「やってくれたねェ〜。」
壁に激突したボルサリーノは何事もなかったかのように立ち上がり、スーツについた埃を払う。そして、指をヒューに向けた。
「大人しく捕まっちゃいなよォ〜。」
光線が再びヒューを襲う。しかし、それはヒューの身体を身体を貫くことはなかった。ボルサリーノが気がつく間も無く目の前にヒューの拳が迫っており、再び壁へと激突させられる。そして間髪入れることなくロギア系の能力者であるボルサリーノの身体をヒューの拳が襲った。
数発、覇気を纏うヒューの拳を喰らったボルサリーノだったがその身体は瞬く間に光となってヒューの間合いから脱出する。そして、瞬時に身体を実体化させて光速の蹴りを放った。その威力はグランドライン前半の海最後の島、シャボンディ諸島の島々を創っているヤルキマンマングローブを根元から破壊する威力であり、生身の人間ならば塵一つ残らない一撃と言っていいほどのものである。
ヒューはいつもの笑みを浮かべることなく腕を振り上げ、その指先に武装色の覇気を纏わせた。当たれば無傷では済まない蹴りが迫って来ているのにも関わらず余裕の表情だった。
「『豪覇撃』」
小さくハッキリと呟く。次の瞬間、ボルサリーノの蹴りから放たれた光線がかき消えたかと思うとヒューの斬撃が威力を増しながらボルサリーノに襲いかかった。それを飛んで避けるボルサリーノ。そのまま止まることなく斬撃はマリンフォードの広場を言葉通り真っ二つにしながら海兵や海賊を巻き込んでいく。そして遂には海軍本部の『海軍』と大きく書かれた建物を破壊した。マリンフォードの象徴というべき要塞が崩れ落ちる。
この光景を見ていた全員が動きを止めた。それと同時にほとんどの海軍将校達はヒューを攻撃対象とし、それ以下の海兵達はヒューの力にただ唖然とするばかり。海賊達も隊長格を除いてはヒューの一撃に驚くしかなかった。
「止められるモンなら止めてみろ......。」
吠えるヒューに対し、将校達が攻撃体制を取る。中将も、エースを追っているサカズキを除く大将2人もヒューを囲んだ。
「おいお前ら、このじーさんは絶対に逃がすんじゃねぇぞ。」
「分かってますよクザン大将。」
「殺す気で行かないとねェ〜こいつを野放しにしておくと海軍の名が泣くよォ〜」
「正義の名にかけて虎狼のウォルフはこの場で仕留める......。」
全員がヒューを生死を問わず倒すことだけを考えていた。ヒューは自分を囲む将校達を睨みつけたまま動くことはない。
「何もかもが遅ェんだよ......テメェ等、俺を忘れたとは言わせねェぞ。」
中将達はヒューにとって知っている顔ばかりだった。そして、ニヤリと笑ったヒューの姿が将校達の前から掻き消えた。全員が構え、見聞色の覇気でヒューの動きを感じ取る。
「相手は老いぼれ一人だ!我々が力を合わせればどうとでも......ッガハァッ!?」
ヒューの動きを覇気で感じていたにも関わらずもろに攻撃をくらい吹き飛ばされるダルメシアン中将。ヒューの攻撃は止まらない。
「やれやれ......まったく。アンタ達は下がってな。」
ヒューが襲ってくる中、前に躍り出た一人の中将。焦った様子もなく涼しい顔をしてヒューを迎え撃つ。
「老けたなァ!おつるゥ!」
腕を振り上げ、拳を放つヒュー。つると呼ばれた女性の中将も拳を突き出した。彼女はガープと同期の海軍中将でありウォシュウォシュの実を食べた洗濯人間である。ため息をつきながらつるは呟く。
「アンタはいくら洗っても改心しない馬鹿だからね。本当に厄介だよ。」
襲い掛かる拳を避け、おつるはヒューの顔に轟音と共に拳を叩きこんだ。吹き飛ぶヒューに追い打ちをかけるように他の中将達が攻撃を仕掛けていく。
「何も考えられなくなるまで真っ白に洗濯してあげようかね...。」
つるもヒューに向かって攻撃を仕掛けた。ヒューは群がる将校たちを拳だけで応戦していく。
「『覇拳』」
その一撃で3人の中将が宙を舞う。追い打ちをかけるように拳を振りかぶったその時、ヒューの頭に銃口が突き付けられた。
「大人しく死ね。」
ヒューが銃を突き付けている中将の一人に目を向けると同時に、銃の引き金が引かれた。
確実に頭を打ち抜く距離で発砲されヒューが弾丸を避けることは不可能に近かった。しかし、悲鳴を上げたのは発砲した中将だった。肘が逆方向に曲がり骨が付き出るほどの重症。誰もが目を疑った。
「惜しかったなァ......。」
ヒューは覇気を垂れ流し、腰を落とし、腕を顔の前でクロスさせて構える。そんなヒューの異変を感じ取ったつるはヒューに攻撃しようとしている中将たちを止めた。
「アンタ達!用心しな!虎狼が......牙をむくよッ!」
「ダハハハハァ!!」
練り上げられた覇気がヒューの両腕に集まっていく。再びヒューに攻撃を仕掛けようとする中将達だったが、その場にいる全員が蛇に睨まれた蛙のように身動き一つできずに固まった。だがつる一人だけはヒューがこれから放とうとしている攻撃を止めるべく動き出す。
