元便利屋は呪術と推理の世界で嘆く   作:鹿蹄草

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前話を投稿した日から間が空いてしまい申し訳ございませんでした。
今回はコナンよりの話です。一応、結月の術式を誤魔化すための道具も登場します。


7 東洋の魔術師

 

 

日曜日の午前中、結月は一人で公園のベンチに座っていた。結月は右手をぼんやりと眺めて溜息を吐いた。

 

(……つけ心地は微妙……というよりも、指に何かを嵌めているという状態に対する違和感が強いな。慣れれば問題ないだろう。)

 

結月は心の中でそう呟きながら、右手の薬指に嵌められた簡素な指輪を撫でた。この指輪は、結月が異能力を使用して作った神器だ。これの効果は主に、装備者の術式の偽装と、装備者以外に対する指輪の存在の隠蔽である。

 

(隠蔽の効果を付与したおかげで、装備者である私以外の目には見えず、触れることもできないから、これからは常に身につけておこう。)

 

指輪なら、常に嵌めていても問題はない。結月は指輪が嵌められた右手を軽く握り締めた。

 

(……偽装した術式も問題なく使用できるみたいだな。)

 

素早く開いた右手の中にはトランプカードの束があった。

 

「……ジョーカー。」

 

束の中から一枚抜き取ったカードの名前を結月が口にすると、カードは空中に溶けるようにして姿を変えた。

 

(ん、想像通りだ。)

 

結月の目の前には、ジョーカーのカードの代わりに3mほどの大きさのピエロが立っている。

 

(……実験をしたのが家の外で助かった。)

 

結月の部屋には入らない大きさだ。もし、部屋の中で偽装術式の実験をしていれば、部屋の中が大変なことになっていただろう。

 

(……うん。設定した通り、ピエロは公園にいる人間の目には見えていないようだ。)

 

公園で遊んでいる子どもたちは平然と遊び続けている。

 結月はそれを横目に見ながら、子どもたちの輪から外れて一人で砂場遊びをしている男の子に声をかけた。

 

「ねぇ、君、これが見えるかな?」

「……トランプ?これがどうしたの?」

 

結月が右手に持ったトランプを見せながら声をかけると、男の子が鬱陶しそうな顔をしながら結月の問いに答えた。

 

(これも設定通り。トランプカード自体は普通の人間にも見えている。)

「それじゃあ……これは?」

 

結月はトランプの束から一枚のカードを左手で抜き取って男の子に見せながら、心の中でカードの名前を強く念じた。

 

(“スペードのエース”)

 

結月の心の声に呼応して、先程のジョーカーと同じようにトランプカードが溶けてその姿を変えた。

 

「カードが消えた!どうやったの!」

 

30cmほどの大きさの子どものような容姿に変わったカードは、やはり男の子の目には見えていないようだ。男の子が目を輝かせて結月を見上げた。結月は臙脂色のリボンで結われている栗色の髪をふわりと揺らしながら、男の子の目の前で気取った仕草で白い手袋を着けた。

 

「手品だよ。……さ、お次は——」

 

男の子の質問に対して、嘘ではないが本当とも言い難いことをさらりと言った結月は、トランプカードと手の間の隙間から乳白色の小さなガラス玉を男の子から見えないように取り出した。ミヤ・クロムとして生きていた頃は、大道芸人の真似事のようなことをしてお金を稼いだこともある。そのときの経験を活かして、結月はカードを器用に動かして男の子の視線を誘導した。

 

(“爆花弾(ばくかだん)”)

 

ポン、とコルクが抜けたような音がして白い煙が結月の手元を包んだ。煙が消えると、結月の手の中からはトランプカードが消えていた。そして、それの代わりのようにして、宝石のように綺麗な翅をした蝶が一匹、手袋を着けた結月の指にとまっていた。

 

「すげぇ、エメラルドみたい。」

「ふふ、確かにね。」

 

男の子の素直な言葉に、結月は優しく笑った。

 

(これも設定通り。トランプは自由に出し入れすることができるな。爆花弾も設定した通りだ。……あとは、蝶の操作だね。)

 

結月はそう考えて、蝶がとまっている指をピンと立てた。すると、結月が考えた通りに、ふわり、と蝶が軽やかに羽ばたいた。

 

「わ、飛んだ!」

 

蝶はしばらくの間結月たちの周りを飛ぶと、男の子の鼻にとまった。次の瞬間、蝶は現れたときと同じように、ポン、と音を立てて白い煙と一緒に消えてしまった。男の子は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたあと、キョロキョロと辺りを見回した。そして、蝶が消えていることを確認すると、しょんぼりと肩を落とした。

