ルフィ率いるインペルダウン脱獄組は数百人いる中、半数が1人の男についてきていた。その男とは......
「麦わらの口車に乗せられてやって来ちまったが......やっぱり地獄じゃねぇかここぉ!おい!Mr.3!早いとこズラかるぞ......こんなところに居たんじゃインペルダウンを脱獄した意味がねぇ......!」
「何言ってるガネ!もう後戻りはできないガネ!」
「キャプテンバギー!指示を!」
「海軍をブッ潰しゃあいいんすよね!」
『一生ついて行きます!!!キャプテンバギー!!!』
自分の考えとは違う結果になっていく赤鼻の男。東の海の海賊であり、伝説の海賊王の船員だった過去を持つ。
男の名は道化のバギー。懸賞金1500万ベリー、バラバラの実を食べたバラバラ人間である。
バギーの隣に居るのはインペルダウンで同じフロアに幽閉されていた元七武海サー・クロコダイルが経営していたバロックワークスの社員だったMr.3。そして、監獄から脱獄させてくれたバギーを慕って同じフロアのほとんどの囚人が後ろに着いている。実力はバギーより強い海賊ばかりである。
そんな囚人達に慕われてはバギーも嬉しくないわけがない。調子に乗ったバギーは逃げようとしていたことさえ忘れるほど単純だった。
「ヨォーシ!野郎共!俺について来い!」
奮起している彼を見てMr.3はため息をつく。
「その単純さが羨ましいガネ......」
そんな茶番が繰り広げられている中、白ひげを襲う一つの影があった。
「久し振りだなァ......白ひげ」
「懲りねェ奴だなァ......ワニ小僧」
周りの海賊達に気付かれることなく白ひげの後ろを取った男、元七武海サー・クロコダイル。左手の鉤爪を白ひげに突き立てようとしたその時だった。
「やめろーーーーーッ!」
クロコダイルは横から飛んで来た突然の蹴りで吹き飛ぶ。自然系の悪魔の実のスナスナの実の能力者であるクロコダイルは何故か攻撃が効いていた。蹴りを放ったのはずぶ濡れのルフィ。それを見てクロコダイルは口から出た血を拭いルフィを睨む。
「俺への対策は織り込み済みと言うわけか......」
白ひげは微動だにせず処刑台を見つめたまま立っている。クロコダイルなど目に入っていないようだった。
「邪魔をするな麦わら。この場に来た時点で目的は達成されたはずだ。」
「うるせェ!エースはこのおっさんを気に入ってんだ!」
ルフィは拳を構えた。白ひげ海賊団の船員もクロコダイルを囲む。その時ルフィを見て白ひげが口を開いた。
「小僧、その麦わら帽子、赤髪が昔被ってたやつに似てるなァ。」
「おっさん、シャンクス知ってんのか?これ、シャンクスから預かってんだ。」
白ひげがルフィを睨む。普通の海賊なら気絶してもおかしくはないほどの威圧を放っていた。しかしルフィは負けずに白ひげを睨んでいた。
「おめェ、兄貴を助けに来たのか。」
「そうだ!」
二人のやりとりを見て周りの海賊達が冷や汗をかいていた。大海賊とただのルーキー海賊が対等に話すこと自体異様だった。
ルフィは処刑台の方を向き、構える。そして何かを思い出したように白ひげに言った。
「俺、軍艦に乗って来たから聞いたんだけどよ、エースの処刑が早まるって言ってた。仕方ねえェからおっさんには教えといてやる!」
「グララララ、済まねえな。」
ルフィは白ひげの方を振り向かずに答える。
「いいんだ。気にすんな!」
そしてエースがいる処刑台へ向かうために湾内へと飛び降りた。一方、白ひげは電伝虫を取り出して湾外で戦っている傘下の海賊団に通信を入れる。
「スクアードは近くにいるか。」
『オヤッさん!さっきまで近くにいたんすけど、見当たりません!」
「そうか。だったらお前が他のヤツ等に通信を入れろ......」
白ひげは事前に決めていた作戦を変更するべく傘下の海賊団の一つに連絡を入れ、その内容を話した。そして電伝虫を切り、下で戦っているマルコを呼んだ。
「オヤジ、さっき下の奴らから聞いたんだがエースの処刑が早まるらしいよい。」
「あァ、さっき聞いた。傘下の海賊の配置を変えた所だ。動き出したな......知将センゴク。マルコ、出来るだけ早く広場に上がれ。」
マルコは頷くと再び戦場に戻る。それと同時に白ひげの後ろに野太刀を持った男が歩いて来た。白ひげは誰が来たのかすぐにわかった。
「スクアード、無事だったか......湾頭の戦況はどうなってる。」
「傘下の海賊団はえらいやられようだ。」
新世界で名をあげている白ひげ海賊団傘下、大渦蜘蛛海賊団船長の大渦蜘蛛スクアード。長髪で鋭い歯を持ち凶悪そうな顔をしており、白ひげ海賊団傘下の中でも最も信頼されていると言っていい海賊である。