「やはり殺しておくべきだったね...あの日あの場所で。当時の上層部はアンタを生かす方針のようだったけど、アンタは今こうして世界に牙を向けている。」
ヒューは笑みを浮かべながら答えた。
「世界だァ?もう遅ェよ。」
狂気とも呼べる眼をギラギラと光らせながら叫ぶヒュー。
「俺は俺の意思で死ぬ。邪魔はさせねェ!!!」
「私ら老いぼれはもう出る幕じゃないんだよ...ウォルフ・D・ヒュー!」
自らの能力を使ってヒューに攻撃を仕掛けるつる。だが、ヒューが放った腕の一振りでつるは吹き飛ばされた。
「覇王の咆哮...。」
ヒューはすぐさま勢い良く息を吸い込み、口を開けた。
「ガアアアアァァァァァァッ!!!」
その場にいる全員が耳を塞いでしまうほどの叫びがヒューから発せられる。
そしてヒューの雰囲気がガラリと変わり、その雰囲気に中将達は今まで以上に気を引き締めて攻撃体勢に入らざるを得なかった。
「これが海賊王と同じ世代か。」
思わず出てしまうヒューに対しての恐れにも似た言葉。
「此奴をそこら辺のジジイと同じように考えちゃあいけないよ。今此奴を止められる人間はこの世界で数える程もいない。だけど...。」
滅多に焦る表情を見せないつるがこれ以上油断は出来ないといった面持ちでヒューを睨む。刹那、ヒューの体がその場から消える。無差別に海軍将校達を吹き飛ばしながら進んでいき、ヒューに向かって突き出された剣は粉々に砕かれ、打ち出された銃弾は見聞色の覇気で躱されて掠りもしなかった。
ヒューの攻撃をなんとか凌いだつるは呟く。
「...意地でもこの男を止めないと海軍の名が廃るってものさ。」
つるの一言でヒューにやられた中将達の士気が再び上がる。そして海軍の攻撃方法、『六式』を使ってヒューへと襲い掛かった。
「覚悟しろ!虎狼!」
高速移動の『剃』を使いこなしながらヒューへ一斉に襲い掛かる中将達。覇気を使い、『嵐脚』を放ちながら逃げ場をなくすように八方から攻撃を仕掛ける。たとえ逃げたとしても、待ち構える大将の容赦ない攻撃がヒューを襲う。
ヒューは放たれる『嵐脚』を躱しながら大勢の中将の一人の胸ぐらを掴み、獰猛な笑みを浮かべて拳を振り上げる。そして鋼鉄よりも硬い拳が中将の顔面に放たれた。ものすごい衝撃が周りの中将達を巻き込んで広場を揺らす。ボルサリーノが指をヒューに向けて光線を放とうとし、クザンが氷塊を手のひらに生成した時、爆音がマリンフォードに響いた。
「そろそろ戦争も終盤だねぇ~クザン大将ォ、あっしは麦わらを追うよォ。」
ヒューを狙っていたボルサリーノがその爆音により戦局が変わったことを知り、逃げるルフィに標的を変えてその場から離れた。クザンは頭を掻きながらボルサリーノが駆けて行った方向を見る。
そこには無惨な死体で血まみれのエースが倒れており、その先にルフィを担いで走る元七武海のジンベイの姿があった。
「アーララ、エースもあっけなかったじゃないの。『アイス塊・両棘矛』」
クザンは遠ざかるジンベイに向けて氷の矛を無数に放つ。しかし、それはジンベイを貫く前に阻止された。
「エースの弟は殺させん!青雉!」
3番隊隊長、ダイヤモンド・ジョズの世界最高の硬度を持つ拳によって氷は粉々に砕ける。そしてその巨体に似合わない速さでジョズはクザンの前に降り立った。
「終わりそうにないね...こりゃ。」
クザンが能力を使い、ジョズを氷漬けにしようとした次の瞬間、何度目かわからない立っていられないほどの揺れがマリンフォードを襲った。その影響によるものか、広場が真っ二つに割れる。今までになく底が見えないほどの溝ができ、溝を隔てた向こう側には世界最強の男が立っていた。
「そういうことかァ!ダーッハッハッハ!」
笑い声をあげるヒューの元にスクアードが走ってくる。
「ウォルフの兄貴!オヤっさんがッ!!」
「ダハハハッ!おうスクアード、オメェこいつらの相手してやれ。俺ァ......。」
ヒューが見た先にいたのは笑みを浮かべ、薙刀を地面に打ち付けた白ひげ。ヒューは考える間もなく、掴んでいた中将を放り投げると足に力を込めてその場から跳んだ。
「もういっちょ派手に暴れてくらァ!!!」
ヒューは空中で、腕に力を入れて武装色の覇気を纏わせると拳を構える。狙うは殺気を垂れ流して海軍本部の巨大要塞を睨みつける白ひげ。白ひげは薙刀を振り回しながら溝の向こう岸から跳んでくるヒューへ向けた。
「オメェは引っ込んでろ!アホンダラァ!!!」
「ダーッハッハッハハ!おうニューゲートォ!死に急ぐんじゃねえェぞ!兄弟ィ!!!」
次の瞬間、拳と薙刀がぶつかり、マリンフォードに轟音が響いた。
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