元便利屋は呪術と推理の世界で嘆く   作:鹿蹄草

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主人公の名前が多いため、誤解のないように説明します。
前々世 :橘小夜 一般人(多分大学生)
前世 :ミヤ・クロム 便利屋
今世 :枷場結月
となります。


3 2006年5月下旬 枷場結月の日常2

 

 

 

「天内さん、この本を棚に戻して欲しいな。」

 

結月が小さな声でそう言った。

 

「はい!枷場先輩。」

 

後ろで一本の三つ編みにして、頭にヘアバンドを付けている少女が答えた。

 

「貴方も大変だねぇ。私は好きで図書委員会に入ったけれど、普通はこんなに仕事が多いところは嫌でしょう?」

 

この、廉直女学院の図書館は外装にも内装にも凝っている。広い館内には、所々、マリア像らしきものや宗教画のようなものが飾っており、ステンドグラスもあるため、雰囲気はお洒落な教会のようだった。

 

「……じゃんけんで負けました。」

「ふふ、……私一人でも大丈夫だから、用事があるなら早めに帰ってもいいよー?」

「……家で、くろ、……家族が待っているから早めに帰ってもいいですか?」

「いーよ、気にしないで。」

 

天内が『くろ』と言いかけたのを聞いて、結月は天内がペットを飼っているのかも知れないと思った。

 

(……ペットの世話が必要だとすると、あまり長時間拘束するのは可哀想だな。)

「今から帰ってもいいよ?さっきの本を棚に戻したから、今日の仕事はほとんど終わったようなものだもの。あとは受付で座っているだけでいいから楽だよ。」

「ありがとうございます!さよなら、先輩!」

「はーい、さようなら。……気をつけてねー。」

 

バタン、と図書館の扉が閉じた。図書館の中には結月以外誰もいない。結月はふわり、と重力を感じさせない動きで床から浮き上がった。それと同時に結月の背中から純白の翼がゆっくりと生えてくる。

 

『魔王さん、人が近づいてきていたら教えてくださいね。』

『分かった。』

 

結月の異能力によって構築される翼は、人間の目で見ることができる上にはっきりとカメラにも映るため、迂闊に使えないのだ。だからと言って、長期間使わずに生活していると、なんとなく痒みのような不快感を感じるため定期的に使う必要がある。

 

(翼の大きさを調節して小さくすれば私の部屋にも入るが、やはり本来の大きさで出したほうが気持ちが良いからな。役得という奴だ。)

 

防犯カメラは図書館の入り口にしか設置されていない。結月は羽根が散らないように気をつけながら、ゆっくりと羽ばたいた。

 

「——♫♪——♬……♩」

 

はっきりと思い出せないほど昔に聞いた、もう旋律しか覚えていない歌を小さく口ずさみながら、結月は机の上に置かれていた数冊の本を抱えて図書館の中を飛んだ。150cm未満の小柄な結月では手が届かない棚の上に本を置くと、結月はふわり、と床に降りて背中の翼を仕舞った。

 

「……思ったよりも散らかったねぇ。」

 

精々二、三枚床に散らばる程度で済むと思っていたのだが、図書館の床には十数枚の羽根が散乱している。

 

「ま、大した量ではないし、片付けてしまおう。」

 

金色の鱗粉のようなものをサラサラと落としている白い羽根を全て拾い集めて、学生鞄のポケットに入れると、結月は受付の椅子に座って本を読み始めた。

 

『吾子や、人間が来たぞ。』

 

本を読み始めてしばらくすると、魔王の声が結月の胸の中心から聞こえた。

 

『分かりました。ありがとうございます、魔王さん。』

 

そう言って、結月は読んでいた本に学生鞄のポケットの中に入れていた羽根を一枚挟んだ。

 

 

 

 

 

 

閉館時間を知らせるチャイムが鳴った。

 

「司書の先生とシスターはまだ来ていないな……。先生たちが来るまでに戸締りをしておこう。」

 

そう独り言を言うと、結月は受付から立ち上がって館内を歩き始めた。照明の少ない館内は薄暗くなっており、少し不気味だ。館内に生徒が残っていないことを確認しながら窓を閉めていると、結月は受付の机の下に金具が壊れた猫のキーホルダーが落ちているのに気付いた。

 

「落とし物かな?落とし物入れに入れておこう。」

 

結月がそう呟いたとき、図書館の扉がガチャリと音を立てた。

 

