元便利屋は呪術と推理の世界で嘆く   作:鹿蹄草

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14 任務

 

2007年9月上旬

 

「……長期休暇、ですか?」

 

木造の、良く言えば味のある、悪く言えば古臭い教室に結月の声が響いた。

 

「ああ、枷場は高専に入ってから一度も取ってないだろう?ただでさえ今年は忙しかったし、何より君は例の土地神の件でほとんど休みが取れていなかったはずだ。その分もまとめて、というわけさ。」

 

 例の土地神の件、というのは、結月が入学してしばらくした頃にあった任務の話だ。

 二年生の先輩二人と同級生の伊地知と共にに行くことになった任務で、補助監督からは比較的安全な二級案件と聞かされていた。

 しかし、実際その場にいたのは等級違いの一級、それも土地神だったのである。二年生二人はその場にいた一年生を庇って重症を負ったため、土地神は結月の式神で討伐したのだが、その際、二年生二人の負傷を式神で治療したことが上層部の耳に入った。

 

「たしかに、あの件以降、反転術式が使える式神についてや、式神の種類について詳細に報告したり、高専の医務室で家入先輩に指導していただいたりして、土日祝日がほとんどなかったようなものですけれど。」

「……ごめんね?」

 

結月の担任である術師が申し訳なさそうにそう言った。

 

「べつに、構いませんよ。休みをもらっても寝るだけでしょうし。……でも、よろしいのですか?先生もおっしゃったように、今年は特に忙しいとお聞きしましたよ。周りにご迷惑がかかるなら、長期休暇は……」

「あぁ、それなら大丈夫!君がする予定だった任務含めて、ここら辺一帯の呪霊討伐任務は全部三年生の二人がすることになったから!」

「三年生?えーと、五条先輩と夏油先輩、ですよね?どうしてですか?」

 

結月の脳裏に背の高い白い頭と黒い頭が浮かんだ。

 

「いやぁ、この前あの二人が校舎とか校庭とか、とにかく学校の敷地を破壊しまくってたの覚えてる?」

「ええ、原因はよくわかりませんが何やら喧嘩しておられましたね。喧嘩が終わったあと、憑き物が落ちたような顔をしていらっしゃったのをおぼえております。」

 

結月にはよくわからないが、河原で殴り合って親交を深める系の何かだろう。特に夏油はなんだか危うい雰囲気だったのが、喧嘩のお陰で安定したようだ。若いっていいことだ、と結月は一人で頷いた。

 

「まぁ、それでね、あれの罰として、しばらく任務漬けなのよ、あの二人。」

「あら、まぁ……。」

「謹慎処分にするって案もあったみたいだけど、生憎そんな余裕ないからさぁ、代わりに今以上に仕事してもらおうってことになったのよ。おかげで、君以外の子たちも休みが取れるくらい楽になってるから、安心して休んで来なよ。」

「そう、ですね。そう言うことならお言葉に甘えることにします。次、まとまった休みが取れるのがいつかわかりませんし、家族に顔を見せたいです。」

「それがいいよ。あ、これ任務外での長期の外出に必要な書類ね。寮を出る一週間前までに寮監の先生に提出すること!」

 

「それじゃ!」という明るい声に応えながら退室した結月は、手の中にあるプリントをシワにならないように丁寧に亜空間に仕舞った。

 

「……もしもし、結月です。……うん、ごめんね、最近忙しくてあまり電話出来なかったよね。慣れてきたからもう平気だよ。……うん、元気だから心配しないで。」

 

ポケットから取り出して手に持った携帯電話からは母の声と一緒に賑やかな姉妹の声が聞こえてくる。

 

「母さん、私ね、今月末まとまった休みがもらえたからそちらに帰ろうと思うの。」

 

母の喜ぶ声に、結月は頬を緩めた。

 

「うん、わかった。じゃあね。」

 

ぱたり、と閉じた携帯電話をポケットに入れた結月は、いつもより軽い足取りで寮への道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

「何かいいことでもあったの?」

 

任務に向かう途中の車内で伊地知にそう言われた。

 

「そう見えるかな?」

 

結月はそう返して、照れくさそうにはにかんだ。

 

「じつは、今度休みを貰えることになったのだよ。実家に帰省する予定なの。」

「へぇ、そういえば、枷場さんってどこ出身?」

「東京だよ。」

「いいなぁ、いつでも帰れる距離だ。」

「そうだね。でも、やっぱり家から離れて暮らすのは少し寂しいよ。」

 

そんなことを話しながら、結月は手元にある任務の資料に目を落とした。

 

「厄介だよねぇ。」

「ああ、たしか施設の中に被害者が居るかもしれないんだっけ。」

 

肝試しで心霊スポットに行った挙句、行方不明となった少年が数人。どこからどう見ても自業自得で積極的に助けたくない種類の人間だ。しかし、残念ながら彼らの救出——もしくは遺体の回収——も任務内容に含まれているため、全力を尽くしたように見える程度には働かなくてはならない。

 

「あくまでも非術師の救出は“できれば”です。君たちが生き残ることを最優先にしてください。」

 

運転している補助監督がそう言った。

 

「はい。」

「わかりました。」

 

車が駐車場に停められた。車から降りると、結月は辺りを軽く見回した。

 

(……あれか。)

 

日当たりの悪い場所にある建物が結月の目に入った。陰鬱な雰囲気の廃病院だ。コンクリートの壁が所々ひび割れて黒くなっている。

 

「ガラスは割れていないみたいだ。」

「そうだね。」

「それでは帳を下ろします。どうかお気をつけて。」

「「はい。」」

 

補助監督の帳が青く澄んだ空を覆った。




伊地知さん、学生時代はどんな喋り方をしてたのかなぁ……。
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