天才肌の赤服リコリスが、ガチ百合するだけのお話。   作:銀楠

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3話

 

 

「たきなちゃん、おっぱい揉ませてくれない?」

「死んでください」

 

 真っ昼間の都心を、普通のワンボックカーが駆け抜けていく。運転手は着ぐるみを着た凄腕ハッカー、後部座席には殺し屋の少女が三人。うん、“普通のワンボックスカー”ではないな。

 

 着ぐるみのハッカーは今回の依頼人だ。ウォールナットとかいう有名なハッカーで、ネットでは圧倒的な人気を誇っているらしい。しかし何故か急に命を狙われ始めたため、国外に逃亡することにしたそうだ。私たちのお仕事はその護衛。

 

 まあ、そういうわけで絶賛護衛任務中なのだが、実は私はあまり気が乗っていなかった。

 

 というのも今回の仕事、ミカ情報では敵が武装しているらしいのだ。実力はプロよりのアマとのことだが、ライフルも確認したとかなんとか。

 

 銃器は最強で最悪の文明の利器だ。あれを使えば、誰でも簡単に殺し合いができてしまう。つまり殺されるかもしれないし、殺さなければならないかもしれないということだ。

 

 死ぬのは嫌だし、殺すのも嫌だ。

 

 とまあこんな感じにブルーな気分になってしまったので、気分転換にたきなちゃんにセクハラしていたのだった。

 

「なんでよぉ。ちょっとくらい良いじゃん。私、今日死ぬかもしれないんだよ?」

「そうですか。死んでください」

「…おいおいたきなちゃん。あまりその言葉を軽々しく使っちゃダメだよ? 命は貴重なものなんだから」

「そうですか。死んでください」

「……」

「……」

 

 これが実はツンデレだったら嬉しいのだが、現実はツンドラが良いところ。たまには永久凍土じゃなくて、デレが欲しいところである。

 

 …いや待てよ。デレは自分で補給すれば良いじゃないか。

 

「ひらめいた!!!」

「…っ! 何ですか急に」

「私がお喋りしつつ、私自身が理想のたきなちゃんになって返答すれば良いんだ!」

「………は?」

「では最初から……たきなちゃん、おっぱい揉ませてくれない?」

『…っ! 何ですか急に』

「ダメ?」

『………は、恥ずかしいので、二人きりのときにしてください』

「分かった。約束だよ?」

『死んでも守ります』

「ありがとうたきなちゃん!」

「………気持ち悪い」

 

 うん、確かに気持ち悪い。自分でやってて鳥肌立ったくらいだ。

 

「…まあつまり、あまり無視しすぎると、こんな感じで好き勝手しちゃうよってこと。いきなりラブラブしよって言ってるわけじゃなくてさ、まともにお話しするくらいはしようよ」

「なら、まず風見さんがまともなことを言ってください」

「もう! ああ言えばこう言うんだから!」

「……」

「また無視? コミュニケーションは大切だよ?」

「……」

「千束ちゃんも何か言ってやって」

「……」

「…千束ちゃん?」

 

 おや、千束ちゃんから返事がない。とうとう千束ちゃんまで私を無視し始めたのだろうか。だとしたらさすがにキツい。

 

 どうしたのかと千束ちゃんの方に目を向けると、何やら窓に張り付いて外を眺めていた。何をなさっているのですかね…。

 

「どうかしたか?」

 

 変声機を通ったナットさんの声が車内に響く。お前こそ、その着ぐるみはどうしたんだ。目立ちすぎだろ。命狙われてる自覚が足りないんじゃないか?

 

「…いや、それこっちのセリフなんだけど」

「確かに着ぐるみはふざけすぎだよね。今からでも遅くないから、マイクロビキニに着替えてきなよ」

「まだあれ(・・)の中身が『グラマラスなお姉さん』だと信じてるんですか?」

「痩せたメガネ小僧よりは夢があるでしょ? あと、護衛対象を『あれ』とか言うな」

「そんなことどーでもいいわ! それより、予定のルートから外れてない?」

「…本当ですね」

 

 おや、確かに。運転してる当の本人すら困惑してるみたいだ。ナットさんがハンドルから手を離すが、車は完全に自動運転になっている。ハッキングで制御を乗っ取られたようだ。

 

