――アロルム星人の地下研究所――
このアロルム星がレイオニクスバトルの会場となってから数ヶ月経つ。レイブラッド星人の後継者となるために異星人達がレイオニクスバトルを行う度、都市は壊され、焼かれ、滅んでいく。
しかし、ナドキエの主であるそのアロルム星人の研究所は都市郊外の地下に建てられているため、一応は被害を免れている。だが、ここで行われている行為からすると、いっそ壊れてしまった方が良かったかもしれない。
「ぐああああああああああああああああ」
「………………」
ナドキエは掃除機で廊下を掃除していたが、けたたましい作動音の中でも尚、ある程度聞こえるレイオニクスの絶叫にうんざりしていた。
おそらく、主人が研究所の最下層の実験室でレイオニクスからレイブラッドとかいう存在の遺伝子を抽出しているのだろう。しかしながら、そのやり方が甚だ痛みを伴うものらしい。あるいは本来大して痛みもなく時間もかからないはずなのに、主人の腕が洗練されておらず稚拙なせいでそうなるのかもしれない。もしくは嗜虐的な性格の主人のことだから、わざと拷問じみた方法を採用しているのか。
そしてナドキエにとって面倒なのはこの後である。この処置を受けたレイオニクスはもれなく死亡するため、その死体を捨てに行かねばならないのだ。当然、その役目はナドキエが担う。
(はぁ、嫌だな……)
よその星とはいえ、多くの者が暮らす街を燃やして平気な連中なのがレイオニクス。確かに同情の余地なき悪党には違いない。
とはいえ、苦しみ抜いて死んだ、まだ温もりの残る血まみれの死体の姿を見るのはとても嫌な気分になるし、何より彼等の姿が明日の我が身のように思えて、他人事には感じられなかった。
(ナドキエ、こちらの処置は終わった。死体を取りに来い)
(……はい)
そうして掃除も終わらない内に、主人から遺伝子抽出終了の報せが脳内に骨伝導で伝わる。ナドキエは掃除機を元の場所に戻したのち、研究所最下層へと向かった。
死体袋に詰められたレイオニクス達の遺体をナドキエは受け取ると、それらをエアカーに積んで早速出発した。
確かに非常に治安の悪い星ではあるが、それでも最低限の法律は存在する。故にその辺に死体を捨てるわけにもいかない。それでも幸いなことに深い崖がこの近くにあるため、ナドキエはそこに死体を捨てていた。
「こんな燃えちゃったんだ」
瓦礫が撤去されていない焼け焦げた街を見て、ナドキエはぽつりとそう呟いた。
目的地まで行くには街中を突っ切るのが最短ルートである。しかしながら、今日はいつも以上に憂鬱だ。
自分達ペルフェクト星人のことをこき使い、ひどい暴力を振るうアロルム星人達をナドキエはこの上なく嫌っていた。だがそれでも、彼等が暮らすこの街がレイオニクスバトルのせいで丸ごと焼失し、多数の犠牲者が出たことを喜ぶ気にはならなかった。
自分は奴隷の身分であるが、心までも主人達と同じように卑しくはなりたくなかったからだ。臆病で受動的な彼女ではあるが、それでもちっぽけながらプライドというものはあったのである。
『ピギャアオオ』
「………ん」
そうして、ちょうどムカデンダーとテリジラスが闘いを繰り広げていたビルの所まで来た時。何か怪獣の鳴き声のような音が聞こえたナドキエはエアカーを止めた。
「っ!………」
車から降りて音の発生源を辿っていく内、瓦礫の下から僅かに見える小さな青と白カラーの物体を確認する。そして辺りを見回し誰もいないのを確認すると、崩れかかった瓦礫の下から恐る恐る引っ張り出す。
(あの機械だ!)
