元便利屋は呪術と推理の世界で嘆く   作:鹿蹄草

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32 鉄屑と肉の雨

 

 

「飛行機って、呪術師なら落とせるもんなんですか?」

 

ふと護衛の男からそんなことを聞かれた。結月は男の方に顔を向けた。小春日和の今日、医務室にはやわらかい陽の光が差し込んでいた。

 

「んー?人によるでしょうね。呪術師と言っても個人差というものがありますから。」

 

結月は視線を斜め上に向け首を傾げ、考えながらそう言った。飛行機の運転席にいる人間を攻撃すれば一発だろう。仮にドローンのような無人機であっても通信部分を壊してしまえばいいのだから呪霊を相手にするよりはよほど簡単な作業だ。一級呪霊と違い再生はしないのだから一度壊してしまえばそれで終わりだ。空中戦が出来る者は限られているが、夏油傑特級術師の力を借りれば問題ないだろう。

 

「どうしていきなりそんなことを?」

「いやぁちょっと気になって。ほら、呪術師ってなんだか魔法使いみたいじゃないですか。」

「そう言えるほど万能な方は少ないですねぇ。呪術師という名前からそういう想像をされる方も多いかもしれませんが、私たちの仕事ってほとんど害獣駆除のようなものなのですよ。」

 

いかに効率よく駆除するか、その点においては害獣も呪霊も呪詛師も大して変わらないと結月は思う。

 結月は手の中に乳白色の小さなガラス玉を出した。ポンという軽い音と共に白い煙に包まれたガラス玉は、澄んだ空の色をそのまま吸い込んだような美しい色の一輪の薔薇の花へと瞬きの間にその姿を変えていた。結月は男の目の前で鮮やかな青薔薇の花弁を優しく撫でて、そうしてそのままそれを床にぽとりと落とした。

 

「見栄えが良いだけの力など、なんの意味もありません。」

 

床に落ちた花を結月はくしゃりと踏み潰した。男が少し眉を寄せた。結月が自分の華奢な足を退けると、そこには無残に潰れた花ではなく透明なガラス玉が転がっていた。

 

「生きるか死ぬか、殺すか殺されるかの場では特にそうでしょう。」

 

結月は透明な(・・・)ガラス玉を拾い上げて、屑籠の中に入れた。

 

「我々は、生まれつき使える力がある程度決まっているのですよ。私なんかは、まぁ、落ちこぼれな方です。言ってしまえば子ども騙しの手品みたいなものですからね。そんなのでも人間の治療に使える力を持っているのでここに置かれています。」

 

無害に見えるように、眉をほんの少し下げた笑みを浮かべて結月はそう言った。気弱そうに謙遜してみせ、相手がこちらを無意識に侮るように仕向ける。疑いの目を逸らすために、弱者であることをさりげなく演出した。

 

「枷場さんならどうやって飛行機を落としますか?」

 

男が尋ねた。

 

「私ですか?私はそういったことはあまり……。」

 

人間の胃袋内に直接睡眠薬を生成する。飛行機のプロペラに毛布などの異物を入れる。運転席にいる人間の視界を奪う。簡単に考えるならそんなところだ。もちろん渋谷で起こったテロのときに使ったような大きな式神に飲み込ませるという手もある。

 

(おそらく渋谷の件で私が使ったアレのせいでアメリカの方から何か言われたんだろうな。)

 

あのとき捕まえた米軍人は今もなお戦闘機ごと空飛ぶ鯨の腹の中だ。腹の中に入った時点で人間と戦闘機とに仕分けてある。最近では部屋のお題も熟さずに白い部屋の地べたに座り込んで虚空を見つめ続ける者ばかりになった。結月としてはこのままでも構わない。彼らは呪術師を誘拐しエネルギー資源として活用するためにこの国まで来たのだ。彼ら自身が逆に拉致され行方不明になったとして、それは自業自得以外の何物でもないだろうと結月は考えていた。

 

(どうしたものか。)

 

はなから自分たちを家畜のように扱うつもりの輩に向ける慈悲などない。今まで鯨の腹の中に放置していたのは低コストで害獣を甚振ることができるからだ。忘れていたわけではないが、一時の感情で捕獲したそれらを結月は持て余していた。

 

「すみません、あまり面白い話ができなくて。」

「いえ、こちらも変な話をしてすみません。」

 

男は人の良さそうな笑顔のまま誤魔化すように頭を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 米国の領海に墜落した米軍の戦闘機のニュースをスマートフォンで眺めながら、結月は紅茶を一口飲んだ。

 

「少し熱かったかな。」

 

赤いジャムをつけた素朴なクッキーを一つ摘むと、結月は薄く微笑んだ。各メディアでは、戦闘機と同時に上空から降り注いだ米軍人のものとみられる大量の肉片についても盛んに報道されていた。

 

「おはよう!」

 

クマタロウがそう言った。結月は声の方に顔を向けて微笑んだ。

 

「おはようございます。」

「うーん。早速ニュースになってるね。」

 

クマタロウが大きく背伸びをするように体をピンと伸ばした。

 

「嫌がらせなら何度かに分けてもいいと思うけど、これで良かったの?」

「面倒でしょう?色々と気をつけることも多いですもの。……首尾はどうでしたか?」

「上々。証拠はないよ!誰から見ても不可解で奇妙な事件に見えるはず。なんだかとってもオカルトチック⭐︎もしかすると宇宙人やUMAの仕業かも!みたいな噂もあるくらい。」

 

クマタロウがぐっと片手を上げた。彼の手が人間と同じ形をしていれば、きっと親指を立てていいねをしていたことだろう。

 

「ありがとう。」

「どういたしまして。それじゃあおやすみ!また用があるときに呼んでね。」

「ん。」

 

結月が軽く頷くと、クマタロウの体はぱたりと力を失ったようにソファの上に転がった。

 

『今日はあの目障りな男たちは来ないのだろう?』

(『連絡がありましたね。急な体調不良ということでしたが。』)

『こちらに手を回す余裕も無くなったのだろうよ。』

(『まぁ、そうでしょうねぇ。』)

 

魔王が機嫌良さげにくつくつと笑った。羂索やその他呪詛師と繋がりを持っていた各国の権力者は既に秘密裏に始末している。残るは日本国内だが、国内の要人は呪術界との付き合い方が上手い者が多い。特に害がなければ見逃しても良いだろうと結月は考えていた。

 

「ミヤもこれくらい出来れば楽だったでしょうに。」

 

結月はそう呟いて天井を見上げた。晩年はともかく、幼い頃のミヤ・クロムが出来たのは、精々荷物運びと水汲み炊事、簡単な傷の手当てくらいのものだ。体力や霊力には限りがあったし、自分の身を守るので精一杯だった。

 

(そんなことを考えても仕方がありませんね。)

 

結局今ここにいるのは仲間に逃がされ浅ましくも生き延びた娘の成れの果てなのだから。結月は目を閉じて、そうしてそのまま仮眠を取ろうとした。休憩が終わるまでにはまだ時間があったためだ。

 

「——ッ!」

 

唐突に、ガタリ、と音を立てて結月は椅子から立ち上がった。結月の首筋に静電気が弾けたような感覚が走った。

 

「兄さん……」

 

羽根が、持ち主の危機を知らせている。結月は血の気が引いた顔でスマートフォンを見た。

 

(……もどかしいな。)

 

結月は自分の霊力を遠く離れた一枚の羽根に流し込んだ。

 




虐殺はしても身内は大事という人間らしさ。
書いてる人が頭良くないせいで色々とガバい。
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