ヒューとニューゲート、浮浪児達は海辺に打ち上げられた巨大な海王類を囲んで歌い踊りの宴をしていた。
「いやァ〜!危ねぇところだったぜ!ダハハハハハ!お前ェら元気だったか?」
ニューゲートに殴られて文字通り飛んで行ったヒューは海王類を屠ったタフさを遺憾なく発揮してピンピンしていた。この1年の冒険を子供達に身振り手振りで語るヒュー。その光景を見ながらニューゲートは青筋を浮かべながら子供達に見せたことがないような笑みを浮かべている。
「それでよ!アテもなく泳いでたら出くわしたんだぜ!お前らが見たこともねェでーっけェ海王類がよ!」
子供達は目をキラキラさせながら耳を傾ける。その様子にヒューの冒険話はヒートアップしていく。
「俺は生まれて初めて死んだと思ったぜ。何せ山のようにでっけェ魚が俺を飲み込もうとしてんだからな!」
「ヒュー兄ちゃん死んじゃったの!?海王類に食われたの?!」
チッチッチと舌を鳴らして首を振るヒュー。
「俺ももうダメかと思ったその時だ。目の前に迫っていた海王類が一瞬でひっくり返っちまったのさ!」
「「「「ええええええ?!」」」」
「ヒュー兄ちゃんがたおしたのか?!」
「なんで?なんでなんで?!」
「さすがヒュー兄ちゃんだな!」
「かいおうるいさんしんじゃったの?」
子供達の怒涛のなぜなぜ攻撃が始まった。ヒューは笑みを浮かべて続きを話す。
「俺も何が起こったか分からなかったぜ。何もしてねェのに海王類が一瞬で倒されてたんだからな!それで訳もわからねェままその場で泳いでたんだがよ、現れたんだよソイツが!」
ヒューの表情が急に真剣な顔になる。ゴクリと唾を飲み込む音がした。
「俺やニューゲートよりも遥かに山のようにでっけェ大男が!」
「「「「うおおおおおお!」」」」
「俺はその山みたいな男が乗っている船に引っ張り上げられて気がついたらソイツの弟子になってた!俺はそこで鍛えまくって海王類を倒せるまでになったのさ!」
拳を握りしめて叫ぶ子供達。その無邪気さにヒューは笑い声をあげた。
「山のようにでっけー海王類に!」
「山のようにでっけー大男!」
「スッゲー!俺もみてえー!!」
白い歯を見せて笑うヒューは子供達に言い聞かせた。
「お前ェら!この目の前に広がる海の向こうには俺達が見たことも聞いたこともねェ物が沢山あるんだぜ!男なら!俺の弟なら!心踊らねェヤツはいねェだろ!いつか、俺達は船を手に入れて海に出るぞ!俺とニューゲート、そしてお前ェらがいれば何も怖くねェだろ!どんな奴が来たってイチコロだ!なァ!お前ェもそう思うだろ!兄弟!」
静かにヒューの話を聞いていたニューゲートはいつの間にかヒューの後ろに立っており、全力でヒューの頭を鷲掴んでいた。
「イデデデデデデェ!!!!!」
「オメェどこほっつき歩いてたって?!えぇ?ガキの世話放っぽり出してなァ!!」
ヒューの胸ぐらを掴み上げて怒鳴るニューゲート。この1年の恨み辛みを吐き出していく。
「お前が居ねェ間にオレがどれだけ苦労したと思ってる!また一つ隣の国が奴らの手で潰れた!ガキ共はお前が居ないと泣き喚き散らしやがるし!食いモンも満足に食えねェって時にお前は呑気に海王類のステーキだァ?!大男の弟子だァ?!お前なんか海王類のエサになっときゃ良かったんだ!」
「う、うるせェ!海王類がデカすぎて持って帰れなかったんだよ!あんなデケェの引っ張れねェだろ!ここまで引っ張って来るのに1年かかったんだよ!悪ィか!」
「んなこと聞いてねェわアホンダラァ!!!」
いつの間にか本気の殴り合いに発展してしまう2人。その様子を特に気にすることもなく子供達は久しぶりのご馳走に舌鼓を打っていた。
「ヒュー兄ちゃん相変わらずだなぁ。」
「でも、ニューゲート兄ちゃんちょっと元気になったよな。」
「そりゃそうさ!俺たちの兄ちゃんは2人揃った時が最強なんだ!どんなに強いヤツが来ても2人ならイチコロだ!」
「海王類のステーキウメーッ!」
砂浜に子供達の笑い声が響く中、顔をパンパンに張らせた2人は殴りあうのをやめ、同時に子供達の方を向いた。
『てめェら何笑ってやがる!』
怒りの矛先が笑い合っていた子供達にまで向かう。
「ヤッベ!みんな散れえ!」
1人が叫ぶとそれまで持っていた骨つき肉を放り投げ、子供達は蜘蛛の子を散らすように散り散りになった。
「ダハハハハハァ!ヨォ〜シ!お前ら!この1年どれだけ強くなったか見てやらァ!簡単にくたばんじゃねェぞ!」
指を鳴らしながら1歩ずつ歩みを進めるヒュー。1人目をあっさりと捕まえると、それを皮切りに続け様に子供達を捕獲していった。
「ダハハハハハァ!俺もこの1年で強くなっただろう!お前達がどこに逃げたか気配が分かるようになったんだぜ!」
捕まった子供達はヒューに向かって不満げな声を上げた。
「ずりーぞ!それー!」
「そうだーそうだー!」
「ヒュー兄ちゃんとかくれんぼしたら勝てねーじゃんか!」
「そうか……よし!これからかくれんぼするぞ!俺が鬼だ!お前ェら隠れろォ!」