「着ぐるみで手放し運転って、満点の道交法違反だね。お巡りさんも花丸くれちゃうんじゃない?」

「言ってる場合か!」

「…加速している。このまま海に突っ込むつもりだ」

「回線の切断を」

「いや、制御を取り戻してもすぐにロボ太に上書きされるだろう」

 

 つまりルーターを破壊しろってことか…。まあ常識的に考えて、車にはないだろう。そんなものを予め設置できるなら、最初から爆弾でも仕掛けとけば良いだけの話だし。

 

 なら……。

 

「千束さん…あれ」

「あっ」

 

 たきなちゃんの言うとおり、バックミラーにドローンが映り込んでいる。あれがルーターで間違いないだろう。

 

「あれかぁ……私自信ないよ。どうする?」

「私と千束ちゃんで窓を割って、一番射撃が上手いたきなちゃんがドローンを撃墜で良いんじゃない? おけ?」

「はい」

 

 三人とも銃を素早く取り出し、セーフティを外してコッキングする。そんなとをしている間にも車は土手に上り、ガタガタと揺れ始めた。そしてそのままスピードを上げていき、車体ごと跳ね上がる。

 

「いま!」

 

 空中にいれば車は揺れない。そりゃあ通常時よりは撃ちづらいけど、振動しているよりはマシだ。それにこの程度のハンデなら、たきなちゃんはものともしないだろう。

 

 アドレナリン出まくりの脳が、体感時間が引き伸ばしてくれる。ゆっくりと浮き上がっていく感覚を味わいながら、私と千束ちゃんは窓を乱射してガラスに細かい皹を入れた。たきなちゃんはその窓を突き破って身を乗り出し、重心を整えながら銃を構える。車がゆっくりと落下していくなか、三発の銃声が鳴り響いた。

 

「うわっ、全弾命中してるよ…」

 

 三発撃って三発命中。この状況で全弾命中はもはや気持ち悪い。その射撃の腕を讃えて、今度からのび太くんと呼んであげることにしよう。

 

 さて、ドローンは落ちたけど、それで重力がなくなるわけじゃない。窓から半身出ているたきなちゃんの服を引っ張って、車内に引き戻す。そして衝撃に備え、たきなちゃんと千束ちゃんを抱き寄せて一塊になった。

 瞬間、内臓がひっくり返るかのような衝撃が身体を襲う。私たちは頭を打たないように気を付けながら、洗濯機に放り込まれたような感覚を味わった。

 

 タイヤと地面が擦れる音を響かせながら、車が横に滑っていく。最終的にはタイヤ半分乗り出したけど、ギリッギリで止まることができた。

 

「おっと、たまたま…本当にたまたま千束ちゃんとたきなちゃんに挟まれる形になってしまったぁ!」

「余裕か!」

「…引っ張ってもらわなくても自力で車内に戻れました」

「それはたきなちゃんの視点の話。私の視点ではまた違ったの」

 

 まあ正直、たきなちゃんなら大丈夫だとは思ってたけど。でももしかしたら、自力では戻れなくて困ってたかもしれないし。そのまま地面に叩きつけられて背骨をやっていたかもしれない。

 そんなんで死なれては悔やんでも悔やみきれないだろう。だからあれは決して、欲望に突き動かされたわけじゃない。

 

 たきなちゃんがそそくさと私の上から退いて、私も千束ちゃんの上から退く。そして各々の装備や、ナットさんの安否、車の状態を確かめた。うん、オールグリーン。

 

「みんなとりあえず動かないで。せーので出ますよ」

「ス、スーツケースを~…」

「ナットさんも意外と余裕だよね」

「私が持って出ます」

 

 というわけで全員車外に脱出して、車は海にリリース。もう少し付き合いが長ければ、火をつけて涙ながらに見送ってあげるところだった。

 …当然だが車は鉄の塊、海には帰らない。あの車はそのまま海底まで沈み、生態系にちょっと良くない影響を与えるだろう。勿論これは『廃棄物の処理及び清掃に関する法律』という法律のド真ん中に抵触する行為だ。

 でも今回に関しては、誰も見てないから大丈夫。「バレなきゃ犯罪じゃないんでよ」って、這い寄る混沌も言ってたし……

 

「あっ…」

 

 ふと視線を感じて目を向けてみると、何人かの男たちがこちらを見ていた。…そう、私たちのダイナミック不法投棄を。

 

「…見られたからにはしょうがない。千束ちゃん、奴らを消そう」

「はいはい。それより、とりあえず場所を変えよう」

「もっと構ってよぉ」

 

 千束ちゃんの対応が塩すぎて辛い。いや待てよ…この塩対応もそういうプレイだと考えれば………ベネ! 実にベネ!