「ごめんなさい、遅くなったわ、枷場さん、天内さん……あら?天内さんはどうしたんですか?枷場さん。」

 

若いシスターが扉から図書館の中に入ってきた。

 

「天内さんは用事があるため先に帰りましたよ、シスター。……先生はどちらにいらっしゃいますか?」

 

結月がシスターに尋ねた。

 

「ああ、先生は今日、風邪でお休みなんです。」

「まあ、それは大変ですね。……館内の戸締りはしておきましたよ。鍵をお渡ししてもよろしいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。気を付けて帰ってくださいね。」

「はい、さようなら、シスター。」

 

学生鞄と読みかけの本を持って図書館を出た結月は、家に帰る途中で落とし物の猫のキーホルダーをそのまま図書館から持って来てしまったことに気が付いた。

 

(……ま、明日も委員会だし、そのときに落とし物入れに入れよう。)

 

結月は心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました。」

 

玄関の扉を開けてそう言った結月の目に映ったのは、母と談笑する男性の姿だった。

 

「お久しぶりです、伯父さん。」

「おお、久しぶり、結月ちゃん。大きくなったなぁ、若い頃の美子によく似ている。」

 

伯父は結月の頭を軽く撫でた。

 

「結月、おかえりなさい。裕也くんも来てるわよ。」

「そうなんだ。リビングにいるの?」

「そうよ。」

「分かったー。」

 

結月は母にそう言って、洗面所で手を洗い自分の部屋に入った。

 

(一体何の用事だろうか?……まぁ、大したことではないだろうけれど。)

 

制服を脱いで私服のワンピースに着替えながら、結月はぼんやりとそう思った。

 伯父が結月の家に来るのは珍しいことではない。伯父一家は結月の母方の祖父母の家に住んでおり、結月の母の実家の近くに家を建てた結月の両親と懇意にしている。

 ちなみに、結月の父は自分の両親との折り合いが悪く、ほとんど絶縁状態だ。そのため、結月は父方の祖父母とは一度も会ったことがない。

 

「お久しぶりです、裕也兄さん。」

 

自室に鞄を置いてきた結月が裕也に声をかけた。

 

「ああ、久しぶり。」

 

ソファに座ってテレビを観ていた裕也が結月のほうを見た。

 

(そういえば、今年の10月からコー◯ギアスの放送が……いや、この世界でも存在するのか?)

 

テレビを見て、ふとそんなことを考えた結月は裕也の隣に座った。

 

「何を観ていたの?」

「いや、大したものではないよ。ただのバラエティー番組だ。」

「そー?」

 

結月は部屋から持って来た本を読み始めた。

 

「その羽根、どうしたんだ?」

 

本に挟んでいた羽根を見て、裕也が言った。

 

「……学校で拾ったの。綺麗だったから栞として使っているの。」

 

結月がそう言うと、裕也は結月の持っている羽根に触れた。

 

「確かに綺麗な羽根だな……。この、金色の粉はなんだろうか?」

「んー、まぁ、毒ではないよ、多分。」

 

羽根から溢れている金色の粒子の正体は結月の霊力が集まって細かい結晶となったものである。無害どころか、むしろこの世界においては呪霊避けにもなる代物だ。

 

「そうか、ま、悪いものには見えないし大丈夫だろう。」

「ええ、……私はもう何枚か持っているから、よかったら一枚裕也兄さんにあげようか?」

 

結月がそう言うと、裕也は驚いたような顔をした。

 

「いいのか?でも、大切なものなんじゃ……。」

「……学校の、図書館の中によく落ちているの。……もしかしたら天使の羽根かもしれないよー?」

 

結月が軽い調子でそう言うと、裕也は笑いながら言った。

 

「はは、そういえば、結月が通っている学校はミッション系だったな。」

「そーそー、週に一回ある礼拝がとても面倒なのだよー。……ね、ご利益がありそうだし、お守りとして持っていたら?」

 

結月がそう言うと、裕也が微妙な顔をした。

 

「俺は仏教徒だぞ……?」

「うーん、一月に初詣、八月にお盆、十二月にクリスマス、除夜の鐘……という具合に、いい加減な宗教観の民族に言われてもねぇ……。それに、私も家にお仏壇があるから仏教徒のはずだよー?」

 

結月の言葉に裕也は不思議そうな顔で頷いた。

 

