パシフィスタと呼ばれる海軍の最新科学兵器が戦場の海賊達を吹き飛ばしていく。姿は王下七武海、バーソロミュー・くまと瓜二つであり、口から黄猿の能力を模したレーザーが放たれる。並の海賊は為す術もなくパシフィスタの餌食となっていた。
「ダーッハッハッハ!」
パシフィスタ部隊の前に立つヒュー。その両腕は鈍く黒く光っていた。指揮をしていたお河童頭の鉞を担いだ男がとっさに叫ぶ。
「パシフィスタ!即刻この男を取り押さえろ!!急げ!」
「遅ェ!」
一瞬にして目の前にいたパシフィスタの頭を握り潰すヒュー。息をつく暇もなく迫って来ていた2体のパシフィスタを殴った。一発目。装甲が固く、体を貫けず終わる。そして、チャンスとばかりにビームがヒュー目掛けて放たれた。まともに喰らい、仰け反るヒュー。しかし倒れるまではいかない。ボロボロの海軍コートがさらにボロボロになり、その下の囚人服までもが破けて肌が露出していた。
「うっとうしいわ!」
早速服の意味を果たしていなかったコートと囚人服を脱ぎ棄て、パシフィスタに向かって駆け出す。
「『覇拳』」
そのたった一撃で数体のパシフィスタが起動停止する。
「くそ......しかたねぇか。“こちら、戦桃丸。援軍を要請する!強い奴を送ってくれ!中将でも七武海でもいい!パシフィスタだけじゃ手に負えねェ!”」
電伝虫で連絡を入れる戦桃丸と名乗った男。彼は海軍化学部隊隊長を務める非正規海兵である。パシフィスタだけではヒューを確保できないと踏み、応援要請を出した。だが、ヒューが大人しく待っているわけがなく、
「俺ァ先行かせてもらうぜ海兵のあんちゃん。」
ヒューはそう言うと同時に戦火が激しい広場付近へと駆け出した。残ったパシフィスタが追おうにもヒューの足の速さは尋常ではなく、瞬く間に姿が消えた。
戦桃丸は鉞を地面に叩き付け、歯を食いしばりながらヒューが駆けて行った方向を睨みつける。
「チッ......伝説か何だか知らねェが、絶対ェ、インペルダウンに送り返してやっからな!ウォルフ・D・ヒュー!!」
戦桃丸の決意の叫び声がその場に響いたのだった。
更なる戦いを求めてヒューは強い海兵または海賊を探していた。そんな時、
「フッフッフ......オイオイ、これは中々な大物の登場だなァ。そう思わねえか?ワニ野郎。」
ヒューは立ち止まり、声のした方を見る。そこには羽毛のコートを羽織り、何かを企んでいそうな笑みを浮かべた大男が山積みになった海賊の上に座っていた。彼の名はドンキホーテ・ドフラミンゴ。王下七武海の一人で新世界の国、ドレスローザの国王でもある。そして、その下にはオールバックで目つきが鋭く、左手にフックの付いた義手を装着している男、クロコダイルがヒューを睨んでいた。
「誰だテメェ等。」
好戦的な雰囲気を醸し出している二人に対してヒューも笑みを浮かべながら指の骨を鳴らした。
「まァ、そう焦るなよ。伝説の大海賊に会えるなんて思ってみなかったからよ。」
「まさかお前がインペルダウンから脱獄するなんてな。どういう風の吹き回しだ?」
その場には異様な空気が流れていた。軽口を叩いているにもかかわらず対峙する3人の殺気は尋常ではなく濃いものだった。
「ダッハッハッハ!決まってるじゃねぇか。クソ餓鬼共が粋がってるのが羨ましくなっちまったのさ。それにヤツがまだ現役だって聞いてよォ!だったら俺もあんな臭ェ所で燻ってる訳にいかねぇだろう!ダハハハハッ!耄碌してねェようで安心したぜェ!」
海兵達がヒューを捕えようとタイミングを見計らっているが、隙などありはしなかった。
そんな時、ドフラミンゴが突然手を振り上げた。不気味な笑みを浮かべて縦横無尽に指を動かすドフラミンゴ。次の瞬間、ヒューの体に無数の血の線が浮かび上がる。
「ほう......なかなか硬い体じゃねぇか。ますます面白ェ!」
ドフラミンゴはイトイトの実を食べた糸人間。指で不可視の糸を自由に操る能力を使い、ヒューの体を細切りにする勢いでドフラミンゴが操る糸はヒューを容赦無く襲った。予想通りヒューは血まみれになったが、細い糸の線がくっきりと出てそこから血が滲み出ている状態に留まっていた。ヒューは自分の身体を見渡し、そしてドフラミンゴを睨みつけた。。