主人や他のレイオニクス達が怪獣を操るのに使っていたデバイス、『バトルナイザー』。恐らくはここでレイオニクスバトルを繰り広げていたあの3人の内のいずれかの物だろう。
主と違い運良く助かったのか、あの業火の中でもきちんと原型を保っていた。強いて言うなら、せいぜい若干隅が焼け焦げて変形している程度である。そして、バトルナイザーはその程度で壊れるほど
その証拠とばかりに、3つの内の1番上の画面のみだが、登録されていると思しき怪獣が咆哮を上げて蠢いている。どうやら、先ほど聞こえた微かな鳴き声はこの怪獣のものらしい。
「わぁっ…!」
本来なら主人への報告義務がある。けれども、ナドキエは主人にはその発見を告げず、このバトルナイザーを自分の物にすることを即断した。
普段の臆病でやさぐれた彼女からは全く想像出来ない、まるで新しいオモチャを手に入れた子供のようにナドキエは目を輝かせた。そして眩しいほどの笑みを浮かべながらバトルナイザーを両手で天に掲げたのである。
「………ダメか……」
だが、そう決断したものの、(彼女に限った話ではないが)現実というものは非情にして残酷であった。
それから画面を触ったり、指でなぞったり、機械を振ってみたりと色々してみるが、バトルナイザーに全く反応はない。こうして直前の決意は全く無駄だったのだとすぐさま悟り、ナドキエは絶望し、ため息をついた。
(でも、記念に持っとこうかな……)
それでも彼女らしからぬ気まぐれか、自分には無用の長物だと分かっても、このデバイスを捨てる気にはならなかった。
自分が奴隷の境遇から抜け出す上で何かの役には立つかもしれない。特に根拠はなかったが、そんな予感があったのである。
「!」
そうして死体処理の仕事も忘れ、しばしバトルナイザーを見つめていたナドキエ。ところが、この青と白のデバイスは、彼女の奴隷からの解放を実現するどころか、余計な不幸を今招き寄せてしまった。
「おや、これはこれは。バトルナイザーの反応を辿ってみたら、なんとも幸先がイイ…」
突如テレポートで彼女の頭上の宙空に現れたのは、甲冑のような姿をした不気味な姿の宇宙人だった。
そしてさらに悪いことに、その手にはナドキエと同じくバトルナイザーが握られている。
「では、早速ですまないが……手合わせ願おうか?」
憑依宇宙人 サーペント星人(RB)
かつてウルトラマンメビウスと戦った宇宙人の同種族。母星はへびつかい座M9球状星雲に存在する。
赤と黄のラインで所々縁取られた灰色の甲冑のような見た目の宇宙人。尚、これは通常時の姿であり、戦闘時はさらに厳めしい大柄な甲冑のような姿へと変化する。ちなみに、全身を覆う装甲の内部は逆に90%以上を水分が占めるナメクジのような体質となっており、浸透圧の関係で水分流出が起きるので塩分が非常に苦手。
その名の通り憑依能力を持っており、死後間もない死者へと取り憑いて操ることが可能。また複数の個体が合体し、前述の巨大化形態に変化する能力があるが、その際は手からの水色の光弾を武器とする。
「………ッッ!!!!」
どういう状況かを理解した瞬間、ナドキエの美しい顔は青ざめ、心底恐怖した。
こいつは私をレイオニクスと間違えている。しかし「そうでない、人違いだ」と弁明した場合どうなるか。果たして、こいつは私を見逃してくれるだろうか?
