4月と言えば新たな出会いの時期と言う人もいる。入学式、入社式など、様々な人間が新天地で歩みを進め始めるものだ。そんな大勢のうちの中の一人の少年、坂井侑己(さかいゆうき)は新高校生として、今年から自らが三年間隔離される東京高度育成高等学校に向かう路線バスに乗っていた。
「この景色もしばらくは見れないのか......」
窓の外を眺めながらポツリとそんなことを呟く。今日から三年間自分が通うことになる東京高度育成高等学校は三年間の外部との接触の禁止、つまり隔離が義務付けられており今見ているこの景色ともしばらくの間、別れを告げるともなると何気ない景色にすら哀愁が湧く。自分の今までの人生ははっきり言ってそこまで特筆すべきことがないものだ。数少ない特徴と言えるのは器用貧乏だが意外と万能なことぐらいで、特段頭が切れる訳でもなく、特別身体能力に秀でている訳でもない。正しく器用貧乏と言った人間で、他の特徴は意外と律儀で忠誠心が少し高いぐらいだろう。そんな自分の特徴を意味もなく自己分析しながらバスの到着を待っていると、車内が少し騒がしくなる。
「なんだ......?」
どうやらバスの車内前方で、OLと思しき女性と自分と同じ制服を着た金髪の男子が言い争っているようだ。女性の後ろには高齢の女性が辛そうに立っている。
「いい加減に変わりなさいよ!お婆さんが辛そうにしてるのが見えないの!そこは優先座席なのよ!」
女性は金髪の男子に向かってそう言い放つが、金髪の男子は全く意に介さない様子で反論している。こうしてる間にもお婆さんは今にも転びそうな雰囲気が醸し出している。しかし車内に響く喧騒は言い争う二人の声のみで、誰一人関わろうとはしない。自分もその一人で再び窓の外に意識を向かわせようとすると、隣の席から小さな音量で声がかかる。
「席を変わろうとはしないんですね。皆さん知らんぷりのようですが」
「......!?そ、そうだな。正直面倒事には関わりたくないし、もうすぐ到着ならあと少し座っていてもバチは当たらないだろ?そういや貴女は?」
隣の席を振り返って、小声で話しかけてきた銀髪の小柄な少女に正体を尋ねる。
「あ、申し遅れました、私は坂柳有栖と言います。今日から貴方と同じ学校に通う。先天性の病気の関係で杖をついていますが、以後お見知り置きを」
「お、おう......一応こっちも名乗っておくと俺は坂井侑己、しがない新高校生だよ。よろしく坂柳」
小柄な少女は少し何かを考えている素振りを見せながら会釈を返してくる。そこまで話し終えた所でバスは目的地となる停留所に停車し、自分と同じ制服を着た乗客がぞろぞろと下車し始める。自分は坂柳の一人前を歩き、先に下車して後者口で後ろを振り返り、坂柳に手を差し出す。
「あ、あら......ご迷惑をおかけします。意外にも親切なのですね」
坂柳は少し驚きながらもこちらの手を取りゆっくりと杖をつきながら段差を降りる。
「流石に、名前まで明かして置いて行くのは気が引けてな......」
「ふふっ、優しいのですね坂井くんは」
坂柳の杖をつくスピードに合わせてゆっくりと門を通過すると、人だかりを発見する。
「おや、あの人だかりは......」
「どうやらクラス分けの発表みたいだな......俺が見てくるからここで待っていてくれ」
坂柳を後ろで待機させ、人だかりをかき分けながら発表している紙を凝視して自分と坂柳の名前を探す。
「俺の名前は......あった!」
Aクラス
【坂井 侑己】
【坂柳 有栖】
【坂井侑己】(さかいゆうき)
学力:B
知性:A-
判断力:A
身体能力:B
協調性:C-
学校からの評価
頼まれたら断らないお人好しな面と真面目で律儀な面が多く一見善良な生徒にも見えるが、依頼内容によっては利己心クラスを平気で裏切る可能性がある打算的な部分も持っている。いずれにせよ総合的な能力は高いが逆にこれと言った特技もなく、満遍なく努力した痕跡が伺える。