どうか今章最終話をお楽しみいただければ幸いです。
「ティグリス…」
呆然とそう呟くファンタス星人。突然の凶行に、彼も当初は理解が追いついていない様子だった。
「……!」
しかし、彼の目を見るなり、勇気と優しさを感じさせるかつてと同じ眼差しだとすぐに気づいたのである。
それを見て、彼はこの星で共に歩んだ冒険の日々を思い出す。
姿形は大分変わってしまったが、それでも尚ファンタス星人にはこの怪獣がティグリスであることを実感させたのだった。
「どういうつもりだティグリス!」
一方、
『黙れ。貴様にはもう従わん!』
「「「ッ!!」」」
そのように翻訳した音声がメンシュハイト、ファンタス星人、プラティーナのバトルナイザーからそれぞれ流される。従順だったはずの奴隷からのまさかの反論には帝王も驚愕し、思わずたじろいでしまった。
「一体どういうことですの? まさか……」
予想だにせぬ事態にプラティーナも動揺するが、やがて何が起きたかすぐ勘づく。
『……友よ。また会えたな……』
「!!……ああ、おかえり。友よ…!」
「おかえり!」
「キヒャララ…」
懐かしき友からの言葉に、ファンタス星人、ベロンも共に両目から涙を流した。ゴモラⅡもまた彼に近寄ると肩を抱き、互いに再会を喜んだのだった。
「……よかったですわね」
「……ええ」
記憶を取り戻した友との感動の再会。王女と執事もまたそれを温かく見守ったのだった。
「………………」
一方、ここに来てようやく何が起きたかを理解したメンシュハイト。くだらぬ茶番には付き合ってられぬが、最早手駒はいない。故に手ずからこの連中を始末しようと両手を光らせる。
「ピギャアアアアオオオオ!!!!」
「ぬっ!?」
しかし邪魔はさせぬとばかりに、咆哮と共に繰り出されたレッドキングの右鉄槌が振り下ろされる。咄嗟に帝王はテレポートで別地点に逃れて躱した。
「感動の再会に水を差すのは無粋ですわよ?」
「……やれやれだ。結局頼りになるのは自分だけか」
そう生意気な小娘に揶揄される。それに増々怒りを募らせると共に、何もかもに失望し、帝王は嘆息する。
「ならば、仕方あるまい――この私自らの手で君達を滅ぼしてやろう!!」
そう決意したメンシュハイトの体が桃紫色の禍々しいオーラに包まれると共に、全身が変化しつつ巨大化。ついにその正体が露わになる。
「ヒャアアアアアア!!」
「あれがヤツの正体か…!」
奇怪な甲高い咆哮を上げながら真の正体をさらしたその姿は確かに人型ではあるが、際立って異形かつ、余りにも醜悪極まりなかった。
尖った長い耳、コウモリの耳の如き双角、鋭い大きな牙の生え揃った涎を滴らせた唇のない大きな口、七支刀の如き頭頂部の異形の角、大きく張り出した両肩、鋭い爪の生えた四肢、ドラゴンを思わせる被膜のついた大きな双翼。そして、体躯は銀色を基調に青と赤に縁取られている毒々しい色合いである。
強大な力を誇る帝王でありながらひたすら醜い、まるで悪魔の如きおぞましきその姿は彼の本性を表しているかのようであった。
「なんと醜い…」
職業柄、醜悪な怪獣には慣れっこであるはずのプラティーナも思わずそう呟き、たじろぐ。
「ヒャアアアアアア!!」
けれども、醜い姿に反し、その能力は絶大。燃え盛る森は彼の咆哮と共に放たれた波動により、一瞬で鎮火してしまう。これにはレイオニクスコンビも改めて驚いた。
「! なるほど……大仰な名乗りを上げるだけのことはありますのね…」
鎮火するには洪水並の水量があって初めて可能であろう大規模な森の延焼。それらを一瞬で消し去ったその実力を見て取り、王女は改めて敵の実力を知り、警戒を最大にする。
「貴様が一体何者であろうが、私達には最早どうでもいい話だ。
メンシュハイト! 取り戻した我が友と共に貴様をここで討つ!!」
「キヒャララララ!」
「ガオオオオウウウウ!!」
一方、友の帰還を喜ぶファンタス星人に怖いものは最早ない。醜悪なる帝王を討つべく、相棒のゴモラⅡ、そして帰ってきたティグリスが滾る戦意のままに咆哮する。
「面白い! やれるものならやってみるがいい!」
この姿でも言語能力は失っていないらしく、流暢に喋りながら帝王は嘲笑う。
「ヒャアアアアアア!!」