 

「消えちゃった……。」

(……これも設定通り、爆花弾で創り出したものは短時間で消えた。成功だな。)

「ごめんね、蝶はお家に帰ってしまったの。……代わりに、ほら。」

 

心の中でそんなことを考えていることはおくびにも出さずに眉を下げてそう言いながら、結月がポケットから取り出した物を男の子に見せると、男の子は目を丸くした。

 

「わ、すごい、さっきの蝶にそっくり!」

「私が昨日家で作った飴細工だよ。手品に付き合ってくれたお礼に、君にあげるね。アレルギーはあるかな?もし、アレルギーがあれば他の物を用意するけれど……。」

「ないよ!」

「そう、それは良かった。棒が付いているから、気をつけて食べてね。」

 

あらかじめ用意していたお菓子を男の子に手渡しながら、結月は微笑んだ。結月は元々手先が器用で、こう言った細かい細工のお菓子を作るのが得意だった。今日は、実験に付き合ってもらった子どもたちに配るために、結月にとって手軽に作れる程度の飴細工をいくつか作って公園に持って来ている。正直、知らない子どもに食べ物を与えるのはどうかと思ったのだが、それ以外に子どもが喜びそうな物が思いつかなかったのだから仕方がない。

 

(……偽装した術式は完璧だな。)

 

結月はそう考えて、心底嬉しそうな顔をした。

 

(これで、六眼も誤魔化すことができるはずだ。基本的には、昔話で狐や狸が使うような幻術を使うことができる術式に見えるようにしてあるから、本来の能力である異能力を使ってしまっても言い訳ができる。それに、指輪を装備していることで、装備者である私の体から呪力が出ているように見えるように設定してあるから、これで——)

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

結月が笑顔のまま思索に耽っていると、男の子が結月に対してお礼を言った。

 

「お姉ちゃん?」

 

反応を返さない結月を見て、男の子がきょとんとした顔をした。

 

「……ん?ん、ああ、こちらこそありがとうね。」

 

一拍遅れて結月が反応を返すと、男の子は呆れたように笑った。

 

「お姉ちゃん、ぼんやりさんだねぇ。」

「んー、否定できないなぁ。」

 

そもそも、千年以上一人で生活していたことにより、現実逃避のような状態でぼんやりする癖がついてしまっているのだ。

 

「悪い癖だから治さないとねぇ。」

「そうだよー!お返事しないとみんなに嫌われちゃうよ!」

「そうだねー。……私はもう家に帰らなければならないから、またね。」

「そうなんだ!さよなら!お姉ちゃん!」

「ん、さよなら。」

 

結月は男の子に向かって軽く手を振りながら、歩き始めた。

 

「そこのお嬢さん、先程の手品、見事だったね。」

 

歩いている結月に向かって知らない人が声をかけてきた。結月が目を向けると、どこか品のある服装をした男性が柔和そうに微笑んでいるのが見えた。

 

「……そうですか、それは光栄ですね。ありがとうございます。素人の下手の横好き程度のものですが、お楽しみいただけたようでよかったです。」

(子ども相手なら適当にあしらうことができるが、大人相手では難しいだろう。……ましてや、相手は成人男性だ。幸い、ここは人目が多い公園だから、そこまで危険な目には遭わないだろうが……。)

 

結月は穏やかな笑みを顔に浮かべながらも、相手を警戒して身を固くした。それを感じ取った男は眉を下げて両手を挙げて、戯けたように話し始めた。

 

「すまない、怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、あの手品について聞きたいことがあるんだが……構わないかな。」

「……ええ、まあ、構いませんけれど……べつに、普通の手品ですよ。……まぁ、手品と呼ぶには稚拙すぎるかもしれませんけれどね。種も仕掛けもきちんとあります。」

「もう一度、俺に見せてくれないかな?その、手品を。」

 

男の目の奥がギラリと光ったように見えた。

 

「いや、あの……全く同じものにはならないかもしれませんよ?」

(正直、何をしたのか正確に思い出せないしな。)

 

結月は一歩男から離れてそう言った。

 

「それでも構わない。ぜひ見せて欲しいんだ。」

「……わかりました。」

 

結月は観念してそう答えた。

 

(ま、さっき確かめるのを忘れていた術式の確認でもしよう。)

 

結月は軽くそう考えて、手品をする振りを始めた。

 

 

 

 

 

 

