パートます様、てんてんてんてん様、三日月?様、啓也様、ミキプルーン様、冬秋様、なみ@様。感想ありがとうございます。
たっきん様、誤字修正ありがとうございます
後書きにちょっとしたお知らせが書いてあるので、時間があるようでしたらそちらにも目を通していただけたら幸いです。
「買ってもない宝くじあたらないかなぁ~。キャリーオーバーしてるやつ」
蒼穹を仰いで呆然と呟く。おそらく、人類史上最もくだらないであろう私の言葉は、青くて広い空が受け止めてくれた。みんな空のした。
「なにか言いました?」
「いやまったく」
隣を歩いていたたきなちゃんが視線を寄越してくるので、私は手を左右に振って答える。右手にキャリーケースを、左手にスマホを持ったたきなちゃんは、すぐさま電話に戻った。
「──なので、早速今日からひとかたまりになって生活しようと思います」
リコリスが襲われている。それが今、私たちが千束ちゃんの家を目指して歩いている理由だった。
アポイントメント? むずかしーことばわかんなーい。
リコリスが襲われている件についてだが、DAはどうも手をこまねいているらしい。襲撃犯の尻尾すら掴めておらず、組織犯だろうという予想が立っているだけ。
…この場合、DAに呆れれば良いのか敵を誉めれば良いのかは微妙だ。
何人も殺されてるのに影も踏めないとは鼻で笑ってやりたいけど、ラジアータを使ってもシルエットすら見せない犯人は確かに巧妙。
そもそも、ラジアータの追跡を振りきる方法がいまいち分からない。あれは監視カメラやインターネットを自動分析し、犯罪を見つけ出すことに特化したAIだ。東京では、銃を所持することだって出来やしない。
そんなスーパーAIにすら影を踏ませない犯人の手口は予想すら出来ないというものだ。
…ただ、リコリスだとバレている理由ならなんとなく想像が付く。それはズバリ、この制服だろう。
リコリスの制服は特徴的なデザインをしている。白、紺、赤の三色あるが、どれも同じデザインだから見分けやすい。
例え初対面でも服を見ればリコリスだと分かるんだから、襲う側にとってこれほど狙いやすい標的はいないだろう。犯罪者を適当に泳がせておけば、標的の方から勝手に寄ってくるわけだし。
そもそもこの制服、使い勝手が異常に悪いのだ。確かに制服姿の女子高生に警戒を抱く人間は少ないが、リコリスの活動は夜中が多い。そして夜に制服姿で出歩いていたらどうなるか……そう、補導される。
だから任務中は人目を忍んで行動する必要があるのだが、ならば最初から制服で擬態する意味がない。そもそも擬態出来てないみたいだし。
これからはこの制服のことを“都会の迷彩服(笑)”と呼んであげよう。
そんなことを考えていると、いつの間にか千束ちゃんの家に到着していた。ということで、早速インターホンをプッシュ。
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
──ではなく。意外なことに、千束ちゃんは来客の応対が遅いタイプらしい。ラインの返信は異常なくらいに早いから、即レスに命を懸けてるジャパネット人間なのかと思ってた。
…しかしまあ暇だ。こういうときは、たきなちゃんと実のない会話をするに限る。
「…ときにたきなちゃん、ピンポンダッシュってやったことある?」
「やりたいならお一人でどうぞ」
「それじゃピンポンダッシュにならないんだよなぁ」
最近たきなちゃんのあしらいが上手くなってきてお母さん悲しい。まあ、今のは雑なボケをした私が悪いんだけど。
「……てか、千束ちゃん遅くない?」
遅いにしたって遅すぎる。訪ねる家間違えたかな、と一瞬思ったけど、たきなちゃんがそんなイージーミスするはずがない。
となると、考えられる可能性は千束ちゃんが出先だったか、どうしても手が離せない家事の途中だったか……しかしどちらも、通話中の電話により否定されている。
じゃあ…千束ちゃんのいる位置から玄関が遠すぎるとか? 実はこのアパートのなかに千束ちゃんの秘密基地があるんだろう。
壁に掛けられた絵を正しい角度に直すと秘密基地への扉が開いて、ボタンひとつでこのアパート自体が巨大ロボットに変身するに違いない。
なんて考えていたら、ドアの向こうに千束ちゃんの気配が現れた。
「はいはい、どちらさ──」
そしてやっと開かれた玄関ドアの向こうから現れたのは……あらかわいい。部屋着姿の千束ちゃんだった。
ボブカットの白髪はカントリースタイルに結われている。服は少しダボついていて、ザ・部屋着といった感じ。
千束ちゃんは身なりに気を遣える女の子で、私服もバッチリキメるタイプだ。どちらかといえばかっこかわいい系に収める傾向があり、ひらひらした服はイメージにない。だが、千束ちゃんが今着ている服は肩口裾口袖口とフリル三昧で、可愛い系のど真ん中もど真ん中。髪型もその名が冠す通り田舎娘のようで、彼女のイメージとはかけ離れている。だが、それが逆に良い。人間はゲインロス効果といい、普段の印象と異なる状態、俗に言う『ギャップ』に魅力を感じる習性があり──
要するに、えっちくてよき!