帝王は手から強烈な火炎弾を放つ。しかし、前に進み出たゴモラⅡが手からのロケット弾で相殺。目の前が爆炎に包まれたところで、今度はそれに乗じティグリスがその長大な爪で斬りかかる。
「ガウ!?」
しかし、帝王は僅かにスウェーバックしてそれを躱すと、続けざまに繰り出された蹴りもまた右手で防ぐ。
「お前を作るにあたり、自爆していた大元の方の部位を利用した。
お前が記憶を取り戻したのは、そこに宿った残留思念のようなものが今更ながら出てきたらしいな。恐らくは先ほどの必殺技のダメージのショックによるバグとでも言うべきものだろう…」
ティグリスが何故記憶を取り戻したのかについて、帝王は冷静にこのような推理をした。ようするに、僅かに残った大元の細胞に宿っていた僅かな残留思念が先ほどのクロスボンバーのダメージを受けたことを引き金に表出したのだ。
しかし、本物のティグリスは既に死んでおり、ここにいるのはクローンである。厳密には本人ではないため、このクローンの取り戻した記憶とやらも、例えるなら物理的衝撃で生じたコンピュータの誤作動やバグのようなものだ。
だが、バグじみた現象とはいえ自らの支配を脱し、前の主人の元へと帰ったのは帝王にとっても大いに驚くべきことである。なにせ暗黒物質とスフィアの両方を使用しておきながら、今のこの事態が起きたのだ。これは完全に予想外であり、バグとはいえ奇跡のようなものだとは彼自身ですらそう思うぐらいだ。
けれども、帝王がわざわざそれを祝福するはずもない。所詮この怪獣もあの時の戦いの残滓を利用しただけの戯れにすぎない。故に、完全に敵に回ったことを認識した今、切り捨てることに最早躊躇いはないのだ。
「フン!」
「ガオ!?」
受け止めた右手から念動力を放ち、帝王はティグリスを吹っ飛ばす。それをゴモラがすぐに慌てて受け止めたからよかったものだが、もし助けなかったらかなりのダメージとなっただろう。
「油断大敵ですわよ!」
「ピギャアアアアオオオオ!!」
背後はガラ空き。それを見て取った王女はレッドキングを襲わせる。
「ヒャア!」
「ピギャ!?」
しかしいざ殴ろうとした瞬間、帝王は翼で宙に飛び上がり、どくろ怪獣の攻撃は空振りに終わる。そして逆に隙だらけになったレッドキングの後頭部をおもいきり蹴り飛ばした。
あのグラール以上のパワーで後頭部を蹴られたため、レッドキングも悶絶。起き上がることが出来ないでいた。
「キヒャララ!」
共闘相手がやられて怒ったのか、ゴモラⅡは角からの光線を放射。しかし帝王は第三の目を開眼し、身を覆うバリアーを展開。攻撃を完全に遮断してしまう。
「………………」
有効打が与えられず、ファンタス星人の表情は険しい。しかし、もうここまで来れば退くという選択肢はない。
「ガオオウウ!!」
そんな友の不退転の意思に応え、ティグリスは跳躍。さらには両腕を振り回し、カッター光線を浴びせかける。
「ヒャアア!!」
だが、帝王のバリアはそれでも尚破れない。そして渾身の爪の突き刺しもまた、帝王は両手で掴んで受け止めてしまう。
「フン、お前を生み出すのにはスフィアと暗黒物質の両方を使った。
だが敵に寝返った以上、片方を返してもらうとしよう」
「ガオ!?」
そう呟いた帝王は、爪を掴んだ両手からティグリスの体に宿る暗黒物質を吸引する。
「ヒャアアアア!!」
そうして体の中の暗黒物質を根こそぎ奪い取られ、ティグリスは大きく弱体化してしまう。
帝王は弱ったティグリスから両手を放すと、そのまま翼を羽ばたかせ強風を巻き起こす。本来ならこの高さでも華麗に着地出来るであろうティグリスの身体能力だが、弱った今は抵抗出来ず、そのまま地上に叩きつけられてしまった。
「うぅっ…」
そのまま帝王は羽ばたかせ続け、それにより勢いを増す強風にベロンが呻く。先ほどの炎でさえ防いだバリアだが、レイオニクス達を守るため今まで最大出力で張り続けていたことで体力を大分消耗していたのもあり、今の強風にはそこまで保たなそうだった。
「ピギャオオ…」
「キヒャ…」
「ガルル…」
宙に浮かぶ帝王の羽ばたきは休みなく続けられ、烈風が吹き荒ぶ。帝王が本来いた歴史では、ウルトラマンネオスとウルトラセブン
さらには先ほどまでの猛火で焼け焦げた森林の木々も地面もまた耐え切れず千切れ吹き飛ばされていく。
「ウオオオオ…!」