スクアードは太刀を片手に白ひげの横に立つ。
「オヤッさんは海軍の作戦が分かってたのか?」
「センゴクとは長い付き合いだ。あいつなら海軍の戦力を総動員して本気で潰しに来るだろうよ。だから俺達も負けてられねェんだ。エースを助け出すまではな。」
白ひげの口調は穏やかでスクアードを家族として接しているのが見て取れた。スクアードは小さく言う。
「白ひげ海賊団は家族を死んでも守る......そうだろうオヤッさん。」
野太刀を鞘から抜き、戦場を見下ろす。
「済まねェな、スクアード......」
「謝るな。俺達は全部分かってここにいるんだ。家族は大切だもんな......」
駆け出すスクアード。太陽の光が野太刀の刀身に当たって反射した。戦場の怒号が遠くに聞こえる。大砲の弾が破裂し火薬の匂いが鼻を突く。
白ひげもスクアードに続こうと一歩足を踏み出した瞬間、白ひげに激痛が走る。
不意打ちで攻撃を受けた白ひげの腹にスクアードの野太刀が貫通していた。
「オヤッさんの言う家族の中に......俺達も居ればよかったのになァ。」
スクアードの呟きが激痛に襲われる白ひげの耳に入って来る。下に居た各隊長もこの光景を見て驚きを隠せなかった。映像電々虫で世界中に放送されている今、この様子ももちろん人々に知れ渡る。世界中が沈黙した。
「テメェ白ひげェ!そんな奴に刺されるなんざみっともねェじゃねえか!」
戦場が騒然とする中クロコダイルが叫ぶ。他の海賊達も動揺を隠しきれずにいた。
「スクアードてめぇ!何したか分かってるのか!」
マルコが飛んで来てスクアードを押し倒す。スクアードはマルコを睨んで言い放った。
「マルコおめえだって知らねぇとは言わせねえ!オヤッさんと海軍が話し合って、エースは無事に解放されるのを確約されてるってな!」
「まんまと騙されてんじゃねぇ!スクアード!オヤジがそんなことするわけねえだろうが!」
マルコがスクアードを殴ろうとした時白ひげが膝を付いた。マルコがすかさず白ひげに駆け寄る。白ひげは何も言わず、手を上げてマルコを止める。
マルコは白ひげが刺されたことに動揺していた。見聞色の覇気を持つ白ひげがスクアードの動きを読めなかったはずはないのだ。わざと太刀を受けたのか、それとも体調が優れないのかはマルコには解らなかった。
立ち上がったスクアードは白ひげに向かって言い放つ。
「本当のことを言ったらどうだ!白ひげ!お前は......」
「おいおい、スクアード。俺が言ったことを忘れたってのか?えぇ?」
どこからともなく聞こえて来た声。声の主はモビー・ディック号のマストに腰掛けていた。囚人服の上にボロボロの海軍コートを着ている壮年の男。眼光は鋭く、飢えた猛獣の目をしている。
スクアードは男を見て言葉を失う。驚きのあまり声が発せなかったのだ。そしてそれはスクアードだけに限らなかった。マルコも、白ひげまでも驚いている。
処刑台の上にいたガープとセンゴクも同じように驚愕していた。
「何故だ...何故あの男がこの場所にいるのだ!」
「こりゃあ厄介なことになってきよったぞ......」
海兵を殴りながらルフィは男を見て言う。
「誰だ?あのおっさん?」
海軍三大将及び海軍中将はセンゴク等と同様に驚きを隠せないでいた。
「オイオイ......マジか。あのオッサン。」
「誰だい〜?あんな凶悪犯を野に放ったやつはァ〜。」
「老いぼれの1人や2人増えた所で変わらんわい……それよりポートガス・D・エースの処刑準備はどうなっとるんじゃァ!」
インペルダウンから脱獄してきた囚人達もまた驚いていた。
「まさか、あの方まで脱獄するとは...。」
「インペルダウンにいるって噂は聞いてッチャブルけど、この目で見るのは始めてね。」
突如現れた男に再び騒然とするマリンフォード。センゴクが電伝虫を持ち、処刑台の上に立った。この場にあの男が現れた以上知らせないわけにはいかなかった。この場にいる誰よりも重い大犯罪を犯した凶悪犯が野に放たれたことを。
『全海兵に告ぐ!たった今突如として現れた男を絶対にこの場で捕らえろ!海軍の名にかけて逃がしてはならん!』
一旦息を吸うセンゴク。
『奴の名は“虎狼"ウォルフ・D・ヒュー。諸君も一度は耳にしたことがあるだろう。大海賊時代以前より海賊であり、ゴールドロジャーや白ひげと肩を並べた大海賊。グランドラインの前半の海を全て泳いで渡った、たった1人の海賊。22年前、天竜人殺害でインペルダウンに幽閉された大犯罪者だ!」
その場にいた全員が固まった。天竜人殺害ということもそうだが、その前だ......
誰もが思った。
『このオッサンバカじゃね?』