さて、私がそんな感じで千束ちゃんを視姦している間、千束ちゃんも目を見開いて私たちを眺めていた。
「…は?」
半開きになった口から、吐息とも取れるような声が漏れ出す。実にいいリアクションだ。ドッキリ大成功の看板を持ってくれば良かった。
「今日からしばらく私たちもここで暮らします。夜は交代で睡眠を取りましょう」
というのが、リコリス狩りに対しての私たちなりの防衛策だった。
表向き喫茶店の従業員として働いている私たちは、どうしたって昼型で生きていくしかない。夜に活動するリコリス狩りを警戒するためには、交代で夜番するのが最良の選択肢だろう。そして交代で夜番をするならば、ひとつ屋根の下で共同生活するしかない。
…という風に、私がたきなちゃんを騙……説得した。へへっ、ちょろい女だぜ。
どうだろうか私の手腕。リコリスの命が狙われているという窮地を『でゅふっ!美少女だらけのパジャマパーティー、ポロリもあるよ。』に活かした私の頭の回転。
ピンチをチャンスにオブザイヤー! 擬人化した逆転の発想! よっ、コペルニクス風見!
……。
……まさか自己讚美がここまで虚しいとは思わなかった。
──それはともかくとして。
「えっ…」と固まる千束ちゃんの横を通り抜けて、たきなちゃんは堂々と部屋に入り込む。家主の許可とか、そういう概念はまだたきなちゃんにインストールされてないらしい。
「安全が確保されるまで、24時間一緒にいます!」
そしてさらに、そんなことを宣言する始末。
断っておくが、24時間云々を言ったのは私じゃない。たきなちゃん発案だ。この子ちょっとメンヘラ入ってると思う。
「ウチに泊まんの!?」
そして戸惑うより先に喜ぶあたり、千束ちゃんも千束ちゃんで結構異常だ。ふたりとも二度と私を変人扱いしないでほしい。
さて、これ以上玄関先でイチャイチャしていてもアレなので早速室内に突撃ぃ~! 下着のタンスはどこじゃぁ──あ?
…殺風景。圧倒的殺風景。
私たちが突撃した部屋には家具のひとつもなく、まるで空き家のようだった。生活感がないどころか、ここじゃ最低限度の生活だってできっこない。
…と、なると。
「…プロの部屋だ~」
「いやいやたきなちゃん。そんなわけない。これはただのガワだよ。たぶん本丸がどっかに隠れてるんだと思う。根拠はこの部屋から千束ちゃんの匂いがしないこと」
「根拠が気持ち悪いけど、正解。こっち来て」
そう言いながら先導して歩いていく千束ちゃん。そして突き当たりの壁を手で押してどんでん返しドーン。壁の向こうには下へと続く梯子があった。
……え、どんでん返し!?