「あの、もう、本当に帰らなければ親に心配されるのですけれど……。」

「おや、もうそんな時間かな?……できればもう一度……いや、もう、あと何回か君の手品を見たかったんだが……。」

 

 公園で遊んでいた子どもたちはほとんど帰り始めている。空は赤くなり始めて、烏が何羽か群れていた。結月は男の言葉を聞いて思わず眉を寄せた。

 

(これで何回目だと思っているのさ。……正確な数は覚えていないけれど、二桁はいくと思うよ。)

「ええ、申し訳ありませんけれど、今日はこれでお終いです。」

 

心の中で悪態を吐きながら結月は優しく微笑んだ。

 

「そうか、残念だ。……なぁ、君の名前を教えてくれないか?」

「いえ、それは、その、困ります。」

 

結月は男から三歩離れた。

 

「そう警戒しないでくれ。俺は黒羽盗一という者だ。怪しい者ではない。」

「そうですか。」

 

結月はそう言ってさらに五歩後退した。自分から怪しくないと言っている奴が怪しくないわけがない。大体、相手が名乗っているのが本名かどうかもわからないのに結月が本名を名乗る筋合いはない。

 

「私のことは……まぁ、ラピスとでもお呼びください。それでは……さようなら!」

「あ、ちょっと!」

 

結月は全力で走り出した。

 

「待ってくれ、まだ……!」

 

男の声に答えずに結月は無言で入り組んだ路地裏に逃げ込んだ。監視カメラがない場所であれば異能力を使用することができるからだ。

 

(……よし、今だ。)

 

しばらく走り続けた頃、男の視界から結月が消えるときを狙って結月は異能力を使った。目の前に現れた黒い穴に結月が飛び込むと、穴は現れたときと同じように唐突にその場から消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……遅かったか。」

 

結月の姿を完全に見失ったことを悟ると、男——黒羽盗一は溜息を吐いてそう呟いた。

 

「……ラピス、か。」

(おそらく偽名だろう。……髪は質感からして鬘、瞳の色もカラーコンタクトで誤魔化していた……手袋のせいで指紋もわからなかったし……ほとんどお手上げだな。かなり小柄だったが、どうもまだ子どものようだしこれから成長する可能性もある。寺井に調べさせるにももう少し情報がなければどうしようもない。)

 

黒羽盗一は残念そうな顔でそう考えながら、薄暗い路地裏に革靴の音を響かせながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

(怖かったぁ……。)

 

異能力の一つである“界渡り”を使ってあの場から離脱した結月は、自分の家の玄関でほっと息を吐いた。

 

(しかし、妙な奴に目をつけられたな。……念のため自宅から離れた場所で実験をして良かった。まぁ、一応軽く変装もしていたから、もし調べられたとしても私だとはわからないだろうが……)

 

結月が実験をした杯戸公園は隣町にあるため、ほとんど行くことはないだろう。

 “黒羽盗一”と名乗る男がどういう人物かは知らないが、関わり合いになりたくない人種であることは間違いない。

 

(面倒だから、二度とあの辺りには行かないようにしよう。)

 

結月は固く決意した。

 結月は溜息を吐いてから、臙脂色のリボンが付けられた栗色の髪の鬘を脱いだ。鬘を着けるために髪に着けていたネットを取り外して、結月は目を瞑って目頭を揉んだ。

 

「……コンタクトレンズは洗面所で外そう。あと、化粧も落とさなくては。」

 

人工的な紫色の瞳が暗闇の中キラリと輝いた。

 

(いやぁ、咄嗟にこの姿のモデルの名前を出したのだけれども……そもそもこの世界に◯の聖痕は存在してないから、別に良いか。)

 

 結月が生まれたこの世界では、そもそも最初からライトノベルというジャンルがない。結月は思い返して切ない気持ちになりながら靴を脱いだ。ちなみに、結月が好きな◯ャンプ作品の無事は確認済みだ。◯ンデーは購読していなかったから詳しいことはわからないが、◯橋留◯子とあ◯ち充が存在しているようだから大体無事だろう。サ◯デー作品はうる◯やつらと◯夜叉と◯界師しか読んだことがないため、消えている作品があったとしても結月にはわからないしどうでも良い。

 橘小夜の個人的な持ち物を遺品として回収して収納用の異空間に入れているため、結月は今でも橘小夜として生きていた頃に買い集めた本を読むことができるし、その内容も粗方覚えている。“界渡り”を使って橘小夜が生きていた世界に転移して新しい本を買うことでさえ、やろうと思えば簡単にできる。しかし、作品の感想を共有できる相手が居ないのは寂しいものなのだ。結月は憂鬱な気持ちになりながら廊下を歩いた。

