いつからだろう。このようにただ空気内を漂うだけの目に見えぬ塵のように漂うだけの時間が流れたのは。一年だろうか、十年だろうか、いや、更にだろう。自分のような存在にとって『時間』という概念はゴミ程の価値もないに等しい物だが『生前』の習慣だろう。時間に縛られて生きてきた自分にとって時間とはダイヤモンド程の価値のある物だった。まぁ、先程も言ったように今では価値のない物だが。
これから話す話題は聞く人間を選ぶだろう。なぜならこれから話す事のジャンルは世間一般的に言う『非科学的』や『オカルト』などに属すからだ。前置きはこれぐらいでいいだろう。単刀直入に言うならば…
自分という存在が『幽霊』なのだ。
『幽霊』死者の魂が成仏出来ずに現世えと留まり続けている霊魂。いわゆる現世に肉体が死滅しても汚く留まり続けている存在。それが自分だ。
普通ならば霊のような存在は生前、成仏出来ぬような事があり、それを悔み、心残りにして留まり続けているが普通なのだろうが私には少しも心残りが無いのだ。いや、更に言うならば私には記憶が『欠落』しているのだ。
まるでパズルのピースが欠落するかのように私の『記憶』のピースはたくさん欠落しているのだ。なら、欠落したピースはどこにいった? 箪笥の裏か? それともベッドの下か? 違う。『ピース』は無くなってしまった。跡形もなく消滅してしまった。もう、パズルは完成出来ないのだ。永遠に。
山岡第三
山奥にポツンと建っていた小さな病院の名前であり、現在の『家』と言ってもいい建物である。なぜ廃病院になってしまったのかは知らないが、建物内は少し目を瞑れば住めない事はない。当分の間はこの建物が我が家となるのだろう。
知性ある者にとって時に絶対に許せない事や癇に障る事などは必ず一つはある、ならば霊などの存在にもある。そして、その癇に障る事は現在進行形で起きている。
それは住居に無断で侵入されることだ。
「ここ、まじで出るっぽいぜ」
「おいおい、マジかよ、また嘘なんじゃねぇの?」
若くハリにある男の声が二つ。
こんな古びた廃病院によりによって男女のカップルではなく、男が二人で来るとは違う意味で出迎えたくもないのに出迎えなくてはならない『こちら』としては悲しくなる。いや、もしかしら『そういう』関係なのかもしれない。
まぁ、どちらにしても、招かれざる客である事は確かなのだから追い出させてもらおう。
この廃病院は幽霊である私にとっては大事な大事な家なのだから。