような光景にプラティーナの焦りは増し、その綺麗な顔にも、バトルナイザーの画面を必死で動かしてグラール相手に相性の良さそうな怪獣を探す細指にも汗が滲む。

 

「ゼーゼー……」

 

 敵の攻撃から必死で逃げ惑っていたレッドキングだったが、連戦の上にこうまで攻撃が続いては、さすがに疲労の色を見せる。

 さらにはプラティーナもこれ以上レイオニックバーストを維持出来ず、どくろ怪獣のパワーアップが解除されてしまう。もっとも、地力の差でこちらが押されている今、“真のレイオニクスバトル”発動はリンクしたプラティーナにもダメージが共有されてしまうため、かえって悪手でしかないが。

 

「!?」

 

 そんな中、グラールの姿が消えた――と主従が認識した瞬間、背後に気配を感じて振り返ったレッドキングの顔を暗殺怪獣の左裏拳が殴り飛ばす。そのまま燃え盛る森に倒れたレッドキングは全身各所に引火し、のたうち回ることすら出来ず苦しみながら立ち上がる。

 

「ブオーッ」

 

 ここまで痛めつけられたことで、レッドキングはやや戦意が鈍っていた。それを見て取ったグラールは最早光線を使う価値もないと見たのか。今度はよろけるレッドキングの目前にテレポートするとそのまま右肩を掴み、片手で軽々と投げ飛ばしてしまう。

 受け身も取れず落下したところで、地面はまた火の海である。焼かれる体に悲鳴を上げて、咄嗟に起き上がろうとしたところで、グラールはレッドキングの顔面を右足で蹴り上げた。

 

「あぁぁ!!」

 

 この残虐殺法にはプラティーナも慄き、思わず口を両手で押さえ叫んでしまう。

 しかし、レッドキングもただやられっぱなしではなかった。今まではやや竦んでいたが、この顔面への強烈な一撃で激昂。再び戦意を取り戻したのである。

 

「ブオ…!?」

 

 ずっと圧倒していた油断と慢心か、グラールは敵の動きへの咄嗟の対応が遅れた。それを利用し、レッドキングは蹴り上げた右足を両手で掴み、そのまま投げようと持ち上げたのだ。

 しかし、それでも敵は最強のダークマター怪獣。逆にそれを支点とし、レッドキングの顔面に強烈な左膝を叩き込んだ。だがそれでもどくろ怪獣は怯まず強引に持ち上げ、変形のパワーボムで暗殺怪獣を焼ける地面に叩きつけたのである。

 

「ブオオオオッ」

 

 初めての有効打に加え燃える地面の追加ダメージに耐えかね、ここで初めてグラールは悲鳴を上げた。慌ててレッドキングの顔を両手で叩きまくり、嫌がったどくろ怪獣になんとか手を放させる。

 

「チッ。グラールめ、遊びすぎだ」

 

 思わぬ手痛い反撃を受けた配下を見て、帝王は舌打ちして顔をしかめる。

 

「いや…ああ見えて先ほどあの出来損ないどもを撃破した連中だ。そこまで弱いはずもないか」

 

 しかし、こう思い直し、警戒感を少しは見せる辺り、2人が思っていたほど慢心しているわけではないらしい。

 

「もっとも、グラール相手には勝てまいが」

 

 とはいえ、それでも自分の勝ちを少しも疑っていないところがある意味超越者というか、まさに全宇宙支配を目論む帝王らしいというべきか。

 

「キヒャララ!」

「ガウルルアア!!」

 

 帝王が再びゴモラⅡの方を見やると、スフィアティグリスに防戦一方の姿が目に入る。思っていた以上に、ティグリスのクローンを相手にさせたのは彼等には効果覿面だったらしい。

 もっとも、帝王は単にティグリスの尊厳を穢し、ファンタス星人の怒りを引き出すためだけにスフィアティグリスを作った。そもそもゴモラⅡの存在自体彼は知らなかったし、知っていたところでどうでもよかっただろう。今の状況は嬉しい誤算とでも呼ぶべきだが、なかったところで別に大した問題でもない。