そこまでで十分だと思ったのか、帝王は突如羽ばたくのをやめたことで、烈風は収まった。
しかし、ここで帝王の額の第三の目が開眼し、咆哮と共に発光。今度は怪獣達の周りを先ほどよりさらに高温の炎が出現し取り囲む。
帝王の力により制御され、範囲こそ先ほどと違い圧倒的に狭まり周囲を焼き尽くすほどではないが、代わりに一段上の熱となり、怪獣達を苛んだ。
「忌々しい下等生物どもめ。そう簡単には殺さんぞ」
炎に囲まれて苦しむ怪獣達にそう吐き捨てた帝王は、今度はバリアの中にいるレイオニクス達を見たが、ふとその近くに落ちていた
「さて…先ほどは私自らの手で始末すると言ったが……気が変わった」
「!? 貴様、何をするつもりだ!?」
最初は帝王手ずから敵を始末するつもりであったが、今は他に何か思いついたらしい。ファンタス星人の問いには答えずに帝王の第三の目が再び発光するも、標的はレイオニクス達ではなかった。
超能力の向かう先は、なんと先ほど不意打ちで倒されたグラールの死体。そして先ほどのクロスボンバーの被弾によりティグリスから剥がれたスフィア結晶体であった。それらが発光し宙に浮かぶとそのまま融合、新たなダークマター怪獣にしてスフィア合成獣が誕生する。
「ブオオーッ」
暗殺合成獣 スフィアグラール
最強のダークマター怪獣グラールの死体とスフィアティグリスから剥離したスフィア結晶体をメンシュハイトが超能力で融合・蘇生した結果、誕生したスフィア合成獣。メンシュハイトによる極めて身勝手な融合と蘇生であるが、忠誠心は相変わらずである。
体型はグラールから変わっていないが、体色は紫がかった不気味な灰白色へと変わり、目も緑色へと変化。体の各部からは吸収したスフィア結晶体が所々突き出ている。スフィアの力で能力はさらに上がっており、亜空間バリアを始めとするスフィア合成獣の能力も加わった。
「……貴方は何処まで腐り果てているんですの!!!!」
「ハハハハ。どうした? 急にそんなに怒りを見せるとは。
目を見開いたプラティーナが怒りの余り絶叫する。ところが、そんな彼女を先ほどとは逆に今度は帝王がせせら笑う。
スフィアティグリスを造り上げた帝王の悪辣さは今更言うに及ばない。
最強の部下も、死んでしまえば最早ただの役立たず。その死体を有効利用するという帝王の考えも行為も至極当然のものだったろう。
挙句の果てには、懸命に戦った手駒の怪獣の尊厳を自ら汚し、あまつさえ役立たずを有効利用したなどと嘯くその態度。そんな外道ぶりを怪獣に愛情を注ぐプラティーナが許せるはずもなく、激怒したのである。
「だがねお嬢さん、それは余計なお世話というものだ。もっとも、野蛮な生命体たる君達に、宇宙に選ばれし者たる私の考えなどいくら説明したところで理解は出来まいが」
「野蛮で結構だ!! 自分以外の全ての命を侮辱し、弄び、利用し尽くす、貴様のような宇宙の寄生虫の考えなど分かりたくもない!!!!」
そして、帝王の腐り果てたその外道ぶりを許せなかったのは、プラティーナだけでなくファンタス星人もまた同じ。いや、友であるティグリスの尊厳もまた否定されていた分、より激しい憤怒と憎悪を抱えていた。
怪獣達の助けも期待出来ない中でも尚屈せず、そのように啖呵を切ったファンタス星人の態度と、さらには寄生虫呼ばわりされた怒りで帝王のおぞましい表情はさらに歪む。
「寄生虫、か……そう思われるのは心外だよ」
「ブオオーッ」
ここまでくれば最早話し合いは無用。帝王は右手を上げて下ろすと、それを合図にスフィアグラールが足元のレイオニクス達へと迫る。
「まずいですぞ! ここは一刻も早く怪獣の追加を!」
慌てるセバスティアンが叫ぶ通り、3体は最早袋のネズミ。とてもこちらへ救援に来れる状態ではないため、早急に怪獣を追加で召喚する必要がある。
「グオオオオ…」
「うっ!」
しかし、ここで帝王の第三の目が再び妖しく輝くと、ベロンが青白い光に包まれて動きが止まってしまう。
「どうしたベロン!?」
ファンタス星人がよっぱらい怪獣の肩を掴んで揺するも、ベロンは凍ったように動かない。そしてベロンの動きが停止したことで彼等を包むバリアも霧散してしまった。
「くっ…!」
恐らくは帝王の超能力によるものだろう。しかし、止められたのはこの小さな怪獣だけ。他の皆は動ける。