「わ、私は……」
このバトルナイザーを渡して命乞いをするのは簡単だ。だが、それでも相手が聞き届けてくれるとは限らない。レイオニクスとはそういう人種だ。主人を散々見てきて、ナドキエはそれが骨身に染みて解っていた。
「………?」
勝負を申し込まれながらも、ただ狼狽えるばかりの女。そんな彼女のことをサーペント星人は訝しんでいたが、バトルナイザーを向こうが出している以上、こちらがレイオニクスバトルを躊躇う理由にはならない。
『バトルナイザー、モンスロード!』
「キュイイイイイイイイ」
昆虫型甲殻怪獣 インセクタス
かつてウルトラマンメビウスと戦った怪獣の別個体。その名の通り昆虫と甲殻類の特徴を併せ持った怪獣で、さらに雌雄で頭部の角の長さが異なる。
茶色い体色で赤い目、さらにはカニのように胴体と頭部・顔面が一体化したような形状の体躯を持つ。節足動物系の怪獣には珍しく二足歩行に進化しておらず、昆虫同様にゴツゴツした太い六本脚を生やしている。口もカニに似ており横に開閉し、ここから高周波を発して昆虫(主に甲虫)の群れを呼び寄せて操る。これは人間にとっても致命的どころか、ウルトラマンメビウスですら地面に倒れのたうち回ったほど強烈である。
また本個体は雄であり、雌の倍以上の長さのコーカサスオオカブトのような巨大な3本角を頭部から生やしている。一応、胴体の脇からも小さな鎌状の腕を生やしているが、敵の捕獲や攻撃などは
「ヒッ…」
いよいよ自身の命を狙う怪獣が目の前に現れ、ナドキエはさらに恐怖した。ところがバトルナイザーに頼りたくとも頼れない状態。ならば逃げるしかない。
「キュイイイイイイイイ」
しかし敵が逃げる素振りを見せた途端、そうは問屋が卸さぬとばかりにインセクタスは口から高周波を発し、付近に生息する虫達を呼び寄せた。
飛び回る虫の群れはナドキエに直に触れこそしないが、逃げられないよう周りを取り囲んだ。それでもナドキエは隙間を見つけて逃げようとするが、今度はサーペント星人が光線銃を取り出してナドキエの足元を撃って威嚇する。
「ハハハハ。黙って帰ろうとするなんてつれないなぁ」
ナドキエに光線銃を向けたまま、憑依星人はそう意地悪く笑った。
「ッッ……」
全身から冷や汗を流しながら、ナドキエはバトルナイザーを覗き込む。
「ッッ!」
「? 何をやっている?」
そして敵にバトルナイザーの画面を向けるが、何も起きない。続けて何度か振るが、これもまた反応がない。
そんな敵の滑稽な姿に、サーペント星人は面白さよりも不可解さを感じていた。
「何をしたいのかは知らないが、まぁいい。怪獣を召喚しなければ、今ここで死ぬだけだ!」
敵の意図が何にせよ、ナドキエはレイオニクスバトルを放棄したと見なしたサーペント星人は彼女を容赦なく処刑しようとする。
主の命令を受けたインセクタスは顎を開くと、咆哮と共に高周波を放出。虫にナドキエに集って嬲り殺しにするよう命ずる。
「お、お願いっ!! 私を助けてぇ~~っ!!」
『バトルナイザー、モンスロード!』
虫の群れが襲いかかろうとする刹那、ナドキエの必死の懇願が天に届いたのか。レイブラッドの遺伝子がないにもかかわらず、ナドキエはバトルナイザーを起動。いや、勝手にバトルナイザーの方が動いたのか。
「グウウアアアア!!」
「ギュイイ!?」
彼女が喚び出したのは救世主か。それとも全てを破壊する悪魔か。
主なきバトルナイザーから光となって飛び出したそれは、虫の群れとインセクタスを跳ね飛ばしながら顕現する。
「グウウアアアア」
どくろ怪獣 レッドキング(パワード)
かつてウルトラマンパワードと戦った怪獣の別個体。南米ギアナ高地で確認されたレッドキング種の亜種であり、付近一帯で暮らす原住民からは『レイロホ』と呼ばれる。