 なにせティグリスはスフィアの影響もあり、グラール並の強力なダークマター怪獣となった。今更並の怪獣が圧倒出来るはずもないからだ。

 

「ふむ。こちらも時間の問題か」

 

 古代怪獣の動きには相変わらず精彩がない。時折角から弱めの光線を撃って反撃こそするが、スフィアの能力で亜空間バリアを張れるティグリスには防がれてしまい、せいぜい足止め程度にしかならない。相手が自分を上回る実力者だと分かっているだろうに、未だ本気で戦えていないのである。

 ティグリスはドレンゲランを道連れにしたあの時死んでおり、ここにいるのはクローンでしかない。それが分かっているはずなのに本当に愚かな奴等だ――と、帝王はほくそ笑んだ。

 

「ゴモラ! 分かっているだろう! そいつはティグリスではない!」

 

 ゴモラⅡは攻めあぐねていた。それは友の面影を見て躊躇している以上に、スフィアティグリスの攻撃の1発1発が即致命傷に至るほどの威力なのもある。グラールほど遠距離攻撃に長けているわけではないようだが、それでも危険極まりない怪獣であるのは明白だった。

 時折思い出したかのように手の甲のミサイルや角からの光線を放つが、亜空間バリアで防がれてしまう。そして前述の通り凄まじい威力の爪を誇るスフィアティグリスには接近戦を挑むことすら出来ず、ジリ貧に陥っていた。

 そのように本領を発揮しきれないのを見かねた主人がゴモラⅡを一喝する。ところが、彼の顔に浮かんだ表情もまた気持ちを整理仕切れていない複雑なものであった。

 

「ハハハハッ。そう言う割には君もずいぶん苦しそうだが?」

 

 そんな彼を見て帝王は嘲笑う。これでは説得力がない――というのも酷な話であろうが。

 

「実に滑稽だが、私は満足しているよ」

 

 苦しむ主従の姿を帝王は満足気に見下ろす。そう、彼はこの姿を見たかったのだ。

 そんな主人の意思に反応するように、再び肉迫したスフィアティグリスはゴモラⅡを蹴り倒し、その上から爪を突き刺そうとするのをゴモラが慌てて転がって避ける。しかし、今度はそこへ両手から爪型のカッター光線を飛ばして追撃してきたのを、こちらも慌てて光線で相殺――しきれず、撃ち漏らしが何発か命中。表皮を切り裂かれた痛みで古代怪獣は悲鳴を上げたのだった。

 

「キヒャララ」

「…ああ、ゴモラ。私も()()思い出す…」

 

 だが、この痛みにより、遅かれながらゴモラⅡは思い出す。

 そう嘲る帝王の姿。そして、この劣勢。それらから、ファンタス星人も思い出す。

 彼等が思い出したのは2つ――1つは、ティグリスの犠牲によって命からがら逃げ出したあの時。

 もう1つは、ズール星人のレッドキラーがスフィア合成獣化した時、自らとどめを刺すのは辛かろうとファンタス星人が申し出たがあえて断り、()()()()()()()()()()と答えた時だった。

 

「…やろうゴモラ」

「キヒャ」

 

 かつてのズール星人の気持ちが分かった気がした。そして、自分達もまた()()()()()()()()()()()()

 

「む」

 

 こちらに向き直ったファンタス星人の雰囲気が何か変わったことを帝王は感じた。

 

「ゴモラ」

「キヒャララララ」

 

 レッドキング同様、ゴモラⅡのレイオニックバーストはとっくに解けている。しかしながら、それでもゴモラⅡは自らの力が再び漲るのを感じていた。

 

「ふん、何か悟ったような顔をしているな」

 

 その変化は帝王には面白くはなかったらしく、再び顔をしかめた。

 

「ならば再び苦悶の表情に変えてやろう。やれティグリス!」

「ガウウルルルルアアアア!!!!」

 

 素早い動きでこちらへとあっという間に間合いを詰め、両手の爪を振るうスフィア合成獣。しかし、ゴモラⅡは分かっていたかのようにそれを屈んで躱すと胴体にショルダータックルをくらわせ、敵の体勢を崩す。

 

「ガ!?」

 