まさか千束ちゃんが自宅をからくり忍者屋敷に改造してるとは、千束ちゃんも忍者ごっこにハマってるのかもしれない。
本丸はどんでん返しの向こうにあったらしい。梯子を下りなければリビングにすら辿り着けない。足怪我したらどうするのかな、とかは考えたらダメだ。バリアフリー化を真っ向から否定するその姿勢、もはやカッコいいと思います。
…しかしなるほど、ここが千束ちゃんが普段生活してる場所か。クンカクンカスーハー……なるほど、こういうフレーバーか。
「その辺座って。アイスコーヒーで良いでしょ? …なんで風見は親指立ててんの?」
「鼻腔が幸せだなって。あ、コーヒーは砂糖多めで」
ちなみに私は大の甘党だ。甘党すぎて甘党じゃない人が許せないレベルで。
そういえば、人類はかつて砂糖を巡って戦争したことがあるという。
つまり人類は遺伝的にみんな砂糖依存症である。
よって甘党じゃない人間は人間じゃない。
うむ、完璧な三段論法だ。アリストテレス風見と呼んでほしい。
──とまあ、出だしはこんなもんだったのだが、一度落ち着くと今度はたきなちゃん無双が始まった。
「共同生活を送る上で、公平な家事分担です」
と、たきなちゃんが油性マジックで時間割……じゃなくて家事分担表を指し示す。
…まあ、こうなるよね。
たきなちゃんの性格的に、こういうことを言い出すのは予想がついた。私はコーヒーに角砂糖を溶かしながら耳を傾ける。
「…つまんなーい」
「つ、つまらない?」
「そうだそうだ。つまらないぞ、たきなママ」
「風見は黙っててください」
「ぴえん」
この扱いの差はどこから? 私は端から。
千束ちゃんも私と同じようにあしらえば良いのに、なぜかそうもいかないらしい。顎に指を添えて頭を巡らせるたきなちゃんを、私は角砂糖を追加で投入しながら眺めていた。
「では……じゃんけんとかが良いですか?」
「いいね!」
…うわぁ。もうこの先の展開読めましたわ。とりま砂糖投入しますね。
「「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」」
三つ巴のじゃんけん。最初はたきなちゃんのひとり負け。あら可哀想に、運がない。悲しみのあまり砂糖を投入する。
「「「──じゃんけんぽん!」」」
次は一度あいこを挟んでから、私とたきなちゃんの二人負け。決勝戦で私が勝って、たきなちゃんふたつ目の黒星。申し訳なさすぎて砂糖を投入する。
「「「──じゃんけんぽん!」」」
「「「──じゃんけんぽん!」」」
「「「──ぽん!」」」
「「「──ぽん!」」」
「「──ぽん!」」
………。
まあその先は、以下同文ってやつである。試合はすべてたきなちゃんのひとり負けか、私との決勝で敗北か。
千束ちゃんは必ず一位だったし、たきなちゃんは必ずビリだった。つまり家事全部たきなちゃんの担当。これはツラい。
哀悼の意を込めて砂糖を投入する。
「──てか風見、砂糖使いすぎじゃない?」
「いやほら、私って甘党だから」
「甘党の範囲に収まってないんだよなぁ…」
「確かに、糖分取りすぎですよ風見」
「…マザーグース曰く、女の子は砂糖とスパイス、それと素敵なナニカでできてるんだって。つまり逆説的に捉えると、女の子は砂糖を摂取しないと肉体を保てないんだよ」
「その理論だと男の子の主食は何になるの?」
「そらもちろん、カエルとカタツムリと子イヌのしっぽでしょ」
食べたことないから分からないけど、カエルとカタツムリは食べ合わせ良さそうだ。ただ子イヌのしっぽはキツそう。男の子は大変である。
その点女の子は砂糖とスパイスと素敵なナニカでいいから楽だ。
…この理論だと、カエルに砂糖とスパイスを掛けて食べれば、両性有の完全な生物になれるということになる。どんだけ~。
なんとなく立てた人差し指を左右に振っていると、角砂糖が入った瓶が千束ちゃんにより取り上げられてしまった。
「あっ、私の砂糖…」
「いや、私の家の砂糖だから」
至極もっともなことを言いながら、千束ちゃんが私の(千束ちゃんの)砂糖を連れ去っていく。
「足だろうが、両腕だろうが……心臓だろうがくれてやる。だから、返せよ! たったひとつの好物なんだよ!」
「アルの魂を錬成したときのエドみたいなこと言うな」
「あたっ」
千束ちゃんのチョップが私の頭にぶっ刺さる。よく元ネタ分かったな。さてはオタクだなオメェ。
対してたきなちゃんは分からなかったらしい。話に完全に置いていかれていて、キョトン顔からのむくれ顔コンボ。そんな可愛いと襲っちゃうぞ~………
…ちょっと待て。
しばらくの間、24時間ずっと一緒ってことは、いつでもどこでもたきなちゃんを襲えるということか!?