大まかな身体的特徴こそ原種と一致しているが、何処か愛嬌のあった顔つきの原種と違い、落ち窪んだ目と非常に恐ろしく厳めしい面構えをしているのが最大の相違点。また原種より巨体、足の指は4本、複数の鳴き声を使い分けるといった点も異なる。ただし他種の怪獣にも躊躇なく襲いかかるほどの凶暴性と、怪獣の中でも図抜けた怪力は原種と同じである。
「キュイイイイイイイイ」
突如現れた赤い怪獣。その全身から醸し出される凶暴性を感じ取り、インセクタスは即座に虫の群れのターゲットをこの怪獣へと変更した。
高周波に操られ、虫どもは怪獣の表皮に集り、噛みつく。
「ピギャアアオオオオ!!!!」
ところが、この赤いレッドキングにとってそれはただ鬱陶しいだけだった。強烈な咆哮で音圧が発生し、集っていた虫どもは即座にショック死。さらには足元のナドキエまでもがそれに跳ね飛ばされて転がっていった。
「うぅ……」
地面にみっともなく突っ伏すナドキエ。咆哮を間近でくらったせいで聴覚は麻痺してほとんど音が聞こえず、また衝撃波をモロにくらったようなものなので体の方も言うことをきかない。
だがそれでも、虫の群れに囲まれた先ほどよりは大分マシであろう。
「グウウアアアア」
「キュイイイイイイイイ」
主でないナドキエのことなど気にもせず、レッドキングは正面からインセクタスに挑みかかる。当然インセクタスは3本角で迎撃するも、体に角を突き立てられようが挟まれようが意に介さず、お返しとばかりにどくろ怪獣は左手で敵の顔面をぶん殴って逆に怯ませた。
「何なんだこいつは……!」
まさかこのレッドキングがナドキエとは全く関係ない存在だとは思っていないので、サーペント星人にとっては主を平気で巻き添えにするイカれた怪獣に映る。だが、その事実を差し引いても、その戦闘能力はなかなか脅威であった。
「だがな、私のインセクタスもまだ本気を出してはいないぞ。
論より証拠、それを今から見せてやる!」
けれども、サーペント星人もまだインセクタスに本気を出させてはいない。それを証明すべく、インセクタスは3本角の先端を合わせ電撃をレッドキングに浴びせた。
「グウウウウオオオオ!!!!」
強烈な電撃を浴びせられ、さしものレッドキングも苦しんだ。
「ハハハハ! このまま感電死させてやれー!!」
闘いの最中、バトルナイザーでデータを検索し、敵怪獣は飛び道具のない肉弾戦専門であることを憑依宇宙人は理解していた。
よって、ここは敵の間合いの外から一方的に電撃で攻撃し、そのまま敵を弱らせて殺す戦法を選んだのである。
「グウウ……!」
やがてレッドキングは耐えきれなくなったのか。そのままうつ伏せに倒れると、ビクビクと痙攣してしまう。
「おっと! 油断はせんぞ!」
「キュイイイイ」
しかし、敵の死んだフリからの反撃による逆転勝利はよくある話。よってサーペント星人は油断せず、敵の確実なる絶命を確認出来るまで電撃を浴びせる腹づもりだった。
「う、うぅ……」
一方、レッドキングに跳ね飛ばされたが故に蚊帳の外となっていたナドキエ。痛む体で這いずりながら、同じく吹っ飛んでいたエアカーまで向かう。
レッドキングを始末するのに夢中のサーペント星人はそんな彼女の動向を全く気にしておらず、それ故に極めて移動速度はゆっくりながらも邪魔されることはなかった。
「よ、良かった……ランチャーはまだ動く……」
レイオニクス捕縛の際にも活躍したエアカー上部のガンランチャー。ナドキエは体の痛みに耐えながら操縦席の窓から滑り込み、備え付けのタッチパネルを操作して弾種と砲撃箇所を選択。
「は、発射……」
あとはガンランチャーが自動で撃ってくれる。そして、どうにか効いてくれることを祈るだけだ。
「ハハハハ! 死ねぇ!!」
一方、ナドキエの小細工など露知らず、勝利が近づいていると確信したサーペント星人はインセクタスに電撃攻撃を続けさせる。