 タックルを受けて転ばされたことも、燃え盛る火の中に倒れようとも、大したダメージではなかった。けれども、それでも先ほどまで圧倒していた敵の思わぬ反撃を受け、ティグリスは驚いていた。

 とはいえ凶暴極まりないスフィア合成獣はそんな驚きも次の瞬間には置き去りにしながら、何事もなかったかのように立ち上がりつつ長大な爪で斬りかかる。

 ところが、これも当たる前にゴモラは飛び退いており、それと同時に両手から拘束光輪を作っていた。爪が空振りしたところで上から拘束光輪がそのまま胴体にハマり、動けなくされてしまった。

 

「なにっ!」

 

 驚く帝王。元々ゴモラⅡはこのスフィアティグリスほどではないにせよ、怪力と多彩な能力を合わせ持った強力な怪獣なのであった。

 …にもかかわらず、自分以外の全てを侮る帝王はそもそも敵のことを知ろうともせず、バトルナイザーでデータ検索するということすら怠っていた。故に、ここでようやくその事実を思い知らされることとなった。

 

「ピギャオオ!」

「ブオーッ」

 

 一方、グラールはというと、破壊光線を散々撃つもレッドキングが思っていたより身軽に躱すため、さすがに消耗してきたことと致命打を与えられないことに苛立って肉弾戦に切り替えていた。

 

(お馬鹿さん! 光線を撃ち続けていれば勝てていたでしょうに!)

 

 確かにグラールはウルトラマンネオスを格闘戦でも散々圧倒した。しかし、レッドキングも肉弾戦ならばウルトラ戦士にも匹敵する。ましてや、本個体は今まで野良怪獣やレイオニクスバトルでも正面からの格闘戦ならば負けたことはない。

 レッドキングの弱点は遠距離攻撃手段に欠けることだ。故に、光線で一方的に嬲られればどうしようもない。だが、格闘戦ならば勝機がある。そして、その勝機を敵はわざわざ自分から持ってきたのだ。

 

「ブオーッ」

 

 苛立ったグラールはテレポートで姿を消す。

 

「!……レッドキング」

 

 敵が現れる前に、プラティーナはバトルナイザーを介し、レッドキングに密かに指示を送った。

 

「ボガッ!?」

 

 そしてグラールはレッドキングの背後に突如出現し、その右手の甲の鋭い爪で襲いかかる――瞬間、後ろも見ずにレッドキングが繰り出した右肘がモロに顔面に命中。予想外の反撃に対処出来ず、おもいきり吹っ飛ばされる。

 

「なにっ!?」

 

 この事態にまたも驚愕する帝王。

 

「こう見えて、私は巨大生物学者の端くれ。だからテレポートする怪獣の生態もよく知っておりますの。

 一度目はしてやられましたが、二度目は通じませんことよ」

 

 呆れた様子でそう語る王女。レイオニクスバトルや戦闘経験自体は他レイオニクスよりやや浅いが、その代わり彼女は巨大生物学者としての知見があった。

 宇宙にはテレポートにより敵の攻撃を躱し、敵を翻弄する戦法を取る宇宙人や怪獣もいる。そして、彼等は一様に敵からの反撃のしづらい死角から襲いかかる傾向がある。では、死角とはどこかというと、大抵の生物の場合背後である。ようするに、テレポートを使う者は十中八九背後から襲いかかるのだが、そのことを職業柄プラティーナはよく知っていた。

 一度目は成功したので、次の攻撃も背後から来ると確信したプラティーナは、自分が指示したタイミングで背後を攻撃するようレッドキングに伝えていた。案の定グラールは背後から襲いかかるが、テレポート攻撃が失敗したことがなかった故に慢心していたのだった。故に、まさかこのタイミングで正確に迎撃されるなど予想しておらず、まともにくらわされたわけである。

 

「オーホホホホ! 格闘で貴方如きがレッドキングに勝てるはずがありませんの~!」

「姫様、成長なされましたな…」

 

 そしてこの高笑いと挑発の意図を読み取り、セバスティアンは色々感動していた。

 一方、グラールは格闘戦のみでは不利だと悟ったか、再び三条の光線を乱射する。しかし、これは怒りと焦りが混ざった乱雑なもので、先ほどと違い狙いは正確ではなかった。そのため、レッドキングも先ほどよりはまだなんとか躱すことが出来、さらにはバトルナイザーで伝えられた主人の意図を実行することが出来た。