王女はこの窮地を脱するべく、バトルナイザーから怪獣を召喚しようとする。
「ブオオーッ」
「あうっ!」
「うぉおっ!」
しかし、スフィアグラールはここで火炎弾を口から発射。目前に着弾したことで爆発が起き、4人は衝撃で吹っ飛ばされてしまう。
そのショックで2人のレイオニクスは共にバトルナイザーを手放してしまい、すぐに怪獣を召喚することは出来なくなってしまった。さらに悪いことに、怪獣であるベロンやロボットであるセバスティアンと違い、レイオニクス達は脆弱な生物であったのが災いした。
ファンタス星人もプラティーナも爆発で吹っ飛ばされた先で失神してしまっていたのである。
「踏み潰せ!」
最早、この矮小なる愚か者どもに抗う術はない。帝王の命じるまま、スフィアグラールは1人ずつきっちり踏み潰そうと右足を上げる。
「ガウウルルルルアアアア!!!!」
「ブオ!?」
バリアを解除したところで怪獣3体は散開し、レッドキングはそのまま背後からグラールに飛びかかる。暗殺合成獣もこのタイミングでの救援は予想していなかったのか、反応が遅れる。結果そのまま取っ組み合いとなり、地面をゴロゴロ転がった。
しかし、このおかげでレイオニクス達はひとまずグラールの魔の手から逃れることが出来たのだった。
「ぬ!」
ティグリスは爪からのカッター光線を、ゴモラⅡは三日月光線を帝王目がけ連射。だが、命中前に帝王もまたバリアを張り、これを完璧に弾いてしまう。
「無駄なあがきだ。お前達如きの実力では私には敵わん!」
帝王の豪語する通り、暗黒物質を体から抜き取られて弱った今のティグリスでは、帝王の全身を包む強力なバリアは破れなかった。
「さぁ、嬲り殺しにしてやろう!」
帝王の額の第三の目が光り、再び周囲を包み込む炎の渦が出現する。しかし、これはあくまで逃げ場を塞いだにすぎず、今度は帝王自らも手からの破壊光弾を連射、怪獣達を苛む。
「ガルル!」
ティグリスは亜空間バリアを張り、ゴモラⅡを庇うように前に立つ。しかし、スフィアティグリスは暗黒物質を失ったことによる体内バランスの変化に加え、連戦のダメージがあって体力を消耗しており、亜空間バリアの出力は明らかに落ちていた。その上、かつて戦ったファイヤーモンスより強力なメンシュハイトの攻撃により、ますますエネルギーを消耗していく。
「仲間を庇うとは涙ぐましい光景だな。だが、愚かだ。
切り捨てれば少しは寿命が伸びたものを…」
仲間を庇うこと。それを帝王は愚かだと嘲笑う。
「ヒャアアアア!!」
「キヒャッ!?」
金切り声を上げ、帝王はベロンをやった時と同じく再び念動力を発動。今度はゴモラⅡの体から力が抜けて倒れてしまう。
ティグリスが攻撃を防ぎつつ、ゴモラが帝王に反撃を加える作戦だったが、それも不可能になってしまった。
「次は貴様だ!」
帝王は裏切り者のティグリスは楽に殺すつもりは毛頭ないのか。超能力を使わず、あえて火炎弾を連射し、苛んだ。
ティグリスは後ろで倒れるもう1人の友を守るため、動くことも出来ずバリアを張り続けるしかなかった。
「その後ろの役立たずを守るために、こうまで健気にバリアを張り続けるとはな。私が改造してやったからには、少しはその愚かさも改善されたはずだったが…結果はこのザマだ」
主も気を失い、自分も友も満身創痍。そしてメンシュハイトには傷一つつけられていない。
にもかかわらず、ティグリスの目には諦めはない。その態度が実に帝王の癇に障った。
「しかし業腹だが、今回は私自身にも反省すべき点も多くあった。
あの男に絶望を与えてやろうと、戯れにお前を作り出したが、まさか土壇場で記憶が蘇るとはな。まったく、くだらん奇跡もあるものだ…」
空に浮かびながら、うんざりした様子で帝王は吐き捨てる。
結果として、こちらの勝利には変わりはない。いや、勝利すること自体は最初から分かっていた。しかしながら、その過程は実に波乱に満ちていた。
アーナガルゲとラフレシオン、さらにはそれらを合体させたドラギナは、取るに足らないこんな連中に敗れてしまった。スフィアティグリスに至っては想定していた性能を発揮しきれず、挙げ句記憶を取り戻してグラールを殺害する始末である。結局帝王自らが軌道修正する羽目となった。
「………」
「その目はまだ諦めていないようだな。だが、気づいているか?
