三話です、不死をイメージした地文ってなんか難しい……
「まずはこの世界の話をしましょう」
蓬莱山輝夜は、和菓子を口に頬張りながら口にした。
「そしたら次は貴方の、夜明永の話。それでいいかしら?」
「それだと僕がまるで話したがりのナルシストみたいじゃねーか」
「違うの?」
「違うわ!」
この屋敷に上げられて、応接間ではなく、恐らくは居間と思わしき部屋に通された僕は、机を挟んで輝夜と向かい合って座っていた。
輝夜。
蓬莱山輝夜。
彼女は先刻、僕にそう名乗った。いい名前だとは思ったが、なんだろう。どこかで聞いたことがあるような気がする。
この屋敷の内装は基本的に和風で造り上げられている。しかし、この和風はどこか、偽物というかーー“似せ物”といったような気がして、どうも落ち着かない。
「姫様、そんな勝手に得たいの知れないやつに話しちゃっていいんですか?」
「別に良いわよ」
鈴仙・憂曇華院・イナバが、僕のことを目で征しながら進言するが、アッサリとあしらわれる。ちなみに彼女の名前の件は、さっき散々ツッコミ倒した。小説で例えるなら5000文字くらい。あえてそれを繰り返すようなことはしない。
ともかく、この鈴仙は兎に角(兎だけに、じゃない。そこ、五月蝿いぞ)僕が苦手なようだった。僕としては相性抜群(お互いとは言ってない)で非常にやりやすい人だとは思うのだけど、正直少し残念ではある。
「さて、じゃあ先ずは、貴方の予想を聞かせて頂戴。この世界についての、貴方の見解を」
「うーん……タイムスリップ?」
「no」
「異世界転生」
「no」
「因果律改変」
「no」
「HAHAHA!コイツはとんだ悪問だぜGU-YA!HEY!それじゃあスーパースターの解答をお聞きしようか!」
「なんなんですかそのテンション!?」
耐えきれなかったのか鈴仙が叫ぶ。ちなみに彼女の中で敬語には一定のラインがあるらしく、輝夜の招いた客である以上、今の僕には敬語を使っているらしい。なかなか柔軟なやつだ。
「異世界転生がある意味近いかしら。世界線越境と呼ぶのが正しいと私は思っているわ。あくまでこの世界は、同じ次元に存在しているのだから」
「……さっぱりよくわからないな、つまり?」
「この世界は、『幻想郷』。人間人外差異はなく、忘れ去られたありとあらゆる存在が流れ着く、流浪の終着駅。最後の楽園よ」
忘れ去られた存在が流れ着くーー幻想郷?
ちょっと待てよ、じゃあつまり僕は。
僕は……
「外の世界で忘れ去られたってことかしらね。この忘れ去られたの線引きは難しいところだけど」
「マジかよ……だいぶショックだな……」
「そうは見えないけど?」
輝夜が笑う。僕は苦笑いを返した。
「それと、人外って言い方が引っ掛かるな。それはつまり動物?」
「いえ、確かに含んで入るけど、人外は人外。人間以外よ、妖怪神亡者亡霊ーーありとあらゆる者たちが、この世界に存在しているわ。要は何でもありね」
「……へええ……」
話を上手く反らすことに成功した。しかし未だに忘れ去られた、という話題に戻すことは不可能ではないため、とりあえず攻めに転じることにする。
「すると、鈴仙の格好を見るに、輝夜たちも人外なの?」
ピリっと、空気が変わった。
今までこの屋敷を包み込んでいた荘厳さが一切消え失せて、輝夜ーーの後ろ、鈴仙の中に収束していくーー終息していく。
重圧は剥き出しの敵意に変わり、空間が歪むように見えるほどに、僕に降り注ぐ。
ここに来て僕は地雷を踏んだのかと苦々しく思ったけれど、その今にも牙を剥きそうな兎を止めたのは意外にも輝夜だった。
鈴仙。
その一言だけで、収束を解放し、刃のような敵意が消え失せて、何事もなかったかのように、静かで風情のある屋敷に戻った。
「見ての通り、確かに鈴仙は人外よ。まあ、兎の妖怪くらいの認識でいいわ。けれど」
「……けれど?」
「私はただの人間よ。ただちょっと不老不死なだけの……」
「姫様!」
「あら、別に良いわよ。困ることなんてないし」
不老不死の……人間?
いやいや、そんなものが常識的に存在するわけないし……第一
「“不老不死は人間と呼んでいいのか?”」
「っ」
思考すらも先回りされる。彼女はふふっと小さく笑んだ。僕は苦笑いを返した。
「長く長く生きると、この程度の思考の先回りくらいならできるようになるわ。何せ、それだけ人と出会うことになるんだから」
そして、誰もが私よりも先に死んだ。
蓬莱山輝夜の顔に、一瞬だけだが影が落ちたような気がした。
「ちなみに、失礼かと思うけど、どれくらい生きてるの?」
「そうね、さかきの造に拾われた時として……だいたい1150年くらいかしら。まあ私は17になる頃には不老不死になったから、歳は取ってないのだけど」
さかきの造?
またどこかで聞いたことがあるような……いったいどこで聞いたのだろうか。
「じゅ、10世紀以上か……」
「永遠を約束されてしまった私にとって、1000年なんて須臾と変わらないわ。まあ、それくらいの気概じゃないと不死身なんて出来ないわよね 」
あっけらかんと彼女は笑ったけれど。
彼女の声は渇いていた。
彼女はーー永遠の暇を潰すために存在しているかのようで。
無限を生きなければならないのに、病んでいるかのように窶れているかのようで、病的に儚く、それすらも美しい。
そしてやはり僕には怖い。
剥き出しの凶器がただただ恐ろしい。
「まあだから、私の夫になった者に下す、最後にして最期の難題は決まっているわ」
急に話が飛躍したようなーーいや飛び移ったような気がする。
だけど、なんとなく彼女が言わんとしてることがわかるのもまた事実で、彼女がどんな気分でいるのかも、なんとなくわかってしまった。
つまり。
「私を殺すこと」
死にたい気分だ。
「さ、次は貴方について聞きたいわ。夜明永について、私たちに紹介して頂戴?」