ヒューがインペルダウンから脱獄した頃、エースの処刑を阻止するべく白ひげ海賊団はコーティングして海底を進んでいた。マリンフォードの湾のど真ん中に船を着けて戦いに挑む作戦だ。白ひげは船首に近い場所で仁王立ちして立っている。その後ろから1番隊隊長であるマルコが声をかけた。
「親父ぃ、船長室に入ってたほうがいいんじゃないかよい。」
白ひげは少し笑った後答える。
「なァに、年甲斐もなく武者震いが止まらねえんだ。今だったら俺のこのクソッタレな病気も吹き飛んじまうだろうよ。グララララ。マルコ、俺ァこの戦争死ぬ気でやるぜ。」
豪快に笑う白ひげの背中を見てマルコは安心する。世界一の親父はその名に恥じない力と豪快さを持っている。病気だからと言って白ひげは白ひげだ。世界最強の海賊であることに変わりはなかった。
そして他愛もない会話が交わされる中、白ひげ海賊団の航海士が告げに来る。
「間もなくマリンフォード湾内に入ります!傘下の海賊団も無事湾外に着いた模様!浮上します!」
白ひげはその言葉を聞き、右手に持った薙刀を甲板に叩き付けた。甲板には白ひげ海賊団の船員が全員集まっている。
「オメェ等!わかってんだろうなァ!」
その威声と共に海底にいた白ひげ海賊団の船、モビー・ディック号は急浮上を始めた。この時の白ひげ海賊団の思いは一つ。
“エースを必ず連れて帰る”その事だけだった。
【海軍本部マリンフォード】
ポートガス・D・エースの処刑までわずか数時間前。処刑台を中心に戦力の全てを結集し迫る白ひげ海賊団を警戒する海軍。最高戦力の海軍大将をはじめ、中将、王下七武海、錚々たる顔ぶれがこのマリンフォードに集まっていた。この様子は世界中に映像でんでん虫を通じて放送されている。白ひげ海賊団の隊長格である男を海軍本部のど真ん中で公開処刑をする真意とは何かを固唾を飲んで見届けようとする人々。これから起こるであろう白ひげ海賊団と海軍との全面戦争を見逃すまいと海賊達までもがこの様子を世界各地から見ていた。
海軍のトップであるセンゴク元帥が処刑台に上がり、頭を垂れているエースの横に立つ。
「諸君等に話すことがある。ポートガス・D・エース。お前の父親の名を言ってみろ。」
何の脈絡もなしにそう言い放つセンゴク。エースは声を絞り出すように叫んだ。
「俺のオヤジは......白ひげただ一人だけだ!」
センゴクはその返答に顔色一つ変えず淡々と話を続ける。
「違う!お前が白ひげ海賊団の2番隊隊長であるだけでここにいると思うか。否、処刑される理由は違うところにあるのだ。それはお前の中に流れる血が意味している。知らんわけがあるまい。」
センゴクの声が世界中に流れる。人々は固唾を飲み、この公開処刑の行く末を見守る。海軍がここまでしてただ一人の海賊を大々的に処刑するのか実際のところほとんどの人間が理解していなかった。誰の一人も海賊王の血が受け継がれていることは知らなかったのだ。
「白ひげではないお前の本当の父親の名を言ってみろ!」
「オヤジは白ひげただ一人だ...ッ!」
歯を食いしばるエース。絶対に言うつもりはなかった。生まれた時からその名は付いて回った。海賊王の名前を出すだけで彼は大人、老人、子供までもに蔑まれた。エースが何をしたわけでもない。ただ海賊王の息子というだけで鬼の子と呼ばれた。故に彼に父親というものは物心ついた時から居ないもの、要らないもの、憎むべきものになっていたのだ。
海に出て、自分のの世界を変えた男。息子になれと、豪快に笑いながら言ってくれた世界最強の海賊。エースはその時から父親を知ったのだ。エースはもう一度固い意志で確かめるように小さくつぶやく。
「俺のオヤジは白ひげだ......」
センゴクは処刑台の下、ひしめき合う海兵達を見渡した。エースが言わないのならば仕方がないと世界中に向かって声を発する。
「ならば私から言おう。エース!貴様の父の名は22年前我々が平和の海で公開処刑を行った大海賊!世界最悪の大犯罪者......。」
世界の時が止まる。
「海賊王、ゴールド・ロジャーだ!」
静寂が辺りを包んだ。誰もが予想だにしていなかった衝撃の事実。理解が追い付かなかった。海兵達も、世界中で映像を見ている人々も、海賊達も、この宣言は言葉を失うほどのものだった。
「たとえ白ひげ海賊団と全面戦争になろうとも、我々はお前の首を取る。海賊王の血は絶たねばならん。それが我々海軍の正義なのだ!」
その言葉の後に海兵達の歓声が上がった。数万にも上る海兵の声はマリンフォードの地を揺らし、海では大きな波しぶきとなる。海兵の士気は最高潮に達していた。
そんな中一人の通信兵がセンゴクの元へと駆けてきた。敬礼をし、報告する。
「センゴク元帥!正義の門が何故か開き始めました!制御室とは連絡が取れず、原因不明です!」
無間にしわを寄せるセンゴク。追い打ちをかけるように周りの海兵からも声が上がる。
「12時の方向!海賊船団です!その数約50!マリンフォードへと向かって来ています」
「白ひげ海賊団の傘下か!白ひげはどこにいる!」
声を荒げる将校。すると突如今まで波静かだったマリンフォード湾内に波しぶきが立ち始めた。警報が鳴らされ、海兵達は全員戦闘態勢に入る。波しぶきが大きくなり、白ひげ海賊団傘下の海賊船団もマリンフォードの湾外に陣を取った。そして、湾内に1隻の巨大な海賊船が姿を現した。
巨大なクジラを模した海賊船。白ひげ海賊団の象徴、モビー・ディック号だった。
そしてモビー・ディックに続きマリンフォード湾内にコーティング船が3隻次々と浮上してくる。水しぶきを上げ、コーティングをしていたシャボンが勢いよく割れた。
海軍が騒然とする中モビー・ディックの船首に一人の大男が立った。白ひげ海賊団船長、白ひげことエドワード・ニューゲートである。その存在感と威圧感は海軍本部のど真ん中でも発揮され、世界最強の名にふさわしいものだった。
「グララララララ!助けに来たぜ!エース!」
現れた白ひげを見てセンゴクは拳を握りしめた。
「白ひげ......!!」
一気に一触即発の状態となったマリンフォード。遂に白ひげ海賊団と海軍が戦争の大舞台へと立ったのだった。
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