「ギュイアッ!!??」
「!? 何だ!?」
レッドキングの絶命は間近かと思われた。しかし、そこへ突如想定外の攻撃が飛んできたため敵主従は驚き、思わず攻撃をやめてしまう。
エアカーのガンランチャーから発射されたのは『対怪獣用徹甲弾』。名称に反し、残念ながら怪獣への効果は薄く、ましてやインセクタスは甲殻怪獣であるので尚更期待は薄い。とはいえ、それは真正面から分厚い甲殻を撃ち抜くという条件の場合である。
インセクタスは敵怪獣に電撃を浴びせることに注力していたため、小刻みに震えていただけで大きく動くことはなかったため狙いはつけやすかった。そのため、左の角の根本の関節部という比較的甲殻の薄い箇所に見事命中、関節部に穴を開けたのだった。
「ギュ、ギュガガガガ」
突如左角が動かなくなり、困惑するインセクタス。
「なっ! こっ、小癪な真似を! それにそもそもレイオニクスからの直接攻撃はレイオニクスバトルで禁止だろうが!!」
敵の明らかな反則行為に抗議するサーペント星人。ところが悲しいことに、彼が勝手に勘違いしているだけでそもそもナドキエはレイオニクスではない。それ故にこの闘い自体、実はレイオニクスバトルですらないのである。
「い、今よ! やって!!」
まだ聴覚は麻痺していたため、自分の声すら聞こえないが、ナドキエは声を振り絞って叫んだ。
「!!」
意識が飛びかけていたレッドキングだったが、ナドキエの叫びで目が覚める。すぐさま起き上がると、そのまま跳躍する。
「ギュ!?」
死にかけの敵のまさかの復活。それに驚いて反応が遅れたインセクタスにレッドキングはそのまま飛びついて組み付く。
「き、貴様放せ!」
敵レイオニクスはそう叫ぶが、もちろん敵が聞くはずもない。
「キュイイイイイイイイ!!!!」
組み付かれたインセクタスは再び角から電撃を放とうとするが、左角の損壊により発射まで時間がかかっていたところ、その隙を突いたレッドキングに左角を掴まれる。
「――――ギュガガアアアア!!??」
なんと折れた左角をレッドキングはそのまま怪力でもぎ取ってしまう。普通の怪獣と違い、動かせることが出来る故に中まで神経が通っていたのが災いし、インセクタスは痛みで絶叫する。
そうして敵が無防備になったところで、レッドキングはそのままもぎ取った角を口の中に突っ込むという残虐戦法を実行。これにより高周波を出して虫の群れを呼ぶことも出来なくなったところへ、容赦なく抱えて空中へ放り投げる。
「!? なっ何をする気だっ!!??」
敵の意図が分からずサーペント星人が絶叫する中、レッドキングは落下してきたインセクタスの顔面目がけ渾身の右アッパーを叩き込む。
「ギュガガガガ……!!」
そのままインセクタスの顔面にヒビが入り、それが全身へと波及。直後、昆虫型甲殻怪獣は大爆発し、木っ端微塵となったのだった。
「おっ、おのれぇぇ~~!!」
「!!」
使役怪獣が殺されたことにサーペント星人は激昂。そのままナドキエのエアカーまでテレポートで移動すると、運転席のナドキエの胸ぐらを掴み、光線銃を突きつける。
「よくも私の怪獣を!!」
敵が反則行為をした今、自分が直接敵レイオニクスを殺そうが咎められる筋合いはないというのが彼の主張であった。
「グワッ!」
「キャッ!?」
だがそこで、エアカーの車体スレスレに投げつけられた瓦礫がサーペント星人を直撃。そのままビルの残骸まで飛んでいったところで壁にぶつかって押し潰された。さしものサーペント星人も体丸ごと押し潰されてはさすがに再生出来ず、すぐさま絶命したのだった。
「た、助けてくれたの…?」
恐る恐る車の窓から身を乗り出すと、レッドキングはこちらをじっと見ていた。しかし先ほどとは違い、ナドキエに対して敵意は見せていなかった。
(いや、こっちが助けてくれたって思ったのかしら…?)
