回収した盗聴器のデータを確認して、降谷は眉を寄せた。
(まさか、彼女が……)
五条悟に接触した人間のうちの一人。枷場結月は小柄で大人しそうな女性だった。気弱そうな下がり眉の眠そうな顔が脳裏に浮かんだ。
(もっとも、中身はそんな可愛らしいもんじゃ無さそうだが。)
ビルの屋上からひらりと飛び降りた姿を思い浮かべて、降谷は顔を顰めた。
(研修医、26……はぁ?二つ下?どう見ても中学生だろ。……五条悟との接点は、高校か。……呪術高等専門学校、表向きは私立ということになっているが……)
資料を見ながら降谷は溜息を吐いた。部下に彼女の情報をもう少し調べてもらおう。そう思って、降谷はちょうど通りかかった風見に声をかけた。
「風見、この人物の情報が欲しい。特に高校時代から今にかけて関わりのあった人物について調べてくれ。」
「はい。」
受け取った資料を見た風見が目を見開いた。
「あの、降谷さん、彼女が何か……」
明らかに動揺している風見を見て、降谷はぴくりと眉を動かした。
「知り合いか?」
「はい。親戚、です。ほとんど妹のような……」
「そうか、なら別の者に頼もう。悪かったな。」
「いえ。」
そう言う風見の顔色は紙のように真っ白だった。降谷は苦笑した。
「……五条悟と同じ高校に通っていた。それだけだ。今も時折接触しているようだったので念のため、な。」
「そう、ですか。去年のテロの……」
風見が歯を食いしばったのがわかる。五条悟——すなわち呪術界——例の事件が全て終わった後、破壊された諸々の処理だけをなんの説明もなく公安に押し付けたことは記憶に新しい。どこまでも警察を見下して虚仮にしたあの態度。
「呪霊に呪術師、か。」
そんなオカルトじみた話、誰が信じるというのか。諸伏の潜入捜査中に、組織に情報を流した警視庁上層部と深い関わりがあるとみられる奴らを思い浮かべて、降谷は資料を握りしめた。
*
(……目が、頭が痛いな。)
結月は下級妖精が集めてきた情報を視て、眉を寄せた。氷水に浸したハンカチを熱が籠った目元に被せて、長くゆっくりと息を吐き出した。
妖精の集めてくる情報には、客観的な事実のみならず人間の感情や口に出さない考えも含まれている。そのため、視た直後はしばらく休む必要があった。元々自分の異能のおかげで慣れている結月は30分も休めば回復できるが、普通の人間に同じように視せた場合、熱を出して寝込むか……場合によっては廃人になるかもしれない。
(信じられない、というのは分かるけどさぁ……いや、警察上層部の蛆のやらかしと
結月は首を傾けた。
(おまけにあの盗聴器、彼が仕掛けたものだったのか。童顔に関しては人のことを言える身分じゃないだろうに。不粋で失礼な奴だな。……まぁ、アレに他人の空似で瓜二つ、というだけで、一方的に嫌うのはよくない、けれどね……。)
裕也の上司で仁菜の幼馴染、ということで少しだけ抱いていた親しみのようなものがたった今綺麗さっぱり消えた。怒りに似た複雑な気持ちを紛らわせるために、結月は明治の板チョコを一欠片口に放り込んだ。チョコレートに溶けるように消えていった苛立ちは、疲れのせいもあったのかもしれない。
(……あー、なんかもうどうでもいいや。)
濡れたハンカチが目の熱を奪っていくのが心地いい。目を閉じたまま手探りでチョコレートをもう一欠片口に含んだ。
(……アイツとは良くも悪くも別人だな、彼は。アイツなら絶対警察官になってお国のために働くなんてしないだろうし正義感のせの字もない。ついでに言うと道徳心に欠けているペドフィリアだから、どちらかと言えば捕まえる側ではなくて捕まる側か。)
そう考えて、結月は声を出さずに笑った。目の熱が引いたので当てていたハンカチを洗面器の中に戻して、結月はスマホの液晶を見た。
(今年、どうなるかは分からないけれど、とりあえず美々子ちゃんと菜々子ちゃんにお菓子を用意しておかなければね。)
そう考えて、机の上のチョコレートを見た結月の目は、いつものような墨色ではなく蜂蜜のようなとろりとした金色をしていた。
10月31日、ハロウィンは一ヶ月後に迫っていた。
・稚児趣味自己中ナルシスト
見た目はとても降谷零と似ている。
勇者が死んだあと、色々なところを放浪していた頃に出来たミヤの元友人。
とあることがきっかけでミヤが一方的に嫌うようになっただけで、彼自身はミヤを嫌ってはいないし、そもそもミヤのことも覚えていない。自分以外の人間を皆見下しているが、外面を取り繕うのが上手いのでそこそこ上手くやっていた。男の子が好きだけど別に女とできないわけではない。
職業はヒモ兼詐欺師兼占い師。痴情のもつれで刺されて死んだ。