 

「……あれ、結月、帰って来てたのか?音がしなかったが……ん?なんだ、その格好。」

 

部屋から出てきた父が結月を見てそう言った。

 

「あ……いや、ただのコスプレだから気にしないで欲しいの。」

「そうか。……すごいな。」

「んー、まぁねー?」

 

こういうとき、オタク趣味に疎くて寛容な家族でよかったと痛感する。もちろんコスプレ姿で外を出歩くのがマナー違反であることは結月も重々承知しているが、この場合は変装という面が強い。それに、そもそも存在しないキャラクターであれば、誰にも迷惑がかかっていないただのお洒落と言い張ることもできる。

 

「かわいい服だな。その服、自分で作ったのか?」

「ん、そうだよ。」

「そうか、すごいな。」

「こういう服は買うと高いからねぇ。それに、布も安っぽいことが多いもの。満足できる物が欲しいなら自分で作らないとねー。」

「こだわるなぁ。」

 

父が笑った。

 

「まぁ、家の中に入るまでの間、声は一応声優さんと同じ声に変えていたけれど、口調までは真似していないから完璧ではないよ。ほとんど遊びみたいなものだね。」

 

結月がそう言うと父は呆れたような顔をした。

 

「その子はどんなキャラクターなんだ?」

 

父が結月に尋ねた。

 

「えーと、たしか主人公の元カノの死体と魂の残りを利用して作られた……戦闘人形?まぁロボットみたいな存在だったと思うよ。」

「……ん?そ、そうなのか⁇本当に?」

 

結月の言葉に父が戸惑った。

 

「んー、そうだよ。」

 

結月があっさりとそう言うと、父はしばらく呆けた顔をして、化粧によってやや吊り目になっている紫色の目を見つめた。

 

「……すごい設定だな。」

「主人公と主人公の暫定今カノを殺そうとしている奴の部下だよ。」

「……すごい設定だな。」

「ちなみに作者が夭折してしまって未完で終わっているから、この子たちの結末は誰にもわからないよ。」

「そうなのか⁉︎」

 

父が驚いた顔をした。

 

「とても気になるところで終わっているから悲しいよ……。」

「そ、そうか、残念だな。……ああ、そうだ!裕也君が家に来ているぞ!」

 

父が気落ちした様子の結月を慰めようと、話題を変えた。

 

「本当?……お化粧を落としてくるね。服はべつにこのままでも良いよね?」

 

鬘に付いていたリボンよりも暗い色のスカートを軽く摘みながら結月がそう言った。

 

「ああ、まぁ、少しお洒落な普段着としても使えるデザインだな。」

「だよねぇ、だからこのキャラクターにしたの。コスプレにしか使えない服は少し勿体ないからね。まぁ、スカートは膝くらいの丈に変えたけれど。」

 

結月が父の言葉を聞いて嬉しそうにくるりと回った。

 

「……結月はあまり暖色系を着ないから新鮮だな。」

「そー?まぁ、赤色と黄色と朱色は少し苦手かなぁ?この服の色も、赤というよりは茶色のような色だよね。」

 

結月は軽く首を傾げながらそう言った。

 

「まぁ、似合っているからいいと思うぞ。……今日は少し涼しかったからその服でもいいが、どちらかと言うと秋っぽい服だな。」

 

父がそう言った。

 

「んー、たしかにね。生地も固いし、少し暑かったかもしれないね。今度から秋に着るようにしようかなぁ。」

「そうだな。」

「やっぱり上着だけ着替えてくるー。」

「おー。」

 

結月はそう言いながら、軽快な足取りで階段を登った。

 

(いよいよ明日、天内さんにキーホルダーを返さないとな。……本来休む予定だった日だし、委員会がある日ではないけれど、早めに返したほうが気持ちが楽だろうし……子どもに渡す予定だったお菓子も一緒に持って行こう。)

 

結月はそう考えながら自室の扉を静かに開けた。




今回の話に登場したトランプカードのキャラクターのイメージです。


【挿絵表示】


画像の上半分に描かれているのがジョーカー二枚で、下半分に描かれているのが普通のカードの基本的なデザインです。武器は主にスペードとダイヤが使います。ハートはカードの回復(物の修理)、スペードは攻撃、ダイヤは結界(盾)、クラブは人間の回復(反転術式)という風に役割が決まっています。

主人公は、呪術高等専門学校に……

  • 入学する(東京校)
  • 入学する(京都校)
  • 入学しない
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