探索者になれば夢を叶えられるって本当ですか!?   作:平民

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第三話

 自宅への帰路の間、お姫さまは饒舌だった。

 自らの境遇から始まり、元いた場所での出来事や、こっちに来てからの事。次から次へと矢継ぎ早に語られる誰も知らない、誰も聞いたこともないだろう情報の数々。一言一句逃さないように聞こうとするが質量が大きすぎてパンクしそうだ。

 

 結果、止まらない言葉の嵐に曖昧に返事や相槌を打ちながら自転車を漕ぎ進めるだけの機械に成り果てた。いや別に諦めたわけじゃないし……炎天下の日光のせいで頭が回らないだけだし……

 

『しかし、我に――ん? どうかしたのか?』

 

 動きが止まったからか胸のポケットから顔を出して不思議そうにこちらを見つめてくる。

 自宅に着いただけだと答えると、顔を動かし値踏みするかのように我が家を見つめる。

 

『ほう! ここが!』

『なんというか……普通じゃな!』

 

 そりゃそうでしょ。例え、祖父母や両親等の血縁が規格外のすごい人達だったとしても、今の自分はただの一般人。第一、ただの一軒家の今でさえ掃除とか、掃除とか、掃除とか、とにかく維持管理が面倒なのだ。これ以上広い場所に住むとなると自らの手に負えなくなる。

 

 いつものように自転車小屋の下へと自転車を止めて鍵をかける。玄関の前に立つと急にお姫さまがそわそわとし始めた。

 

『……なあ。お主、我に変なところはないか?』

 

 パッと見ても特にないと思うがどうしたのだろうか。

 

『我が身がこんな姿でも、お主の両親には挨拶せねばならぬじゃろ?』

 

 いや、自分以外の一家まるまるは迷宮攻略中である。迷宮の攻略が終わっても報告だとかであと二、三ヶ月は帰ってこれないだろう。

 

『むぅ……そうか、おらぬのか。ならば仕方ないのぅ』

 

 誰が見てもわかるレベルでの落ち込みようだ。そこまで重要なことなのだろうか。挨拶なんて別にしなくても構わないような気が……そもそも声が聞こえるのか怪しいところだ。

 

 それよりもお昼の献立である。いつもならば適当に肉や魚を焼いて終わりだが、いつもはいない客人がいるのだ。それなりの種類の食材は揃っているのである程度までなら用意はできるはず。お姫さまの世界にしかない料理とかは厳しいが、それ以外であるならば出来るだけ希望には沿えるように努力するつもりだ。

 

『食べられるのであれば何でも良い……と言いたいところじゃが久しぶりに肉が食べたい』

 

 ここ数日は何も口にしてないしの、と続けられた言葉に思わず涙が零れそうだ。

 すぐにでも準備に取り掛かりたいが、日差しで汗まみれなので軽くシャワーだけでも浴びたい。

 

 ただいま、と惰性で声を出すが返事はない。玄関に来客者の靴もないので誰もいないだろう。

 

 リビングに入るとムッとした熱気が襲いかかり、テーブルの上にあるエアコンのリモコンに手が伸びる。ついでとばかりにテレビの電源を入れるとお昼のバラエティ番組の陽気な音楽が流れる。

 

 様子をうかがっていたお姫様をテーブルの上に乗せると興味深そうに部屋の中を見渡していた。特に面白味のない一般的な家庭の部屋ではあるが、異世界からしたらやはり珍しいのだろうか。

 

 興奮した様子でテーブルから飛び降りて部屋の中をちょこちょこと歩き回る姿を確認してから部屋を出る。

 あの様子ならば少しぐらいの時間席を外しても退屈はしないだろう。

 

 

 

 シャワーのカランを回し冷たい水を頭から浴びる。そのせいか段々と思考が冷静になり「今の現状はひょっとすると、とんでもないことなのでは?」といった考えが頭の中を漠然と埋め尽くす。

 

 この世界とは異なる世界からの来訪者であるマレビトなる存在は、珍しいといえば珍しいが今では不可思議なことでない。

 

 過去には特殊な――レベル制限やスキル禁止などの制約がある――迷宮の中、それも人力で探すのであれば天文学的な確率でしか見かけることはできない。などと言われていたが、今では何だかんだで世界中で数か月に一、二回程度ではあるがマレビトと邂逅していることが世界ダンジョン協会に記録されている。

 

 それにこちらの世界に移住してきたマレビトもいる。

 大多数のマレビトは角や耳、尻尾といった身体的、種族的特徴を隠して人の世界に溶け込むように暮らしているが、中にはSNSや動画サイトでは客寄せの為か、自らの強みである特徴を隠していないマレビトも目に留まるし、電車で都会へと向かえば隠さずに同種族で集まっているマレビトもそれなりに見かける。

 

 つまり、マレビトの発見当初はどこもかしこも大騒ぎで連日嫌になるほど話題になったが、現代においては大興奮で「マレビトを見かけた!」と騒ぎ立てても「ふーん。で?」と流されるくらいには世間的、世界的にも社会に馴染んでしまっているのだ。

 

 だからこそ、お姫様を見つけたときも声が聞こえてきた時も「まあ、そんなマレビトもいるだろう」と心のどこかで流していたのだ。……帰路でお姫様の身の上話を聞くまでは。

 

 

 

 汗を洗い流し終え、リビングに戻るとテレビから聞こえる喧噪とエアコンが整えてくれた涼しい環境が火照った体を迎え入れてくれる。

 興奮気味だったお姫様の声が聞こえず、不安になったがソファの上に置いてあるクッションの上でうとうとしていた。

 

 お姫様の機嫌を損ねないように静かに横に座り、頭頂部をゆっくりと撫でていると、閉じかけていた瞳がゆっくりと開き、面倒くさそうにこちらを見据えた。

 

 その迫力に撫でていた指が止まるが、何も言われないことをいいように滑らかな白い背中や細く長い尻尾を一直線に指を滑らせたり、鋭く尖った爪が生え揃った手足に触れる。考えられるであろう全身という全身をくまなく撫でまわす。

 

『調子に乗るな、あほ』

 

 さすがに苛立ったのか、撫でていた指を器用に絡め取られ、お姫様の大きく開いた小さな口に食まれる。

 噛みやすい場所を探しているのか、指の腹を何度もあぐあぐと噛みつかれ、その度にチクチクとしたくすぐったさを感じる。

 

『やっと気が休まるのじゃから邪魔せんでくれるか? それとも我と一緒に横になるか?』

 

 か弱い刺激が指先を襲うたびに頭に霞がかかったように眠気に誘われる。堪えようにもお嬢様の声が脳に響くたびに瞼が落ちそうになる。

 

 食事の時間を通して龍種が住まう聖域の話だとか、この世界に跳んで来るために使用した転移魔方陣だとか、色々ともう少し詳しく食事をしながら聞きたかったがどうやらもう無理そうだ。

 

 だんだんと体が怠く重くなりソファへと横に体が倒れる。

 

『食事は後でよい。今はこのまま身を委ねるがよい』

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