お前の体にあった暗黒物質は先ほど除去した。その結果どうなると思う?」
「………?」
「蘇るのはお前の記憶だけではない。暗黒物質の力で防いでいた
「!!」
驚くティグリス。そう、ティグリスの記憶の復活に帝王は最初こそ驚愕はしたが、結局は大した問題ではなかった。
今は従順なダークマター怪獣でこそなくなってしまったが、そう時間の経たぬ内に今度は凶暴なスフィア合成獣として成り果てる。それを見越して、帝王はあの時暗黒物質をティグリスの体から除去していたのである。
こちらの味方でこそなくなるが、再び
「つまり、幸運にも蘇ったお前の自我は、不幸にももうすぐスフィアに呑まれるというわけだ。
野蛮な生命体の努力が無に帰すこの瞬間! 実に面白い! フハハハハハハハハ!!!!」
そんな無情な現実を突きつけ、帝王は醜い口から唾を飛ばしながら愉快そうに哄笑する。
「………………」
衝撃的な告白を受け、ティグリスはショックであった――が、それは一瞬だけだ。帝王が御大層な演説を行う中でも、弱った今の自分に出来ることは何かを必死で考え続けた。
そして、辿り着いた結論。それを実行すべく、ティグリスは全力で集中し、嘲りの中でも探り続けた。
「クク…」
「? 何がおかしい」
そして、ついに
帝王が笑い終わったところで、ティグリスはまるで人間のような含み笑いを漏らした。スフィアに肉体を乗っ取られるタイムリミットが迫るという事実により絶望の底に叩き落されたかと思いきや、予想とはまるで真逆。不敵極まるその態度に帝王は不快に感じる以上に不審さを感じていた。
「今更何か出来るはずもないが、念には念を入れるとしよう」
ゴモラⅡは気を失ったまま。そしてレッドキングは連戦の疲弊とダメージで動きが鈍り、スフィアグラールに押されていた。
にもかかわらず、ティグリスの目に諦めはない。いや、むしろ凄まじい覚悟と殺気さえ孕んでいた。
「――――!!」
それを感じた時、メンシュハイトの全身を凄まじい悪寒が駆け巡った。
あの時と同じ目だった。洗脳に抗い、壮絶な自爆を遂げた、あの時と――!!
「消えろ!!!!」
あの時の記憶を振り払うべく、帝王がすぐさま撃とうとしたのは火炎弾でなく、両手に収束・チャージした、半身ほどの大きさがある破壊光弾。帝王の持つ攻撃手段では最強の一撃である。
「――ガウウルルアアアアアアアア!!!!」
それが放たれようとした瞬間、凄まじい咆哮と共にティグリスは両手で己の角を掴み、へし折った。
「!?――――ウッォオッ!!??」
途端、
「ウォォォォ……! なっ…何だっ!? 何が…!」
突然起きた頭頂部の激痛。触ってみれば、なんと自分の角が根本からへし折れている。
レイオニクスでありながら、メンシュハイトはレイオニクスの能力や特性については微塵も興味がなく、未だ何も知らなかった。
だから、“真のレイオニクスバトル”についても何も知らなかった。
ダメージと嘲りの中、自分と絆などないティグリスが必死でリンクを繋ぐのに集中しているなどとは思わなかったし、ティグリスが自分の角を折ることで、“真のレイオニクスバトル”の特性を逆手に取り、超能力の源たる頭の角を破壊してきたなどと分かるはずもなかった。
『友よ。今の私に出来るのはここまでだ。あとは君達に任せた』
「「………………!」」
だが、それはティグリスにも少なくない代償を払った。戦闘ダメージ、暗黒物質の欠落、体内スフィア細胞の暴走といった種々の要因により、ティグリスは相当弱っていた。それがメンシュハイトと無理矢理リンクを繋げての自傷行為により、ついに限界が来た。
バトルナイザーに翻訳音声が流れると同時にティグリスは倒れる。すると彼の体から開放されたエネルギーが黄金の光となって、倒れるファンタス星人とプラティーナに注がれ、目を覚ます。
「ティグリス……! 私はまたしてもお前を救えなかった……!」
ベロンに介抱されてもファンタス星人の戻らなかった意識がここまでようやく取り戻される。
しかし、襲ったのは大きな悲しみ。悔恨で顔をクシャクシャにしながら、ファンタス星人は悲嘆する。
「ならば、せめてこの戦いを見届けてくれ!!」
だが、悲しむのはここまでだ。友がここまでやって任せてくれたのだ。ならば、やり遂げてみせる。
「ゴモラ!」
「――キヒャララララララ!!!!」