 

「ピギャオオ!」

 

 ドタドタと走り回り、敵の光線をなんとか躱すレッドキング。苛立ったグラールは光線の出力をさらに上げるが――

 

「ブオ!?」

「ガウアッ!!??」

 

 プラティーナはレッドキングをただ逃げ回らせていたわけではない。レイオニクスバトルを繰り返す中で狡猾さを身に着けていた王女は、卑劣な戦法も厭わないようになっていた。

 燃え盛る炎の中は視界が最悪である。ましてや冷静さを失っていたグラールは四方八方に光線を乱射した結果、やがてレッドキングがチョコマカ動き回った先に味方のスフィアティグリスがいたことを失念していた。そのまま光線は拘束中のスフィアティグリスに直撃、驚きとダメージで仲間は悲鳴を上げたのだった。

 

「グラール!! 貴様何をやっている!!」

「ブオオ…」

 

 この大失態には主人も激昂。ダークマター怪獣最強であるはずの自身が初めて犯したミスに、暗殺怪獣は動揺する。

 

「…作戦成功」

「ですな」

 

 したり顔でそう呟く王女。そう、先ほどの挑発もグラールが怒って粗雑な光線乱射へと繋げるための布石だった。あるいは格闘で劣ると馬鹿にされて意固地になり、逆に再び格闘戦も挑んできた可能性もあったが、それはそれでやりやすい。

 狡猾さを身に着けた王女に、最強のダークマター怪獣はまんまと掌の上で転がされていたのである。

 

「ブオ!?」

 

 そして明確な隙をさらした暗殺怪獣を、この卑劣な主従が見逃すはずもなかった。

 燃え盛る中、呆然と立ちすくむグラールの後頭部に、レッドキングは右手で強烈なラリアットを叩き込んだのだ。そうして背後から殴り倒されたところで、今度は強烈なヤクザキックで蹴り飛ばされ、そのまま動けないスフィアティグリスに叩きつけられる。

 

「やれやれだ」

 

 苦笑するファンタス星人。この王女はなんとも汚い戦法を使うが、不思議と勇気づけられた。

 狙ってやったのかは不明であるが、スフィアティグリスに叩きつけられたグラールは、スフィア合成獣の背中の棘が甲殻に刺さってめり込んでしまい、背中で互い違いにくっついた状態となってしまう。この密着状態では亜空間バリアも形成出来ず、ましてやテレポートも出来ず、非常に危険な状態であった。

 

「………!」

 

 それに気づいたメンシュハイトは念動力を発動し、両者を引き剥がそうとする。さすがに先ほどのように後手に回ってはおらず、早いタイミングの救助であった。

 

「これこそ絶好の好機ですぞ!」

「承知! ゴモラ!」

「キヒャ!」

「ええ、セバスティアン! レッドキング!」

「ピギャオオ!」

 

 ロボット執事に言われるまでもなく、その絶好の機会を両レイオニクスが逃がすはずがない。ゴモラⅡはスフィアティグリスの方から、レッドキングはグラール側から共に突進する。

 

「ガウウルルルルアアアア!!」

「ブオーッ」

 

 互いに分離に難儀していたところへ敵が迫る。そうはさせまいとグラールは口からの火炎弾と三条の光線を、スフィアティグリスは両手からカッター光線を飛ばし迎撃する。

 …だが、互い合わせの状態ではお互いの反動で狙いが上手くつけられず、微妙にズレたため、これも躱されてしまう。

 

「ガウッ!!」

「ブオーッ」

「!? お前達!?」

 

 いくら攻撃を連射しても敵は捉えられない。そして、元々非常に凶暴な怪獣同士。主人に言われて互いは争っていないだけで、別段協調性があるわけではない。そんな両者が互いにくっつき合ってしまった。

