さてさて、無事に顔を合わせを済ませて完璧に皆と仲良くなれてしまったのだが、たきなちゃんだけは私との距離が少しあった。『私に5メートル以上近づかないでください』などと言っていたが、いまいち意味は分からない。たぶん照れてるんだと思う。
それはともかくお仕事である。働かざる者食うべかざるであり、それはリコリスも変わらない。制服に着替えた千束ちゃんに連れられ、私たちは街へ繰り出した。赤、赤、紺の制服が並び歩く。
余談だが、この制服には特別な機能がある。あ、いや、アイアンマン的なアレじゃなくて、権利的な意味でのアレだ。この制服を着ている場合、やむをえない事態であれば幾つかの犯罪行為は目を瞑ってもらえる。例えば窃盗だったり、器物損壊だったり、住居侵入だったり……殺人だったり。
…ふと思ったのだが、この制服、犯罪における利用価値が高すぎる気がする。一昔前は警察手帳が最強の犯罪道具だったらしいが、今やJKの制服がその地位を奪ってしまったようだ。例えばこの前のガトリングでひゃっはーなおっさんが着れば……うえっぷ、想像すると気色悪くなってきた。
「──悪い奴じゃないんだけどねぇ~、ああいう性格だから。あ、フキのこと」
「親しいのですか?」
「うん。昔、リコリス棟で同室だった」
「昨日まで、私もそうでした」
なんで歩きながらこんな話をしているかというと、たきなちゃんの頬を殴り飛ばしたのがフッキーだったということが判明したからだ。相変わらずカリカリしてるなぁ。今度会ったら、またストレス解消してあげよう。
「マジで!? それは御愁傷様。歯軋りスゴいでしょ? 夢でもカリカリしてるのよ」
「そうそう。あの性格さえ直せばねぇ。ぜぇ~ったい損してると思うんだけどなぁ」
「風見もフキと知り合いだったの?」
「一瞬だけ同室だったかなぁ。歯軋り治すためにストレス解消マッサージまでしてあげた仲だよ?」
「…ちなみにどんなマッサージ?」
「もちろん、胸をこんな感じで…」
「…同室だった時期が一瞬である理由が判明しましたね」
千束ちゃんとたきなちゃんが白い目を向けてくる。また私何かやっちゃいました?
そんなしょうもない話をしながら三人でデートをした。そう、デートである。あんなん私から言わせればデートみたいなものだ。なんせ誰も殺さなくて良かったのだから。ドンパチなしの仕事なんて初めてかもしれない。
ちなみにコースは幼稚園から日本語学校と進み、組事務所にまで行った。ちょっと前衛的なデートコースだよね。
さて、こんな感じで外回りデートをしていた私たちだが、今は何をしているかと言うと──
「「叩いて、かぶって、じゃんけんぽん!」」
──じゃんけんをしていた。
何故こんなことをしているかというと、時間が空いてしまったからだ。では公園で休んでいこうという話になったのだが、そこで問題が起こった。
たきなちゃんにひざ枕をお願いしたら、断られてしまったのだ。しかし、欲望の化身たる私は当然食い下がる。そんな押し問答を続ける私たちに、千束ちゃんがじゃんけんで勝負することを提案してくれた。そこで私が、ただのじゃんけんではつまらないから、リコリスらしく反射神経を使った勝負にしようと提案して、このゲームになったのだ。
ちなみにルールは、勝った方が負けた方の頭にチョップして、それを防げなかったら敗北ということになっている。
ベンチに凭れた千束ちゃんが見守るなか、私とたきなちゃんは右手を同時に出した。私がパーでたきなちゃんがグー。私の勝ち。
「…っ!」
たきなちゃんもさすがは紺服リコリス。素晴らしい反応速度で両腕を頭の上に交差させた。しかし、まだまだ青い。
「──えいっ」
私の本命は端から頭じゃない。振り下ろしたチョップはたきなちゃんのガードを素通りして、そのままガラ空きのおっぱいを捕らえることに成功した。捕ったどぉぉぉ。
「うむっ。まっこと見事な揉み心地じゃ」
「………はっ?」
なぜ、普通のじゃんけんではなく、この特殊なルールを選んだのか。それにはちゃんと理由がある。