いやいや落ち着け。たきなちゃんとはもうそれなりの仲だ。くだらないセクハラで関係を壊すのはもったいないだろう。いや待て、ボディタッチによって得られる快感が、二人の仲をより深めるかもしれない。待て待て、それを続けた結果、DAにいたころどれだけ同僚に避けられていたと思ってる……。
──とにかく、一旦冷静になった方がいいのは確かだろう。
「ひとまずおっぱい揉んで落ち着くか」
「…っ!?」
たきなちゃんの胸を堂々と鷲掴む。そしてモミモミ。うむ…片手にひとつずつで収まるこの美乳。まるで実家のような安心感だ。
「……」
「やっ…ちょっ……風見…んっ」
「……」
お顔がとろとろになっていくたきなちゃんを真正面から真摯に見詰め、湯だった頭を冷やして冷静になっ……れ、冷静に……いや興奮してきたな。そもそも冷静になって何するんだっけ?
「ひとんちでセクハラをするな」
本日二度目のチョップが私の脳天をかち割った。
◆
「ズルしてませんか?」
リコリコはその設計上、声がよく響く構造だ。だから、閉店後の静かな店内にはたきなちゃんの声がよく響いた。
たきなちゃんはその美しい黒瞳でまっすぐと私を捉え、前のめりになって私に詰問する。そんな近づいてたらおっぱい揉んじゃうぞ。
…なんて言えるはずもなく、背筋を冷や汗が伝う。
「…ズル?」
「家事の分担じゃんけんのことです」
「……」
私はスッと目を逸らした。ソ、ソンナワケナイジャナイデスカー。
「い、言い掛かりはよしてもらおうかお嬢ちゃん。そ、それとも? 何か証拠でもあ、あるのかね?」
「…犯人のセリフじゃないですかそれ」
「勘の良いガキは嫌いだよ」
「私と風見はそこまで歳離れてませんよ」
「……」
そういえばたきなちゃんにこのネタは通じないんだった。
「正直に答えてください。ズルしてるんですよね?」
「ズル……とは言い難いかなぁ。一応、技術を使ってるわけだし」
「じゃんけんに技術ですか?」
「うん……ほら、さいしょはグーでやってるでしょ? あれじゃ千束ちゃんには勝てないよ」
「……えっ?」
うーん、私がバラしちゃうのはレギュレーション違反な感じもするが……まあいっか。上手くいけば千束ちゃんに全責任を擦り付けられるかもしれないし。
「千束ちゃんが相手の服や筋肉の動きで、次の行動を予測しているのは知ってるでしょ?」
「はい。それで射線や射撃タイミングを読んでいると…」
「そうそう。千束ちゃんは並外れた洞察力の持ち主なんだよ。だからグーから始めちゃうと、次の手を変えるかは読まれちゃう。変えずにグーだと当然パーを出されるし、変えると分かれば千束ちゃんはチョキを出せば絶対負けないでしょ?」
必勝法…というよりは、必ず負けない方法。それが千束ちゃん無敗伝説のタネだ。
「あいこにできる確率が三割、負ける確率はゼロ。千束ちゃんにじゃんけんで勝つには、さいしょはグーをやめて、一発勝負で勝つしかない。もしあいこになったらその時点で負けってこと」
「そんな~」
そう、理不尽なのだ。千束ちゃんはあいこでも勝ちなんだから、さいしょはグーをやめたって勝てる確率が相手の倍。そもそも条件がイーブンじゃない。
しかしまあ、これをイカサマと呼ぶのはちょっと難しい。だってルールには一切抵触してないんだから。
「千束ちゃんの洞察力は身体機能の一部とも言えるから、ズルとは言えないよね」
「そうですけど…」
つまり勝負方法を変えた方がいいのだ。しかしたきなちゃんは意外と負けず嫌いだったりするので、それで納得はしないだろう。
たきなちゃんの顔は見るからに不満げ。
「組長さんとこに配達いくわー」
そして考えうる限り最悪のタイミングで登場する千束ちゃん。さすがの間の悪さ。