友の想いがファンタス星人から、ゴモラⅡへと大量のレイオニクスエネルギーと共に伝播する。それと共にゴモラは目覚めると同時に、その体に黄金色のオーラを纏っている。
「姫様!」
「……セバスティアン。私にもはっきり聞こえましたわ。彼の声が……」
同様にセバスティアンに介抱されても目覚めなかったプラティーナであったが、同じく意識を取り戻す。
「レッドキング! 待たせましたわね!!」
「――ピギャオオオオオオ!!!!」
起き上がったプラティーナからもまた、友の想いを乗せた大量のレイオニクスエネルギーがどくろ怪獣に向けて注がれる。
限界を迎え、なす術もなく暗殺合成獣に蹴り転がされていたレッドキングだが、今までの疲労が吹き飛んだかの如く強烈なオーラを纏って起き上がった。
「――グラール!! 私を守れ!!!!」
「ブオオーッ!」
ティグリスは倒れたが、不可解にも敵は圧倒的なパワーアップしたらしい。
それを見て取った帝王は慌ててグラールを呼び寄せようとする。
「ブオ!?」
しかし、レッドキングはスフィアグラールの尻尾を掴んで後方に投げ飛ばす。
『行きなさい。あの怪獣は私達が引き受けます』
「!」
『貴方は遠慮なく友の仇を討ちなさい!』
吹っ飛ばされて離れ離れになったため、バトルナイザーを介し、ファンタス星人へそう伝える王女。
「……ありがとう、異星の友よ。君の真心、私は生涯忘れん」
そう激励を受けたことで、ファンタス星人は新たに出来た友へ、心からの感謝を伝えた。
『フフッ…』
ティグリスと同じく友と呼んでもらえて向こうも大層嬉しかったのか、はにかんで笑うのが聞こえた。
「良かったですな、姫様。この星で戦い続けた甲斐があったというもの」
「ええ、セバスティアン。窮地に陥った友を見捨てるなど、プラティナム王家に属する者として恥ずべきことですもの」
「ブオオーッ!!」
「さぁレッドキング!! 今回は遠慮は無用!! 完膚なきまで叩き潰しなさい!!!!」
「ピギャアアアアオオオオオオ!!!!」
主を救おうとするも邪魔され怒り心頭のスフィアグラール。しかし、それはこちらも同じ。
「ブオオーッ!!」
死体になろうとも生き返らせられ、尚もこき使われる哀れな尖兵がどくろ怪獣へと迫るも、王女は恐れずにさらなる力をレッドキングに注ぎ込む。
「……おのれ!! 何をしたのかは知らぬが、この程度で私が死ぬはずもないだろう!!!!」
立ち上がったメンシュハイトは怒り狂い、手からの火炎弾を乱射。
降り注ぐ爆撃の中、ファンタス星人は恐れることなく、さらなる力をゴモラⅡに注ぎ込む。
「「ハァァーッッ!!」」
「キヒャララララララ!!!!」
「ピギャアアアアオオオオオオ!!!!」
黄金色のオーラが強まると共にゴモラⅡとレッドキング、そして2人のバトルナイザーが進化を遂げる。
「キヒャララララララ!!!!」
古代怪獣 EXゴモラⅡ
レイオニクスの成長の果てに、ゴモラⅡが潜在能力を覚醒させ超進化を遂げた姿。やや体色が黒くなり、白目を始め凶悪な面構えとなった。腹部の棘が鋭くなり、全身各所に棘が追加されるなど攻撃的な発達を遂げている。
あらゆる能力が劇的に向上し、総合的な戦闘能力は最強怪獣と同等以上という凄まじいもの。
「ピギャアアアアオオオオオオ!!!!」
どくろ怪獣 EXレッドキング
レイオニクスの成長の果てに、レッドキングが潜在能力を覚醒させ超進化を遂げた姿。目は真紅、体色は漆黒に所々赤く輝くラインが走り、両腕が胴体と同じ太さに巨大化している。また触れた岩石を赤熱化させるほどの高熱を全身に帯びている。
あらゆる能力が劇的に向上し、総合的な戦闘能力は最強怪獣と同等以上という凄まじいもの。
「いけ!」
「いきなさい!」
ネオバトルナイザーを向け、各々が怪獣に命じる。
「ブオオーッ!!」
スフィアグラールが三条の角からの光線を乱射するが、最早EXレッドキングには通じない。ならばとテレポートし、先ほどの失敗を踏まえ右側から襲いかかるも、最早プラティーナの指示を受けるまでもなく即座に反応され、捕獲される。
「!?」
そのままバスケットボールのダンクシュートの如く剛腕で地面に叩きつけられる。あまりの威力に大地を砕きながらバウンドし、止まったあとも痙攣を起こし、起き上がることも出来なかった。