今の瓦礫の投げ方にしろ、わざと車体とその中にいるナドキエに当たらないように絶妙なコントロールをもって投げている。ナドキエのことをどうでもいいと思っているなら、わざわざこんな投げ方はしないはずだ。
確かにレッドキング単独なら、インセクタスに敗れていたのは事実。ナドキエの横槍があったからこその勝利ではあった。頭は悪いといってもその事実を理解するだけの知能はあり、また借りを返そうとする義理堅さもあるのだろうか。
「グルル……」
やがてレッドキングはナドキエの元に歩いて近づくと、その直前で静止する。
「……?」
その行動の意図が分からず、ナドキエは戸惑う。
しかしながら、レッドキングは何か気になるらしく、遠くを見つめている。
「……! あれは……」
ここで段々聴覚が回復してきていたことで、ナドキエも何が起きているのか分かった。彼女がやって来たのと同じ道を辿って、エアカーが走ってきていたのだ。そのけたたましい走行音にレッドキングは反応していたのである。
見れば、そのエアカーの外見には見覚えがある。彼女の主人が所持している2台の内の1つだ。
「御主人様……」
何を思ったか、ナドキエはバトルナイザー、さらにはサーペント星人がぶっ飛んだ際に操縦席の中に飛んできた光線銃を、車の後部座席の荷台の中に放り込んで隠した。どちらも
だが、向こうも何かを思ったのか。こちらにまでは近づかず、ある程度距離を取った時点でエアカーを止めた。
(ザザ……ナド…キ、エ………邪魔……ど、け……もど……)
(え? 今なんておっしゃったのですか? よく聞こえません…)
(もど……! ザザ……)
それからいつものように骨伝導通信が脳内に伝わったのだが、途切れ途切れでノイズが混じり、イマイチ要領を得ない。よって彼女は主人が何を伝えたいのか分からなかったし、こちらが聞こえないことを返事しても、これも伝わったかすら分からない。
「ピギャアアオオオオ!!」
「わぁっ!?」
仕方ないのでエアカーの方に近づいて話そうかと思ったところ、急にレッドキングが咆哮し、エアカーに向かおうとする。
「や、やめて!」
咄嗟にナドキエはレッドキングを制止する。だが――
(いや、この子がこのまま御主人様を――――そうすれば私は自由を得られる……!)
その瞬間、ナドキエにこのような暗い考えが浮かぶ。
現実問題、彼女にこの怪獣を止める術はない。あくまでこの怪獣が勝手にバトルナイザーから出てきたので彼女が召喚したわけではないからだ。
だから無力な彼女に止めることは出来ないし、
「………………」
ナドキエはそう考えると、レッドキングが暴れるのに巻き込まれないように距離を開けようと段々と後退っていく。
しかし何を思ったのか、同時に主人のエアカーも後退った。当然、向こうは浮遊する乗り物なのだから、ナドキエよりも速く、そして遥かに長い距離をだ。
『バトルナイザー、モンスロード!』
「!!」
僅かに聞き取れたのは、バトルナイザーの起動音だった。それも当然か。向こうは人工物とはいえ、それでもレイオニクスだ。
怪獣が襲ってくるなら当然迎え撃つ
「キシャアアオオ!!」
光の玉となって飛び出してきたのはゴモラ。気性の荒い両者が相容れるはずもなく、すぐさま取っ組み合ったのだった。
用語解説
憑依宇宙人 サーペント星人(RB)
かつてウルトラマンメビウスと戦った宇宙人の同種族。母星はへびつかい座M9球状星雲に存在する。複数体がメビウスと戦ったが実は彼等はエンペラ星人の配下であり、地球侵略の妨げとなるGUYSを殲滅するのが目的。
赤とオレンジに縁取られた灰色の甲冑のような姿をした厳めしい姿の宇宙人で、兜のような頭部の溝の一つ一つから水色の目が覗く。また、複数個体が合体し巨大化する能力を持ち、その際は見た目はさらに黒く禍々しい形状の甲冑のように変化する。通常時は光線銃で武装し、合体巨大化時は右手からの水色の光弾が武器。