不正とは言い難いが、紛れもなく騙されていたたきなちゃんは当然不服。でもちょっとむくれ顔なのはとてもかわいい。風見がいいねしました。
「…何よ?」
「いいえ別に」
「えー、なになに?」
「何でもないって。そんなことより、さっさと配達行こう」
「すぐ仕度します」
そう言いながら二つに結った髪をほどくたきなちゃん。しかしそこに待ったがかかる。
「あー、大丈夫。制服がバレてるんだろうってくるみが」
「リコリス制服ですか?」
「あー……なるほろ。それでポンチョを」
なんか珍妙な格好しているなとは思っていたが、そういう理由だったのか。見えない雨でも降りだしたのかと思った。
「でも、私服じゃ銃は使えないよ?」
「んなこと分かってるよ。下に着てますー。ほらー」
そう言ってポンチョを両手でピラッと捲り上げる千束ちゃん。確かにその下には見慣れた赤い制服があった。
捲れ上がった黄色いポンチョの裾から覗く、ミニスカートと赤いブレザーの裾。なるほど今完全に理解した。これがチラリズムか。
「千束ちゃん、真面目な話しても良いかい?」
「…どした急に」
「同じ感じでスカートも捲って──」
「じゃあ行ってきまーす」
「あぁんっ! そんな殺生な! せめてツッコミを! ツッコミを入れてくんなましぃ~!」
私のウザ絡みをあの手この手であしらってきた千束ちゃんだが、最近無視が一番有効だと気が付いたらしい。だが残念だったな。私は美少女に限りシカトですら悦べる女だ。勝ったな。
…それでいいのかと何処からか声が聞こえるが、それでいいのだ。いいったらいい。辛くなんかない。だけど涙が出ちゃう。だって女の子だもん。
千束ちゃんが店を出ていくと、再び店内は私とたきなちゃんだけになった。特に理由もなく顔を見合わせる。
たきなちゃんは触覚が一本もげた……違う、ツインテールを片方だけほどいた状態で、私をガン見していた。
…とりあえず、もう片方もほどいたら?
「風見も千束と同じ事をしていたんですか?」
「ん?」
「その……風見も千束と同じことが出来るみたいですし…」
「…あー。じゃんけんの話ね」
私もたきなちゃんに全勝してたから、そう疑われるのは仕方ない。
…さて、どう誤魔化そう。実際、私が勝ちまくってたタネは千束ちゃんとまったく同じだ。しかしそれを正直に言ってしまえば、たきなちゃんの怒りが私と千束ちゃんで二分してしまう。それはダメだ。私は怒られたくない。
「ん~…」
「…」
「…それはね、たきなちゃん」
「…はい」
「ひ・み・つ」
「ひ、秘密?」
「そう、秘密。女の子はちょっぴりミステリアスな方が魅力的なんだよ」
我ながら雑な誤魔化し方だが、実際最適解かもしれない。あやふやにしておけば、たきなちゃんも怒るに怒れないだろう。
「ミステリアスが、魅力ですか?」
「え、まあ…うん。……そこ食いつくんだ」
…どうしよう。テキトウ言ったなんて今さら言えない。ここは何か言葉を捏ね繰り回して、話に何かしらのオチをつけた方が良いだろう。幸い、詭弁を弄するのは私の得意分野だ。
「…人間は不明瞭なものが魅力的に見える習性があるんだよ。謎があったら解きたくなるし、探りたくなる。たきなちゃんもそうでしょ?」
「………確かに」
「でしょ? だから、他人から見た女の子の謎って、魅力的だし素敵なものに見えるの。つまり『素敵なナニカ』を形成する重要な項目のひとつなんだよ。そして『素敵なナニカ』は女の子を形成する三要素のひとつでもある」
「なるほど…そうなんですか。でも、だからといって糖分解禁にはなりませんよ」
「…」
「…」
「…オチ潰すのはなしにしようぜ、たきなちゃん」
頭の回転が速いのは良いことだが、今のはレギュレーション違反だ。ルール違反だ。マナー違反だ。
もう怒った。キレた。ムカ着火ファイアーだ。これは罰として乳を揉まねばなるまい。いや、揉みたい!