「そんな虚仮威しが私に通用すると思っているのか!! ならば死ね!!」
先ほどまでの余裕をかなぐり捨て、帝王は超能力を発動する。
「キヒャララ!!」
「なぁ!?」
ウルトラ戦士すら止める圧倒的なパワー。それをなんとEXゴモラⅡは気合だけで跳ね飛ばす。予想を超えた事態に帝王の思考は一瞬停止するも、今度は全力の光弾連射を行う。
けれども、このゴモラもまたレイのEXゴモラ同様凄まじい防御力となっており、なんと被弾しながらも平然と突進。そのままショルダータックルをくらわせ跳ね飛ばす。
それでも体勢を即座に立て直し迎え撃つのはさすが帝王といったところだが、今回は相手が悪すぎた。立て直した瞬間に今度は横薙ぎの尻尾をおもいきり叩きつけられ、錐揉み回転しながら跳ね上げられたのだ。
そこへ追撃のテールハンマーにより今度は地面に叩きつけられ、さらには右足でおもいきり蹴り飛ばされる。よろけながらも立ち上がったところで強烈な左フックで顔面をぶん殴られ、右の角が砕けながら吹っ飛ぶ。
「ヒャガァ!?」
ところが拘束光輪は既に放たれており、空中で押し留められたところで、ダメ押しのテールスピアーⅡをぶちこまれるも帝王の意地か、両手で受け止める。
しかしながら、このゴモラⅡは遠距離攻撃もまた得意とする種。両手がふさがって超能力を発動出来ぬところへ、両手からのロケット弾の爆撃を受け、ズタボロにされてしまった。
「グラールッ!! 何をやっているゥ!! 私を助けんかァァ!!!!」
絶体絶命の
「レッドキング! 派手に打ち上げなさい!!」
「ピギャアアアアオオオオオオ!!」
しかし、グラールがテレポートを発動しようとした瞬間。EXレッドキングの振り上げた剛腕が地面を叩き、暗殺合成獣目がけ爆炎【フレイムロード】が走る。さすが最強のダークマター怪獣だけあり、咄嗟の亜空間バリア生成で防いだ――かと思われたが、なんとバリアは必殺技の前に脆くも粉砕。威力は殺しきれず空中高く跳ね上げられる。
「ブオオーッ!?」
混乱する中、自分に近づく漆黒の怪獣。グラールは必死の抵抗で光線と火炎弾を乱射するも、最早敵の息の根を止めるのは無理だった。
空高く跳び上がったEXレッドキングは抵抗をものともせずダブルスレッジハンマーをスフィアグラールの腹部に叩きつけたことで、暗殺合成獣は隕石の如く高速で地面にめり込み、埋まった。
「ブオガアアアアアア」
大ダメージにより内臓を激しく損傷し、スフィア結晶体は砕け、口からは多量の血を吐きながらも、哀れなダークマター怪獣はそれでも敵の抹殺を完遂しようとあらゆる攻撃を繰り返す。
「【プラティナム・フィスト】!!!!」
「ピギャアアアアオオオオオオ!!!!」
けれども、所詮は無駄な抵抗だった。それらを意に介さず、今度は空中から頭を下に向けて落下するレッドキングの右手は眩い白銀の光を帯びる。
「ブガア!!」
そうしてEXレッドキング最強の一撃が命中。最後の抵抗に発動した亜空間バリアは一撃で砕かれ、腹部に右拳がめりこむ。
最強のダークマター怪獣の目から光が失われると共に、ついにその体は大爆発を起こして粉々となった。
「がっ!? ま、またもやグラールが!!」
腹心の本日2度目の死にメンシュハイトは動揺するも、怒りに燃えるゴモラⅡは容赦なく叩きのめす。執拗とも言えるほどに殴られ蹴られ痛めつけられ、帝王は見るも無惨なほどにボロボロにされていった。
「ヒャアアアアアア!!!!」
おぞましい金切り声と共に、帝王は巨大な光球を作製。これをEX怪獣に飛ばそうとする。
「ゴモラ!! とどめだ!!!!」
奇しくもかつてのレイを思わせる叫びと共に、EXゴモラⅡは頭部の四本角にエネルギーを収束。
「キヒャララララララ!!!!」
そしてそれが巨大な黄金色の破壊光線として放たれ、投げられた巨大光球と激突。
「グォォォォォォォォォォォォ!!!! ウガアァァァァァァァァァァ!!!!」
数瞬拮抗するも、ゴモラⅡの光線の方が勝った。光球は爆散し突き破られ、そのまま光線が帝王に直撃。高熱による激痛の余り、帝王は激しく絶叫する。
「ばっ、馬鹿なッ!! この私がァァ!! 宇宙の帝王たる私がこんな奴等にィィィィィィ!!!!」
帝王の野望が全て潰える――レイブラッド星人を打倒し、この宇宙を支配する野望が。
