元便利屋は呪術と推理の世界で嘆く   作:鹿蹄草

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メタ注意
主人公以外の転生者がいます。


16 米花町の出会い

 

2007年9月中旬

 

 小さな手を優しく握って、ゆっくりと歩いた。今年小学校に入学した妹たちは、その年齢にしては小柄な体で一生懸命歩いている。

 

「美々子ちゃん、菜々子ちゃん、疲れてない?ちょっと休もうか?」

「大丈夫!」

 

菜々子が元気にそう答えた。美々子がこくりと頷いたのを見て、結月は微笑んだ。

 

「足が痛くなったらすぐに帰るから、ちゃんと教えてね。」

 

すぐ近くに大きい道があるおかげで、人と車があまり通らない静かな道を二人の速さに合わせながら歩く。そうすると、普段は見えない小さなことに気がつくものだ。道端の花壇に珍しい花が咲いていること、たくさんの蟻が行列をつくっていること。小さな四つの瞳はキラキラと輝いた世界を映していた。

 

「おねえちゃん、これ何?」

「んー、多分鶏頭、かなぁ?」

「けいと?」

「け、い、と、う」

「けいとう?」

「そうだよ、鶏の頭と書いてケイトウと読むの。」

「ふーん」

 

服の裾が引っ張られた。

 

「どうしたの?」

 

結月はしゃがんで服の裾を握った美々子と目を合わせた。美々子はしばらく口をはくはくと小さく動かした後、ぽつりと言った。

 

「……おトイレ行きたい」

「そっかぁ、すぐそこにコンビニがあったはずだからそれまでちょっと我慢してね。菜々子ちゃんも一緒についてきておくれ。」

「はぁい」

 

菜々子に比べると美々子は少し大人しすぎるが、しばらく待てばしっかり自分の意見を言える子だ。これが本人の元からの性格なのか村での扱いのせいなのかはわからないが、そう心配しなくてもいいだろう。幼稚園での出来事を結月の母に楽しそうに話している様子を見るに、彼女たちなりに上手くやれているのだと思う。

 コンビニに入店して、美々子をトイレに連れて行った後、菜々子と一緒に店内を歩いた。財布の中には諭吉が一人と野口が数人、それと小銭がいくらかあったはずだ。二人に一つずつ何か買おうと思った結月がお菓子の棚に目を向けた瞬間、大きな男の声が聞こえた。

 

「手を挙げろ!……通報はするなよ、そのまま大人しく金を出せ!」

 

黒い目出し帽で顔を隠した男が包丁を握っている。立地があまり良くないせいで、昼間であってもほとんど客が居ない店内が緊迫した空気に包まれた。

 

(コンビニ強盗など、大した金にはならんだろうに。)

『吾子や、殺すか?』

『……いえ、警察が来るのを待ちましょう。』

「おねえちゃん……。」

 

ゆっくり、男に気づかれないように屈んで震える菜々子の体を抱きしめた。

 

「菜々子ちゃん、大人しくしていれば大丈夫だから。」

 

そう言いながら、結月はカードを取り出した。

 

(ダイヤのエース、ダイヤのキング。)

 

二枚のカードが煙と共に小人の姿になる。

 

(エースは美々子を守りに行っておくれ。それと、強盗が店から出るまでの間、美々子を個室から出さないように。)

 

ダイヤのエースが頷いて、結月の指示通りにトイレの方へパタパタと走って行った。

 

「おねえちゃんのともだちが一緒なら、美々子、絶対大丈夫だよね?」

「……そうだよ、おねえちゃんのお友だちは強いから。」

 

結月は小さな式神を目で追う菜々子の頭を優しく撫でた。店員が男の言う通りに震える手で袋に現金を詰めていく。

 この町において危険だとされているのは建物の中に人質と一緒に立てこもる危険思想の持ち主と所構わず爆弾を仕掛ける輩であり、強盗ではない。わかりやすく言うと、命に関わるかどうかの話だ。

 人質をとって刑務所にいる凶悪犯の解放を要求したりする奴は警察に自分の本気度をご理解いただくために人質を傷つけることが多いし殺すことも多い。爆弾は言わずもがな無差別攻撃であるので女子どもであろうと容赦なく殺される。

 その点、強盗の目的はあくまでも金なのだから、わざわざ足手纏いになる人質を連れて逃げる必要はないし、現金さえ受け取れば素早く撤収することがほとんどだ。したがって、よくわからないテロリストよりも強盗の方が一般人の命に関わることは少ないのである。

 

(まぁ、どちらにしろ犯罪者なのだが。)

 

 そういうわけで、結月はある意味安心していた。実際、結月の予想通り強盗はすぐに店を出たしトイレに居た美々子も回収できた。

 

「ちゃんと静かにできて偉かったよー。ご褒美に何か二つ買ってあげる。ただ、お菓子はお母さんと約束した時間にしか食べちゃだめだからねー。」

 

そういうと二人は元気に返事をした。念の為今日起こったことは両親にも報告するが、過度に怯えている様子もないため大丈夫だろう。

 