 

 そんなことを考えながら、誰もいないスーパーに移動した。連絡はたきなちゃんに任せ、私は銃のマガジンを交換する。どうもキナ臭くなってきた。ドンパチは避けられそうにない。

 

 ガラス張りの窓から外を覗くと、完全武装した男が五人ほどいた。居場所もしっかりバレてるようだ。

 

「とりあえず移動しよう。場所がバレてるなら長居するほど不利になっちゃう」

「そうだね。付いてきてください」

 

 先頭は千束ちゃん、続いてナットさん、スーツケースを持ったたきなちゃん、殿に私という順番で移動する。

 

 …それにしても、あのスーツケース何が入っているんだろう。かなりの重量があるので移動が制限されてウザい。邪魔だなぁ。

 

 なんて考えていると、通路の向こうにさっきの男たちが現れた。向こうは完全に予想済みだったようで、手早くライフルを構えてくる。

 

 反射的に後転して物陰に隠れるが、通路の真ん中にいたたきなちゃんは間に合わない。

 

「たきなちゃん!」

 

 とっさに叫ぶが間に合わず、銃弾が雨霰のごとく押し寄せる。進退窮まったたきなちゃんは咄嗟にスーツケースに隠れると、奇跡的にスーツケースは防弾だったため助かった。前言撤回だスーツケース。よくやった。

 

 しかしスーツケースは絶妙に小さく、少女とはいえ身体を隠しきれない。たきなちゃんは身体がスーツケースから漏れるのを防ぐために、地面に寝そべった。艶々の黒髪が地面に広がり、傍目艶やかな姿勢になった。きゃー、のび太さんのえっちー。

 

 ──なんて言ってる場合じゃないよね。狙いもクソもない凶弾が、たきなちゃんの左右を掠めていく。身動ぎ一つ許されないギリギリ具合。私と千束ちゃんはサインで意志疎通し、それぞれ敵の掃討に取りかかった。

 

「あーあー、乱射しちゃって。場所バレちゃうでしょっちゅうに」

 

 相手の装備を考えると、距離を取っても不利になるだけだろう。物陰を利用してひっそりと近づき、近距離から奇襲するのがベター。

 

 私の強みは機動力だ。この一点のみなら、他のリコリスの追随を許さない自信がある。恵まれた瞬発力を用いて、身を低くしながらカサカサと物陰から物陰へ移動した。…いや、ゴキブリじゃないよ?

 

 敵陣に侵入すると、二人の男が相も変わらず銃を乱射していた。トリガーハッピーかな。あーあ、弾もタダじゃないのに。もっと狙って撃てよ。

 …いや、狙って撃たれたら、たきなちゃん死んじゃうじゃん。いいぞ、もっと雑に撃て。

 

「くそっ! まだ一人も殺れてねぇぞ!」

 

 二人の男が同時にマガジンを使いきり、けたたましく騒いでいた銃がやっとこ黙る。皆さんが静かになるまでに、先生は皆さんの真横に到着しました。

 

「落ち着け。ターゲットさえ殺せば良いんだ。護衛には構うな」

「そんなこと言わずに構ってちょーだい!」

 

 二人がリロードするタイミングを見計らって、物陰から一気に飛び出す。一人は驚いて動きが固まり、もう一人は後ろに下がりながら手早くリロードを始めた。

 

 まずは反応が遅い方に肉薄し、さっき拾ったフライパンで殴打。ギャグマンガみたいな音が響き、男は白目を剥いて気絶した。まず一人。

 

 続いてもう一人が銃を構えてきたので、今しがた気絶させた男を盾にしながら商品棚の陰に滑り込む。商品棚が壁になって、奴は私を撃てない。それはこちらも同じことだが、もちろん私には策がある。

 

「…これやるの久しぶりだなぁ」

 

 先ほど使ったフライパンを手に持ち、状態を確かめる。よし、凹んだり歪んだりはしていないようだ。

 

「よっと…」

 

 フライパンを空中に投げ、それを狙って発砲する。弾丸はフライパンの内側の面で跳弾し、くの字に曲がって男を穿った。

 

 跳弾を用いたトリックショット。結構前に映画に憧れて練習したのだ。昔取った杵柄ってやつかな。

 

「がっっ……!?」

 

