時間がかかってしまった……この話自体、あまり長く続くものではないんですけどね……
僕の名前は夜明永、17歳。
どこにでもいる普通の高校生だ!
「以上」
「薄っ!? こーこーせーって言うのはよくわからないけれど、今のことでわかったことは名前と年齢くらいなんだけど!」
「高校生って単語に全てが集約されていると言っても過言じゃないからな。僕の経歴、エピソード、評判、学力、運動神経エトセトラエトセトラ、全て高校生で説明できた」
「ならますますこーこーせーって何!?」
まあそもそも、どこにでもいる普通の高校生って語られた瞬間に普通から逸脱すると思うけど。
しかし僕が口から出任せに話した言葉を輝夜は鵜呑みにしているようで、未だに高校生とは何か、について考えていた。
850年ほど生きていると新鮮な情報が恋しくなるのだろうか。高校生だけでそこまで悩まれてしまうと迂闊に物を話すことも出来ない。
「まああれだ、特に語るべき過去なんてないよ、僕には」
「ふうん……て、それはないでしょう? 外来人なら、忘れられることになった理由に、凄惨な過去の一つや二つ」
「ごめんね、合ったとしても、今は話したくないんだ」
あるならば、僕も忘れたいから。
もはやそれを覚えてるのが 全世界で僕だけしかいないという事実から、目をそらせないことは辛すぎるから。
今は箱に、蓋をしたい。
「……まあ、そこまで言うなら深く聞きはしないけど……。それで、貴方このあとはどうするの?」
「えっ」
「えっ、て……帰る方法もないのでしょう? これからどうするのよ」
「あーそういえば忘れてたなあ……」
来たことに驚いてて帰ることを忘れていては本末転倒である。
だけど正直、この異世界で僕が一人では生きていくことすら出来ないのは事実であり、しかもたぶん、“人外”たちには人間を凌駕する力があるだろう。
風のように速く波のように力強く、神通力を自在に操るかもしれない。
「ええ、半分正解よ。実際は人間でさえ不思議な能力を使用することがあるってことね」
「ますます魔境じゃねーか!?」
安心して外も歩けねーよ、その世界観。
「大丈夫よ、ほんの一握りだから」
「一握りでも特殊能力者がいる時点で危ないだろ……どうやってバランス取ってきたんだよこの世界……」
「……ああ、スペルカードルールについて説明するのを忘れていたわ」
「説明してあげるのですか?
姫様」
「ここを出た場合、あのルールを知ってるだけでも致死率が下がるわ。喰い殺される可能性が最悪事故死に変わる。妖怪から逃げ切る難易度が弾幕を避けきる難易度に変わるーー弾幕ごっこというものは極論、弾を撃たずとも勝つことが出来るのだから」
「何がどうしていきなり物騒な話になったんだ」
まるで意味がわからない。
しかし輝夜も鈴仙も真剣そのものらしく、顔は強張っているようだ。少なくとも、からかっているような顔ではない。
気の毒そうな、本気で労っているかのような顔だ。
「何がなんだかわからないから、とりあえずわかるように説明しろよ、そのスペルカードルール?とやらを」
「要は、スペルカードと呼ばれる札を用いて戦うのよ。自身が使うスペルカードを宣言して使うのよ。妖怪と人間の力量差を撤廃するためのルールでね、勝敗はどちらがより美しいかで決まるわ」
「より美しいか?」
「弾幕ーーまあエネルギー弾みたいなものの鮮やかさや、被弾なんかでね」
「まあだいたいわかったけれど……そのスペルカードとかは?」
「……スペルカードは基本的に、自身の能力なんかやそれに付随したものをベースにすることが多いの。つまり今の貴方には使えないわ 」
「そしてスペルカードが使えないと?」
「間違いなく死ぬわね」
「ここに泊めてくださいお願いします 」
額を床に押し付けて懇願する。
僕はそんな危険地帯を歩いてきたのかよ。
物騒すぎるだろこの世界。
「プライドもなにもないのね……」
「プライドがあっても生きていけなきゃ意味がない」
「保ちたいメンツとかあるでしょう? 男の子なんだし」
「かっこつけて死ぬくらいならカッコ悪く生き抜きたい」
「情けなくなってきたわ……けどまあ、なんとなくわかった。“貴方がどういう人なのかね”」
僕の話。
夜明永の話はまだしてないのは当然だ。どこにでもいる高校生だなんていう没個性を特徴付けようとするような、まあ強いていうなら一行の矛盾からわかることなんて何もないのだから。
誰もそんなことを聞いているんじゃなく。
誰も僕のことなんて話した覚えは全くない。
それだけで彼女は、僕をわかったという。それはどんな精神科医にもわからなかったことであり、口から出任せかとも思えば、彼女の確信に満ちた瞳が雄弁に物語っていた。
蓬莱山輝夜。
伊達に人間やってない、ということなのか。
「あら、ここにいたのね。探したわ」
唐突、だった。
予兆もなく、前触れもなく、真に突然、僕と輝夜の間、机の上の空間がパックリと裂けた。
傷口のように。
「姫様!」
鈴仙が叫ぶ。同時になにかをしたようではあったが、裂けられた空間が口を開いていて、立ち上がったであろうことしか把握は出来ない。
真っ黒な穴の奥には、目玉や口、腕、無地の墓石、道路標識などがフワフワと浮かんでいるーー闇に張り付いていると表現するのがもっとも正しいのだろうか。
目の前に広がっていたのは、ただのそれだった。
「初めまして、夜明永くん。そしてようこそ、この
空間のスキマから、得体の知れない声がする。