たきなちゃんは今、私をとても警戒している。きっと無闇に手を近づけても、胸を隙間なく腕で抱えられてしまうだろう。ガードを力ずくでひっぺがして揉むこともできるけど、それはなんか違うのだ。私はそういうのは求めてない。
なら話は簡単で、私が腕を近づけたとき、たきなちゃんが胸以外の場所を警戒するようにすればいい。例えばそう……頭とかね。
「うんうん…このもちもちなおっぱい、もう一度味わいたいと思ってたんだよ………あっ、ごめんねたきなちゃん。手が滑っちった」
テヘぺろっ、と舌を出す。千束ちゃんは爆笑していた。たきなちゃんは……うん、圧倒的なまでの無。感情を全て削ぎ落としたような無の表情。司令よりこわーい。
「…風見さん」
「えっ、あっ………はい」
「今のは頭ではないので、負けではありませんよね?」
「それはもちろん」
「では二回戦といきましょう」
すっと腕を下ろして構えるたきなちゃん。無を携えた瞳は、静かな怒りに燃えているように見える。
大丈夫ですか? 拳、震えてますけど。強く握りすぎじゃないですか? グー以外出せなくないですか? 勝っても負けても
「じゃんけんぽん!」
たきなちゃんの掛け声と共に二回戦が始まる。私が出したのはパー、たきなちゃんはチョキだった。およ…『これが大人のグーよ』作戦ではなかったか。
「なるほどねぇ。握り拳はただのブラフだったのか──ぅおわぁ!? 危なっ!!」
「──ちっ」
私の目があった位置には、たきなちゃんのチョキが突き刺さっていた。まさかのジャン拳の方だったか。首捻らなかったら失明してたねこれは。
とまあ、そんな感じで二回戦目を終え、三回戦で普通にたきなちゃんを瞬殺してひざ枕をゲットしたのだった。
「風見っておもしろいね」
「そう? 普通、私くらいの女の子ならこんなもんじゃない?」
「リコリスなら『普通』なのは『異常』だよ」
「言えてる」
千束ちゃんもなかなかだけど、私はその比じゃないくらいはっちゃけてる。ああは言ったけど、たぶん普通の女子高生より全然ハイテンションだろう。
そういう点でいうなら、千束ちゃんもなかなか変だ。私を煙たがらないあたり、だいぶ変わってる。今もほら、優しげな目を向けてくれてる。
たきなちゃんは対照的に、憮然とした表情だ。でも根が真面目だから、ひざ枕はしてくれている。
柔らかなフトモモの感触と甘くてさっぱりした香りーー麗らかな日差しが心地好く、うとうと微睡んでいく。千束ちゃんとたきなちゃんが何か話していたが、私は
◆
目が覚めると、窶れ顔のイケメン風ビジネスマンが私の顔を覗き込んでいた。ふむふむ…。
期待に胸膨らませ飛び込んだ社会人生活。しかし、社会は残酷で冷酷。道具のように使い潰されるだけの日々に、身も心もすり減っていた。そんなある日、ふらっと訪れた公園のベンチで眠りこける見目麗しい少女を目にする。その無防備な姿に、忘れかけていた青い衝動が目を覚ますのだった………と。なるほど。
「とりあえず通報しますね」
「待ってほしい」
「すいません、ひゃくとーばんって何番でしたっけ?」
「色々ツッコミたいところだが、待ってほしい。私は決して怪しいものではないし、君になにかしようと思っていたわけでもない」
「そうですか」
まあそうだろう。無防備とはいえ、ここは公園だ。公衆の面前で不埒なことなどしようがない。
ここはたしか、私がたきなちゃんにひざ枕してもらっていたベンチだ。どうやらうたた寝していたらしい。
赤服として不甲斐なし。穴があったら入りたい。
それはさておき、空が茜色になっているということは、それなりに時間が経っているということだ。千束ちゃんとたきなちゃんがいないのは、私を置いていってしまったからだろう。なかなかドライな二人である。
実はさっきスマホの画面を見たとき、通知が来ているのが見えた。千束ちゃんたちは警察署に行った後、近くの喫茶店に寄っているらしい。あ、ちゃんと居場所を教えてくれる優しさあるのね……いや待てよ? 『風見が寝てる間に二人だけでラブラブしてまーす』という意味で送ってきた可能性もなくはないな。
それはそれでいい!