子供達に指示を出すヒューにニューゲートの拳骨が落ちた。
「俺との話しが終わってねェだろアホンダラァ。」
ヒューは頭にでかいたんこぶを作って涙目になりながらニューゲートを見た。その瞬間、ヒューの目が細く鋭くなった。殺気が漏れる。
「ニューゲート、話し合いは後だぜ。何か来るぞ。」
「チッ、今日も来やがったか。ガキ共!荷物纏めろ!掃除屋が来やがった!」
ニューゲートの声を聞いて子供達は動き始める。しかしその行動は少し遅かった。
「ヒュー兄ちゃん!ニューゲート兄ちゃん!奴らだ!」
今までとはまるで違う必死の叫び。ヒューは目を細めるとニューゲートの方を向いた。
「海兵か?ゴロツキか?ここ1年で何があった。」
「そんなもんじゃねェ。アイツらは人間じゃあねェんだ。」
ニューゲートの殺気が鋭くなる。ヒューは目の前の光景に目を見開き、怒りで震えた。
「お前が1年前、天竜人の船で旅に出ようと言っただろう……」
子供達はその場から脱兎のごとく逃げ出す。
「オラオラ!遅ェぞ!クソガキ共がァ!」
現れたのは首に鉄の輪っかを付けて足に鉄球を括り付けた数十人の男達だった。
「その船に乗っていた奴らがコレだ。」
男達は逃げていく子供達に向かって銃口を向けた。
「そら!逃げろ逃げろォ!そんなんじゃ死んじまうぞ?」
笑いながら銃を撃つ男達。銃弾が当たらないよう回避する子達もいたが、逃げきれず銃弾に倒れる子もいた。
「クソがァ!!!早く逃げろお前ェら!」
拳を握りしめてヒューは男の1人を殴り飛ばし、一撃で戦闘不能にさせると標的を次の男に決めた。
ニューゲートも棍棒を振り回して男達を蹴散らしている。
2人にとって目の前の男達は脅威になり得なかった。
しかし、
「ゴロツキ2人に何やられてんだい。まあ、所詮は海賊崩れの現奴隷か。」
男達をあらかた倒したところで現れた新手の顔。
白いコートで身を包み、表情は優しげだがその目はヒューとニューゲートが感じたことがないほどの威圧感を放っていた。
「あー、お前達がここら一帯の浮浪児達を束ねてる少年か?」
「だったら何だ。」
ニューゲートは冷や汗をかきながら笑みを浮かべた。その横でヒューは掴んでいた血まみれの男を放り投げるとニューゲートに話しかける。その表情は無。
「コイツら……弟達を全員やりやがった。」
その言葉を聞いてニューゲートは薄い笑みを濃く、獰猛な獣のような笑みに変えた。周りを見渡すと血まみれの男達と、さらに血まみれの弟達が倒れ伏している。生気は感じられない。そして2人は目の前のコートの男を見据える。
「死ぬ気で行くぞ兄弟。」
「グララララァ、先にくたばんじゃねェぞ兄弟。」
「ゴミ掃除はこれで最後かなあ、大人しく死んでくれよ?小僧共。」
悠然と待ち構えるコートの男に向かって2人は駆け出した。
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波打ち際でヒューは目を覚ます。
「また俺達だけが生き残ったのか。」
横を見るとニューゲートも目を開けて空を見上げていた。
「俺達は何で家族を守れないんだろうなァ。」
「そりゃお前ェ、俺達が弱ェからだろう。」
2人はそれだけ話すと軋む体を起こした。そして、無言で弟達の体を1人ずつ運び始める。
海がよく見える高台へと全員を運び終えた時、空は白み始めていた。
1人残らず銃で撃ち殺された。そんな事は生まれてから何度もあった。今2人が居るその高台は死んでいった家族が眠っている場所でもある。そして今日、そこにまた弟達が増えた。
ヒュー達の国に始まり、その周辺の国々までもがその力に屈した。男女、大人、子供、老人関係なく蹂躙する秩序も何も無い組織。世界政府の加盟国から外れた国の人々達だけが知る世界の裏の真実。
天竜人の気まぐれによって奴隷を使い、何ヶ国もこうやって潰して来た。まるでそこに住んで居る人々を人とも思わない所業。
その事を黙認している世界政府。
ニューゲートは脳裏に今日のような何度も見た光景を浮かべて呟く。
「何人ぶっ倒してもそれ以上に湧いて出て来やがる。この1年、お前がいない間に家族達が何人も殺された。お前の名前を呼んで死んだ奴もいた。」
「クソッタレが・・・」
握りしめた拳から血がとめどなく溢れる。ヒューに痛みは感じなかった。
「ニューゲート、その天竜人ってヤツは何処にいる。あの胸クソ悪ィ船は何処だ。俺達の家族を殺したヤツは何処だ。」
「お前一人で行くつもりか。」
獰猛な笑みを浮かべてヒューは歩き出す。
「アホか。俺達は2人で最強の兄弟だぜ。どんな強ェ奴が来てもイチコロだからな。」
ニューゲートもその言葉にいつものように笑った。
「グララララ。俺達は世界最強だ。なァ、兄弟。」
彼らが悲しみに暮れることはない。何度も踏みにじられ、裏切られてもその頬は涙で濡れることは決してありはしない。
『おれたちの兄ちゃんは最強だ!』
今までも、そしてこれからも、彼らは白い歯を見せて笑いながら生きていく。