 短い苦悶の声と、バランスを崩した男が倒れる音が響く。被弾した場所は脚だったようだ。傷の具合は…大丈夫そう。出血の具合を見るに、急所は外れている。大腿動脈に当たってたら、応急処置をしなきゃならなかった。

 

「その分なら動けそうにないね。後で病院行っときな」

「…トドメを刺さなくていいのか?」

「刺してほしいの?」

「…いや、かんべ──」

「まさか!? ど…ドが付くタイプのマゾヒストさんですか? ごめんなさい男の人は趣味じゃないので」

「違ぇよ! そもそも男が趣味じゃないなら、ドM関係ねぇだろうが!」

「はいはい。元気そうでなにより」

 

 これだけピンピンしてるなら大丈夫だろう。戦線復帰は無理だけど、死ぬこともないはず。つまりちょうどいい塩梅だ。

 

 男の銃を奪ってマガジンを外しながら、インカムを叩く。

 

「たきなちゃん、そっちは大丈夫?」

『私とウォールナットさんは無事です。今、裏口から脱出するところです』

「おっけ。すぐ合流する」

 

 私が倒したのが二人。千束ちゃんが三人倒したらしいので、目視した奴は全員無力化したことになる。しかし向こうの動きの良さを考えれば、こちらの動向が漏れてるのは明白。増援は当然考慮するべき。すぐにでも合流しなければならない。

 

 全速力で裏口に駆けつけると、何故かナットさんがドアを開けて出ていこうとしていた。あまりの不用心さに、たきなちゃんも止めるのを忘れて見つめている。

 

「たきな! 出ないで!」

 

 突然現れた千束ちゃんの声も虚しく、ナットさんは電子端末を見ながら外に踏み出す。開け放たれたドアの向こうは完全に開けた場所で、それはもう絶好の狙撃スポットだった。

 

 大きくて重たい銃声が響く。ほぼ同時に、電子端末が砕ける音と、着ぐるみの綿が抉れる音も。死角で見えなかったけど、ナットさんが撃たれたのは容易に想像がついた。

 

「あっ…」

 

 続いて頭部。この時点でほぼ即死。それでも銃撃は止まず、念押しとばかりに銃弾が降り注ぐ。撃たれた反動でナットさんの身体がぶるぶる踊って、噴出した血が乱舞した。

 

 どさりっ、と倒れたナットはピクリとも動かない。十発は撃たれた。まず間違いなく死んでいる。

 

「…失敗です。護衛対象は死亡です」

 

 たきなちゃんはすぐさまミカに報告を入れた。私は念のため辺りを警戒する。千束ちゃんは……呆然としながら近づき、横たわるナットさんを悲しげな表情で見つめていた。

 

 千束ちゃんは凄い。私も人の死には嫌悪感を感じれるけど、経験豊富すぎて悲しくはなれない。彼女はきっと、正しく優しい少女なのだろう。

 

「千束ちゃん…」

 

 気持ちは分かるけど、そんな場所で棒立ちするのは危険すぎる。力なく垂れた手を取って、室内に引っ張り込んだ。

 

 安全地帯まで引き戻しても、千束ちゃんは手を離さない。嗚咽混じりに泣く彼女を、私はただ抱き締めることしか出来なかった。

 

 

 緊急車両のサイレンには人の不安を駆り立てる力があると思う。まあ、そのサイレンはまさしく緊急事態を表しているから、不安を感じるのはなにもおかしくはないのだが。

 

 道路を滑るように走っていく救急車の中は、お通夜のような空気が支配していた。言い得て妙な比喩表現である。

 

 横たわるナットさんからは、もう一滴の血も流れ出ていなかった。つまり生命活動が止まったということだ。もっと分かりやすく言うならば、死んだということである。

 

「…すいません」

「たきなのせいじゃない」

 

 そう。誰も悪くない。というか全員悪い。

 

 そもそも止められる位置にいなかった私と千束ちゃんも悪いし……故人に言うことではないが、不用意に飛び出したナットさんも悪い。

 

 沈黙が痛い。気まず過ぎて得意の軽口も出てこない。こういうときに場を和ませることも出来ないのだから、本当に不愉快なだけの特技だ。

 

「もういい頃合いじゃないかな」

 

 ………えっ?

 

 ナットさんがのそりと起き上がり、その自称リスの頭を持ち上げる。すぽんと音がして頭が抜けると、中から出てきたのは上気したミズキの顔だった。……えっ?