別名通り、他者への憑依して操ることを可能とする。また見た目通り頑丈な装甲を持つが、体内は逆にほぼ水分で構成されたナメクジのような体質である。この体質と空気中の水分を吸収することで装甲の再生を可能とするが、水分の流出を起こすことから塩分には非常に弱い。この性質は取り憑いた人間にも反映され、不審なほどに大量の水分を取るようになってしまう。
ある個体が交通事故で亡くなったばかりのGUYS社員食堂の調理師の女性に乗り移り蘇生させる(尚、一応この時彼女の意識と対話したが、完全に偽りの内容を話して騙し、体を借りる許可を得て乗っ取った)。その後彼女の体を操りGUYS殲滅のため、仲間達共々暗躍する。しかしやがて女性が精神力で肉体を取り返し、他の個体を攻撃、GUYSと協力し打倒していく。残った5体が合体・巨大化し基地を破壊しようとし、メビウスと交戦するが、再生能力で圧倒する。しかし女性に弱点が塩分であることを暴露され、塩化ナトリウムの含まれた金属火災用の消化弾を浴びせられ錆つき、メビュームブレードで切り裂かれ粉となった。
本個体は全宇宙の支配者となるべく、アロルム星にてレイオニクスバトルに参加した。バトルナイザーの電波を辿り、それを持っていたナドキエに勝負を挑むが、そもそも彼女がレイオニクスではないことには最後まで気づいていなかった。
彼女が喚び出した(正確にはモンスロードではない)レッドキング(パワード)と使役怪獣のインセクタスを闘わせるが、ナドキエの横槍によりインセクタスは逆転負けし死亡する。それに逆上しナドキエを光線銃で殺そうとするが、レッドキングの瓦礫投擲によりビルに叩きつけられ、全身丸ごと潰れて再生も出来ず即死した。
昆虫型甲殻怪獣 インセクタス
かつてウルトラマンメビウスと戦った怪獣の別個体。その名の通り昆虫と甲殻類、2つの節足動物の特徴を併せ持った怪獣である。
そして卵から生まれた幼生はノープリウス形態を取り、人間に寄生する習性がある。そうして次々と宿主を乗り換えして成長するが、ある程度成長すると寄生をやめ、地底へと潜って脱皮を繰り返して成体となる。尚、成長自体は極めて早く、数日で数m台まで成長する上、幼生の段階から人間を出し抜く知性の高さを見せている。
黒とオレンジの体色、赤い目、横に開閉する口、鎌状の小さな両腕、太くゴツゴツとした六本脚が特徴。ちなみに、節足動物型怪獣は他の種族の怪獣同様、二足歩行に進化している場合が多いのだが、本種は通常の昆虫同様六足歩行を維持しているという点で特異な存在である。
また頭部に角を持つが、雌雄で大きさが全く異なる。雌はクワガタムシに似た短い角を持ち、雄はコーカサスオオカブトに似た巨大な3本角を持つ。尚、雌雄共に敵の拘束や攻撃といった行為には専ら角を用いており、両手はほとんど使用していない。
雌雄共に角から強力な電撃を放ち、さらには顎を震わせて高周波を発生させる。この高周波で虫の大群を操って敵を襲わせるのだが、これはメビウスが振り払えず悶絶するほど強力である。ただし高周波を発生させる際は無防備になる弱点があり、また喚び出す際には若干タイムラグがあるため、雌個体はその間に口を攻撃されて撃破された。そして、節足動物型のため胸部と腹部の間に神経節が存在し、この部分を攻撃されても弱体化する。
山岳地帯に現れた雌個体はGUYSに迎撃され、彼等及びマケット怪獣ウィンダムと戦闘。虫を喚び出そうとするも、その間に無防備になる弱点を突かれ、口内を頭部の光線で攻撃され爆死した。しかし、戦闘前に既に産卵しており、既に雄個体が孵化していた。