私の心が潤ったところで、この……この人誰だっけ?
「名前を聞いても良いですか?」
「…吉松シンジだ。君の名前を聞いてもいいかな?」
「山田太郎です」
「女の子に見えるけど?」
「女の子が山田って名字でも良いじゃないですか」
「違うそっちじゃない」
この人面白いな。ちゃんとレスポンスしてくれる人は嫌いじゃない。逆に、からかっても反応がない人は好きじゃない。そういうとこだぞ、司令。
さて。吉松さんをおちょくって英気を養ったことだし、そろそろ合流しに行こう。私は吉松さんに本当の名前を教えて、指定された喫茶店に向かった。
◆
「ありがとう二人とも、刑事さんにもお礼言っといてね」
私は一歩遅かったらしく、諸々の事情は合流したときにまとめて聞くかたちになってしまった。
どうやら今回のお仕事は、ただのストーカー警護では済まないらしい。なんでも、依頼人のさおりさんがネットにアップした写真に、銃取引の現場がバチコリ映ってしまっていたそうだ。それが見つかって、組織に命を狙われているとかなんとか。運悪すぎて草。
まあそんなわけなので、さおりさんを一人で帰すわけにはいかない。そんなことしたら絶対消される。実はさおりさんの名字が吉田だったりしたら別だけど。
「さおりさん、今夜はとりあえず、一緒にいません?」
「え? ……いいよ。じゃあ、ウチに来てよ」
「ホント!? じゃあ親睦も兼ねて、パジャマパーティーなんてどうです?」
「パジャマパーティー!?」
なんて素晴らしい提案!
私がキラキラした視線を向けると、千束ちゃんは苦笑いを返してくれて、たきなちゃんは身体を抱いてすすすっと遠ざかった。この子の反応エッチすぎん?
とまあそういうわけで、千束ちゃんがリコリコへ戻り、私とたきなちゃんがさおりさんを送ることになった。
──のだが、早速
「気づいてます?」
珍しく自分から寄ってきたたきなちゃんが、小さな声で話しかけてくる。さおりさんは少し前を歩いているから聞こえてないだろう。私もボリュームを落として返事をする。
「もちのろんこちゃんだお」
「なら話は早いです。さおりさんを囮にして、奴らを誘き寄せましょう」
「なんでやねん」
「奴らの狙いはさおりさんのデータです。殺されることはありません」
「人質になってまうがな」
「…その喋り方辞めてもらっていいですか?」
「はいすいません」
「…それで、いったいどうするんですか? まさか、何ヵ月もこのまま護衛対象に張り付き続けるなんて言いませんよね?」
「…それが一番の安全策じゃない?」
「そんなことしてたら、いつDAに戻れるんですか!」
あっ、こらっ。大きな声出したら……。
「なになに! 何の話?」
今まさに命を狙われているとも知らないさおりさんが、呑気な顔で首を突っ込んでくる。うわ、この人ゾンビ映画で最初に死ぬタイプの女だ。
「女の子同士のナイショ話? お姉さんも混ぜてよ」
「いえ。さおりさんは──」
「それがですね、さおりさん! たきなちゃんったら、どうやったら彼氏が出来るのか興味津々なんですよ! ちょっくらこの子にそのノウハウを教えてあげてくださいよぉ」
たきなちゃんの背中を押してさおりさんに押し付ける。この暴れん坊将軍を野放しにしといたら、さおりさんで泳がせ釣りを始めかねない。ここは大人しくしといてもらおう。
「…ちょっと」
「まあまあ、ここは私に任せんしゃい。たきなちゃんはさおりさんお願いね。伏兵がいないとも限らないし」
