一匹狼の大海賊   作:篤志

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海の中の脅威

 インペルダウン船着き場。そこにヒューは立っていた。船は一つもなく、この場所を離れないと脱獄の意味がない。腕を組んでしばらく考えた末に思いついたのが、

 

「よし、泳ぐか。」

 

生身の体で海王類達の住処であるカームベルトを泳いで脱出することだった。この場に誰かがいれば必死で止めようとするだろう。しかし、ここにいるのはヒューひとりだけ。誰も止める人間はいない。 

 

 そうと決まればさっそく体をほぐし、入念に泳ぐ準備をし始めた。彼が泳ぐのは実に20数年ぶり。しかもその最初の泳ぎが命を懸けた遠泳である。

 

「ダッハッハ!腕が鳴るぜ!」

 

そう言うと同時にヒューは海へと飛び込んだ。そして水を掻きながらものすごいスピードで進み始める。水しぶきを上げ一心不乱に泳ぐ。インペルダウンが段々と遠くなり、海軍本部へと続く海路へと真っ直ぐ進んだ。

 

 泳ぎ始めてしばらく、インペルダウンが小さくなり始めた頃、ヒューが泳ぐすぐ右横の海面が急激に盛りあがり始めた。轟音と共に顔を出したのはウナギの形をした海王類。口を大きく開け、ヒューの前方の海面を飛ぶトビウオの大群を捕食する。その時に起きる波しぶきが進路の邪魔をする。ヒューが波にのまれて海の藻屑となることは想像に難くなかった。

 

 ヒューはいい加減海王類が鬱陶しく思ったのか、海中から跳び上がって海面から胴体の半分を出している海王類の腹に拳を放つ。ただのパンチではない。覇気と呼ばれる不思議な力により生身の体よりも何倍も硬くなった拳が海王類の腹に刺さった。

 

 拳が入った場所から海王類の胴体は風船のように弾け飛ぶ。残骸が海に落ち、ヒューは何事もなかったかのように泳ぎを再開した。その後、海王類がヒューによって倒された後、海王類が海面上に出てくる頻度が多くなった。そしてそれらは様々な姿をしており、そのほとんどがヒュー目掛けて攻撃をしてくるようになった。まるで、海王類達が仲間の仇を取ろうとしているようだった。

 

ヒューは泳ぐのをやめ、襲い掛かる海王類達を迎え撃つ。

 

「俺の邪魔する奴は容赦しねえぜ...。」

 

海面から出ている海王類の巨体を駆け上がり、拳を硬めて放つ。

 

「『覇拳』」

 

海王類の目が驚愕に染まる。ヒューがそこにいるだけで海王類達の動きが止まる。何故、このようなちっぽけな存在に恐れているのか、海王類達は解らない。得体の知れない恐怖から逃れようと海中に潜ろうとするが海王類の巨体はピクリとも動かなかった。

 

気がついた時には既に海王類の意識は刈り取られていた。

 

ヒューの一撃で例によって爆散する海王類。この攻撃により、荒れ狂ったカームベルトが波を打ったように静まり返る。

何故、今まで止まなかった海王類達の襲撃が一瞬にして治まったのか。それはヒューの覇気を纏った拳が原因だった。

 

この世界には意志の強さによって力を発揮する、覇気という力が存在する。視聴覚とは別の第六感の役割を担う見聞色の覇気、戦闘において自分の力の補助の役割をする武装色の覇気とに分かれている。一般に拳に纏わせるのは武装色の覇気という戦闘に特化した覇気だが、ヒューは違う。二つの覇気の他にこの世界で数十人と扱える者が居ない覇王色の覇気を纏わせて拳を放った。

 

この一帯の海中生物はその瞬間、本能が警鐘を鳴らした。自分達が海の王と呼ばれる存在ならば、この目の前にいる小さな生き物は王の王たる資質を持っている。故に、その存在感と圧倒的な力に負けたのだと。自分達はこの人間に逆らってはいけないと本能がそう告げていた。

 

海王類の脅威を退けた後、静かになった海をひたすら泳ぐヒューの前に今度は巨大な門が立ちはだかった。

 

門のど真ん中にはこの世界最大の組織、世界政府のマークが描かれている。この門は世界政府の船だけが通ることができる回路の入り口にある。通称、正義の門と呼ばれた。

 

この門を開けることができないと、カームベルトから抜け出すことはできない。たとえ抜けたとしても、大監獄インペルダウン、海軍本部マリンフォード、司法の島エニエスロビーを繋ぐ巨大な海流が待ち構えている。各場所に正義の門は存在し、開けることができるのは海軍、世界政府の関係者のみである。

 

ヒューはその門を見上げながらどうやってこの向こうに行こうか考えていると、突如正義の門が開き始める。門の真下には軍艦が見えた。ヒューは口角を釣り上げる。

小さかった波風が大きくなり、大きな海流が発生する。ヒューはその流れに身を任せ、門へと近づいた。

 

間も無く門の向こう側へと到達しようとした時、ヒューの正面に先ほどまでの海王類とは比べられないほど巨大な海王類が出現する。口を大きく開け、ヒューに襲いかかるこの海王類はこのカームベルトの主と呼ばれる存在だった。

 

「全く、次から次へと......。」

 

溜息をついて目の前の主を睨むヒュー。主は微塵も気にすることなく襲いかかった。

 

ヒューの拳と海王類の牙がぶつかり合い、金属と金属がぶつかったような音が響く。武装色の覇気を纏う拳が主には効いていないようだった。間髪入れず海面から飛び上がり、蹴りを放つ。しかしそれは、尾ビレによって阻止された。重く速さの乗った一撃がヒューを襲う。海面に叩きつけられ、主はヒューを捕食しようと口を大きく開けた。

 

グオオオオオオオオ

 

主が今までより速くヒューに攻撃を仕掛ける。海王類から見れば人間なんてものは小さく弱い生物でしかない。自分の腹に入れてしまえばお終いだと言わんばかりに襲いかかった。

 

 

 

 

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