私が満面の笑みでたきなちゃんに手を伸ばしたその瞬間、
「あああぁぁぁ~!!!」
──絶叫しながらナットちゃんが飛び出してきた。
「どした? 怖い夢でも見た?」
「違う! 見てくれ!」
突き出されたのはタブレット端末の画面。写っているのは四人の白服リコリスだ。背景はコンクリート。こんな場所東京には無限にあるから場所は絞れない。
ナットちゃんの絶叫に驚いたのか、ミカもミズキも店奥から姿を見せる。そして同じ様にタブレットを覗き込んだ。
「なんこれ?」
「これは銃取引のときのDAのドローン映像! 殺されたのはこの四人だ。これが犯人に流出して顔がバレてたんだ!」
「はーん。よくやった名探偵くるみ。君は最高の……ちょっと待てよ? 確かそのとき千束ちゃんって外階段登ってたんじゃ…」
「…その通りだ」
ナットちゃんの指が画面上で滑ると、対応するように画像が切り替わる。そこに写っているのは、どこからどう見たって千束ちゃんだった。
「ミカ! 千束ちゃんに連絡!」
「分かってる!」
「たきなちゃん! 着替えるよ!」
「はい!」
やはり千束ちゃん、なんという間の悪さ。もう少し出かけるのが遅ければ、ナットちゃんの忠告が間に合ったのに。
なんて言ってる場合じゃない。リコリス狩りの狙いが千束ちゃんなら、単独行動させるなんて危険すぎる。今すぐ合流しなければ。
軽く千回以上は脱ぎ着している制服を素早く袖を通して、銃を持って更衣室から飛び出す。千束ちゃんが組事務所に向かったなら、その道中をローラーするのが手っとり早い。
「私とたきなちゃんは先に応援に行く! ミカとミズキは一応逃走するために車を!」
とだけ告げ、返事も待たずにドアを蹴破るようにして飛び出した。幸い、組事務所に行くための道はそこまで選択肢が多くない。千束ちゃんが相当トリッキーな道を選んでない限り、すぐに見つかるはずだ。
…と、思っていたのだが。
「千束のポンチョとスマホが…」
『町中のカメラをハッキングする』
「急いで!」
見付かったは見付かったが、それはただの残骸。血痕は見当たらないから死んでないとは思うけど、微かに硝煙の臭いが残留している。
それはつまり発砲したということで、敵襲があったということだ。本人がいないのは逃げたからか、連れ去られたからか。できれば前者だと信じたい。
「たきなちゃん、ここからは別行動だ」
「えっ?」
「たきなちゃんはここからあまり離れないでナットちゃんの報告を待って。私は機動力を活かして辺りをローラーする」
「…分かりました。あまり無茶はしないでください」
「善処はする」
さてどこに向かうか…。もし千束ちゃんが連れ去られたのだとしたらもはや手遅れだ。足どりを追う術はない。
逆に千束ちゃんが逃げたんだとしたら、その思考をトレースすれば逃げた先が分かるかもしれない。
「ナットちゃん! 確か前四件は車で轢かれてからの射殺だったよね?」
『そうだ。それがどうした?』
「やっ、それなら良い」
前四件は車で轢いてから動けないところを滅多撃ちにして殺していた。ならば、犯人は今回も同じ様にしたはずだ。
千束ちゃんが逃げたとのだとしたら、追っ手は車。幾ら千束ちゃんが優れたリコリスでも、走力で車を撒くのは不可能だ。逃げるのだとしたら、車が通れない細道か車が走りづらい悪路……。
ここら辺には裏路地なんてないから、該当する地形は少ない。それだけに千束ちゃんがどこを進んだかの判断が付く。
可能な限り細い道や段差のある道を選んで走った。同時に五感を澄ませて気配を懸命に探る。リコリスを狙うなら、向こうは絶対に多人数だ。それが一ヶ所に固まってれば、私の感覚で捉えられるはず…。
「──って、簡単に見つかるんかーい」
幸いにも、千束ちゃんは案外簡単に見つかった。見付かったのだが……なんか既に制圧していた。主犯格らしき男に銃を突きつけながら、背後を取るようにとゆっくり移動している。なんだろう…ひとりで解決するのやめてもらっていいですか?