「二人とも同じものを選んだのね。ソフトキャンディと、もう片方は……なにこれぇ?」

「仮面ヤイバーチョコバー!」

「……ライダーではないのね?」

「ヤイバーだよ?知らないの?」

「うーん、ごめんねぇ、よく知らないや。でもかっこいいねぇ。二人ともこれで決まり?」

「うん!」

「ん!」

「それじゃあ、お会計しようか。二人とも、これ全部で何円か分かる?」

「978円!」

「せいかぁーい。1100円渡すから一緒にお会計しておいで。」

「はーい!」

 

千円札と百円玉を握った菜々子がお菓子を持った美々子の手を引いてレジに並んだ。この程度の強盗、米花町民は慣れたもので、警察に通報した後はもうすっかり元通りのように見えた。

 

「あの!」

 

時間を確認するために携帯を取り出した結月に声がかけられた。結月が目を向けると、そこには眼鏡をかけた少女が居た。背は大体170cmくらいで女性にしては高い方だろうが、それを隠すように猫背になっている。おどおどと目をあちらこちらに向けていることから、随分と気弱そうな印象を受けた。

 

「はい、どうされましたか?」

「……っ、えっと、その、さっき仮面“ライダー”って言いましたか?」

「ああ、お恥ずかしいことに間違えて覚えていたようです。“バイクに乗るからライダー”と、誰かから聞いたような気がしたのですけれどねぇ。」

「それじゃあ、名探偵コナンって、分かりますか?」

 

いきなり何を聞くのだろうと結月は思った。結月がほんの少し黙ったことで、少女は焦ったように声をあげた。

 

「いえ!分からなかったなら忘れてください!変なことを言いました!すみません!」

「え、いや、分かりますよ?」

「へ?」

 

少女が目を大きく見開いた。

 

「どうしたのですか?」

 

結月がそういうと少女の目からポロポロと涙が溢れた。結月は鞄の中から白いハンカチをそっと取り出して少女に手渡した。

 

「あの、何があったのかは分かりませんけれど、これを使ってくださいな。」

「は、はい、ごめんなさい、私、なんだか急にっ、やっと、ひぐっ、やっと知ってる(・・・・)人に会えてっ!」

 

結月はゆっくりと、しゃくりあげて泣く少女の背中を摩った。

 

「……大丈夫ですよ、きっと少し驚いてしまったのですよね。ゆっくり、息を吸って……吐いて……上手です。よく、頑張りましたね。……落ち着きましたか?」

「は、はいぃ。」

「おねえちゃん、その人どうしたの?」

 

会計から戻ってきた二人が泣いている少女をじっと見つめている。

 

「あー、んー、その、知り合い……かな?」

「ふぅーん。」

「すみません、すみません……」

「んー、とりあえず、場所を移そうか。私たちはこれから近くの公園に行く予定だったのだけれど一緒に来る?」

「はい……。」

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後二時半、公園は近所の子どもで賑わっていた。美々子と菜々子が二人で仲の良い子どものところに走って行くのを見ながら、結月は人気のないところにあったベンチに腰をかけた。

 

「座りませんか?」

「あ、はい。」

 

恐る恐る結月の隣に座った少女はコンビニにいたときよりもいくらか落ち着いているようだった。

 

「目、少し腫れてしまいましたね。」

「あ、いえ、すみません。このくらい大丈夫……です。」

「……少し失礼。」

 

そっと赤くなった少女の目元に触れた。ふわり、と結月の指先から優しい光が(こぼ)れた。光はすぐに、すぅ、と少女の腫れた目に吸い込まれるようにして消えてしまった。腫れが引いて元通りの目に戻った少女がぱちぱちと目を瞬いた。

 

「いまのって……」

「んー、まぁ魔法、みたいなものかな。」

「え、すごい。」

「んふふ、可愛い女の子にはもう一つ特別な魔法を見せてあげよう。」

 

少女から見えない角度で爆花弾を握った。

 

「オーキデウス」

 

囁くような声で結月がそういうと、コルクの抜けたような音がした。握りしめた結月の手の隙間から白い煙がほんの少し漏れ出す。結月がパッと手を開くと、沢山の鮮やかな花が弾け飛ぶような勢いで(あふ)れだした。

 

「すごい!綺麗……!」

 

少女の瞳がキラキラと輝いていた。

 

「よかったぁ、元気になってくれて。」

「え、あ……ありがとう、ございます。」

 

少女の頬が赤く染まった。

 

「もう大丈夫そうだね。……お話ししても良いかな?」

「はい!あの、私も聞きたいことというか、その、話したいことがあります!」

「どうぞ。」

 

結月が促すと、少女は目をあちらこちらに動かしながら口を開いた。

 

「えっと……あっ、まずは自己紹介っ!しませんか⁉︎」

「いいですよー。」

「はいっ!私は相澤仁菜(あいざわにな)って言います!えっと、あっ、……そのぉ」

 

仁菜が焦っているのを見て、結月は助け船を出した。

 

「好きな色は何でしょうか?」

「あっ、えっと紺色が好きです。」

「そっかぁ、私も紺色好きですよ。んーと、黒と白と青系は大体好きかなぁ。それと、赤系の派手な色はすこし苦手、かもしれません。」

「そうなんですね。」

「私の名前は枷場結月です。よろしくね、相澤さん。」

「は、はい!よろしくお願いします、枷場さん!」

 