彼は後悔した――レイオニクスという存在を甘く見過ぎていたことを。
結局、彼は全宇宙どころか、この星1つ支配することすら出来なかったのだ。
「――――――ッッ!!」
やがてゴモラⅡの光線が止まり、メンシュハイトは解放された。
そのまま仰向けに倒れると大爆発を起こし、帝王はその野望諸共木っ端微塵となったのだった。
『友よ。終わったのだな』
「ああ、友よ。メンシュハイトは死んだ」
戦いのあと、まだ辛うじて息があったスフィアティグリスの元へ皆が集まり、報告をした。
『友よ。お前との冒険の日々は私の生涯で最も楽しい時だった』
「私もだ、友よ」
『だが名残惜しいが、友よ。そろそろお別れの時のようだ。
生まれ変わりというものがあるのなら、またお前と共に歩みたいものだ…』
「友よ。私達はまた巡り会えるだろうか」
『出来るとも。その時まで待っていてほしい。
では友たちよ、また会える時までさらばだ…』
最後に友たちに感謝の言葉を告げ、スフィアティグリスは光の粒子となり、死出の旅へと向かっていった。
「ティグリスは地球生まれの怪獣だという。彼の魂は地球へと帰れるだろうか」
「きっと帰れますわ…」
レイオニクス達は空へと帰る光の粒子をいつまでも見送ったのだった。
「油断大敵ですよ~?」
そんな彼等を邪魔しようとする赤髪の女がいた。
ヤプールのエージェント・ファムはちょうど遠方の崖からウルトラレーザーを構え、レイオニクスバトルを終えて油断していたところを狙っていたのだった。
「では、バイバイ♪」
戦いに勝利した瞬間こそ、人は最も無防備になるものである。
そこを狙えば、例え格上のレイオニクスだろうと始末するのは案外容易い。
「あらぁ? 感動的な場面を邪魔しちゃダメじゃな~い?」
「!?」
しかし、ここで何故か銃のスコープが黒くなった。いや、誰かが逆側から覗き込んでいたのか。
ファムが慌てて片目を離すと、隣に女が立っていた。紛うことなき美女だが、同時になんともけばけばしい身なりであり、怪しさは満点である。
「困るのよねぇ。レイオニクスバトルじゃない殺しは」
「…なるほど。試験官ですか」
「そ。話が早くて助かるわぁ~」
レイブラッド星人には3人の部下がいた。ペルフェクト星人、ラミアネロ星人、そして――
「レイブラッド三幹部が1人、“大魔術師”コボル星人ロックフォーヌよん。よろしくね~ん♡」
「ザディーメ…」
軽いノリの自己紹介のあと、ロックフォーヌの背後の空間に無数のハニカム構造で出来たゲートが現れたかと思うと、そこから彼女の使役怪獣が現れたのだった。
用語解説
古代怪獣 EXゴモラⅡ
レイオニクスの成長の果てに、ゴモラⅡが潜在能力を覚醒させ超進化を遂げた形態。レイのEXゴモラ同様凄まじい強さを誇り、弱体化したとはいえ究極進化帝王メンシュハイトを一方的に叩きのめし倒すほど。
体色は進化前と比べやや黒っぽくなり、目も白目となって凶悪な面構えとなった。全身の棘も増量し、攻撃的な発達を遂げている。能力も格段に強化され、メンシュハイトの攻撃すら意に介さず、角からの光線もゴモラのEX超振動波を思わせる超威力となった。
このように凄まじい強さを誇るが、レイのEXゴモラ同様一時的な変化に留まり、戦闘終了後は通常の姿に戻る。
どくろ怪獣 EXレッドキング
レイオニクスの成長の果てに、レッドキングが潜在能力を覚醒させ超進化を遂げた形態。最強怪獣に数えられる凄まじい強さを誇り、最強のダークマター怪獣にしてスフィア合成獣であるスフィアグラールやレイブラッド星人の憑依した暗黒魔鎧装アーマードダークネスを一方的に叩きのめし倒すほど。
目は真紅となり、体色は漆黒に所々赤く光るラインが走っている。両腕が胴体並に巨大化すると共に【爆炎発生コア】により凄まじい熱を帯び、岩石すら赤熱化させてしまう。単純なパワーも桁違いであり、特に地面に腕を叩きつけて炎を走らせる必殺技の【フレイムロード】の威力はアーマードダークネスにすら大ダメージを与えたほど。
このように凄まじい強さを誇るが、グランデの個体同様一時的な変化に留まり、戦闘終了後は通常の姿に戻る。
尚、レイオニクスの使役する個体に限らずEX怪獣が確認されるケースがあるため、元々ゴモラやレッドキングにはレイオニクスが関わらずとも種族自体にEX進化する素質があるという説がある。