「とある筋からの情報でね。」
そう言って、黒い目隠しをつけた銀髪の大男がニヤリと笑った。
「内通者みーっけ。」
逃げる気はなかった。むしろ早くこの罪深く薄汚い私を捕まえてほしかった。
「抵抗しないんだ。」
その必要はない。私はそのまま五条悟に拘束された。
*
「先生」
あの頃とほとんど変わらない幼い顔がアクリル板の向こう側にあった。
「忌庫番が二人死にました。貴方が流した情報のせいですよ。」
「ああ、そうだろうね。」
「……息子さん、人質にとられていたのでしょう?少し前に事故で亡くなられたそうですね。それで心残りがなくなった、といったところでしょうか。」
そう言う彼女の顔は相変わらず少し眠そうで、何を考えているかわからなかった。そこまで調べていたのか、と驚く気持ちがあるのと同時に、いや、彼女ならそれくらい出来そうだ、という根拠のない信頼があった。
「私を代わりに差し出せばよかったでしょう。一応家系とはいえほとんど一般家庭出身で、人質にしやすい身内がいる。その上である程度上層部との繋がりも持てる立場、能力がある。おあつらえ向きだったでしょうに。」
「……可愛い生徒を身代わりにしたい教師はそういないよ。」
「先生を見捨てたい生徒だってそういませんよ。」
思わず笑った。喉の奥に何かが引っかかったような音が鳴った。
「相変わらずだな。」
「貴方の可愛い生徒ですから。」
「そうだね、枷場。」
「……はい、先生。」
私も彼女もしばらく無言だった。彼女が手に握った腕時計だけが、規則正しく動いている。
「先生、お恨み申し上げますよ。貴方がこうなる前に私を頼ってくだされば、私は恩師を失わずにすんだのですから。」
「……そうだろうね。」
情け無い、一人の男のくだらない見栄だった。なりふり構わず誰かを頼ればよかった。それこそ目の前の彼女を頼ってしまえば……
「ねぇ、先生。貴方が内通者だと五条先輩に教えたのは私、なのですよ。」
「そっか。」
私は昔と同じように彼女の頭を撫でようとして、冷たいアクリル板にそれを阻まれた。
「だから先生、私を許さないでください。死んでからもずっと、ずっと憎んでください。」
「……仕方のない子だなぁ。」
私は溜息を吐いた。
「枷場、君は昔から一人で抱えすぎるところがある。なんでもかんでも自分のせいにして自分を責めても良いことはないよ。……もう少し、周りを頼れるようになれば花丸だね。」
「せんせい」
迷子のような顔で彼女がこちらを見た。
「貴方がそれを言うのですか」
「たしかにね。」
「……敵いませんね。」
「先生だからね。」
私はそう言って、そのまま目を閉じた。
「さようなら、先生。」
「……うん、さようなら。」
彼女は無言で会釈をした。机に置かれた腕時計の針が、面会時間の終わりを示していた。
*
「そんな顔するくらいなら、僕に教えなきゃよかったのに。」
木陰でぼんやりしていると、後ろから声をかけられた。
「……そうですね、たしかに迷いましたよ。でも、先生は解放されたがっていたように思えましたから。」
「あっそ。」
そう言って、悟は自動販売機の缶ジュースを結月に手渡した。
「ところで、あの部屋に盗聴器が仕掛けられていましたが、わざとですか?特に隠すこともないので気にせず面会はしたのですが、あまり気分が良いとは言えませんね。不粋にも程がありますよ。」
結月の言葉を聞いて悟の表情が固くなった。
「……盗聴器なんてものを使う奴、呪術師にはあんまりいないよ。なんせワープロ使えないおじいちゃんが幅利かせてるんだから。」
結月が眉を寄せた。流石にそれは仕事をする上で大変なのではなかろうか。
「あの部屋、秘匿死刑前の術師用だし……掃除のために人を雇ってるからね。そこから入られたのかも。」
「なるほど。それなら後で回収にくるのではありませんか?」
「だろうね。」
悟があっさりとそう言った。
「ま、おじいちゃんたちの後ろ暗ーい話がどこに漏れようと僕には関係ないし。」
「……貴方がそれでいいのなら。」
結月はベンチの背もたれに寄りかかり、貰ったジュースの缶を自分の首に当てた。
「ちょっとは休みなよ。」
「それ、伊地知くんに言ってあげてくださいな。」
悟が顔を顰めた。結月は苦笑して缶を開けた。
ちなみに14で登場してる担任と同じ人だったりする。
妻の忘形見の息子、大事にしてたんだって。