「どうした、ウォルフ・D・ヒュー。傷つけられたことに驚いてるんじゃねェだろうな?フッフッフッフ...次はその身体ブツ切りになってるかもなァ。」
再びドフラミンゴの指が動き出す。しかしその瞬間、不気味な違和感を感じ取りドフラミンゴは思わず動きを止めた。不気味な違和感の正体は言わずもがなヒューから発せられる威圧。
「フフフフッ......フフフッ......。」
一目見た時から規格外だと感じ取っていたドフラミンゴだったが、それ以上に急に様変わりしたヒューの様子を見てドフラミンゴは突然笑い出す。
ドフラミンゴをここまで怯ませた海賊はごく少数であり、王下七武海になってからはそんな感覚すらも忘れかけていた。
それまで傍観していたクロコダイルが呆れたように呟く。
「無様だなトリ野郎......。」
ヒューはこれでもかというような深い笑みを浮かべ、ドフラミンゴを見る。そして拳を握りしめ、ゆっくりと歩き出した。それと同時に目の前に砂の壁が出来上がっていく。
「思い出したぜ...お前インペルダウンの天井に穴開けた奴かァ。」
「思い出した所悪ィがくたばれジジイ!」
砂の壁は人の形を構成していき、クロコダイルの姿となった。鉤爪がヒューの喉に襲い掛かる。ヒューはその鉤爪を紙一重で躱すと握り締めていた拳でクロコダイルを殴り飛ばし、ドフラミンゴの方に足を向けた。
「糞ガキ共が......。」
その場にいる誰もが認識できないほどの速さでヒューは飛び出す。そしていつの間にかドフラミンゴの目の前に立っていたヒュー。喉元を鷲掴み、氷の地面に叩きつける。
「俺の身体に傷つけるたァいい度胸してるじゃねェか。まあ、2人相手にしてやるってのも吝かじゃねェが......お前らだと実力不足だァ。」
ヒューがそう言いながら口から血が出ているクロコダイルの方を見た。クロコダイルはヒューを見ても動じず、軽く笑みを浮かべている。
「チッ、俺は今無性にイラついてんだよ...。俺に背中向けるってことは分かってんだろうなァ、精々後ろからの攻撃に気を付けることだ。」
「フッフッフ...このジジイには中々攻撃が通りそうねェな。こんな力の差があるとはなァ!!面白れェ.......面白れェぞ!」
ヒューは笑うドフラミンゴから手を離して周りを睨みつけるように見渡した後、更に戦火が激しい広場付近に目を向けた。
そこでは真っ赤な溶岩が空から降ってきており、足元の氷を次々と溶かしていた。その流れ弾がヒューがいる場所にも飛んできている。その溶岩を呼びつけている人物を特定すると体中を武装色の覇気で覆った。
「俺の攻撃にどれほど耐えられるか楽しみだなァ。」
立ちはだかる海兵を木の葉のように吹き飛ばしながらまっすぐ進むヒュー。目指すは海軍大将サカズキの元だった。
ヒューが居なくなった場所ではドフラミンゴがヒューの背中を見て首を鳴らし、呟いた。
「アイツに声かけるってェのも可能性としてはありだなァ......これだから海賊は辞められねェ!フッフッフッフッフ!」
笑うドフラミンゴと、クロコダイルの周りは白ひげ海賊団が囲んでいた。
「こうして見てみるとあのジジイの規格外さが分かるってもんだなァワニ野郎。」
「黙ってろ...殺すぞ。」
その言葉通り、クロコダイルはドフラミンゴに向かって砂の斬撃を浴びせ、ドフラミンゴは糸を使い、クロコダイルの首を刈り取った。
ドフラミンゴは跳び上がり砂の斬撃を逃れたが、クロコダイルは避けることなく首が飛んだ。しかし、ロギア系の能力者であるがためにダメージはゼロと言ってよかった。
「フフフフフ......どうだ、俺と組む気になったかワニ野郎。」
クロコダイルは答えることなく、舌打ちを一つして砂になって風に乗ってどこかへ飛んで行った。
その頃、戦いとは別に海軍の死刑執行準備が整いつつあった。
「準備ができたか。それではポートガス・D・エースの処刑を執行しろ。失敗は許されない。正義の名にかけて必ず成功させるのだ...。」