…と油断していたら、負け犬くんが完全に背後にいた千束ちゃんの銃を掴んで無力化。まさか、後頭部にも目が!? …なんてくだらないことを考えている場合ではない。
心眼をもって千束ちゃんの銃を捉えた男は非殺傷弾の液体を口から噴出。眼球に液体を食らって狼狽える千束ちゃんに、渾身の右ストレートが突き刺さる……直前に、呼ばれてないけどじゃじゃじゃーん。
横合いから滑り込んだ私は男の拳を受け止めて、カウンターでお腹の中心をどーん。男をオトすならまず胃袋からってね。
「ぐぅっ! っんだおま……あ? お前、あのときのイカれリコリスか!」
「ん? …おお!? そのマリモのような特徴的な髪は、あの時のまりもっこり! 生き埋めになってるんじゃないかって心配してたけど……どう? 元気?」
「は、ははっ! いいねぇ~。アランリコリスにあのときのイカれリコリスまで。そうでなくっちゃ俺とはバランスが取れねぇ!」
「おーい。元気かって聞いたんだけどー」
「あ? 元気だよ、元気」
「おーそうかそうか。まりもっこりは今日もモッコリしてるのか」
「そうは言ってねぇよ」
「またまたぁ~。恥ずかしがんなって」
なんて言った瞬間、まりもっこりの拳が私の眼前に迫っていた。直線的で間合いが狂いやすい、コンパクトな打撃。良い筋している。
だが私だってリコリス。油断してるフリしてちゃんと構えていたから、当然対応できる。一撃目はダッキングでかわして、二撃目は前に踏み込んで振り切る前に止めた。
懐に入り込んだなら今度は私のターン。さっきは
「せいっ!」
右肋骨の下辺りを若干持ち上げるように打つ。まりもっこりが内臓逆位でもない限り、ここが肝臓の位置だ。『肝心』という言葉があるように、肝臓は心臓並みに重要な臓器であり、当然、血液が大量に集中する場所でもある。そんな場所を打たれれば大量に内出血し、最悪の場合死に至る。それに肝臓周りの筋肉は鍛えにくいから、近接格闘では一番使い勝手の良い急所……なのだが、全然拳が入っていかなかった。
「効かねぇなぁぁ!」
「…ちっ」
私が渾身の一撃をすかしたため、今度はまりもっこりのターン。アッパー気味のカウンターはスウェーバックでかわし、バックステップで距離を取った。
「いいね。お前やっぱ面白いわ。ザコなんてちまちま殺してないで、最初っからお前探してれば良かったぜ」
「そういう君だってなかなかやるじゃん。肝臓周りの筋肉までしっかり鍛えてるあたり、さては君、ただのマリモじゃないな?」
「俺はそもそもマリモじゃねぇ」
「またまたぁ~」
なんて軽口の応酬をして、そろそろ時間稼ぎは充分かな。千束ちゃんは目を拭き終えただろうし、たきなちゃんはそろそろ到着するころだ。本当はコイツを倒しておきたかったけど、まあ出来なかったなら仕方ない。最低限の目標は達成できた。
きっとまりもっこりは囲んでるから逃げられる心配はないなんて思ってるんだろう。でも残念。こっちには良い腕したヒットマンがいるんだよ。
私たちを囲む車と人の輪。そのさらに外側から弾丸が飛来する。不意討ちすぎるその奇襲を避けられるはずなく、脚を撃たれた取り巻きの一人が膝を突いた。
「千束ちゃんはミズキの車に!」
パニックに乗じて私も銃を抜き、包囲陣に穴を開けるように敵を撃つ。まりもっこりは……いい動きしやがる。あれは捉えられんな。
主犯格のあいつは優先して無力化したかったが、自分の命より大切なものなんてない。残念だが、今は諦めよう。
ミズキの赤い車を目指して走り、千束ちゃんに続いて飛び乗る。援護してくれたたきなちゃんも同様に飛び込んできた。
「…せ、狭い」
「ミズキ! 出してくれ!」
「バッチコーイ!」
おっさん臭いミズキの掛け声と共に、防弾仕様の車が出発進行。頑張れミズキ。君ならABCD包囲網だって抜けられると信じてる。あれは経済的包囲網だけど。
私たちも窓を開けて敵を掃討していく。気分は無双ゲー。ただし敵を殺さないという縛りつきの。頭はもちろん、胴や動脈だって撃てないからかなり的が小さい。逆刃刀持って敵陣に突っ込んだ方が楽まである。
…って、ロケラン!? それはちょっとマズ……あ、弾切れ。
『ヤバいので狙われてるぞ』
「風見、弾切れしましたぁ!」
「私もです!」
「あぁー、ダメだ! ヤバいヤバいヤバいヤバい!」
千束ちゃんが乱射するが非殺傷弾じゃこの距離は当てられない。やーい、ノーコン……なんて言ってる場合でもなく。
『…仕方ないなぁ』
ぼやいたナットちゃんがドローンで自爆特攻を仕掛ける。さすがは仕事の出来る幼女。ロケランマンの顔面にドローンが直撃し、ロケランはあらぬ方向に向かって超エキサイティン!!