 お前が後ろにくっついているのが悪いとばかりに互いを肘で叩きながら威嚇し合い、グラールとスフィアティグリスは敵をそっちのけで互いから離れようとジタバタもがく。

 この事態は帝王も予想していなかったのか、驚いた様子であったが、今は叱っている暇はないとばかりに念動力で両者を離させようとする。

 

「キヒャ!」

「ピギャ!」

 

 主人の迅速な対応が功を奏し、互いが揉めながらも分離に成功する。けれども、敵の攻撃を迎え撃つには一瞬遅かった。

 

「ブッ――」

「ガッ――」

 

 敵の方へ意識が向き直った時には、両ダークマター怪獣の喉元には既に水平にかまえた右腕がめり込み、つい今分離したはずの体が再び背中合わせに叩きつけられてしまう。

 

「「“ウルトラモンスターズ・クロスボンバー”!!!!」」

 

 怪獣の中でも怪力を誇ることで知られるゴモラⅡとレッドキングが前後から突進しつつ、全体重とスピードを乗せて叩き込んだ全力のサンドイッチ・ラリアット。

 強固な甲殻に包まれた怪獣達の数少ない弱点である喉元に向けて叩き込まれた最強のツープラトンにより、怪獣達は互いに首が挟み込まれてしまった。これにより、今まで有効打を与えられなかったダークマター怪獣に初めての大ダメージを与えたのだった。

 

「グエッ…」

「ゲボッ…」

 

 元々挟まれていてまともな受け身など取れない状況とあっては、弱点である喉元さらには頚椎に叩き込まれたその衝撃は尚更逃がしようもなし。

 屈強にして極まった打たれ強さを誇るはずのダークマター怪獣達は、たったの一撃により多量の血を吐きながら背甲が砕けて分かたれると、地面に倒れたのである。

 

「なっ…なんだと!?」

 

 さすがの究極進化帝王もこの結果は予想だにしておらず、愕然としていた。

 

「………」

 

 そんな中、ゴモラⅡが倒れるスフィアティグリスに歩み寄る。かつてのズール星人のように、()()()()()()()()()()

 大ダメージを負いはしたが、相手はダークマター怪獣にしてスフィア合成獣。今とどめを刺さねば復活しても不思議ではない。

 

「………」

 

 けれども、倒れるかつての友の成れの果てを見つめるその姿には未だ躊躇いがあった。

 そして、その様を見上げるティグリスの目は、()()()()()()()()()だった。

 

「……すまん」

 

 その役割を押し付けることになり、ファンタス星人も苦渋の表情で彼に詫びた。

 そして、主人の一言で踏ん切りがついたのか、ゴモラⅡは右手を振り上げた。

 

「ブオッ………ブオガアアアア!!!!」

「キヒャ……!?」

 

 ところが、ここでグラールが復活し、倒れたままながら光線を乱射。まともにくらったゴモラⅡは吹っ飛ばされ、倒れてしまう。

 

「ブオオガガアアアア!!!!」

 

 グラールは大ダメージで錯乱状態に陥っていた。狂ったように奇声を上げながら四方八方に頭部からの光線を乱射。

 

「うおっ!?」

 

 挙げ句、メンシュハイトの方にまでお構いなしに撃つ始末であった。

 

「愚か者が……! ダメージで狂ったか!」

 

 咄嗟にバリアで防ぎはしたが、最強のダークマター怪獣のこの体たらくには失望した帝王。

 

「ティグリス! 奴を押さえつけろ!」

 

 さすがに最強の手駒の片割れを粛清する気にはならず、スフィアティグリスに押さえるよう命じる。

 

「ガウ……」

 

 主の命を受け、よろよろと起き上がったスフィアティグリス。そのまま狂乱するグラールの方へ向かうも――

 

「ガハッ…!?」

「な!? 貴様何を!!」

 

 彼もまた狂ったのか。スフィアティグリスは暴れるグラールの背後へとゆっくり近づいたかと思うと、そのまま背中をその長大な右爪で一突き。胴体を刺し貫かれ、さしものグラールも呆気なく息絶えた。

 

「一体……」

 

 ファンタス星人達も困惑する中、爪を引き抜いたティグリスが振り返る。

 

「!!」

 

 変わり果てた友。しかしながら、今のその眼差しだけは、かつてと同じだった――

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