 

「あっつい…ビールちょーだい!」

 

 運転席からビールが飛んでくる。……えっ?

 

「ミズキ…えっ、あ、あ…なんで!?」

「お、落ち着くんだ千束ちゃん! ここはゾンビ映画のセオリーに従って、一発顔面を撃ってみよう」

「落ち着くのはお前だ風見」

「うぇぇぇ、ミカァ! うわっ…救急隊員の服似合わなすぎぃぃ!」

「そこどうでも良くないですか…?」

 

 いやでも、普通パニクるでしょ。これどういう状況? あっ、防弾……血糊か。それで着ぐるみね。なるほど合理的~って、迂遠すぎるわ!

 

「あの、ウォールナットさん本人は!?」

「そーだよ、どこ行った?」

「ここだ」

 

 うおっ…生首が喋ったのかと思った。冷静に考えればスピーカーが仕込まれてるのは分かるけど。本人はスーツケースの中にいたようだ。ガタガタと動いたスーツケースから……良い感じのロリっ子が出てきた。

 

 いや、もう……いや……は? 理解が追い付かないんだけど、私が悪いのかな。理解力足りなくてごめんね。

 

「追手から逃げ切る一番の手段は、死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されない」

 

 という作戦をミカが発案したらしい。私たちに言わなかったのは、敵を騙すにはまず味方からということか…。

 

 うん、キレた。

 

 奴には後でえっちぃ自撮りを送って、彼氏さんと修羅場ってもらおう。……やっぱやめとこ。私の方がダメージが大きいことに気が付いた。

 

 

「弾丸を避けたぁ?」

 

 並び立って夜道を歩く私とたきなちゃん。千束ちゃんとはさっき分かれたので、今は二人っきりだ。

 

 ならばさっそくセクハラでもしようかと思った矢先、珍しくたきなちゃんが話し始めたと思ったらそんな話だった。

 

 曰く、千束ちゃんが銃弾を避けた…と。

 

「あのねぇ、たきなちゃん。それは弾を避けたんじゃなくて、射線を避けたの。弾丸は真っ直ぐにしか飛ばないから、銃口の先にいなければ弾も避けられるって、そういう寸法」

「それくらい知ってます。ですが違ったんです。千束さんは明らかに弾を避けてました」

 

 いやいや……そんなことはあり得ない。

 

 まず弾丸を視認して避けるのは絶対に不可能だ。人間は目で見たものを脳に電気信号として伝え、脳でそれを処理して、脳から命令を出し、実際に体が動くまで最低でも0,1秒は掛かると言われている。それくらいの時間があれば、とっくに銃弾が届いてるはずだ。

 

 考えられるとすれば、敵が引き金を引くタイミングを読んだ……ということだろうか。それならまあ、あり得ない話ではない。

 

 そういえば、千束ちゃんはときどき私の挙動を読んだような動きをしていた。不意打ちにまで対応できるということは、呼吸を読むとかそんなレベルですらないのかもしれない。

 

「まさか、筋肉の動きまで見えてたりしてね」

「…ありえません」

「言ってみただけだよ」

 

 …いや、実は千束ちゃんが痣者で、透き通る世界が見えているという可能性もあるな。これは全身を隅々まで確認する必要がありますね。

 

「まあそれはさておき……たきなちゃん見た? 千束ちゃんの泣き顔」

「はい。リコリスなのにあそこまで泣くとは…」

「たきなちゃんもそう思う? そうだよね。なまらめんこかったね!」

「…相変わらず話通じませんね」

 

 ゴミを見るような絶対零度の視線が突き刺さるが、もう私にその攻撃は効かない。脳内にツンデレ翻訳ソフトをインストールしたので、あらゆる罵倒は裏返るのだ。勝ったッ! 第3部完!

 

 ちなみに、千束ちゃんの泣き顔写真はしっかりミズキから買わせてもらった。千束ちゃんにはセクハラが通じないから、代わりにこの写真でからかってやろう。

 

「それに風見さんも意外でした」

「ん~? なにがぁ?」

「千束さんがあそこまで弱っていたら、ここぞとばかりにセクハラすると思っていたので」

「たきなちゃんは、私のことを鬼畜かなんかだと思ってるのかな?」

「違うんですか?」

「違うわ! 海よりも深く山よりも高い私の愛を、その身をもって味わうがいい!」

 

 たきなちゃんはいいにおいでしたまる

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