ひょろひょろと無様に飛んでいった弾の先にはさっきミズキが吹っ飛ばした車と……それに駆け寄る人影。
選ばれたのはまりもっこりでした。
着弾したランチャー弾はその設計通りに大爆発し、車のガソリンを巻き込んで誘爆。きたねぇ花火だ。
モロにその爆破に巻き込まれたまりもっこりは、ぶっ飛ばされて東京湾にダイブ。ギャグマンガかな。海の底で物言わぬ貝になればいいと思う。
◆
色々ありすぎた夜が明け、日が上ると、私たちは診療所に来ていた。といっても用があるのは千束ちゃんだけ。私とたきなちゃんは付き添い。
「はいよ、終わりよ。怪我するなんて珍しいわね」
診療所の主である恰幅の良い先生が、千束ちゃんの腕に包帯を巻き付けながらそんなことを言った。一応怪我人なんだからもうちょっと優しい言葉を掛けてあげても良いんじゃないかな、なんて思うけど、この人には言っても無駄なので黙っている。
「千束の弱点は目ですね」
「いやいや…誰だってそうだろ」
たきなちゃんの天然と千束ちゃんのツッコミ。うんうんいつも通りだ。私もこの日常を享受せねばなるまい。
「…なぜ胸を触ろうとする」
「…? 日常を享受しようと思って。むしろなぜ胸を触らせてくれない?」
「そのスタンスで来ればいけると思うなよ、貴様」
「ははーん。さてはたきなちゃんほどの弾力がないから恥ずかしいんだね。大丈夫、たとえ垂れていても大きければ──あだだだだだ!! 千束ちゃん! 手首はそれ以上、まがっ、曲がらなぁぁぁ!! 折れる折れる折れる!!!」
「ここ病院だから大丈夫でしょ」
「骨折は
「良いチームじゃない」
私の手首を笑顔で折ろうとするサイコパス千束ちゃんと悶絶する私を見て、先生が優しい笑顔でそう呟いた。目が悪いようなので医者に診てもらうことをお奨めする。
そんな風にじゃれていると、私のポケットが震えた。着信アリ。千束ちゃんも本気で折るつもりはなかったらしく、私の両手はあっさり解放された。
「はぁはぁ……危うく折れるところだったよまったく。千束ちゃんは愛情表現が激しいなぁ…」
「…」
「また無視?」
「風見、電話出なくて良いんですか?」
「え? 今、電話に出んわって言った?」
「…」
「…」
「………そうだね。ごめん二人とも、ちょっと席外すね」
診察室から出て、一応表示画面を確認する。……まあ、司令だよね。
「…もしもし?」
『風見、連絡事項がある。明日本部に来い』
「嫌ですよ。連絡事項なら今ここで言ってください」
『ならそうしよう』
およ、随分素直。明日は槍でも降るのかもしれない。北欧神話かな?
──なんて油断していた私は、続く司令の言葉を予想していなかった。というよりは、考えてなかった。考えたくもなかった。
『吉原風見、お前のDA復帰が決定した。五日後までに荷物をまとめ、リコリス棟に戻れ』
作者はロボットアニメがあまり好きではありませんが、自宅や車を変形ロボに改造しようか本気で迷ってる人間です。
ただ断じてロボットアニメは好きじゃありません。
見たことのあるロボットアニメはせいぜいガンダム、ぼくらの、新サクラ大戦、コードギアス、ダリフラ、へヴィーオブジェクト、マクロス、アクエリオン、ナイマジ、86、シドニア、IS、ゾイワル、境界戦記程度です。
重ねて言いますが、決してロボットアニメ好きではありません。
毎期TwitterとGoogleでロボットアニメを検索したりしてませんし、オススメのロボットマンガやラノベを調べたりしていません。
念を押すようですが、ロボットアニメ好きではないので勘違いしないでください。
家にプラモなんてありませんし、飾ってもいません。当然、拘って磨いたり塗装したりもしていませんし、専用のケースなんて買ったこともありません。
べ、別にロボットアニメなんて好きじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!
余談(本題)ですが、完結へのストーリーが整ったので、ぼちぼちそっち方面に話を転がしていきます。
予定では、後2~3話くらいで話を完結させようと思っています。………予定では。
これは本当に余談ですが、作者は予定や計画を一度もその通りに遂行したことがありません。余談ですが。