その卵の殻の残骸をトリヤマ補佐官が踏んだことで彼に寄生。さらにはテッペイ隊員の母に乗り移ってテッペイの両親の経営する病院に侵入、患者間で感染を繰り返して成長する。そして寄生をやめた段階で病院の地下に潜伏、GUYSの囮作戦も見破り、地上に出現した。
現れたメビウスも電撃で虫召喚で苦しめるが、腹部の神経節をGUYSのメテオールで損傷して弱った上、虫を喚び出せなくなったことで形勢逆転し、メビュームシュートをくらって爆散した。
本個体は雄で、サーペント星人(RB)に使役されている。能力自体はメビウスの戦った個体と同じで、虫の群れを喚び出す能力も同じだが、突如現れたレッドキング(パワード)には通じなかった。しかし敵に飛び道具がない点を突き、間合いの外から電撃攻めにして嬲り殺す作戦に出たが、ナドキエのエアカーからの攻撃で角を損傷。驚いて動きを止めた隙をレッドキングに突かれ、左の角をへし折られた挙げ句口にねじ込まれ、そのまま放り投げられ落ちてきたところを顔面にアッパーパンチをくらって大爆発してしまった。
狡猾な生態を持つ種族だが、サーペント星人(RB)には忠実に従っており、殺された際には主人は激怒していた。
どくろ怪獣 レッドキング(パワード)
かつてウルトラマンパワードと戦った怪獣の別個体。南アメリカのギアナ高地にてレッドキング種の亜種であり、付近一帯で暮らす原住民からは『レイロホ』と呼ばれ恐れられている。
大まかな特徴は原種と同じだが、顔立ちは目が落ちくぼみ、より恐ろしげで厳めしい。さらには原種より巨体かつ体重も倍以上であり、足の指の本数も4本(原種は3本)というように、細部は異なる。また雌雄で体色が異なり、雄は錆びたような赤色、雌はクリーム色となっている。ちなみに強さは雄の方が強いが、雌も他の怪獣の縄張りを奪おうと縄張り争いを行うなど、雌雄問わず凶暴な性格だが、一方で夫婦仲は非常に良く絆は強い。
原種同様戦法は肉弾戦のみで飛び道具は岩を投げるぐらいだが、雌は縄張り争いでチャンドラー(パワード)を岩壁に叩きつけて殺すなど、腕力は他の怪獣を圧倒する。
かつてギアナ高地を訪れたテレビクルーが出くわした雌個体はチャンドラーと縄張り争いを繰り広げており、死闘の末勝利する。その後テレビクルーを襲うが、そこへ助けに現れたW.I.N.R.、さらにはパワードと闘いになり劣勢となる。雌が助けを求めると雄が出現、パワードを2対1で追い詰めるも雌が目に被弾してしまう。そして雌はパワードを崖から落とそうとするも自分が落ちてしまい転落死(したと思われる)、雄は雌を助けようと自分の命も構わず崖から飛び降りようとするもパワードに引き止められ、悲しげに泣き崩れた。その後ドラコ(パワード)が地球に着陸・出現した際、出くわした雄個体(前回と別個体だと思われる)が瞬殺されている。
本個体は数日前のレイオニクスバトルの跡地でナドキエが拾ったバトルナイザーから出現した。おそらくそこで前回レイオニクスバトルを繰り広げていたメドウーサ星人、レギュラン星人、スチール星人のいずれかの使役怪獣だと思われる。とはいえ、その三者がいずれも出そうとしなかったように、性格は凶暴すぎて前の主人の言うことを聞かず、持て余していたようだ。
ナドキエがサーペント星人(RB)に襲われレイオニクスバトルを挑まれた際、彼女の懇願を聞き届けたかのように出現した…が、咆哮の音圧で彼女を跳ね飛ばすなど当初は無視同然の態度だった。しかし敵のインセクタスの電撃攻めに手も足も出なかったところ、ナドキエのアシストで敵に隙が出来、結果勝利出来たことから『借りが出来た』と認識。その後逆上したサーペント星人に襲われた彼女を瓦礫を投げつけて救い、一時的に主と認めるかのような態度を取った。その後、アロルム星人のゴモラと交戦する。