相手の緊張が少しほぐれて来たように感じた。結月は安心させるように、わざと敬語を外して話した。

 

「相澤さんは、何か私に話したいことがあるの?」

「はい。……えっと、枷場さんは名探偵コナンを知っているんですよね?」

「うん、赤い蝶ネクタイの子が主人公の漫画だよね。たしか“体は子ども、頭脳は大人”と言っていたような……。」

 

随分と古い記憶のはずだが意外とはっきり憶えているものだ。毎年映画の広告を見ていたせいかもしれない。

 

「あー、あまり詳しくない感じですか?」

「そうだねぇ、映画は何回か観たし、アニメも最初の方なら分かるけれど、そこまで熱心に観ていなかったものだからかなり曖昧だよ。」

「あー、じゃあ、安室さんって分かりますか?あと、ポアロって知ってますか?」

「安室……女性歌手にそんな人がいたよね?ポアロ……すぐ近くにある喫茶店がそんな名前だったような気がするけれど……。」

「……なるほどぉ……。」

 

仁菜が頭を抱えた。結月は首を傾げながら仁菜の頭を撫でた。

 

「やさしぃ……。」

「あの、この質問には一体どういう意味があるのですか?」

「あっ、知識あり転生者かどうか知りたかっただけです。仮面ライダー知ってる時点で転生者なことは確定なので。」

 

結月の頭の中は疑問でいっぱいになった。

 

「転生者というのが輪廻転生した存在という意味なら確かに私は当てはまりますけれど、貴方もそうなのですか?それと、今の質問でどうしてそれが分かったのでしょうか?それと知識ありというのは一体どういうことでしょうか?」

「あっ、はい説明します。」

 

 

 

 

 

 

つっかえたり吃ったりする仁菜の説明を大人しく聞きおわった結月は、口元に手をやり目を伏せた。しばらくそうすると、手を膝に乗せて目を開け仁菜の方を見た。

 

「つまり、相澤さんの認識ではこの世界は名探偵コナンという漫画の中の世界で、その根拠となるものがいくつもある、ということだよね。」

 

仁菜は頷いた。

 

「……そう、だと思います。」

「そっかぁ。……うん、正直に言うと相澤さんの言うような“漫画の中の世界”というのは少し違うかなぁと思うの。」

「それって、私の話が信じられないってことですか?」

 

仁菜が結月を悲しそうな目で睨んだ。

 

「いや、相澤さんが嘘をついているとは思っていないよ。でもねぇ、漫画の中の世界というよりは、漫画に酷似した世界なのではないかなぁと思うの。」

「コクジ……すごく似てるってことですよね。」

「そうそう。じつは私、すごぉーく簡単に言うと元人間の妖精みたいな存在なのだよね。私自身、何度も輪廻転生している存在だから、異世界や転生については相澤さんよりも詳しいと思う。」

 

仁菜がぽかんと口を開けた。

 

「えっ」

「まぁ、色々なことを抜きにして簡単に説明すると、“世界”と私たちが呼んでいるものはそもそも複数存在しているし可能性で分岐して増えるものだからその中に一つくらい“別の世界で漫画として描かれている環境に酷似した世界”があっても不思議ではないと思うの。」

「えっ、あっ、なるほど?」

 

要するに、結果的に似ているだけで漫画とこの世界とは関係がない可能性の方が高いという話だ。

 

「分からないならそのまま流していいよ。私の考えが正しい保証もないし、相澤さんの言う通り“漫画の中の世界”という認識で大丈夫だよ。」

「は、はい……。」

「それで、相澤さんは、この世界で何をしたいのかな?」

 

仁菜は面食らったようだった。そして、しばらく黙り込んで、目を逸らした。

 

「……わかりません。」

「そっかぁ。」

 

なんとなく、何かあるんだろうなと結月は思った。

 

「もう四時だし、そろそろ私たちは家に帰るよ。これ、私の携帯の番号とメールアドレスだから、何かあったら連絡してね。」

「あっ、ありがとうございます。」

「今は休みなのだけれど普段は寮生活で忙しいから出来ればメールでお願いね。まぁ、その、返信には時間がかかるかもしれないけれど絶対に無視はしないから。」

「え、小学生で寮とかあるんですか?」

 

結月の頬が少し引き攣った。

 

「いえ、私は高校一年生ですよ。」

「えっ、あっ、ごめんなさい!」

「べつに構いませんよ。相澤さんはおいくつですか?」

「私は高三です。」

「私の方が年下ですし、敬語はやめませんか?」

「あっ、はいそうします。ところで枷場さんってどこの学校に通ってるの?ちょっと気になるんだけど。あっ、私は帝丹高校だよ!」

「私は東京都立呪術高等専門学校というところですね。それじゃあ、また今度。」

「……えっ、あっ、うん?」

 

美々子と菜々子に声をかけて、公園を出た。来た道をゆっくり歩いていると、「クロスオーバーかよ!」と叫ぶ声が遠くから聞こえたような気がした。

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