手早く千束ちゃんに連絡を入れて、さおりさんに話しかける。
「私すぐそこに家あるので、いったん帰りますね。さおりさん、たきなちゃんをお願いします」
「そうなの? じゃあ、またあとで」
「はい」
不満げなたきなちゃんとさおりさんに手を振って離れる。
そして女の子のケツを追っかけ回していた変態四人組の車に近づいた。後部座席の窓ガラスをノックすると、窓がゆっくりと下がっていく。
「ノックしてコンコン。ちょっとよろしいですかぁ?」
「…嬢ちゃん。今忙しいから後にしてくんねぇか?」
「くんねぇですね。おじさんたち、さおりさんのこと尾け回してたでしょ?」
「っ!?」
私の言葉に驚いたおっさんだったが、反応は速かった。ドアを勢いよく開け放ち、私を拐おうと手を伸ばしてくる。
「いやぁ~、犯されるぅ~」
ゆっくり実況くらい棒読みで言いながら、伸びてきた手を掴む。そして勢いよく引っ張って車から引きずり出し、そのまま塀に叩き付けた。
それを見た助手席の男が、車から下りながら銃を構える。この至近距離で銃を構えるとか馬鹿なのかな。
射線から身を逸らしながら腕を絡めて銃をディザームし、鳩尾に膝蹴りを叩き込んでノックアウト。運転席の男が銃を構えようとしていたので、奪った銃を投げつけて頭に当てる。
「…あれ、もう一人は?」
「動くな!」
後部座席にいたもう一人の方が、回り込んできて銃を構えていた。あらら、やっちった。
「あのさ……女の子ひとり殺すのに銃向けるとか男としてどうなの? ちゃんとキンタマ付いてる?」
「下品なんだよ、馬鹿ガキが」
…ダメだ、避けられない。距離が絶妙に悪い。この距離じゃ、私が何かするより引き金を引く方が早いだろう。
命の危機なんて何度も味わってるけど、何度味わってもこれだけは慣れない。緊張で口が乾いていく。
──瞬間。横合いから飛んできた弾丸が、男の脇腹と側頭部に直撃した。目の前で赤い液体が噴出する。
弾が飛んできた方に目を向けると、そこには千束ちゃんがいた。登場のタイミングが完全に主人公だよね。
「千束ちゃ──」
「っってぇなオイ!」
キェェェアァァァァシャァベッタァァァァァァァァァ!?!?
………あっ、非殺傷弾か。側頭部撃ち抜かれても死なないタイプのミュータントなのかと思った。
まあ死んでないなら何よりだ。トドメは私が刺しておこう。右足を思いっきり振りかぶって、渾身のサッカーボールキックを男の股関にお見舞いする。
「せいっ!」
「おぐぅぅぅ!?」
「なんだ、ちゃんとキンタマあるじゃん。疑ってごめんね?」
「…うわぁ」
「あっ、千束ちゃん。さっきはありがとね」
「ううん。それより怪我は?」
「全然だいじょ…」
いや待てよ。落ち着け風見。これは千載一遇のチャンスなんじゃないか?
「………?」
「うっ……さっきくらった何かしらが、ボディブローのようにジワジワと…」
「えぇっ!? ちょっと、大丈夫?」
「ごめん千束ちゃん。ちょっと肩貸してもらえる?」
「もちろん」
快く許してくれた千束ちゃんの肩にもたれ掛かる。そして当然のようにその胸へ手を伸ばした。ゲヘヘ、やっとこの乳が揉めるぜぇ。
「元気そうで何より」
「…なんで今のに反応できるかなぁ」
私の手は惜しくも乳に届かず、寸前で鷲掴みにされていた。やはり鬼に……あっ…痛いっ…関節極めるのはらめぇぇ。
「くそぉ。いつか絶対揉みしだいてやるからなぁ…覚えてろよぉ」
「そのみっともない表情は、忘れたくても忘れられないよ」