「……それもそうか?ま、ありがたく貰っておくよ。お守りとして。……定期入れか財布の中にでも入れておこうかな。」

「んー、お守りだったら、出来るだけ長時間持ち歩いたほうが良さそうだよねぇ?」

(……私の家は常に浄化しているけれど、裕也兄さんの家はそうではないし……この際裕也兄さんの家にも常に浄化を……。)

『吾子が望むならそうしても良いが、どうする?』

 

結月の胸の中心から魔王の声が聞こえた。

 

『……はい、お願いいたします、魔王さん。』

 

口を動かさずに、精霊語で結月は魔王の声に答えた。

 

(……羽根を渡しておけば、いざと言うときの身代わりくらいにはなるはずだ。周囲の呪霊の被害もある程度防ぐことができるだろうし……裕也兄さんだけでなく他の家族にも渡しておいたほうが良いな。)

「結月、どうしたんだ?急に黙って……。」

 

結月の耳に裕也の声が聞こえた。

 

「……ん、ああ、ごめんなさい、考えごとをしていて聞いていなかったの。」

「そうか、夕ご飯が出来たとさっき美子さんが言っていたぞ。早く行こう。」

「はーい。」

 

裕也と一緒にソファから立ち上がった結月は軽く目を閉じた。

 

(……裕也兄さんは、非術師(人間)だ。)

 

結月のように、この世界で呪霊と呼ばれている者たちを見ることはできない。風見裕也は純粋なこの世界の人間だ。だから、結月(この世界にとっての異物)よりも呪力や呪霊に対する耐性がある。

 

(私のように、綺麗な空気の中でないと息が苦しいわけではない。)

 

もしかしたら、余計なお世話なのかもしれない。

 

(……それでも、呪霊は人を害する。)

 

そのことに、結月はつい最近気が付いた。呪霊が人を殺しているところを見るまで、『見た目が醜悪なだけの精霊のようなもの』と認識していた自分が信じられなかった。

 

(……平和呆けというやつか?……あれほど邪悪な気配のするものが良いもののはずがないというのに。)

 

結月はミヤとして生きていた頃よりも、自分の周囲に対する警戒心が薄くなっていることを感じていた。それは、結月として産まれてからずっと、魔王という絶対的な保護者が共にいて、呪霊(危険物)に直接触れる機会が少なかったことも影響している。

 

(まぁいい。……最低限、両親含む身内の安全は確保しておかなければ。)

 

結月は一人で静かに決意した。

 父と母、伯父一家が席に着いて談笑している温かい空間。それを守るのが、枷場()結月()として産()まれ()た紛()い物()を育ててくれている両親に対するせめてもの償いだと結月は自分に言い聞かせた。そうすることで、責任を果たさなければ、と自分を鼓舞した。

 

(……やはり、呪術師になったほうが守りやすいのだろうか?)

 

東京都立呪術高等専門学校

 

この世界の情報を結月が集めているときに知った名前だ。

 

(妙な(しがらみ)が少ないのは東京校だが……東京校(あそこ)の今年の二年生とは関わりたくない。)

 

五条悟、夏油傑、家入硝子……三人とも優秀だが、その内の二人はクズコンビ(最強)として有名だ。

 ハンバーグを箸で半分に割りながら結月は心の中で溜息を吐いた。とろり、と白いチーズが肉汁と一緒に溢れた。

 

(それに、おそらく東京校のほうは五条悟に対する上層部からの嫌がらせで色々と忙しいだろう。)

 

この前、魔王の眷属の精霊が集めてきた情報の中にそういう類の資料があった。

 

(……ただでさえ人手不足だというのに、わざわざ自分たちで減らしているのだから、世も末といったところだな。……ま、それはどうでも良いが、もし仮に呪術師になるつもりだとしたら、上層部による五条悟に対する嫌がらせ(そういう事情)がない京都校のほうが良かろう。……選べるものなのかどうかは分からないが。)

「——き、結月!」

 

裕也が大きな声で結月を呼んだ。

 

「……へ、なぁに?」

「体調が悪いのか?さっきからずっとぼんやりしてたぞ?」

 

心配そうな顔で皆がこちらを見ている。

 

「大丈夫、少し眠いだけだよ。」

 

結月は柔らかく微笑んでそう言った。




アンケートの内容はあくまでも参考にするだけです。

主人公は、呪術高等専門学校に……

  • 入学する(東京校)
  • 入学する(京都校)
  • 入学しない
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